Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Development of a Machine Learning Method to Predict the Break Diameter during PWR Loss-of-Coolant Accident
Akira NAKAMURATakayoshi KUSUNOKI
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2022 Volume 21 Issue 2 Pages 96-105

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Abstract

This paper describes a method of predicting the break diameter in a loss-of-coolant accident of a pressurized water reactor with machine learning using the data obtained by the safety parameter display system. From the variation in reactor coolant pressure, two feature data, the time difference between LOCA and the time when pressure shows the minimum rate, and the mean pressure decrease rate are determined. The programming language MATLAB is used to extract these feature data and learn them by Gaussian process regression. There are some dispersion factors, such as the break location on the reactor coolant pipe and 1 min sampling timing. The learning results by GPR show relative errors of 7.8% for a 4-loop plant and 9.5% for a 3-loop plant. The learning results are valid for the delay times of 30 and 60 min from the reactor shutdown to LOCA. If the break diameter expands during LOCA, the predicted diameter is useful as input for the plant simulation.

I. 緒言

東京電力㈱福島第一原子力発電所事故後,原子炉等規制法の改正等により原子力安全対策が強化され,なかでも過酷事故対策の強化が実施されてきている。原子力事業者は,過酷事故の発生を防止するとともに,万一事故が発生した場合の影響提言を行うための対策に努め,可搬型電源・ポンプ等の機器の設置だけでなく,防災訓練による緊急時対応能力の向上等の人的な対策にも努めている。原子力規制庁は発電所の緊急時対策所や中央制御室の指揮者の判断能力向上のための訓練および現場の対応力向上のための訓練が行われるように指導している1

中央防災会議の防災基本計画では原子力施設の事故状態等の予測について,“原子力事業者は,原子力施設の状態予測等を行うための機能を平常時から適切に整備するものとする”とされている2。また原子力災害発生時において,住民避難を行わせる必要があるか否かの判断には,原子力施設の事故の現状のみならず,事故の進展予測,収束対応戦略,その進捗状況といった情報を迅速かつ正確に把握する必要がある3。この事故の進展予測は,例えば過酷事故において注水状況等のプラント情報を用いて数値シミュレーションを行い,プラント状態に即した予測計算により炉心損傷時刻を求めることなどを指す。このような予測計算が行えれば,事故対応時に予測結果を踏まえた対策立案にも活用できる。

これまで原子力安全システム研究所(INSS)では加圧水型原子力炉(Pressurized Water Reactor, PWR)の原子力災害時の事象進展予測技術の開発を進めてきた4。プラントの事象進展予測には米国EPRIが開発したシビアアクシデント解析コードMAAP4を用い,MAAP4の入力補助ツールや発電所内被ばく線量評価等を組み合わせた事象進展予測システム(Incident Progress Prediction System, IPPS)として統合した。MAAP4は新規制基準においてシビアアクシデントを含めた計算で用いられた実績があり,また計算が速くプラントの1日程度を1時間程の計算時間で可能であるため,このシステムにはMAAP4を採用している。原子力防災時に将来予測を含めた計算を行うためには,計算速度は不可欠である。このシステムを用いて関西電力㈱の防災訓練で事象進展予測をINSSが実施しているが,プラント状態に即した予測のためには情報の把握,例えば冷却材喪失事故(Loss Of Coolant Accident, LOCA)においては原子炉冷却材系統(Reactor Coolant System, RCS)からの漏えい流量または漏えい口径を把握することが重要である。プラントで計測される圧力・温度・水位等のパラメータは,漏えい流量を直接与える情報ではないため,漏えい流量を仮定した事象進展予測計算を行って計測パラメータと一致するかどうかを繰り返す必要がある4

