2022 Volume 21 Issue 3 Pages 144-154
Up to now, conventional calculation codes have played a major role in skyshine dose evaluations. On the other hand, evaluations using Monte Carlo simulation require lengthy calculation times and yield results that are difficult to validate. We have devised a method in which the radiation behavior in the shielding materials around a radiation source is calculated using Monte Carlo simulation and then the results are input into a simplified skyshine dose calculation that uses a database constructed by the prior method of Monte Carlo calculation. The method was implemented in PHITS to verify its effectiveness. A comparison of the calculation speed with that of the usual Monte Carlo method showed an increase of 10 to 1,000 times while maintaining a certain degree of reliability, confirming the effectiveness of the methodology.
原子力施設のように内部に強い放射線源を有する施設の安全性を評価する上で,施設の敷地境界における線量を計算することにより,一般公衆の被曝影響を確認することは重要な要素の1つである。そのためには,施設の壁や天井を透過して外気に放出された放射線が大気の構成元素による散乱を経て敷地境界に到達するスカイシャイン現象を評価できる計算コードが必要となる。使用実績の豊富なものとしては,1回散乱近似法によるガンマ線スカイシャイン線計算コードG33-GP21)等があるが,点線源のみしか設定できない点や,施設建屋の遮蔽体透過時の散乱線による線量のビルドアップ効果を考慮できない点等,近似法を用いた簡易計算コードに由来する適用範囲の制限がある。このため,1次元離散座標Snコード等の別の計算コードとの接続計算によって,制限を部分的に回避する手法が取られることも多い。また,計算の一部にモンテカルロ法を適用したガンマ線スカイシャイン簡易計算コードSKYSHINE2)や,中性子スカイシャインの簡易式3)に基づく計算コードSHINE-II4),SHINE35)等の活用の他,Line Beam Response Function6)を使用した計算コードの開発等,計算速度は維持しつつも1回散乱近似法の制限を改善する様々な検討7)が進められてきた。
一方で,体系モデル化のための制限が少ないモンテカルロ輸送計算コードを用いてスカイシャイン線量を評価する場合には,線源や遮蔽体を現実的条件でモデル化し,近似がほとんど介在しない評価が可能となる。しかし,ボルツマン輸送方程式を乱数の利用により統計的に解くモンテカルロ輸送計算コードでは,線量の減衰率が十数桁以上に及ぶこともあるスカイシャイン線量の評価結果を高い信頼性を確保した上で得ることは困難な作業であり,長大となる計算時間の短縮も重要な課題の1つである。以前はモンテカルロ輸送計算コードによる解析においても解析体系を鉛直軸対称の円筒形状にモデル化し,円環形状のNext Event Estimator(輸送粒子が衝突等のイベントを起こすたびに評価位置への寄与を評価することで線束を推定する仮想検出器機能;MCNP8)におけるRing Detector等)を用いて比較的短時間で統計精度の高い評価結果を得ること,簡易計算コード等による評価結果に対する比較検証のための仮評価を行うこと等も行われていた。近年では,計算機性能の向上と自動分散低減機能の発達9)により,Track Length Estimator(評価領域を通過する輸送粒子の飛跡長より線束を評価する仮想検出器機能)を使用して現実的な計算時間で統計精度の高い評価結果を得ることも可能となってきている。
