Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
Online ISSN : 2186-2931
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ISSN-L : 1347-2879
Article
Circulation of Radioactive Cesium in Deciduous Broad-leaved Forests due to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident
Tomoyuki TAKAHASHITakeshi KOHDASeongjin JOEChihiro INOUE
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2023 Volume 22 Issue 2 Pages 59-72

Details
Abstract

In this report, we describe the results of a survey on the concentrations of radioactive Cs (R-Cs) in forest floor soils and leaves of trees in the forests, from 7 to 9 years after the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FDNPP). The survey areas were three natural forests mainly composed of deciduous broad-leaved trees in the Iitate village, Fukushima Prefecture. More than 7 years after the FDNPP accident, relatively higher concentrations of 137Cs have been detected in leaves of deciduous broad-leaved trees, despite the concentrations of 137Cs becoming established in the soil surface layer, particularly immobilized in frayed edge sites within clay minerals. From 2018 to 2020, the annual flux of 137Cs in the litterfall in the Shimohiso survey area was estimated to be about 5.2 kBq·m−2·year−1. In this survey area, the circulation of R-Cs is still active at a level comparable to and observed in the litterfall produced in the coniferous forest after the FDNPP accident.

I. 緒言

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「1F事故」という)では,多量の放射性物質が放出された。国会事故調報告書1によると,ヨウ素換算では約900 PBq(ヨウ素131:500 PBq,セシウム137:10 PBq)と,チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故におけるINES評価5,200 PBqと比較して約6分の1の放出量と推定されている。1F事故から10年経過後,除染作業は帰還困難地域を除き生活圏周辺では,除染計画に基づき各市町村での面的除染がほぼ完了し2,空間放射線量も低下している。一方,生活圏より離れた森林は,「除染関係ガイドライン」3では除染措置の対象外となっている。しかし,福島県の森林内では放射性物質が循環・滞留していることが報告されている4

1F事故で放出され,森林に飛来・降下した放射性降下物に含まれる放射性セシウム(以下「R-Cs」という)の多くは,最初に林冠にトラップされ,数年後,林床に移動していることが報告されている5。林冠にトラップされたR-Csの多くはその後の降雨等により洗い落とされて地表に降下するが,一部は葉や幹の表面から吸収されて植物体内に取り込まれた後,落葉等に含まれた状態で落葉・落枝(以下「litterfall」という)として地表に移動している6。林床に到達したR-Csは森林の表土(A層)に含まれる粘土鉱物が保有するfrayed edge sites(以下「FES」という)に不可逆的に固定される7とともに,有機質層(O層)とA層の有機物のカルボキシル基や水酸基に静電的に結合する8。前者は粘土鉱物中からほとんど移動しないが,後者は植物の根を通じて植物に容易に取り込まれる可能性がある9,10。しかし実際の森林において,樹木の根を通じたR-Csの吸収と移動を定量的に把握する試みはそれほど多くない。

林野庁では,国立研究開発法人 森林総合研究所(以下「森林総研」という)と連携し,2011年度より福島県内の国有林において,森林内の土壌や落葉層,樹木の葉や幹等のR-Cs濃度を調査・報告しているが,主たる調査対象はスギ,ヒノキといった単一の常緑針葉樹で構成される人工林であり,落葉広葉樹林は1調査地のみである11。また,居住環境に近い自然林は調査対象とはなっていない。

樹木の部位別のR-Cs濃度の推移をみると,常緑針葉樹では2011年の事故直後では葉のR-Cs濃度が極めて高くなっており,最大340 kBq·kg−1の値が得られている。しかし2012年度以降は葉のR-Cs濃度は指数関数的に減少し,2018年度以降は数kBq·kg−1以下のレベルとなっている。一方,落葉広葉樹(コナラ)の葉では,2012年度から2020年度までR-Cs濃度は5.6~10 kBq·kg−1の間を推移しており,常緑針葉樹のような急激な濃度低下はみられていない。また,林野庁では2017年度以降,帰還困難区域とその隣接区域の森林におけるR-Cs濃度の調査も行っているが,調査の対象はスギ林のみとなっている12。2020年度の調査地点9ヵ所中で葉のR-Cs濃度は最大24.3 kBq·kg−1,7地点では10 kBq·kg−1以下であり,うち2地点では1 kBq·kg−1以下であった。なお,2017年度から2020年度の間で,葉のR-Cs濃度の急激な低下はみられていない。

Imamuraら13は2011年から2015年までの5年間福島県と茨城県の5ヵ所の森林で,スギ,ヒノキ,アカマツ,コナラの4種の樹木について,葉,枝,樹皮,幹の137Cs濃度の測定を行った。その結果,3種類の常緑針葉樹では葉,枝および樹皮の137Cs濃度が時間の経過とともに指数関数的に減少すること,またスギとヒノキの幹においては137Csの濃度が時間とともに若干増加することを示した。一方,落葉広葉樹のコナラの葉の137Cs濃度は,毎年落葉により葉が更新されるにも関わらず5年間ほとんど変化しないという結果も示している。しかしながら,コナラの葉の137Cs濃度が数kBq·kg−1で5年間推移している理由については示されていない。

本研究では,1F事故から7年後(2018年)以降の福島県相馬郡飯舘村の居住環境に近い落葉広葉樹混交林3ヵ所を対象として,その林床土壌や樹木の生葉に含まれる137Cs濃度について,特に落葉広葉樹に着目し,調査検討を行った結果を報告する。落葉広葉樹混交林において,1F事故から7年後以降も林内において落葉広葉樹混交林における優占樹種となっている落葉広葉樹の生葉にR-Csが高濃度で蓄積し,森林の生態系内で循環していることを明らかにする。

II. 材料と方法

1. 調査区と調査期間

調査区は,福島県相馬郡飯舘村飯樋(Iitoi),下比曽(Shimohiso),蕨平(Warabidaira)の旧居住制限区域内の落葉広葉樹混交林3ヵ所(Fig. 1)とした。

Fig. 1

Iitate village Iitoi, Shimohiso, Warabidaira survey area map

(Google Map).