Naら5はLOCAの漏えい位置の予測に確率的ニューラルネットワーク(Probabilistic Neural Network, PNN),漏えい口径予測にファジーニューラルネットワーク(Fuzzy Neural Network, FNN)を用いて,2%以内の誤差で漏えい口径を予測できたと述べている。この研究ではMAAP4を用いたシミュレーション結果から,原子炉容器圧力や温度などの13のパラメータを選定しPNNに学習させて,ホットレグ破断・コールドレグ破断・蒸気発生器細管破断の漏えい位置を予測した。また13のパラメータから漏えい位置に応じて2つを自動的に選定してFNNで学習させ,漏えい口径を予測した。Leeら6は,機械学習のサポートベクター分類(Support Vector Classification, SVC)を用いてRCSと蒸気発生器(Steam Generator, SG)に関連するプラントパラメータを学習させ,LOCA時の漏えい口径予測に用いた。Choiら7は,Naら5と同様にFNNを用いて,Leeら6と同様にRCSとSGに関連するプラントパラメータを学習させ,LOCA時の漏えい口径予測に用いた。これらの研究では予測誤差が数%と小さいものの,事故発生後の時間経過と予測との関連については述べられていない。このことは次のような状況で課題があると考えられる。すなわち,非定常な変化を学習させる場合に,事故発生から収束までの事故経過結果を与えて学習させたとする。しかし事故途中の過程では事故収束までのデータが揃っていないため,学習結果が適用できるかは未知となる。つまり事故進展の「途中で」人の判断を補助できるデータが得られる仕組みを構築するかが,原子力災害時の機械学習活用における重要な課題である。

Noら8はLeeら6と同様にSVCを用いて,Naら5と同様に漏えい位置の予測を行い,ホットレグ破断・コールドレグ破断・SG細管破断の漏えい位置を予測できた。この研究はプラント状態を継続的に監視するモニタリングを目指して行われたが,事故発生後の経過時間に対する検討は述べられていない。Saghafi and Ghofrani9は非線形自己回帰ニューラルネットワーク(Nonlinear Autoregressive with eXogenous inputs Neural Network, NARX-NN)を用いて,漏えい口径をリアルタイムに予測し,平均4.6%の誤差で予測できた。NARX-NNではある信号の過去のデータも学習に用いることから,モニタリングのような非定常問題に有効であると考えられる。Toloら10は複数のニューラルネットワーク手法を適合ベイズモデルで平均化(Adaptive Bayesian Model Averaging)することで,安定性を向上させた。しかし依然としてこれらの研究の中でも,事故進展の途中でモニタリングとして適用できるかは述べられていない。

建部ら11は,LOCA時のRCS圧力の変化に着目し,配管からの漏えい口径を予測する相関式を作成した。PWRのRCSの圧力がLOCAによりFig. 1のように時間変化するとき,建部らは圧力変化を飽和圧力まで急減(フェーズI),飽和圧力付近で圧力低下が抑制(フェーズII),破断流が高クオリティ二相流となり減圧が促進(フェーズIII)と3つの状態に分けた。フェーズIから初期圧力Psを,フェーズIIIから低下後圧力Pfを抽出し,それらの差を時間差で割ることで圧力低下率Rpを求めた。Pfをパラメータに事前に計算したRCS圧力の時刻歴データから,求めた圧力変化率と漏えい口径の関係を相関式に整理し,予測に用いた。MAAP4コードもしくはRELAP5コードによる計算結果から予測した漏えい口径の誤差は95%確率で8~12%であったと述べている。この手法は,事前に計算された結果から求めた相関式により精度よく予測できる方法であるが,RCS圧力の挙動が複雑になるとPsPfを抽出する精度が悪くなる可能性を有している。

Fig. 1

Example of pressure variation in primary cooling water during loss-of-coolant accident in 4-loop pressurized water reactor

