Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Promotive Effects of Siltfence on Deposition of Suspended Particles: Evaluations of Diffusion Suppression of Radionuclides in Rectangular Open Channel via Numerical Simulations
Susumu YAMADAMasahiko MACHIDATaro ARIKAWA
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2023 Volume 22 Issue 2 Pages 73-86

Details
Abstract

A siltfence is installed to prevent the spread of suspended sediments generated by engineering construction works in rivers and on the coast. Thus, the siltfence is regarded to be a tool to prevent radioactive materials adsorbed on suspended sediments from diffusing into the sea in ports of nuclear power plants during nuclear accidents. However, the prevention effects of the siltfence as sediment control structures have not yet been fully evaluated. Therefore, in this paper, we simulate the behaviors of suspended sediment particles using a coupled simulation scheme composed of water flow and deformation of the siltfence in a rectangular open channel under uniform steady flow, and evaluate the promotive effects of the installed siltfence on suspended sediment deposition. The results demonstrate that the installation of the siltfence significantly promotes deposition, especially of particles with low settling velocities. However, it should be noted that the opposite case is also possible, i.e., the siltfence promotes the diffusion of suspended sediments under particular conditions. These results suggest that a careful installation strategy is necessary. The present simulation scheme is useful in assessing the prevention effects of siltfences prior to their installation.

I. はじめに

2011年に発生した東京電力ホールディングス㈱・福島第一原子力発電所の事故により,日本のすべての原子力発電所はいったん停止した。その後,再稼働に当たり,規制は強化され,万一事故が発生した場合に備えて事故の進展を食い止める対策が幾重にも準備されている。その1つの対策として,「放射性物質の海洋への拡散抑制」があり,原子力発電所港湾内では,シルトフェンスを設置a)することが電力事業者により検討されている。本論文では,シルトフェンスを設置した水路内で,放射性物質が付着した懸濁粒子1の挙動をシミュレーションすることで,シルトフェンスによる拡散抑制の効果を評価する。

a)  シルトフェンスの設置方法には「自立式」と「垂下式」があるが,水底から自立する「自立式」の設置には潜水作業が必要となるため,緊急事態では容易に設置可能な海面から垂下する「垂下式」を用いることを想定している。したがって,本論文では「垂下式」のシルトフェンスのみを研究評価対象とする。

シルトフェンスとは,汚濁防止膜とも呼ばれる透水性をほとんどもたない膜体である2,3。膜体ではあるが,水の移動を完全に遮断しない。したがって,溶存物質に対しては拡散を抑制する効果はほとんどないが,懸濁粒子(土砂粒子)に対しては,その効果があると考えられており46Fig. 1),河川,湖沼,沿岸等の土木工事の際,Fig. 2のように敷設される。最近では,工事により発生する懸濁粒子の拡散による環境影響を低減させる目的で,沖縄・辺野古での沿岸工事や,関西国際空港の建設工事時に大規模に活用される等,多くの場面で利用されている3。以上より,事故時,懸濁粒子に吸着される性質を有する放射性物質に対しては,拡散を抑制する効果が期待される。実際,Fig. 2に示すような開水域では,懸濁粒子の発生源を囲い込むように設置することで,懸濁粒子の周囲への拡散を抑制できることが報告されており3,7,8,懸濁粒子に吸着した放射性物質の拡散抑制が可能であると考えらえる。

Fig. 1

Longitudinal cross section of water flow containing suspended particles

Their deposition is promoted by installing a siltfence.

Fig. 2

Schematic figure of a siltfence installed in open water area

以上,様々な水中での工事に活用されているシルトフェンスだが,懸濁粒子の堆積促進効果についての定量的評価は十分に進展していない。その1つの原因として,シルトフェンスが,流体との相互作用により自在に変形する自由度をもつため,その解析の困難さが挙げられる。実際,シルトフェンスを設置した場合の効能を調べるため,条件を単純化したFig. 3のような矩形形状の開水路にて,数多くの実験や理論研究が行われてきた。しかし,これらの研究では,本来有する3次元的自由度を制限し,「ふかれ」と呼ばれる2次元的自由度のみ扱った場合の評価に限定される(Fig. 3において,シルトフェンスのフロート部分には,「たわみ」がないことに注意。実際は,フェンス幅に裕度をもたせ,「たわみ」が生じるよう設置する3)。このように,シルトフェンスが有する柔軟な3次元的自由度を考慮することの難しさがわかる。その困難さにより,「ふかれ」にのみ着目することで,シルトフェンスの実効深さ(有効膜高)を定め,同等の深さを有するアクリル板等(変形しない)を水中に吊るし,シルトフェンスを模擬する等の研究も行われてきた。しかし,これらの研究で得られる水の流れ場は,シルトフェンス設置により発生した流れ場とは異なることに注意すべきである。

Fig. 3

Schematic figure of a siltfence installed in an open channel

次に,懸濁粒子の挙動に着目した研究に焦点を当てると,その主たる評価項目はシルトフェンス設置による懸濁粒子の堆積促進ではなく,シルトフェンス前後での懸濁粒子の濃度変化であった。この要因として,シルト等の土砂粒子の沈降速度は遅く,その堆積を観察するには,流速を十分に低速にする必要がある他,堆積量の計測も困難であり,堆積量の変化を直接観察することは容易でないと考えられるからである。しかし,その目的は,本論文と同様に懸濁粒子の周囲への拡散抑制効果の評価にあるが,実験上の問題から間接的に濃度変化の観察に留まっていたことを指摘する。

