サービソロジー
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特集:JST・RISTEX・サービス科学のプログラムを終えて 〜サービス科学の学術基盤の構築への貢献〜
設計の仕組みを含めたサービスシステムの構成方法
原 辰徳
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2018 年 4 巻 4 号 p. 32-37

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1. はじめに

本稿は,JST・RISTEX問題解決型サービス科学研究開発プログラムのうち,平成23年度採択プロジェクト「顧客経験と設計生産活動の解明による顧客参加型のサービス構成支援法」の成果に基づく解説記事である.成果の概要は本誌に掲載済み(原 2014)であるが,その成果を観光分野で端的に述べれば,個人旅行者が行うまちあるき観光プランニングを題材に,ユーザーによる使用と設計を起点とした価値共創の枠組みを構築したことにある.J-STAGE上でも既に一般公開されているので,概要はそちらを参照されたい.

本稿では,そこで得られた成果を念頭に,サービス設計のモデルの手法を考察するとともに,プロジェクトのその後の活動について報告する.

2. 関連研究

2.1 サービスシステムと設計のモデル

サービス学は,サービスを価値共創と捉えた上で,その総体としてのサービスシステムを科学し創出する分野である.IBMを中心としたサービス科学(Service Science, Management, and Engineering: SSME)の勃興期には,サービスシステムを人間・組織・情報・技術のリソースの動的な構成として捉え,どのリソースを対象としているかという観点から,関連する学術分野を分類・理解しようとする動きがみられた.2017年9月に公開された日本学術会議のサービス学の参照基準(日本学術会議 2017)では,サービスは「提供者と受容者が価値を共創する行為である.サービスは人間を含むシステムにおいて持続的かつダイナミックに生産・提供・消費される.」と定義されている.定義内にシステムと明記されており,またそれが「持続的かつダイナミック」に動作・維持されるという点が特徴である.

一方,本プログラムを眺めてみると,こうしたサービスシステムを俯瞰し設計する立場から取り組んできたものとして,中島と西野らのプロジェクトが挙げられる.中島らは,サービスを提供と使用のセットとして捉え,FNSと呼ぶ構成論的モデルを導入した上で,その連関からなるループ構造を説明した(Nakashima 2016).西野らは,価値創成のクラス分類に基づいて,ゲーム理論をベースとしたサービスシステム(特にサービストライアングル)の理論化と設計の解析を試みた(西野 2017).現時点では構造理解(≒アナリシス)の成果が中心であるが,設計(≒シンセシス)を理論的に考えていく上では,形式化されたモデルが必要であることが主張されている.中島・西野プロジェクトでは,扱おうとするユーザー参加の度合いに差がみられるものの,サービス中に存在する設計や経営活動,あるいはより広い創出・統合行為に関する構造を形式的に持ち込み,サービスシステムの特徴を演繹的に論じている点は共通している.

また,本プログラムの成果を題材にまとめられたサービスの価値共創フレームワーク(村上 2017)に言及すれば,必要な構成概念を定め,それら構成概念の関係性から導き出される構造概念(Structural Concept)を明らかにしている点では中島・西野プロジェクトと類似している.対象範囲をサービス交換に絞ったサービス・ドミナント・ロジックと比較をすれば,顧客側の利用価値,提供側の経験価値の形にて行為主体へのフィードバックが示されており,「持続的かつダイナミック」の様相を呈している.本フレームワークは,細分化されつつあるサービス研究を融合する上での指針になり得るが,そこでのフィードバックは学習や期待形成が中心であって,設計や経営活動についての知見を導き出すことを必ずしも意図していない.

本稿では,今後のサービス学発展のためには,モノゴトの創出につながる操作知識レベルの知見が必要であるとの認識の元,設計行為についてより細かくみていく.なお,本稿では設計との用語を主に用いるが,近年のデザインが持つ意味合いとほぼ同義とし,広く捉える.また,(原 2014)ではサービスの受け手を顧客と呼んでいたが,顧客が多様な役割を担う可能性があることを表すため,本稿ではユーザーと呼ぶこととする.

