2019 年 6 巻 3 号 p. 44-45
本報告では,2019年6月4日(火)~7日(金)の4日間,新潟県新潟市の朱鷺メッセ新潟コンベンションセンターで開催された「2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)」(大会HP:http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2019/)を紹介する.
一般社団法人・人工知能学会により開催される全国大会は今年が33回目である.筆者は本大会に初めて参加し,改めて昨今のAIブームを感じた.プログラム冊子の巻頭言および4日目のクロージングでは,今年の特色として,規模拡大,国際競争力の強化,量から質への転換が強調されていた.
規模拡大については,AIブームが続く中,全投稿数748件(昨年比101件増),スポンサー数90社(昨年比22社増)で,研究の盛り上がりとそれに対する産業界の期待がみてとれる.総参加者数も2,905名(昨年比294名増,過去最多)で,事前参加登録サイトは予定よりも4日早くクローズとなる人気ぶりであった.
国際競争力の強化については,世界の中で日本のAI研究のプレゼンスを高めてゆくために「国際セッション」が新設された.日本に比べ豊富な研究人口と資金力を持つ米国や中国を筆頭とする諸外国に劣ることなく,研究を英語で世界に発信できるようにと新設された国際セッションは,国内での人気に甘んじることなく,学会として世界を見据えた新たな動きであった.
量から質への転換について,今年は一般セッションに投稿された論文の研究目的と結果をチェックする概要査読が導入された.筆者は初めてでかつ聴講参加であったため,昨年度との比較はできないが,大会規模が拡大する中,日本のAI研究を自ら厳しく育ててゆこうとする学会の意思を感じた.

本会議では,以下3件のプレナリーセッションが行われた.
筆者は特に,Preferred Networks, Inc 丸山氏の招待講演が印象に残った.人工知能の可能性と限界,演繹的なモデルと帰納的な深層学習(Deep Learning)モデルの差異が,初学者でも分かるように説明された.丸山氏は人工知能(AI)を統計的機械学習と数理最適化と捉えているように理解できた.
本講演の運営上の優れた点は,事前に英語スクリプト付きの講演資料がWeb上で配布されたこと,Sli.doを活用して質問と意見の募集が行われたことであった.講演資料Web配布により,大規模会場の後方席でもスライドを確認できてストレスなく聴講に集中できた.Sli.doは記録に残るため学びに繋がりやすく,時間の制限を超えて講演者が真摯に質問に答えることが可能であった.なお,プレナリーセッションの講演資料,質問と意見に対する回答は,大会HPより入手可能である.

セッションは17トラック並列で,4日間開催された.どの会場も立見が続出し非常に盛り上がっていた.筆者が所属するNECからも,11件の発表が行われた.本報告では,多岐にわたるセッションから,サービス学に関連し得る学際領域セッションを紹介する.
人の行動変容を促すナッジは,サービス学会第7回国内大会でもOSが組まれたテーマである.人工知能学会であることから,人の行動理論よりもビックデータから人の行動パターンを把握し,人に望ましい行動を促すエージェントを作ろうというモチベーションであった.
TSRとWell-beingの研究者である白肌邦生先生が司会を務めていた.感情的,認知的に良い状態である主観的幸福をPersonal Well-being,(客観的に)良い状態,良い存在,社会的幸福をSocial Well-beingと定義し,Personal Well-beingとSocial Well-beingのバランスを未来志向も含めて考えることの重要性が提起された.利己的に自分のWell-beingを追求するだけでなく,他者や環境を含めた社会のWell-beingも考え,かつ,自分と社会の将来までも見据えるという考え方を未来共創価値と呼んでいると理解できた.未来共創価値を実現するための方法論の構想が発表された.
認知科学の要素が強いセッションであった.サービスの質の向上にとって,人の心の過程を推定,理解することの重要性が主張されていた.人と人のインタラクションから,非言語であいまいな感情を含めて人を理解しようというモチベーションであった.ナッジエージェントのビッグデータ解析アプローチとは異なり,理論に基づき人と人のインタラクションを発生させる実験を設計し,収集したデータから理論を検証していくアプローチであった.
プログラム冊子によれば,本大会は2003年以来の新潟開催であったとのこと.インタラクティブセッションと企業ブースが設けられた会場では,アイス「もも太郎」や国産米を使用した柿の種など,ご当地のお菓子が豊富に提供されていた.規模拡大への対応として,最終セッション終了後に新潟駅前までの無料シャトルバスが運行されていた.このようなご当地の楽しさや気遣いにより,聴講に集中できたことに感謝したい.

2020年度の人工知能学会全国大会は,2020年6月9日(火)~12日(金)に熊本城ホールにて開催予定である.
〔渋谷 恵(NEC 中央研究所)