Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Effect of Decay Heat on Pyrochemical Reprocessing of Minor Actinide Transmutation Nitride Fuels
Hirokazu HAYASHIYasuhiro TSUBATATakumi SATO
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 97-107

Details
Abstract

The Japan Atomic Energy Agency has chosen nitride fuel as the first candidate for the transmutation of long-lived minor actinides (MA) using accelerator-driven systems (ADS). The pyrochemical method has been considered for reprocessing spent MA nitride fuels, because their decay heat should be very large for aqueous reprocessing. This study was conducted to investigate the effect of decay heat on the pyrochemical reprocessing of MA nitride fuels. On the basis of the estimated decay heats and the temperature limits of the materials that are to be handled in pyrochemical reprocessing, quantities adequate for handling in argon gas atmosphere were evaluated. From these considerations, we proposed that an electrorefiner with a diameter of 26 cm comprising 12 cadmium (Cd) cathodes with a diameter of 4 cm is suitable. On the basis of the size of the electrorefiner, the number necessary to reprocess spent MA fuels from 1 ADS in 200 days was evaluated to be 25. Furthermore, the amount of Cd–actinides (An) alloy to produce An nitrides by the nitridation–distillation combined reaction process was proposed to be about one-quarter that of Cd–An cathode material. The evaluated sizes and required numbers of equipment support the feasibility of pyrochemical reprocessing for MA nitride fuels.

I. 緒言

日本原子力研究開発機構(JAEA)では,原子力発電所で使用した燃料の再処理によって生じる高レベル放射性廃液から,半減期が長い核種を含むマイナーアクチノイド(MA: Np, Am, Cm)を分離して,これらを短半減期もしくは安定な核種に核変換する技術の研究開発を実施している1。MAの核変換技術のうち,加速した陽子ビームを核破砕ターゲットに照射し,発生する中性子を未臨界炉心へ供給することによって核分裂連鎖反応を継続させる加速器駆動システム(ADS)を用いる方法では,核変換用燃料として,高濃度で超ウラン元素(TRU: MAおよびPu)を含有する窒化物燃料を第一候補としている2

TRUを高濃度で含む燃料は,γ線や中性子の放出に加えて,崩壊熱のため,取り扱いが難しいことが知られている3。このような燃料は,十分な冷却ができない場合には,自らの発熱によって高温になることが予想され,これまで,MA核変換用窒化物燃料については,燃料粉末および燃料集合体の除熱に関する検討が行われている4。これによると,燃料粉末貯蔵時には,200~600 g程度の原料粉末を内径11~21 mm,高さ500 mm程度の容器に入れ,水中で冷却することによって粉末を200 °C以下に保つことが推奨されている4。また,直径6.49 mm高さ8.0 mmの燃料ペレットを125個入れた燃料棒121本からなる燃料集合体については,流速0.5 m/sの空気冷却によって被覆管を制限温度である450 °C以下に保つことが可能であることが示されている4

ADSによる核変換では,2年程度の運転期間中に燃料中のMAの20%程度を核変換し,その後,使用済燃料をすべて取り出し,使用済燃料中に残存するアクチノイド(An)を分離回収し,これを用いて再び燃料を製造して核変換を行うとしている2。ADSで用いるTRU濃度の高い核変換用燃料については,発生する放射線および崩壊熱のため湿式再処理で用いられている有機溶媒の使用が困難であり,溶媒として溶融塩や液体金属を用いる乾式再処理法が適していると指摘されている5。また,1日に10 kg程度の比較的少量の使用済ADS燃料を取り扱うための乾式再処理用プロセス機器は小規模なものになると推測されている5。これらを踏まえて,JAEAでは,MA核変換用窒化物燃料の再処理方法として,溶融塩電解を主工程とする乾式再処理法の研究開発を行っている68。しかし,これまでには,定量的な崩壊熱の影響評価,およびこれに基づく装置規模の検討は実施していない。

本研究では,MA核変換用窒化物燃料の乾式再処理における崩壊熱の影響を評価することを目的とする。そのため,まず,使用済MA核変換用燃料組成の計算結果から,乾式再処理法の各工程で取り扱うことが想定されている物質の発熱密度を導出し,この発熱密度および物質の物性と形状をもとに,取り扱い時の物質の温度を評価する。次に,各物質について,取り扱うことが可能な温度の上限を設定し,上限温度を超えないような物質量を検討して,乾式再処理プロセスにおいて取り扱う物質量の規模を評価する。さらに,1日当たりの物質処理量および処理速度の検討を踏まえて,乾式再処理用プロセス機器のサイズおよび数量を評価する。なお,物質温度評価に用いる除熱計算モデルおよび物性推定値などの評価条件の選定においては,妥当と考えられる評価条件の範囲の中で除熱の効果を小さく見積もる,すなわち保守側に評価するような条件を採用することとする。よって,本報において得られる物質量規模および機器サイズは保守側の評価値,すなわち妥当と考えられる評価値範囲内の最小値に相当するものである。

II. 崩壊熱による温度上昇の評価方法

1. 対象とする物質

使用済MA核変換用窒化物燃料の再処理については,高速炉用金属燃料について研究開発が実施されてきた溶融塩電解法に基づく乾式再処理法を適用することが検討されている68。溶融塩電解法では,Anイオンを含んだ塩化リチウム-塩化カリウム(LiCl-KCl)共晶溶融塩を塩浴として用い,使用済燃料を陽極として電解を行い,液体カドミウム(Cd)陰極にAnを回収する(Fig. 1(a))。Cd陰極中にAnを回収したCd-An合金から窒化物燃料の原料を製造する蒸留窒化工程では,Cd-An合金を窒素ガス雰囲気中において700~800 °C程度で加熱し,An窒化物を製造する(Fig. 1(b))69