2.2 使用と密接に結びついた設計の視点

サービスにおけるひとつの見方として,ユーザー中心/使用中心がある.これは,従来の製造業や工学分野が製品ライフサイクルを起点に物事を思考していたことと対照的である.図1は,従来の製品(提供物)ライフサイクルに対して,一般ユーザーの使用サイクルを対応付け,強調したものである.サービス化(Servitization)のひとつの意味は,この使用サイクルに含まれる各段階に注目し,サービスが持つユーザー対応度合いをより高めていくことである.実務的に有用なツールが多く準備されている人間中心設計(Human-Centered Design: HCD)やデザイン思考(Design Thinking)などの領域では,ユーザー経験(User Experience: UX)の視座からモノゴトが眺められており,これも使用行為の観点から設計方法を見直す動きである.

一方,より良い満足のためには,ユーザー自身がサービスの使用方法を十分に理解し,サービスの機能利用を最大化していくことが同時に求められる.こうしたユーザーによる貢献を,サービス研究の重要な概念である顧客参加として広く捉え,使用と密接に結びついた設計のあり方を考えてみると,図1に示す4種類が考えられる.すなわち,“ユーザー参加”を含むサービスシステムの設計の仕組みを考える上では,(a)提供者が使用行為を設計段階にてつくりこむ(Design for use)だけでなく,(b)ユーザー自らが使用行為を組み立てる(Design of use),(c)ユーザーの使用行為に潜む設計的側面を見出す(Design in use),および(d)ユーザーの使用行為を次の設計に活かす(Design from use)など,幅広く捉える必要がある.

図1 使用を考慮した4種類の設計のあり方

3. サービスシステムの構成方法

3.1 設計の仕組みを含んだサービスシステム

2.2節で述べた使用と設計の相補関係を元に,本稿でのサービスシステムを定義しよう.中島らと近い立場をとるが,本稿では,提供と使用の仕組みに加えて,設計の仕組みを明示的に含めたサービスシステムを考える.すなわち,以下の通りである.

サービスシステム = 提供の仕組み + 使用の仕組み+ 設計の仕組み

図2左に示す様に,多くのサービスシステムにおいて,提供と使用の仕組みを完全に分離して考えることは難しく,互いにリンクしている.また,どのようなシステムにも,「持続的かつダイナミック」を可能とするための設計・経営の仕組みが少なからず存在するが,提供・使用の仕組みそのものとは別に語られることが多い.これに対して,本稿でのサービスシステムでは,図2右に示す通り,「提供と使用の仕組みの一部が,設計の仕組みの一部として共有されるべき」と考える.2.2節の内容でいえば,現在の提供過程と使用過程の一部を,図1(a)-(d)の設計(Design x use)の駆動源として活かしていくことに相当する.これを設計ありきで言い換えると,「良い設計を取り巻く仕組みを明らかにした上で,そのエッセンスを提供と使用の仕組みにあらかじめ上手く埋め込むべき」との主張になる.このようにして設計を明示的に取り込んだサービスシステムを考えることで,システム全体としての効果や持続性を大きく向上させることができる,という見方である.

図2 サービスシステムと設計の関係

そして,図3に示すプロジェクトの成果物は,この「良い設計を取り巻く仕組み」の理解を与えてくれる.ここでは特に,図中の「ユーザーによる設計と使用の統合サイクル」を中心に扱う.この統合サイクルの構築過程を端的に述べると,まず,ユーザーのサービス使用経験に係るPDSAサイクル (Plan→Do→Study→Act)を準備し,このサイクルを継承して,ユーザー主導/提供者主導/ユーザーコミュニティ主導による設計のサイクルを4種類定義した.そして,これら4種類を,ユーザーの使用経験(Do)を共通化させ接続することで統合サイクルが得られる.各サイクル中央のラベルが示す様に,提供者が事前にサービスをつくりこむ設計(左下),ユーザーが自身の状況に応じてサービスの使用方法を構成する設計(右下)がまずある.一方,上部2つのサイクルはコミュニティを介すものであり,ユーザーが他者の経験から学び自身の目的を適合させる設計(左上)と,コミュニティ内での活発な相互作用を通じて新たな価値をともに模索する設計(右上)である.

