Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Technical Material
Re-evaluation of electricity generation cost of HTGR
Yuji FUKAYAHirofumi OHASHIHiroyuki SATOMinoru GOTOKazuhiko KUNITOMI
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2022 Volume 21 Issue 2 Pages 116-126

Details
Abstract

An improvement of the electricity generation cost evaluation method for High Temperature Gas-cooled Reactors (HTGRs) has been performed. Japan Atomic Energy Agency (JAEA) had completed the commercial HTGR concept named Gas Turbine High Temperature Reactor (GTHTR300) and the electricity generation cost evaluation method approximately a decade ago. The cost evaluation was developed on the basis of the method of Federation of Electric Power Companies (FEPC). The FEPC method was markedly revised after the Fukushima Daiichi nuclear disaster. Moreover, the escalation of material and labor costs for the decade should be considered to evaluate the latest cost. Therefore, we revised the cost evaluation method for GTHTR300 and the determined cost was compared with that of the Light Water Reactor (LWR). As a result, it was found that the electricity generation cost of HTGR of 7.9 yen/kWh is cheaper than that of LWR of 11.7 yen/kWh by approximately 30% at the capacity factor of 70%.

I. 緒言

東京電力福島第一原子力発電所事故1以降,高温ガス炉はその高い安全性2が注目され,エネルギー基本計画3,2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略4に記載されるなど,将来のエネルギー源としての期待も高まっている。一方で,日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所)では,商用高温ガス炉概念として電気出力約300 MWの高温ガス炉ガスタービン発電システム(Gas Turbine High Temperature Reactor:GTHTR300)5の概念を完成させている。GTHTR300概念として設計研究の全体計画5,安全設計方針6,燃料設計7,8,核熱流動設計9,発電系設計10,保守・点検11,12,再処理13,そして,発電原価評価14が報告されている。これらの研究開発は,電源開発促進対策特別会計法に基づく文部科学省からの受託事業として,日本原子力研究所が実施した「核熱利用システム技術開発」の成果である。

原子力発電の導入意義の1つは,他の電源と比較し安価なことである。電気事業連合会は2004年に,軽水炉発電および他の主要な電源に対し,統一されたモデルプラント方式を用いて,「モデル試算による各電源の発電コスト比較」15と呼ばれる試算を示し,原子力発電が最も安価な電源であることを示した。この評価法は,2011年の内閣官房国家戦略室のエネルギー・環境会議下に設置されたコスト等検証委員会16における評価,2015年の経済産業省資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会,長期エネルギー需給見通し小委員会に設置された発電コスト検証ワーキンググループの評価17にも踏襲された。また,この発電コスト検証ワーキンググループでは,2021年に再評価18を行っている。このように,軽水炉および比較対象となる電源の発電原価は,最新の知見に置き替えられ,国の評価に使用されている。一方,GTHTR300の発電原価14は2006年の評価以降,その後の更新はない。この発電原価は2004年の電気事業連合会の評価手法を踏襲しており,未公開情報に関しては,独自の調査により評価を再現している。その後のコスト等検証委員会および発電コスト検証ワーキンググループの評価において,評価法の一部が変更となっている。また,2006年評価から10年以上経過しており,これに対するエスカレーション補正a)も必要となる。本報告では,2006年のGTHTR300の発電原価からの変更および軽水炉発電原価との比較について記載する。

a)  物価・賃金の上昇による費用の補正を行うことをエスカレーション補正という。なお,エスカレーション補正は1年間の増加率を補正期間の累積値で評価することがあり,この1年間の増加率をエスカレーション率と呼ぶ。本論文ではエスカレーション補正として倍率を示した際は,補正期間全体での増加率を示すものとする。

II. 評価対象の概要

I章で述べたように,本研究では,2006年に実施されたGTHTR300の発電原価の再評価を目的とする。GTHTR300は実用実証炉として位置付けられ,2030年代において実証炉兼,商用炉1号基として研究開発が進められている設計である。本論文では将来果たす役割として商用炉と呼称する。参考文献514に示すように,高温工学試験研究炉(HTTR)19の設計・建設に関わったメーカー協力の下,完成させた設計に基づき,軽水炉と同等に十分な成熟した建設技術およびサプライチェーンが得られた場合に達成し得る価格として評価された値である。

Figure 1に示すように,GTHTR300は横置き型ガスタービンの採用,熱交換機容器と動力変換容器の分離等,独自の概念に基づく発電システムである。GTHTR300では,高温ガス炉の特徴を生かした水・蒸気系設備の削除,主要系統の簡素化,補助系設備の合理化,原子炉格納容器の削除等により,建設コストを低減している。さらに,高いプラント熱効率の効果により,経済性に優れたプラントとなっている。プラント諸元は次のとおりである。

  • 構成:      4ユニット/プラント
  • プラント出力:  熱出力600 MWt/ユニット
  •         電気出力275 MWe/ユニット(グロス)
  •             269 MWe/ユニット(ネット)
  • 平均燃焼度:   120 GWd/t

