日本原子力学会和文論文誌
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総説
各国における原子力発電所に対する外部支援施設の支援内容の比較
森山 稜太竹田 敏北田 孝典
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2022 年 21 巻 2 号 p. 71-81

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Abstract

There are several external support facilities that support personnel, materials, and equipment for any nuclear power plant in the world. In Japan, using the lessons of the Fukushima Daiichi accident, the Mihama Nuclear Emergency Assistance Center was established in 2016 to support a nuclear power plant by supplying materials and equipment such as remote-control robots. The purpose of this paper is to summarize the support contents of external support facilities worldwide and compare the contents used at the Mihama Nuclear Emergency Assistance Center, National SAFER Response Center in the USA, Force d’Action Rapide du Nucleaire in France, and Kemtechnische Hilfsdienst GmbH in Germany. There are roughly two types of external support facility. One type of facility supports remote control materials and equipment. The other type of facility supports alternative power supplies and cooling equipment for severe accidents. In addition to these materials and equipment, some external support facilities support radiation control and protection materials. Moreover, this paper summarizes and compares the ways of transporting materials and equipment among external support facilities since the variety of transportation is important to the effectiveness of the support.

I. はじめに

2011年3月11日,日本において東北地方太平洋沖地震が発生し,またそれに伴い発電所の設計基準を超える巨大な津波が来襲したことで,東京電力福島第一原子力発電所にてシビアアクシデントが発生した1。これを受けて,国内外で原子力の安全性向上がより一層図られるようになった2,3

日本では福島第一原発事故の教訓の1つとして,原子力緊急時の事故収束と事故影響拡大防止のため,ロボット等資機材とそれらの運用を整備する必要性が確認された4。そして2016年,万が一事故が発生した場合でも,多様かつ高度な災害対応を可能とする原子力緊急事態支援施設「美浜原子力緊急事態支援センター(美浜支援センター)」が設立された5。緊急時の連絡等を行う「オフサイトセンター6,7」は日本全国に存在する一方で,全国へ資機材や要員等の支援を行うことを目的とした施設としては,美浜支援センターが国内唯一の施設である8

また,美浜支援センターの構想段階において,緊急時にロボット等を用いて原子力発電所対策を支援する海外施設への調査が行われており,ドイツKemtechnische Hilfsdienst GmbH(KHG),フランスGroup d’INTervention Robotique sur Accidents(Groupe INTRA)の緊急時と平常時に実施する事項と,緊急時に用いる資機材などについて調査が行われた9。このように,緊急時に遠方から発災事業者へ人や資機材を支援する施設は海外にも存在する。国によってはその役割や支援内容が美浜支援センターと異なるものも存在する。外部支援施設を設ける,あるいはその有効性向上を検討する上で,世界各国の外部支援施設の情報が参考になる。一部の外部支援施設の情報に関してはすでに整理されているものの,各国の主要な外部支援施設の情報はいまだ整理されていない10

本報では,外部支援施設の機能拡張や新たな外部支援施設を検討するうえで参考となる,外部支援施設の支援役割や支援内容の比較をまとめる。外部支援施設の定義は,緊急時において発災サイトに人や資機材を輸送し,事故進展緩和を支援する,あるいは事故進展緩和作業を円滑にするような支援を行う施設とする。本報では,外部支援施設の支援内容を中心に議論するため,日本のオフサイトセンターのような,緊急時の役割が対応本部と発災サイトとの情報伝達に留まる施設は含まないことにする。まず,II章で主要な外部支援施設の概要について整理し,III章で外部支援施設の支援役割や支援資機材の輸送に関する内容について比較を行う。そして第IV章にてまとめを示す。

II. 各国の主要な外部支援施設の概要

本章では,国内外における外部支援施設について,設立背景等の概要を示す。外部支援施設に関して比較的広く情報が公開されている日本,米国,フランス,ドイツ,イギリス,スイスを対象とした。外部支援施設はTable 1のとおりである。