ここで留意すべき事項の1つは,上記のように線量の減衰率が十数桁以上にも及ぶスカイシャイン線量のモンテカルロ法での評価に対する信頼性を示すためには,評価結果に付随する相対標準偏差(FSD)の確認のみでは不十分と考えられる点である。線量およびFSDの空間分布や,計算の進展に対するFSDの変化の確認のように,様々な視点からの検証が重要である。それらの対応策の1つとして,ここでは,モンテカルロ輸送計算コードである粒子・重イオン輸送計算コードPHITS10)に対し,事前に計算した上で精度検証を済ませたPHITS自身のスカイシャイン線量評価結果を収録したデータベースを内蔵し,それを用いて短時間でのスカイシャイン線量評価を可能とする機能を開発した。
PHITSのスカイシャイン線量評価の機能を開発するに当たり,三次元モンテカルロ法の利点を最大限に活かすために,過去に検討・開発された計算法7)も参照し,次の開発要件を定めた。
上記の要件①については,複数の計算コードによる接続計算を行うと,各々の計算コードのもつ不確かさや計算誤差,内蔵データベースの精度等をすべて考慮する必要があることから設定した項目である。要件②については,建屋透過後の放射線の方向ベクトルやエネルギーは,各透過場所において線源の配置や施設建屋の形状,遮蔽体の厚さ等に依存し,その後のスカイシャイン線量評価に大きく影響するため,等方点線源への縮約やエネルギースペクトルの平均化等は行わずに放射線情報を維持する必要があるので設定した項目である。これは特に,使用済燃料乾式貯蔵施設のようにストリーミング経路となる通気口を有し,透過放射線強度の方角依存性を強くもつような施設を評価対象とする場合には重要な要素と考えられる。要件③については,開発目的から自明である。
以上の要件を満たす機能として,計算を2つの段階に分けたハイブリッド接続計算機能を考案した。計算の第1段階として,線源の配置や施設建屋の形状を現実に則した体系にモデル化したモンテカルロ輸送計算を行い,建屋外部の大気領域に配置した接続面の通過時における輸送粒子の位置,飛行方向およびエネルギーを抽出した後,輸送計算を終了する(Fig. 1中の赤色実線矢印部)。計算の第2段階として,建屋外部の大気領域に配置した接続位置とスカイシャイン線量評価位置との距離および接続位置における飛行方向を基準としたスカイシャイン線量評価位置の角度を算出し,上記のエネルギーを合わせた3つのパラメータをもとに,事前にPHITSのモンテカルロ輸送計算結果をもとに作成したスカイシャイン線量データベースから評価位置に対する線量寄与を抽出し(Fig. 1中の青色破線矢印部),全ヒストリーで積算することでスカイシャイン線量評価値を得る。
Schematic view of skyshine dose calculation
本機能は商用軽水炉に関連する原子力施設を対象と考え,スカイシャイン線量データベース(以下「データベース」という。)を構築するに当たり,線源として商用軽水炉の使用済燃料が放出する光子および中性子(二次光子を含む。)を想定した。また,線源が使用済燃料であり,遮蔽体透過後の光子および中性子のスカイシャイン線量評価が法令で求められている使用済燃料乾式貯蔵施設を評価対象の代表例として想定し,主要なコンクリート遮蔽体の厚さが1[m]程度の施設建屋を透過した光子および中性子のエネルギースペクトルをモンテカルロ輸送計算で評価した。得られた結果は,後述V.2.のFig. 14と同一である。
データベースは接続位置における輸送粒子のエネルギー,距離および角度の3つのパラメータに対応するスカイシャイン線量評価値で構成されるため,その構築に当たって各パラメータの分点を設定する。
(1) エネルギー分点後述のFig. 14に基づいて光子および中性子のエネルギー分布における線束の強い領域や上限および下限,線量への寄与率等を考慮して,次のように設定した。ここで,中性子については熱中性子の吸収による二次光子の寄与を考慮してエネルギー分点に反映させた。
なお,上記評価のための光子スペクトルとして,(財)原子力安全研究協会にて作成された使用済燃料中間貯蔵施設(金属キャスク方式)における線量評価用の金属キャスクの表面エネルギースペクトル11)を,中性子源として,242Cm(α,n)反応のスペクトルを金属キャスク表面にそれぞれ設定した。
光子エネルギー(7点):5 × 10−2,1 × 10−1,5 × 10−1,1.0,2.5,5.0,10.0 [MeV]
中性子エネルギー(10点):1 × 10−7,1 × 10−5,1 × 10−3,5 × 10−2,1 × 10−1,5 × 10−1,1.0,2.5,5.0,10.0 [MeV]
(2) 距離分点日本国内の原子力施設における敷地境界線量評価の実態を踏まえると,その最大距離は数100[m]程度である。しかし,本計算手法の精度や限界を確認することも考慮して,最大距離を2,000[m]とした。分点の幅については,近距離では線量減衰の変化が大きく,遠距離になるに従い変化が小さくなることを考慮し,次のように分点を設定した。
