Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
Online ISSN : 2186-2931
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Article
Seismic Risk Assessment by Initiating Event Matrix Method
Toshio TERAGAKIMasasi HIRANOKenji MORITakashi MUKAE
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2022 Volume 21 Issue 4 Pages 201-215

Details
Abstract

A method called the Initiating Event (IE) Matrix Method (IEMM) is proposed to resolve several issues regarding the hierarchization of IEs applied in the seismic Probabilistic Risk Assessments (PRAs) of nuclear facilities. In the hierarchization of IEs, the influence of low-order IEs is assumed to be smaller than that of high-order IEs. Consequently, the accident progressions of low-order IEs are basically omitted, which makes the risk assessment models simple and makes it feasible to assess the seismic risks associated with complex systems such as nuclear facilities. However, in the hierarchization, since the accident progressions of the simultaneous occurrence of multiple IEs are omitted, there is a possibility that the combinations of multiple IEs having small occurrence frequencies but large impacts on the environment might also be omitted from the risk assessment models. In addition, since there are cases where the combinations of multiple IEs may be considered only for some specific accident progressions depending on the assessor, the assessment results may depend on the assessor. Therefore, the authors propose the IEMM that assesses all the IEs with significant occurrence frequencies and all the combinations of such IEs. By comparing the IEMM and the hierarchization method in a case analysis of a simple system with a few IEs, the assessment results show less dependence on the assessor and fewer overlooks of accident progressions of significant IEs and combinations of such IEs.

I. 緒言

2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震と随伴する津波により東京電力㈱福島第一原子力発電所で重大事故が発生した。この重大事故発生後,原子力発電所の安全性向上及びリスク情報a)の活用に関する検討が進められている13

事故以前においてもリスク情報の活用については活発に議論され,環境整備が進められていた4。しかし,実際の運用については必ずしも十分積極的に活用されてきたとはいえず,「福島第一原子力発電所事故後,積極的に海外の知見を導入し,不確実なリスクに対応して安全の向上を目指す姿勢に欠けていた。」また,「地震や津波に対する安全評価を始めとして,事故の起因となる可能性がある火災,火山,斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった。」との反省があった57。その後,新規制基準が制定され,外部事象も考慮して重大事故への対策を求める安全規制が実施されるようになり,加えて安全性向上評価が実施されることとなった8。発電炉の安全性向上評価ではリスク評価の活用が既に始まっており,サイクル施設においても重大事故が想定される施設ではリスク評価手法の活用が挙げられている9。さらに,原子力規制委員会が行う原子力規制検査では検査の実施方針の作成,検査指摘事項の重要度評価等において,合理的な範囲でリスク情報を活用し,効率的かつ効果的な検査の実施に努めることとされている10。このリスク情報を得る手段としてPRA(Probabilistic Risk Assessment:確率論的リスク評価)がある。PRAでは,放射性物質の放出に至るような事故シーケンスを網羅的に抽出してそれらの発生頻度と影響を推定し,それら発生頻度と影響の積の総和として施設のリスクを評価する。その結果及びその過程で得られる情報をリスク情報として利用することにより,例えば,発生頻度は小さくとも影響が大きいリスクについても無視することなく,その対応に対し合理的な検討を行うことになる。この検討においては施設のリスクとして許容できる定量的な指標(安全目標,性能目標等)が必要となる場合があるが,その指標を満足するための検討において,コストやリソースの観点も踏まえることで,現実的で有効な対策を策定することになる。このため上述した福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえた新たな安全対策の検討においてPRAは有効であり,その重要性も増している。一方,PRAにおいては,内的事象及び外的事象の評価手法が整備されているものの,地震や津波のような稀有な外部事象のリスクを定量的に評価するのは不確実さが大きく12,13,保守的な評価にならざるを得ないことから,これらの評価手法の高度化,さらには,地震と津波の重畳などの自然現象の複合事象の評価手法の整備などが技術的課題として挙げられている13。今後は,PRAに基づき効果的な安全性向上策を構築するために上記のようなリスクの不確実さを明示して信頼性を高めることが重要であり,このような不確実さ評価を含めた評価手法の高度化等の継続的な改善が必要である8,9,14,15

a)  リスク情報とは,安全性を向上するための対策を詳細に検討するために有用な情報であり10,また,原子力規制庁の原子力規制検査等実施要領11では「各監視領域に関連する活動目的を達成できていない可能性又は状況及びその程度を検討・評価するために有用な原子力施設の状態及び事業者の安全活動状況等に関する情報であり,直接的なものだけでなく,その可能性等の要因の特定や影響の大きさ等を含んでいる。また,リスク情報は,従来も用いている安全上の重要度,運転経験及び不適合情報等の定性的な情報に加え,確率論的リスク評価(PRA)により得られる計算結果や知見等の定量的な情報をいう。」としている。

本章冒頭に述べたとおり,原子力発電所においては,検査や安全性向上評価等の取り組みにおいてPRAを用いたリスク情報の活用が進められている。核燃料施設においても将来的に検査や安全性向上評価等の取り組みにおいてPRAを用いたリスク情報の活用が見込まれると考えられ,施設の特性やリスクの大きさに応じた評価手法の検討が行われている2,46,8,16,17。我が国周辺は,地球の表面を覆うプレートが4つ重なり合う境界に位置しており,世界のマグニチュード6以上の地震の約2割が発生している地震多発地域である16ことから,リスク評価においても地震による重大事故発生について検討することは重要と考える。このような背景のもとに本論文では,特に地震PRAで現在多く活用されている起因事象の階層化手法(以下「階層化手法」(Hierarchical Event Tree Method)という。)における主要な課題を改善するための手法について検討した。