Table 1 External support facilities among countries
国名 外部支援施設
日本5,11 美浜原子力緊急事態支援センター
米国1215 National SAFER Response Center(NSRC)
フランス4,12,1619 Force d’Action Rapide du Nucleaire(FARN)
Group d’INTervention Robotique sur Accidents(Groupe INTRA)
ドイツ4,20 Kemtechnische Hilfsdienst GmbH(KHG)
スペイン2123 Centro de Apoyo en Emergencias(CAE)
イギリス2426 イギリス国内に3つの地域,および2つの原子力発電所近傍に外部支援施設が存在
スイス23,27,28 External Storage Facility

日本

外部支援施設として福井県美浜町に美浜支援センターが存在する。美浜支援センターは,緊急時に,速やかに発災事業所へ人員や資機材を派遣し,発災事業者と協働して高放射線量下での原子力災害に対応する役割をもつ11。また,通常時の役割は,原子力災害対応用遠隔操作ロボット等を美浜支援センターに配備・管理すること,そして原子力事業者要員に対する操作訓練を実施することである11。2016年12月に,日本原子力発電㈱を実施主体として美浜支援センターの本格運用が始まった11。福島第一原発事故を踏まえて,日本の各事業者は緊急時対策を強化しており,電源と冷却機能の多様性・多重性を図ることを行い,また発電所外からの燃料や放射線管理資機材の補給などを整備している9。美浜支援センターはこれら事業者の対応が講じられたうえで,さらなる支援を行う施設という位置付けである9

米国

外部支援組織Strategic Alliance for FLEX Emergency Response(SAFER)および外部支援施設National SAFER Response Center(NSRC)が存在する15。これらは福島第一原発事故後にNuclear Energy Institute(NEI)が作成したDIVERSE AND FLEXIBLE COPING STRATEGIES(FLEX)戦略を踏まえて設立された14,15,29。福島第一原発事故後,米国の原子力規制機関であるNuclear Regulatory Commision(NRC)は福島第一原発事故前までの許認可基準を修正し,各事業者に対し,設計基準外事象への緩和対策に向けた準備を行うよう指令を出した30。FLEX戦略は事業者がこの指令に準拠するための緊急時対策を示したものである15。FLEX戦略において,事故緩和策は次の三段階に分けて行われる15。一段階目は発電所に設置された機器を用いた初動対策,二段階目は設置型の機器からサイト内に保管されている可搬型機器への移行,そして三段階目はサイト外より追加のリソースを得ることである。この三段階目に相当するものが米国外部支援施設による対策である。FLEX戦略の第三段階を管理し実行するためにSAFER Teamが考案され,2012年10月にはNEIによって承認された15。SAFER teamはPooled Equipment Inventory Company(PEICo)およびAREVA社(現在のOrano社)により運営されている15。2014年9月にはFLEXの第三段階緩和策で使用される機器の保管等を行うNSRCが設立された14。NSRCは米国内に2ヵ所存在し,テネシー州メンフィスとアリゾナ州フェニックスに位置する14

フランス

外部支援組織としてForce d’Action Rapide du Nucleaire(FARN)が存在する。福島第一原発事故後の2011年3月,欧州理事会はEUすべての原子力発電所の安全性が,包括的かつ透明性のあるリスクと安全性の評価(ストレステスト)に基づいて評価されるよう要請した31。ストレステストの結果を踏まえ,2012年6月にフランス原子力規制機関Autorité de Sûreté Nucléaire(ASN)は原子力事業者に対し,フランスにおける設計基準外事象に対応する措置の1つとして原子力事故即応部隊の設立を命じた32,33。フランス電力公社 Électricité De France(EDF)はASNからの要求前の2011年4月に自主的安全対策としてすでにFARNの創設計画を発表していたが,ASNからの要求に合わせて改編された12。FARNは本部(司令部)をパリに構え,FARN地方部隊(実働部隊)用の拠点(regional base)がフランス国内4ヵ所の原子力発電所(パリュエル,シヴォー,ダンピエール,ビュジェ)に設立されている18

フランスには,FARNとは別の種類の外部支援施設であるGroupe INTRAが存在する。Group INTRAはチェルノブイリ事故から2年後の1988年に設立され,原子力事故時に発災事業所へロボットを用いて介入する4。同施設は,フランス電力公社Électricité de France(EDF),フランス原子力庁Commissariat a l’energie atomique(CEA),AREVA社によって運営されている。Groupe INTRAは設立当初,EDFやCEAの施設や設備を借用していたが,1995年7月にシノン原子力発電所敷地内にGroupe INTRAの施設が設置された4,34

