鉱山地質
Print ISSN : 0026-5209
新潟県五十島蛍石鉱床に伴う含トース石粘土について
今井 直哉渡辺 晃二
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1972 年 22 巻 111 号 p. 43-66

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抄録

かつて,五十島蛍石鉱床はその周囲に広く発達する先新第三紀花崗岩類のマグマ活動と密接な関係にある接触交代鉱床と考えられていた.筆者の一人今井は,既にこの成因説を否定し,母岩の変質状態からみて,それは北方約20kmにあたる赤谷・飯豊鉱床と同じく,中新世斜長流紋岩に関係して,二畳紀石灰岩に胚胎した熱水性交代鉱床であるとの考えを述べた.この論文は,この弗素鉱化帯に大規模な発達を示す白色~ネズミ色粘土に関する研究を主題とする.この"五十島粘土"は産状から次の四つに区別される.1)鉱床の下盤をなすホルンフェルスの変質形成物,2)鉱体内部の空所(一部晶洞)を填めて大規模な産状を示すもの,3)鉱体周辺の変質石灰岩の割目を充填して脈状を示すもの,および4)変質石灰岩がさらに粘土化されたもの.これら粘土のうち,2)および3)の産状を示すものにしばしぼ流理構造が認められることは注目に値する.
顕微鏡観察・化学分析・X線回折・熱分析・赤外吸収分析・電子顕微鏡像観察などの手法を用いた研究によると,この粘土は産状の如何を問わずトース石を主とし少量のカオリナイト・2M1雲母粘土鉱物を伴い,かつ非粘土鉱物として石墨・含水鉄酸化物・蛍石・石英を含む.
筆者らは,これら粘土の生成・胚胎機構を次のように考える.すなわち,熱水性弗素鉱化作用の完了直後に上昇した低温の熱水により既に緑泥石化されたホルンフェルスはMg, Feなどの溶脱を受けて相対的にAl・Siが富化されるとともにH2Oの添加によりトース石・カオリナイト・2M1雲母粘土鉱物を主体とするアルミニューム質粘土に変化した.同時に,この加水作用によりひき起こきれた変質形成物の容積増大は熱水の存在と相まってその流動化を促進し,既に形成された蛍石鉱床内部の空所や周囲の母岩の割目に侵入した.すなわち,これら粘土のうち,2)および3)の産状を示すものはその場における生成物でなく,原岩の位置から若干の距離のところまで移動したものである.
これまでトース石を含む粘土の産出は,酸性火山活動を伴う新第三系に胚胎する黒鉱鉱床・鉱脈鉱床・耐火粘土鉱床に限られていた.新第三系の基盤に胚胎する五十島蛍石鉱床よりのこのような粘土の産出とその特異な産状は,この鉱床の母岩の変質状態および既に行なわれた蛍石の流体包有物地質温度計による鉱床生成温度の推定結果と相まって,先に掲げたこの蛍石鉱床の成因的考察をさらに強固にするものであろう.

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