Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Evaluation of Seismic-Response-Correlation Effect on Seismic Risk by the Initiating Event Matrix Method
Toshio TERAGAKIMasasi HIRANOKenji MORI
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2023 Volume 22 Issue 4 Pages 140-155

Details
Abstract

The hierarchization of initiating events (IEs) has been widely applied in seismic probabilistic risk assessments of nuclear facilities. In our previous study, we proposed the Initiating Event Matrix Method (IEMM) with a focus on IEs involving multiple failures of structures, systems, and components; such IEs are normally ignored in hierarchization for simplicity. In this study, we applied the IEMM to a case study to evaluate the seismic response correlation effect in a hypothetical fuel cycle facility to validate the applicability of the IEMM to such a case. This case study is suitable for this purpose since it is well known that the occurrence frequencies of IEs with multiple failures may increase significantly when the seismic response correlation is considered. As a result of the case study, the increase in severe-accident frequency due to the correlation effect was reasonably evaluated by the IEMM, and therefore, we confirmed the applicability of the IEMM to cases involving such an effect. Additionally, it was found that the event tree of IEs could be greatly simplified by contraction in the IEMM depending on the event trees of mitigation systems following the IEs.

I. 緒言

東京電力㈱福島第一原子力発電所事故発生後,原子力発電所の安全性向上およびリスク情報の活用に関する検討が進められている13。これを背景として,筆者らは前報4にて,地震PRA(Seismic Probabilistic Risk Assessment)に適用する起因事象(IE:Initiating Event)マトリックス法(以下「起因事象マトリックス法」(IEMM:Initiating Event Matrix Method)という。)を提案した。

地震PRAでは,起因事象の階層化手法(以下「起因事象階層化手法または階層化手法」(IEHETM:Initiating Event Hierarchical Event Tree Method)という。)が広く利用されている。地震時は,多くの起因事象が起きる可能性があることから,原子力発電所などでのリスクを評価する手法として階層化手法は現実的かつ有効な手法と考える5,6。その一方で,階層化手法については「上位の起因事象の中ですべての下位の起因事象が起こったとしても事故進展に影響がないようモデルを構築し,下位の起因事象の事故進展を省略する。」とあり,また,ただし書きとして「評価者の判断によって下位の起因事象の事故進展を省略しないこともある」(日本原子力学会標準5)とされている。すなわち,複数起因事象の同時発生は評価者の判断に委ねられている。筆者らはこの点を課題と考えて評価手法について検討を行い,上述のIEMMを提案した。同手法ではいったんすべての組み合わせを明示し,想定するすべての起因事象および起因事象の組み合わせを評価する点に特徴がある4。原子力規制委員会の実用発電用原子炉の安全性向上評価に関する運用ガイド8では,「地震動により複数の建屋,構築物,機器等が損傷し,複数の安全上重要な異常発生防止系が独立かつ同時に機能喪失する多重故障起因事象の発生を考慮する。」としている。

地震時は複数の設備(SSC:Structure, System, and Componentという。)が同時に損傷し,複数の起因事象が同時に発生する可能性があるため,地震損傷の相関の影響を考慮する7,911ことは重要である。上記運用ガイドでは,「地震動下で複数の建屋,構築物,機器等が同時に機能喪失する損傷の相関を考慮する。」としている。文献7では,本報と同様,階層化手法の課題として,複数起因事象の同時発生,すなわち多重故障起因事象の発生を明示的には表現できないということを挙げ,DQFM(Direct Quantification of Fault Tree Using Monte Carlo Simulationという。)法1215を用いて相関を考慮し,地震時に発生し得る多重故障起因事象を評価する手法を提案している。

これに対し,本報では前述のIEMMの有効性を確認することを目的として,本手法を地震損傷の相関を考慮して複数起因事象の同時発生を想定する事例に適用し,相関を考慮する場合としない場合の比較を行った。地震損傷の相関については,設備耐力の相関と設備応答の相関が考えられる。しかし,文献5では,「原子力機器は,標準仕様で設計・製作されているが機能の限界にばらつきがあり一般的には耐力の相関が少ないと考えられる。そこで,耐力の相関係数を0として取り扱ってもよい」とされている。本研究では,地震損傷の相関を起因事象マトリックス法に適用する手法の構築に主眼があることから,議論を簡単にするため,耐力の相関は「0」と取り扱い,本事例評価では地震応答の相関のみに限定することとした。また,設備のフラジリティ評価の手法については,文献5で「現実的耐力と現実的応答による方法」,「現実的耐力と応答係数による方法」,「耐力係数と応答係数による方法」の3つが挙げられており,本論文では応答係数により地震応答の相関を評価する手法を採用していることから,応答係数を用いる「現実的耐力と応答係数による方法」を採用することとした。比較の結果,地震損傷の相関を考慮した場合,複数の起因事象が同時発生する確率が増加すること,すなわち,設備の同時損傷のフラジリティが大きくなる傾向を確認し,すべての起因事象の組み合わせを考慮するIEMMは,地震の相関を考慮して複数の起因事象の同時発生を想定する評価に適していることを確認した。なお,上記設備の同時損傷のフラジリティが大きくなる傾向については文献7および文献9でも議論されている。