Fig. 1

Schematic diagrams of the pyrochemical reprocessing of the spent MA transmutation nitride fuels for ADS

本研究で検討対象とする物質は,上記の各工程で取り扱う,使用済燃料ペレット,溶融塩電解用塩浴(LiCl-KCl, An 6 wt%),Cd陰極中にAnを回収したCd-An合金(An 10 wt%),および蒸留窒化工程で製造されるAn窒化物粉末である68。また,比較のため,使用済燃料の湿式再処理において発熱性物質を含む溶液を使用した実績が豊富な水溶液について,溶融塩の場合と同じくAnを6 wt%含む系も検討対象とした。An元素の組成は,文献8における使用済MA核変換用窒化物燃料組成の計算結果に基づくものである。なお,乾式再処理プロセスは,取り扱う物質との反応が避けられない酸素や水分などを極力含まない高純度不活性ガス雰囲気で実施するため,本検討では,物質の冷却にはアルゴン(Ar)ガスを用いるとした。

2. 発熱密度および物性データ

Table 1に,文献8で報告されている熱出力800 MWのADS1基分の使用済燃料を21ヵ月冷却後に200日間で処理するとした場合の平均組成と1日当たりの処理量の推定値8,および各核種の崩壊熱に関するデータ10を用いて計算した発熱量を示す。Table 1に示したように,使用済MA核変換用燃料において,核分裂生成物元素(FP)からの発熱量は全体の1.3%であり,ほとんどがTRUからの発熱である。これを踏まえ,本評価においては,FPを含まないTRU含有物質を対象とした。Table 1に示した組成のAn元素混合物の発熱密度は0.284 W/gである。なお,TRUの中では,Cmからの発熱が73%と突出しており,その他はPuからが18%,Amからが8%である。

Table 1 Heat generation from the spent MA transmutation nitride fuel to be reprocessed in a day based on the spent fuel composition calculated in ref. 8

Element Amount
(g)
Thermal power
(W/g)
Heat generation
(W)
U 40.8 0.00067 0.0 (0.0%)
Np 6,224.7 0.00016 1.0 (0.0%)
Pu 7,697.9 0.14 1,089.7 (18.1%)
Am 6,148.5 0.08 490.9 (8.1%)
Cm 973.6 4.5 4,404.8 (73.0%)
 
Sr 32.4 0.0096 3.1
Y 16.4 0.91 14.9
Zr 11,223.2 0.000074 0.8
Nb 0.4 4.6 1.9
Ru 214.1 0.0083 1.8
Sb 3.0 1.2 3.5
Cs 279.1 0.085 23.6
Ce 358.7 0.038 13.7
Pm 17.2 0.34 5.9
Eu 22.3 0.31 7.0
 
Total 38,943.0   6,063.6 (100.0%)
Actinides 21,085.5   5,986.3 (98.7%)
Others 17,857.5   77.3 (1.3%)

Table 2に本研究で対象とした物質の物性データの推定値を示す。各物質の密度は,以下のように推定した。使用済燃料ペレットについては,使用前の燃料ペレットの物性推定値を用いることとした。充填率85%のZr0.6An0.4Nペレットについて,TRU窒化物物性データ集11の(Zr,Np,Pu,Am,Cm)Nの組成依存性を示す式から導出した室温における格子定数(0.47182 nm),理論密度(10.4553 g/cm3)および85%TDペレットの密度を求めた(ここで,%TDは理論密度に対する比である)。An窒化物粉末については,各窒化物の格子定数11を用いて本組成における加重平均値(0.49346 nm)および理論密度(14.0749 g/cm3)を導出し,粉末の充填率を30%として密度を推定した。なお,熱膨張の密度への影響は非常に小さいため,高温でのAn窒化物の理論密度は,室温での値を使用した。液体Cd-An合金(An 10 wt%)の密度は,プロセス温度である500 °Cにおける液体Cdの密度(7.78 g/cm312およびTRU金属の代表であるPuの液体状態での密度(16.86 g/cm313の加重平均値とした。固体Cd-An合金(An 10 wt%)の密度は,20 °Cにおける固体Cdの密度(8.65 g/cm314とCdの融点(321 °C)直上で安定なδ-Puの20 °Cにおける密度(15.92 g/cm313の加重平均値(9.4 g/cm3)とした。この値は,金属間化合物の生成を考慮に入れていないが,液体Cd-Pu合金の冷却時に生成すると考えられる金属間化合物であるPuCd6の室温での密度の報告値(9.3 g/cm315,16に近い値であるため,妥当な値であると判断した。500 °Cにおける溶融塩相(LiCl-KCl, An 6 wt%)の密度は,LiCl-KCl共晶溶融塩の密度(1.621 g/cm317とUCl3の密度データの融点以下への外挿値(7.512 g/cm317の加重平均から計算した。固体状態の塩については,各成分の室温での密度14を加重平均して求めた。水溶液(An 6 wt%)の密度は,Puを6 wt%含む25 °Cの3 mol/L硝酸の値(1.2 g/cm3)を用いた18

Table 2 Physical properties of the materials to be handled in pyrochemical reprocessing of the MA transmutation nitride fuels