地震時は,複数の設備が損傷し,複数の起因事象が同時に起きる可能性があることから,原子力発電所やサイクル施設で複数の起因事象が起きた場合,重大事故シナリオを網羅的に抽出したリスク評価手法として階層化手法は現実的であり極めて有効な手法と考える1722

その一方で階層化手法は「上位の起因事象の中ですべての下位の起因事象が起こったとしても事故進展に影響がないようモデルを構築し,下位の起因事象の事故進展を省略する。」とあり,また,ただし書きとして「評価者の判断によって下位の起因事象の事故進展を省略しないこともある」15とされており,この点を筆者らは課題と考えて評価手法について検討を行った。施設全体のリスクを把握する目的の場合,評価者が発生頻度や影響の観点等で適切な階層化を行い,その考え方や条件を明確にしたとしても,個別に想定する起因事象の組み合わせを明示しない限り評価者によって異なる評価モデルとなる可能性がある。また,重要な起因事象の組み合わせが,一旦評価モデルで見落とした場合の検証は難しいと考える。このため,筆者らは,一旦全ての組み合わせを明示し,想定する全ての起因事象および起因事象の組み合わせを評価する起因事象マトリックス法(以下,「起因事象マトリックス法」(Initiating Event Matrix Method)という。)を本論文で提案する。ただし,起因事象マトリックス法も施設全体のリスク評価モデルが大きい場合は,スクリーニングを行うため近似的な評価となる。しかも適切なスクリーニング方法は今後の課題であり,仮に評価者によりスクリーニング方法が変わった場合,階層化手法と同様に評価結果に違いが出ると考える。そこで本論文では,階層化手法及び起因事象マトリックス法を用いて,想定する起因事象が少ないためスクリーニングを行わない事例の評価を行い,両手法による評価の比較を行うことにより,起因事象マトリックス法の特徴を2点確認した。1点目は,評価者による事故進展の考慮や省略等の判断要素が少なく,評価結果に違いが出難いことである。2点目は,起因事象を階層化しないため,発生確率は上位の起因事象が起きていない条件付き確率ではなく,実際の発生確率となる。特に,核燃料サイクル施設等の施設全体の地震リスク評価の実績が少ない場合は,起因事象マトリックス法により一旦想定する全ての起因事象と起因事象の組み合わせを評価し,リスクに支配的な可能性のある起因事象や起因事象の組み合わせを示すことが重要と考える。その結果を踏まえ,更なる詳細評価を行う場合は目的に適した評価手法を選定することが重要と考える。

II. 起因事象マトリックス法による地震リスク評価

1. 地震リスクにおける階層化手法

地震リスクにおける階層化手法は,起因事象を階層化した階層イベントツリーを用いるリスク評価手法である15。また,地震リスクにおいて階層イベントツリーを用いた例を文献20)~23)に示す。起因事象の階層化については,日本原子力学会標準「原子力発電所に対する地震を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2015」15(以下「学会標準」という。)で次のように説明している。

 まず,複数のSSCs(Structures(構造物),Systems(システム),and Components(設備))の同時損傷による数多くの様々な起因事象を事象収束のための成功基準の観点からグループ化し,プラントへの影響が最も厳しい起因事象で代表させる。階層化では階層イベントツリーを用いる。階層イベントツリーは一般に,起因事象を発生時の炉心損傷頻度への影響が大きい順に並べ,これらをヘディングとする。また,起因事象の階層順序は,1つの地震起因による起因事象が発生すれば,階層の下位の他の起因事象の発生は,事故シーケンスのモデル化の観点で重要でなくなるように定義する。このように,階層イベントツリーでは,複数起因事象の同時発生は原則として考慮しないが,先行する起因事象の従属事象として後続の起因事象の発生が必然的に考えられ,後続のヘディングの起因事象の発生を想定した場合に,事故シーケンス,成功基準に有意な影響がある場合には,次のいずれかによりその影響を適切に評価する。

  • -    起因事象の重ね合わせを考慮して階層イベントツリーに必要な分岐を追加する。
  • -    先行するヘディングの起因事象に対する事故シーケンス,成功基準を,後続の起因事象との重ね合わせを想定して保守的に設定する。ここで,後続の起因事象との重ね合わせを想定する場合は保守的に燃料の重大な損傷に直結するとしてもよいが,燃料の重大な損傷に至る代表的な事故シーケンスを明確にする。
  • -    サポート系の損傷が原因で起因事象が発生する場合には,当該起因事象とは別の起因事象の事故シーケンスにおいても,緩和設備のサポート系設備として別途モデル化することで,広範な影響を適切に評価する。

 階層化した各起因事象の発生確率は,起因事象を引き起こすSSCsのフラジリティを評価することで算出する。後続のヘディングで考慮する起因事象の発生確率は,先行のヘディングで設定した起因事象が発生しない条件付確率として評価する。

 階層イベントツリーによる起因事象の発生確率の定量化は,上位の起因事象の発生確率の補数に,当該起因事象の発生確率を掛けて,階層イベントツリー処理後の当該起因事象の発生確率を求め,最後の起因事象は,全体確率の合計値が1.0となるように求める。

つまり,起因事象の階層化手法で用いる起因事象階層ツリーは,起因事象を発生時の炉心損傷頻度への影響の大きさ等の観点で階層化し,上位の起因事象が発生した場合,階層が下位のヘディングの起因事象は全て発生するものと仮定するが,それら起因事象の発生の影響は原則として考慮しない24。ただし,評価者の判断で階層下位の起因事象の影響を考慮して必要な分岐を追加する場合があるほか,緩和設備のサポート系設備の故障などによりモデル化する場合もある。