また,プラント建設における想定は次のとおりである。

  • ➢    習熟効果を加味したN号機プラントで,軽水炉発電プラントのリプレース対応で建設する。
  • ➢    モジュラー工法を採用する。
  • ➢    敷地内に専用港を有し,海上から機器搬入が可能とする。
  • ➢    建屋・建築物の検討条件はHTTRをベースとし,地盤条件はHTTRと同じとする。
  • ➢    評価範囲は,設備設計・製作,プラント建設および試運転(R&D費,許認可対応費,土地代,敷地造成費,燃料費および予備品は範囲外)とする。

Fig. 1

Plant layout of GTHTR3005)

III. 発電原価評価法

1. 評価方式と変遷

最新の評価法を反映するため,2004年の電気事業連合会評価,2011年のコスト等検証委員会評価および2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価に関し評価法の比較を行う。GTHTR300の発電原価評価は2004年の電気事業連合会評価に基づいているため合わせて記載する。なお,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価に関しては,値の更新はあるものの,評価法に関する変更はない。

電気事業連合会評価ではOECDにおいても用いられる一般的な手法である運転年数発電原価方式を採用している。本評価法では,発電所が一定の年数運転するものとして,発電のために毎年必要となる経費を評価時点(運転開始時点)の価値に換算した経費と発電によって得られる毎年の収入(すなわち,年間発電量×発電原価)を評価時点の価値に換算した総収入が等しくなるように発電原価を決定するb)。具体的には,以下のような評価式となる。   

\begin{equation} \text{発電原価} = \frac{\text{資本費} + \text{運転維持費}+ \text{燃料費}}{\text{発電電力量}} \end{equation} (1)
費用・発電電力量ともに,評価時点へ現在価値換算された値の累積値である。

b)  具体的には,時間依存で分布する費用,発電量をそれぞれ,原子炉完成後の運転開始時を起点として現在価値換算し,時間に対し積分した費用を同様に,現在価値換算・時間積分を行った発電量で割ることにより評価ができる。

2011年のコスト等検証委員会における評価からは同年に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の賠償費用も含む事故リスク対応費の考慮が必須であり,社会的費用が追加された。   

\begin{equation} \text{発電原価} = \frac{\text{資本費} + \text{運転維持費} + \text{燃料費} + \text{社会的費用}}{\text{発電電力量}} \end{equation} (2)
なお,これらの発電原価方式に関しては,有価証券報告書ベースの評価法と違い,原子力が割安になるとの批判20があるが,2011年のコスト等検証委員会で両評価法を比較したところ,原子力と競合する石炭火力との比較においては,両手法に大きな隔たりがないことが確認されており16,この発電原価方式は経営実態とも乖離がない信頼できる手法である。また,評価に用いた計算の詳細も開示しており21,信頼に値する。

(1) 資本費

2004年の電気事業連合会評価では,資本費を減価償却費,固定資産税,報酬,水利使用料(水力)および廃炉費(原子力)の合計としている。一方で,2011年のコスト等検証委員会評価では,報酬が資本費から外されている。この報酬は事業報酬とも呼ばれることがあり,資金調達のコストとしての支払利息は配当を指す。具体的には,減価償却により得られる残存簿価に対する金利として評価される。なお,GTHTR300の発電原価評価では建設中利子も報酬に含めている。一般的に,原価に事業報酬を加えたものを総括原価と呼ぶ。この変更は,発電原価評価において,他の電源との原価を公平に評価するためのものである。2011年のコスト等検証委員会評価で報酬を外した理由としては,想定される事業主体が多様であるため16とされる。

減価償却費に関しては,2007年の税制改正を受けて,償却率の他に改訂償却率が導入され,速やかな減価償却がなされるようになり,その減価償却法が2011年のコスト等検証委員会評価以降の評価に反映された。2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では,減価償却費が廃止され,初期投資費に置き替えられた。減価償却費として運転期間中に分散されることなく,運転開始時に建設費全額が計上される形となった。本扱いはOECDの計算法に合わせたもの17であり,世界的に標準的な手法となった。

なお,固定資産税に関しては,電気事業連合会評価から償却資産評価額に対し地方税法に定める固定資産税の標準税率である1.4%としており変更はない。

廃炉費に関しては,原子力発電施設解体引当金として運転期間中積み上げるものとしているが,実際に費用として発生するのは廃炉時であり,廃炉に着手する運転期間終了後7年の時点において,引当金の総額が費用として発生する。軽水炉では引当金制度が運用されており,その見積りを用いることができるが,GTHTR300の評価では,廃棄物発生量,解体費用および処分費用を独自の評価にて行った。本評価による扱いは,後述する。2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価以降では,廃炉実施時期を運転期間終了後10年間に分散している。

なお,東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて,追加安全対策費が2011年のコスト等検証委員会における評価から考慮された。2012年に設置された原子力規制委員会により新規制基準が策定され,その安全対策が明確化された。2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では,それを受けて追加安全対策費の大幅な増額を行った。