ドイツ

ドイツには外部支援組織(KHG)が存在する。ドイツでは1960年代にカールスルーエ原子力研究所などで試験研究炉が稼働し始め,試験研究炉での事故等の緊急時に備えて,ロボット等資機材を提供する組織が設立された4。1970年代になるとこの組織が改組されKHGとなった4,20。KHGの資機材等を保管する本部はカールスルーエ工科大学近傍に位置する20。KHGは電力会社や核燃料サイクル事業者などによって運営されている4。KHGは比較的長く運用されている外部支援組織であるが,福島第一原発事故を踏まえたストレステスト後も,外部支援施設として活用されている35,36

スペイン

スペインには外部支援施設Centro de Apoyo en Emergencias(CAE)が存在する。CAEは福島第一原発事故後に実施されたストレステストを踏まえ,スペイン原子力発電産業によって設立された2123。CAEの目的は,緊急時支援サービスを発災事業所へ提供し,原子力発電所の事故対応能力をより強化することである23。現在,CAEはTecnatom社によって運用されており,マドリードにあるTecnatom本社に機器等が保管されている22

イギリス

イギリスには3つの地域(グラスゴウ,カーライル,フリート)および,2つの原子力発電所(サイズウェルB,ヘイシャム)の周辺に外部支援施設が存在する。イギリスでは,原子力規制機関であるOffice for Nuclear Regulation(ONR)によって,福島第一原発事故後に行われたストレステストの結果である,Stress Test Findings(STF)がまとめられた37。STF第15項目には,重大な事故条件下で人や設備を発電所やその周辺に移動させることが示されている37。STFの第15項目等への対応としてバックアップ用緊急設備保管施設,すなわち外部支援施設が整備された26

スイス

スイスには外部支援施設External Storage Facilityが存在する。スイスでは,福島第一原発事故の教訓として,深刻な外部事象が起きた後,ポンプ,非常用発電機,燃料やその他機器を迅速に発災事業所へ追加する必要があると認識された38,39。そしてスイス原子力規制組織Eidgenössisches Nuklearsicherheitsinspektorat(ENSI)により,原子力発電所の運営者に対し外部支援施設の設置が命じられ,2011年,アールガウ州のライトナウにあるスイス軍の元軍需品倉庫を利用する形で設立された28,38,39。このExternal Storage Facilityは洪水に強く,強い耐震性をもつ38,39。スイス国内の発災事業所において,緊急用ディーゼル発電機による電力供給に障害が生じた場合,あるいは近くの河川からの水を緊急冷却に使用できない場合に,External Storage Facilityは利用される38,39

以上より,日本と同様に福島第一原発事故をきっかけに外部支援施設(組織)を設立した国が多いことを確認できる。米国では福島第一原発事故後に作成されたFLEX戦略によりNSRCが設立された。また,フランスのFARN,スペインのCAE,イギリスの外部支援施設,スイスのExternal Storage Facilityに関しては,福島第一原発事故後にヨーロッパ諸国で実施されたストレステストが外部支援施設設立の要因となっている。一方でKHGとフランスのGroupe INTRAに関しては,福島第一原発事故以前に設立された外部支援施設である。KHGでは研究原子炉の安全対策,Groupe INTRAではチェルノブイリ事故を踏まえて設立された。また,調査した国のうちフランスを除くと,一種類の外部支援施設が運用されている。一方でフランスでは,二種類の外部支援施設(FARNとGroupe INTRA)が運用されている。また,外部支援施設の拠点数は組織によって異なり,美浜支援センター,Groupe INTRA,KHG,CAE,External Storage Facilityでは拠点が1つであるが,NSRC,FARN,イギリスの外部支援施設では拠点が複数存在する。

III. 支援役割および支援資機材と輸送の比較

II章を踏まえて,各外部支援施設の支援内容を比較する。外部支援施設は,支援役割と支援資機材,支援資機材の輸送が特に重要であるため,これらについて比較を行う。

1. 外部支援施設の支援役割と支援資機材

外部支援施設の支援役割は外部支援施設の支援内容を決定する重要な要素である。外部支援施設には,緊急時の事故進展緩和に必要な機器等を供給する施設もあれば,遠隔操作機器の供給など,オンサイト対応を円滑にするような施設も存在する。本報では,緊急時の事故進展緩和に必要な機器等を供給する支援を緩和対策支援,オンサイト対応を円滑にするための機器等を供給する支援を後方支援とする。まず,Table 2に緩和対策支援を主たる役割とするNSRCとFARNの主な支援資機材を示す。