2. 階層化手法の課題

階層化手法は,地震時に起き得る複数の起因事象を影響の大きさで階層化し,簡易的に評価することにより,複雑なシステムの評価を可能とする手法であると考えられる。一方で,筆者らは階層化手法には次のような課題があり,今後の改善が期待されると考える。

【課題1】

 施設全体のリスクを把握する目的の場合は,想定する起因事象の組み合わせを一旦全て明示することが重要と考える。しかし,階層化手法では上位の起因事象で下位の起因事象の事故進展の影響を省略するか25,又は考慮するかは評価目的によって決めることができるような場合もあるが,そうでない場合には評価者の判断に委ねられるため,同じ評価モデルや結果になるとは限らない。しかも,どの程度評価結果が異なるかを確認することも難しい。一方,評価目的によって評価条件や評価手を決めることができるような場合は課題とはならないと考える。

【課題2】

 階層化手法の下位の起因事象は上位の起因事象が起きないことが前提となるため,下位の起因事象の発生確率は,上位の起因事象が起きない条件付発生確率となる。このため,階層ツリーは起因事象の階層の順番により見掛け上リスクへの支配率が異なってみえる。

例えば外部電源喪失は地震時に特に起きやすい起因事象と仮定する。外部電源喪失を階層下位の起因事象とすると,上位の起因事象が起きない条件付き確率となるため,上位の起因事象と同時に外部電源喪失が起きた場合の影響は,評価上上位の起因事象に含まれてしまう。このため,外部電源喪失は地震リスクに対して見掛け上小さくなり,リスクに支配的な事象とはみなされず,地震リスク低減に有効な対策に電源対策が選択されない可能性が生じる。この問題を解決する方法として,例えば起因事象階層ツリーの上位の起因事象に外部電源喪失の分岐を追加する方法等が考えられる。

3. 起因事象マトリックス法

前節で示した課題を解決するために起因事象の階層化手法に代わり,全ての起因事象及び起因事象の組み合わせを評価候補とする起因事象マトリックス法を提案する。

起因事象マトリックス法の評価手順は,Fig. 1に示すタスク1から4の4段階で構成する。各タスクの実施手順を,以下に説明する。

Fig. 1

Flowchart for Initiating Event Matrix Method

(1) タスク1(評価対象起因事象候補の整理)

地震リスク評価の候補となる全ての起因事象候補を選定する。評価対象とする起因事象としては,起因事象間で共通した設備等の要因をもたない独立した事象を選定する。選定した起因事象について発生頻度を評価する。発生頻度の評価手法は,従来の地震PRAと同じなため,概要を簡単に説明する。

評価対象となる起因事象について,関連する設備のフォールトツリーを作成する。次に,起因事象に関連する設備について,地震による損傷の評価部位と損傷モードを特定し,耐力評価を行う。さらに,評価対象の地震動領域において応答評価を行う。これらの耐力及び応答を用いて,起因事象に関連する設備のフラジリティを評価する。起因事象に関連する設備のフラジリティとフォールトツリーを用いて,起因事象ごとの評価対象地震動領域における発生確率を算定する。また,地震ハザード曲線(最大加速度α(Gal)の地震動の年超過頻度曲線H(α)(1/年))からGal当たりの発生頻度h(α)(1/(年・Gal))を求め,これに,起因事象ごとのフラジリティ曲線(−)を乗ずることで,起因事象のGal当たりの発生頻度(1/(年・Gal))を算定する。次いで,これをαとα + Lで積分することで起因事象iの発生頻度FIEi(α)(Frequency of Initiating Event)を求める。ここで,Lは評価対象地震動領域の離散幅を示す。

すなわち,地震動強さαのGal当たりの発生頻度h(α)は,地震ハザード曲線H(α)を用いて次式から求まる。   

\begin{equation} h( \alpha ) = - \frac{\text{dH}( \alpha )}{\text{d}\alpha },\ \text{ここで}\,\text{H}( \alpha ) = \int \limits_{\alpha }^{\infty }h( {\alpha '} )d\alpha ' \end{equation} (1)

また,地震動強さαの起因事象iのフラジリティ曲線をPIEi(α)(Probability of Initiating Event i)(−)とすると,起因事象iの発生頻度FIEi(α)は次式から求まる。   

\begin{equation} \textit{FIE}_{i}( \alpha ) = \int \limits_{\alpha }^{\alpha + L}\left[ h( {\alpha '} ) \times \textit{PIE}_{i}( {\alpha '} ) \right]d\alpha ' \end{equation} (2)

なお,地震PRAにおけるフラジリティ評価は,学会標準等で示されている「現実的耐力と現実的応答による方法」,「現実的耐力と応答係数による方法」,「耐力係数と応答係数」等を用いることとする。タスク3でより適切な起因事象のスクリーニングを実施するため,設備同時損傷や起因事象の同時発生における地震損傷の相関の影響を考慮することが望ましい。地震損傷の相関評価手法は,学会標準等に示される地震損傷の相関評価手法等が挙げられる。

(2) タスク2(起因事象発生頻度のスクリーニング基準値設定)

タスク2では,検討する起因事象の組み合わせが多く,不確実さの検討を含め評価に時間を要する等の観点でリスクモデルが膨大であり評価が困難な場合に,起因事象及び起因事象の組み合わせについて,評価結果への影響と作業量とを勘案し適切なスクリーニング基準を設定する。適切なスクリーニング基準は今後の課題と位置付けている。現時点で,具体例の候補として以下を考えている。

  • ・   炉心損傷頻度や重大事故発生頻度の大きさの評価を目的とする場合は性能目標や地震ハザードに対し1%等十分小さい値を設定する
  • ・   炉心損傷や重大事故が発生した後の敷地外への影響の評価を目的とする場合は安全目標に対し1%等十分小さい値を設定する