飯樋の調査区(以下「飯樋調査区」という)は小高い丘陵の傾斜面にあり,大量の降雨がある場合,表層部は流失しやすい地形となっている。飯樋調査区の土壌層は表層の一部に暗色のO層,A層があり,以深は茶褐色のB層が形成されている。下比曽の調査区(以下「下比曽調査区」という)は,背後の山から続く森林端で窪地となっており,周辺より雨水等が流入しやすく降雨後は一部が湿地化する地形である。この調査区の土壌層は河川により運搬された岩石の上や隙間に形成され,深さ50 cmまで暗黒色をしており,深さ10 cmまではO層,以深はA層が形成されている。また,地下水位が高く,サンプリングの時期によっては,サンプリング地点の地下水面が表層から深さ20 cm付近に現れることもある。蕨平の調査区(以下「蕨平調査区」という)は,山間の緩やかな傾斜面にあり,雨水等も流入しやすい地形となっており,深さ30 cmまで暗黒色をしており,表層はO層,以深はA層が形成されている。飯樋調査区と下比曽調査区は,農耕地に隣接し居住環境に近い場所に位置している。なお,各調査区は,いずれも2017年3月31日に居住制限区域の指定を解除されている。

土壌サンプリングは,各調査区にて,2018年11月,2019年5月,2019年11月,2020年6月,2020年10月に実施し,3サンプルずつ採取した。樹木の生葉および落葉も同時期にサンプリングした。各調査区は,落葉広葉樹を主とした混交林であり,落葉広葉樹の生葉のほか,比較のため常緑針葉樹の生葉もサンプリングした。樹木の生葉サンプリングは,土壌サンプリングした地点を中心に,およそ10 mの範囲で実施した。サンプリングできた樹木は各所15種程度であるが,各調査区共通にみられた樹種は7種であった。なお,その範囲内では同種で複数のサンプリングができなかった種もあった。

2. 調査区の空間放射線量

飯樋・下比曽調査区周辺は,生活圏に比較的近いため除染作業が実施されている。各調査区の混交林でも除染作業が行われていた可能性があり,落葉等の回収や土壌流出防止対策が実施されたと推測される(「除染関係ガイドライン」3)。空間放射線量は,環境省「除染情報サイト」のモニタリング結果(除染後測定時期,2012年11月~2016年12月)14によると,各調査区周辺も含めた空間線量率(1 m高メッシュマップ)は,1.0~1.9 µSv·h−1(平均値)と示されている。

3. 試料サンプリング,測定用サンプルの作成方法および放射線量の測定方法

林床土壌の試料は,表層より深度30 cmまでをコアサンプリング後,5 cmごとに分割,各々に含まれる137Csの乾燥重量(kgDW)当たりの放射線量(Bq·kgDW−1)を測定し137Cs濃度とし,土壌のかさ密度をρ = 1.3(g·cm−3)と仮定し沈着量(Bq·m−2)に換算した。土壌コアサンプリングに使用した機材は,土壌コアサンプラー(㈱藤原製作所ハンドサンプラーHS-30S,または大起理化工業㈱ハンドオーガーDIK-106B)である。それらの機材を用いて,直径5 cm × 長さ30 cmのケースを使用し,表層より深度30 cmまでの円筒形試料(コア)としてサンプルとした。樹木の生葉サンプリングは,高枝剪定用の鋏を用い,おおよそ高さ6 mまでの小枝を樹木より直接切断することで行った。落葉のサンプリングは,各調査区の表層土壌上に堆積している落葉をそのまま回収した。生葉と落葉に含まれる137Csの乾燥重量当たりの放射線量を測定し,137Cs濃度([Cs]plant·leaf)とした。測定用サンプルの作成および放射線量の測定は,土壌サンプルの場合,105 °Cにて48時間乾燥,乾燥重量(kgDW)を測定後,直径27.0 mm × 高さ60.8 mmのバイアル瓶(PerkinElmer社,低拡散ポリエチレンバイアル-20 mL)に収め,ガンマカウンター(PerkinElmer社,2480 WIZARD2,3.0インチウェル型NaI(Tl)シングルディテクター採用,検出限界25 Bq·kg−1)を使用し,20分間測定した。生葉サンプルの場合は,表面に付着している土等を流水にて数分間洗浄し,1週間以上自然乾燥した後,105 °Cにて48時間乾燥,乾燥重量(kgDW)を測定後,土壌サンプルと同様に測定した。本測定で使用したガンマカウンター(PerkinElmer社,2480 WIZARD2)による137Csの測定結果は,100 Bq·kg−1以上の137Cs濃度の試料に関し,ゲルマニウム検出器による測定結果とよく一致していることがすでに示されている15。なお,137Cs濃度は,採取日と測定日が異なっているため,137Csの半減期・減衰量の計算により採取日に再計算している。

4. 土壌有機炭素含有量の測定

有機炭素含有量測定の際は,あらかじめ土壌に含まれる無機炭素を塩酸処理にて除外した。各調査区とも深度5 cmごとに3サンプルを混合して測定している。測定は外部(㈱川田研究所)に委託し,測定機器はSCAS㈱住化分析センターSUMIGRAPH NC-220F全炭素全窒素同時測定装置である。