本研究では,建部ら11の手法を改良し,データの前処理による圧力低下率の抽出と,機械学習による予測精度の向上と,事故時にモニタリングにより漏えい口径を判断できるような仕組みの構築を試みた。特に,Fig. 1のように事故後に得られる圧力変化全体から学習するのではなく,事故状態が進展する中で得られる情報から抽出される特徴量を用いて学習させることにした。筆者らはサポートベクターマシン(Support Vector Machine, SVM)回帰を用いて,代表的な4ループのPWRプラントに対し,MAAP4での計算結果から学習した結果を事故進展中に用いることができるような手法12を開発した。再稼働済の代表的なPWRプラントには3ループと4ループがあり,原子炉および主冷却材配管の体積が異なりプラント応答に差異があるため,それぞれで学習する必要がある。本研究に先立ってSVMにより3ループPWRプラントのデータで学習した結果,推定結果が悪くなることがわかった。そこで予備的に検討した結果,SVMよりもガウス過程回帰(Gaussian Process Regression, GPR)13の結果がよりよい推定値を与える可能性があることがわかり,本報告では3および4ループプラントのそれぞれでGPRにより学習した結果を述べる。

II. 時刻歴データからの特徴量抽出

1. 安全パラメータ表示システムSPDS

安全パラメータ表示システム(Safety Parameter Display System, SPDS)は原子炉圧力や温度等の原子力発電所のプラント状態を,原子力災害発生時に原子力規制委員会緊急時対応センター(Emergency Response Center)を始め発電所外の関係各所からも把握できるシステムである。プラントパラメータや放射線レベル等の各種運転監視パラメータが1分間隔のデータとして関係各所に伝送される。前述の事象進展予測システムIPPSではSPDSより伝送されるプラントデータを活用し,ユーザーが事故時のプラント状態(漏えいの有無,機器の動作状況等)を把握し,事象進展予測に必要なシミュレーションの入力を作成する。LOCAにおいては原子炉冷却系統からの漏えい流量または漏えい口径を把握することが重要であることは前章で述べた。これまでIPPSでは建部ら11の方法によりSPDSから得られるデータを用いて漏えい口径を予測している。本研究ではSPDSを用いる仕組みはそのまま用いて,建部ら11の方法を改良することを目指した。

2. 前処理による特徴量抽出

前述のとおりSPDSは1分ごとに,その時刻の運転監視パラメータを伝送する。伝送されたデータを数時間保存するとFig. 2のように時々刻々とデータが更新される。この更新される時系列データを処理して漏えい口径を予測しなければならない。単純にFig. 1のような圧力の時刻歴をニューラルネットワークで学習した場合,学習されたデータに対する予測精度がよくても,Fig. 2のように保存された時間間隔で,前後がないような事故進展の途中に得られるデータに対する予測精度は悪くなると予想される。

Fig. 2

Time history of pressure in primary cooling water after LOCA

本研究では,建部ら11が着目したLOCA時のRCS圧力の変化を用い,特徴量を抽出した後に機械学習で漏えい口径との関係を学習させることとした。建部らは,飽和圧力付近で圧力低下が抑制(フェーズII)された時間と,その前後の圧力差とを用いて,漏えい口径の相関式を求めた。この方法では1つの特徴量,すなわちフェーズIIの持続時間(時間差)から算出された圧力変化率Rpに着目している。本研究では特徴量を増やすことで予測精度を向上させることと,できるかぎり早いタイミングで予測できることを目指し,時間差(フェーズIIの持続時間)と圧力変化率を分けて定義することを試みた。具体的にはFig. 3のように,

  1. a)    RCS温度から計算される飽和蒸気圧psvpとRCS圧力pとの差p-psvpが初めて1 MPa未満になった点でLOCAフラグをセットする。LOCAフラグがたった状態で,p-psvpが0.1 MPa未満になった点で,LOCA発生と算定(時刻 = tLOCA
  2. b)    時刻tLOCA以降,圧力が4 MPa未満になる点までの間で,圧力の時間差分が最小(傾きが最大)になった時刻tdPminを求める。圧力変化が緩やかな場合は,最小点より前のウィンドウ内データから平均値で圧力変化率dPminを算出
  3. c)    飽和蒸気圧から圧力変化が最小になるまでの時間τdPmin = tdPmintLOCAを算出

