抄録
本研究は重金属イオンを含む水溶液中に粘土鉱物が懸濁している場合,重金属イオンが粘土鉱物に選択的に濃集する機構を解明することを目的とするもので,まずこの現象に関する基礎的実験データを蓄積することから始めるものである.
今回の実験には,島根県斐川鉱山産セリサイト(2M1 muscovite)の粒径2μm以下にそろえた水簸試料を使用した,セリサイトの懸濁する液のpHは直接ガラス電極で測定し(懸濁pH),重金属含有量との関係を検討した.酸性領域では懸濁pHは真溶液のpHとほぼ一致するが,アルカリ領域においては,時間の経過とともに次第にabrasion pHに近づく.しかし1年後の測定においてもなお平衡には達していない.
重金属イオンのセリサイトへの濃集は,溶液の重金属含有量やpHのちがいにより,実験開始後数分から1時間以内の範囲内でその最高値に達し,それ以後は時間の経過とともにむしろ含有量は減少する.亜鉛,コバルト,砒素の各イオンはセリサイトへ著しく濃集し,なかでも亜鉛は最高1,253ppmにも達する.他方,カドミウムおよび鉛イオンは,溶液中に残存する量の方が多いことが判明した.
実験結果にもとづき,重金属イオンの粘土鉱物(セリサイト)への濃集は,主として層間の陽イオン交換によるものであるが,同時に(hk0)面における吸着や,酸性領域においては構造中のアルミニウムイオンの溶出も考慮せねばならないこと等について論じた.本実験結果は,金属鉱床からの金属元素の分散過程における粘土鉱物の果す役割の重要性を示すものである,鉱床学との関連において,金属元素の濃集・沈澱過程と同様に重要な分散過程の解明のための基礎的なデータを提供するものと考えられる.