距離分点(15点):10,20,40,60,80,100,150,200,300,400,600,800,1,000,1,500,2,000 [m]
(3) 角度分点角度分点については小さい角度で線量率の変化が大きく,評価点への寄与率が高くなることを考慮して次の18分点とした。設定の妥当性を確認するために,データベース計算結果の各エネルギーおよび距離分点における線量値が角度に対して連続的に変化することを確認した。
角度分点(18点):0,5,10,15,20,25,30,40,50,60,70,80,90,100,120,140,160,180 [度]
2. データベースの計算モデルFigure 2に示すように,空気12)で満たされた球体形による計算モデルを作成した。線源は原点に設定されており,+z軸方向に射出された放射線粒子に対して,各距離分点および角度分点に配置された評価領域(黒色部)での線量を評価する。ここで,各分点の幅は,角度分点は±1度,距離分点は距離Dにおいて±D × tan(1度)とした。また,評価領域は原点を中心とした球面および原点を頂点とした円錐面で区切られ,z軸を中心とした三次元的な円環形状を成しており,飛跡長検出器[T-Track]が設定されている。なお,体系の空間を区切る直線および曲線は分散低減パラメータ設定のための領域分割線である。以上の計算モデルを使用して,上記でエネルギー分点として設定した光子エネルギー7点,中性子エネルギー10点を1点ずつ線源エネルギーとして設定し,各エネルギー点に対する各距離および角度分点に対応する実効線量率を計算した。
Calculation model of skyshine database
上記の計算モデルに対して,次の条件における計算を実施した。
以上の条件における10[MeV]光子に対する試計算として,1回当たり24時間前後の[T-WWG]の計算を15回繰り返して得たWeight Window下限値パラメータを適用して計算した結果をFig. 3に,この計算における角度別の線量値を距離の関数としてプロットしたものの一部をFig. 4に示す。
Photon dose distribution (Ep = 10[MeV])
Photon dose trends for distance (Ep = 10[MeV])
両図が示すとおり,本データベース内で空気中の透過率が最も高くなる10[MeV]の光子であっても,800 [m]を越える精度の高いスカイシャイン線量データを現実的な計算時間で揃えることは非常に困難である。将来的には[T-WWG]の機能拡張や,外部機能による自動分散低減設定16)等によりデータ精度の改善を目指す手段が有効と考えられるが,本研究では以下の近似手法によってデータベースを構築し,本接続計算機能の有効性を検証することとした。
放射線粒子と空気構成物質との散乱に依存するスカイシャイン線量は,線源近傍では評価方向の角度ごとに異なる減衰傾向を示すが,線源からの距離がある程度離れると単純な指数関数での減衰に近似できる。モンテカルロ輸送計算による高精度な計算が困難となる遠方では近似曲線による外挿が有効であると考えられるため,半径60[m],長さ2,000[m]の円柱体系の中心軸上(z軸)に半径1[cm]のビーム状光子を照射することで空気の厚さ(深さ)方向の減衰率を評価し,近似曲線を求めた。10[MeV]の光子に対する減衰率評価結果をFig. 5に示す。この評価結果の線源近傍を除いた統計精度が十分な100[m]から1,500[m]の領域はν = 16.7とした指数関数exp(−z/ν)で近似できる。ここで,zはFig. 5横軸の空気透過距離であり,νは減衰距離を意味する。ここで得られた減衰距離νは角度0度方向のものであるが,減衰距離はスペクトルの最大エネルギーでほぼ決まるため,0度方向以外についても同じ減衰距離を採用することとした。Fig. 4における角度0,40および160度方向の線量データの指数関数により減衰を近似できる領域で規格化した近似曲線をFig. 6に示す。
Photon dose attenuation in the narrow beam (Ep = 10[MeV])
Photon dose attenuation with fitting functions (Ep = 10[MeV])
以上の手順に従い,10[MeV]以外のエネルギー分点についても指数関数における減衰距離νを求め,各角度に対するモンテカルロ輸送計算の評価結果と比較をした。減衰距離νを用いた近似曲線による計算結果の再現性が一定程度認められたことから,線源近傍,近似曲線の導出に用いた距離領域および統計精度の低い遠方の3段階に分けて,それぞれの段階におけるスカイシャイン線量データを下記の方針に従って求めることとした。