III. 測定結果

1. 深度別の林床土壌と落葉の137Cs濃度

Figure 2に飯樋,Fig. 3に下比曽,Fig. 4に蕨平の各調査区における林床土壌の表層より鉛直下方に5 cmごと,深度30 cmまでの137Cs濃度([Cs]soil)の測定結果を示す。またTable 1に各調査区の林床土壌の137Cs沈着量,Table 2に各調査区の2018~2020年落葉の137Cs濃度の測定結果と土壌表層部(0~5 cm)の137Cs濃度との濃度比を合わせて示す。

Fig. 2

Temporal change of 137Cs concentrations in soil sections (depth 0~30 cm) at the forest floor in the Iitoi survey area

Fig. 3

Temporal change of 137Cs concentrations in soil sections (depth 0~30 cm) at the forest floor in the Shimohiso survey area

Fig. 4

Temporal change of 137Cs concentrations in soil sections (depth 0~30 cm) at the forest floor in the Warabidaira survey area

Table 1 Depositions of 137Cs in soil (0~30 cm) 2018/11–2020/10 at the Iitoi, Shimohiso and Warabidaira survey area
    2018/11 2019/5 2019/11 2020/6 2020/10
Survey area Soil section depth 137Cs
(kBq·m−2)
mean
±SD (n) Deposition
/inventry
(%)
137Cs
(kBq·m−2)
mean
±SD (n) Deposition
/inventry
(%)
137Cs
(kBq·m−2)
mean
±SD (n) Deposition
/inventry
(%)
137Cs
(kBq·m−2)
mean
±SD (n) Deposition
/inventry
(%)
137Cs
(kBq·m−2)
mean
±SD (n) Deposition
/inventry
(%)
Iitoi 0~5 cm 914 506 (3) 92.0% 1,046 412 (3) 85.9% 685 224 (3) 93.5% 878 745 (3) 78.8% 837 554 (3) 93.3%
5~10 cm 41 6 (3) 4.1% 131 104 (3) 10.8% 30 18 (3) 4.1% 118 89 (3) 10.6% 47 26 (3) 5.3%
10~15 cm 21 11 (3) 2.1% 27 5 (3) 2.2% 12 8 (3) 1.6% 92 127 (3) 8.3% 7 5 (3) 0.8%
15~20 cm 13 8 (3) 1.3% 6 5 (3) 0.5% 3 1 (3) 0.4% 21 36 (3) 1.9% 2 1 (3) 0.2%
20~25 cm 3 2 (3) 0.3% 3 0 (3) 0.2% 1 0 (3) 0.2% 3 5 (3) 0.3% 1 1 (3) 0.2%
25~30 cm 2 1 (3) 0.2% 4 1 (3) 0.3% 2 0 (3) 0.2% 2 2 (3) 0.2% 2 2 (3) 0.2%
total 994     100.0% 1,217     100.0% 733     100.0% 1,115     100.0% 897     100.0%
average 166       203       122       186       150      
Shimohiso 0~5 cm 11,361 4,601 (3) 80.8% 3,580 2,081 (4) 78.5% 4,527 3,529 (4) 54.7% 2,548 1,482 (3) 88.0% 2,196 637 (3) 84.5%
5~10 cm 1,653 1,158 (3) 11.8% 578 744 (4) 12.7% 2,285 1,192 (4) 27.6% 201 258 (3) 6.9% 267 151 (3) 10.3%
10~15 cm 476 406 (3) 3.4% 128 116 (4) 2.8% 764 628 (4) 9.2% 66 84 (3) 2.3% 73 32 (3) 2.8%
15~20 cm 187 192 (3) 1.3% 67 34 (4) 1.5% 335 113 (4) 4.0% 26 31 (3) 0.9% 27 9 (3) 1.0%
20~25 cm 299 300 (3) 2.1% 54 29 (4) 1.2% 277 141 (4) 3.3% 28 40 (3) 1.0% 15 9 (3) 0.6%
25~30 cm 79 0 (3) 0.6% 155 156 (4) 3.4% 95 74 (4) 1.1% 26 36 (3) 0.9% 21 12 (3) 0.8%
total 14,055     100.0% 4,562     100.0% 8,283     100.0% 2,895     100.0% 2,599     100.0%
average 2,343       760       1,380       483       433      
Warabidaira 0~5 cm 4,568 2,878 (3) 91.6% 2,692 1,357 (3) 95.9% 1,890 1,002 (3) 36.4% 1,417 1,388 (3) 86.5% 1,914 1,587 (3) 97.3%
5~10 cm 374 529 (3) 7.5% 86 51 (3) 3.0% 2,161 705 (3) 41.6% 154 319 (3) 9.4% 36 45 (3) 1.8%
10~15 cm 19 19 (3) 0.4% 12 5 (3) 0.4% 1,000 32 (3) 19.3% 46 94 (3) 2.8% 5 3 (3) 0.2%
15~20 cm 20 20 (3) 0.4% 5 2 (3) 0.2% 83 83 (3) 1.6% 13 25 (3) 0.8% 4 5 (3) 0.2%
20~25 cm 4 5 (3) 0.1% 6 4 (3) 0.2% 34 10 (3) 0.7% 4 4 (3) 0.2% 4 3 (3) 0.2%
25~30 cm 3 0 (3) 0.1% 5 3 (3) 0.2% 21 14 (3) 0.4% 5 4 (3) 0.3% 4 3 (3) 0.2%
total 4,989     100.0% 2,806     100.0% 5,189     100.0% 1,639     100.0% 1,967     100.0%
average 831       468       865       273       328      

Below the decimal point, rounded to the nearest five.