また,前報4の中で起因事象マトリックス法を提案しているが,この中で本手法の課題として起因事象が多い場合,スクリーニングをするケースがあり得るため,その手順,指標および基準は評価の目的,活用の仕方,結果への影響の大きさ等を勘案して適切に設定する必要を挙げている。そこで,本論文ではスクリーニングと関連した評価対象起因事象の組み合わせの縮約について考察を行った。ここで縮約とは,起因事象後の事故シナリオと影響緩和策が同じ,すなわち,イベントツリーが同じ複数の起因事象またはそれらの同時発生起因事象を1つの起因事象のグループにまとめることである。本報の事例評価で,上記縮約により,起因事象およびその後のイベントツリーを大幅に単純化できる場合があることを確認した。縮約により,地震PRAの重複する評価が少なくなり,計算負荷の軽減に貢献できる。前報4に記載したとおり,起因事象数が多い場合,スクリーニングが必要となり得る。その場合,その手順,指標,基準等については,評価の目的,結果への影響の大きさ等を勘案して適切に設定する。

II. 起因事象マトリックス法を用いた相関影響評価の概要

1. 起因事象マトリックス法

前報4に示したとおり起因事象マトリックス法は,特定の起因事象および起因事象の組み合わせではなく,いったんすべての起因事象および起因事象の組み合わせを評価対象とする評価手法である。本手法と類似した手法として,すべての起因事象および起因事象の組み合わせを評価候補とする手法の概念はすでに公開5されているが,事例を含めた具体的な評価手順が記載されていないため本論文の手法とは区別する。起因事象マトリックス法による地震リスク評価手順は,Fig. 1に示す4段階で構成する。

Fig. 1

Flowchart for IEMM

(1) タスク1(評価対象起因事象の整理選定および発生頻度の評価)

地震リスク評価で対象とする起因事象を選定する。その際,起因事象間で共通した設備などの要因がない独立した事象を選定する。さらに,選定した起因事象およびその組み合わせについて,以下に示す方法で発生頻度FIEi(α)(Frequency of IE i)を評価する。

地震ハザード曲線,すなわち解放基盤での最大加速度(以下「最大加速度」という。)α(Gal)の地震動の年超過頻度曲線H(α)(1/年)からGal当たりの発生頻度h(α)(1/(年・Gal))を求め,これに起因事象ごとのフラジリティ曲線PIEi(α)(Probability of IE i)(−)を乗じ,αα + Lで積分することでFIEi(α)を求める。ここで,Lは離散幅を示す。

すなわち,h(α)は地震ハザード曲線H(α)を用いて次式から求める。

  
\begin{equation} h(\alpha) = - \frac{\text{dH}(\alpha)}{\text{d}\alpha } \end{equation} (1)

次に起因事象iの発生確率をPIEi(α),離散点jにおける最大加速度をαjLjj番目の離散幅とすると,αjにおける起因事象iの発生頻度FIEi(αj)は次式から求まる。ここで,α′は解放基盤での最大加速度(Gal)とする。

  
\begin{equation} \textit{FIE}_{i}(\alpha_{j}) = \int \limits_{\alpha_{j}}^{\alpha_{j} + L_{j}}[h({\alpha '}) \times \textit{PIE}_{i}({\alpha '})]d\alpha ' \end{equation} (2)

起因事象iの発生頻度FIEiは以下となる。

  
\begin{equation} \textit{FIE}_{i} = \sum \limits_{j}\textit{FIE}_{i}(\alpha_{j}) \end{equation} (3)

地震応答の相関の評価手法はII-2節に概略を示すとおり本報で提案した応答係数を用いる評価手法である。このため地震フラジリティ評価は,文献5などで示されている「現実的耐力と応答係数による方法」または「耐力係数と応答係数」が候補となるが,本報では「現実的耐力と応答係数による方法」を採用する。

(2) タスク2(起因事象発生頻度のスクリーニング基準値の設定)

検討対象とする起因事象の組み合わせが多く,評価に時間を要するなどの観点から評価が困難な場合に,評価結果への影響と作業量とを勘案し,起因事象および起因事象の組み合わせの発生頻度についての適切なスクリーニング基準を設定する。スクリーニングなしで評価が可能な場合は,タスク1からタスク4に移行する。

(3) タスク3(評価対象とする起因事象の選定)

タスク1で選定したすべての起因事象および起因事象の組み合わせを対象に,その発生頻度がタスク2で設定したスクリーニング基準値以上のものを抽出する。

(4) タスク4(事故シーケンス評価)

評価対象とするすべての起因事象および起因事象の組み合わせについて,事故シナリオを分析しイベントツリーなどのリスク評価モデルを作成してリスク評価を行う。以下,その概要を示す。

最大加速度αにおける重大事故シーケンスiの発生確率PSAi(α)(Probability of severe accident sequence i)を,起因事象iの発生確率PIEi(α)と起因事象iが発生した場合の重大事故発生確率CPSAi(α)(Conditional probability of severe accident sequence i)から求める。

  
\begin{equation} \textit{PSA}_{i}(\alpha) = \textit{PIE}_{i}(\alpha) \times \textit{CPSA}_{i}(\alpha) \end{equation} (4)