(2) 運転維持費

2004年の電気事業連合会評価では,修繕費,諸費,給料手当,業務分担費および事業税とした。一方で,2011年のコスト等検証委員会評価以降では,事業税を外している。電気事業連合会評価より,修繕費および諸費は,建設費にそれぞれ修繕費率,諸費率を掛けて評価した。給与手当は従事者の給与の総額として与えている。業務分担費に関しては,修繕費,諸費および給料手当の合計に,業務分担費率を掛けて評価する。電気事業連合会評価ではこれらの比率を明示的に示しておらず,GTHTR300評価では独自の調査による値を用いた。2011年のコスト等検証委員会評価では,アンケートベースの軽水炉プラント実績値に置き替えた。また,2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では諸費に関し,諸費率を用いずに,諸費そのものを評価し与えた。これは,追加安全対策費の増大に対して求められた対応と推測できる。

(3) 燃料費

原子力発電に関しては,核燃料サイクルコストとも呼ばれ,フロントエンド費用からバックエンド費用まで,すべての費用を含む。コスト評価に大きな差が表れるのは,核燃料サイクルシナリオの違いによるものであり,電気事業連合会評価では,使用済燃料取り出し後,3年で再処理を行う中間貯蔵なしシナリオと,45年後再処理する中間貯蔵有りシナリオの2シナリオが想定され,発電原価評価には,中間貯蔵なしを64%および中間貯蔵有りを36%と仮定し,それらの結果を合算している。2011年のコスト等検証委員会評価では,代表シナリオとして六ケ所再処理施設稼働遅れを考慮した現状モデルが設定された。使用済燃料取り出しから再処理までの期間を20年とする中間貯蔵なしシナリオと50年とする中間貯蔵有りシナリオを50%ずつで合算した。この変更は,現在価値換算のコスト均等化により,再処理費が割安になる傾向がある。2011年のコスト等検証委員会報告書16には,使用済燃料取り出し3年後に全量再処理する再処理モデルとの比較において,割引率3%とした際の再処理費が1.0円/kWhであるところが,現状モデルにおいて0.5円kW/hとなり,半減することが明示された。この点に関しては,割引率現在価値換算法に対し批判する委員の意見も紹介されたが,社会的時間選好割引率を用いるべきであり,純時間選好割引率とは異なるとの理由で,統一した割引率を用いるのが妥当であると結論付けており,十分に認識すべき課題であるとの意見も紹介されている16。なお,2004年の電気事業連合会評価から2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価まで,割引率の代表値として3%が用いられ続けてきた。上記の議論により,社会的時間選好として割引率3%が選定されことが明らかとなった。この点に関連し逓減割引率現在価値換算法との比較研究22もなされており,現行法の妥当性の確認もなされている。一方で,電気事業連合会評価15においても,代表シナリオは現状モデル相当であり,再処理費についてこれまでの評価と大きな違いはない。廃棄物費の評価に関しては,2004年の電気事業連合会評価においては高レベル廃棄物処分費の他に,その貯蔵費,TRU廃棄物の貯蔵費,処分費など詳細な評価がなされた一方,2011年のコスト等検証委員会評価以降では,高レベル廃棄物処分費のみとなり,コストが低減する結果となった。この点に関しては,高温ガス炉に関しては,黒鉛廃棄物など軽水炉よりも廃棄物が多くなるとの指摘23もあるため,最新の軽水炉コストと比較する目的で,2011年のコスト等検証委員会評価以降での評価対象である高レベル廃棄物処分費に加え黒鉛廃棄物処分費用を評価対象とする。

(4) 社会的費用

2011年のコスト等検証委員会評価より導入された社会的費用としては,原子力発電では,事故リスク対応費および政策経費があり,火力発電では,CO2対策費が考慮された。そのため,東京電力福島第一原子力発電所事故以降も,原子力発電は他の電源に比べ最も安価な電源であることが評価された。政策経費に関しては,これまでの原子力施設設置のための立地交付金や高速増殖炉の原型炉もんじゅ等の研究開発費の負担である。事故リスク対応費に関しては,すでに起こってしまった,東京電力福島第一原発事故が将来も一定の割合で発生することを想定して,その負担を評価したものである。その事故発生頻度に関しては議論があり,世界平均である3 × 10−4,IAEAが目標とする1 × 10−5など複数候補があるが,実際に日本で事故が起こってしまった40年(50炉)を実績として,2,000炉・年に一度事故が発生すると想定(事故リスク5 × 10−4に相当)して評価された。この考え方は共済方式と呼ばれ,損害を負担する期間としての評価であり,事故リスクを示すものではないことには注意が必要である。この共済方式に用いられる事故発生頻度に関しては,2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価においては,追加的安全対策により事故頻度を下げることができるとの見解が示され,頻度を半分とする4,000炉・年に低減されるに至った。ここに,2011年のコスト等検証委員会評価の考え方から変わり,安全性を高めることにより,事故リスク対応費の低減が可能であるという考え方が明示されたことになる。

ここまでの説明において言及された評価法の変遷についてTable 1に示す。

Table 1 Transition of cost evaluation method
  電気事業連合会
(2004年)
コスト等検証委員会
(2011年)
発電コスト検証
ワーキンググループ
(2015年・2021年)
社会的費用 なし 有り 有り
資本費の事業報酬 有り なし なし
資本費の建設費相当 減価償却費 減価償却費 初期投資費
減価償却法 償却率 償却率
および改訂償却率
償却率
および改訂償却率
廃炉費用発生時期 運転終了7年目 運転終了7年目 運転終了後10年間
運転維持費の諸費 諸費率 諸費率 諸費(絶対値)
廃棄物処分費 高レベル廃棄物
貯蔵・処分
TRU廃棄物
貯蔵・処分
高レベル廃棄物
処分
高レベル廃棄物
処分
社会的費費用
の政策経費
なし 有り 有り
社会的費用
の事故リスク対策費
なし 共済方式
(2,000炉・年)
共済方式
(4,000炉・年)

