Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Fundamental study on a diagnostic technology for degradations of cable insulation materials due to radiation exposure and aging
Hiroaki FUJIYOSHIMotomu ISHIIYoshihiro ISOBETakatoshi KAWASHIMATadashi MAGARITakashi IKEDAYukari FUKEMasato OMOTO
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2022 Volume 21 Issue 2 Pages 106-115

Details
Abstract

Age-related degradations of various cables used in nuclear power plants have been of constant concern. In general, many types of polymer material are selected for cable insulators because of their high insulating performance. However, they are degraded in not only their mechanical performance but also their electric performance by radiation exposure. Since current inspection methods, such as measuring the insulation resistance, require substantially high costs and workloads, simplified nondestructive methods will be useful. We have developed a digital hammering inspection system with an AE (acoustic emission) sensor. This system detects the degradations of cable insulators due to radiation exposure and aging by assessing the frequency distributions obtained by FFT (fast Fourier transform) analysis of measured signals. In this study, we evaluated the relationship between the natural frequency obtained by the digital hammering system and the breaking elongation measured by the tensile testing of the insulating materials after electron beam irradiations of up to a maximum of 2,000 kGy for cables including those used in a nuclear power plant for about 30 years.

I. 緒言

原子力プラントで使用されているケーブルは全長約1,000~2,000 kmにおよび,電力供給用や機器の監視・制御用といった重要かつ多様な機能を有する。これらのケーブルは,通常運転時の熱・放射線環境において酸化等により徐々に経年劣化が進行するが,その中でも原子炉格納容器内のケーブルは,設計想定事故時の高温水蒸気と高放射線量の過酷な環境により急激な性能低下を引き起こすことが知られている1

電気・計装設備の絶縁低下に対しては,「原子力発電所用電線・ケーブルの環境試験方法ならびに耐延焼性試験方法に関する推奨案2」,「原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド(JNES-RE-2013-2049)3」等に基づき,経年劣化を考慮した試験・評価,および定期的な絶縁抵抗測定等による保全活動を踏まえ,必要に応じて取り替えを実施することで健全性が維持されている4

また,従来までの設計基準事故を模擬した試験に加えて,2013年に施行された原子力発電所の新たな規制基準「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」において,重大事故対策が要求事項となった。重大事故等対処設備に該当する原子炉格納容器内のケーブルは,通常運転時の使用条件による経年劣化を経験した後に,重大事故が発生した場合においても絶縁性能を維持することが要求されることから,経年劣化および重大事故等を想定した健全性評価が求められている5。このような背景から,ケーブルの健全性評価手法の高度化を目的として,ケーブル試験体に経年劣化を模擬的に付与した上で,想定される重大事故環境下における絶縁性能の調査などの研究がされている6

一般にケーブルは3.3~6.6 kVの高圧用と600 V以下の低圧用に大別でき,この内,高圧ケーブルは直流漏れ電流法,部分放電法等の電気的な診断技術が確立されつつある。一方,低圧ケーブルは目視点検や絶縁抵抗測定により健全性は確認されているものの,それだけでは劣化度や残存寿命の診断が困難という課題や,絶縁低下などの電気的な劣化は前兆を捉えることが困難という課題がある。また,昨今の電力自由化の要請に伴う電気料金の値下げ,設備の維持・管理・運用・更新等のコスト削減が求められる一方で,良質なサービスを提供する必要があるといった社会的な背景から,電力設備を停止することなく監視するための管理技術が重要視されてきている7。そこで,電気的特性の低下に先立ち,絶縁材やシースの伸びなどの機械的特性の低下が早期から現れることに着目し8,絶縁材の機械的特性の変化からケーブルの劣化度を評価する方法が試みられてきた9,10