Table 2 Concentration ratio of 137Cs in deciduous leaves (fallen leaves) and surface of soil section (0~5 cm) at the Iitoi, Shimohiso and Warabidaira survey area
Survey area year/month ①Deciduous leaves
(fallen leaves)
②Surface of soil section (0~5 cm) (kBq/kg) ①/②
Iitoi 2018/11 24.7 ± 22.1 (n = 5) 14.1 ± 4.5 (n = 3) 1.8
2019/5 1.5 ± 0.1 (n = 2) 16.1 ± 3.7 (n = 3) 0.1
2019/11 6.0 ± 0.0 (n = 1) 10.5 ± 2.0 (n = 3) 0.6
2020/6 6.1 ± 2.8 (n = 4) 17.0 ± 5.5 (n = 6) 0.4
2020/10 6.9 ± 8.0 (n = 2) 12.9 ± 8.5 (n = 6) 0.5
Shimohiso 2018/11 18.9 ± 8.8 (n = 6) 174.8 ± 40.9 (n = 3) 0.1
2019/5 44.8 ± 16.8 (n = 3) 55.1 ± 16.0 (n = 4) 0.8
2019/11 52.1 ± 49.8 (n = 4) 69.6 ± 31.7 (n = 3) 0.7
2020/6 6.1 ± 0.9 (n = 2) 24.6 ± 8.7 (n = 5) 0.2
2020/10 28.7 ± 16.9 (n = 2) 33.8 ± 9.8 (n = 6) 0.8
Warabidaira 2018/11 13.7 ± 19.5 (n = 4) 70.3 ± 25.6 (n = 3) 0.2
2019/5 3.3 ± 4.7 (n = 1) 41.4 ± 12.5 (n = 3) 0.1
2019/11 4.0 ± 6.0 (n = 3) 29.1 ± 8.9 (n = 3) 0.1
2020/6 5.6 ± 5.5 (n = 2) 15.3 ± 5.8 (n = 6) 0.4
2020/10 6.9 ± 5.2 (n = 4) 29.4 ± 24.4 (n = 3) 0.2

mean ± standard deviation (kBq·kgDW−1).

飯樋調査区の林床土壌は,いずれの採取時期においても,おおむね表層部(0~5 cm)に137Cs濃度のインベントリー(0~30 cmまでの137Cs沈着量合計)の約8割以上が集中しており,137Csの5 cm以深への移行はごくわずかであった。この結果は,これまでに報告された林床土壌の鉛直下方の分布1113と同様の傾向を示していた。表層部(0~5 cm)の137Cs沈着量は685 kBq·m−2から1,046 kBq·m−2の範囲で推移した。

下比曽調査区の林床土壌は,飯樋調査区と比較して137Cs沈着量が全体的に多く,表層部(0~5 cm)は,2,196 kBq·m−2から11,361 kBq·m−2の範囲で推移していた。2019年11月の土壌サンプルを除くと,インベントリーの約8割以上が表層部(0~5 cm)に集中していた。また,深度5~10 cmでは201 kBq·m−2から2,285 kBq·m−2の範囲で推移し,10 cm以深においても数100 kBq·m−2137Cs沈着量もみられた。

蕨平調査区の林床土壌は,飯樋調査区と下比曽調査区の中間的な137Cs沈着量であり,表層部(0~5 cm)は,1,417 kBq·m−2から4,568 kBq·m−2の範囲で推移した。2019年11月の土壌サンプルを除くと,インベントリーの約8割が表層部(0~5 cm)に集中していた。2019年11月採取の土壌サンプルは,表層部(0~5 cm)の1,890 kBq·m−2より深度5~10 cmの方が2,161 kBq·m−2と多く,深度10~15 cmにおいても1,000 kBq·m−2を示していた。

Table 2に示した3調査区の落葉の137Cs濃度の比較では,他の2調査区と比べて下比曽調査区の値が最も高くなっている。3調査区の落葉と同時期に採取した表層部(0~5 cm)の137Cs濃度との濃度比は,2018年11月の飯樋調査区の結果を除いてすべて1.0以下となっており,落葉より表層部(0~5 cm)の方が137Cs濃度は高くなっていた。この傾向は林野庁が行った「帰還困難区域とその隣接区域の森林に存在する放射性セシウムの調査結果について」のスギ林の調査結果(2020年度調査した9調査地中7調査地で表層土壌の方がR-Cs濃度が高い)12とも一致している。しかし,同じく林野庁が行った落葉広葉樹林(コナラ)の調査では,2012年から2019年までの8年間,落葉の方が表層部(0~5 cm)土壌よりR-Cs濃度が高いという結果となっており,今回の調査とは異なっていた。

2. 樹木の生葉の137Cs濃度

2018年11月,2019年5月・11月,2020年6月・10月の飯樋,下比曽,蕨平の各調査区について共通する樹木7種(落葉広葉樹6種,常緑針葉樹1種)名をTable 3に示す。これらの7種の植物の生葉に関する137Cs濃度([Cs]plant·leaf)の測定結果を,Fig. 5に飯樋,Fig. 6に下比曽,Fig. 7に蕨平の各調査区を示す。

Table 3 Species of deciduous broad leaf trees and conifer (3 survey areas common trees)
慣用名 学名 科・属 種類
ミズキ Cornus controversa ミズキ科ミズキ属 落葉広葉樹
エノキ Celtis sinensis アサ科エノキ属 落葉広葉樹
エゴノキ Styrax japonica エゴノキ科エゴノキ属 落葉広葉樹
ミズナラ Quercus crispula ブナ科コナラ属 落葉広葉樹
イタヤカエデ Acer mono ムクロジ科カエデ属 落葉広葉樹
ハナノキ Acer pycnanthum カエデ科カエデ属 落葉広葉樹
アカマツ Pinus densiflora マツ科マツ属 常緑針葉樹
Fig. 5

Temporal change of 137Cs concentrations in live leaves both deciduous broad-leaved trees and conifer in the Iitoi survey area

①: Cornus controversa, ②: Celtis sinensis, ③: Styrax japonica, ④: Quercus crispula, ⑤: Acer mono, ⑥: Acer pycnanthum, ⑦: Pinus densiflora.