なお,スクリーニングを実施すると近似評価となるため,スクリーニングなしで評価が可能な場合は,スクリーニングを行う必要はない。この場合は,タスク4に移行する。

(3) タスク3(評価対象起因事象の選定)

タスク3では,タスク1で選定した起因事象及び起因事象の組み合わせを,タスク2で設定したスクリーニング基準値によってスクリーニングする。スクリーニング基準値を超える発生頻度の起因事象及び起因事象の組み合わせが,タスク4で行うリスク評価の対象となる。

(4) タスク4(リスク評価の実施)

スクリーニングをしない場合はタスク1,スクリーニングを行った場合はタスク3で選定した起因事象及び起因事象の組み合わせについて,事故シナリオを分析しイベントツリー等のリスク評価モデルを作成し,リスク評価を行う。リスク評価は,従来の地震PRAと同じ手法であり簡単に概要を説明する。

地震動強さαの発生頻度h(α)は,前述の(1)式を用いる。

地震動強さαにおける重大事故シーケンスiの発生確率をPSAi(α)(Probability of severe accident i)と地震動強さαの発生頻度h(α)の積を地震動領域αとα + Lで積分することで事故シーケンスiの重大事故発生頻度をFSAi(α)(Frequency of severe accident i)を求める。   

\begin{equation} \textit{FSA}_{i}( \alpha ) = \int \limits_{\alpha }^{\alpha + L}\left[ h( {\alpha '} ) \times \textit{PSA}_{i}( {\alpha '} ) \right]d\alpha ' \end{equation} (3)

また,評価対象とする全ての重大事故シーケンスの発生頻度の合計をFSA(α)(Frequency of severe accident)とするとFSA(α)は次式から求まる。   

\begin{equation} \textit{FSA}( \alpha ) = \sum \limits_{i}\textit{FSA}_{i}( \alpha ) \end{equation} (4)

ところで,階層化手法と起因事象マトリックス法では,各起因事象の発生確率の意味が異なる点に留意する必要がある。階層化手法と起因事象マトリックス法の発生確率についてFig. 2に簡単な例を示す。

Fig. 2

Comparison between the occurrence probabilities of initiating events by Hierarchical Event Tree Method and Initiating Event Matrix Method

両手法とも対象とする起因事象は,AとB及びCである。Cは,AとB以外の過渡事象(余事象)と定義している。起因事象Aの発生確率をPA,起因事象Bの発生確率をPBとすると,階層化手法では,Aが最上位の起因事象であり発生確率はPAとなる。事象Bは,Aよりも下位の起因事象のためAが起きない条件付確率になる。階層化手法ではAとBの同時発生はAに含まれることとなる。一方,起因事象マトリックス法には階層の概念はなく,ベン図に示すとおり起因事象A及びB,並びにAとBの同時発生はそれぞれ評価される。結果として階層化手法と起因事象マトリックス法では,起因事象Aの発生確率,起因事象AとBの同時発生の取り扱いと確率が相異することになる。

なお,本手法と類似した手法として,全ての起因事象及び起因事象の組み合わせを評価候補とする手法の概念は既に公開15されているが,事例を含めた具体的な評価手順が記載されていないため本論文の手法とは区別する。また,起因事象階層ツリー法及び起因事象マトリックス法以外に地震リスクを評価する手法として,地震リスクを1つのフォールトツリーにモデル化する手法(大フォールトツリー法)がある15,24,2628。大フォールトツリー法は,モデル化に際し階層化手法のモデルおよび結果から作成することが多いため,考慮する起因事象や事故進展が階層化手法と同じと考える。

III. リスク評価事例による手法の比較

1. リスク評価事例の概要

本節では,階層化手法と起因事象マトリックス法を事例によって比較する。階層化手法については次の2つの事例評価を行う。1つは,上位の起因事象は下位の起因事象が起こったとしても影響は小さいと仮定し,複数の起因事象の組み合わせを考慮しない最小規模の起因事象階層モデルを用いた手法(以下,「最小規模の階層化手法」という。)の事例である。もう1つは,起因事象の重ね合わせを考慮して階層イベントツリーに全ての分岐を追加する最大規模の起因事象階層モデルを用いた手法(以下,「最大規模の階層化手法」という。)の事例である。この最大規模の起因事象階層モデルは,全ての起因事象と起因事象の組み合わせを考慮したモデルであり,起因事象マトリックス法と同じ結果になることを確認する。現実的な評価では,最小規模から最大規模の起因事象階層モデルの中から評価者の判断により1つのモデルを選択することになるが,本評価では評価結果の相異を把握するため最小規模と最大規模の両事例を評価することとした。

階層化手法による2事例と起因事象マトリックス法による1事例の合計3つの事例は,同じ仮想サイトの核燃料施設,同じ地震ハザード及び同じフラジリティを採用する。ここで,本3事例において地震損傷の相関の影響は考慮しないこととする。評価対象とした仮想の高レベル廃液(HAW)貯蔵施設の概要図をFig. 3に示す。