Material Density An Conc. Thermal
power
Thermal
conductivity
(g/cm3) (wt%) (W/g) (W/L) (W/m·K)
Spent nitride fuel pellet (85%TD) 8.887 57.9 0.164 1,457 6.4 (at 100 °C)
An nitride powder (packing ratio 30%) 4.222 94.1 0.267 1,127 0.1
Liq. Cd-An (500°C) 8.7 10.0 0.0284 247 41
Solid Cd-An (packing ratio 100%) 9.4 10.0 0.0284 267 95 (at 100 °C)
Molten salt (500°C) 2.1 6.0 0.0170 35.7 0.53
Solid salt (packing ratio 100%) 2.3 6.0 0.0170 39.1 0.57a)
HNO3 soln. 1.2 6.0 0.0170 17.0 0.55

a)This value was estimated for the molten salt (LiCl-KCl) at its eutectic temperature.

これらを用いて計算したZr0.6An0.4Nペレット(An 58.2 wt%),An窒化物粉末(An 94.1 wt%),Cd-An合金(An 10 wt%),溶融塩相(LiCl-KCl, An 6 wt%),水溶液(An 6 wt%)の単位重量当たりの発熱密度は,それぞれ,0.164,0.267,0.0284,0.0170,0.0170(W/g)である。これらの発熱密度は,比較的大きな規模での取り扱い実績があり,実測値に関する報告がある発熱性物質であるU-Pu(1:1)混合酸化物粉末の発熱密度(0.0055~0.0066 W/g)19のおよそ3~50倍である。U-Pu(1:1)混合酸化物粉末9.9 kgを入れた容器の中心温度は100 °C以上に達することが報告されている19。本報告で対象とした物質については,発熱による温度上昇を抑えるために,U-Pu(1:1)混合酸化物よりも取り扱い量を少なくする必要があると予想される。また,それぞれの密度を用いて計算した各物質の単位体積当たりの発熱は,水溶液ではLa Hague再処理工場において最も発熱の大きい廃液タンクの発熱密度10 W/L3の1.7倍,溶融塩相および液体Cd相ではそれぞれ3.5および15倍程度であり,取り扱い時には効率的な除熱が必要と予想される。

各物質の熱伝導率は,それぞれ,以下の方法で推定した。Zr0.6An0.4Nペレット(85%TD)の実効熱伝導率は,Zr0.58Pu0.21Am0.21Nのデータの低温側への外挿値(8.19 W/m·K(100 °C))11)に気孔率(P)の影響を示すSchultzの式λP = λTD(1-P)1.5を適用した値とした11。一方,粉末の実効熱伝導率は,雰囲気ガスにおおむね支配され,粉末を構成する物質の熱伝導率(An窒化物の場合は約10 W/m·K程度)の影響は極めて小さいことが知られている。Arガスの熱伝導率が0~800 °Cにおいて0.016~0.044 W/m·Kであること,文献4におけるMA窒化物粉末の実効熱伝導率推定値が25%TDの場合0.054~0.145 W/m·K,40%TDの場合0.068~0.181 W/m·Kであること4,およびU-Pu(1:1)混合酸化物粉末のArガス雰囲気下での熱伝導率の測定データは35~50 °C付近において0.06~0.11 W/m·K19であること,を考慮に入れて,本検討では,0.1 W/m·Kを推定値として用いることとした。500 °Cにおける液体Cd-An合金(An 10 wt%)の熱伝導率は,液体Cdの熱伝導率41 W/m·K20と同じ値,固体Cd-An合金(An 10 wt%)の熱伝導率は,多結晶Cd固体の熱伝導率95 W/m·K(100 °C)20と同じ値と推定した。500 °Cにおける溶融塩相(LiCl-KCl, An 6 wt%)の熱伝導率は,液体状態のLiClとKClの熱伝導率データ21をそれぞれ融点以下まで外挿した500 °Cでの値 0.658 W/m·K(LiCl)および0.435 W/m·K(KCl)を共晶組成の重量分率0.45:0.55の割合で加重平均した値(0.53 W/m·K)と推定した。固体塩の熱伝導率は,上記の導出法で共晶温度である352 °Cの値を導出した値(0.57 W/m·K)と推定した。この値は,共晶組成のLiCl-KCl固体の351 °Cでの実測データ(1.0 W/m·K)22,23,およびLiClおよびKClの固体状態での熱伝導率データ(それぞれ352 °Cにおいて,1.5(外挿値)24および2.6 W/m·K25)よりも小さな値であり,内部温度上昇の評価に用いる上では保守的な設定である。水溶液の熱伝導率は室温付近での3 mol/L硝酸の熱伝導率データである0.55 W/m·K18と推定した。これは,室温付近での水の熱伝導率よりもわずかに小さい値である26

3. 温度評価

形状を円筒形に単純化した発熱性物質について,Arガスによる冷却と放射伝熱(輻射)による熱の移動を考慮して,その表面温度を評価した。また,円筒形状の物質の表面温度と中心部温度の差を,物質の発熱密度および熱伝導率をもとに導出した。