Table 2 Materials and equipment of NSRC and FARN
  NSRC14,15,40 FARN12,17,18,4145
支援役割 緩和対策支援 緩和対策支援
代替電源・
冷却支援機器
代替発電機
代替冷却ポンプ
代替発電機
(計装,照明灯等に使用)
代替冷却ポンプ
遠隔操作資機材 支援対象外 支援対象外
放射線防護・
管理用資機材
支援対象外 防護服
線量計
放射線モニタリング機器
ヨウ化カリウム
除染テント
一般資機材 燃料,燃料輸送機器(貯蔵機,ポンプ,ホ
ースなどが含まれる)
照明
SAFER部隊用資機材
(通信機器,人員滞在物資等が含まれる)
燃料
部隊の滞在に必要な資機材
その他 換気用ファン
淡水化装置
ボロン水攪拌タンク
エアコンプレッサー
エアコンプレッサー
がれき撤去車両
除雪機

NSRCの支援役割は,米国のシビアアクシデント対策であるFLEX戦略の第三段階である,「オフサイト機器による追加の対応機能と冗長性を得る」,を果たすことである15。NSRCの主な支援資機材として代替電源と代替冷却ポンプが挙げられる。これらの支援資機材は,事象発生から24時間以降の緩和機能維持に用いられる14,40。NSRCでは,他にも一般資機材として,SAFER部隊が滞在できるような物資等が保管されている。NSRCの支援資機材は,米国内にある全原子力発電所のうち70%が使用する機器(汎用機器),その70%から外れるもいくつかのサイト固有のニーズに合わせた機器(非汎用機器)の二種類に分類される15,40。非汎用機器には,換気用ファン,淡水化装置,ボロン水攪拌タンク,エアコンプレッサーなどがある。

FARNの支援役割は,危機的な状況で発電所に冷却水,圧縮空気,電気を供給して,施設をスムーズに稼働させることである45。これに従い,FARNの支援資機材では計装用の代替電源,代替冷却機器,エアコンプレッサー,燃料などが整備されている。この他にも,防護服,線量計,除染テントなどの放射線防護・管理用資機材や,がれき撤去車両,除雪機などが整備されている。

NSRCとFARNの支援資機材を比較する。両施設とも,代替電源や代替冷却機器が準備されている。一方でFARNではNSRCとは異なり,放射線防護・管理用資機材が準備されている。また,両施設において,一度にどれだけの原子炉を支援できるかという点も異なっている。1つの原子炉への対応に必要な機器の数を1セットとすると,NSRCは汎用機器を5セット分保持している14。このうち1セットはメンテナンス用である。したがって,米国国内に2ヵ所存在するNSRCは,それぞれ一度に4つの原子炉を支援することができる14,15。FARNの場合,FARNの組織全体で最大6つの原子炉への支援が想定されている45

次に,Table 3に後方支援を主たる役割とする美浜支援センター,KHGの主な支援資機材を示す。

Table 3 Materials and equipment of Mihama Nuclear Emergency Assistance Center and KHG
  美浜支援センター5,11,46 KHG4,20
支援役割 後方支援 後方支援
代替電源・
冷却支援機器
支援対象外 支援対象外
遠隔操作資機材 各種遠隔操作ロボット
各種無線重機
無線ヘリコプター(ドローン)
遠隔操作資機材コントロール車両
指令センター車両
各種遠隔操作ロボット
無線油圧ショベル
放射線防護・
管理用資機材
防護服
線量計
除染テント
洗浄機等
排水保管用タンク
サーベイメータ
放射線測定車両
防護服
線量計
放射線モニタリング用車両
除染用車両・テント
洗浄機
タンクコンテナ(放射線物質輸送,汚染物質保管用)
換気用装置
可搬型の除染プラント
一般資機材 燃料
照明
通信用機材
水・食料,消耗品等
ロジスティクストレーラ
(人員の一時滞在に使用)
その他 遠隔操作延長用無線中継車両
整備工具
可搬型オペレーションセンター
(KHG本部と発災現場との情報伝達の拠点として使用)
重負荷用連結式トレーラ
リレー制御通信用関連機器
(車両,コンテナ,高さ34 mの伸縮マストなどを含む)
KHG機器用の代替電源