中性子線量データベースの計算についても上述の光子の場合と同じ計算条件を用いて,モンテカルロ輸送計算の統計精度が高い領域では計算結果を採用し,減衰が指数関数と整合しなくなる遠方についてはexp(−z/ν)で表す近似曲線によって外挿することとした。ただし,中性子線量の計算では,中性子の減衰距離νnと二次光子の減衰距離νpを分けて考慮する必要がある。ここで考慮する二次光子は,主に大気中の窒素および酸素原子核による中性子捕獲に伴い放出される光子であり,そのエネルギースペクトルは標的核の構造に依存するため,入射中性子のエネルギーによって大きな影響は受けない。中性子スカイシャインによる二次光子のエネルギースペクトルを評価した結果をFig. 7に示す。これより,入射中性子のエネルギーにより放出される二次光子のエネルギーは1[MeV]から10[MeV]の領域に集中していることがわかるため,二次光子の減衰距離νpは中性子の入射エネルギーによらず一定と仮定する。
Spectra of secondary photon proceeded from neutron skyshine
各中性子入射エネルギーに対する線量値の計算結果(角度0度方向)に,光子と同様の方法で求めた近似曲線を合わせた図をFig. 8に示す。中性子の減衰距離νnは中性子の入射エネルギーに依存するが,二次光子の減衰距離νpは同一値で計算結果をほぼ再現できているため,νpは上記の仮定を採用し,中性子入射エネルギーによらず一定とした。
Fitting functions for attenuation of neutron and secondary photon
データベースには,エネルギー,距離および角度の各分点に対する線量値しか含まれていない。そのため,接続計算機能によって評価位置におけるスカイシャイン線量値を得るには,計算接続点における輸送粒子のパラメータに対してデータベース値を内挿または外挿する必要がある。
距離の適用範囲を2,000[m]以内とすると,データベース範囲外への外挿についてはエネルギーのみとなる。低エネルギー側の外挿に関しては,光子については後述のFig. 14に示すようにエネルギー分点の最低値である5 × 10−2 [MeV]以下は最終評価結果への寄与が無視できるほど小さくなるため外挿を行わずにゼロとした。中性子については1 × 10−7 [MeV]以下が外挿領域となるが,熱中性子のエネルギー領域であること,およびFig. 8に示すように低エネルギー中性子に対しては飛程の長い二次光子のスカイシャイン線量への寄与が支配的となることから,低エネルギー側への外挿は行わずに1 × 10−7 [MeV]の値をそのまま使用することとした。また,スカイシャインで扱う光子および中性子の上限エネルギーはともに10[MeV]と設定し,高エネルギー側への外挿は行わない。
データベース範囲内での内挿については,各パラメータの対数値とスカイシャイン線量の対数値での内挿を基本とした。ただし,強い直進性をもつ光子については角度0度方向に鋭いビーム構造をもつ特性があり,角度分点の設定および内挿法に依存して大きな誤差を生じる可能性があるため,それらの影響を検証した。球形状の空気体系の原点に単色光子の等方線源を設定し,同心球面での線量平均値をSurface Crossing Estimator(面検出器)で評価した値(Fig. 9の「Normal」)と同線源に対して光子発生直後にデータベースによる計算に接続して各距離で評価した線量(Fig. 9の「Hybrid」)とを比較した結果から,高エネルギー光子の近距離において接続計算結果に系統的な過小評価がみられた。
Underestimation of Hybrid connecting calculational function
上記の過小評価が光子の直進性によるビーム構造に起因するものかを調べるため,半径60 [m],長さ2,000 [m]の円柱形の空気体系に対して,その中心軸に半径1 [cm],10 [MeV]の光子ビームを入射させたときの線量分布を評価した。その結果をFig. 10(x軸:動径方向,z軸:長さ方向)に示す。この図にみられるように,遠方においても入射光子の初期半径1 [cm]を保ったビーム構造を示している。それに対してデータベースの0度方向の値は,角度分点の幅を±1度として評価していることから,ビーム幅に対して十分に広い範囲で平均化された値として収録されている。
Photon dose distribution in the narrow beam
z:axial distance, x:radial distance.