このような手順にて,特徴量dPminおよびτdPminを定義した。本研究ではc)が建部らのフェーズIIの時間差とは異なり,LOCA開始後に飽和蒸気圧近くまで下がった時点から,4 MPaにまで圧力が変化する時間でτdPminを定義した。4 MPa以下では蓄圧注入系からのRCSへの注水が行われるため,圧力変化率の評価対象範囲外とした。

Fig. 3

Feature extraction from primary cooling water pressure after LOCA

この定義に従ってプログラミングを行い,MATLAB R2020b13を用いて特徴量抽出と次章で述べる機械学習を適用した例をFig. 4に示す。時間経過に従って,(a)~(c)のように順に圧力pの変化が得られる。(a) LOCA直後,(b) 圧力変化率の順次算出,(c) 圧力変化率の最小時刻の決定,といった上記a)~c)の手順から,時間経過とともに変化するpから特徴量を抽出した。(a)ではtLOCAを決定したが圧力変化dPの算出は未実施,(b)ではdPを算出しつつ最小値を検索,(c)では最小値dPminとそれが得られた時刻tdPminを決定している。さらに各図の下半分には,この手順の結果として得られたdPminおよびτdPminから,次章で説明する機械学習結果によって予測した漏えい口径(Estimated break diameter)D*を示した。この例ではMAAP4に設定した漏えい口径(Break diameter)D = 3インチに対し,LOCA発生後5分では2.5インチと予測し,7分では2.8インチと予測,37分では3.1インチと予測して終了している(これ以降は最終予測値を保持)。このように,本研究では時々刻々得られるデータから予測することを目指した。

Fig. 4

Example of the feature extraction and the break diameter prediction during accident progression, 4 loop PWR plant, 3-inch break LOCA

3. 事故シナリオ

本研究では,建部ら11の検討を踏まえ,全交流電源喪失により高・低圧注入系の起動に失敗した場合のLOCA時のRCS圧力の変化を用いることとした。また,漏えい口径が1インチ以下では前述c)の飽和蒸気圧からの低下が非常に緩慢となり,漏えい口径予測を行うよりも早期にプラントの事故対応が進むことから,本研究の対象外とした。一方,漏えい口径が大きくなると後述するSPDSの1分ごとのデータ転送では圧力変化を捉えることが難しくなり,また発電所の事故対応が事象進展予測よりも早期に行われることから,10インチ以上の場合も本研究の対象外とした。

これらの事故条件を入力し,MAAP4コードで計算された結果を次節以降の検討に用いた。

4. 漏えい位置の影響

代表的なPWRプラントを対象に,漏えい(MAAP4コードで設定した漏えい口径D)をRCSの配管(ホットレグ,クロスオーバーレグ,コールドレグ)の各位置に仮定し,MAAP4により計算した結果を先の前処理b)で得られたdPminに対してプロットした結果をFig. 5に示す。これらのRCSの各レグ以外からの漏えいでは,炉心から離れることにより配管系の圧力損失が増える。圧力損失が小さく漏えい率が大きくなり,炉心への影響が大きくなる仮定とするため,これら各レグに直接漏えいが生じた前提で今回は計算を行った。漏えい位置により同じ漏えい口径に対してもdPminにばらつきが生じていることがわかる。SPDSの情報から直接には漏えい位置についての情報が得られないため,このばらつきの回避は難しく,次章で述べる機械学習による予測誤差に影響する。もしdPminだけから判断すれば,例えばFig. 5(a)でdPmin = 0.03を縦にみると○の7インチから□の8インチ以上までばらついており,誤差は最大で(8 − 7)/((7 + 8)/2) = 13%程度生じることが予想される。ただし,この見積もりには次節で述べるサンプリングによる誤差は含まれていない。