以上,シルトフェンスによる懸濁粒子の水底への堆積を評価する研究は,ほとんど行われておらず,設置による水底への堆積促進効果については,経験的な知見のみ存在するという状況にあった。

これに対し,筆者らは最近,金山らにより提案された3次元的自由度を取り扱うシミュレーション手法を拡張することで,流体とシルトフェンスの連成計算を安定に解析する方法の開発に成功した9,10。この手法を用いると,シルトフェンス本来の3次元的変形を再現することが可能となり,様々なシルトフェンスの敷設状況をシミュレーションにより調べることが可能となる。したがって,上記のような懸濁粒子の堆積効果を調べる際,研究方法を上記のシミュレーションに限定すれば,沈降速度と流速を適切に選択することで,懸濁粒子の沈降により,実際に堆積する条件,すなわち,実験等で観察できる条件も明らかとなる。シミュレーションでは,流速と沈降速度の関係を自由に調整可能であり,シルトフェンスによる懸濁粒子堆積の観察可能な条件を推定した後,その堆積促進効果についてシミュレーションにより評価する。

以上,本研究では,シルトフェンスがもつ3次元的自由度を考慮し,シルトフェンスと流れ場の連成計算を行い,シルトフェンスが懸濁粒子の堆積を促進する効果を有するかどうかをシミュレーションにより評価する。その際,一度堆積した懸濁粒子が再浮遊することが想定されるが11,再浮遊は流速だけでなく,水底の状況(事前に堆積している土砂粒子の大きさや粘着性等の物性など)にも強く依存するため,本研究では再浮遊を考慮しない条件で評価する(すなわち,一度堆積した懸濁粒子は,その位置にそのまま堆積し続けると仮定する)。また,懸濁粒子の挙動をシミュレーションする際,その濃度分布の変化を追跡する移流・拡散方程式を用いるオイラー的手法が採用されることが多いが,本研究では個々の粒子の運動を追跡するラグランジュ的手法を採用した。これは,オイラー的手法を用いると,差分による離散化によって生じる人工的な拡散作用,すなわち,数値拡散が発生するため,粒子の堆積の評価において,有意な誤差が生じるためである。次に注意すべき点として,乱流中に浮遊している懸濁粒子は乱れの影響を受け,静水中の沈降速度と比較し,その約半分から数倍の範囲で変化することが挙げられる12。本研究のシミュレーションはLarge Eddy Simulation(LES)手法を用いて行うため,格子の解像度以上の乱れは再現するが,計算格子よりも小さい乱れは再現できないため,乱れの影響は限定的であることに注意が必要である。しかし,本研究の主眼は,事故が発生した際の放射性物質の海洋流出の抑制を目的として設置が検討されているシルトフェンスの拡散抑制効果をおおむね評価することであり,小さい乱れをも考慮する精密な計算は今後の課題とする。また,再現されない小さい乱れ,主に渦心へのトラップ効果による沈降速度の低下の影響は小さく(最大で約半分程度に沈降速度が減少),結果自体が大きく異なることはないと考えられる。

本論文の構成は以下のとおりである。II章では,一様定常流れ場中にシルトフェンスを設置した際の変形と流れ場の変化について,既往研究における進展を概説するとともに,既往研究における問題点とその解決方法等について記す。また,矩形開水路内での懸濁粒子の挙動について,上記のように,粒子の沈降に着目し理論的視点を示した後,シミュレーション研究の必要性と有効性について記す。III章では,矩形開水路に設置したシルトフェンスによる懸濁粒子の堆積促進効果をシミュレーション結果をもとに議論する。IV章はまとめである。

II. シルトフェンス設置による懸濁粒子の拡散抑制効果

1. 既往研究のまとめ

シルトフェンスは,河川,海洋,湖沼等での土木工事の際に発生する懸濁粒子の拡散を抑制し,環境への影響を低減すると期待されている。これまで,懸濁粒子の拡散抑制効果を明らかにするため,シルトフェンスの形状変化やシルトフェンス付近の流れ場を調べる目的で,水路実験とともに解析的およびシミュレーションによる数値的評価が数多く行われてきた7,911,1323。その結果,シルトフェンスの変形の自由度を「ふかれ」に制限した場合,流速とシルトフェンスの変化形状の関係に対し,多くの有用な知見が得られてきた。

一方,懸濁粒子の挙動に対するシルトフェンスの影響等については,小田らが矩形開水路に対し,鉛直方向と流下方向からなる2次元の自由度にのみ着目し,「ふかれ」の理論的考察から予測されるシルトフェンス形状をもとに,懸濁粒子の移流拡散シミュレーションによる評価を行った。しかし,その研究では,水中での濃度変化にのみ注目し,水底への堆積についての議論は行われていない13。また,M. Radermacheらは,前述のように,海洋におけるサンゴ等の周辺生態系への影響評価を目的とし,懸濁粒子の水底への堆積効果ではなく,水中での太陽光強度に影響を与える懸濁粒子の濃度変化にのみ注目し,3次元シミュレーションを用いて懸濁粒子の挙動を評価している15,16

