サービソロジー
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会議報告
第5回筑波大学 サービス工学シンポジウム
大原 敬之
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2019 年 6 巻 1 号 p. 40-41

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1. はじめに

2019年2月18日に第5回筑波大学サービス工学シンポジウムが筑波大学東京キャンパスにて開催された.本シンポジウムは筑波大学大学院システム情報工学研究科社会工学専攻主催のもと,2014年のサービス工学学位プログラム発足以降毎年開催されており,今年で5回目を数える.第3回までは大学が所在するつくばで開催されていたが,より多くの方々が参加しやすいように前回の第4回からは東京で開催されている.その効果もあり,企業・行政など学外から約60名,学内から約90名と,あわせて155名が参加し,活発にディスカッションが行われた.本シンポジウムにおいて実行委員長を務めた筆者がその概要を報告する.

2. サービス工学シンポジウムの特徴

筑波大学大学院システム情報工学研究科社会工学専攻では「未来構想のための工学」をサービス分野で実践できる高度職業専門人「サービス分野の未来開拓者」を養成する場として,サービス工学学位プログラム(https://www.sk.tsukuba.ac.jp/PPS/se/)を開設している.本シンポジウムは現在サービス工学学位プログラムに所属する学生による産官学連携終了研究の過程と成果を発表するとともに,ご指導・ご鞭撻頂いた多くの方々への御礼と今後のさらなるサービス工学の発展に資する場として開催されている.さらに,学生がサービス分野において「実現できる人」となるべく修練する姿を広く社会に発信するために,シンポジウムの企画・運営を学生自身が行っている.

本シンポジウムは以下の三部構成となっている.

  • ●   【第一部】オープニングセッション
  • ●   【第二部】プロポーザルセッション
  • ●   【第三部】ポスターセッション・情報交換会

3. 基調講演「仙台空港民営化」

オープニングセッションでは,茨城県副知事宇野善昌様から来賓祝辞,仙台国際空港株式会社代表取締役社長岩井卓也様の基調講演が行われた.来賓祝辞では変化が著しい社会において,サービスをいかに最適化するかが重要であり,ニーズや行動様式を深く分析することで新しいサービスやビジネスを提供してほしいと学生に対して激励が送られた.基調講演では「仙台空港 民営化3年の意義と現状」というテーマのもと,空港民営化の意義や仙台国際空港民営化3年の経過について講演された.交流人口増加の重要性が説かれ,交流人口を増加させるために仙台に限らず東北全体を巻き込んだ地域と連携した広域訪日客誘致の取り組みが紹介された.また,顧客サービスの向上に関する多様な施策も紹介された.特に保安検査の手順を搭乗券確認とボディチェック・機内持込手荷物検査の2段階に分けることで待ち時間の減少に成功した事例は利用客の行動を深く分析した結果であり,とても興味深く感じた.

4. 修士1年による研究計画発表

プロポーザルセッションではサービス工学学位プログラム修士1年22名による研究計画発表を行った.発表人数が22名と非常に多いこともあり,5分という短い発表時間であったが,発表の多くが参加者から概ね好印象を持たれた.「会話分析を用いた,企業内SNSにおけるコミュニケーション活性化要因の調査」,「シミュレーションによるワンウェイ型モビリティシェアリングの最適化モデルの評価」,「エビデンスに基づく保険事業のための疾病発症予測」は特に参加者から関心を集めていた.例えば,「会話分析を用いた,企業内SNSにおけるコミュニケーション活性化要因の調査」では,急激に導入が増加しているが上手く活用されていない場合も多い企業内SNSに対して,個々のユーザーの行動に着目し会話のネットワークや内容を分析することで,企業内SNS上でどのような行動がコミュニケーションを活発にしているのかを明らかにしようとしていた点が非常に興味深く,企業からの参加者も多かったため,新しい知見に期待するという声が多かった.

図1 プロポーザルセッションの様子

5. 優秀ポスター賞:関心を集めた研究

ポスターセッション・情報交換会ではサービス工学学位プログラム修士1年による研究計画22件,修士2年による研究成果29件,その他研究室単位での共同研究の成果3件の計54件のポスター発表を行い,会場では活発にディスカッションが行われた.

本シンポジウムでは優秀ポスター賞として,興味深い研究を紹介した修士1年,2年上位3名ずつを参加者による投票で決定し,表彰を行った.投票の結果,修士1年では「深層学習を用いた部品判別~背景透過画像を用いたData Augmentation~」,「エビデンスに基づく保険事業のための疾病発症予測」,「車両応答分析の社会実装に向けた分析対象波形抽出に関する研究」が,修士2年では「デジタルデータを活用した学生参加型学内インフラ管理」,「不均衡データに対する多段階学習を用いた分類アルゴリズムの提案とその検証」,「オンラインニュースサイトにおける拡散現象の検証」,「顧客参加行動の二面性とサービス提供における影響:日本の宅配サービスにおける実証実験」が多くの票を集め,優秀ポスター賞に輝いた.

特に票を集めた「デジタルデータを活用した学生参加型学内インフラ管理」ではインフラの維持管理に市民参加を促す自治体が増えていることに着目し,筑波大学を対象に施設報告やWiFiのアクセスポイントを組み合わせることで施設管理の優先順位を決定し,施設管理の効率化を検討していた.また,施設異常を報告できるアプリケーションの開発・配信を行うことで,今まで紙媒体のみであった施設異常報告の簡易化を図っており,多くの参加者の興味を集めていた.

図2 ポスターセッション・情報交換会の様子

6. おわりに

まず,本シンポジウムに参加された方々にはこの場をお借りして改めて謝意を示したい.同時に,学生主体で企画・運営が行われたこともあり至らない点も見受けられたことに関してお詫びを申しあげたい.しかし,学内からだけでなく,企業・行政と多様な分野の参加者が参加し,学生・研究者・実務家間でのディスカッションも活発に行われたこと,参加者アンケートからポジティブな回答が多く寄せられたことから,意義あるシンポジウムを開催することができたと考えている.

また,筆者を含めシンポジウムの企画・運営を行った学生の立場からも,研究だけでなく実際にサービスを「かたち」にして提供することは非常に貴重な経験であった.

次回のシンポジウムの詳細は決定していないが,原稿執筆時点(2019年2月末)では2020年2月中旬頃に筑波大学東京キャンパスにて実施予定である.筆者は今年で卒業するため次回の運営に直接関わることはないが,OBとしてサポートを行い,より良いシンポジウムを開催できるよう努めていく所存である.学生主体でのシンポジウム運営や産官学連携研究などチャレンジを続けるサービス工学学位プログラムを引き続きご注目いただければ幸甚である.

〔大原 敬之 (筑波大学大学院)〕

 
© 2019 Society for Serviceology
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