Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Sorption and Desorption of 3He, Hydrogen and Air Mixture by Activated Charcoal Cooled to 25 K
Takayoshi NORIMATSUKohei YAMANOIKazuki SAKAI
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2022 Volume 21 Issue 3 Pages 167-172

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Abstract

The sorption and desorption of a 3He, hydrogen and air mixture by activated charcoal cooled to 25 K were experimentally investigated to obtain basic data for designing a tritium recovery system from aged tritium waste. The results showed that the mixture of 100 cm3 under a room-temperature condition can be treated with 10 g of charcoal at 25 K.

I. 緒言

半世紀前,日本でもトリチウムを利用した自発光蛍光体の生産,研究用標識化合物の生産が産業レベルで行われていた。それらの作業過程で発生した未反応のトリチウムを含む長期保管物が事業所によっては一機関で現時点の評価で合計数T Bqのトリチウム量で存在する。保管状況は多様である。多くは30 cm3程度のガラスアンプル(ブレイカブルシール有り,無し)の中に,あるものは活性炭とともに,あるものは目視で空の状態で140本程度に分散して存在する。活性炭にはトリチウムをラベリングしようとした物質の蒸気も吸着されていると考えられるが,その詳細な記録は存在しない。これらの保管物から未反応の水素分子状のトリチウムを分離回収することが原子力規制庁より求められている。筆者らはこの保管物から水素分子状トリチウムをZrNiベッドに回収するシステムの開発を進めている。使用を終了してすでに4半減期を過ぎているため,トリチウムより多い3Heが含まれている。処理する気体の中にヘリウムが残っていると,水素類をZrNiベッドに回収する際に粘性流領域ではZrNi表面付近はヘリウムリッチとなり,その層をトリチウムが拡散で移動することが律速となり,回収に時間がかかる。また,吸着されずに残っているガスがトリチウムなのか,3Heなのか,質量分析計か,インライントリチウムモニターの助けを借りなければ判断がつかない。あらかじめ3Heを分離することが望まれる。

分離する方法は冷却した活性炭やゼオライトにガスを吸着させ,昇温過程で分離する方法である。この方法で課題になるのは蒸気圧が高い3Heでは活性炭への吸脱着過程でも脱離スペクトルが低温側にシフトするという同位体効果が予想されることである。3Heを多く含むガスから20 K程度の扱いやすい温度で有効な吸着効果を得ることができるか,昇温過程で水素類と分離することができるかを実験で確認する必要がある。

少量の活性炭をクライオパネルに張り付けた真空ポンプでは4 Kから10 Kで4Heを吸着することが知られている1,2。多くの活性炭を用いた実験では国際熱核融合実験炉ITERの排気系の処理を念頭に置いた研究が行われ3,水素の同位体効果4,水分の影響5なども研究されている。3Heを用いた実験では固体ヘリウムの磁性を研究するためにmKオーダーでの活性炭吸着が報告されているが6,実用的な温度(20~30 K)で3Heの吸着が可能かどうかについては十分なデータをみつけることはできていない。

長期保管中の活性炭にどのような物質が含まれているか不明であるので,第1段階の実験として活性炭が含まれていないガラスアンプルを,トリチウムの多いもの(約400 GBq/本,3Heの量として室温大気圧(以下同じ)で68 cm3)は1日1本,その他のものは4本程度を処理することを目標にシステムを構築し,活性炭が含まれているものについてはトリチウムの残存量の少ないものから試験開封し,必要なシステム改良を進めていくことにした。ガラスアンプルの取り付け,接続部分の排気,リークチェック,ブレーカブルシールの破壊,放出されたガスの定量,25 K冷却活性炭への吸着という一連の作業を1日4回程度繰り返すためには30 cm3程度の空気,3He,水素混合ガスを4回分,1本当たり20分程度の時間で吸着できることが望ましい。空気はグローブボックス内の雰囲気ガスでありガラスアンプルと回収系の接続部に存在するものを念頭に置いていて1回当たり接続部体積の3倍の余裕をみている。回収時の到達真空度は低いほど回収という点では望ましいが,運用目標として,以下のように100 Paに設定している。すなわち化学形態不明のトリチウムに対する限度値は3ヵ月平均で3 × 103 Bq/cm3であり,換気設備の運転時間を含めて計算すると放出限度は3ヵ月間で最大で8 GBqとなる。一方容量30 cm3のアンプルに100 Paの100% T2が入っていたとすると,トリチウム量は3 GBqとなる。実際はガス中には3Heを始め使用していたライン内の揮発性のガスで活性炭から脱離したガスも入っていると思われ,この数値はアンプルによって異なる。作業をするグローブボックスにはトリチウムモニターやトリチウム回収装置が備わっているので,グローブボックス内に100 Pa分のガスが漏れても上記8 GBqを超えることはなく十分対応できるレベルである。