これらのシミュレーション研究によれば,流速が遅いなどの特殊な条件のケースを除いて,シルトフェンスを設置しても,シルトフェンス通過後の懸濁粒子の濃度は,設置しない場合とほとんど変わらないか,より拡散してしまうこと等が確認されている。つまり,シルトフェンスによる懸濁粒子の拡散抑制効果については疑問が残ることが報告されており,シルトフェンスの有効性についての科学的議論は十分に進展していない。ただし,前述のように,M. Radermacheらのシミュレーションは,3次元ではあるが,シルトフェンスの上端を水面上で直線状に固定した際に得られる有効膜高と同じになるよう,不透水性の板(アクリル板のような薄板)を水面から吊るした状態でシミュレーションを実施していることに注意すべきである。つまり,流れ場によるシルトフェンスの変形を考慮せず,鉛直方向に対し,有効膜高の変化のみを考慮したシミュレーションであるため,流れ場はシルトフェンスの設置時と異なっている。

以上,シルトフェンスの既往研究について整理したが,懸濁粒子の濃度に着目し,その拡散抑制が議論されてきたが,懸濁粒子の水底への堆積促進による拡散抑制効果を直接検証するという研究は皆無であり,シルトフェンスの最も重要な期待される効果の1つが直接検証されていないのが現状であると指摘する。

2. 流速と懸濁粒子の沈降速度の関係

本節では,懸濁粒子の挙動について,理論的考察を通してシルトフェンスによる懸濁粒子の堆積促進効果を論じる。また,堆積促進効果を検証する際,シミュレーションが極めて有効な手段となることも明らかにする。

一様な水平方向の定常流れ場中にある懸濁粒子は,Fig. 4(a)のように流れの方向(水平方向)へ移動しながら,その自重により沈降する。厳密には前述のように流れに乱れがある場合,沈降速度はその乱れに応じて変化するが,定常流による流れが支配的であれば「(鉛直方向の)沈降速度」と「(水平方向の)流速」のベクトルの和が懸濁粒子の運動速度ベクトルとなり,この2つの速度の比(沈降速度/流速)が粒子のおおよその堆積位置を決める。つまり,シルトフェンスが設置されていない一様な水路において,沈降速度/流速の比が同じであれば,沈降速度や流速が各々変化しても,移動する方向(角度)は同じとなり,同じ位置から出発した粒子の堆積位置はおおよそ不変となることがわかる(ただし,堆積に至る時間は,流速および沈降速度の大きさに依存する)。いい換えると,沈降速度/流速の比を不変にさえすれば,個々の値がどのように変化しても,同じ地点から出発する懸濁粒子は,原理的にほぼ同じ位置に堆積することがわかる。したがって,懸濁粒子の沈降速度/流速の比の値から,水路の観測領域内での粒子の堆積位置を推定・予測することで,実際に懸濁粒子の堆積を観測可能かどうかがわかる。しかし,実際に観測を可能とするため,流速を変えることは容易だが,沈降速度を変えるには,懸濁粒子のサイズや液体の粘性を変化させる必要があり,それらは実験上,困難であることがわかる。その一方,シミュレーションでは,沈降速度の変化を任意に設定可能なことから,シミュレーション研究の有効性がわかる。また,前述のように本研究ではLESを用いてシミュレーションを実施するため,計算格子以上のスケールの乱れは再現されるため,その影響は考慮できることを指摘する。本研究では,このシミュレーションの特性を活かして,流速と沈降速度を適切に変化させ,着目する水路内での堆積挙動の解析を系統的に行う。

Fig. 4

Resultant velocity of a suspended particle in horizontally uniform flow (a) and the same flow with additional downward one (b)

次に,水路内にシルトフェンスを設置した場合の水の流れ場の変化を考察する。シルトフェンスを,一定の流速で一様に流れる流れ場に設置すると,Fig. 5のように上層の流れはシルトフェンスで閉塞されるため,水はその下層を通過する。その際,下層での水平方向の流速は大きくなるとともに,シルトフェンスの形状変化にあわせて,斜め下方向の流れが発生する。その一方,シルトフェンス通過後は,反対に斜め上向きの流れが発生する9,10,15,16ことがわかる。前述のように,流れ場中の懸濁粒子の実質的な運動速度は「沈降速度」と「流速」の和で記述され,沈降速度/流速の比により運動方向が決定されるが,Fig. 4(b)に示すように,シルトフェンス設置により発生する斜め下方向の流れ場内での粒子の運動は,「沈降速度」に加えて,新たに「シルトフェンス設置により発生する流速の鉛直方向成分」が鉛直方向速度として加わり,それらと「水平成分の流速」との比で決まることがわかる(実際は,水平成分も,シルトフェンス設置によりシルトフェンス近傍で変化することに注意)。つまり,堆積位置はこれらの比(沈降速度を含む鉛直方向速度成分/水平方向速度成分)により決まることから,シルトフェンス設置により,下向きの「シルトフェンス設置による流速の鉛直方向成分」が新たに加わったことで,堆積位置はシルトフェンスが設置されない場合より,実効的に上流側にシフトすることが予測される。つまり,シルトフェンスの設置は,懸濁粒子の実効的沈降速度を増大させる効果(懸濁粒子のサイズを実効的に増大させることに等しい)を有すると考えられる。しかし,堆積せず,シルトフェンスを通過した場合は,上向きの「流速の鉛直方向成分」が生じることで,浮遊が促進されることもあるとわかる。

Fig. 5

Longitudinal cross-section view of water flow and a siltfence shape in rectangular open channel

以上,シルトフェンス設置による懸濁粒子の堆積促進が,簡単な理論的考察より期待できることがわかったが,シルトフェンス付近,特に,Fig. 5において点線で囲った範囲の流れ場を解析的に表現することは困難となるため,堆積位置を予測することも困難となる。こうして,堆積位置の評価に際し,シミュレーションが最も有効な研究手段となることがわかる。