先述した様に,これら4つの設計サイクルを連動させられればサービスシステムの効果性・持続性を向上できるが,そのためには,提供と使用の仕組みも同時刷新していくことが肝要である.

図3 ユーザーによる設計と使用を起点としたサービスシステムの構成的枠組み( (原 2014)を元に一部改変)

3.2 サービスの設計パターン抽出の試み

このように図3は「良い設計を取り巻く仕組み」を理解する上で有益と考えているが,やや複雑であり,そこに込められた意味を一度に理解することは容易ではない.そこで本節では,部分構造を取り出していくことで,サービス設計の仕組み,すなわちサービスの設計パターンを探ってみたい.図4にこれまでに検討した代表的なパターンを挙げる.図4では,図3の「ユーザーによる設計と使用の統合サイクル」の構造を簡略化し, 9つの箱を隣接させ示している.

図4 構築した「良い設計を取り巻く仕組み」から発想され得るサービス設計パターンの例

これまでは4つの設計サイクルを一様に表記してきたが,実際には各サイクルの実行期間や頻度には大きな違いが存在する.そこで,図4では便宜上,頻繁に繰り返される定期的な活動を渦巻き状で示し,企画開発の様に,間隔が長く不定期で単発に行われる活動を直線と矢印で示している.前者を殻に,後者を体と触角に見立て,それぞれのパターンをカタツムリの動きとして捉えてみよう.

図4(a)の右向きパターンは,これまで提供者側で抱え込んでいた設計環境をユーザー向けに整えたり開放したりすることで,それ自身をサービスとして提供し,ユーザーによる設計を促進していくものである.すなわち,従来の設計の仕組みの一部を,提供と使用の仕組みに取り入れて展開することに相当する.(b)の左向きパターンでは,そうして促進されたユーザーによる設計を長期間にわたり観察・蓄積し,それを次なる提供者による設計へと活かしていく.一方,(c)の跳躍パターンにおいてもユーザー設計の蓄積を用いていくが,それをコミュニティに上手く還元することで,コミュニティの中での共創を志向する.

これら(a)-(c)は,相対的に頻度の高い定期的な活動(殻)⇒不定期の単発活動(触角)への流れであった.今度は逆に発想して,単発に行われる活動(触角)⇒定期的な活動(殻)への流れを考えてみる.すると,(d)の潜り込みパターンの様に,一度設計してリリースされたある一種類のものが,様々なユーザーの使用と口コミを経ることで,多数の学びと解釈が付与されて拡散されていく様子に思い至る.(e)の2匹パターンもこれに近いが,ユーザー自身の目的にあわせた適応設計を促進する仕組みと,そうしたユーザー体験を共有・伝搬させる仕組みとを日常的に連動させることで,相乗効果を図るケースを思い浮かべることができる.

以上に挙げたものは一部であり,かつ十分な実証が行えている訳ではない.しかしながら,このような設計に対する形式的なモデルを準備できれば,それを用いて論理的・演繹的に様々なパターンを検討できる点を改めて強調しておく.まとめれば,本稿で主張したい“サービスシステムの思考”とは,こうした様々な設計のあり方をより効果的・持続的に実現することを念頭に置きながら,サービスコンテンツ本来の提供と使用の仕組みを構築していくことである.

4. 観光プランニングサービスの社会展開

4.1 サービス科学での成果とその実践

さて,抽象的な内容が続いたので,観光分野での取り組みを例に具体的にみてみよう.本プロジェクトでは,図3で示した枠組みの上で,ユーザー=個人旅行者,提供者=旅行会社と置き,従来の旅行会社中心の観光サービスづくりと,個人旅行者との協働による観光サービスづくりそれぞれに関わる設計技術を開発していった.特にユーザーによる設計サイクルでは,図5に示す,個人旅行者向けの対話型観光プランニングサービスCT-Planner (Collaborative Tour Planner, http://ctplanner.jp)を研究開発し中核に据えた.本サービスを旅行者に活用してもらう(=提供と使用の仕組みに組み込む)ことで,「自分で情報を調べ,ざっとプランニングし,自由に楽しみたい」という個人旅行者のニーズに訴求しながら,サービス提供を通じた持続的な調査を実現しつつ,3.2節で述べた様な多様な種類の設計の連動をねらうことができる.