この技術報告の目的は同位体効果の予想される3Heを含むガスを実用的な温度で活性炭に吸着させ,水素分子状のトリチウムを分離するシステムが構築できるかをコールド実験で確認することである。

II. 実験装置と方法

Figure 1に本実験に用いた装置の概要を示す。混合ガスを作るカタログ値300 cm3の混合シリンダー,キャパシタンスダイアフラム真空計(CMR361, Pfeifffer Vacuum),クライオポンプ(CRYO-U4H, ULVAC)のヘッドに固定された活性炭セル,四重極質量分析計(Qulee HGM, ULVAC)により構成されている。ガス供給系は1/8インチの,活性炭セルから四重極質量分析計までの排気系は1/4インチのステンレス配管で接続されている。排気系は50 L/sのターボポンプ(UTM-50, ULVAC)と300 L/minの補助スクロールポンプ(ISP50C, NAEST IEATA Co.)により構成されている。なお,混合シリンダーの中の気体の量を決定するときに用いられる領域の体積は配管,バルブ,真空計を入れて310 cm3と評価している。誤差は最大で5%程度と見積もっている。

Fig. 1

Schematic diagram of the experimental apparatus to characterize adsorption of helium/hydrogen/air mixture gas on activated charcoal

ステンレス鋼で作られた活性炭セルは内部に温度分布が予想されるため形状,寸法も重要な情報となる。断面図をFig. 2に示した。活性炭セル23 cm3には10 gの活性炭(WAKO Pure Chemical Industries LTD)が入れられている。活性炭セルの底は厚さ約100 µmのインジウムシートを介してクライオポンプのヘッドに固定されている。この取り付ボルトと活性炭セルへのガス導入管の間は直径0.3 mmの銅線100本からなるサーマルアンカーが取り付けられ,導入管を通した熱の侵入を抑えている。Fig. 2で示した領域はアルミ箔と紙を何層にも重ねたスーパーインシュレーターで包まれ,輻射熱の侵入を抑えている。活性炭セルの中間部の外側に温度センサーTS1が,クライオポンプのヘッドの部分にはTS2が取り付けられている。活性炭の温度分布は一様ではないと考えられるが,本報告ではTS1での測定値を活性炭温度とした。吸着実験のときは12時間前から冷却が開始され,TS1は25 K,TS2は11 Kに維持されていた。

Fig. 2

Cross sectional view of the charcoal cell

Positions of the temperature sensors are shown.

実験は将来の処理過程を再現するため,アンプル1本分の混合ガスを多めに調合し,冷却した活性炭に供給し,想定した1回分の吸着時間20分で系をどの程度まで吸着排気できるかを測定した。処理するガスの模擬として3He(99.9%, Spectra gases),重水素(99.9%, Spectra gases),空気(回収装置設置予定のグローブボックスが実験室の室内空気を導入しているので同じ条件とした)の混合ガスと,比較のために4He,軽水素,空気の混合ガスも用いた。3Heのときに重水素を用いたのは水素を用いると四重極質量分析計のイオン化室でプロトン化水素(H3+)が形成され,3Heと区別がつかなくなるためである。

系内を真空排気後に全バルブを閉じ,混合タンク内に水素,ヘリウム,空気を順番に入れ,室温大気圧で合計50 cm3程度の同じ順番でほぼ$1:1:3$の混合ガスを作った。ガスの量はバルブの操作性の都合で毎回異なるので,各ガスの供給前後の圧力変化から計算で求めた。全バルブを閉じた状態でV4を開け,冷却した活性炭に吸着させ,系の圧力変化で吸着能力を評価した。20分が経過しほぼ平衡圧力に達すると吸着されたガスはそのままにしてV4を閉じ,混合ガスタンク内に残った100 Pa分のガスを残したままに新たな混合ガスを作り,V4を開けて重ねて吸着させた。ガス種を変えるときは2日かけて活性炭セルを室温に戻したのち,乾燥空気によるパージを2回行い,軽元素を排気したのちに切り替えた。これは実験に用いたスクロールポンプを補助ポンプとするターボポンプ排気系では軽い元素に対して排気能力が劣るためである。空気があると掃引効果が期待できる。