美浜支援センターの主な支援役割は,原子力災害発生時に資機材や人員を派遣し,高放射線量下での減災作業を支援することである11。美浜支援センターの代表的な支援資機材として,遠隔操作資機材が挙げられる。遠隔操作資機材には,各種ロボット,無線重機,無線ヘリコプター(ドローン)がある。各種ロボットは高放射線量下での情報収集や軽作業に用いられる10。無線重機は瓦礫撤去に用いられ,無線重機のうち小型クラスのものは原子炉建屋内への投入が想定されている5,11。また無線ヘリコプターについては,高所からの情報収集を目的として,可視カメラ,赤外線カメラ,放射線測定器が搭載されている11。無線ヘリコプターに搭載された赤外線カメラは,破断した配管などから漏れ出る液体等の温度差をサーモグラフの映像に映し出せる5。可視カメラの映像と合わせることにより,原子炉建屋内の破損箇所を特定することが期待されている5。他の資機材としては,防護服や除染テントなどの放射線防護・管理用資機材,照明や食料などの一般資機材,また遠隔操作資機材用の遠隔操作距離延長用車両などがある。

KHGの支援役割は,遠隔操作ロボットや除染設備の提供等により,ドイツ原子力発電所の緊急時プログラムの一部を担うことである20。放射線測定・防護,遠隔操作車両の使用,人員や設備の除染,排気のろ過,放射性廃棄物の収集が主なKHGの担当分野となっている20。KHGの遠隔操作用資機材としては,各種ロボット,油圧ショベルがある。ロボットには,配管内を通れる偵察用小型ロボット,軽作業用ロボット,ドラム缶などのハンドリングが行える大型ロボットなどがある4,20。油圧ショベルは高放射線量下での屋外作業に用いられる4。また,運転員は油圧ショベルの輸送車両にあるコントロールユニットから遠隔操作を行うことができる20。他資機材として,放射線防護・管理用資機材があり,放射線測定用の各種機器や除染機器などがある。他にも,人員の一時滞在に用いられるロジスティクストレーラ,情報伝達や会議などを行うための可搬型オペレーションセンター,機器運搬用の重負荷用連結式トレーラ,KHG支援機器用の代替電源等がある。

美浜支援センターとKHGの支援役割,支援資機材を比較する。両施設の支援役割について,美浜支援センターは高放射線量下での作業支援,すなわち遠隔操作資機材支援が主な支援役割である。一方でKHGの支援役割はドイツ原子力発電所緊急プログラムの一部を担うことであり,KHGの担当分野は次のように多岐に渡る20

  • ✓    原子力施設内外の放射線測定
  • ✓    人員の放射線防護
  • ✓    放射性物資の回収,ならびに高放射線量下での検査と作業
  • ✓    遠隔操作資機材の運用
  • ✓    人員,設備,閉鎖区域の除染
  • ✓    可搬型機器による排気のろ過

KHGは遠隔操作分野と同様に放射線管理・防護分野も重要視している。KHGは除染用車両,可搬型の除染プラント,汚染空気の排気設備などと,KHG特有の放射線防護・管理資機材を整備している。また,両施設には遠隔操作資機材があるが,それぞれ特有の資機材を保有している4,5,20。美浜支援センターには無線ヘリコプター,KHGには除染装置を搭載できるロボットがある4,5,20。その他,美浜支援センターとKHGの両施設は遠隔操作延長用資機材を保有しているが,その形式が異なる。美浜支援センターは無線中継車両であり,KHGはリレー制御通信用関連機器である。リレー制御通信用関連機器には,車両,コンテナ,高さ34 mの伸縮マストなどがある4,20