(1) 表面温度

円筒形状の発熱性物質について,Arガスによる冷却と放射伝熱(輻射)による熱の移動を考慮して,その表面温度を評価した。Arガスへの伝熱による冷却については,「自然冷却モデル」および「強制冷却モデル」を用いた。「自然冷却モデル」では円筒形状の中心軸が鉛直となるよう静置した状態での物質周辺のArガスの自然対流による冷却を,「強制冷却モデル」では円筒中心軸に対し直角方向の一定流速のAr気流による冷却を考慮した。これらのモデルでは,発熱源となる物質が円筒形状内に偏りなく存在すると仮定し,円筒形物質側面とArガスの間の熱伝達を考慮し,円筒の上下面における熱伝達は考慮していない。また,発熱性物質が液体の場合に物質内の温度分布を減少させることに寄与する発熱性物質の対流の効果については考慮していない。

「自然冷却モデル」における伝熱に関する熱伝達率hc(W/m2·K)は,円筒高さ(l),円筒表面温度とArガス温度の平均値である境膜温度におけるArガスの熱伝導率(k),レイリー数(Ra)およびRaの値に応じた係数aおよびmを用いて,(1)式で表される27,28

  
\begin{equation} h_{c} = \frac{k}{l} a R_{a}^{m} \end{equation} (1)

Raは,円筒高さ(l),円筒表面とArガスの温度差(Δt),境膜温度におけるArガスの物性値(密度(ρ),熱伝導率(k),粘度(µ),定圧比熱(cp),膨張係数(β))および重力加速度($g$)を用いて$R_{a} = l^{3 }\varDelta t \rho^{2} g \beta c_{p} / \mu k$で定義される。また,係数aとmの値は,Raに依存し,Ra > 108ではa = 0.13,m = 1/3,Ra = 104~108ではa = 0.59,m = 1/4,Ra < 104ではa = 1.36,m = 1/6である。

「強制冷却モデル」における伝熱に関する熱伝達率hc(W/m2·K)は,円筒直径(D),境膜温度におけるArガスの熱伝導率(k),レイノルズ数(Re)とReの値に応じた係数a,b,n,およびArガスのプラントル数(Pr)を用いて,(2)式で表される27,29,30

  
\begin{equation} h_{c} = \frac{k}{D} (a + b\,\textit{Re}^{n}) \textit{Pr}^{0.3} \end{equation} (2)

Reは円筒直径(D),Arガスの流速(G)および粘度(µ)を用いて,Re = D·G/µで定義される。係数a,b,nは,Re = 0.1~1,000の場合,a = 0.35,b = 0.47,n = 0.52であり,Re = 1,000~50,000の場合,a = 0,b = 0.26,n = 0.6である。また,PrはPr = µcp/kで定義される。

一方,放射伝熱による熱放射(Qr)は,円筒表面積As,円筒表面の熱放射率εs,円筒表面温度Ts(K),周壁温度Ta(K)の場合に,Qr = 5.67 × 10−8 Asεs (Ts4 − Ta4)で表される。そのため,Qr = hr As (Ts − Ta)で定義される放射熱伝達率(hr)は(3)式のように表される27,31

  
\begin{equation} h_{r} = 5.67 \varepsilon_{s} \frac{\left(\dfrac{T_{s}}{100} \right)^{4} - \left(\dfrac{T_{a}}{100} \right)^{4} }{T_{s} - T_{a}} \end{equation} (3)

本計算では,熱伝達率h(W/m2·K)は,Arガスへの伝熱による熱伝達率と放射熱伝達率の和で表されるものとして,発熱量Qの円筒形物質の表面温度(Ts)を導出した。

  
\begin{equation} h = h_{c} + h_{r} \end{equation} (4)

  
\begin{equation} Q = h A_{s} (T_{s} - T_{a}) \end{equation} (5)

ここで,冷却用Arガスの温度は25 °Cとし,Arガスの物性値は文献32および33のデータを用いた。また,「強制冷却モデル」におけるArガスの流速は,0.1,0.25,0.5,1.0,3.0,5.0 m/sとした。なお,円筒表面の熱放射率εsは,0.1とした。これは,放射伝熱による除熱の効果を小さく見積もるものであり,表面温度上昇の評価に用いる上では保守的な設定とした。

(2) 中心温度

円筒形状の物質の表面温度がTsの場合,発熱密度q′(W/m3),熱伝導度k′(W/m·K)の物質からなる半径r(m)の物質の中心部の温度(Tc)は(6)式で表される31

  
\begin{equation} T_{C} = T_{S} + \frac{q' r^{2}}{4k'} \end{equation} (6)

III. 結果と考察

まず,対象物質である,使用済燃料ペレット,溶融塩電解用塩浴,Cd陰極中にAnを回収したCd-An合金,および蒸留窒化工程で製造されるAn窒化物粉末について,II-3節に示した方法で行った温度評価の結果を示す。次に,これらの結果をもとに,乾式再処理プロセスにおける取り扱い量および装置サイズを評価する。物質の取り扱いにおいては,各物質の温度が過度に上昇せず,固体状態を保つことを条件とした。

1. 使用済燃料ペレットの温度評価

使用済燃料ペレットについて,形状は文献4の使用前燃料ペレットの形状と同様に直径6.5 mm高さ8.0 mmとし,物性値はTable 2に示した値を用いて温度評価を行った。発熱量は,ペレット1個(2.36 g,An 1.36 g含有)当たり0.387 Wである。Table 3に流速0.1~5.0 m/sの「強制冷却モデル」および「自然冷却モデル」によるArガス冷却における,円筒形状側面の表面温度,および中心温度と表面温度の差(Tc-Ts)の計算結果を示す。表面温度は,「自然冷却モデル」では182 °C,1.0 m/sの「強制冷却モデル」では102 °Cであり,グローブボックスやホットセル内での表面温度の制限値である60 °Cを超えることが示された。なお,文献4において,燃料集合体組み立て時には,0.5 m/s以上の流速の空気で冷却して被覆管表面を400 °C以下に保つことが提案されている。使用済燃料集合体の解体,および燃料棒のせん断等によって被覆管から窒化物燃料ペレットを取り出す工程では,被覆管表面が同程度の温度になると考えられるため,十分な除熱性能のある装置内での操作が必要であると予想される。