3. シルトフェンスのモデル化方法

多くの既往研究では,シルトフェンスの上端を流路方向とは垂直に直線的に固定した状態(Fig. 3参照)で実験および数値的研究が行われたが,実際に設置する際は,裕度をもたせ,一例として19.5 mの流路幅に対して,フェンス幅20 mのシルトフェンスを設置するのが一般的である3。つまり,設置流路幅に対して約1.025倍(通例)の幅のシルトフェンスを,上部両端のみを固定して設置する。したがって,「ふかれ」だけでなく「たわみ」も発生する。したがって,幅が一定の矩形水路において,「ふかれ」のみが発生する場合は,横断方向(水路幅方向)の変化を考慮する必要がないため,流れ方向と鉛直方向の2次元モデルとして扱えばよいが,「たわみ」が発生することで,シルトフェンスの中央部と左右端での変形は異なり,流路方向に垂直な方向の流れが生じるため,流れ場を再現するには,3次元的な変形を考慮することが必要となる。したがって,次章で示すシミュレーションでは,筆者らにより提案された「ふかれ」と「たわみ」を同時に考慮可能な3次元のシルトフェンスの変形モデルを用いて,懸濁粒子の堆積促進効果を評価する(モデル化の詳細は文献10を参照)。

III. シミュレーションによる評価

1. シミュレーション条件

本研究では,Fig. 6に示す,幅が一定の矩形水路を対象として懸濁粒子の挙動を調べる。以下のシミュレーションでは,壁はnon-slip条件とし,シルトフェンスの横幅は,水路幅0.4 mの1.025倍(II-3節参照)である0.41 m,鉛直長さは0.32 mとし,上流端から1 mの位置に設置する。本条件(水路幅とシルトフェンス幅の比)は,実際の水路での設置条件と共通であるが,水路のスケールは上記の条件のように実験室レベルとした。理由は,今後,実験による比較検証を想定しているためである。

Fig. 6

Schematic figure of rectangular open channel for the simulation in this paper

A siltfence is installed one meter away from the upstream boundary. The length (a) increases with increasing approach velocity, and then the effective length of the siltfence is represented as 0.4 m-(a). The feature is called as “Fukare” in Japanese. The length (b) is also expanded similar to “Fukare”, and it is called as “Tawami”.

本シミュレーションでは,上流端での流速を0.1 m/秒,0.05 m/秒,0.025 m/秒の3ケースとする。また,設置するシルトフェンスについては,それ自身の重さは無視する一方,最下層に重錘を付ける。実際のシルトフェンスでも,膜体自身の重さは支配的ではなく,最下層に重錘を付けることで「ふかれ」を制御する。重錘の重さと流速は,シルトフェンスの有効膜高に大きく影響するが,小田ら13および青木ら22が提案した理論式を用いれば,シルトフェンスの有効膜高は,任意の流速と重錘の重さが決まれば推定可能である。その理論式に従うと,流速が変化しても重錘の重さを流速の2乗に比例して変化させれば,同じ有効膜高となるため,流速が異なっても同じ有効膜高の状況が実現されると予測される(この有効膜高の理論式は,本論文の連成シミュレーションを行った場合もおおむね成立する)。なお,この理論式は,「ふかれ」にのみ着目した際の理論であることを注意する。当該理論は,「たわみ」が大きい場合には成立しないと考えられるが,本シミュレーションでは,近似的に成立する範囲内にあると想定され,上記理論式をもとに,異なる流量に対して有効膜高が同じになる重錘の重さを決定し,シミュレーション条件とする。今回は,上流端での流速が0.1 m/秒において,重錘の重さを1 kg/m,0.5 kg/m,0.25 kg/m,0.125 kg/mの4とおりとし,流速を0.05 m/秒,0.025 m/秒と変化させた場合,同じ有効膜高となるよう,重錘の重さを,流速が0.1 m/秒での重さに対し,各々,4分の1,16分の1になるように決定する。この際,同じ有効膜高になると期待される流速と重錘の組み合わせをTable 1に示すように,Case A,Case B,Case C,Case Dと4つのグループにまとめる。次節の実際の数値シミュレーションにより得られた有効膜高は,Table 2に示すが,グループごと,ほぼ同じ有効膜高になることが確認できる。つまり,流速が異なる条件下でも,ほぼ同じ有効膜高でのシミュレーションが実施できることがわかる。小田らによる解析によれば,有効膜高が同じであれば,シルトフェンスの変形形状(「ふかれ」)も変わらず,シルトフェンス付近を流れる流速の水平成分と鉛直成分の比率もおおよそ等しいと考えられ,沈降挙動は同等になると想定される(シルトフェンス付近の乱れた流れを含めて平均化した場合の考察であることに注意)。

Table 1 Relationship between weight of siltfence ballast and approach velocity
  Weight of ballast (kg/m)
Verocity 0.1 m/sec 0.05 m/sec 0.025 m/sec
Case A 0.125 0.03125 (=0.125/4) 0.0078125 (=0.125/16)
Case B 0.25 0.0625 (=0.25/4) 0.015625 (=0.25/16)
Case C 0.5 0.125 (=0.5/4) 0.03125 (=0.5/16)
Case D 1 0.25 (=1/4) 0.0625 (=1/16)

