日本鑛業會誌
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墨洋丸沈没の原因に就て
氷上 克之
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1942 年 58 巻 687 号 p. 458-459

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抄録

墨洋丸沈没後直ちに北米合衆國の保險業者は各荷主に對して保險金を仕拂ひたる處なれども、一方當保險業者は引續き日本郵船會社を相手取り北米合衆國の法廷に損害賠償の訴訟を提出せり。即ち自然發火の危險性ある銅精鑛と共に棉花其の他の貨物を積載し、銅精鑛の自然發熟の爲本船を沈没に至らしめ、從つて他の貨物をも損失せしめたるは、船會社其の責を負ふべきなりとの理由に基くものなり。其の要求する賠償金額は邦貨にして約110萬圓にして、國家非常の時に際し外貨にてかゝる多額の金を仕拂ふことは實に大なる損失なるを深く憂ひ、郵船本社の外、關係者に於て有利に導かんと苦心努力したれども、當初に於ては殆ど勝算なく深く焦慮したる處なり。然るに時偶々、筆者等の銅精鑛の發熱性及び其の防止法の研究もやうやく進捗したるを以て、其の研究報告と本文に示す墨洋丸沈没原因に關する考察を、參考として、北米合衆國法廷に提出したる處、状態は急に我に有利に好轉し、遂に多額の外貨の流失なく、無事決着を見たるは誠に欣快の至りなり。即ち本文に示す如く、墨洋丸乗組員の當時取りたる應急處置(漲水)は麻袋等の有機物が燻り居たるを消火せんとして行ひたるものにて保險法規上何等の手落なく、然るに結果より見てそれが適當ならざりしに依り沈没にまで至りたるものにて、全く從來銅精鑛の發熟に對する研究もなく、其の知識も不明なりしに基因するものにて、其の責任を會社が負ふべき要なきを強調せしものなり。此處に當時の報文を其儘示し、參考に供さんとす。

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© The Mining and Materials Processing Institute of Japan
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