Table 3 Surface temperatures calculated for the MA transmutation nitride fuel pellet (°C)

Cooling-with-blower model Natural
cooling model
Tc-Ts
Velocity of Ar flow (m/s)
0.1 0.25 0.5 1.0 3.0 5.0    
225 167 131 102 72.5 60.3 182 0.6

2. 塩相およびCd相の温度評価

乾式再処理プロセスの溶融塩電解工程では,被覆管から取り出した使用済窒化物燃料ペレットに含まれるAnを溶融塩浴中に陽極溶解し,陰極である液体Cd相中に選択的に回収する。この工程では,塩相およびCd相は電気炉等で500 °C程度に昇温された液体状態であるが,安全性の観点からは,外部からの加熱がない場合には,これらが固体状態を保つことが望ましい。そのため,本検討では,各物質について固体状態を保つ条件において表面温度の計算を行った。

Table 2に示した固体状態の塩相の物性値を用いて「自然冷却モデル」を用いて計算した円筒形状の固体状態の塩相の側面温度,中心部温度と側面温度の差,および中心部温度をTable 4およびFig. 2に示す。これは,塩浴の一般的な形状を考慮して,円筒高さが円筒直径の半分であるとして,直径をパラメーターとして計算を行った結果である。

Table 4 Temperatures calculated for the salt phase using the natural cooling model

Diametera) Quantity Heat
generation
Surface
temperature
Ts
Tc-Ts Center
temperature
Tc
(cm) (g) (W) (°C) (°C) (°C)
10 903 15.4 145 43 183
12 1,561 26.6 169 62 231
14 2,478 42.2 192 84 276
16 3,700 63.0 214 110 324
18 5,268 89.8 237 139 347
20 7,226 123 258 172 430
22 9,617 164 280 208 488
24 12,486 213 300 248 548
26 15,875 271 320 291 611
28 19,827 338 340 337 673
30 24,387 416 358 387 745

a)Height of the cylinder shape is the half of the diameter of the cylinder.

Fig. 2

Surface temperature (Ts) and center temperature (Tc) calculated for the salt phase using the natural cooling model

塩浴に使用されるLiCl-KCl共晶塩の共晶温度は352 °Cである。塩浴にFPなどの他の成分が含まれる場合には,共晶温度が低下する可能性があるため,本検討では,塩が固体状態を保つ上限温度を330 °Cに設定する。計算結果より,「自然冷却モデル」での計算において試料中心温度を330 °C以下に保つためには,直径を16 cm以下(塩3,700 g以下)にする必要があることが示された。

一方,側面を冷却装置で冷却し室温程度の25 °Cとした場合には,同様の計算モデルに基づくと,塩浴中心部の温度は,(25 + (Tc-Ts)) °Cで表される(Fig. 3)。これより,塩浴中心部が固体状態に保たれる330 °C以下になるという条件を満たすのは,直径が26 cm以下(塩15,875 g以下)の場合であることが示された。

Fig. 3

Center temperatures calculated for the salt of which phase surface is kept to 25 °C by cooling equipment

Table 2に示したCd相の物性値を用いて「自然冷却モデル」を用いて計算した円筒形状の固体状態のCd相の側面温度,中心部温度と側面温度の差および中心部温度をTable 5およびFig. 4に示す。これは,円筒高さを円筒直径と同じ値とし,直径をパラメーターとして計算を行った結果である。Cdの融解温度は321 °Cであり,本検討では,Cd相を固体状態で取り扱うための上限温度を300 °Cとする。計算結果より,「自然冷却モデル」での計算において試料温度を300 °C以下に保つためには,直径および高さを4 cm程度以下(472 g以下)にする必要があることが示された。なお,Cdは熱伝導率が大きいため,試料表面と中心部の温度差は小さい。

Table 5 Temperatures calculated for the Cd-An phase using the natural cooling model

Diametera) Quantity Heat
generation
Surface
temperature
Ts
Tc-Ts Center
temperature
Tc
(cm) (g) (W) (°C) (°C) (°C)
1.0 7.38 0.210 84.0 0.0 84.0
2.0 59.1 1.68 156.1 0.1 156.2
2.5 115 3.28 188.5 0.1 188.6
3.0 199 5.66 220.3 0.2 220.5
3.5 317 8.99 251.6 0.2 251.8
4.0 472 13.4 282.0 0.3 282.3
4.5 673 19.1 311.6 0.4 312.0
5.0 923 26.2 340.2 0.4 340.6

a)Height of the cylinder shape is the same as the diameter of the cylinder.