2. 外部支援施設の支援資機材の輸送

外部支援では,発電所遠方にある資機材をいかに確実に輸送し機器を使用可能にできるかが重要となる。原子力発電所の事故が自然災害に起因する場合,支援資機材の輸送に対する自然災害の影響を考慮しなければならない。仮に,大規模地震によりアクセスルートが遮断された場合,陸上輸送しか想定していない外部支援施設は機能しないことになる。よって輸送手段が多様であることは,外部支援施設の有効性向上に寄与する。また,支援資機材を発災現場で使用可能とするには,事故発生からの支援資機材の輸送完了あるいは設置完了時間に留意する必要がある。例えば,NSRCが支援する代替冷却機器は,原子力発電所内にある冷却機能のバックアップとして事故発生から24時間以降での使用が想定されている。Table 4に各外部支援施設の輸送手段,各外部支援施設で目標とされる,輸送完了あるいは支援機器等設置完了までの時間(時間規定),そしておおよその輸送距離の範囲を示す。本報では,輸送距離とは,ある原子力発電所と最も近傍にある外部支援施設の拠点をつなぐ陸路の距離とする。輸送距離情報の収集には,Google mapを用いた47。Google mapにて陸上輸送ルートが複数ある場合,最も走行時間が短いものを選択した。また,フランスの外部支援施設FARNに関して,原子力発電所の近傍に施設が位置することから,最長距離のみを示す。

Table 4 Transportation of materials and equipment from external support facility
施設名 輸送手段 時間規定 輸送距離47
(km)
美浜支援
センター46,48
トラック等による陸送
民間ヘリによる空輸
民間船舶による水上輸送
自衛隊の協力のもと,ヘリコプター(チヌーク)を用いた空輸および輸送艦を用いた水上輸送
規定なし 20~1,200
NSRC15 トラックによる陸送
飛行機による空輸
ヘリコプターによる空輸
緊急連絡から24時間以内に輸送完了 100~2,200
FARN41 トラックによる陸送
ヘリコプターによる空輸
輸送ボートによる水上輸送
FARN第一部隊に関して,事故から12時間以内に資機材をもって現場へ向かう
事故から24時間以内にすべての資機材が輸送され使用可能になる
~460
KHG4 ワゴン車,トレーラ等による陸上輸送
鉄道による陸送
KHG第一部隊に関して,事故から12時間以内に輸送完了 100~700

美浜支援センターについて,陸路遮断等がなければ支援資機材はトラック等を用いて陸路で搬送される48。陸路が遮断される状況では,民間ヘリや民間船舶の使用が認められる48。それら輸送手段が使用不可な場合,自衛隊の協力のもと,大型ヘリコプターを用いた空輸や,輸送艦による海上輸送を行う48。美浜支援センターから最も遠方の発電所は泊原子力発電所であり,距離は約1,200 kmである。Fig. 1に美浜支援センターと原子力発電所の位置関係を示す。

Fig. 1

Location of Mihama Nuclear Emergency Assistance Center and nuclear power plants in Japan

NSRCの輸送手段はトラックによる陸上輸送,ヘリコプターおよび飛行機による空輸である。緊急時には,各発電所近傍にある中継地点までトラックや飛行機によって資機材が輸送され,中継地点から発災事業所内まではトラックやヘリコプターが用いられる15。NSRCは外部支援の要請から24時間以内に輸送を行う。最長輸送距離はテネシー州メンフィスにあるNSRCとハンプシャー州シーブルック原子力発電所間の約2,200 kmである。Fig. 2にNSRCと原子力発電所の位置関係を示す。

Fig. 2

Location of NSRC and nuclear power plants in the United States of the United States of America

FARNの輸送手段はトラック等による陸上輸送,ヘリコプターによる空輸,輸送ボートにトラックを乗せて走行する水上輸送である。FARNでは複数の部隊が順次発災事業所へ向かい支援を行う。事故から12時間後にFARN第一部隊が可搬型機器等とともに到着し,24時間後にはすべての支援機器がサイト内で配置され動作可能な状態になるよう定められている。最長輸送距離はダンピエール原子力発電所近傍にあるFARN拠点から,カットノン原子力発電所間の約460 kmである。Fig. 3にFARNの拠点(regional bases)と原子力発電所の位置関係を示す。