Figure 11は,データベースに収録した10[MeV]光子の距離10[m]でのスカイシャイン線量値を角度分布として表した図であり,対数内挿を行うために角度0度方向は0.01度としている。角度分点の間の内挿は図中の実線上の値を求めることとなり,接続計算機能で1度未満の領域を評価した結果はFig. 11の実線部より下の領域を積分することに相当する。一方でデータベースの値を計算した際の評価領域の角度幅は±1度であるため,0度方向のデータベース値は図中に破線で示す1度未満の領域の平均値である。これは,Fig. 10に示すようなモンテカルロ輸送計算の線量分布での1度未満の領域における線量の積分値がFig. 11の破線部を積分した値と等しくなることを意味している。したがって,モンテカルロ輸送計算の線量積分値の情報を保持する後者に対して,接続計算機能の評価結果である前者は過小評価を導くこととなり,両者の差がFig. 9における「Hybrid」の過小評価の原因となっている。
Interpolation in the small angle
以上の問題を解決するために,0度方向近傍は内挿値ではなく0度方向の値をそのまま使用することとし,内挿を行わない最大角度Acを(1)式で与えることとした。
\begin{align} \text{A}_{\text{c}} &= 0.1\ (1{,}000\ \text{[m]}/\text{D}[\text{m}]) \\&\quad \times 0.05\ (\text{E}_{\text{p}}\text{[MeV]}/10.0[\text{MeV}]) \end{align} | (1) |
ここで,D[m]は評価位置までの距離,Ep[MeV]は光子のエネルギーであり,各定数パラメータはFig. 9の両者の差異を改善するように求めた。接続計算機能の過小評価が現れる距離80[m]以下,かつ,光子エネルギー1[MeV]以上に(1)式を適用した結果,Fig. 9の改善後曲線「Hybrid-R」に示すように両者はほぼ一致した。
上記III章およびIV章で構築したデータベースを用いて,II章に示した手法によるスカイシャイン線量自動接続計算機能をPHITSに組み込んだ。通常計算で評価した結果と比較することで,本接続計算機能の有効性を検証した。
1. 地面のある単純体系での検証本接続計算機能では,データベースの値を計算する際に空気の無限媒質体系による評価を行っている。そのため,計算体系に地面が設定されていても計算接続後のスカイシャイン線量評価では地面による吸収や散乱の効果を考慮できない。
ここでは半径550[m],高さ300[m]の円柱空気体系の底部に深さ20[cm]の土壌17)を設定し,体系中心軸上の地表から高さ2[m]の位置に設定した線源から,10[MeV]の光子または中性子を上半球等方に放出した際の距離による線量減衰を評価した結果と通常計算の結果とを比較した。線源高さ位置における距離10[m]から500[m]までのスカイシャイン線量の評価結果をFig. 12に示す。ここで,図中の「Normal」は通常計算におけるTrack Length Estimatorによる結果であり,データ点の統計誤差はいずれも1%以下である。一方,接続計算機能による結果である「Hybrid-R」は,光子および中性子の双方に対して,「Normal」の結果と全領域に渡りファクター2以内で一致している。接続計算機能による結果が大きく出ている領域もあるが,別途実施した地面を設定しない体系での計算においても同様の傾向がみられたことから,地面の設定の有無によるスカイシャイン線量への大きな影響は確認されなかった。
Calculation results of simple geometry with ground
使用済燃料を装荷した金属キャスクを収納した乾式貯蔵施設の建屋を透過した光子および中性子を接続計算機能に接続し,距離による実効線量の減衰を評価した結果と通常計算の結果とを比較した。本体系ではFig. 13に示すように乾式貯蔵施設建屋が開口部の大きな吸排気口を有するため,ストリーミングによって開口部方向の接続位置で線束が強くなる特徴がある。この体系において乾式貯蔵施設建屋を透過し,接続面(原点を中心とした半径91.5[m]の半球上面)に到達した際の光子および中性子のエネルギースペクトルをFig. 14に示す。
Schematic view of a spent fuel dry storage facility model
Spectra of photon and neutron at the connecting points
光子および中性子の接続計算における,高さ2[m]で,距離100[m]から500[m]までのx軸方向およびy軸方向の線量評価結果を,通常計算と比較してFig. 15に示す。接続計算機能による結果は,全体的に通常計算の距離による線量減衰の傾向をよく再現している。接続計算機能による結果の多くは,通常計算の統計誤差の範囲内に収まっているが,光子による近距離領域では差異がみられる。この原因としては,IV.章で述べた光子の0度方向の内挿法に伴う誤差等が考えられるため,データベース収録値を精緻化する際に再検討が必要である。また,光子および中性子の双方で,モンテカルロ輸送計算の統計精度が低下してくる400[m]以上の遠方では両計算法の差異が広がっている。将来的には,分散低減機能を強化してより信頼性の高いモンテカルロ輸送計算を実施し,その結果に基づいて精緻化されたデータベースを用いた接続計算機能を用いることで改善が必要である。
