抄録
本稿は、予防接種が社会的ベネフィットと個人的リスクを同時に内包する矛盾を持つことを、リスク理論の視点から分析する。著者はワクチンによる健康被害を「設計・製造」「臨床・品質管理」「接種時」「接種後」の4過程に分類し、それぞれに存在するリスクをアンディ・スターリングの「不確実性のマトリックス」とオートウィン・レンの7つのリスク理論に基づき考察。不確実性や非知を軽視し一面的な毒性学的・疫学的アプローチに依存する政策決定は、真のリスク評価を困難にすると批判する。COVID-19ワクチンを例に、国による判断の違いや副反応の実態も取り上げ、全体知による多面的かつ対話的なアプローチの必要性を訴えている。