さらに,PSAi(α)とαのGal当たりの発生頻度h(α)の積をαjαj + Ljで積分することで,αjにおける重大事故シーケンスiの発生頻度FSAi(αj)(Frequency of severe accident sequence i)を求める。

  
\begin{equation} \textit{FSA}_{i}(\alpha_{j}) = \int \limits_{\alpha_{j}}^{\alpha_{j} + L_{j}}[h({\alpha '}) \times \textit{PSA}_{i}({\alpha '})]d\alpha ' \end{equation} (5)

重大事故シーケンスiの発生頻度FSAiは次式から求める。

  
\begin{equation} \textit{FSA}_{i} = \sum \limits_{j}\textit{FSA}_{i}(\alpha_{j}) \end{equation} (6)

また,すべての重大事故シーケンスの発生頻度の合計FSAは次式から求める。

  
\begin{equation} \textit{FSA} = \sum \limits_{i}\textit{FSA}_{i} \end{equation} (7)

2. 地震応答の相関評価手法

地震動による設備間の損傷には相関があることが知られており,地震リスク評価を行う場合,相関の影響を把握することは重要である。本報では,文献9に示される共通なサブ応答係数の値を用いる方法を簡略化した以下の方法により評価を行う。

地震損傷の相関の要因は,主に地震応答の相関と設備の耐力の相関に分類される5。本研究では,地震損傷の相関を起因事象マトリックス法に適用する手法の構築に主眼があるため,議論を簡単にするために耐力の相関は「0」と取り扱い,応答の相関のみ考慮する。さらに,地震フラジリティは,現実的耐力と応答係数による方法を用いた評価を前提条件とし,応答係数単位で地震応答の相関を考慮する手法で評価する。また,地震応答の相関を考慮する対象設備は冗長系となっている設備や一部の安全上重要な代表設備に限らず,設備の設置状況や種類によって地震応答の相関を考慮するか否かを決める。

以下,設備AおよびBの単独損傷確率ならびにそれらの同時損傷確率の評価手法を示す。設備Aの設計応答をRADとすると,地震による応答RADSおよび地震以外の要因による応答RADO分類できるが,応答の種類によっては必ずしもRADSとRADOの和がRADになるとは限らない。しかし本報では地震応答の相関を評価するためにRDとRDSは設計評価値を用いることとし,RDOを以下の式を満たすように便宜的に調整した値とする。

  
\begin{equation} \textit{RA}^{D} = \textit{RA}^{\textit{DS}} + \textit{RA}^{\textit{DO}} \end{equation} (8)

また,設備Aの設計の保守性を示す応答係数FA1~FA4がある。

ここで,

  •     FA1:地震動に関わる係数(−)
  •     FA2:地盤伝播に関わる係数(−)
  •     FA3:建屋に関わる係数(−)
  •     FA4:機器に関わる係数(−)

FA1とFA2は地震ハザードの不確かさに含まれると仮定し,本評価ではFA3とFA4を考慮する。FA3とFA4は,対数正規分布に従うと仮定し,サンプリング回数kにおける応答係数をFA3(k)およびFA4(k)とする。最大加速度αでのサンプリング回数kにおける現実的応答RAk(α)は以下となる。

  
\begin{equation} \textit{RA}_{k}(\alpha) = \cfrac{\left\{ \textit{RA}^{\textit{DS}} \times \left(\cfrac{\alpha }{\alpha^{D}}\right) \right\}}{\textit{FA}3(k) \times \textit{FA}4(k)} + \textit{RA}^{\textit{DO}} \end{equation} (9)

ここで,

  •     αD:設計基準加速度(m/s2

設備Aについて,最大加速度αにおける損傷確率をPA(α),耐力をSAとする。ここで,設備の損傷は,耐力を応答が上回る場合に損傷する仮定とし以下のように決める。

SA < RAk(α)の場合,設備A損傷有り

SA ≧ RAk(α)の場合,設備A損傷なし

最大加速度αにおいてサンプリングをNN回実施し,そのうち設備Aが損傷する回数をNA(α)とするとPA(α)は以下となる。

  
\begin{equation} \textit{PA}(\alpha) = \frac{\textit{NA}(\alpha)}{\textit{NN}(\alpha)} \end{equation} (10)

設備BについてもAと同様に応答係数FB3(k)およびFB4(k)から現実的応答RBk(α)を求め,最大加速度αにおける損傷確率PB(α)を評価する。

次に設備AとBが同時損傷する損傷確率評価方法を示す。

最大加速度αのサンプリングをNN回実施し,1回の試行ごとに設備AとBそれぞれについて上記に従って損傷判定を行い,設備AとBがどちらも損傷する回数をNAB(α)とする。このとき,設備AとBの同時損傷確率PAB(α)は以下となる。

  
\begin{equation} \textit{PAB}(\alpha) = \frac{\textit{NAB}(\alpha)}{\textit{NN}(\alpha)} \end{equation} (11)