Fig. 3

Outline of the HAW storage facility evaluated

当該施設は,1つの建屋,コンクリート製セルの中にHAWが貯蔵されているモデルとする。本評価で想定する重大事故は,HAW貯槽内の蒸発乾固事象のみとする。起因事象は,内部ループ損傷(IN4),外部ループ損傷(IN3),外部電源喪失(IN2),その他の過渡事象(IN1)の4つを想定する。全ての起因事象において廃液貯槽の冷却に失敗し,かつ,廃液貯槽の注水に失敗した場合,HAW貯槽内で蒸発乾固事象が起きるものとする。内部ループは主に配管(PipA),電動ポンプ(PmA)及び熱交換器(Hex)で構成されている。内部ループはHexを通じて外部ループにより除熱される。外部ループは主に配管(PiB),電動ポンプ(PmB),冷却塔(Ct)及びHexで構成されている。外部ループ又は内部ループが損傷した場合,可搬式ポンプ車(Mi)を用いて水源タンク(Wt)の水を直接廃液貯槽(Ht)に注入できる構造とする。電源は外部電源と非常用電源が共通の母線(Pb)で接続されている。外部電源の主な設備として変圧器(Tf)があり,非常用電源の主な設備として非常用ディーゼル発電機(EDG)及びEDGの燃料補給のため燃料タンク(Ft)と配管(PmC)がある。MiやPmA及びPmBは,通常時には外部電源から,また,IN2時には非常用電源から供給されるモデルとする。

事例として採用した最小規模の起因事象階層モデルと起因事象ごとのイベントツリーをFig. 4に示す。同図は上位の起因事象で下位の起因事象を全て省略した最小規模の起因事象階層モデルである。また,事例として採用した最大規模の起因事象階層モデルと起因事象ごとのイベントツリーをFig. 5に示す。同図は,上位の起因事象で全ての下位の起因事象の影響を考慮した最大規模の起因事象階層モデルである。Fig. 4に示す最小規模のモデルのIN1及びIN2は,Fig. 5に示す最小規模のモデルのものと同じ起因事象を示す。最小規模のモデルのIN3は,最大規模のモデルでは下位のIN2を考慮し,IN2が起きない起因事象はIN3_1,IN2が起きた起因事象はIN3_2と分割している。同様に最小規模のモデルのIN4は,最大規模のモデルでは下位のIN3とIN2を考慮し,IN3及びIN2が起きない起因事象はIN4_1,IN3は起きないがIN2が起きる起因事象はIN4_2,IN3は起きるがIN2は起きない起因事象はIN4_3,IN3及びIN2が起きる起因事象はIN4_4と分割している。Figure 4及びFig. 5の注入機能喪失(LOI:Loss of injection function)は内部ループと外部ループによる冷却機能が喪失している状態で,Miにより直接Htを注水する機能が喪失することを示す。また,Fig. 4及びFig. 5の全交流電源喪失(SB:Station blackout)は,IN2時にEDGによる電源供給機能が喪失することを示す。さらに,Fig. 4及びFig. 5に示す冷却機能喪失(LOC:Loss of cooling function)は,IN4及びIN3が起きていない起因事象で内部ループと外部ループを用いた冷却機能が喪失することを示す。

Fig. 4

Example of the smallest Hierarchical Event Tree of initiating events

Fig. 5

Example of the largest Hierarchical Event Tree of initiating events

階層化手法と起因事象マトリックス法の事例で共通する主な設備の概要と仮定をTable 1に示す。以下の3つの事例評価ではTable 1に示した各起因事象の発生頻度(回/年)は,Fig. 1のTask 1の手順に基づき評価した。

Table 1 Overview of seismic risk assessment model
Facility Postulated HAW storage facility at a site
External event Earthquake
Severe accident Boiling and evaporation to dryness due to loss of cooling function
Initiating events ・Internal loop damage(IN4)
・External loop damage(IN3)
・Loss of external power supply(IN2)
・Other transient events(IN1)
・Combination of above events
Basic event Seismic fragility
Power supply system External power supply and emergency power supply
Cooling supply system Permanent cooling function and mobile water injection function into HAW
Loss of accident prevention or mitigation function Loss of cooling function
Loss of mobile injection function
Station blackout
Other assumptions ・Initiating events are independent from basic events.
 (Correlation of seismic damages is not considered.)
・All initiating events occur at the same time.
・Each of power supply and cooling systems consists of a single system.

  • ・   最小規模の階層化手法による事例評価
  • ・   最大規模の階層化手法による事例評価
  • ・   起因事象マトリックス法による事例評価

上記3事例の評価結果は2.,3.及び4.でその内容を示す。

なお,Table 1に示すとおり基事象(Basic event:フォールトツリーにおいてそれ以上展開しない事象)は地震による損傷のみとし,ランダム故障と損傷した機器の復旧は考慮しない。蒸発乾固事象の発生頻度(1/年)は,Fig. 1のTask 4の手順に基づき評価した。

リスク評価で想定する単独の起因事象について,概要を述べる。

(1) 内部ループ損傷(IN4)

IN4は配管(PipA)が損傷し,冷却水が漏えいすることを想定する。IN4が起きた場合,Miを用いて水源タンク(Wt)の水を直接HAW貯槽(Ht)に注入できれば重大事故(蒸発乾固事象)は回避できるものとする。

(2) 外部ループ損傷(IN3)

IN3は配管(PipB)が損傷し,冷却水が漏えいすることを想定する。IN3が起きた場合も,IN4と同様に可搬式ポンプ(Mi)を用いて水源タンク(Mi)の水を直接HAW貯槽(Ht)に注入できれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

(3) 外部電源喪失(IN2)

IN2は敷地内外の設備のうち変圧器(Tf)が最弱部と仮定し,これが破損することにより外部電源が喪失すると想定する。IN2が起きた場合,非常用ディーゼル発電機(EDG)による非常用交流電源が確保できれば,全交流電源喪失には至らないものとする。非常用交流電源が確保できた場合,通常の内部ループ及び外部ループを介したHtの冷却又はMiを用いたHtへの注入に成功すれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

(4) その他の過渡事象(IN1)

上記の(1)から(3)以外のなんらかの起因事象が発生すると仮定する。IN1が発生した場合,Miを用いてWtの水を直接Htへのラインに注入できれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

