【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的なパンデミックを引き起こしている感染症である。しかしながらCOVID-19重症化のメカニズムは明らかとなっていない。本研究の目的はCOVID-19の重症化メカニズムを消化管免疫機構の点から明らかとすることである。
【対象・方法】COVID-19患者を対象とした2つの単施設観察研究を札幌医科大学附属病院で実施した。1つ目の研究ではCOVID-19患者の臨床データ、血清中の炎症性サイトカインや血栓・血管内皮マーカー、便中カルプロテクチン、マイクロバイオーム、メタボロームを解析し、重症群と非重症群で比較検討を行った。2つ目の研究では重度の消化器症状のため大腸内視鏡検査を必要とした重症COVID-19患者から腸管の炎症粘膜を採取し、遺伝子発現をリアルタイムPCR法で解析した。
【結果】1つ目の研究では合計19名の患者から血清サンプルを採取し、10名から便サンプルを採取した。血清ではインターロイキン(IL)-6が重症群で有意に高値であった(P=0.03)。便中カルプロテクチンは消化器症状の有無に関わらず重症群が非重症群に比べて有意に高値であり(P=0.03)、重症COVID-19患者における消化管の炎症が明らかとなった。便中メタボローム解析ではトリプトファンの代謝産物であるインドール-3-プロピオン酸が重症群が非重症群に比べて顕著に減少していた(P=0.01)。2つ目の研究では大腸内視鏡検査を必要としたCOVID-19重症患者3名から腸管粘膜を採取した。トリプトファン代謝に関与する遺伝子発現を解析したところ、重症COVID-19患者の回腸ではアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)、芳香族炭化水素受容体(AhR)、カスパーゼリクルートドメイン含有蛋白質9(CARD9)、IL-22などトリプトファン代謝に重要な役割を果たす遺伝子の発現が著明に低下していた。
【結語】重症COVID-19においてトリプトファン代謝障害に起因する消化管炎症が生じることが明らかとなった。小腸におけるトリプトファン代謝の改善がCOVID-19重症化を予防する可能性が示唆された。