設備AとBの建屋に関わる地震応答に相関を考慮する場合は(9)式で設備Aの応答係数FA3(k)とBの応答係数FB3(k)を同一とする。

同様に設備AとBの機器に関わる地震応答に相関を考慮する場合は,(9)式のFA4(k)とFB4(k)を同一とし,(11)式より設備AとBの同時損傷確率PAB(α)を求める。

一方,地震応答の相関を考慮するか否かはF3およびF4の応答係数ごとにTable 1に基づき決める。

Table 1 Modeling of seismic response correlation according to locations and types of SSCs

Locations and types of SSCs Seismic response coefficient Modeling of dependence
F1 F2 F3 F4
Same type of SSCs in same building Not considered
(Effects of F1 and F2 are assumed to be included in uncertainties of seismic hazard.)
Common Common Complete dependence
Different types of SSCs in same building Common Independent Partial dependence
Same type of SSCs in different buildings Independent Common Partial dependence
Different types of SSCs in different buildings Independent Independent Independence
Without considering correlation Independent Independent Independence

Note: “Partial dependence” means that either F3 or F4 is common.

F3(建屋に関わる係数)について2つの設備に相関がある場合は,共通の不確かさを有するとみなし,同一のF3のサンプリング値を共有することとする。

このような,地震応答に相関があるとしても全く同じ保守性をもつという仮定は完全相関の考え方であり,実現象の観点からは相関の影響が極端になり精度が低くなると考える。同様に,F4(機器に関わる係数)についても2つの設備に相関がある場合は,共通の不確かさを有するとみなして同一のF4サンプリング値を共有することとするため,精度が低くなると考える。なお,F3とF4の各々について相関がないと仮定する場合は,施設ごとにサンプリングした値を用いる。

一方,本相関評価手法には以下のような利点があると考える。

  • •    相関がある場合は応答係数を共有するだけの簡易な手法であり,設置場所や地震応答の周波数特性,減衰別の相関係数などを事前に準備する必要がないこと。
  • •    簡易で相関係数等も必要ないことから,3つ以上の設備の多重同時損傷に対応しやすいこと。
  • •    F3やF4ごとに相関を考慮できることからF3のみの部分相関やF4のみの部分相関を考慮できること。

本研究は地震損傷の相関を網羅的に起因事象の同時発生を考える起因事象マトリックス法に適用する手法の構築に主眼があるため,相関評価については相関の精度に加え,応答の保守性F3およびF4ごとの部分相関の影響ならびに網羅的な相関対象の組み合わせを総合的に考慮できるように本簡略評価手法を採用することとした。

III. モンテカルロサンプリング数が設備の同時損傷に及ぼす影響確認

II章で述べたとおり設備の同時損傷確率を定量評価する場合,(11)式から(13)式に示すとおりモンテカルロサンプリングにより応答係数を算出する。そこで本章ではモンテカルロサンプリング数が同時損傷頻度に及ぼす影響を確認することとする。具体的にはサンプリング数を変数として地震応答の相関を考慮する場合としない場合の2つの設備AとBの同時損傷頻度を比較する。AとBともに配管とする。

AとBはともに同一建屋内の設備とし,共通のF3を用いる。また,いずれも同じ材料の配管であり耐力は同じであるが,配管の構造が異なるため地震応答は異なり,その相関はないものとし,F4は独立と仮定する。主な評価条件をTable 2に示す。

Table 2 Major assumptions in evaluation of simultaneous occurrence frequency of multiple failures

Design basis ground motion 650 Gal
Seismic capacity Median: 400 MPa βr = βu = 0.0
Seismic responses (SSC A) Median: 280 MPa
(Seismic stress: 200 MPa, non-seismic stress: 80 MPa)
(SSC B) Median: 250 MPa
(Seismic stress: 200 MPa, non-seismic stress: 50 MPa)
Seismic response coefficients F3 (Common to SSCs A and B)
Median: 1.20, βr = 0.10, βu = 0.10
F4 (SSC A) Median: 1.50, βr = 0.25, βu = 0.20
F4 (SSC B) Median: 1.70, βr = 0.30, βu = 0.20

設備AとBの同時損傷頻度は(13)式により評価した設備AとBの同時損傷確率PAB(α)を(2)式のPIEi(α)に置き換えて評価する。モンテカルロサンプリング数を100から2,000まで変えて設備AとBの同時損傷頻度を比較した結果をFig. 2に示す。サンプリング数により多少のばらつきは確認できるが,同時損傷頻度の桁が変わるほど大きい影響は確認できない。したがって,後述する事例評価では評価の効率化の観点からサンプリング数を1,000とする。

Fig. 2

Comparison between simultaneous damage frequency of SSCs A and B with correlation and that without correlation as a function of number of Monte Carlo samplings

Figure 3に,地震応答の相関を考慮する場合としない場合で,サンプリング数を1,000にした場合のAとBの同時損傷確率の比較を示す。地震応答の相関を考慮する場合の同時損傷確率は,考慮しない場合と比較して100 Gal以上で増加していることが確認できる。

Fig. 3

Comparison between simultaneous damage fragility of SSCs A and B with correlation and that without correlation (Number of Monte Carlo samplings is 1,000.)

