サービソロジー
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
巻頭言
巻頭言:マルチアタクターの価値共創とデザイン協働
武山 政直
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2018 年 5 巻 3 号 p. 1

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参加型デザインは北欧の民主的デザインの方法に起源を持つが,近年ビジネスの世界でも導入が進んでいる.そこでは,企業がユーザーの理解を深めるだけでなく,ユーザーが生活や仕事,学びといった日常世界のエキスパートとして,デザインのプロセスや決定に積極的に関与する.ただし,今ある製品やサービスの改善を超えたイノベーションとなると,ユーザーにとっても理想を描くのは簡単でない.そこでリビングラボのような日常性と実験性を兼ね備えた参加型デザインのプラットフォームを用意して,デザインの専門家とユーザー,その他の利害関係者が協働でデザインを推進する動きも広がりつつある.

また公共サービスの領域では,デザインだけでなく,課題の明確化からその提供までを含めて多くのアクターが協働するCo-Productionの方法に期待が寄せられている.例えば,英国の国立科学技術芸術基金(Nesta)が推進した医療サービス改革プロジェクトPeople Powered Healthは,一連の協働プロセスを通じて,慢性疾患を持つ人々を自らのケアにより積極的に関与させ,さらに医師や民間のヘルスケアサービスプロバイダ,地域コミュニティのソーシャルグループなどが連携する新たな医療サービスを誕生させた(Nesta, nef, and Innovation Unit 2012).このようにサービスのCo-Productionは,特定のプロバイダーとユーザーの関係ではなく,社会の多様なアクターに分散する資源を効果的に組み合わせることで,各アクターと公共のアウトカムを同時に生み出そうとする点に特徴がある.

今日の複雑なビジネスや社会の課題に立ち向かう上で,企業と顧客,行政と住民といった関係を超えて,マルチアクターの価値共創ネットワークとしてサービスシステムを構築する必要性が増している.当然ながら,多様なアクターのそれぞれが目指すゴールの間には矛盾や衝突が起こる可能性もあり,その調整の失敗によって,いずれかのアクターのウェルビーイングが減少する価値崩壊(value co-destruction)をもたらす危険性もある.またサービスシステムを完全に理解できる対象としてではなく,アクター間の協働プロセスの中で解釈され続け,創発するものとして捉えるデザインのあり方も求められる.このような価値ネットワークのサービスデザインの実践や研究にとって,バランスの取れた中心性(balanced centricity)(Gummesson 2008)やシステムの創発性を重視した参加型デザインやCo-Productionの方法開発,プラットフォームの整備とともに,そのプロセスをファシリテートする人材の育成が重要なテーマとなる.

著者紹介

  • 武山 政直

慶應義塾大学経済学部教授

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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