Fig. 4

Surface temperature (Ts) and center temperature (Tc) calculated for the Cd-An phase using the natural cooling model

比較のため,湿式再処理において使用される水溶液相について,同様に実施した計算結果をTable 6およびFig. 5に示す。水溶液相についての「自然冷却モデル」での計算結果から,物質表面については,直径および高さが5 cm以上(117.8 g以上)でグローブボックスやホットセル内での表面温度の制限値である60 °Cを超え,直径および高さが8 cm以上(402 g以上)では物質中心部において100 °Cを超えることが示された。湿式法による再処理を検討する際には,適切な冷却機器を設置するとともに,溶液中のAn濃度を低く保つことが必要であることが示唆された。

Table 6 Temperatures calculated for the aqueous phase using the natural cooling model

Diametera) Quantity Heat
generation
Surface
temperature
Ts
Tc-Ts Center
temperature
Tc
(cm) (g) (W) (°C) (°C) (°C)
1 0.942 0.016 31.4 0.2 31.6
2 7.540 0.128 41.2 0.9 42.1
3 25.44 0.434 49.3 2.1 51.4
4 60.31 1.028 57.4 3.7 61.1
5 117.8 2.007 65.4 5.8 71.2
6 203.5 3.469 73.4 8.4 81.8
7 323.2 5.509 81.4 11.4 92.8
8 482.5 8.223 89.4 14.9 104.3

a)Height of the cylinder shape is the same as the diameter of the cylinder.

Fig. 5

Surface temperature (Ts) and center temperature (Tc) calculated for the aqueous phase using the natural cooling model

3. An窒化物粉末の温度評価

本研究で検討対象とした物質のうち,最も発熱密度が大きいAn窒化物粉末(An 94.1 wt%)について,円筒形状の直径をパラメーターとして円筒形状の表面および中心部の温度を計算した。円筒高さは,円筒直径と同じ値とした。Table 7およびFig. 6は「自然冷却モデル」,Fig. 7は「強制冷却モデル」による計算結果である。

Table 7 Temperatures calculated for the An nitride powder using the natural cooling model

Diametera) Quantity Heat
generation
Surface
temperature
Ts
Tc-Ts Center
temperature
Tc
(cm) (g) (W) (°C) (°C) (°C)
1.0 3.32 0.886 221 71 292
2.0 26.5 7.09 432 282 714
2.5 51.8 13.8 512 441 953
3.0 89.5 23.9 581 635 1,216
4.0 212 56.7 694 1,128 1,822

a)Height of the cylinder shape is the same as the diameter of the cylinder.

Fig. 6

Surface temperature (Ts) and center temperature (Tc) calculated for the An nitride powder using the natural cooling model

Fig. 7

Surface temperature calculated for the An nitride powder using the cooling-with-blower model

文献4においては,燃料製造時に使用するポリエステル系気孔形成材の融解を考慮し,燃料粉末貯蔵時の窒化物粉末の温度制限値は200 °Cとされている。一方,本検討で対象とした,溶融塩電解によって分離回収したCd-An合金から窒化物を製造する蒸留窒化工程では,窒化物粉末に気孔形成材は混合されていないため,より高温での取り扱いが可能である。これを踏まえて,円筒形状試料の中心部温度が上記の蒸留窒化法による窒化物製造プロセスの反応温度(700~800 °C)を超えないようにすることを温度制限値の目安とした。計算結果より,「自然冷却モデル」による冷却条件において,この条件を満たすためには,直径および高さを2 cm程度以下(26.5 g程度以下)にする必要があることが示された。

4. 溶融塩電解槽サイズの評価

前節において各物質について考慮した制限温度,およびこれまでに報告されているMA核変換用燃料の処理量と処理速度に関するデータ等に基づいて,使用済MA核変換用燃料の乾式再処理工程で使用される溶融塩電解槽のサイズについて検討した。

最新の検討結果によると,ADS炉心は燃料ペレット125個の入った121本の燃料棒からなる燃料集合体276体で構成される4。ADS1基分の使用済燃料を200日で処理するためには,1日当たり2.36 × 125 × 121 × 276/200/1,000 ≒ 49 kgの使用済燃料(うちAn 28 kg)を再処理する必要がある。文献8では,ADS1基について,1日当たり約39 kgの使用済燃料を再処理するとしていたが,その後の検討において炉心燃料量が増加したため,これに伴い1日当たりの燃料処理量も増加した。

溶融塩電解工程の処理速度は電解時の電流値に依存し,電流値が大きいほど処理速度が大きくなる。しかし,電極面積当たりの電流値である電流密度が大き過ぎると液体Cd陰極へのTRU回収に支障をきたすことが報告されている34。溶融塩電解によって高い電流効率で液体Cd陰極にPuを回収可能な最大電流密度は,溶融塩中のPu濃度に比例し34,本検討で想定したAn濃度6 wt%の場合には,最大電流密度は0.132 A/cm2となる。また,1 Aの電流で1時間電解を行う場合に回収されるAn量は,1 × 60 × 60/(3 × 96,500) = 0.0124モルであり,Table 1に示した組成のAnの平均原子量が239.53であることから,その重量は2.97 gに相当する。これ以降の溶融塩電解における処理速度の計算は,これらの値を用いて行った。

溶融塩電解槽サイズに関する検討結果のうち,前節において非加熱時に塩が固体状態を保つことが可能な大きさの電解槽について検討した結果を示す。Fig. 8(a)に示すように,直径16 cm塩浴深さ8 cmの溶融塩電解槽には,直径4 cmのCd陰極を6個配置することが可能である。この場合,それぞれの物質の重量は,塩3,700 g,Cd陰極1個当たり472 g(Cd 425 g),6個合計で2,832 gである。また,塩浴表面積は201.0 cm2,Cd陰極面積合計75.4 cm2である。Cd陰極において回収するAnの総量は283.2 gであり,この量のAnを含む使用済燃料の重量は489.1 gとなる。使用済燃料489.1 gは,ペレット約207個分に相当し,燃料棒1.66本中に含まれるペレット数を処理することに相当する。Cd陰極面積合計および最大電流密度から計算した最大電流値は9.95 Aである。この条件でAn 283.2 gの電解回収に必要な時間は,283.2/(9.95 × 2.97) = 9.6時間である。上記の電流値等の条件で1日当たり2回電解を実施するとした場合,溶融塩電解槽1基当たりのAn回収量は,283.2 × 2 = 566.4 g/日となる。よって,この条件で1日当たりAn 28 kgを回収するには,28 × 1,000/566.4 = 49.4なので,約50基の溶融塩電解槽が必要である。

Fig. 8

Schematic diagrams of the electrorefiners proposed in this study

The upper and lower figures indicate the cross section and the vertical section, respectively.