IV. リスク評価事例による手法の比較

1. リスク評価事例の概要

筆者らは前報4において,起因事象マトリックス法と最大規模の階層化手法は等価であることを示している。本章では最大規模の階層化手法(起因事象マトリックス法)とそれより小規模な階層化手法の事例を比較する。最大規模より小規模な階層化手法については,次の2つの事例評価を行う。1つは,上位の起因事象は下位の起因事象が起こったとしても影響は小さいと仮定し,複数の起因事象の組み合わせを考慮しない最小規模の階層モデルを用いた手法(以下「最小規模の階層化手法」という。)による評価である。もう1つは,上記最小規模の階層化モデルで地震時には比較的発生頻度が大きいと想定される外部電源喪失事象の同時発生の有無をすべての起因事象で考慮する階層モデルによる手法(以下「中間規模の階層化手法」という。)による評価である。また,起因事象マトリックス法については,すべての起因事象と起因事象の組み合わせを考慮するモデルとする。

上記の階層化手法による2事例評価と起因事象マトリックス法による1事例評価では,同じ施設を対象とし,同じ地震ハザードおよび同じフラジリティを採用する。対象とした仮想の高レベル廃液(HAW)貯蔵施設の概要をFig. 4に示す。

Fig. 4

Outline of hypothetical HAW storage facility evaluated

主な設備の概要と計算に必要な仮定をTable 3に示す。基事象(Basic event:フォールトツリーにおいてそれ以上展開しない事象)は地震による損傷のみとし,ランダム故障および損傷した機器の復旧は考慮しない。なお,すべての階層化モデルでその他の起因事象に関連した起因事象の組み合わせは考慮しない。

Table 3 Overview of seismic risk assessment model

Facility Hypothetical HAW storage facility at a site
External hazard Earthquake
Severe accident Boiling and evaporation to dryness due to loss of cooling function
IEs ・Internal loop damage (IN4)
・External loop damage (IN3)
・Loss of external power supply (IN2)
・Other transient events (IN1)
・Combination of above events
Basic event Damage due to seismic ground motion
Power supply systems ・External power supply system
・Emergency power supply system
HAW cooling system and water injection system ・Permanent HAW cooling system
・Mobile water injection system into HAW
Loss of accident mitigation functions ・LOC: Loss of cooling function
・LOI: Loss of mobile water injection function
・SB: Station blackout
Other assumptions ・IEs are independent from basic events.
 (Correlation of seismic damages is not
 considered.)
・All IEs occur at the same time.
・Each of external power supply system,
 cooling system and water injection system
 consists of a single train.
・Emergency power supply system consists of
 two identical trains.

当該施設では,建屋内のコンクリート製セル内の貯槽(Ht)にHAWが貯蔵されているとする。想定する重大事故は,Ht内の蒸発乾固事象のみとする。起因事象は,内部ループ損傷(IN4),外部ループ損傷(IN3),外部電源喪失(IN2)およびその他の過渡事象(IN1)の4つとする。これら4つの起因事象について,概要を述べる。

(1) 内部ループ損傷(IN4)

IN4はFig. 4中の配管(PipA)が損傷し,冷却水が漏えいすることを想定する。IN4が起きた場合,可搬式ポンプ車(Mi)を用いて水源タンク(Wt)の水を直接 Htに注入できれば重大事故(蒸発乾固事象)は回避できるものとする。

(2) 外部ループ損傷(IN3)

IN3は配管(PipB)が損傷し,冷却水が漏えいすることを想定する。IN3が起きた場合も,IN4と同様にMiを用いてWtの水を直接Htに注入できれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

(3) 外部電源喪失(IN2)

IN2は敷地内外の設備のうち起動変圧器(Tf)が最弱部と仮定し,これが破損することにより外部電源が喪失すると想定する。IN2が起きた場合,非常用ディーゼル発電機(EDG)による非常用交流電源が確保できれば,全交流電源喪失には至らないものとする。非常用交流電源が確保できた場合,内部ループおよび外部ループを介したHtの冷却またはMiを用いたHtへの注入に成功すれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

(4) その他の過渡事象(IN1)

上記(1)項から(3)項以外のなんらかの起因事象が発生すると仮定し,IN1は(1)項から(3)項の起因事象の余事象とする。したがって,IN1と(1)項から(3)項の起因事象は互いに排反事象であり,それらの組み合わせは存在しない。IN1が発生した場合,Miを用いてWtの水を直接Htに注入できれば蒸発乾固事象は回避できるものとする。

すべての起因事象においてHtの冷却に失敗し,かつ,Htへの注水に失敗した場合,Ht内で蒸発乾固事象が起きるものとする。内部ループは主にPipA,電動ポンプ(PmA)および熱交換器(Hex)で構成されている。内部ループはHexを通じて外部ループにより除熱される。外部ループは主にPipB,電動ポンプ(PmB),冷却塔(Ct)およびHexで構成されている。外部ループまたは内部ループが損傷した場合,Miを用いてWtの水を直接Htに注入できる構造とする。電源は外部電源と非常用電源2台が共通の母線に接続されている。外部電源の主な設備としてTfがあり,EDGAおよびEDGBの燃料補給のため燃料タンクと配管がある。MiやPmAおよびPmBは,通常時には外部電源から,また,IN2時には非常用電源から給電されるものとする。