Table 2 Effective siltfence height
Approach velocity
(m/sec)
Effective siltfence hight (m)
Case A Case B Case C Case D
0.025 0.1279 0.1731 0.2091 0.2413
0.05 0.1288 0.1732 0.2108 0.2446
0.1 0.1245 0.1746 0.2137 0.2480

次に,懸濁粒子の取り扱いについて説明する。事故が発生した際,放射性物質を吸着させるために使用される懸濁粒子に一定の規格もなく,現時点では,様々なサイズの可能性がある。そのため,今回のシミュレーションでは,微細粒子レベルから砂粒子レベルまでを広くカバーするため,沈降速度が4 mm/秒,2 mm/秒,1 mm/秒,0.5 mm/秒,0.25 mm/秒,0.125 mm/秒,0.0625 mm/秒の懸濁粒子を対象とする。その際,ストークスの式から計算される各々の懸濁粒子の直径(粒径)をTable 3に記す。実験において,7種もの懸濁粒子を使い分けることは容易ではなく,シミュレーションの利点を活かし,系統的評価を可能としていることを指摘する。懸濁粒子の初期位置は,横断方向(y方向)および鉛直方向(z方向)で生成される0.4 m × 0.4 mの断面内に,0.01 m間隔で配置し,この状態の粒子群を上流端から流れ方向(x方向)に0.025 mの位置から0.05 m間隔で10個配置する(Fig. 7参照)。このように配置した16,000個の粒子は,均等に分布していることから,初期位置による影響はほとんどないと考えられる。また,粒子数は現実的な懸濁状態と比較するとはるかに少ないと考えられ,濃度が高く流体としての性質にも影響を及ぼす状態の評価は本論文では対象外とする。このように配置された粒子は,存在する位置での流速とそれ自身の沈降速度の合成速度で移動させ,その挙動を個々に追跡する。このような設定もシミュレーションの特徴を活かしたものと位置付けられる。なお,本シミュレーションでは,流速に関係なく粒子の位置が水底以下(つまりz座標が0以下)になれば,その位置に堆積したものとみなし,簡単のため,一度堆積した粒子は巻き上げられない(再浮遊しない)ものとする。

Table 3 Relationship between settling velocity and particle size (diameter) based on Stokes’ law
Settling velocity (mm/s) 4 2 1 0.5 0.25 0.125 0.0625
Particle size (µm) 66.728 47.184 33.364 23.592 16.682 11.796 8.341

Here, it is assumed that the density and the viscosity of water are 1,000 kg/m3 and 0.001 Pa·s, the density of a particle is 2,650 kg/m3 and the gravitational acceleration is 9.8 m/s2.

Fig. 7

Initial setting of suspended particles and installation position of a siltfence

(a) Initial position of particles in a plane defined by flow direction and vertical direction, and installation position of the siltfence. The left edge of the model is the upstream boundary. (b) Initial position of particles in a plane defined by cross section direction and vertical direction.

以上の条件下,計算格子間隔を0.02 mとして,SMAC法を用いて時間刻み0.01秒で計算を行うb)。渦動粘性係数については,定数を0.173とするスマゴリンスキーモデル24を用いたLESを行う。

b)  SMAC法を用いるため,水位変動は考慮しない。

シルトフェンスのモデルについては,「ふかれ」だけでなく「たわみ」が発生する3次元変形に適応可能なシミュレーションモデル10を用いる。シルトフェンスの実際の活用シーンでは,「ふかれ」と「たわみ」が必ず発生するが,十分に横幅のある水路では,「ふかれ」が支配的となる。本論文のような水路等では,前述のように「ふかれ」が支配的な条件となるが,「たわみ」も考慮していることを指摘する。「たわみ」に着目する研究は,将来の課題とする。

シミュレーションでは,懸濁粒子に対し,その存在地点での流速と沈降速度の合成速度に合わせて移動させ,粒子投入後,代表的経過時間として,2,000秒(流速0.1 m/秒),4,000秒(0.05 m/秒),8,000秒(0.025 m/秒)が経過した際の水路内での堆積粒子数を評価する。本計算方法の妥当性を確認するため,Fig. 8およびFig. 9に計算途中の粒子の分布状況,シルトフェンスの形状,流れ場の一例を示す。これらの結果から,流れによりシルトフェンスは3次元的に変形し,また,シルトフェンスにより,流れが大きく影響を受けていることが確認できる。また,変形により水路の両側とシルトフェンスの間に隙間ができることで,この隙間を通る流れが生じるとともに,投入した粒子の一部がその隙間を通過していることも確認できる。なお,シルトフェンスを設置した条件下では,流れ場に合わせてシルトフェンスを常時変形させているため,堆積粒子の個数は初期条件により変化する。したがって,異なるタイミングで粒子を投入すると堆積数が変わることを注意する。そこで,異なるタイミングで100回投入した際の堆積数を計測し,その平均値を堆積量として採用する(シルトフェンスを設置しない場合は,定常流となった後は数値誤差c)を除けば流れは一定であり,100回ともほぼ同じ堆積分布が得られることに注意)。

c)  SMAC法の圧力ポアソン方程式を反復法で計算する際に,反復計算を有限回で打ち切ることにより生じる打切り誤差,および,実数を有限桁で表現することにより生じる丸め誤差。

Fig. 8

Overhead view of shape of a siltfence with distributions of particles between 0.9 m and 1.5 m from upstream boundary

Fig. 9

Flow field and a shape of siltfence in a vertical cross section at the center of the channel (a) and horizontal cross section at a height of 0.3 m from the bottom (b)

