抄録
主星と伴星の大気組成の違いが分子雲内の化学組成分布を反映しているならば、実視連星では主星と伴星に組成差があるものも存在して良い。先行する観測は、組成差と連星間距離に弱い相関があると示唆した。等質量の連星であれば主星と伴星の大気パラメータはほぼ同じと見なせるので、組成差は主星と伴星の等価幅の差分として導出できる。そこで本研究は、恒星スペクトルに多数現れるFe I の吸収線の等価幅を測定し、代表的な難揮発性元素である鉄について主星と伴星の組成差を求めることができるか調査した。惑星を保持する実視連星4天体を兵庫県立大学西はりま天文台の「なゆた望遠鏡」とMALLSで分光観測した。16 Cyg AB、83 Leo AB、HD 80606/80607 と XO-2 NS の鉄の等価幅差A-Bについて、それぞれ -0.0042±0.0040 Å、-0.0040±0.0099 Å、0.0001±0.0031 Å と 0.0156±0.0067 Å と導出した。これらの結果はどれも、先行研究が求めた組成差の結果と調和する。