最小規模の階層モデルと起因事象ごとのイベントツリーをFig. 5に示す。Fig. 5の注入機能喪失(LOI:Loss of injection function)は内部ループと外部ループによる冷却機能が喪失している状態で,Miによる直接注水機能が喪失することを示す。また,全交流電源喪失(SB:Station blackout)は,IN2が発生しEDGによる電源供給機能が喪失することを示す。さらに,冷却機能喪失(LOC:Loss of cooling function)は,IN4およびIN3では発生していない起因事象で内部ループまたは外部ループによる冷却機能が喪失すること,例えば,熱交換器,循環ポンプなどの機能喪失を示す。同図に示すとおり,起因事象ごとのイベントツリーは起因事象が起きた後の事故緩和系の機能成功や失敗を示す事故シナリオが同一のものをグループ1(IN1のイベントツリー),グループ2(IN2のイベントツリー),グループ3(IN3およびIN4のイベントツリー)としてグループ化して示している。さらに,中間規模の階層モデルと起因事象ごとのイベントツリーをFig. 6に示す。Fig. 6の階層ツリーは青枠で囲ったIN4とIN2の同時発生およびIN3とIN2の同時発生を考慮する部分がFig. 5との相違点である。中規模の階層化モデルでIN3とIN2が同時発生をINT3_1とし,IN4とIN2が同時発生をINT3_2とする。Fig. 5と同様にFig. 6についても,起因事象ごとのイベントツリーは起因事象が起きた後の事故緩和系の機能成功や失敗を示す事故シナリオが同一のものをグループ1(IN1のイベントツリー),グループ2(IN2のイベントツリー),グループ3(N3_1およびIN4_1のイベントツリー),グループ4(N3_2およびIN4_2のイベントツリー)としてグループ化して示している。最大規模の階層モデルと起因事象ごとのイベントツリーをFig. 7に示す。青枠で囲ったIN4とIN2の同時発生およびIN3とIN2の同時発生,ならびに赤枠で囲ったIN4とIN3とIN2の同時発生を考慮する部分がFig. 6との相違点である。前報4では,評価対象のすべての起因事象の組み合わせを考慮する最大規模の起因事象階層モデルは,起因事象マトリックス法と等価となることを確認しており,評価で考慮する起因事象の組み合わせは同じとなる。起因事象マトリックス法における起因事象の組み合わせとFig. 7で示す最大規模の起因事象階層化手法における起因事象階層ツリーとの関係をFig. 8に示す。Fig. 8で矢印は最大規模の起因事象階層化手法と起因マトリックス法で同じ起因事象または起因事象の組み合わせを示す。最大規模の階層化手法の起因事象の同時発生の名称は起因事象マトリックス法を想定しやすくするためIN3 × IN2,IN4 × IN2,IN4 × IN3および,IN4 × IN3 × IN2とする。

Fig. 5

Smallest IEHET (Initiating Event Hierarchical Event Tree) used in present study

Fig. 6

Medium scale IEHET used in present study

Fig. 7

Largest IEHET used in present study

Fig. 8

Relationship between IEs in IEMM and those in largest IEHET

Figures 5および6と同様にFig. 7についても,起因事象ごとのイベントツリーは起因事象が起きた後の事故緩和系の機能成功や失敗を示す事故シナリオが同一のものをグループ1(IN1のイベントツリー),グループ2(IN2のイベントツリー),グループ3(IN3,IN4およびIN4 × IN3のイベントツリー),グループ4(IN3 × IN2,IN4 × IN2およびIN4 × IN3 × IN2のイベントツリー)としてグループ化して示している。

本事例評価で採用した起因事象および緩和系では,リスク評価に際し最もフラジリティが大きい設備を代表設備として設定しており,その代表設備の設置場所や設備の種類をTable 4に示す。

Table 4 Relationship between IE or loss of mitigation function and representative SSC with its location

ID IE or loss of mitigation function Location of representative SSC (relating to F3) Representative SSC (relating to F4)
IN4 Internal loop damage Inside building F3 Pipe F4_1(1)
IN3 External loop damage Inside building F3 Pipe F4_1(2)
IN2 Loss of external power supply Outside building (without considering F3) Startup transformer F4_2
LOC Loss of cooling function Inside building F3 Electric pump F4_3
LOI Loss of mobile water injection function Outside building (without considering F3) Mobile water injection vehicle F4_4
SB Loss of emergency power supply Inside building F3 EDG A F4_5
EDG B F4_5

Notes:

 1 It is assumed that there is only one building and therefore, only one F3.

 2 It is also assumed as follows: The coefficient F3 is common to IN4 and IN3. The pipe in external loop is, however, different from that in the internal loop and therefore, F4s are different and independent from each other.