具体的には,ケーブルの劣化度を非破壊的に検出するための様々な手法が開発されており,例えば高分子材料が劣化すると破断伸びが低下する性質を利用し,超音波の音速からシースの破断伸びを非破壊的に評価した報告がある9。また,絶縁材に対する押針の押し込み量と荷重から得られる硬さを用いる手法において,破断伸びと硬さに有用な相関関係を得たとする報告がある10。これらの手法について,前者は最外周のシースを対象とした評価であり,後者はシースを除去した上で絶縁材単体を対象とした評価であることから,絶縁材がシースに覆われた状態における評価が不十分という課題がある。

ここで,原子力プラントで使用されているケーブルの代表的な構造をFig. 1に示す。一般的にケーブルは導体(銅線),導体を覆う絶縁材,絶縁材を濡れや傷から保護する役割のシース材からなる多層構造であるため,ケーブルを布設状態のままで絶縁材の劣化度を評価するためには,ケーブル外側からの測定が必要である。

Fig. 1

Typical example of cable used in nuclear power plants1)

熱による化学構造の変化や放射線による高次構造の劣化に対する光学的性質に着目し,近赤外の反射吸光度の違いから絶縁材の劣化度を推定する手法も試みられており,反射吸光度差と引張伸びとによい相関を確認したとする報告があるが11,この手法もケーブル端部の絶縁体露出部での診断を想定されたものである。

また,実機プラントにおけるケーブルの絶縁性能は,通常運転時の劣化傾向は穏やかであるが,事故の発生による著しい環境の悪化により,ケーブルの性能低下が急速に進展することが予想されており,事故時の健全性を事前の点検で担保することは困難であることから,経年劣化による絶縁低下と事故時雰囲気内での絶縁低下を模擬した評価が必要である12

さらに,同じ材質であっても,製造メーカが異なるなどにより,酸化防止剤,安定剤等の配合の有無や配合量および種類の相違が材料の機械的特性に影響し1,個別試料の耐放射線性は2~3倍かそれ以上に分散することが指摘されている13

このように,種々の診断技術を用いてケーブル絶縁材の劣化度の評価が試みられているものの,その適用に関しては様々な制約があるとともに,高分子材料の特徴である添加剤等による機械的特性への影響も考慮する必要があるという点も,絶縁材の劣化度の評価が容易でない要因の1つである。

こうした背景のもと,筆者らはこれまでコンクリート構造物を始めとする社会インフラを対象とした診断技術として,AE(Acoustic Emission)センサを用いた非破壊検査システム(以下,「デジタル打音検査」という。)の開発,現場適用に取り組んできた14。デジタル打音検査は,測定対象の振動特性(主に固有周波数)から,測定対象の物性の変化や,拘束状態の変化を評価する非破壊検査技術である。

本検討では,デジタル打音検査を用いたケーブル診断技術の開発のための基礎検討として,複数種類のケーブル試験体を対象とした放射線による機械的特性の劣化傾向をデジタル打音検査で評価した結果について報告する。

II. 検討内容

1. ケーブル試験体

ケーブル試験体の仕様をTable 1に示す。C-6およびC-7は実機のタービン建屋において1990年に布設されたものである。C-6,C-7の違いは,C-6はC-7と比較して太径であること,また,製造メーカが異なることである。なお,原子炉格納容器内においてもC-6,C-7と同一材料のケーブルが使用されているが15,ケーブル持出しには制約があることから,本検討では原子炉格納容器外で供用されたケーブルを対象とした。原子炉格納容器内においては,照射劣化および経年劣化が段階的に蓄積されるが,本検討で使用したケーブルは原子炉格納容器外で供用されたものであり,電子線照射により照射劣化を模擬した。

Table 1 Specifications of cable samples
Samples Materials Usage history Diameter
(mm)
Insulation Sheath
C-6 Flame resistant EP rubber Flame resistant low hydrochloric acid heat resistant vinyl 30 years in Ohi(3 u) 30
C-7 Flame resistant EP rubber Flame resistant low hydrochloric acid heat resistant vinyl 30 years in Ohi(3 u) 20
C-8 EP rubber heat resistant vinyl Unused 20