2. シミュレーション結果

本節では,前節で記したシミュレーションの結果を示す。まず,比較のため,シルトフェンスを設置しない場合の結果を示す。本論文では,一様な定常流の下,懸濁粒子の沈降挙動の特徴を記した後,シルトフェンスを設置した場合との比較を行うことで,シルトフェンスによる堆積挙動の変化を明らかにする。

まず,上流端から下流に向かって1 m区間ごとに堆積した粒子(堆積速度の異なる粒子を投入)の個数を流速ごとに示したグラフを,シルトフェンス設置なしの対照実験の結果としてFig. 10に示す。これらの結果から,沈降速度が速い粒子は,投入後すぐに沈降し,投入域付近に集中して沈降する一方,遅い粒子は,単位区間当たりの沈降量がほぼ均等となる傾向があることがわかる。次に,沈降速度が速い粒子に対し,流速を変化させた場合の結果をみると,流速が遅い場合は,上流のみに堆積するが,流速が速くなるにつれて,堆積場所が,より下流まで広がり,単位区間当たりの堆積量も均等化することが確認できる。これらの結果から,沈降速度が速い粒子でも,流速が速い場合は,下流に流され,沈降速度の遅い粒子にて観察される場合と同等の堆積分布となることがわかる。

Fig. 10

The number of deposited particles per one meter interval from upstream boundary in the rectangular open channel without a siltfence

(a) approach velocity is 0.025 m/sec. (b) approach velocity is 0.05 m/sec. (c) approach velocity is 0.1 m/sec.

以上,Fig. 10より,粒子の堆積位置を決定しているのは,粒子の沈降速度と流速の比率であることがわかる。実際,「粒子の沈降速度/流速」の値(以下では速度比率と呼ぶ)ごとに結果を整理し,上流端から下流に向かい,1 m区間ごとに堆積する粒子の個数をFig. 11に示す。Fig. 11からわかるように,上で定義した速度比率により,堆積位置および堆積粒子数の分布はおおよそ決まっていることがわかる。ただし,速度比率が0.005の場合,上流端から1~2 m区間の堆積量が大きく減少する様子を始めとして,変動する様子が観測されている。これは,粒子の投入位置を離散的に設置したことによって生じた現象であることを記す。次に,シミュレーション対象とする水路内(限定区間)にて堆積した粒子の総量をTable 4に示す。これらの結果から,速度比率が同じ場合,水路の一定区間内での総堆積量は,ほぼ等しくなることがわかる。一例として,沈降速度,流速が各々,(2 mm/秒,0.1 m/秒),(1 mm/秒,0.05 m/秒),(0.5 mm/秒,0.025 m/秒)の場合,すなわち速度比率が同じ場合(3つとも速度比率は0.02である。表中の太字で記した部分),総堆積量がほぼ等しいことが確認できる。なお,これらの値より左(右)に1つずらした3つのケースも速度比率は互いに等しく,それらの条件すべてにおいて,その総堆積量はほぼ等しいことがわかる。

Fig. 11

The number of deposited particles per meter interval from upstream boundary in the rectangular open channel without a siltfence in the case of each ratio of particle settling velocity to approaching velocity

The ratio is set to 0.04 (a), 0.02 (b), 0.01 (c), 0.005 (d) and 0.0025 (e).

Table 4 The number of deposited particles on the bed inside the rectangular open channel without a siltfence
Approach velocity Settling velocity (mm/sec)
4 2 1 0.5 0.025 0.0125 0.00625
0.025 m/sec 16,000 16,000 16,000 13,870 8,054 4,372 2,334
0.05 m/sec 16,000 16,000 13,822 8,054 4,422 2,362 1,302
0.1 m/sec 16,000 13,756 8,048 4,494 2,420 1,346 776

以上から,懸濁粒子の沈降挙動は,おおむね速度比率によって決まることがわかった。II-2節にて論じたように,シルトフェンスを設置することで,シルトフェンス近傍では,局所的に下・上向きの鉛直成分が加わり,その速度比率は空間的に変化する(十分離れた場所では,設置しない場合の速度比率に回復する)ことが想定される。以下では,その効果について明らかにする。

シルトフェンスを設置した際のシミュレーション結果を示す。Table 2に示したように小田らおよび青木らの有効膜高の推定式13,22に基づき,Table 1に示した流速と重錘の重さの組み合わせを用いることで,異なる流速下でも,有効膜高をほぼ等しく制御可能なことが確認できる。次に,Table 1に示した組み合わせから4つのケース(ケース内での有効膜高さは等しく,ケース間で異なる)に対して,シルトフェンスを設置した際の水路内に堆積した粒子総数をTable 5に示す。前述のように,シルトフェンスを設置した場合,流れ場は常に変化しているため,堆積粒子の個数は投入のタイミングで変化する。したがって,異なるタイミングで100回投入した平均を記しており,Table 5の値は,整数ではない。また,下流に向かって1 m区間ごとに計測堆積した堆積粒子の個数分布の一例としてCase Bの場合の堆積分布をFig. 12に示す。ただし,堆積位置は速度比率(シルトフェンスなしの場合に決まる比率)により決定されるという事実から,その速度比率ごとに結果を整理し,まとめた。