Fig. 6

Temporal change of 137Cs concentrations in live leaves both deciduous broad-leaved trees and conifer in the Shimohiso survey area

①: Cornus controversa, ②: Celtis sinensis, ③: Styrax japonica, ④: Quercus crispula, ⑤: Acer mono, ⑥: Acer pycnanthum, ⑦: Pinus densiflora.

Fig. 7

Temporal change of 137Cs concentrations in live leaves both deciduous broad-leaved trees and conifer in the Warabidaira survey area

①: Cornus controversa, ②: Celtis sinensis, ③: Styrax japonica, ④: Quercus crispula, ⑤: Acer mono, ⑥: Acer pycnanthum, ⑦: Pinus densiflora.

飯樋調査区の落葉広葉樹の生葉は,0.2~4.4 kBq·kgDW−1の範囲で推移しており,他2調査区と比較すると全体的に低く,最大でもエゴノキの4.4 kBq·kgDW−1であった。生葉の137Cs濃度は樹木の種類や採取時期によっても変動があり,例えばイタヤカエデでは4回の試料採取において0.5~2.6 kBq·kgDW−1の範囲であった。同時期・同種の樹木でも137Cs濃度に幅があることが多く,例えば2020年10月に3試料採取できたエゴノキの生葉では,測定値はそれぞれ1.6, 1.6, 10.0 kBq·kgDW−1(平均値4.4 kBq·kgDW−1)であった。常緑針葉樹のアカマツの生葉は2018年11月のみ採取できており1.2 kBq·kgDW−1であった。

下比曽調査区の落葉広葉樹の生葉は,飯樋調査区と比較して全体的に137Cs濃度が高く,例えばエノキは3.1~46.9 kBq·kgDW−1,ミズナラは7.6~38.0 kBq·kgDW−1で推移していた。樹木の種類や採取時期の違いによる137Cs濃度の変動は,飯樋調査区と同様に幅があった。常緑針葉樹のアカマツは1.2~11.0 kBq·kgDW−1の範囲で推移しており,飯樋調査区より高濃度であった。

蕨平調査区の落葉広葉樹の生葉は,飯樋調査区と比較して全体的に137Cs濃度が高いものの下比曽調査区よりは低い傾向であった。樹木の種類や採取時期の違いによる137Cs濃度の変動は,飯樋・下比曽調査区と同様に幅があった。例えば,エノキは0.4~17.9 kBq·kgDW−1の範囲,エゴノキは0.6~13.3 kBq·kgDW−1の範囲で推移していた。ミズナラは2018年11月では2.4 kBq·kgDW−1の値を示していたが,2019年11月では0.9 kBq·kgDW−1を示した。常緑針葉樹のアカマツは0.2~1.2 kBq·kgDW−1の範囲で推移し,下比曽調査区との比較では低く飯樋調査区と同程度,同じ調査区内の落葉広葉樹との比較では低かった。

各調査区の土壌から各樹木の生葉への137Csの移行係数(Tag [m2·kg−1])をTable 4に示す。移行係数(Tag)は次式で求めた。ここで土壌中の137Csのインベントリーは0~30 cmの137Cs沈着量の合計値とした。   

\begin{align*} \text{T}_{\text{ag}}\ [\text{m$^{2}\cdot$kg$^{-1}$}] &= \text{Leaf ${}^{137}$Cs concentration}\ [\text{kBq${\cdot}$kg$^{-1}$}]\\ &\quad /(\text{Soil ${}^{137}$Cs inventory}\ [\text{Bq${\cdot}$m$^{-2}$}]) \end{align*}

Table 4 Transfer factor [Tag] deciduous broad leaf trees and conifer (3 survey areas common trees)
  2018/11 2019/5 2019/11 2020/6 2020/10 Average
Iitoi
①Cornus controversa 0.0007         0.0007
②Celtis sinensis     0.0000     0.0000
③Styrax japonica   0.0015 0.0000 0.0021 0.0045 0.0020
④Quercus crispula   0.0014       0.0014
⑤Acer mono   0.0026   0.0006 0.0005 0.0012
⑥Acer pycnanthum   0.0000   0.0000 0.0000 0.0000
①–⑥ average 0.0007 0.0014 0.0000 0.0009 0.0017 0.0009
⑦Pinus densiflora   0.0000   0.0000   0.0000
Shimohiso
①Cornus controversa 0.0006 0.0003 0.0000 0.0000 0.0000 0.0002
②Celtis sinensis 0.0000 0.0002   0.0033   0.0012
③Styrax japonica 0.0003 0.0013 0.0001 0.0006 0.0002 0.0005
④Quercus crispula 0.0006 0.0021 0.0027 0.0019 0.0005 0.0016
⑤Acer mono   0.0013 0.0001 0.0006 0.0002 0.0005
⑥Acer pycnanthum   0.0004 0.0000 0.0001 0.0000 0.0001
①–⑥ average 0.0004 0.0009 0.0006 0.0011 0.0002 0.0006
⑦Pinus densiflora 0.0008 0.0001 0.0002 0.0001   0.0003
Warabidaira
①Cornus controversa 0.0001 0.0030 0.0000 0.0001 0.0000 0.0006
②Celtis sinensis 0.0000 0.0016 0.0001 0.0036   0.0013
③Styrax japonica   0.0002   0.0006 0.0029 0.0013
④Quercus crispula 0.0005   0.0002     0.0003
⑤Acer mono   0.0002 0.0000 0.0006 0.0029 0.0009
⑥Acer pycnanthum   0.0036 0.0000 0.0002 0.0000 0.0010
①–⑥ average 0.0002 0.0018 0.0001 0.0010 0.0014 0.0009
⑦Pinus densiflora 0.0001 0.0001   0.0002   0.0002

(5 decimal place, rounded).