Fig. 5

Relation between pressure variation rate dPmin and input break diameter D

同様にもう1つの特徴量,漏えい口径Dに対する圧力変化の時間τdPminFig. 6に示す。一見すると漏えい口径の大きな所で誤差が少ないようにみえるが,Fig. 5に近い表示にするために横軸を逆数の1/τdPminにしてFig. 7に示すと,Fig. 5よりも誤差が大きくなることがみて取れる。SPDSは1分ごとに伝送されるため,漏えい口径が大きくなり圧力変化が急になると,時間分解能による誤差が大きくなる。これがFig. 7では3および4ループプラントのどちらでも,横軸1/τdPminが4 × 10−3と5.5 × 10−3の所にプロットされる漏えい口径が多い理由である。4ループプラントのFig. 7(a)で1/τdPmin = 4 × 10−3でみると,漏えい口径は7.5インチから9.5インチまでばらついており,(9.5 − 7.5)/((9.5 + 7.5)/2) = 24%程度の誤差が予想される。

Fig. 6

Relation between time difference τdPmin and input break diameter D

Fig. 7

Relation between inverse of time difference 1/τdPmin and input break diameter D

次節のサンプリング時刻の影響と合わせて,このような前処理段階でのばらつきを機械学習がどの程度に抑えることができるかを次章では確認していく。

5. サンプリング時刻の影響

SPDSが1分ごとに伝送されるデータであるため,計測値を時間で割った変化率にはサンプリングされるタイミングの影響があると考えられる。この点を確かめるため,MAAP4の計算開始から30秒後,60秒後の2条件で時間をおいてからLOCAを発生させた計算を,すべての漏えい口径に対して行った。LOCAまでの時間Δtが30,60秒という時間はFig. 1のように数十分から数時間を要する事故の進展からみるとわずかな時間であり,事故進展からは誤差とみなせるが,1分ごとに送られるSPDSには影響が大きいと考えて設定した。漏えい口径に対してdPminをプロットした結果をFig. 8に示す。特にFig. 8(a)をみると漏えい位置を示す丸・三角・四角のプロットがそれぞれの傾向を維持しつつばらつきを示しており,30,60秒という時間がサンプリングに対する影響であり,誤差を生じていることがわかる。Fig. 8(b)の△で示されるコールドレグ,□で示されるクロスオーバーレグでは,例えばdPmin = 0.03を縦にみると漏えい口径が7インチ程度と10インチ程度の2つの場合があり得ることがわかる。このような場合では前述の別のパラメータτdPminとともに予測しなければ,大きな予測誤差となってしまうことが予想される。

Fig. 8

Effect of sampling timing on pressure variation rate dPminOpen symbols:Δt = 0, gray-filled symbols:Δt = 30 s, solid symbols:Δt = 60 s.

MAAP4の計算開始と同時にLOCAを発生させた場合(Δt = 0)に対して,Δt = 30,60秒の場合のdPminをプロットした結果をFig. 9に示す。Fig. 9(b)の3ループプラントの結果では,+で示されるΔt = 30秒の結果がやや小さく(1対1の直線より下に)現れているが,それ以外のxで示されるΔt = 60秒の結果とFig. 9(a)の4ループプラントの結果は直線の周りに分布してばらつきを示しており,30,60秒という時間がランダムな誤差を生じていることがわかる。

Fig. 9

Deviation of pressure variation rate dPmin with sampling timing Δt = 30 s and 60 s against 0 s+:Δt = 30 s, x:Δt = 60 s.