本検討では,放射線照射による劣化傾向の調査に加え,経年劣化による影響を評価するため,C-6およびC-7と類似の絶縁材,シース材である新品未使用ケーブルのC-8を含む3種類のケーブルを評価対象とした。C-6,C-7は,難燃性エチレンプロピレンゴム絶縁,難燃性低塩酸特殊耐熱ビニルシース,C-8はエチレンプロピレンゴム絶縁,耐熱ビニルシースである。なお,放射線照射,その後のデジタル打音検査時の取り扱いを容易にするため,ケーブル試験体の長さは300 mmとした。

2. 放射線照射

実機プラント環境のケーブルにおける放射線劣化の主となる要因はガンマ線である。ここで,金属や無機材料における放射線損傷は主として“はじき出し”によって起こるため,放射線の線質,エネルギー,線エネルギー付与(LET)などに大きく依存する。それに対し,有機材料では主として電子励起によって放射線劣化が起こるため,一般的に線質,エネルギー,線エネルギー付与(LET)などには大きく依存せず,吸収線量のみに依存しやすい。したがって,有機物においては線質に依らず同線量で同程度の損傷が生じるという近似が古くから使われていたが,有機材料に対する照射効果は,試料の調整法,放射線の線質と強度,温度,雰囲気あるいは添加物の存在など種々の因子によって複雑に変化することから,厳密には使用条件を明確に設定した上での実用試験が必要であると指摘されている16

本検討では,下記の理由から,放射線照射に電子線を用いた。なお,電子線は高エネルギーの電子であり,物質中の透過力は物質の種類,エネルギーによって決定される17。電子線のエネルギーが10 MeVであり,国内の商業用電子線照射設備では最高の透過性を有する照射設備18を用い,ケーブル試験体の径方向の4面(0°,90°,180°,270°)に対して,均一な電子線照射ができるように照射条件を設定した。ただし,電子線はガンマ線と比較して高線量率の照射が可能である一方,空気中での照射では線量率が高い場合は,線量率が低い場合と比較して放射線酸化反応により酸素が表面付近で消費され尽くされることで,酸素が内部まで到達できないことも指摘されており19,電気絶縁材料の耐放射線性試験においては線量率の上限が設定されている15

  •  ① ガンマ線などの電磁波と比較して,粒子線である電子線はエネルギー付与率が極めて高く,短時間での照射が可能である。
  •  ② ガンマ線と高分子材料の相互作用はコンプトン効果による電子の散乱が主であり,二次電子の寄与が大きいことから,電子線とガンマ線ではごく初期の過程は異なるものの,二次電子生成以降のエネルギー付与過程に違いはない19,20

(1) 電子線照射

電子線照射装置は関西電子ビーム㈱が所有する電子加速器ロードトロン TT200(IBA社製)を用いた(Fig. 2)。電子線照射装置の仕様および照射条件をTable 2に示す。

Fig. 2

Rhodotron accelerator for electron-beam irradiations17)

Table 2 Electron beam irradiation conditions for cable samples
Acceleration energy (MeV) 10
Scan width (mm) 1,100
Beam current (mA) 10.0
Conveyor speed (m/min) 2.89

試験体ごとのばらつきを考慮し,各照射条件において試験体3体ずつ照射した。なお,ケーブル試験体に電子線照射した場合,導体の影になる位置の絶縁材は電子線が到達できないと考えられることから,ケーブル試験体の径方向の4面(0°,90°,180°,270°)に対して均一に電子線照射するため,照射1回ごとに試験体を回転させることにより4方向から照射した。

照射搬送用トレイへの試験体設置状態をFig. 3に示す。トレイ搬送中の試験体の転がりを防止するため,アルミニウム製の治具上に試験体を配置した。試験体と同一トレイ上に設置したCTA線量計(富士フイルム㈱製FTR-125)より測定した吸収線量をTable 3に示す。本検討ではCTA線量計の測定値をケーブル試験体表面の吸収線量とみなして評価を行う。なお,本検討で使用した試験体の絶縁材であるEPゴムにおいて,伸びが50~100%まで低下する線量は1,200~2,500 kGy程度であるとする既往の研究結果10,13を参考に,本検討では最大吸収線量を2,000 kGyとし,段階的に吸収線量を設定した。