 3 The coefficients F3s and F4s as well as seismic stresses of EDGs A and B are assumed to be the same.

(1)式で用いたGal当たりの発生頻度(h(α))をFig. 9に示す。また,IN1からIN4の起因事象のフラジリティ曲線をFig. 10に,LOI,SBおよびLOCのフラジリティ曲線をFig. 11に示す。Fig. 10に示すIN1は,他の3つの起因事象の余事象であり,したがって地震動が小さいほど損傷確率が大きくなる。

Fig. 9

Seismic hazard curve h(α) expressed as occurrence frequency of peak ground acceleration α per Gal

Fig. 10

Fragility curves of IEs used in present study

Fig. 11

Fragility curves of SSCs for accident mitigation functions

本事例評価では,最大加速度α(Gal)を0,300,700,1,000,1,300,1,600および2,000に離散化した。(2)および(5)式で用いた離散幅L(Gal)はこれら離散点間の差分となる。

以下,上記の最小規模,中規模および最大規模の起因事象階層化手法(起因事象マトリックス法と同等)について,地震応答の相関を考慮する場合と,考慮しない場合の差異を比較する。これらの評価ケースをTable 5に示す。

Table 5 List of evaluation cases

Case ID With or without considering seismic response correlation Initiating Event hierarchical event tree (IEHET) used
Case 1_1 Without Smallest IEHET
Case 2_1 Without Medium scale IEHET
Case 3_1 Without Largest IEHET (equivalent to IEMM)
Case 1_2 With Smallest IEHET
Case 2_2 With Medium scale IEHET
Case 3_2 With Largest IEHET (equivalent to IEMM)

上記評価ケースではII-2節で示した設備のフラジリティ評価手法を用いる。III章で述べたとおり,応答係数F3およびF4のモンテカルロサンプリング数は各々1,000とする。各評価ケースでは,Table 3に示した起因事象およびそれらの組み合わせの発生頻度,ならびに起因事象ごとの蒸発乾固事象の発生頻度を評価する。以下,評価結果を示す。

2. 最小規模の階層化手法による事例評価

最小規模の階層ツリーによる評価結果をTable 6に示す。蒸発乾固事象の発生頻度は,地震応答の相関を考慮しないケース1_1,考慮するケース1_2とも1.5 × 10−4/年となった。最小規模の階層ツリーでは,地震応答の相関の影響は小さい。

Table 6 Evaluation results with smallest IEHET

Case 1_1 (Without considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) (%) SA frequency (1/year) (%)
IN4 (LOI) 4.2 × 10−4 0 7.1 × 10−5 49
IN3 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 )$
1.8 × 10−3 2 7.4 × 10−5 51
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.3 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
0.0 0
IN1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 0.0 0
Total 1.1 × 10−1   1.5 × 10−4  
Case 1_2 (Considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) (%) SA frequency (1/year) (%)
IN4 (LOI)
$( \textit{IN}4 )$
4.4 × 10−4 0 8.2 × 10−5 57
IN3 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 )$
1.3 × 10−3 1 5.5 × 10−5 38
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.5 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
8.0 × 10−6 5
IN1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 6.8 × 10−10 0
Total 1.1 × 10−1   1.5 × 10−4  

ケース1_1について起因事象発生頻度の内訳をみると,その他の過渡事象(IN1)が96%,外部電源喪失事象(IN2)が2%,外部ループ損傷(IN3)が2%となっている。

起因事象発生頻度のうち最大なのは,IN1の1.0 × 10−1(1/年)であり,全発生頻度への寄与は96%であった。しかし,IN1による蒸発乾固事象の発生頻度は全体の0%である。IN1は,Fig. 10のフラジリティ曲線から,他の起因事象(IN4,IN3およびIN2)が起き難い低地震動で発生確率が大きいが,低地震動では緩和系の損傷確率が小さいため蒸発乾固事象発生頻度は小さい。一方,IN4の起因事象発生頻度は4.2 × 10−4(1/年)であり,全体への寄与は~0%と小さいが,IN4後の冷却機能喪失(L0I)による蒸発乾固事象発生頻度は7.1 × 10−5(1/年)となり,全体への寄与は49%と大きい。その理由は,Fig. 5のイベントツリーに示すように最上位の起因事象であり,他の起因事象(IN3およびIN2)との組み合わせが含まれているためである。同様に,IN3の起因事象発生頻度は1.8 × 10−3(1/年)であり,全体への寄与は2%と小さいが,IN3後の冷却機能喪失(L0I)による蒸発乾固事象発生頻度は7.4 × 10−5(1/年)となり,全損傷頻度への寄与は51%と大きい。この理由は,IN3の起因事象発生頻度はIN4より約4倍大きく,またFig. 5のイベントツリーに示すようにIN2より上位の起因事象であるためIN2との組み合わせが含まれているためである。

ケース1_2について起因事象発生頻度および蒸発乾固事象発生頻度の内訳は,ケース1_1と同じような傾向である。ケース1_2の蒸発乾固事象発生頻度ではIN2のSBが5%を占めるのに対し,ケース1_1では0%となっている点が最大の相違点といえる。これは,EDGは2台の冗長系となっており,地震応答の相関を考慮したケース1_2では,EDGの機能喪失確率は完全相関により1台分の損傷確率となるのに対し,ケース1_1では2台の損傷確率の積となるためである。

3. 中規模の階層化手法による事例評価

中規模の階層ツリーによる評価結果をTable 7に示す。SA発生頻度は,地震応答の相関を考慮しないケース2_1で1.5 × 10−4/年,考慮したケース2_2で1.8 × 10−4/年となり,地震応答の相関考慮により2割程度リスクが増加した。