Figure 7における誤差は1分ごとにデータ転送を行うSPDSのデータを使うことによる誤差(サンプリング周期による誤差)であり,Fig. 8における誤差は漏えい位置を知り得ないことによる誤差とデータをサンプリングするタイミングによる誤差(ジッタによる誤差)である。これらの誤差のうちサンプリング周期とジッタによる誤差は伝送系のもつ誤差でありプラントの物理的な応答ではないため,次章で述べる機械学習によって減らし難いと考えられる。

III. 特徴量を用いた機械学習と予測精度の確認

1. GPRによる漏えい口径量の予測

前章で検討したdPmin, τdPminの2つの特徴量から漏えい口径Dを機械学習で予測することとした。機械学習にはMATLAB R2020bを用いて,予測手法としては,ガウス過程回帰GPR13を採用した。学習データ量が少ないため,Leave-one-out検証13を行い,その結果をもって予測の精度を確認している。また,GPRの機械学習に用いる設定値ハイパーパラメータはMATLABの回帰学習器を用いて最適化した。

MAAP4に設定した漏えい口径Dに対して学習結果による予測値D*をプロットした結果をFig. 10に,また予測値D*の相対誤差をFig. 11に示す。図中で○はホットレグ,△はコールドレグ,□はクロスオーバーレグのそれぞれを漏えい位置とした。また各印で白抜きは前章のサンプリング時刻が0秒,灰色での塗りつぶしは30秒,黒での塗りつぶしは60秒での時間遅れを与えた。Fig. 11からは2インチ以上10インチ以下の範囲では,4ループプラントではおおむね相対誤差が±7.8%程度(標準偏差3.9%,図中に2σとして破線で表示),3ループプラントでは相対誤差が±9.5%程度(標準偏差4.8%,図中には2σとして破線で表示)で予測できていることがわかる。先に示したFig. 8(b)からは3ループプラントの漏えい口径Dが7インチから10インチで予測精度が悪くなることが予想されたが,7インチ以下より誤差は大きいものの,この程度に抑えられていることがわかる。

Fig. 10

Predicted break diameter D* against input break diameter DOpen symbols:Δt = 0, gray-filled symbols:Δt = 30 s, solid symbols:Δt = 60 s.

Fig. 11

Relative error of predicted break diameter D* against input break diameter DCircles show the hot-leg break, triangles show the cold-leg break, squares show the cross-over-leg break. Open symbols:Δt = 0, gray-filled symbols:Δt = 30 s, solid symbols:Δt = 60 s.

2. 原子炉停止からLOCA発生までの時間の影響

例えば地震で原子炉が自動停止した後に,数回の本震・余震でLOCAが発生するような状況を考えると,原子炉停止からLOCA発生までの時間遅れに対して前章の前処理および学習結果からの予測が有効かどうかを確認しておく必要がある。時間遅れなし(Δt = 0)およびΔt = 30,60秒のデータから前節で学習させた結果を用いて,原子炉停止からLOCA発生までの時間遅れを30分後,60分後の2条件に設定したMAAP4の計算結果から予測した結果をFig. 12に示す。これらの30, 60分という時間については,予測結果に影響しないことを確認するために設定した値である。漏えい位置はRCS配管の中では圧力損失の影響が大きいクロスオーバーレグとした。Fig. 12では3, 4ループプラントとも3~4インチで時間遅れなしに対して時間遅れがある場合が過大評価となっているが,0.5インチ程度の差異であり,実用上は問題ないと判断した。

Fig. 12

Effect of delay time Δt from plant shutdown to LOCA on predicted break diameter D*Circle:Δt = 0, square:Δt = 30 s, triangle:Δt = 60 s, break location:cross-over leg.

3. 漏えい口径の拡大の影響

地震でLOCAが生じて以降,数回の余震により漏えい口径が拡大する可能性もある。初期の漏えい口径D’と口径が拡大するまでの時間tincreaseの組み合わせは様々なパターンが考えられるが,ここでは拡大後の漏えい口径を8インチに固定して,D’は2~6インチ,tincreaseを10~60分と組み合わせた計算から漏えい口径を予測した結果をFig. 13に示す。ここで拡大後を8インチとしたFig. 8をみると縦軸で8インチ以上ではばらつきが大きいため傾向を確認することには不向きと考え,最大の8インチを設定した。初期値D’は口径拡大による推定の傾向を調べるため,2, 4, 6と8以下の値を設定した。漏えい位置はRCS配管の中では圧力損失の影響が大きいクロスオーバーレグとした。