Fig. 3

Cable samples on an aluminum trey

Table 3 Absorbed doses of cable samples
Number of Irradiations Absorbed dose (kGy)
4 94
11 2.7 × 102
22 5.3 × 102
44 1.0 × 103
67 1.6 × 103
89 2.1 × 103

電子線照射後の各試験体の断面をFig. 4に示す。2,000 kGy照射後の絶縁材は,照射前と比較して幾分か着色が確認された。

Fig. 4

Cross sections of cable samples

また,ケーブル絶縁材のような高分子材料は,放射線のみならず熱が原因となり高分子の分子構造が変化することで,電気的特性や機械的特性が低下することが知られていることから21,それぞれのケーブルを対象に,電子線照射時のケーブル絶縁材の温度を測定した。なお,電子線照射時の温度上昇が最も大きいと考えられる長さ方向の中央部における導体と絶縁材の境界部で温度測定するために,シース,絶縁材に切り込みを入れ,導体と絶縁材の境界部に熱電対を挟み込むことで作製した温度計測用試験体を用いた。その結果,電子線照射に伴う最高温度は,C-7の導体と絶縁材の境界部における77.9℃であった。

電子線照射時の温度上昇に伴うケーブル試験体への熱影響を評価すると,本検討で使用した実機ケーブルは格納容器内でも使用されており,取り替え元の発電所における重大事故時の格納容器雰囲気温度は最高で144℃であることから22,実機ケーブルであるC-6,C-7は144℃よりも高い耐熱性を有すると考えられる。一方,電子線照射による温度上昇は最高で77.9℃であり,重大事故時の格納容器雰囲気の最高温度よりも十分低いことから,熱影響の可能性は否定できないものの,本検討において熱影響は支配的ではないと仮定して検討した。

3. デジタル打音検査

(1) デジタル打音検査システム

デジタル打音検査システムをFig. 5に示す。本システムは,①広帯域AEセンサ(NF回路ブロック社製,AE-900S-WB),②計測ハードウェア(原子燃料工業製),③波形処理用タブレットPC(Panasonic社製タフパッド,FZ-M1)で構成される。小型のハンマを用いた打撃により励起した振動をセンサ表面の圧電素子により電圧に変換し,信号取得する。取得した振動波形を高速フーリエ変換処理(FFT)し,周波数分布を得る。この周波数分布には測定対象の振動特性の情報が含まれており,その振動特性から対象の物性や拘束状態を推測するシステムである。

Fig. 5

Portable digital hammering inspection system with AE sensor

(2) ケーブル試験体へのデジタル打音検査

ケーブル試験体へのデジタル打音検査方法をFig. 6に示す。シース表面にAEセンサを軽く押し当て,近傍を小型ハンマで軽く打撃することで測定した。測定位置は長さ方向の両端部および中央部の3ヵ所,断面方向は90°ずつの4面とし,試験体1体につき12ヵ所測定した。なお,打撃ごとの測定値のばらつきを考慮し,1ヵ所当たり5回ずつ打音検査し,得られた5回分の周波数分布を平均した。

Fig. 6

Digital hammering inspection method with AE sensor for cable samples

例としてC-6試験体の測定で得られる振動波形をFig. 7に,振動波形をFFTすることで得られる周波数分布をFig. 8に示す。Fig. 8において,800 Hz付近に卓越したピーク周波数が確認される。

Fig. 7

Example of measured waveform (C-6 cable)

Fig. 8

Typical frequency distribution (C-6 cable)

