サービソロジー
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会議報告
The 15th International Research Symposium on Service Excellence in Management (QUIS15)
ホー バック
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2017 年 4 巻 3 号 p. 38-39

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1. はじめに

サービス・マーケティング分野の主要な国際会議であるQUISの第15回大会が2017年6月12日から15日にかけて,ポルト(ポルトガル)にて開催された.ノルディック学派に由来する本国際会議は隔年で開催されており,本誌がQUISについての会議報告を書くのは,初めてアジアで開催された前回大会以来2度目である(戸谷 2015).この時期のイベリア半島は日照時間が長く,5時前から朝日が昇り始め,夜は21時半を過ぎてようやく夕日へと変わる.太陽の恵みを豊富に受けて育った果実はどれも甘く美味しい.

本会議の口頭発表セッション数は79にのぼり,常に並行して10の口頭発表セッションが開かれていた.欧州からの参加者が半数以上を占め,次いで米国が多く,南米やアジア,アフリカからの参加者は少なかった.188件の口頭発表の内,日本からの口頭発表は3件に留まった.口頭発表セッションの他には,4つのキーノートスピーチ,2つのパネルセッション,そして,夜にレセプションが行われた初日の12日には,招待制の事前ワークショップ“Service and Well-Being”が午前から開催された.

2. Service and Well-Being Workshop

30名弱の招待制で行われた本ワークショップは,タイトルの通り,経済的目標を超えた,人間の幸福や生活の豊かさを高めることを目指すサービス研究に焦点を当てたものである.これら人間の幸福や生活の豊かさの向上を目指すサービス研究はTransformative Service Research(TSR)と総称される.Journal of Service Researchに特集号(Anderson and Ostrom 2015)が組まれ,この規模の国際会議で事前ワークショップが開催されたことからも示されるように,世界的に注目が高まっている研究分野である.

図1 ワークショップのオープニング

本ワークショップの参加者は,アジアからは筆者らのグループ(JAISTの白肌邦生准教授と筆者)のみ,南米(ブラジル)からが1名のみで,他は全員が欧米の研究者であった.男女比は同数程度であり,当該分野における女性研究者の重要性が示唆される.Karlstad University(スウェーデン)の先鋭的なサービス研究センターであるCTFのProf. Bo Edvardsson,Prof. Per Skalenや,米国でのTSR推進に対して中心的な役割を果たしているProf. Ray Fisk,Prof. Laurie Anderson,Prof. Amy Ostromら,サービス・マーケティング分野の大家が数多く参加したことも象徴的であった.

午前9時から12時のランチタイムまで,出席した研究者が5-10分で各々の研究概要について紹介した.Prof. FiskやProf. Andersonからは,事象をただ分析するだけでなく,その知見を活かしたアクションリサーチによって実際のコミュニティに持続的な好影響を与えることの重要性が強調された.つまり,2010年頃から発展してきたTSRは,今後,分析視点の新規性を示すだけでは不十分で,その有用性を自らの研究の中で示すことが強く求められる段階になったといえる.

午後からは5つのグループ(Education and Well-Being,Equity and Access,Healthy Aging,Hunger and Food,Public Service)に分かれて100分間のグループワークを行い,最後に各グループの成果報告をした.筆者はPublic Serviceのグループに参加した.当該グループでは,公共サービス研究のアジェンダを示すポジションペーパーをどのように書くかという議論に多くの時間を割いた.内容に関しては,提供者側寄りのエコシステムに関する話題(どのように公共サービスの提供に関わるステークホルダーのパワーバランスを取るか,等)が主で,利用者側,つまり,公共サービスの価値共創に参加する市民一人一人の異なるオペラント資源をどのように扱うかに関する議論にまでは至らなかったものの,著名な研究者達の議論の立ち回りに感銘を受けた.

図2 Public Serviceグループの議論の様子

3. 今大会の傾向

筆者がQUISに参加したのは,前回大会に続いて2度目である.前回と共通していたのは,学生発表は,文献調査を通じて構築した概念間の関係性を示す仮説モデルを質問紙調査によって検証するという研究のスタイルが主流だという点である.これはサービス分野に限らず,国内外のマーケティング研究に共通している傾向である.QUISでは,世界中の応募者から候補者を3名に絞り,最後に最優秀者を決定して表彰するBest Dissertation Awardを開催しているが,この最終候補に残るには主流の研究スタイルではない独自のアプローチが求められる.このことから,自戒を込めて言えば,国内の若手サービス研究者はテーマの新しさだけでなく,独自の研究方法を追究し続けることが国際的なプレゼンスを高める上で極めて重要である.

一方で,既に自身のテーマを確立した研究者にとって,本国際会議は次なる研究アイデアを議論する場として機能している.例えば,サービス・マーケティングの教科書を多数執筆しているProf. Jochen Wirtzは,研究コンセプトと収集したデータを紹介し,これからの分析枠組みに対する意見を仰いだ.Prof. FiskはTSRを発展させる新たなコンセプトを紹介するとともに,平等と正義を履き違えてはいけないことを主張した.図3スライド内にあるように,野球観戦する背の高さ(オペラント資源)が異なる子供達全員に平等に補助台(オペランド資源)を渡したのでは,背の低い右の子は防護柵が邪魔になって試合が観られない.そうではなく,背の高い左の子の補助台を右の子に渡して3人の目線の高さを等しくすること(サービス)こそが正義なのである.

前回大会からの変化としては,TSRとサービス・デザインをテーマとする研究が増加した点が挙げられる.サービス・イノベーション研究が多かった前回に対し,今大会では前述のProf. Wirtzを始め,サービス・デザインやTSRに関連する発表タイトルが全体の四分の一近くあった.パネルセッション“The Future of Service Research”にTSRのProf. Ostromとサービス・デザインのProf. Daniela Sangiorgiがパネラーとして参加していたことも象徴的である.

図3 Prof. Fiskによる講演

4. おわりに

次回のQUIS16は2年後の2019年6月10-13日に,始まりの地であるKarlstad Universityで開催される.今からカレンダーに予定を書き入れ,この2年間でサービス研究がどこまで発展するのかに思いを馳せたい.

参考文献
  •   Anderson, L., and Ostrom, A. L. (2015). Transformative Service Research: Advancing Our Knowledge About Service and Well-Being, Journal of Service Research, 18(3), 243-249.
  •   戸谷圭子 (2015). QUIS14会議報告, サービソロジー, 2(3), 36-37.
 
© 2017 Society for Serviceology
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