Fig. 13

Effect on predicted break diameter D* when break diameter increases from initial LOCA diameter D’ to 8-inch after tincrease, break location:cross-over leg

Figure 13で初期漏えい口径D’が2インチの場合,比較的短い時間遅れである10分で8インチに拡大した場合には,4ループプラントでは5インチ,3ループプラントでは4インチと予測されている。しかし20分以上間隔が開いた場合には初期口径に近くなり,2.0~3.5インチと予測されている。時間遅れが長くなれば初期口径での漏えいと拡大した影響が分離されやすいため,D’に近い予測結果が得られることになる。運用上は予測された初期口径から事象進展予測を開始し,圧力変化から口径が拡大した後にはその変化を感度解析にて求めることで対応できるため,予測値は十分に実用的である。

一方,初期漏えい口径D’が6インチの場合,時間遅れが10~60分と変わっても同じ値になり,約6インチと予測された(図中ではプロットが重なっている)。計算結果の圧力変化を別途確認すると6インチから8インチへと拡大したタイミングには圧力の挙動にほとんど変化がみられないことから,漏えい拡大までの時間遅れが変化しても同じ値に予測されていることは妥当であり,かつ初期漏えい口径を予測できている。

IV. 結論

本研究では,安全パラメータ表示システムSPDSから得られる原子炉圧力や温度等の原子力発電所のデータを利用し,機械学習を用いて冷却材喪失事故LOCA時に原子炉冷却系統の漏えい口径を自動的に判断する手法を検討した。原子炉冷却材RCS圧力の変化から2つの特徴量を抽出し,機械学習の入力とすることを考えた。2つの特徴量とは,LOCA発生後にRCS圧力が4 MPa未満になる点までで圧力の時間差分が最小(傾きが最大)になった時刻τdPminと,その時点より前の平均圧力変化率dPminである。

シビアアクシデント解析コードMAAP4により計算した結果からSPDSのデータに相当するRCS圧力を計算した。この2つの特徴量の抽出を機械学習もできる技術計算言語MATLABで行い,さらにMAAP4の入力で設定した漏えい口径を用いてガウス過程回帰GPRで学習を行った。ここで,RCS圧力の前処理結果にばらつきを与える因子としては,RCSの漏えい位置,および1分ごとのサンプリング値となるSPDSのサンプリング時刻である。

τdPmindPminの2つの特徴量を,RCSの漏えい位置および1分ごとのサンプリング時刻を30, 60秒と変えたLOCA時のRCS圧力から抽出し,そのばらつきを有したデータから学習した結果,入力値の漏えい口径Dに対して予測値D*の相対誤差は,4ループプラントでは相対誤差が±7.8%程度(標準偏差3.9%),3ループプラントでは相対誤差が±9.5%程度(標準偏差4.8%)で予測できた。現実のLOCA事象では,原子炉が停止してからLOCA発生までの時間は変化する。30, 60分後にLOCA発生した場合は,同時に発生したと仮定した上記の相対誤差の範囲で予測できることを確認した。

また,余震等により漏えい口径が事故進展途中で拡大する場合が考えられる。初期漏えい口径D’が2インチの場合,20分以上間隔が開いた場合には初期口径に近くなり,2.0~3.5インチと予測された。初期漏えい口径D’が6インチの場合,時間遅れが10~60分と変わっても同じ値になり,約6インチと予測できた。これらから開発した前処理および学習結果は,実用に供することができると判断した。

以上のように本研究ではプラントパラメータを用いて, LOCA発生時の漏えい口径を機械学習により予測が可能になることが示された。今後,学習する対象を広げ,事故進展の途中で人の判断を補助できるシステムの構築が期待される。

 

MATLABを用いた前処理および機械学習については,マスワークス合同会社の池上 徹氏にご協力を頂いた。ここに記して謝意を表する。

References
 
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