3. 深度別の林床土壌の有機炭素含有量

3調査区の深度ごとの有機炭素含有量をFig. 8に示す。下比曽調査区は他2調査区と比較して有機炭素含有量が最も多く,次いで蕨平,飯樋調査区の順であった。

Fig. 8

Organic carbon contents in forest floor soils at the Iitoi, Shimohiso, and Warabidaira survey area

(n = 1, every 3 samples mixed).

IV. 考察

1. 各調査区の林床土壌の137Cs沈着量の違いと植物への影響

Table 1に示したように,下比曽調査区の林床土壌の137Cs沈着量は,飯樋調査区および蕨平調査区と比較して高く,下比曽調査区における広葉落葉樹の生葉の137Cs濃度([Cs]plant·leaf)と落葉の137Cs濃度も他の2調査区より高くなっている。これらの結果から,下比曽調査区においては落葉広葉樹の落葉を介して循環する137Csの量が他の2調査区より多いと考えられる。

土壌有機物は137Csを可逆的に吸着するものの,粘土鉱物のFESのように137Csを強固に固定する訳ではない16ため有機物に富むO層やA層内に根を伸長させている植物は,137Csを経根吸収9することが可能である。植物に吸収された137CsはK+と同じ経路で葉に輸送され,最終的にはそのlitterfallが地表に堆積し,その後腐植化して地中に137Csを供給すると考えられる17。各調査区のO層およびA層の厚さには違いがあり,下比曽調査区のO層およびA層の層厚は地表からおよそ50 cmの深度まであるのに対し,飯樋調査区のO層の層厚は10 cm前後,蕨平調査区は30 cm程度であった。またFig. 8に示した土壌中の有機炭素含有量の分析結果は,これら両層の層厚と調和的である。

一方,Table 4の生葉への移行係数(Tag),落葉広葉樹に関する3年間の平均値は,各調査区間での有意差はみられない(有意水準5%で両側検定のt検定ではいずれもp > 0.05)。これは各調査区間の土壌中の有機物含有量や137Cs沈着量の多少には影響を受けていないことを示唆している。

また,「II.材料と方法」に記載したとおり,飯樋調査区は傾斜地にあり地中に浸透しない雨水が表面流として流出しやすいのに対し,下比曽調査区は窪地で周辺より雨水等が流入しやすく,多量の降雨後には湿地が形成されるような地形である。そのため,下比曽調査区は周辺部より137Csの懸濁態や溶存態等の流入と滞留が生じやすい地形と考えられ,また137Csを含むlitterfallも外部へ流出し難いと考えられる。これらの要因により,下比曽調査区の混交林において137Csの蓄積が起こり,表層土壌や落葉広葉樹の生葉や落葉の137Cs濃度が他の調査区よりも高くなっていると推測される。

土壌サンプリングでは,各年・各調査区とも,ほぼ同一の場所で3サンプルずつ採取しているが,同じ調査区・同じ深度においても137Cs濃度に数10 kBq·kgDW−1の差が生じている。

林床土壌の137Cs沈着量の不均一性について,Takadaら18は1F事故より3年後(2014年7月)の福島県相馬郡の落葉広葉樹混交林における林床土壌の調査から,樹幹流,樹冠通過雨の影響,あるいは風によるリターの拡散(Yamamotoら19)の影響と推測されることを示した。本研究でも,土壌サンプリングによる137Cs濃度の調査結果において,その狭い範囲でも不均一性が示唆されることとなった。自然の要因(風雨・流水,植物の密集度,litterfallの偏った堆積,地中の生物等の影響5)による経時変化によって,比較的狭い範囲においても137Cs濃度の不均一化・局所化(hot spot/micro spot化)が進行していたものと推測される。

2. 落葉広葉樹の生葉における高い137Cs濃度について

落葉広葉樹の137Cs濃度については,Imamuraら13や林野庁11の報告にコナラの葉に関する報告が示されており参考とする。Imamuraら13は,2011年から2015年の5年間,福島県川内村と大玉村のコナラ林において,コナラの生葉の137Cs濃度が数kBq·kgDW−1でほとんど減衰せずに推移していることを示したが,本研究では,1F事故の9年後2020年6月の下比曽調査区のエノキの生葉より47 kBq·kgDW−1,ミズナラの生葉より27 kBq·kgDW−1もの137Cs濃度が検出されており,値にバラつきはあるもののこの2種の植物では高い137Cs濃度が検出されていることが多い。また蕨平調査区の5種の落葉広葉樹の生葉からも,検出された時期は様々であるが10 kBq·kgDW−1を越える137Cs濃度が検出されている。これに対し飯樋調査区においては,生葉中の137Cs濃度は最大でも約4 kBq·kgDW−1(2020年度のエゴノキ)であった。Fig. 9において生葉中で最も高い137Cs濃度がみられた下比曽調査区における6種の落葉広葉樹の生葉のサンプリング時期ごとの平均値を示すが,2020年10月を除きいずれも平均値で10 kBq·kgDW−1を越えている。

Fig. 9

Mean of live leaves of 6 species of trees

(Shimohiso survey area deciduous broad leaf tree) (2018/11 – 2020/10) (n = 10, 13, 6, 9, 10).