図5 CT-Plannerウェブサイトの実行画面(http://ctplanner.jp/, last accessed on Dec. 05, 2017.)

サービス科学プログラムでの採択期間の終了後には,首都大学東京の倉田とともにJST・RISTEX研究開発成果実装支援プログラムでの支援(2014年10月〜2017年9月)を受けて,構築した観光プランニング技術の実践と社会展開に関する活動を継続してきた*1(原 2016).東京五輪までに訪日旅行者の急増が予想される中,様々な場面における観光案内サービスの強化が求められている.一方で,受け入れ先となる地域では,訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足が課題である.本活動では,地方自治体や観光事業者が手がける様々な観光情報サービスにCT-Plannerの機能を組み込むことで,観光案内サービスの強化を実現してきた.そして,図4(b)で示した様に,そこで得られたデータや知見を元に,地域・観光事業者による観光まちづくりへとつなげていく,という構想であった.このために,観光プランニング技術そのものに関する研究開発を継続した他,対応地域の増加と多言語化,観光案内業務への応用,観光まちづくり活動を支援するワークショップなどを実施してきた.対外的なセミナーを21回,展示会への出展5件,学会発表12件を精力的にこなすとともに,新聞報道4件,TV放映1件,雑誌掲載3件,受賞5件へとつなげ,実装活動の広報と普及につなげていった.

4.2 旅行者に対するサービス提供

上記で述べた様に,この社会展開には旅行者に対するサービス提供と地域・観光事業者の活動支援の2つの側面があったが,本稿では前者の成果を中心にまとめる.まず,2017年9月末までの間に,CT-Plannerの対応エリア数は80(多言語対応45)を越えた.さらには,CT-Plannerが持つ対話型観光プランニング機能がどのような場面で有効であるかを民間企業と協業しながら,CT-Plannerのウェブサイト本体のみならず,宿泊施設の客室設置端末,観光プロモーションサイト,および観光案内所への設置を図った.具体的な成果は以下の通りであり,筆者のチーム(大学研究者)の立場からみた社会展開の様子を図6に示す.ユーザー数そのものは他の商業サービスに比較すれば多くはないものの,これまでに約8万回のプランニングをサポートし,「多様なエリアを対象に,様々な場所・形態における観光案内サービスを安価に提供できる」ことの有効性を示している.

  • ●   宿泊施設:東北,関東,東海,関西,沖縄地域の大中規模ホテル23件の客室に数千台設置(株式会社ミライトの客室設置端末ee-TaBに採用)
  • ●   観光プロモーションサイト:民間 1件,公共 8件
  • ●   観光案内所:東京主要駅(京王線新宿駅)1件

図6 観光プランニングサービスの社会展開の状況

4.3 旅行者の観光スタイルへの影響

現在のところ,上記の社会展開のうち,宿泊施設への客室設置端末が最も効果的に働いている.設置台数に対していえば,休日で2%程度の利用率であった.そのうち保存・転送されたプラン数(ユーザーがその後も活用したと保証されるもの)は3.8%で,それ以外にも,それらと同程度の操作時間を持つものが15%程度あった.すなわち,両者をあわせれば,操作した利用者のうち20%弱に対して,一日のまちあるき観光プランという「実際の行動」に対応する線の計画づくりに影響を与えたことになる.また,CT-Plannerによる観光プランニングの導入が主要因とは言い切れないものの,サービスの使い勝手・ユーザー体験の向上や多言語化対応の結果,作成完了し保存されたプランが示す滞在予定時間が設置当初と比べて約33%(平均3時間が4時間に)増加し,訪問予定スポット数の平均も8%増加した.また,訪問箇所やプランのバリエーションも広がり,従来分断されていた領域間を往来する割合が若干ながら増えつつある.これらは,現地の知識が少なく,また時間制約や移動制約もある旅行者に適切な観光情報支援をすることで,観光体験のイメージ想起がしやすくなり「現地滞在を自分なりに長く楽しもう」という意識へと変容できることを示唆している.