その他の過渡事象は,Fig. 2内のイベントCに示すように(1)から(3)の起因事象とは排反事象とし,(1)から(3)の起因事象との組み合わせは存在しないものとする。その他の過渡事象は,設備損傷によって評価するのではなく他の起因事象が全て起きない余事象であり,地震動が小さいほど起きやすい事象となっている。

(1)式で示す本評価に用いた地震動強さごとの発生頻度(h(α))をFig. 6に示す。また,IN1からIN4の起因事象のフラジリティ曲線をFig. 7に示す。(3)で示した地震動強さごとの蒸発乾固発生頻度(PSA(α))を評価するためのLOI,SB及びLOCのフラジリティ曲線をFig. 8に示す。

Fig. 6

Seismic hazard curve h(α) expressed as an occurrence frequency of peak ground acceleration per Gal

Fig. 7

Fragility curves of initiating events used in the present study

Fig. 8

Fragility curves of SSCs for accident prevention or mitigation

本事例では評価する最大地震動加速度α(Gal)を0,300,700,1,000,1,300,1,600及び2,000に離散化した。これにより(2)及び(3)式で示す離散幅L(Gal)は,以下に示すとおり,離散点間の差分となる。

最大地震動加速度αが0~300ではL = 300,300~700ではL = 400,700~1,000ではL = 300,1,000~1,300ではL = 300,1,300~1,600ではL = 300および1,600~2,000ではL = 400

以下,評価結果を示す。

2. 最小規模の階層化手法による事例評価

最小規模の階層ツリーによる事例の評価結果をTable 2に示す。蒸発乾固事象の発生頻度は,1.7 × 10−4/年となった。

Table 2 PRA evaluation results using the smallest Hierarchical Event Tree Method
Sequence IDa) Frequencies of initiating events Loss of function IDs Frequencies of severe accidents
Frequency(1/Year) Ratio Frequency(1/Year) Ratio
IN4 1.8 × 10−3 2% LOI 1.5 × 10−4 84%
IN3
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 )$
1.1 × 10−3 1% LOI 2.7 × 10−5 16%
IN2
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
7.8 × 10−3 7% LOI 1.4 × 10−5 ~0%
SB 2.3 × 10−7 ~0%
IN1
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
9.9 × 10−2 90% LOI 5.3 × 10−7 ~0%
Total frequency 1.1 × 10−1     1.7 × 10−4  

a)Sequence identifiers (IDs) are shown in Fig. 4.

Loss of function IDs are shown as follows:

LOI:Loss of injection function, and

SB:Station blackout.

~0%:A ratio less than 1% to the total.

severe accidents:Boiling and evaporation to dryness due to loss of cooling function.

起因事象発生頻度の内訳をみると,その他の過渡事象(IN1)が90%,外部電源喪失事象(IN2)が7%,外部ループ損傷(IN3)が1%,内部ループ損傷(IN4)が2%となっている。これは,Fig. 7に示したこれらに関わる設備のフラジリティ曲線で説明できる。IN1に関わるフラジリティ曲線が最も大きく,次にIN2に関わるものが大きい。これらに対してIN3及びIN4のものはともに小さい。

蒸発乾固事象の起因事象発生頻度のうち圧倒的に大きかったのは,IN1の9.9 × 10−2(1/年)であり,全発生頻度1.1 × 10−1(1/年)への寄与は90%であった。しかし,IN1における冷却機能喪失(L0I)による蒸発乾固事象の発生頻度は5.3 × 10−7(1/年)となり,全発生頻度1.7 × 10−4(1/年)への寄与は~0%と減少した。一方,IN4の起因事象発生頻度は1.8 × 10−3(1/年)であり,トータルへの寄与は2%と小さかったが,IN4後の冷却機能喪失(L0I)による発生頻度は1.5 × 10−4(1/年)となり,全損傷頻度への寄与は84%と大幅に大きくなっている。IN1は,Fig. 7のフラジリティ曲線から,他の起因事象(IN4,IN3及びIN2)が起き難い低地震動で発生確率が大きいが,Fig. 8のフラジリティ曲線からこの地震動領域では冷却機能や注水機能が損傷することはほとんどないため機能別損傷としては小さい。また,IN4の損傷頻度が大きい理由は,Fig. 4のイベントツリーに示すように最上位の起因事象であり,他の起因事象(IN3及びIN2)との組み合わせが含まれているためと考えられる。

3. 最大規模の階層化手法による事例評価

最大規模の階層ツリーによる事例の評価結果をTable 3に示す。

Table 3 PRA evaluation results using the largest Hierarchical Event Tree Method
Sequence IDa) Frequencies of initiating events Loss of function IDs Frequencies of severe accidents
Frequency(1/Year) Ratio Frequency(1/Year) Ratio
IN4_1
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.1 × 10−4 ~0% LOI 2.0 × 10−7 ~0%
IN4_2
$( IN4 \times \overline{IN3} \times IN2 )$
1.0 × 10−3 1% LOI 3.6 × 10−5 19%
SB 1.6 × 10−6 1%
IN4_3
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
2.2 × 10−5 ~0% LOI 1.8 × 10−7 ~0%
IN4_4
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.3 × 10−4 1% LOI 1.1 × 10−4 58%
SB 1.2 × 10−5 6%
IN3_1
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.3 × 10−4 ~0% LOI 1.8 × 10−7 ~0%
IN3_2
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
9.3 × 10−4 1% LOI 2.7 × 10−5 14%
SB 1.1 × 10−6 1%
IN2
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
7.8 × 10−3 7% LOI 1.4 × 10−7 ~0%
SB 2.3 × 10−7 ~0%
IN1
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
9.9 × 10−2 90% LOI 5.3 × 10−7 ~0%
Total frequency 1.1 × 10−1     1.9 × 10−4  

a)Sequence IDs are shown in Fig. 5.