Table 4の下比曽調査区において137Cs濃度が高い傾向を示していたエノキの移行係数(Tag)の平均値は0.0012,ミズナラは0.0016であり,他樹種と比較すると高い傾向にある。参考として,ミズナラと同じコナラ属である,森林総研が行った三ツ石コナラ林コナラ(Quercus serrata11の2018~2020年のR-Cs濃度(kBq·kgDW−1)測定結果をもとに,三ツ石コナラ林の落葉層および土壌R-Cs濃度(0~20 cm)より137Cs沈着量を算出し,葉へのTagを試算した結果,三ツ石コナラ林コナラの移行係数(Tag)は0.0015となり下比曽調査区のミズナラと比較的近い値となった。137Cs沈着量の違う調査区であっても同じ属の樹種は,ほぼ同様の移行率の傾向を示すことが示唆された。

一方,本研究における樹種の違いによる137Cs濃度の差が生じている事象について,同種の葉の137Cs濃度を調査したKajimotoら20の報告例がある。福島県内(川内村,大玉村,只見町)の調査区,川内村・スギ人工林ミズキの2012年におけるR-Cs濃度は7.41 kBq·kgDW−1,2013年は2.71 kBq·kgDW−1,大玉村・スギ林,アカマツ林および広葉樹林のミズキのR-Cs濃度は2012年0.33 kBq·kgDW−1,2013年0.25 kBq·kgDW−1,只見町・スギ人工林のミズキでは2012年0.14 kBq·kgDW−1,2013年0.01 kBq·kgDW−1,同調査区内のイタヤカエデでは2012年0.55 kBq·kgDW−1,2013年0.76 kBq·kgDW−1,エゴノキでは2012年0.35 kBq·kgDW−1,2013年1.44 kBq·kgDW−1,只見町 スギ人工林のミズナラでは2012年0.25 kBq·kgDW−1である。Kajimotoら20の調査結果では,同じ調査区内の同じ樹種でも年度によってバラツキがあり,違う調査区間の同樹種でもバラツキがみられた。また,各調査区ではR-Cs沈着量の違いがあるものの,常に高いR-Cs濃度傾向を示す樹種はみられていない。

樹種によって137Cs移行率に違いが生じる理由として,植物生理学的な観点では,例えば根細胞レベルでのイオン吸収特性の違いも考えられるが,Kanasashi21らは同一サイト内の個体間のCs経根吸収量のバラツキが無視できないこと,根の分布やCs経根吸収能の個体間差があるためとし,またOhashiら22は同一樹種でもサイトによって経根吸収特性が大きく異なることを示唆している。一方,落葉広葉樹のコシアブラ(Eleutherococcus sciadophylloides)については研究が進んでおり,Sugiuraら23は経根吸収能が他の樹種より高い可能性があること,Ogawaら24は,土壌表層部の高濃度な層に根を張る性質によって137Csの高濃度化が起こることを示し,またTakenakaら25は,コシアブラ根圏でのアーバスキュラー菌根の形成率が高いほど137Csの経根吸収率が高いことを示唆している。

本研究における同じ調査区・採取時期・種の生葉において137Cs濃度にバラツキがみられた要因については,各樹木の植位置・根を張る範囲の土壌中の137Cs沈着量の差(不均質化・局所化による経根吸収可能な137Cs溶存態量の差)の影響,Cs経根吸収能の個体間差によるものと推測しているが,今後,樹種の違いによって137Cs濃度差が生じる要因を検証していく必要があると考えられる。

一方,常緑針葉樹(アカマツ)の生葉の137Cs濃度は,全体的に10 kBq·kgDW−1を超えることは稀であり,ほぼ2 kBq·kgDW−1以下で推移している。落葉広葉樹と比較して137Cs濃度が低い傾向がみられ,この傾向は森林総研の調査報告11とも一致している。

常緑針葉樹(アカマツ)の2018年11月~2020年10月までの移行係数(Tag)の平均値は,飯樋調査区は0.0000(<0.00005),下比曽調査区は0.0003,蕨平調査区は0.0002となり,落葉広葉樹(6種)の平均より低い値となった。ミズナラの例と同様に,参考として森林総研が行った館山アカマツ林11アカマツの2018~2020年の移行係数(Tag)を算出した結果,館山アカマツ林アカマツでは0.0005となり,同様に比較的近い値となった。

3. 下比曽調査区における落葉による137Csの循環量の推定について

下比曽調査区全体の樹木の生葉に含まれる137Csの量を推定する。Fig. 10の下比曽調査区の航空写真により,森林の範囲(西側と北側を農耕地との境界で区切る)を仮定するとその面積は約25,000 m2(2.5 ha)となる。下比曽調査区の混交林内を調査したところ,常緑針葉樹は周辺部に数本,常緑広葉樹も林内に数本しかなかったことから,全体をほぼ落葉広葉樹とみなすことができる。Tadagi26はブナ・ナラ類等が含まれる落葉広葉樹林(陰樹)の葉絶乾重は3.5 ton·ha−1であるとしており,この値を用いて下比曽調査区混交林の生葉の総葉絶乾重を計算すると8.75 tonとなる。秋になると落葉広葉樹はすべて落葉するため,litterfallとなってこの調査区に還流する137Csの量が推定できる。

Fig. 10

Shimohiso forest edge

(Google Earth MAP).

Figure 9に示したデータのうち落葉時期に相当する2018年11月・2019年11月・2020年10月における6種全体の137Csの濃度の平均値を用い,総葉絶乾重を乗じることにより,この調査区に還流する137Csの総量が計算され,2018年11月は約217 MBq,2019年11月は約120 MBq,2020年10月は約53 MBqと算出される。単位面積当たりの137Cs還流量は,それぞれ約8.7 kBq·m−2,約4.8 kBq·m−2,約2.1 kBq·m−2と推定され,単純平均すると5.2 kBq·m−2となる。2020年10月の環流量が少ない原因として,後述するように2019年10月の豪雨の影響で表層土壌が攪乱され,2020年の春から秋にかけて樹木が吸収可能な137Csの量が減少したことが考えられる。下比曽調査区の落葉の137Cs濃度もバラつきはあるものの明確な減少傾向はみられていない(Table 2)。したがって下比曽調査区においては1F事故から7年経過した後でもなお相当量の137Csを含むlitterfallが生じており,森林内の137Csの循環に寄与していると結論付けられる。