2. 再評価において用いる値

2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価の軽水炉発電原価の評価と整合するように,最新の知見を反映および2006年のGTHTR300の発電原価評価に対するエスカレーション補正するものとする。エスカレーションは,2006年のGTHTR300の発電原価評価が参照している2004年の電気事業連合会評価を基準とし,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価がアンケート等で対象とした2020年の値に対し,14年間を考慮する。また,一部,2011年のコスト等検証委員会評価の諸元を参照している部分があり,その部分に関しては,同様に参照値を用いるものとする。

(1) 資本費

建設費に関しては,建設単価のエスカレーションにより補正する。軽水炉の建設単価は2004年の電気事業連合会評価の28万円/kWから,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では,40万円/kWであり,14年間で43%の増加となっている。このコスト増の原因を推測するため,Table 2およびTable 3に各物価指数との比較を示す。費用上昇比は2004年の費用に対する2020年の費用の比を示し,エスカレーション率は1年当たりの費用の上昇率を示す。建設工事の費用については,建設工事デフレーター24,物価指数については,日銀物価指数25,賃金指数については,毎月勤務統計調査26を参照し,2004年から2020年の各物価の上昇についてまとめてある。原子炉の建設費上昇比の1.43は,建設工事の非住宅鉄筋の1.19および電力施設の1.25と比較して大きな値を示す。セメント等の費用に関係する物価指数の土石製品は1.23,鉄筋等の金属製品は1.29,空調・照明等に関連する汎用機器は1.18,建設業の労働賃金に関しては1.16となり,建設工事デフレーターに示された建設工事費のコスト上昇とほぼ対応している。これらの値が約1.2程度であるのに対し,原子炉建設費の上昇比は1.43と高い値を示している。これに関しては,原子力発電では,原子炉圧力容器など原材料の占める割合が大きい非既製品の金属部材が大きく,物価指数の鉄鋼の1.42,非鉄金属の1.51などの大きな物価上昇の影響を受け,建設費が高い物価上昇を示しているものと推測できる。このことから,原子炉施設の建設費の1.43は妥当なものと考えられる。一方で,原子炉施設以外の建設費は1.19,労働賃金にのみに関しては1.16で補正するのが妥当であるが,ほぼ同程度であることから,原子炉施設の建設費以外の建設費,人件費およびこれらの費用から得られる各単価は1.2倍として補正する。

Table 2 Increase of commodity price (1/2)
  建設単価a) 建築工事b) 物価指数c)
軽水炉 非住宅
鉄筋(RC)
電力 窯業・
土石製品
鉄鋼
費用上昇比(-) 1.43 1.19 1.25 1.23 1.42
エスカレーション率
(%)
2.25 1.30 1.39 1.30 2.33

a)2011年コスト等検証委員会152021年発電コスト検証WG18

b)建築デフレーター24

c)日銀物価指数25

Table 3 Increase of commodity price (2/2)
  物価指数a) 賃金指数b)
非鉄金属 金属製品 汎用機器 鉱産物 建設業
費用上昇比(-) 1.51 1.29 1.18 1.31 1.16
エスカレーション率
(%)
2.59 1.62 1.03 1.70 0.94

a)日銀物価指数25

b)毎月勤務統計調査26

GTHTR300では,II章に示したように,軽水炉プラントのリプレースを前提としており,4ユニットを同一の原子炉建屋に格納することにより,1つのプラントとして構成する。電気出力は1ユニット当たり約275 MWe(グロス)であり,1プラントで110万kWeとなり,軽水炉1基に匹敵する。2006年のGTHTR300の発電原価評価では,建設費218,660百万円/プラントであり,エスカレーション補正として1.43倍とし312,684百万円/プラントとなる。Fig. 2には,GTHTR300において評価された各構成部に対する発電量当たりの建設費14を示す。このように,2006年の評価では,メーカーによる各構成部の設計とそれに基づく費用の積み上げが行われており,本評価では,この内訳を保ったまま,上記のエスカレーション補正により増倍されたコストを建設費として計上している。廃炉費用に関しては,初めに,解体する原子炉施設を放射能レベルにより区分し,線量レベルに応じた解体方法,装備,工数および単価の積み上げ,ならびに,発生した廃棄体の輸送費および処分費を評価している。このように求められた廃炉費用に関し,エスカレーション補正として廃炉費を1.2倍して計上した。

Fig. 2

Construction cost of HTGR and LWR13)