(a) ϕ16 cm molten salt bath having 6 Cd cathodes (b) ϕ26 cm molten salt bath having 12 Cd cathodes.

*”Cd” and “SF” represent the Cd cathodes and the anode baskets having spent MA transmutation nitride fuels, respectively.

次に,より大きなサイズの電解槽について,同様の検討を実施した結果を示す。ここでは,最初の検討条件よりも安全裕度が小さいと考えられるが,塩浴側面が室温程度まで冷却されている場合に中心部分の温度が上限温度(330 °C)を超えないという条件を満たす塩浴直径26 cm塩浴深さ13 cmの溶融塩電解槽に関する検討を行った。Fig. 8(b)に示すように直径26 cm塩浴深さ13 cmの溶融塩電解槽に,直径4 cmのCd陰極を12個配置した場合,それぞれの物質量は,塩15,875 g,Cd陰極12個合計で5,664 gであり,塩浴表面積は530.7 cm2,Cd陰極面積合計150.7 cm2である。Cd陰極12個で回収するAnの総量は566.4 gとなり,この量のAnを含む使用済燃料の重量は978.2 gとなる。使用済燃料978.2 gは,ペレット約414個分に相当し,燃料棒3.31本中に含まれるペレットを処理することに相当する。Cd陰極面積合計および最大電流密度から計算した最大電流値は19.9 Aである。この電流値で1日当たり2回電解を実施するとした場合,1日当たりAn 28 kgを回収するには,28 × 1,000/1,132.8 = 24.7となり,約25基の溶融塩電解槽が必要である。

なお,電解槽直径16 cmの場合の塩浴からの発熱量は63.0 W,使用済燃料ペレット207個からの発熱量の合計は0.387 × 207 = 80.1 Wである。同様に,電解槽直径26 cmの場合の塩浴からの発熱量は271 W,使用済燃料ペレット414個からの発熱量の合計は160 Wである。溶融塩電解工程の操業時には,塩浴は操業温度である500 °Cで保持されるが,温度保持には,これらの物質からの発熱が大きく寄与すると考えられる。なお,文献8では,浴塩を長期間使用することによって,塩中にFPイオンが蓄積し,それに伴い塩浴の発熱量が1.2倍程度まで増加することが指摘されている。本検討では,FP濃度上昇に伴う発熱量増加に対しては,FPを除去する頻度を増やすことで対応することが可能と考え,FP蓄積による発熱量の増加の効果は考慮に入れなかった。

Table 8に,本節で検討した溶融塩電解槽のサイズ(直径26 cmの場合)を,金属燃料乾式再処理施設のパイロットプラントに位置付けられ,EBR-IIで使用された金属燃料の処理を実施した米国INL Fuel Conditioning Facility(FCF)の設備3538および日本において検討されてきた高速炉用金属燃料の乾式再処理プラント39,40と比較して示す。本検討結果で示されたサイズは,これまでに開発された同様の乾式再処理工学装置よりも小さなものであり,大きさの観点からは実現可能性が高いことが示唆された。一方,今回提示した装置台数は実現可能であるが,台数が多いことによる運用面での困難さが予想される。本研究では除熱の効果を小さく見積もるような条件で計算を行ったため,これに伴い,装置サイズを多少小さく見積もった可能性がある。今後のより詳細な検討では,装置の大型化およびそれに伴う台数の削減を目指すことが必要である。

Table 8 Comparison of the sizes of the electrorefiners

  Molten salt
(kg)
Cd
cathode
(kg)
Recovered An
into Cd cathode (kg)
Ref.
This study 15.9 5.7 0.57  
INL-FCF (Electrorefiner Mark-IV) 431 NAa) NAa) 35, 36
INL-FCF (Electrorefiner Mark-V) 600 26 1.3~1.7 37, 38
JAEA (FS phase2) 2,380 310 2.9b) 39
CRIEPI 3,750 236 4.8b) 40

a)Actinides were recovered at solid cathodes.

b)Actinides are to be recovered at solid cathodes and Cd cathodes.