Table 5 The number of deposited particles on the bed inside the rectangular open channel with a siltfence
Case A
Approach
velocity
Settling velocity (mm/sec)
4 2 1 0.5 0.025 0.0125 0.00625
0.025 m/sec 16,000.00 16,000.00 15,996.35 14,084.75 8,205.62 4,489.67 2,351.48
0.05 m/sec 16,000.00 15,992.84 14,058.41 8,651.84 4,974.43 2,788.25 1,481.47
0.1 m/sec 15,995.96 13,819.61 8,235.09 4,787.49 2,778.41 1,336.47 769.59
Case B
Approach
velocity
Settling velocity (mm/sec)
4 2 1 0.5 0.025 0.0125 0.00625
0.025 m/sec 16,000.00 16,000.00 15,856.59 13,291.45 7,383.76 4,101.10 2,584.15
0.05 m/sec 16,000.00 15,951.00 12,815.53 7,759.60 4,311.32 2,599.30 1,442.98
0.1 m/sec 15,941.76 12,593.93 8,306.00 4,949.58 3,010.13 1,603.45 915.13
Case C
Approach
velocity
Settling velocity (mm/sec)
4 2 1 0.5 0.025 0.0125 0.00625
0.025 m/sec 16,000.00 16,000.00 15,981.87 12,714.90 8,057.01 4,905.90 3,271.84
0.05 m/sec 16,000.00 15,958.48 12,365.75 8,297.01 5,380.47 3,433.59 1,985.34
0.1 m/sec 15,958.13 12,635.07 8,154.97 5,005.74 3,233.89 1,903.47 1,123.05
Case D
Approach
velocity
Settling velocity (mm/sec)
4 2 1 0.5 0.025 0.0125 0.00625
0.025 m/sec 16,000.00 16,000.00 15,972.57 12,897.00 8,692.92 5,534.87 3,671.61
0.05 m/sec 16,000.00 15,976.12 13,507.09 9,088.28 5,856.28 3,946.44 2,428.27
0.1 m/sec 15,942.21 12,717.86 8,204.59 5,134.47 3,438.55 2,133.24 1,313.87
Fig. 12

The number of deposited particles per one meter interval from upstream boundary in the rectangular open channel with a siltfence in the case of each ratio of particle settling velocity to approaching velocity

The ratio is set to 0.04 (a), 0.02 (b), 0.01 (c), 0.005 (d) and 0.0025 (e). A dash line indicates the location of the siltfence. The effective siltfence height is the same in all casese and corresponds to Case B.

これらの結果から,シルトフェンスの有効膜高が等しいケース内において,速度比率が等しい場合,水路内での堆積場所や堆積量の分布は,ほぼ同等となることが確認できる。つまり,シルトフェンスの有効膜高と速度比率(シルトフェンスなしの場合の比率)が同じであれば,粒子の堆積状況はおおむね同等となることがわかる。すなわち,シルトフェンスを設置することで,流れ場の鉛直成分が発生し,速度の水平成分との速度比率が局所的に変化するが,その変化はシルトフェンスの有効膜高で決定されていることがわかる。また,有効膜高が同じであれば,その変形形状も,ほぼ同等になるためシルトフェンス付近での速度比率の局所的変動分もほぼ同等となる。これは,「ふかれ」が支配的となる場合において,水平方向に付与する流速のみで,任意の沈降速度(粒子径)の懸濁粒子の堆積状況が予測可能となることを意味している。すなわち,小田らのおよび青木らにより提案された有効膜高の推定式をもとに,当該シミュレーションを実施すれば,任意の一様流速下,任意の沈降速度の懸濁粒子のシルトフェンスによる沈降状況が予測可能となる。

最後に,流速が等しくシルトフェンスを設置しない場合とシルトフェンスを設置し,重錘の重さをTable 1のCase A,B,C,Dと変化させた場合(沈降速度は,左側にて2 mm/秒,右側にて0.125 mm/秒の結果を示す)の堆積状況の比較結果をFig. 13に,水路内での累積堆積量の比較結果をFig. 14に示す。これらの結果から,シルトフェンスを設置した場合,1~2 mの区間(シルトフェンス設置位置より上流側)で多くの粒子が堆積していること,シルトフェンスの重錘が重い(すなわち有効膜高が大きい)ほど,その堆積数が多いことが確認できる。以上,有効膜高が大きいシルトフェンスほど,その設置位置付近(上流側と下流側)に多くの粒子を堆積させることができることがわかる。この理由は,有効膜高が大きい方が,より鉛直下方への流速成分がシルトフェンス付近で局所的に発生し,多くの粒子を下方へと移動させることが可能となるためである。その一方,沈降速度が速く流速が遅い場合(速度比率が大きい場合)は,有効膜高が小さいほうが,シルトフェンスの通過後の区間当たりの堆積量が多くなる傾向があることが確認できる。この効果だけに着目すれば,シルトフェンスを設置しないほうが,より早く堆積させられることが確認できる(Fig. 14参照)。この逆効果が表れる原因として,流れとともに早期に堆積するような粒径の大きい懸濁粒子の場合,懸濁粒子の多くは,速やかに下層へと沈降するが,シルトフェンス付近で水平方向の流れが増大することで,下流方向に流される状況がより促進されるためと考えられる。その一方,速度比率が小さい場合,シルトフェンス付近で,有効膜高が大きいほうが堆積量は大きくなるが,シルトフェンス通過後の堆積量は,すべての有効膜高で,少なくなることが,Fig. 13から確認できる。以上より,速度比率が小さい場合,有効膜高を大きくすることで,シルトフェンス設置位置付近に堆積させる堆積促進効果が期待できる(Fig. 14参照)。この状況は,おおよそ経験的に知られている事実(Fig. 1参照)と一致しており,シルトフェンスによる懸濁粒子の堆積促進効果が検証されたと考えられる。しかし,上記のように逆効果となる場合も存在することに注意する必要があり,堆積が促進される条件をさらに明確化する必要がある。また,実際の河川や水路では,条件によっては堆積した懸濁物質が再浮遊することがあることが報告11されているが,本論文では一度堆積した粒子は再浮遊しない条件でシミュレーションを行っている点に注意が必要である。すなわち,実際の現場での評価の際には,シルトフェンス下を通過する流速と水底のせん断応力(限界せん断応力)との関係を考慮する必要があることがわかる。