追加安全対策費については,資本費に含まれる。高温ガス炉は,耐熱性の高いセラミック製の被覆粒子燃料を用いるとともに,冷却材喪失時においても炉心の黒鉛が崩壊熱を吸収して原子炉圧力容器外表面から熱を放出することにより,炉心溶融を起こさない設計が可能である。HTTRを用いた安全性実証試験では,出力30%の状態からヘリウムガス冷却材の循環機を強制的に停止し,制御棒の挿入による原子炉停止操作を行わなくても,ドップラー効果により原子炉が自然に停止し,その後,原子炉圧力容器外表面からの放熱により安定な状態が維持されることを実証している。このため,追加安全対策として軽水炉で新たに考慮されたシビアアクシデント対策について,高温ガス炉では軽水炉と同様の設備対策は必ずしも必要ではない。

一方で,追加安全対策費については保守的な評価を行うため,建設費の1%とした。これは,日本原子力研究開発機構大洗研究所内に設置された高温ガス炉の試験研究炉である高温工学試験研究炉(HTTR)が総工費846億円であるのに対し新規制基準対応では1.2億円の対策が行われているためであり,建設費の0.1%に当たるためである。具体的な新規制基準対応としては,モニタリングポスト等の情報伝達設備および制御室における監視設備の追加設置,防火帯の設置,火災報知器の追加設置,ケーブルトレイの遮熱対策等の対応に留まっている。このことは,商用高温ガス炉の対応を類推した際も,高温ガス炉特有の対応はなく,その規模も軽水炉同等もしくは,規模が小さくなることを示しているといえる。

(2) 運転維持費

修繕費および諸費については,評価に用いる建設費に対する比率である修繕費率および諸費率を,それぞれ1.9%および1.53%とした。III-1-(2)項に示したように,修繕費率は2011年のコスト等検証委員会評価から用いられている値であり,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価で最新の値に更新されたものである。一方,諸費率は,2015年・2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では与えられておらず,諸費そのものが与えられている。そこで,本報では,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価の値から,諸費率を算出し設定した。給与手当に関しては,GTHTR300評価では,1プラント当たり,当直運転員60人,発電部門,補修部門および技術部門の日勤者を50人と見積り,東京電力の有価証券報告書から給与手当,退職金,厚生費および養成費の従業員の平均値を算出し,給与手当としている。本報では,2020年の有価証券報告書27に基づき,再評価を行った。東京電力福島第一原発事故の影響が懸念されたため,事故直前の2010年度の報告書と比較を行ったが,東京電力福島第一原発事故が本評価に用いた給与手当に与える影響がないことを確認した。業務分担費率については,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価に用いられている12.8%を用いた。

上記のように,修繕費率および諸費率は軽水炉の実績値を用いることとしたが,本来なら,高温ガス炉プラントの状況に即した値が用いられるべきである。Fig. 3に,ガスタービンシステム構成11を示す。Fig. 3に示すように,直接ガスタービンシステムは簡素な体系であり,軽水炉と比較し,Fig. 2に示すようにエネルギー変換部の建設費は4割程度少ない。この中に含まれる,制御弁類もコントロールバイパス弁,温度コントロールバイパス弁,タービンバイパス弁および破壊板と構成要素は少ない11。交換部品の代表となるこれらの制御弁の内部流体はヘリウムガスであり,かつ定格通常運転時には基本的に全閉状態にあることから,弁体,弁棒,弁座,弁箱内面等各部における劣化・損傷事象の発生ポテンシャルは軽水炉発電プラント蒸気タービンの主要弁に比べ低く11,点検費・修理費等が該当する修繕費率,廃棄物処分費および消耗品費が該当する諸費率は軽水炉のものよりも低いと考えられ,これらに,軽水炉の実績値を用いる本評価は保守的であるといえる。

Fig. 3

Gas turbine system and control valves arrangement11)

(3) 燃料費

燃料費に関しては2015年の発電コスト検証ワーキンググループ評価において,評価式が公開されている。一方で,それぞれの項目に関する評価は合算されており,逆解析により各項目の評価法を解読し,高温ガス炉の核燃料サイクルの状況に即した評価法に変更する必要がある。フロントエンドとして,ウラン燃料費およびMOX燃料費,バックエンドとして,中間貯蔵費,再処理費および高レベル廃棄物処分費が考慮されている。これらを評価するために,ウラン燃料単価,MOX燃料単価,中間貯蔵への輸送単価,中間貯蔵単価,再処理への輸送単価,再処理単価および高レベル廃棄物処分単価が与えられている。2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では,これらの値の一部が更新されている。これらの単価はウラン燃料1 t当たりの費用として与えられている。燃料費に関しては,関係する物量に,これらの単価を掛け,それぞれの費用発生の時期から,燃料を原子炉に装荷した時点へ発生費用を現在価値換算する。同じく,想定シナリオ内で発生する電力を同時期に現在価値換算を行ったものにより,費用を割ることにより,発電量当たりの費用を算出する。