ここで,ケーブル試験体の測定で得られる卓越ピーク周波数fnは,ケーブルを梁とみなし,梁の曲げ振動の理論式である(1)式で表現される23。また,ケーブルのように複数の材料の組み合わせからなる複合材のヤング率は,(2)式の複合則で示すとおり,各材質のヤング率と体積分率の総和により与えられる24

ケーブル試験体へのデジタル打音検査では,照射によって生じるケーブル試験体の機械的特性の内,ヤング率の変化に伴う曲げ振動の卓越周波数(以下,「評価ピーク周波数」という。)の変化を調査することにより,ケーブル絶縁材の照射による影響を評価する。   

\begin{equation} f_{n} = \frac{1}{2\pi}\frac{\lambda_{n}{}^{2}}{\ell^{2}}\sqrt{\frac{EI}{\rho A}} \end{equation} (1)
ここで,n:振動系のモード次数,$\ell $:ケーブル長(m),E:ヤング率(MPa),I:断面2次モーメント(m4),ρ:密度(kg/m3),A:断面積(m2)である。   
\begin{equation} E = E_{S} \cdot V_{S} + E_{I} \cdot V_{I} + E_{C} \cdot V_{C} \end{equation} (2)

ここで,E:ケーブルのヤング率(MPa),ES:シースのヤング率(MPa),VS:シースの体積分率,EI:絶縁材のヤング率(MPa),VI:絶縁材の体積分率,EC:導体のヤング率(MPa),VC:導体の体積分率である。

(3) デジタル打音検査結果

照射によるケーブル絶縁材への影響を調査するため,照射前後における同一測定位置の評価ピーク周波数の変化量(以下,「周波数変化量」という。)をとった。Fig. 9は同一吸収線量のケーブル試験体3体における周波数変化量の平均値である。なお,図中の誤差棒は試験体3体の周波数変化量のばらつきである。

Fig. 9

Relations between absorbed dose and frequency difference between unirradiated and irradiated cables

いずれの試験体も吸収線量の増加に伴う周波数変化量の上昇傾向を確認した。C-6における吸収線量と周波数変化量の関係は,他の試験体と比較して直線的な関係にある。C-7の周波数変化量は0~1,500 kGyの範囲で比較的緩やかな上昇傾向を示すが,1,500~2,000 kGyでは顕著に上昇した。C-8はC-6とC-7の中間のような傾向となった。この結果から,吸収線量と周波数変化量の関係において,3種類のケーブルに明確な傾向の違いはみられなかった。

照射により評価ピーク周波数が上昇する理由として,放射線による架橋が考えられる。ケーブル絶縁材のような高分子材料に放射線を照射すると,高分子はイオン化または励起化され,種々のラジカルを生じ,分子の構造および物理状態に依存して,低分子化(崩壊)または分子量の増大(架橋)が起こる25。架橋には,ヤング率の増大,引張強さの増大,伸び率の低下などの効果があり,(1)式の関係から,ヤング率Eが上昇することで,評価ピーク周波数fnも上昇したと考えられる。

なお,高分子の放射線劣化は高分子の共有結合が乖離する分子鎖の切断だけでなく,分子鎖間の結合(架橋)によっても材料の伸び,強度が低下することから,架橋が過度に起こることも劣化とみなされる13。デジタル打音検査結果から,本検討で使用した3種類のケーブルにおいては照射による分子鎖の切断よりも架橋が支配的に進行しているものと考えられ,架橋に伴う評価ピーク周波数の上昇,および次節で述べる絶縁材の伸びの低下を絶縁材の劣化とみなし,両者の相関を評価した。

4. 引張試験

(1) 引張試験片の作製

照射後のケーブル試験体から絶縁材を抜き取り,引張試験を実施した。試験体ごとのばらつきを考慮し,試験体1体当たり3本の絶縁材を抜き取り,抜き取った絶縁材からC-6はダンベル状,C-7およびC-8は管状の引張試験片を作製した。作製した引張試験片をFig. 10に示す。なお,引張試験片はJIS C 3005に基づき作製した。