4.4 地域・観光事業者の活動支援

地域・観光事業者は,CT-Plannerを地域の情報発信ツールとしてまず活用できる.観光プランニングの形式で情報発信をしたい地域や観光事業者は多数あるが,そのための必要な技術開発力も資金も持ち合わせていないのが実状である.そのような中,観光プランニングサービスの基盤化を進めたことは大きなインパクトがあると考えている.

さらには,図4(b)の様に,CT-Plannerによるサービス提供を通じて得られた旅行者情報を,地域主体の観光まちづくり活動へと供給できる.これまでの活動を通じて,地域へと供給され得る旅行者情報の中でも,「滞在中の宿泊施設などで,前日・当日の朝に作成されたプラン」が特に有効であることが明らかとなった.これがひとつの定点観測すべき対象になり得る.今後は,作成されたプランの情報を宿泊施設でのコンシェルジュ支援に即日活かすなど,関連性の強いユースケースとの連動や掛け合わせを図りながら,徐々に地域側の活動全般へと浸透させていくのが現実的と思われる.

4.5 行動変容と共創に向けたサービスデザイン

本稿ではユーザーによる設計に重きを置いてきたが,実際には計画だけでは不十分で,その後のユーザーの行動,あるいはその行動に変化がみられることではじめて意味がある.供給主体の立場ではサービスの設計=提供物の作成と捉えられがちであるが,ユーザー主体での立場では,サービスによる行動支援や行動変容がデザインのキーワードとして浮かび上がる(例えばSangiorgi 2011).Behavior designやDesign for actionと呼ばれる領域では,行動経済学などの知見を活用しながら,人々の日々の活動や行動習慣を変容し得るサービスをどのようにデザインするかに焦点が当てられている.この行動変容をキーワードとした取り組みは,欧州では主に公共政策的な観点で,米国では産業の観点での応用が進められている.

筆者が委員長を務めたサービス学将来検討会では,本プログラムの終盤にて,こうしたデザインの出口を含めて未来共創型のサービス研究開発アプローチを検討してきた(JST社会技術研究開発センター 2015).本アプローチの特徴のひとつがビジョン志向とバックキャスティングであり,もうひとつの特徴が図7に示す共創の流れである.この流れでいえば,これまでに取り組んできた観光プランニングサービスは,観光プランの作成に関する知識や技術を旅行者や地域に対してオープン化することで,旅行者による個人旅行や地域住民による観光まちづくりなどの自発的な取り組みを促進・触発するものである.そして,それらの促進・触発を通じて引き起こされた人々の行動変容が,やがて新たなトレンドとして社会に伝わることで,新たなサービス提供や制度整備の必要性が促され,提供者と需要者間に協働が生まれていく.こうしたA:供給主体の流れとB:需要主体の流れを共創するサービスデザインが期待されるが,ここに本稿で示したサービスシステムの設計の考え方を活かし,さらなる展開を図っていきたい.

図7 供給主体と需要主体のそれぞれを起点としたサービスイノベーション

5. おわりに

本稿では,サービス科学プログラムにおいて筆者が構築したサービスデザインの考え方を,その後の自身の経験で得られた知見を加えながら改めて整理した.世の中のサービスデザインの潮流からすれば実務性こそ劣るものの,筆者自身がそうであった様に,実践を通じて思考の積み上げと検討ができる点には大きな意義があると考えている.サービスデザインの研究というと,ともすれば直接的な効果を追い求めがちになるが,こうした地道な試行錯誤を学会コミュニティの中で奨励・共有していくことで,サービス学ならではの新たな潮流が生み出されていくことを期待している.

著者紹介

  • 原 辰徳

東京大学 人工物工学研究センター 准教授.東京大学 博士(工学) (2009).サービス工学,製品サービスシステム,観光情報サービス,接客サービスなどの研究に従事.サービス学会 理事.

*1  サービス科学プログラムに関していえば,飯田・村井らのプロジェクトも終了後に同様の実装支援を受け,社会展開に取り組んでいる.

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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