Calculation results of skyshine dose from a spent fuel dry storage facility model
Figure 15の結果が示すように,通常計算によるスカイシャイン線量評価において統計的な揺らぎのために減衰曲線が安定しない場合は,任意の評価位置に対する結果の妥当性を示すことが困難である。一方で,接続計算機能を使用する場合は,データベース構築時に十分な時間を掛けて高精度の計算結果を用意し,距離による減衰や角度分布の連続性等とあわせてよく検証することで,計算結果の妥当性を一定程度期待できるが,付随する誤差の評価方法を検討する必要がある。
3. 計算時間の比較上述の地面のある単純体系および想定使用済燃料乾式貯蔵施設の敷地境界線量評価体系での検証を実施した際の,同じヒストリー数に対する通常計算と接続計算機能による計算とに要した時間を比較した。
Table 1に示す計算機を使用した接続面通過後のスカイシャイン線量の評価に要した時間をTable 2に示す。接続計算機能ではシングルコア,通常計算ではOpen MPによる12並列の計算を行った。各使用計算機の基本諸元が異なることから厳密な比較はできないが,単純体系においては1,000倍近く,乾式貯蔵施設を想定した評価体系に対しては10倍以上の高速化が図られ,並列計算の条件を揃えた場合はさらに10倍近くの高速化が見込まれる。また,通常計算によるスカイシャイン評価では結果の妥当性を示すために,距離や方角の変化による線量値の連続性等を入念に確認する必要があるが,本機能においてはデータベース構築時に十分に確認することで,評価作業全体の効率化も図られる。なお,前者の単純体系評価で両機能の計算時間差が大きくなったのは,入射エネルギーが高いためにモンテカルロ輸送計算での散乱,粒子生成が多くなること等によって長い計算時間を要し,接続計算機能の利点が強調されたためである。
CPU | Number of Cores |
Frequency [GHz] |
|
---|---|---|---|
Hybrid connecting calculational function |
Intel Core i7 | 1 | 2.1 |
Normal calculation | Intel Xeon E5 | 12 | 3.5 |
Analysis object |
Source particle |
Hybrid connecting calculational function[s] |
Normal calculation[s] |
---|---|---|---|
Simple geometry with ground |
Photon | 16 | 11,514 |
Neutron | 14 | 13,019 | |
Spent fuel dry storage facility |
Photon | 180 | 7,541 |
Neutron | 840 | 9,046 |
あらかじめモンテカルロ輸送計算を行って構築したデータベースを用いて,スカイシャイン線量を接続計算する機能を考案してPHITSに実装し,その有効性を検証した。データベースに収録する線量値を計算するに当たり,現状のPHITSの自動分散低減機能では遠方の評価位置に対して統計精度の高い線量値を求めることは困難であったため,指数関数でのフィッティングによる外挿曲線を採用した。また,直進性の強い光子に対しては,角度0度方向近傍の線量値を内挿する際に誤差が拡大することが判明したため,データベース構築時の計算条件を考慮した補正を加えることで改善した。
PHITSに組み込んだ接続計算機能を用いて計算したスカイシャイン線量と通常計算による結果とを比較することで,本機能の有効性を検証した。地面を設定した単純体系では,両計算法の線量は近距離でよく一致し,遠方においてもファクター2以内で一致した。地面の存在の有無による大きな影響はみられず,計算時間の比較では本機能が1,000倍近くの高速計算を実現した。想定使用済燃料乾式貯蔵施設の敷地境界線量評価体系では,全体的に距離による線量減衰の傾向は両計算法で一致した。ただし,光子では近距離領域で差異がみられたため,角度に対する内挿法等の検証が今後必要である。また,遠距離領域での差異についてはモンテカルロ輸送計算の統計精度の低下が影響している。この場合の計算時間の比較では,接続計算機能が10倍以上の計算速度を示した。これらの検証により,データベースの精度に改善の余地はあるものの,通常計算では長時間を要するスカイシャイン計算を短時間で実行可能であることから,本接続計算機能の有効性が確認できた。
本報で論じた接続計算の機能,データベースの仕様および有効性の検証結果から,本機能の特徴や課題は次のようにまとめられる。