Fig. 10

Test pieces for tensile testing

(2) 引張試験機

引張試験は島津製作所製オートグラフ(AGS-J 500N)を用い,Fig. 11に示すとおり実施した。なお,引張速度は500 mm/minとした。

Fig. 11

Tensile test process

(3) 引張試験結果

引張試験で得られた絶縁材の破断伸び(以降,「伸び」という。)と吸収線量との関係をFig. 12に示す。なお,プロットは同一線量の試験体3体の平均値である。いずれの試験体も吸収線量の増加に伴う伸びの低下傾向を確認した。伸びの低下傾向は前述したように,照射による絶縁材の架橋によるものと考えられる。

Fig. 12

Relations between absorbed dose and elongation at break

未照射試験体の伸びに着目すると,実機取替ケーブルであるC-6は400%以上,C-7は600%以上となり,新品未使用ケーブルであるC-8の400%以上と同等,もしくはそれ以上の伸びとなった。ここから,実機プラントで30年間供用されたケーブル絶縁材は新品未使用ケーブルと同等の伸びを有することを確認した。

ここで,C-6およびC-8における吸収線量と伸びの関係は,吸収線量の増加に伴い,緩やかに伸びが低下する傾向となり,両者のプロットはおおむね一致した。一方,C-7における吸収線量と伸びの関係は,低線量領域(0~250 kGy)では前者と比較して高い伸びを示すが,500 kGy以降は逆転し,1,000 kGy以降の伸びは横ばいとなった。

同環境下で同期間供用されたにも関わらず,C-6とC-7とで異なる劣化傾向を示した理由としては,すでに述べたとおり,添加物等の相違,および引張試験片の形状,寸法が異なるためと推測される。

次に,ケーブル絶縁材のヤング率とデジタル打音検査で得られる評価ピーク周波数との関係を調査する。

C-6の未照射試験体における応力-ひずみ曲線をFig. 13に示す。

Fig. 13

Relation between stress and strain of Insulation in tensile testing (Sample number C-6-1)

ヤング率は引張試験における応力-ひずみ曲線の傾き(Fig. 13中の黒破線)であり,(3)式で表現される。   

\begin{equation} E = \frac{\sigma}{\varepsilon} \end{equation} (3)

ここで,E:ケーブルのヤング率(MPa),σ:引張強さ(MPa),ε:ひずみである。

(3)式で得たヤング率と吸収線量との関係をFig. 14に示す。なお,プロットは同一線量の試験体の平均値である。未照射試験体に着目すると,C-6およびC-8は10~15 MPa程度であるのに対し,C-7は65 MPa程度となった。同じ材質の絶縁材であるC-6とC-7における未照射試験体のヤング率の差異は,未照射試験体の伸びと同様,添加剤等の違いによる物性の違いによるものと推測される。

Fig. 14

Relations between absorbed dose and Young’s modulus of Insulation

Fig. 14から絶縁材のヤング率は,吸収線量の増加に伴い幾分飽和しつつも漸増しているが,Fig. 9では,評価ピーク周波数は,0~100 kGyの吸収線量の範囲では変化が大きいものの,100 kGy以上は変化が小さい。その要因として,(1)式,および(2)式で示したようにデジタル打音検査で得られる評価ピーク周波数はケーブル導体,絶縁材,シース材のそれぞれのヤング率に依存することから,ケーブル表層にあるシース材の照射に伴うヤング率の上昇の効果が先行したためと推定される。

5. デジタル打音検査による絶縁材劣化度の推定

デジタル打音検査によるケーブル絶縁材の劣化度の推定を目的として,同一線量の試験体における評価ピーク周波数と伸びの関係を調査した結果をFig. 15に示す。各プロットは同一線量の試験体3体の平均値であり,横軸の誤差棒は評価ピーク周波数,縦軸の誤差棒は伸びの標準偏差をそれぞれ示している。