~0%:A ratio less than 1% to the total.

severe accidents:Boiling and evaporation to dryness due to loss of cooling function.

蒸発乾固事象の発生頻度は,1.9 × 10−4/年となった。起因事象発生頻度の内訳は,III-2節の最小規模の階層化手法と同じくその他の過渡事象(IN1)が90%,外部電源喪失事象(IN2)が7%となっている。また,機能別損傷では,内部ループ損傷,外部ループ損傷かつ外部電源喪失(IN4_4)後の冷却失敗(L0I)が58%と最も大きい結果となった。

4. 起因事象マトリックス法による事例評価

起因事象により想定した事故シナリオは,最大規模の階層化手法と同じく全ての起因事象の組み合わせを考慮することから同じ評価結果になることを確認する。起因事象マトリックス法による事例の評価結果をTable 4に示す。起因事象及び起因事象の組み合わせは,Table 4の上段に示すように8事象ある。Table 4の下段の表に示すとおり,起因事象および起因事象の組み合わせは8事象と比較的少ないためスクリーニングは省略することとした。

Table 4 PRA evaluation results using Initiating Event Matrix Method
Sequence IDa) Frequencies of initiating events Loss of function IDs Frequencies of severe accidents
Frequency(1/Year) Ratio Frequency(1/Year) Ratio
IN4
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.1 × 10−4 ~0% LOI 2.0 × 10−7 ~0%
IN3
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.3 × 10−4 ~0% LOI 1.8 × 10−7 ~0%
IN2
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
7.8 × 10−3 7% LOI 1.4 × 10−7 ~0%
SB 2.3 × 10−7 ~0%
IN1
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
9.9 × 10−2 90% LOI 5.3 × 10−7 ~0%
IN4 × IN2
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
1.0 × 10−3 1% LOI 3.6 × 10−5 19%
SB 1.6 × 10−6 1%
IN3 × IN2
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
9.3 × 10−4 1% LOI 2.7 × 10−5 14%
SB 1.1 × 10−6 1%
IN4 × IN3
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
2.2 × 10−5 ~0% LOI 1.8 × 10−7 ~0%
IN4 × IN3 × IN2
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.3 × 10−4 1% LOI 1.1 × 10−4 58%
SB 1.2 × 10−5 6%
Total frequency 1.1 × 10−1     1.9 × 10−4  
Initiating events Sequence IDs
Internal loop damage IN4
External loop damage IN3
Loss of external power supply IN2
Other transient events
(Mutually exclusive events from the three initiating events shown above.)
IN1
Internal loop damage and loss of external power supply IN4 × IN2
External loop damage and loss of external power supply IN3 × IN2
Internal loop damage and external loop damage IN4 × IN3
Internal loop damage, external loop damage and loss of external power supply IN4 × IN3 × IN2

~0%:A ratio less than 1% to the total.

severe accidents:Boiling and evaporation to dryness due to loss of cooling function

蒸発乾固事象の発生頻度は,1.9 × 10−4/年であり最大規模の階層化手法の結果と同じとなった。起因事象発生頻度の内訳は最大規模の階層化手法と一致しており,その他の過渡事象(IN1)が90%,外部電源喪失事象(IN2)が7%となっている。また機能別損傷では,内部ループ損傷(IN4),外部ループ損傷(IN3),外部電源喪失(IN2)の組み合わせ(IN4 × IN3 × IN2)後の冷却失敗(L0I)が58%と最も大きい結果となった。

5. 3つの事例の比較

III-2~-4節の事例について,評価の特徴と結果を比較する。

III-1節で述べたとおり,最大規模の起因事象階層モデルは,全ての起因事象と起因事象の組み合わせを考慮したモデルであることから起因事象マトリックス法と同じモデルとなり,蒸発乾固事象の発生頻度は両手法とも1.9 × 10−4/年と一致することを確認した。また,最小規模の階層化手法の蒸発乾固事象の発生頻度は,1.7 × 10−4/年と他の2手法より若干小さい値となっている。III-1節で述べたとおり起因事象の組み合わせを考慮しない最小規模の階層化手法では,内部ループ損傷(IN4)又は外部ループ損傷(IN3)時に下位の起因事象である外部電源喪失事象(IN2)を省略するため電源喪失による損傷を考慮しない他の2手法より若干蒸発乾固事象の発生頻度が小さくなる。

Figure 9に事例評価に用いた地震動レベルごとの地震ハザードと3手法の蒸発乾固事象発生頻度の重ね合わせ図を示す。Fig. 9で示すとおり地震動レベルごとの蒸発乾固事象の発生頻度は3手法ともほとんど差がみられない。特に(3)および(4)式で示すとおり高地震動領域においてはフラジリティが3手法ともほぼ1となるため,蒸発乾固事象の発生頻度は(地震ハザードとフラジリティの積)は高地震動領域で3手法ともほぼ同じとなる。

Fig. 9

Comparison of frequencies of evaporation to dryness calculated with three methods and integrated seismic hazard curve in the region of peak ground acceleration between α and α + L

一方,単独起因事象と複数起因事象の組み合わせの蒸発乾固事象の発生頻度の内訳は,最小規模の階層化手法と他の2手法で大きく異なる。最小規模の階層化手法では単独の起因事象による蒸発乾固事象の発生頻度の割合が100%となっている。最大規模の階層化手法は単独の起因事象による蒸発乾固事象の発生頻度の割合がIN1(LOI),IN2(LOI),IN2(SB),IN3_1(LOI)及びIN4_1(LOI)の合計で約1%となっている。また,起因事象マトリックス法は単独の起因事象による蒸発乾固事象の発生頻度の割合がIN1(LOI),IN2(LOI),IN2(SB),IN3(LOI)及びIN4(LOI)の合計で約1%となっており,最大規模の階層化手法と起因事象マトリックス法は,全ての重大事故シーケンスにおいて同じ値となり,両手法で同じ結果となることを確認した。このように最小規模の階層化手法では,下位の起因事象は上位の起因事象が起こらない条件付確率となるため複数の起因事象が同時に起きている事象の把握はできない。これに対し起因事象マトリックス法は,複数の起因事象の組み合わせが99%と定量的に把握できることを確認した。