Fig. 3

Location of FARN regional bases and nuclear power plants in France

KHGについて,主な輸送手段はワゴン車やトラックなどの陸上輸送である。鉄道も利用することがある。KHGの支援は三段階に分かれ,第一部隊は乗用車やワゴン車に機器等を搭載して,アウトバーンを平均時速120 kmで走行し,事故から12時間以内に発災事業所に到着することになっている。そして第二部隊および第三部隊は各種機器等を搭載したトレーラや人員の休憩設備などを収納したロジスティクストレーラ等で,平均時速80 kmで走行し発災事業所へ向かう。最長輸送距離は,ブルックドルフ原子力発電所までの約700 kmである。Fig. 4にKHGと原子力発電所の位置関係を示す。

Fig. 4

Location of KHG and nuclear power plants in Germany

以上を踏まえ,外部支援施設から最も遠い原子力発電所への資機材の輸送時間を検討する。なお,本検討では輸送時間について簡易的に比較および議論を行うため,悪天候等による交通状況の悪化は無視する。

まず陸上輸送に関して考える。支援資機材の輸送では走行時間のほかに,人員の招集や機器の積み込みなど,走行以外にかかる時間を考慮する必要がある。走行時間に該当しない時間を輸送準備時間とする。米国NSRCの基本的機器配備タイムスケジュールによると,事象発生から約6時間後に輸送開始となっている15。輸送開始までの6時間の内訳としては,NSRCへの支援要請,人員の招集,NSRCと契約を結んでいる機器輸送業者の到着等がある。本検討では簡単のため,各外部支援施設の輸送準備時間は,NSRCの基本的機器配備タイムスケジュールと同様に6時間とする。各外部支援施設の最大輸送時間は次のTable 5のようにまとめられる。Table 5の走行時間は,KHG第一部隊に関して時速120 km,その他に関して,KHG第二,三部隊のトレーラ等の制限速度と同様に時速80 kmとした。

Table 5 Maximum transportation time of materials and equipment by truck
施設(部隊)名 最長輸送距離
(km)
走行時間
(h)
資機材輸送時間(h)
(走行時間+
輸送準備時間(6 h))
美浜支援センター 1,200 15 21
NSRC 2,200 28 34
FARN第一部隊 460 6 12
KHG第一部隊 700 6 12

Table 5のうちFARN第一部隊,KHG第一部隊に関して,時間規定を満たすことがわかる。Table 5より,FARN第一部隊の資機材輸送時間は12時間弱となった。これはFARN第一部隊の,12時間以内に可搬型機器をもって到着するという規定を満たす。KHG第一部隊の資機材輸送時間は,FARN第一部隊と同様に12時間弱で輸送完了となり,これもKHGの時間規定を満たす。

NSRCについては,外部支援施設の中でも最長輸送距離が比較的大きいため,資機材輸送時間が約34時間と,NSRCの時間規定を超えてしまうことがわかる。空輸の場合はより輸送時間が短くなると想定され,輸送時間の観点からNSRCにおいて空輸手段は必要であるとわかる。

次に空輸に関して,まず飛行機を用いるNSRCに着目する。テネシー州メンフィスにあるNSRCとハンプシャー州シーブルック原子力発電所の飛行時間は約4時間となる47。輸送準備時間(6時間)および原子力発電所近傍から発電所に向けたヘリコプターによる輸送を考慮しても,NSRCの時間規定以内で輸送を完了することができる。ヘリコプターを用いる日本とFARNに関して,ヘリコプターの巡航速度は,日本警視庁の大型ヘリコプターと同等の機能と仮定すると時速約270 kmとなる51。ここでは簡単のため,ヘリコプターは原子力発電所と外部支援施設の直線距離を巡航するものとする。美浜支援センターと泊原子力発電所の直線距離は,約930 kmとなり,資機材輸送時間は約3時間半となる47。そして,FARN(ダンピエール原子力発電所)とカットノン原子力発電所の直線距離は,約330 kmとなり,資機材輸送時間は1時間強となる47。各外部支援施設の空輸手段を用いた資機材輸送は,比較的余裕をもって時間規定を満たすことがわかる。なお,日本警視庁の大型ヘリコプターの航続可能時間が約4~6時間であることから,多くの発電所については直接輸送が可能と考えられる。ただし,資機材の積載による航続可能時間の低下と航路によっては,中継地での給油が必要となる可能性も想定される。