Fig. 15

Relations between evaluation frequency and elongation at break

評価ピーク周波数による伸びの推定のため,それぞれのケーブルにおいて回帰分析して得られる回帰式をTable 4に示す。なお,C-7については1,000 kGy照射以降の伸びが横ばいになることから,0~1,000 kGyの範囲で回帰分析した。それぞれのケーブルの回帰式における決定係数はC-6で0.73,C-7で0.92,C-8で0.93となり,よい相関を示すことから,評価ピーク周波数から伸びを推定可能であることを確認した。

Table 4 Liner regression analysis of cable samples
Sample Regression
coefficient
Intercept R2
C-6 −1.83 1,637 0.73
C-7 −7.68 6,245 0.92
C-8 −1.76 1,562 0.93

次に,統計的仮説検定により,それぞれの回帰式における係数の有意性を確認するため,帰無仮説「回帰係数は0である」を設定し,回帰分析した。その結果,t分布における確率pは,pC-6は0.015,pC-7は0.0096,pC-8は0.00044であり,いずれも有意水準5%(0.05)よりも小さいことから,帰無仮説「回帰係数は0である」は棄却され,対立仮説「回帰係数は0でない」が支持される。したがって,いずれの回帰式も有意水準5%で有意であり,伸びは評価ピーク周波数で説明できることを確認した。

また,電気学会通則26における材料の耐放射線性試験では,材料特性の最終的な要求性能を規定した値である終点基準として破断伸び50%を規定している。Fig. 15において破断伸び50%を青破線で示す。ここで,各ケーブルの回帰直線,および破断伸び50%を示す青破線の交点における評価ピーク周波数の値がデジタル打音検査におけるケーブル劣化の基準値とすると,その値はC-6で870 Hz,C-7で810 Hz,C-8で860 Hz程度となる。また,Fig. 15の各プロットにおける横方向の誤差棒で示すとおり,同一吸収線量の試験体3体の評価ピーク周波数にはばらつきがある。そのため,評価ピーク周波数のばらつきの影響を安全側に考慮するため,上記で示した各ケーブルの基準値から,各交点に最も近いプロットの標準偏差を差し引くことで,デジタル打音検査によるケーブル絶縁材の暫定的な健全基準値を設定すると,その値はC-6で840 Hz,C-7で800 Hz,C-8で820 Hz程度となる。このように各ケーブルにおいて,伸びと評価ピーク周波数の回帰式から健全基準値を設定することで,デジタル打音検査によるケーブル絶縁材の劣化度の評価,ならびにケーブル取り替え時期の推定方法の可能性を見い出した。

III. 結論

デジタル打音検査を用いたケーブル診断技術の開発に向けた基礎検討として,3種類のケーブルを対象に,電子線照射により放射線劣化させ,デジタル打音検査および引張試験した。デジタル打音検査して得られる評価ピーク周波数,および絶縁材の引張試験で得られる伸びを回帰分析することで,デジタル打音検査を用いて絶縁材の機械的特性が精度よく推定可能であることを確認した。

本検討結果から,デジタル打音検査によりケーブルを布設状態のまま,放射線等による劣化度を推定可能であることを確認するとともに,適切なケーブル取り替え時期の推定に活用できる見通しも得た。

ただし,本論文の成果を実機適用するに当たり,以下の点に注意する必要がある。

1点目は,ケーブルの製造条件であり,同一の材質でも,添加剤等の違いなどの条件によって,照射に伴う機械的強度の変化に差異があることが指摘されており,本検討結果もそのことを示唆する結果が得られたこと。2点目は,放射線の線質と強度,温度,雰囲気などの照射条件であり,有機材料の照射効果に複雑に影響を与えること。

そのため,デジタル打音検査の診断指標である周波数と絶縁材の伸びの回帰式に,製造条件,照射条件の効果が考慮されたデータベースを拡充する予定である。また,ケーブル絶縁材の熱による劣化影響についても今後,検討予定である。

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