日本原子力学会和文論文誌
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東電福島炉心溶融事故進展解明(一考察)の検証
松岡 強
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2023 年 22 巻 3 号 p. 108-111

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Abstract

Regarding the root cause analysis of reactor core melt accidents at the TEPCO Fukushima Daiichi nuclear power plant, the author has already published a paper 1) on a new approach based on his original viewpoints. In this current study, he verified the new approach called the “film boiling approach” as shown below. On the basis of this approach, film boiling (with steam) continued until the amount of decay heat decreased one or two weeks after initiating dry out or Zr-H2O reactions in the core. Subsequently, the bottom wall of the reactor pressure vessel (RPV) melted and the melted core dropped (melt-through) into the containment vessel. On the other hand, on the basis of the conventional approach, melt-through occurred for a short time after the core melted. That is, using the film boiling approach, melt-through was predicted to occur on 24 March for Unit 1 and 21 March for Unit 3, but it occurred on 12 March for Unit 1 and 14 March for Unit 3 in accordance with the conventional approach. Recently, it has been found by a robot camera in the containment vessel of Unit 1 that concrete disappeared and naked rebars appeared in the wall around the open area of the pedestal under the RPV. From this finding, the test data of “the heated concrete was washed away with water” was verified by that in the core of Unit 1; that is, there was much water on 24 March, although there was no water on 12 March. Moreover, it has been found that the radioactivity level of debris broken into pieces by hydrogen explosion is very low around the turbine building but is very high in the reactor building (RB) in Units 1 and 3. From this finding, the level around the RB was verified to be low as melt-trough had not yet occurred at the moment of the explosion (12 March in Unit 1 and 14 March in Unit 3), but the debris in the RB was subsequently activated by radio activities after melt-through.

I. はじめに

東電福島第一原子力発電所事故の炉心溶融の原因究明について,原子力規制庁主催で東電および産業界等との技術検討会が開催され,YouTubeで公開されている。これらはインターネットで<東京電力福島第一発電所における事故分析における検討>で検索できる。現在第33回まで進んでいる(以降は第何回検討会と呼称)。その中で,本報で記載する検証1「ペデスタル開口部でコンクリートがなくなり,鉄筋むき出しの映像」および検証2「1,3号機の水素爆発後の原子炉建屋とタービン建屋のがれきの放射能レベルの違い」は主要議題であるものの未解明のまま,検討中である。しかしながら,筆者が既報で報告1)した炉心溶融シナリオ(沸騰曲線に基づく膜沸騰現象シナリオ)に基づくとこれらは容易に解明できる。膜沸騰現象を理解するには,インターネットでYouTubeの「RHNB-Water(Slow Motion Playback)」の中で「Bigger Red Hot Nickel Ball in Hot water」をご覧頂きたい。灼熱のニッケル球を温水に入れただけの90秒の動画である。

ニッケル球を炉心と思って,そこに消防ポンプで注水した状態を想像頂きたい。福島事故の原子炉圧力・格納容器圧力の変化に,この蒸気膜で覆われた(高温物質は瞬時に蒸気膜で覆われる)状態の膜沸騰現象を導入するとほとんどすべての未解明事項が仮定を置かずに物理現象として説明できる。この筆者のシナリオ・考え方が従来(東電解析等)のシナリオ・考え方と大きく異なる点は,炉心溶融後原子炉容器底が貫通(Melt Through)するまでの期間である。従来シナリオでは炉心溶融後すぐに原子炉容器底が貫通するとしているのに対し,筆者のシナリオでは炉心溶融後1~2週間ぐらい膜沸騰が続き,その後膜沸騰が終了し(蒸気膜が破れ),遷移沸騰になったときにジルコニュウム水反応が激化し原子炉容器底が貫通するというものである。以下に,筆者の炉心溶融シナリオに基づくことにより,上記1と2の現象をよく説明できることを示し,もって,本炉心溶融シナリオの妥当性を検証する。

II. 炉心溶融シナリオ(沸騰曲線に基づく膜沸騰現象シナリオ)の検証

筆者の炉心溶融シナリオに基づく1号機と3号機の格納容器圧と炉心様相の変化をFig. 1Fig. 2に示す。これらの図は既報1)のII.7項「原子炉圧力容器(RPV)底貫通時期の推定」に記載している内容をみやすく図に示したものである。

Fig. 1

PCV pressure and core states in unit 12)

Fig. 2

PCV pressure and core states in unit 33)

1. ペデスタル開口部でコンクリートがなくなり鉄筋むき出しの映像に対する検証(検証1)

水中ロボットで1号機格納容器内を観察した結果,新たな事実がわかり,2022年10月の第32回検討会で公開された。新事実とは,「原子炉容器下のペデスタルの開口壁部で溶融炉心が流れ去った後にコンクリートがなくなり,むき出しの鉄筋がほとんどそのまま残っていた」という映像である。同時に,その解明を大阪大学に依頼した結果「コンクリートだけが流れ去り,鉄筋がむき出しで残る現象は,コンクリートが200~600 °Cとなり,コンクリートの固化している主成分であるケイ酸カルシウム水和物が高熱で分解して,結合力を失い,コンクリートの強度が著しく低下して脆くなり,水流で流された。」という中間報告が第32回検討会配布資料1-2(1号機PCV内部調査により確認されたコンクリートに関する事象の検討:大阪大学1F-2050)をもとになされた。そのとき,溶融炉心と同時に水の流れはなかったか?という質問に対し,原子力規制庁が「1号機の原子炉容器底貫通時点(2011年3月12日頃)では原子炉内には水はなかった」と回答していた。水の流れがないとこの現象は生じないので今後の検討課題となっている。