2011年のコスト等検証委員会評価において設定された現状モデルのシナリオが2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価においても用いられている。III-1-(3)項で示したように,このシナリオでは,使用済燃料を20年貯蔵後再処理,50年貯蔵後再処理の2つのシナリオを50%ずつ合算している。それぞれのシナリオは,次世代燃料生成率に従い,繰り返され,発生費用および発生発電量は無限等比級数の和として計上される。この次世代燃料生成率を用いた評価により,プルトニウムの価値の経済性に与える影響が明確に評価できる。一般的にプルトニウムの価値に関しては,プルトニウムクレジットという形で評価されることが多い。これは,プルトニウムを用いることによるウラン資源節約等の経済的利点を表す指標である。一方で,プルトニウム取り扱いの難しさにより負の値を示すこともある。マサチューセッツ工科大学による評価28では,プルトニウムクレジットが−15,743$/kg・Puと大きな負の値を示す。このため,2011年のコスト等検証委員会評価以降では,上記のような使用済燃料からの取り出しプルトニウムのプルサーマルによる利用,つまり,次世代燃料生成を明示的に扱うことにより,プルトニウムクレジットを扱わずに,ウラン燃料による発電原価にその負荷を加味している。ウラン燃料単価は315百万円/tU,MOX燃料単価は782百万円/tHMであり,この時点でプルトニウム利用は経済的とはいえないことがわかる。本シナリオでは,ウラン燃料の利用から始まるが,MOX燃料のみの利用を行うように変更するとMOX燃料利用シナリオでは0.6円/kWhのコスト増になると評価できる。なお,2015年・2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価では,プルトニウム利用の考慮はフロントエンドのみへの影響が考慮されているが,実際は,バックエンドに対する影響も考慮すべきである。

ウラン燃料単価については,単価全体およびウラン購入費単価(精鉱要素)が,2011年のコスト等検証委員会評価の関連資料29に公開されている。この情報から,ウラン購入価格が直接逆算でき,ウラン購入単価,濃縮単価および転換単価がドル建ての評価であり,燃料製造単価が円建ての評価になっていることから,それぞれの価格の逆算が可能である。これらの値をもとに,高温ガス炉燃料の14 wt%の濃縮度を想定し,GTHTR300評価において独自に評価した燃料製造費の1.2倍によるエスカレーション補正値への置換により,高温ガス炉のウラン燃料単価の評価を行った。

MOX燃料単価については,プルトニウムは自身のサイクルからの回収を想定しているため,主に,燃料製造費となり,ウラン燃料の燃料製造費との違いはプルトニウムの取り扱いの難しさによるものと理解できる。そこで,高温ガス炉のウラン燃料製造費を軽水炉のウラン燃料およびMOX燃料の製造費の比によって補正することにより,MOX燃料単価を評価した。また,軽水炉においては,ウラン燃料とMOX燃料の設計において重金属重量は大きく変化させない。一方で,高温ガス炉では,減速材の炭素の減速能が,軽水の水素のものほど優れておらず,プルトニウムの装荷はスペクトルの大幅な硬化につながる。その影響があり,核分裂性物質のみを装荷する設計が最適設計となりがちであり,プルトニウムの重装荷および重金属全体のインベントリの低下が炉心設計の特徴となる。実際に,GTHTR3009の重金属インベントリは7.09 tであるのに対し,MOX炉心であるGTHTR300C-MOX30の重金属インベントリは4.65 tである。このインベントリ比による補正も行った。

中間貯蔵施設への輸送単価および中間貯蔵単価に対しては,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価の軽水炉に対する評価値にGTHTR300評価と同様に,高温ガス炉の特性を考慮した補正を行った。その補正では,コストは燃料体のウラン密度に逆比例し,発熱密度に比例すると想定13している。高温ガス炉の燃料は被覆燃料粒子が黒鉛材料に分散しているため,軽水炉と比較し,燃料体平均のウラン密度は低く,崩壊熱による発熱密度も低い。これは,前者に対してはコスト増加の要因となり,後者に対してはコスト低下の要因となる。結果として,高温ガス炉使用済燃料の輸送および貯蔵に関する費用は軽水炉の倍程度の値として評価された。

再処理施設への輸送単価および再処理単価に対しては,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価の軽水炉に対する評価値にGTHTR300評価と同様に,高温ガス炉の特性を考慮した補正を行った。その補正では,六ケ所再処理施設の受け入れ条件に合わせるため使用済燃料組成を劣化ウランにより3.1倍に希釈することに基づき,各単価に対し3.1倍の補正を行っている。また,再処理単価に関しては,さらに高温ガス炉の被覆燃料粒子の再処理に必要な前処理の費用を加算する必要がある。GTHTR300評価では前処理プラントの設計,プロセス処理および必要となる消耗品を評価し,前処理単価を27百万円/tUと評価している。本報では,この値に1.2倍のエスカレーション補正を行い,高温ガス炉再処理単価に加えた。

高レベル廃棄物処分単価に関しては,2021年の発電コスト検証ワーキンググループ評価の軽水炉に対する評価値にGTHTR300評価と同様に,高温ガス炉の特性を考慮した補正を行った。その補正では,ガラス固化体の発生量を評価した結果,その燃焼度の高さから,単位重金属当たりの発生量が軽水炉の2.5倍であったことから,処分単価も2.5倍とすることとした。一方で,III-1-(3)項に示したように,高温ガス炉廃棄物費用に関しては,GTHTR300評価において2004年の電事連評価に基づき,高レベル廃棄物輸送費,TRU廃棄物貯蔵費およびTRU廃棄物処分費を,さらに,高温ガス炉特有の黒鉛廃棄物処分費を評価している。一方で,2011年のコスト等検証委員会評価以降では,これらの高レベル廃棄物輸送費,TRU廃棄物貯蔵費およびTRU廃棄物処分費等は,事業区分の観点から再処理費用に含めている。本報では,高レベル廃棄物処分以外の廃棄物費用としては,黒鉛廃棄物処分費用を考慮し,この値に1.2倍のエスカレーション補正を行い,高温ガス炉の高レベル廃棄物処分単価に加えた。