放出特性は活性炭セルをターボポンプで排気しながら冷却を停止し,自然昇温(約0.5 K/min)で放出されるガスを四重極質量分析計で調べた。なお分析に用いた四重極質量分析計の感度の同位体効果についてはWatanabe他の報告を参考にした7

III. 実験結果

長期保管中のアンプルの中で最大の30 cm3のアンプル何本吸収できるかを見極めるため,3Heまたは4He/重水素または軽水素/空気の混合ガスを複数回供給し,系の圧力変化を記録した。ガスを供給したときのTS1の変動は0.5 K程度の上昇で,1分程度で元の温度に戻り安定した。

3He/D2/Airを用いた結果はFig. 3(a)に,4He/H2/Airを用いた結果はFig. 3(b)に示した。1回に供給するガス量は毎回微妙に異なるので,室温大気圧での体積(cm3)をヘリウム/水素/空気の順番で累計値としてインデクス中に示している。

Fig. 3

Adsorption of a helium/hydrogen/air mixture on activated charcoal at 24 K

Mixtures of 3He/D2/Air were used for (a) and mixtures of 4He/H2/Air were used for (b). The indexes in the figures mean total volume of helium/hydrogen/air at a room temperature and pressure.

圧力変化の初期の傾きは1/eで評価して時定数約3分となり,下記に示す混合シリンダーを細管で排気するモデルで求めた排気の時定数3秒よりもずっと長く,活性炭への混合ガスの吸着速度が律速になっているものと思われる。

ここで排気の時定数の評価を記述する。混合シリンダーの体積をV(m3),内部のガスの圧力をP(Pa)とすると内部にあるガス量はPVである。また,細管のコンダクタンスをC(m3/s)とし,配管出入り口の圧力PinPout(Pa)とすると,ここを流れるガスの流量I(Pa m3/s)はC(Pin − Pout)で与えられるので,排気の時定数τ(s)はPV/Iで与えられる。

ここで細管の20 °C空気に対する粘性流領域(pd > 0.8 Pa m)のコンダクタンスは   

\begin{equation} C = 1349\frac{d^{4}}{l} \times \frac{P_{\textit{in}} + P_{\textit{out}}}{2} \end{equation} (1)
の表現を用いて評価した8。ここでdlは配管の内径と長さ(本装置の場合1.5 mmと0.4 m)である。例えばP = Pin = 104 Pa,Pout = 0 Paのとき,C = 1 × 10−4 m3/sとなり混合シリンダー体積V = 3 × 10−4 m3を用いるとτは約3秒と評価される。なお,バルブのコンダクタンスの影響は無視した。

3Heを含む混合ガスの場合を例にとり,作業手順,付帯設備の能力などからでた20分で100 Paまで吸着排気することを目標として実験結果をみる。Fig. 3(a)の×鎖線からわかるように混合ガスの体積にして合計214 cm3を17分で吸着している。同様に4Heを含む混合ガスで合計184 cm3を約17分で吸着している。3Heと4He,D2とH2という差があるのでこの吸着量の差はヘリウムの同位体効果だけでは説明できないと考えている。さらに後の脱離の実験結果で触れるように固体窒素,固体酸素による吸蔵効果もあるようなので数値的な評価にはさらなる実験が必要と思われる。開発中の処理装置でも周辺部の配管の規模を本実験と同程度に収めれば混合ガスの体積で表して実験結果の50%である100 cm3程度は十分処理することができると考えている。

脱離の過程は上記吸着実験の直後に活性炭セルをターボポンプで排気しながら冷凍機のコンプレッサーを停止することにより自然昇温して四重極分析計で放出ガスの量を評価した。活性炭セル中の真空度は直接測定していないが,四重極分析計の入り口での真空度は10−1 Pa程度である。本実験で使用した装置を開発中のシステムに組み込み,コールドランで得られた結果であるが,この部分の圧力が高くなると活性炭セルの圧力も上がり脱離したガスが配管内で混じり合いうまく分離できなくなる。液体窒素冷却モレキュラーシーブをポンプ代わりに活性炭セルの圧力を数Paに保持した場合はうまく水素類を液体窒素冷却モレキュラーシーブ内に分離できることがわかっている。活性炭セルの圧力を低く保つことはシステム設計上重要である。