5. 電解回収物からの窒化物製造に関するサイズ評価

Cd陰極回収物であるCd-An合金からAn窒化物を製造する工程では,Cdが除去されるとともに窒化物が生成し,その際,生成物の重量は原料の約1/10に,体積および円筒型容器内に存在した場合の試料充填高さは0.22倍になる。

本検討では,単純化した条件として,直径と高さが同じである円筒形状のCd-An合金を原料として,蒸留窒化法で製造されたAn窒化物粉末に関する温度評価を実施した。この際,反応前後で円筒形状の直径は変わらず,高さのみが変化するものとした。Table 9は,上記の条件で製造したAn窒化物粉末について,「自然冷却モデル」を用いて計算した結果を示したものである。この結果から,「自然冷却モデル」による冷却条件において,中心部温度が蒸留窒化法による窒化物製造プロセスの反応温度を超えないようにするためには,直径を2.5 cm程度以下(An窒化物11.4 g以下,相当するCd-An合金107 g以下)とする必要があることが示された。

Table 9 Temperatures calculated for the An nitride powder produced from Cd-An alloy using the natural cooling model

Diametera) Quantity Heat
generation
Surface
temperature
Ts
Tc-Ts Center
temperature
Tc
(cm) (g) (W) (°C) (°C) (°C)
1.0 0.730 0.195 134 71 205
2.0 5.84 1.56 280 282 562
2.5 11.4 3.05 355 441 796
3.0 19.7 5.26 427 635 1,062
4.0 46.7 12.5 565 1,128 1,693

a)Height of the cylinder shape is 0.22 × the diameter of the cylinder.

Cd-An合金重量に関する条件を満たすためには,前節で示したAnを回収したCd陰極(直径および高さ4 cm) 1個当たりの量(472 g)の約1/4を再窒化工程の原料として使用することに相当する。この条件でADS1基分の使用済燃料を200日で処理するためには,蒸留窒化法による窒化物製造工程では,1日当たり,An回収後のCd陰極を4分割したCd-An合金原料25 × 12 × 2 × 4 = 2,400個について,加熱処理を行う必要がある。なお,この窒化物製造時には,電気炉内に上記のように小分けした原料を適当な間隔で配置することによって,原料からの発熱を昇温に利用することが可能であると考えられる。

1日当たり2,400個の直径2.5 cm高さ2.5 cmの容器に入れたCd-An合金を加熱処理して28 kgのAnを含む窒化物を製造する場合について,装置サイズおよび台数を検討した。このプロセスでは,溶融塩電解によって1日に2度回収される1,200容器分のCd-An合金(14 kgのAnを含有)からAn窒化物の製造を行う。ここで,臨界安全の観点から保守的に想定して,1つの装置で取り扱うAnの量を金属Puの臨界制限値である5.6 kg以下に設定し,14 kgのAnを取り扱う加熱装置の台数を3台とした。1台当たり400個の試料容器を縦20個 × 横20個を並べて設置する加熱装置を想定した場合,各試料間の間隔を試料直径と同じく2.5 cmにした場合には底面が1 m × 1 m程度の大きさになる。加熱時間を1日と想定した場合に,2,400個の試料を処理するには,この程度の加熱炉6台が必要ということになる。

また,製造したAn窒化物粉末を貯蔵する際には,物質が円筒形状であると仮定すると,「III-3節An窒化物粉末の温度評価」で示した条件を満たすように,直径および高さ2 cm以下(26.5 g以下)に小分けする必要がある。この量は,上記の方法での窒化物製造2回分(22.8 g)と同程度であり,この量で小分けした場合には,貯蔵用An窒化物製品が1日当たり1,200個得られることになる。なお,22.8 gのAn窒化物は,窒化物燃料ペレット16.8個に含まれる量に相当する。

なお,電解回収物から窒化物を製造する蒸留窒化工程では,試料周囲は窒素ガス雰囲気とする必要がある。窒素ガスおよびArガスの物性データ33から計算した二種類のガスのレイリー数は,本研究の条件下では同程度であるため,(1)式で表される伝熱に関する熱伝達率は雰囲気ガスの熱伝導率にほぼ比例する。窒素ガスはArガスよりも熱伝導度が大きい(例えば,境膜温度187 °Cの場合には1.46倍)ため,窒素ガスを雰囲気ガスとした場合には,Arガスの場合よりも試料表面温度は低くなるといえる。

IV. 結論

TRUを高濃度で含むため,崩壊熱による発熱が大きいMA核変換用窒化物燃料について,乾式再処理法における取扱量および装置規模への発熱の影響を評価した。使用済MA核変換用燃料組成の計算結果から導出した乾式再処理法の各工程で取り扱う物質の発熱密度および各工程で想定される物質の物性および形状をもとに各物質の温度上昇を見積もった。また,各物質について,取り扱い可能な温度の上限を検討し,上限温度を超えないような物質の規模を導出して,乾式再処理プロセスにおける取り扱い規模および装置サイズを評価した。その結果,塩浴側面が室温程度まで冷却されている場合に中心部分の温度が上限温度(330 °C)を超えないという条件を満たす塩浴直径の最大値である直径26 cm塩浴深さ13 cmの溶融塩電解槽に直径4 cm高さ4 cmのCd陰極を12個配置した装置25台によって,ADS 1基分の使用済MA核変換用燃料を200日程度で処理することができることが示された。この装置の大きさは,これまでに開発された同様の工学装置よりも小さなものであり,このような規模の装置を製作することは可能であることが示唆された。一方,電解回収物の窒化工程においては,Cd陰極回収物を小分けして処理することによって,製造中および製造後のAn窒化物製品を上記の窒化物製造プロセスの温度(800 °C)以下に保持できることが示された。また,An窒化物粉末製品の保管時には,22.8 gごとに小分けすることによって,円筒形中心部の製品温度が上記の窒化物製造プロセスの温度(800 °C)以下に保持できることが示された。

 

筆者は本研究の実施において有益な助言を頂いた東芝エネルギーシステムズ㈱の大森 孝氏に深く感謝する。

References
 
© 2023 Atomic Energy Society of Japan
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