(4) 社会的費用

政策経費に関しては,III-1-(4)項に示すように,これまで,原子力エネルギー開発全体に使われた費用を計上しているため,軽水炉と同じ値を用いるものとする。一方で,事故リスク対応費に関しては,III-1-(4)項に示すように共済方式でありながらも安全性の高い炉心では低減が可能である。III-2-(1)項で述べたように高温ガス炉は高い安全性をもち,例え,冷却材そのものが喪失しても炉心溶融に至らず,東京電力福島第一原発事故のように放射性物質が環境に放出され甚大な被害を与えるような事故は発生しない2。このことは,2010年に実施されたHTTRの安全性実証試験によっても確認されている31。この安全性実証試験は,日本とOECD/NEA加盟国6ヵ国協力の下で実施された試験32であり,制御棒などの炉停止機構を動かさずに,ガス循環器を停止し,一次冷却材流量をゼロにし,崩壊熱除去系のような炉心冷却機構を用いない状態にする。冷却材による炉心冷却が全く期待できない状況となり,炉心冷却の観点からは東京電力福島第一原発事故よりも過酷な状況といえる。その過渡挙動をFig. 4に示す。炉心流量の停止とともに,冷却材による強制循環冷却の停止により,燃料平均温度がわずかに上昇するが,それによるドップラー効果により出力が低下する。その後は,炉内の黒鉛構造物の温度上昇およびキセノンの蓄積による負の反応度により,出力がゼロになり静定する。スクラムなしに原子炉が自然に停止する。この間も,黒鉛構造物の高い熱伝導率と原子炉圧力容器への輻射熱による除熱により,燃料温度は定格出力時以下に保たれ続ける。このように,実際の安全性実証試験により高温ガス炉の固有の安全性が確証されている。このように,高温ガス炉はその固有の特性として東京電力福島第一原発事故以降にシビアアクシデント対策として求められるようになった高い安全性を備えているため,III-2-(1)項で示したように新規制基準対策も軽微なものに留まり,その商用炉設計においても新たな追加の対策は軽微なものといえる。そこで,高温ガス炉の事故リスク対応費においてもゼロと設定する。この考え方は共済方式の考え方と矛盾しない。

Fig. 4

Result of safety demonstrating examination

3. 再評価における評価条件

高温ガス炉発電の経済性に関する潜在能力を確認するための評価条件に関して記載する。

(1) 設備利用率の設定

Figure 5には軽水炉の設備利用率33の推移を示す。2002年の東京電力の原子炉施設の点検に関する不具合を機に,設備利用率の著しい低下が確認できる。2004年の電事連評価においては,軽水炉の設備利用率が80%に設定されていたが,2011年のコスト等検証委員会評価以降では,現実に即す目的で70%に設定が変更された経緯がある。高温ガス炉の経済性の特徴を軽水炉との比較で確認する意味では,設備利用率70%同士で比較するのが妥当である。一方で,軽水炉自体は設備利用率80%を達成できる設計となっている。商用高温ガス炉であるGTHTR300は設備利用率90%を達成できる設計となっており,そのため,2バッチ炉心という少数のバッチ数を採用した設計となっている。一般的にバッチ数を増加させたほうが,新燃料の余剰反応度により旧燃料の燃焼反応度欠損を補償でき,同一燃料でも長い燃焼が達成できるため,ウラン節約による資源節約および経済性向上が期待できる。これらの利点を犠牲にしても設備利用率目標を達成する設計を優先した経緯がある。現状の設備利用率の低下は技術的な問題ではないため,これらの設計諸元は将来,十分に実現可能である。軽水炉および高温ガス炉の設計の本来の能力を確認する意味で,軽水炉の設備利用率80%,高温ガス炉の設備利用率90%においても比較を行う。

Fig. 5

Change on capacity factor

IV. 発電原価の評価と検討

Figure 6に高温ガス炉および軽水炉の設備利用率70%における発電原価を示す。高温ガス炉は7.9円/kWhとなった。一方で,発電コスト検証ワーキンググループ評価における軽水炉の発電原価が11.7円/kWhである。高温ガス炉の発電原価は軽水炉と比較し3割程度低いことがわかる。高温ガス炉が軽水炉より高い経済性を示す要因としては,資本費および運転維持費の小ささであり,発電量当たりの建設費の小ささに起因している。燃料費は若干高温ガス炉が高い値を示し,社会的費用は軽水炉が高い値を示す結果となっている。