Figure 4に脱離スペクトルを示す。低温蒸留分離装置としてみた場合,3Heは30~50 Kに,重水素は80~110 Kに,酸素,窒素は130 K以上で脱離し,3Heと水素は十分分離可能であることがわかる。ただ,30~50 Kの間に1/50~1/10の比で窒素,酸素のピークがみられる。この温度領域では活性炭から出てきたとは考え難く,筆者は供給管のサーマルアンカーが取り付けられた付近の配管内面に固化していたガスが昇華して出てきたものと考えている。実際この部分の各成分の時間変化を観察してみると放出が減少し始めるとき30秒ぐらいの間に1桁以上低下することが度々観測されている。固着していた気体が昇華してなくなったことを暗示している。また,この温度領域で重水素の信号もかかっているが,窒素,酸素が固化するとき,水素も巻き込んだのではないかと考えている。Arでは固化するとき,水素を取り込むことが報告されていて9,同様の現象が窒素,酸素が固化するときにも発生している可能性がある。

Fig. 4

Desorption spectrum of a 3He, deuterium and air mixture

サーマルアンカーが取り付けられている部分と限定したが,極低温の活性炭セルと室温部分を供給管が接続している以上,どこかに酸素や窒素が固化する領域が必ず存在する訳で,蒸留装置として脱離ピーク物質とそれ以外の物質の比(以下SNと記載)低下の原因となる。サーマルアンカーの取り付け場所,配管径の選定や装置の運用を工夫することにより,活性炭からトリチウムの放出が始まるタイミングに3Heの放出がかぶらないようにする必要がある。

重水素の放出がピークのとき,3Heの信号も再びピークを迎えている。重水素がキャリアーになって活性炭セルの中に残っていた3Heを運び出している可能性と,重水素が活性炭に吸着されるときに3Heを抱き込んでいて,水素が脱離するとともに開放された可能性がある。いずれにせよ,重水素と3Heを分離する観点では1/100程度のSNが期待できる。

この方法をトリチウムを含む系に適用する場合,同位体効果も確認しておく必要がある。Fig. 5は水素およびヘリウムの脱離スペクトルの比較である。この実験では同時に含まれているガスが同じではないので直接同位体によるシフトを結論付けることはできないと考えているが,水素の場合,重水素の方が3 K程度高温側にシフトしているように思われる。この程度のシフトであればガスをトリチウムに変えた場合でも酸素,窒素の放出が始まる前にトリチウムの放出は終了し十分なSNが取れるものと考えている。

Fig. 5

Normalized desorption rate of hydrogen (a) and helium (b)

ヘリウムの場合も左半分では重い4Heの方が高温側にシフトしているようにもみえるが,高温側が欠けている。供給されたヘリウムの量は3Heが合計73 cm34Heが94 cm3とむしろ4Heの方が多いにも関わらず,あたかも供給されたヘリウムの量が不足していたような結果である。この原因については明確になっていない。ここではヘリウムの同位体効果の定量的評価は割愛するが低温蒸留装置としてトリチウムの放出し始めと重なる懸念はないといえる。

IV. まとめ

活性炭10 gを25 Kに冷却し,ヘリウム,水素,空気の混合ガスの吸脱着実験を行い,室温大気圧で100 cm3程度の混合ガスから3He,水素類の分離が対象外のガスと水素の比で表現して$1:100$程度でできることがわかった。吸着,脱着の過程で3Heと4Heの同位体効果を思わせる結果があるが,水素類とヘリウムの分離という観点では両者の裾が重複することはなく十分可能であることがわかった。水素ガスの純度を高めるためには供給管の内面に固化する対象ガス以外の成分を減らすこと,2回目にアンプルを接続する際,トリチウムの排気量が限度値以下ならガラスアンプルと回収系の接続部の空気を荒引しておくことが望ましい。活性炭から出てくるガスを速やかに活性炭セルから排気することが重要である。

 

貴重な3Heガスを提供していただいたレーザー科学研究所の有川安信講師に感謝いたします。

References
 
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