Fig. 13

The number of deposited particles per one meter interval from upstream boundary, when the weight of a siltfence ballast is changed and the approach velocity is set to 0.025 m/sec (a), 0.05 m/sec (b) and 0.1 m/sec (c)

The settling velocity of the particle is 2 mm/sec (left) and 0.125 mm/sec (right). When the siltfence is installed, the number of the deposited particles depends on the timing at setting the particles at the initial position. A dash line indicates the location of the siltfence.

Fig. 14

The accumulated number of deposited particles from upstream boundary, when the weight of a siltfence ballast is changed and the approach velocity is set to 0.025 m/sec (a), 0.05 m/sec (b) and 0.1 m/sec (c)

The settling velocity of the particle is 2 mm/sec (left) and 0.125 mm/sec (right). A dash line indicates the location of the siltfence.

IV. まとめ

本研究では,懸濁粒子の堆積に対するシルトフェンス設置の効果を,幅が一定の水路において,計算機シミュレーションにより評価した。シミュレーションにより,多数の懸濁粒子の運動を個々に追跡し,その堆積位置を求めた結果,粒子の堆積位置は,速度比率(=粒子に働く「鉛直速度成分/水平速度成分」)の値により決まることが確かめられたが,その比率は,シルトフェンスの有効膜高により局所的に変化し,沈降挙動が変化することが確認された。さらに,シルトフェンスによる粒子の堆積促進効果を評価するため,流速を固定してフェンスの有効膜高を変化させたシミュレーションを行い,堆積位置の比較を行った結果,沈降速度が遅い粒径粒子(小さい懸濁粒子)に対し,有効膜高が大きいほどシルトフェンス設置場所の付近に懸濁粒子を多く堆積させられること(堆積促進効果)が確認できた。なお,シルトフェンスの通過後,沈降速度の大きい粒子は,有効膜高が小さいほど単位距離当たりの堆積量が大きくなる傾向があり,水路の途中で累積堆積量が逆転することがわかった(逆堆積促進効果)。また,一般に,沈降速度が小さい場合(微細な粒子に相当),シルトフェンスの設置位置付近に多く堆積するが,通過後の堆積量は少ないため,水路内での堆積促進を図るには,有効膜高を大きくすることが必須であることがわかった。

上記の結果より,シルトフェンス設置による懸濁粒子の堆積促進効果を確認できたが,定量的に評価する際の指標となる量(速度比率と有効膜高)が判明したことは重要な進展であると考えられる。本研究により,従来の経験的な理解から科学的かつ定量的理解(一部)に初めて到達できたことを指摘したい。なお,本論文のシミュレーションでは,一度堆積した粒子は再浮遊しない条件で実施したが,実際の河川や水路では,堆積した懸濁物質が再浮遊することがある11。再浮遊するかどうかは,流速だけでなく水底の地形や堆積の状況(堆積物質の粒子の大きさや粘着性など)に大きく依存する。今後は,特定の環境を対象とし,水底のせん断応力(限界せん断応力)をも考慮したシミュレーションが必須になると考えられる。また,本論文で主眼とした状況は,「ふかれ」が支配的な場合であり,「たわみ」の大きなケース等についての解析も,今後必要である。

以上,シルトフェンスを原発港湾内の排水路等に適切に設置することで,懸濁粒子の堆積を促進させ,懸濁粒子に付着した放射性物質の海洋への拡散を抑制できる可能性があることが確認できた。ただし,水路にて発生する流速や設置予定のシルトフェンスの形状(膜長),懸濁粒子の沈降速度により,その効果は変化し,逆効果となる場合もあることがわかった。また,その効果を評価する際,理論式とシミュレーションを活用することで,その効果を予測可能であるとする知見も得られた。今後は,水路だけでなく,原発港湾内をも含めて,シミュレーション体系を拡げ,港湾からの拡散抑制という観点からの評価が求められる。なお,本シミュレーションによる評価の際,代表的条件での実験による検証も必要であり,今後,系統的な研究を一層進める必要があると考えられる。

 

本研究の一部は,原子力規制庁受託事業「平成30年度放射性物質の海洋拡散モデルの整備」として実施したものである。原子力規制庁担当官の新添氏に対し深い謝意を示す。また,㈱アーク情報システムの山口氏・木野氏,日本原子力研究開発機構の操上氏,佐久間氏,武田氏に対し,筆者らとの有用な議論に対し謝意を示す。本研究成果の一部は,日本原子力研究開発機構のスーパーコンピュータ「SGI HPE8600」を利用して得られたものである。スーパーコンピュータを運用するシステム計算科学センターのスタッフ一同の支援に感謝する。特に岩田氏には,図絵の作成に対し謝意を示す。

References
 
© 2023 Atomic Energy Society of Japan
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