Fig. 6

Breakdown of electricity power generation cost

Figure 7に資本費の内訳を示す。初期投資費,つまり,建設費の小ささが高温ガス炉の経済性の優秀さの要因となっていることがわかる。III-2-(2)項で示したFig. 2からわかるように,直接ガスタービンシステムの簡素さにより建設費が小さくなる。なお,廃止措置費用に関しては,GTHTR300評価で高温ガス炉独自の評価を行っているが,高温ガス炉の物量としては,軽水炉と同等,もしくは,やや少ないにも関わらず,軽水炉における費用の倍以上の値となっており,楽観的な評価ではないことがわかる。

Fig. 7

Breakdown of capital cost

Figure 8に運転維持費の内訳を示す。給与手当は,高温ガス炉が軽水炉よりも若干小さな値を示している。GTHTR300評価では,建屋容積が軽水炉の建屋の約2/3であることを考慮し,軽水炉の日勤者が約75人のところ,GTHTR300では,50人に設定されているなど,高温ガス炉のメンテナンス性の高さによるものといえる。修繕費および諸費に関しては,建設費に比例するものであり,高温ガス炉の建設費の低さによるものである。業務分担費に関しては,これらの費用に比例する形で与えられ,高温ガス炉が若干低い結果となる。

Fig. 8

Breakdown of operation cost

Figure 9に燃料費の内訳を示す。フロントエンド費用に関しては,ウラン購入,転換および濃縮役務に関する費用は,炉型間の差は小さい。ウラン購入費に関して,高温ガス炉が熱効率の高さにより,軽水炉と比較し若干安くなっているが,濃縮役務費に関しては,高温ガス炉の高い濃縮度により軽水炉と比較し,若干高くなっている。ウラン燃料製造費に関しては,製造工程が複雑な被覆粒子燃料を採用する高温ガス炉が軽水炉の倍程度の値を示している。バックエンド費用に関しては,再処理,廃棄物処分ともに,熱効率の高さにより高温ガス炉が,軽水炉よりも低い値を示している。廃棄物処分費用に関して,その内訳をFig. 10に示す。ほぼ,同じ値を示したが,III-1-(3)項に示すように,軽水炉では,高レベル廃棄物処分費用のみを計上しているのに対し,高温ガス炉では黒鉛廃棄物処分費用も計上した。高レベル廃棄物処分費に関しては,熱効率の高さにより,発電量当たりのガラス固化体の発生量が少なくなるため,高温ガス炉のものが安価な値を示している。

Fig. 9

Breakdown of fuel cost

Fig. 10

Breakdown of waste disposal cost

Figure 11に社会的費用の内訳を示す。安全性が非常に高く,事故時においても東京電力福島第一原発事故のような,放射性物質の放出による環境への著しい影響を与える事象に発展することはなく,事故リスク対策費が発生しない分,高温ガス炉が安価な値を示している。

Fig. 11

Breakdown of public cost

Figure 12に設計時に目標として設定された設備利用率における発電原価を示す。高温ガス炉では6.9円/kWh,軽水炉では10.7円/kWhとなった。高温ガス炉では90%,軽水炉では80%としている。それぞれ,設備利用率70%に対して高温ガス炉では,1.0円/kWh,軽水炉では1.0円/kWhのコスト低減につながっていることがわかる。

Fig. 12

Electricity generation cost with expected capacity factor

V. 結言

2006年に実施した高温ガス炉発電原価評価に関し,最新の知見および評価法反映およびエスカレーション補正のために,最新の軽水炉に対する経済性評価である2021年に実施された発電コスト検証ワーキンググループ評価と同等といえる高温ガス炉発電原価評価を行った。主な結論は以下のとおりである。

  • ➢    高温ガス炉独自の評価項目におけるエスカレーションは,高温ガス炉建設費1.43倍,その他の設備建設および役務作業単価1.2倍の補正を行った。
  • ➢    2006年に実施した経済性評価において,軽水炉単価より補正を行い評価した項目に関しては,最新の軽水炉単価からの補正に変更した。
  • ➢    資本費の建設費相当分の計上に関し,発電コスト検証ワーキンググループ評価に習い,減価償却費から初期投資費へ変更した。
  • ➢    固定資産税評価に必要な減価償却に関しては,2007年の税制改正を受けて,発電コスト検証ワーキンググループ評価と同様に,償却率および改訂償却率を用いる評価法へ変更した。
  • ➢    廃棄物処分費用評価に関しては,発電コスト検証ワーキンググループ評価において,高レベル廃棄物処分費のみを計上しているのに対し,本評価では,黒鉛廃棄物に関する処分費用も計上し高温ガス炉経済性評価に関する信頼性を維持した。
  • ➢    発電原価に関しては,設備利用率70%において,高温ガス炉は7.9円/kWhとなった。一方で,発電コスト検証ワーキンググループ評価における軽水炉の発電原価が11.7円/kWhである。
  • ➢    設計において想定された設備利用率(高温ガス炉90%,軽水炉80%)においては,高温ガス炉では6.9円/kWh,軽水炉では10.7円/kWhとなった。

 

筆者らは本論文の作成に当たり,高温ガス炉の経済性評価の経験があり,本研究に関し有益な助言・コメントを頂いた日本原子力研究開発機構の角田淳弥氏,ヤン・ジングロン氏,坂場成昭氏,西原哲夫氏,橘 幸男氏に深く感謝いたします。

References
 
© 2022 Atomic Energy Society of Japan
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