参考として,森林総研11の2011~2020年における各調査地のR-Cs蓄積量の部位別分布割合およびR-Csの単位面積当たり蓄積量の合計,三ツ石コナラ林の調査結果,2018~2020年の各合計蓄積量(葉,枝,樹皮,材,落葉層,土壌)の葉の割合からR-Cs蓄積量を算出した。2018年は約2.2 kBq·m−2,2019年は2.2 kBq·m−2,2020年は2.5 kBq·m−2,3年間の平均では2.3 kBq·m−2となる。単純平均では,下比曽調査区の137Cs蓄積量は三ツ石コナラ林の2倍以上となるが,三ツ石コナラ林ではその推移はほぼ一定であるのに対して,下比曽調査区は年ごとに減少傾向にあり,2020年ではほぼ同じ137Cs蓄積量となる。三ツ石コナラ林の土壌のR-Cs蓄積量を同じく算出すると,2018年466 kBq·m−2,2019年298 kBq·m−2,2020年459 kBq·m−2となる。下比曽調査区は,2018年11月14,055 kBq·m−2,2019年11月8,283 kBq·m−2,2020年10月2,599 kBq·m−2Table 1 Shimohiso total)と減少傾向にあり,葉の137Cs濃度に影響を与えているものと推測される。

4. 2019年11月 林床土壌の137Cs沈着量の一部に変化がある事象と2020年6月,10月の137Cs沈着量の変化について

Table 1の2019年11月 蕨平調査区では,土壌表層部(0~5 cm)の沈着量よりも以深に増加がみられた。2018年11月より2020年10月の2年間では,2019年11月を除くと各調査区ともインベントリーの約8割以上が土壌表層部(0~5 cm)に集中し,以深では指数関数的な減少傾向を示している。2019年11月,蕨平調査区の深度(5~10 cm)でもインベントリーの約42%,深度(10~15 cm)でも約19%である。過去2回(2018年11月,2019年5月)の調査結果と比較してもその変化は顕著であり,同様の傾向は下比曽調査区でもみられた。蕨平調査区の2019年5月と11月のd1/2(インベントリーの1/2が含まれる地表面から鉛直下方への土層の厚さ)から,この半年間で移動した137Csの移動速度を概算すると10 cm·year−1程度と,それ以外の期間ではみられない変化となっている。

福島県内での137Csの鉛直下方への移動に関してはTakahashi28らによる2011~2017年までの福島県川俣町の3サイト(Mixed forest, Mature cedar, Young cedar)のYoung cedar(スギ林(若木))における林床土壌の落葉層,土壌表層,土壌層(0~20 cm)のCs濃度の鉛直下方への経時的移動が報告されている。緩衝深度は0.08 cm·year−1で常に増加していると試算され,137Cs濃度の鉛直下方への経時的移動の推移においても土壌層5 cm以深への増加傾向は小さい。また,チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故における137Csの下方浸透速度は極めて遅く,0.1 mm·year−1~1.0 cm·year−1程度2931,あるいは土壌表層部にほぼ留まっている32との報告もある。

一部に変化がある事象は2019年11月のみ起こっており,翌年の2020年6月と10月では,土壌表層部から深度−30 cmまでの指数関数的な減少傾向は,2019年11月より前の状態に戻っている。一方,インベントリーは2019年11月より前の状態と比較して減少傾向にある。このインベントリーの減少傾向は,前月の台風による大雨27によって137Csを含む土壌粒子(懸濁態)や地中の溶存態が流出した影響と推測される。

地中における137Cs沈着量の一部に変化が生じる理由としては,既往研究では土壌動物(ミミズ,モグラなど)による地中内の攪乱(物理的なプロセス)5もあり,2019年11月の事象はそれを捉えた可能性も十分にある。

今回調査を行った蕨平調査区や下比曽調査区のような雨水が流入あるいは滞留する地形,リターが多く堆積している林床土壌では,大雨による攪乱によって変化が生じる可能性もあり,今後検証する必要がある。

V. まとめ

1F事故から7年後以降の福島県相馬郡飯舘村の居住環境に近い落葉広葉樹混交林3ヵ所を対象として,その林床土壌の137Cs沈着量や樹木の生葉に含まれる137Cs濃度について調査検討を行った結果,以下のことが明らかになった。

  • (1)    1F事故後9年においても,調査区の森林内では,表層土壌や樹木(生葉)よりいまだに比較的高濃度の137Csが検出されており,特に下比曽調査区の落葉広葉樹の生葉では最大47 kBq·kgDW−1137Csが検出された。
  • (2)    下比曽調査区においては,1F事故から9年経過後でも137Csを含むlitterfall(2018年から2020年の3年間の平均値で5.2 kBq·m−2·year−1.)が生じ,調査区森林内の137Cs循環に寄与していると考えられる。
  • (3)    経年変化によって比較的狭い範囲においても137Cs濃度の不均質化・局所化(hot spot/micro spot化)が進行しており,今後とも続くと考えられる。
  • (4)    2019年10月の台風19号による豪雨は,調査区の森林の表層土壌に攪乱を与え,137Cs沈着量の変化に影響を与えたことが示唆された。

福島県の森林面積は全県の約70%(約972,000 ha),日本全体では約67%を森林が占めている。今後,同様の事象が発生した場合,除染作業が難しいとされる森林では,137Cs等の放射性物質が長期間循環・滞留することが懸念される。

 

土壌サンプルの化学分析を進めるに当たって,ご助言を頂いた東北大学大学院環境科学研究科 山崎 慎一フェローに対して深く御礼と感謝を申し上げます。

References
 
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