これに対し,Fig. 1に示されるように「炉心内は炉心溶融後膜沸騰になり10日ほど過ぎて膜沸騰(Film boiling)から遷移沸騰(Transition boiling)に変わったとき(3/23~3/24頃)に原子炉容器底が貫通した。その時点では炉心注水は十分になされており,水の流れはあった」という筆者の炉心溶融シナリオによると,今回の新事実である「鉄筋むき出し現象」の中間報告をよく説明できる。

すなわち,3月23日まで原子炉容器内へは十分な注水がなされ,原子炉容器内はほぼ満水となっており,溶融体は高温なので,水が直接接触するのではなくて,蒸気膜に覆われた外側に水が存在するという膜沸騰状態となっていた(注:この膜沸騰状態が存在するかどうかが従来の東電解析と筆者の解析との大きな違いである)。溶融炉心は崩壊熱の減少に伴い外表面から次第に冷えていき,21日頃に外表面が200 °C位となったと考えられる。沸騰曲線で,200 °C位まで冷えると膜沸騰状態(高温金属全体を蒸気が覆った状態)が終わり,蒸気膜が破れ,遷移沸騰状態(蒸気と水が入り乱れて高温金属に触れる状態)へと移行する。このとき,水に接触した外表面は急冷され多数のひび割れが生じ,1,000 °Cを超える中央部のジルコニュウムを含む溶融体が水と直接接触するような状態になる。もはや崩壊熱だけでは膜沸騰になるだけの発熱量はないので,ジルコニュウム水反応が生じるとその反応熱で膜沸騰になり,反応が収まると遷移沸騰となる。この繰り返しが21日から24日にかけて0.2 MPaから0.4 MPaまで格納容器圧力を上昇させた。その間発生した反応熱は水側には蒸気膜に遮られ,原子炉容器壁側に多く流れ,容器壁を過熱していった。ついにピーク圧の24日頃過熱された原子炉容器底壁は溶融炉心を支えきれずに,100トンあまりの溶融炉心が一気に格納容器内に落下(Melt Through)した。その経過がFig. 1の格納容器圧力の時間経過で読み取れる。最初に重い溶融炉心が落下し,下のコンクリートに接触し,溶かしたであろうが,その直後に,大量の水も落下し,ペデスタル開口部から外側へ流れていった。このとき,開口部周囲のコンクリートが崩壊して流失し,鉄筋がむき出しになったものと考えられる。その後,落下した高温炉心がむき出しとなり,格納容器内で広がった。そのため今度は格納容器内で,溶融炉心周りが膜沸騰状態となりジルコニュウム水反応が続き,28日まで0.25 MPaの圧力が続いた。膜沸騰とは高温の溶融炉心周りを蒸気膜が覆い,輻射熱でその上の水面を蒸発している状態であり,その水面に析出物が蓄積され,テラス状堆積物が作られたものと考えられる。28日の午後に遷移沸騰となり,炉心と同様に一時的に0.3 MPaまで上がったが,その後は核沸騰になり冷却されていった。これが溶融炉心落下時の様相と考えられる。これは大阪大学の中間報告書の検討シナリオ2(コンクリートの水への溶解)に合致する。

2. 1,3号機水素爆発時の建屋間でのがれきの放射能レベルの違いについての検証(検証2)

第13回以降数回検討会で議論されている1,3号機の水素爆発について,「何故に水素爆発で飛び散ったがれきの放射能レベルは,1,3号機とも原子炉建屋内は高いのに,タービン建屋内は低いのか?」という疑問が原子力規制庁よりなされたが,東京電力は回答できなかった。これについて,筆者の炉心溶融シナリオに基づくと,「1,3号機とも,水素爆発の時点では,炉心は溶融していたが原子炉容器底は溶融貫通していなかった(Figs. 1,2参照)」。すなわち,炉心が溶融した当初は,溶融炉心からの放射性物質は安全弁を通って,サプレッションチャンバー水のスクラビング効果で浄化されて,ドライウェルの上蓋の浮上り部より漏えいして原子炉建屋の方へ流れていった。そのような状態で水素爆発が起きたので,そのときのがれきの放射能レベルは低かった。タービン建屋のがれきは水素爆発時のままだったが,その10日後ごろ(1号機は3月23~24日,3号機は3月20~21日)に,原子炉容器底が貫通して,溶融炉心が格納容器内に広がり,そのとき放出された高放射性物質がドライウェル上蓋の浮上り部を経由して原子炉建屋内のがれきを高放射能化した。そのために建屋間のがれきの放射能レベルが異なったのである。

III. 終わりに

既報1)で報告した膜沸騰に基づく炉心溶融シナリオに基づき,原子力規制庁が実施している検討会(YouTube)の内容を検討した。その結果,従来の炉心溶融シナリオでは解明できなかった主要な2点に対し,物理現象として合理的に解明できた。

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