抄録
東マレーシア,マムート斑岩銅鉱床産鉱石鉱物中の微量元素をIMAで分析した.分析した鉱石鉱物は黄銅鉱,黄鉄鉱,磁硫鉄鉱の3種である.これらの鉱物は,アダメライト斑岩の黒雲母化帯,透角閃石-陽起石化帯,比較的新鮮な普通角閃石帯,および蛇紋岩中の石英細脈に産す.主成分元素のほかに,分析したほとんどの試料について,微量元素として,Ti,Cr,Mn,Co,Ni,Cu,Znが検出され,一部の試料では,ZrあるいはPbが検出された.
得られた分析結果からマムート鉱床の生成に関して次のようなことが示唆される.(i)蛇紋岩中の黄銅鉱は他の母岩産のものに較べてNiに富んでいることから,Niの供給源は蛇紋岩であろう.一方,黄銅鉱中のZn量は母岩に関係なく一定であるから,鉱化流体中のZnはほとんど母岩がら供給されていない.(ii)気相包有物の多い普通角閃右帯の硫化物は一般に他の母岩中のものより微量元素が少ない.これは,硫化鉱物に比べて高塩濃度の溶液に微量元素がより多く濃集することを意味している,(iii)流体包有物のデータ(NAGANO et al., 1977)と黄銅鉱・黄鉄鉱間の律量元素の分配とはともに,鉱化作用の時期に,核と鉱石殻との問にほとんど温度差が存在しなかったことを示している.したがって,微量元素の分配係数がかなり広い範囲にばらつくことは,共存する黄銅鉱と黄鉄鉱のいくつかは平衡関係で生成しなかったことを示唆している.