以上より,陸路と空輸を用いれば,NSRC,FARN,KHGにおいて想定されている時間規定を満たすことがわかった。そして,陸路による支援資機材の輸送において,外部支援施設拠点数が複数あることは,輸送時間の短縮に有効であることがわかった。FARNのように複数の拠点があれば,ある拠点から発災事業所が遠い場所に位置していても,より近い拠点から対応すればよい。NSRCも複数の拠点をもつが,さらに拠点数が増えれば,陸路であっても時間規定を満たすという状況がより多くなる。自然災害時では,陸路は使用可能だが空輸は使用不可能な状況が起こり得る。例を挙げると,原子力発電所において豪雨下でシビアアクシデントが発生した状況である。この場合,降水の範囲や降水量にもよるが,トラックは使用できても飛行機が離着陸できないという状況になり得る。したがって,どの手段であっても想定された時間以内に輸送できるということは,より外部支援の実効性を高められる。陸上輸送における輸送時間短縮が必要となれば,検討案の1つとして,国内の原子力発電所および美浜支援センターの位置を踏まえた,新たな外部支援施設拠点の設置ということが挙げられる。

IV. まとめ

福島第一原発事故以降,各国で原子力安全対策について再検討されていたが,その中で外部支援についても検討がなされてきた。日本では2016年より,外部支援施設である美浜原子力緊急事態支援センターが運用されている。海外の外部支援施設としては,NSRC(アメリカ),FARN(フランス),Groupe INTRA(フランス),KHG(ドイツ),CAE(スペイン),イギリスの外部支援施設,External Storage Facility(スイス)があった。このうち多くの外部支援施設は福島第一原発事故を教訓に設立されていることがわかった。またフランスのみが外部支援施設を二種類有していることがわかった。外部支援施設の拠点数に関しても,外部支援施設によって違いがみられた。

そして,美浜支援センター,KHG,NSRC,FARNについて支援内容を調査・整理し比較を行った。外部支援施設の支援内容として,支援役割や支援資機材,支援資機材の輸送に着目した。緊急時に事故進展緩和に必要な機器等を供給するNSRCとFARNについて,NSRCでは米国内の原子力発電所による様々なニーズに対応するため,多種多様な機器が整備されている。一方でFARNの場合,代替電源や代替冷却機器に加え,NSRCとは異なり,放射線防護・管理用資機材等も整備されていた。また,NSRCとFARNは一度に複数の原子炉への支援が可能である。美浜支援センターとKHGは主に遠隔操作資機材を支援し,さらにどちらも放射線防護・管理用資機材を保有している。比較対象とした外部支援施設全体では,どの外部支援施設も一般資機材は整備されていること,NSRCを除く外部支援施設では放射線防護・管理資機材が整備されていることがわかった。

各外部支援施設の陸上輸送に関して,NSRCや美浜支援センターは発災事業所によっては1,000 kmを超える距離を輸送する必要があるが,FARNやKHGの輸送距離は,最も遠い原子力発電所への輸送であっても比較的短い。各外部支援施設に対し,最も遠い原子力発電所への輸送を検討したところ,FARN第一部隊,KHG第一部隊については,それぞれ12時間以内に輸送完了することが想定でき,これはそれぞれの時間規定を満たすことがわかった。美浜支援センターについては,最長距離であっても,24時間以内に輸送完了することが想定できた。一方で,NSRCに関して,NSRCで定められている,応答から24時間以内という規定を陸路では大幅に超えてしまうことがわかった。空輸を実施する外部支援施設においては,陸路よりも十分短い時間で輸送が行え,NSRCであっても24時間以内での輸送が可能であるとわかった。自然災害によっては陸路が使用可能で空輸が使用不可能となる状況も考えられるため,外部支援施設の拠点数を増やすことにより陸路の輸送時間を短縮することは,より外部支援施設の実効性を高められると考えられる。

外部支援施設の有効性に関する検討は,原子力発電所での発災時ではなく,発災前に実施するべきものである。本報で示された外部支援施設の比較情報が,外部支援施設の設立や外部支援施設がもつべき支援機能を検討する上で役立つことを期待する。

References
 
© 2022 一般社団法人 日本原子力学会
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