鉱山地質
Print ISSN : 0026-5209
別子鉱床の硫化鉱物について
別子および日立鉱床の硫化鉱物の比較研究(1)
加瀬 克雄
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1977 年 27 巻 146 号 p. 355-365

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抄録

別子鉱床は藍閃石型の広域変成作用を受けた層状含銅硫化鉄鉱々床である.さらに深部において接触変成作用を受け,鉱石鉱物,脈石鉱物およびそれらの鉱物組み合わせを著しく変化させている.
藍閃石変成作用を受けた鉱石中では,黄鉄鉱,黄銅鉱閃亜鉛鉱が主要な鉱石鉱物である.ときに黄鉄鉱一黄銅鉱一斑銅鉱一閃亜鉛鉱の共生が認められる.その平衡から,5kbの圧力を仮定して,280°~350℃の温度が求められた.この温度範囲は別子鉱床の広域変成温度としては妥当なものであろう.
接触変成作用によって,18L以深では黄鉄鉱の磁硫鉄鉱化が著しい.磁硫鉄鉱の鉄含有量は深部に向かって,累進的に増加し,26L以深では47.5~48.0の原子%のものが普通に認められる.共存する閃亜鉛鉱のFeS含有量は16~20モル%であり,その磁硫鉄鉱の組成に対応する
条件で実験的に求められたFeS量より少ない.また鉄に富む磁硫鉄鉱には黄鉄鉱がしばしば共存している.黄鉄鉱は時に自形~半自形を示す事がある.この共生は低温でのFe-S系の相図に合わない.磁硫鉄鉱は後退変成作用時に,その組成を変化させたものと思われる.他方閃亜鉛鉱,黄鉄鉱は高温の状態を保存しているのであろう.したがって共存する閃亜鉛鉱と磁硫鉄鉱の組成をそのまま,地質温度計,硫黄蒸気圧の地質圧力計として用いる事は因難である.鉄に富む磁硫鉄鉱と自形~半自形の黄鉄鉱の共生は,高温型の磁硫鉄鉱と黄鉄鉱がかって平衡に共生していたことを示す組織であろう.26L以深の鉄に富む磁硫鉄鉱と共生する閃亜鉛鉱には,黄銅鉱あるいは磁硫鉄鉱の離溶を生じていない.これは後退変成作用時の硫黄蒸気圧が低かったことによるのであろう.

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