次に,3手法の事例でLOI(注水及び冷却機能喪失)とSB(全交流電源喪失)の機能別発生頻度の内訳を整理したところ,最小規模の階層化手法はLOIがほぼ100%,その他の2手法はLOIが92%,SBが8%となった。最小規模の階層化手法は上位の起因事象は下位の起因事象の影響は小さいと仮定し,上位の起因事象と下位の起因事象の組み合わせを考慮しないモデルである。このため,IN3とIN2の組み合わせは本来SBとしてクレジットすべきものがIN3のLOIとなっている。同様に,IN4とIN2の組み合わせがIN4のLOIとなっている。このためLOIがほぼ100%となっている。

また,単独の起因事象の発生頻度において支配的な起因事象は,3手法ともに,その他の過渡事象(IN1)で90%であり,IN2,IN3及びIN4の寄与は小さい。一方,蒸発乾固発生頻度における起因事象IN1の寄与は3手法ともに,~0%と小さい。これはFig. 7に示すとおり,IN1は他の起因事象が起きない低地震動が支配的であり,Fig. 8に示すとおりこの地震動領域では冷却機能や注水機能が損傷することはほとんどないためである。

上記3手法では蒸発乾固事象の発生頻度の大きさに大きな違いはない。しかし,起因事象マトリックス法や最大規模の階層化手法は,想定した全ての起因事象の組み合わせの内訳を確認できるが,最小規模の階層化手法は複数の起因事象の発生頻度の確認ができない。施設(特に核燃料サイクル施設等リスク評価の実績の少ない施設)のリスク評価初期段階として,想定する起因事象の範囲で施設全体のリスクの概要や,支配的な起因事象や起因事象の組み合わせを把握する場合は,起因事象マトリックス法により一旦全ての想定する起因事象の組み合わせとリスクに対する支配率を確認することが重要と考える。次の段階として,本評価で支配的な起因事象や起因事象の組み合わせに対し,支配的になる要素の分析を実施することでリスクの分析が進むと考える。なお,評価目的が限定した起因事象の場合,目的に応じた手法を選定すべきと考える。例えば,機器損傷の相関の影響を評価する場合は,定量化の観点で大フォールトツリー法を採用することが最適と考える。

なお,上記の全ての検討において起因事象マトリックス法と最大規模の階層化手法の事例結果は一致していることを確認した。評価結果が同じであれば,起因事象マトリックス法は起因事象階層ツリーの構築が必要ないことから最大規模の階層化手法に比べて簡易な手法と考える。

IV. 結論

地震時は,複数の設備が同時に損傷する可能性があり,複数の起因事象が同時に起きる可能性がある。このため,地震PRAにおいては,地震時に起き得る複数の起因事象を影響の大きさで階層化し,簡易的に評価する階層化手法が活用されていると考える。

しかし,施設(特に核燃料サイクル施設等リスク評価の実績の少ない施設)のリスク評価初期段階において,想定する起因事象の範囲で施設全体のリスクの概略を推定するほか,支配的な起因事象や起因事象の組み合わせを同定する等の目的の場合には,階層化手法を用いた場合,II-2節で示した以下の課題が存在すると考える。

  • ・課題1   階層化手法では上位の起因事象で下位の起因事象の事故進展の影響を省略するか,又は考慮するかは,評価目的によって決まる場合もあるが,そうでない場合には評価者の判断に委ねられるため,評価者により評価結果が異なる可能性がある。しかし,比較する類似の評価結果がない場合,評価結果の妥当性を確認することは難しい。
  • ・課題2   階層化手法の下位の起因事象は上位の起因事象が起きないことが前提となるため,下位の起因事象の発生確率は,上位の起因事象が起きない条件付発生確率となる。

そこで,筆者らは想定する全ての起因事象の組み合わせを網羅的に評価し,かつ下位の起因事象で上位の起因事象が起きないと仮定する条件付確率を用いない起因事象マトリックス法を提案した。本手法を用いることにより,地震リスク評価の実績の少ない施設のリスク評価の初期段階において,想定する起因事象の範囲で施設全体のリスクの概略を推定するほか,支配的な起因事象や起因事象の組み合わせを同定する等が可能になると考える。しかし,本手法においても重要な課題が残っている。その主要なものは次のとおりである。

  • ・   本手法の事例は手法の説明のために作成した仮想的なリスク評価モデルであり,実在する施設に対するものではない。このため,実在する施設において重要な起因事象の組み合わせをどの程度抽出できるか,またリスクの絶対値として階層化手法とどの程度差がでるかについては確認できていない。
  • ・   本論文では,スクリーニングをする必要のない少数の起因事象の場合を対象とした。起因事象が多い場合,スクリーニングをするケースがあり得るが,その手順,指標及び基準は評価の目的,活用の仕方,結果への影響の大きさ等を勘案して適切に設定する必要がある。
  • ・   複数起因事象が同時に起きた場合,SSCs間の損傷の相関,SSCsの事故進展における重大事故までの余裕時間,複数の起因事象同時発生に伴う人的過誤への影響等について別途検討する必要がある。

References
 
© 2022 Atomic Energy Society of Japan
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