Table 7 Evaluation results with middle scale IEHET

Case 2_1 (Without considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) Contribution (%) SA frequency (1/year) Contribution (%)
IN4_1 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}2} )$
8.1 × 10−5 0 0.0 0
IN4_2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}2 )$
3.4 × 10−4 0 7.1 × 10−5 48
IN4_2 (SB)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}2 )$
2.2 × 10−6 1
IN3_1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.1 × 10−3 1 0.0 0
IN3_2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.9 × 10−4 1 7.4 × 10−5 50
IN3_2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.3 × 10−7 0
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.3 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
0.0 0
IN1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 4.2 × 10−10 0
Total 1.1 × 10−1   1.5 × 10−4  
Case 2_2 (Considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) Contribution (%) SA frequency (1/year) Contribution (%)
IN4_1 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}2} )$
6.9 × 10−5 0 5.2 × 10−6 3
IN4_2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}2 )$
3.7 × 10−4 0 7.7 × 10−5 43
IN4_2 (SB)
$( IN4 \times IN2 )$
2.6 × 10−5 15
IN3_1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
8.8 × 10−4 1 0.0 0
IN3_2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
4.4 × 10−4 0 5.5 × 10−5 31
IN3_2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
7.5 × 10−6 4
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.5 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
8.0 × 10−6 4
IN1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 6.8 × 10−10 0
Total 1.1 × 10−1   1.8 × 10−4  

ケース2_1や2_2ではケース1_1や1_2と比べIN4とIN3で外部電源喪失を考慮するためSBによる蒸発乾固事象発生頻度が増加する。SBで重大事故になる場合,EDGが2台損傷することが前提となる。地震応答の相関を考慮しないケース2_1ではその確率は独立した2台の損傷確率の積となるため小さい。一方,ケース2_2ではその確率は完全相関によりEDG1台分の損傷確率となるためケース2_1と比較して2割程度SBの発生頻度が大きい。

4. 最大規模の階層化手法(起因事象マトリックス法)による事例評価

最大規模の階層ツリーによる評価結果をTable 8に示す。これは,起因事象マトリックス法によるものと同一である。SA発生頻度は,中規模の階層ツリーと同じく地震応答の相関を考慮しないケース3_1で1.5 × 10−4/年,考慮したケース3_2で1.8 × 10−4/年となり地震応答の相関を考慮することにより2割程度リスクが増加する。

Table 8 Evaluation results with largest scale IEHET (equivalent to IEMM)

Case 3_1 (Without considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) Contribution (%) SA frequency (1/year) Contribution (%)
IN4 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
7.4 × 10−5 0 0.0 0
IN3 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.1 × 10−3 1 0.0 0
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.3 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
0.0 0
IN1(LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 4.2 × 10−10 0
IN4 × IN2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
1.6 × 10−4 0 1.4 × 10−5 9
IN4 × IN2 (SB)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
6.0 × 10−8 0
IN3 × IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.9 × 10−4 1 7.4 × 10−5 50
IN3 × IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
6.3 × 10−7 0
IN4 × IN3 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
6.9 × 10−6 0 0.0 0
IN4 × IN3 × IN2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
1.8 × 10−4 0 5.7 × 10−5 39
IN4 × IN3 × IN2 (SB)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
2.1 × 10−6 1
Total 1.1 × 10−1   1.5 × 10−4  
Case 3_2 (Considering seismic response correlation)
Combination of IEs IE frequency (1/year) Contribution (%) SA frequency (1/year) Contribution (%)
IN4 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
0.0 0 0.0 0
IN3 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
8.8 × 10−4 1 0.0 0
IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
2.5 × 10−3 2 0.0 0
IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
8.6 × 10−6 4
IN1 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \overline{\textit{IN}3} \times \overline{\textit{IN}2} )$
1.0 × 10−1 96 6.8 × 10−10 0
IN4 × IN2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
0.0 0 0.0 0
IN4 × IN2 (SB)
$( \textit{IN}4 \times \overline{\textit{IN}3} \times \textit{IN}2 )$
0.0 0
IN3 × IN2 (LOI)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
4.4 × 10−4 0 5.5 × 10−5 31
IN3 × IN2 (SB)
$( \overline{\textit{IN}4} \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
7.5 × 10−6 4
IN4 × IN3 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \overline{\textit{IN}2} )$
6.9 × 10−5 0 5.2 × 10−6 3
IN4 × IN3 × IN2 (LOI)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
3.7 × 10−4 0 7.7 × 10−5 43
IN4 × IN3 × IN2 (SB)
$( \textit{IN}4 \times \textit{IN}3 \times \textit{IN}2 )$
2.6 × 10−5 15
Total 1.1 × 10−1   1.8 × 10−4  

また,3つの起因事象の同時発生を考慮する方法は起因事象マトリックス法(最大規模の階層ツリーによる方法)のみであるが,同表に示すとおり,そのSA発生頻度はケース3_1で全体の40%,3_2で58%となり,相関を考慮した場合は最もリスク上重要な起因事象となる。

ケース3_1および3_2の特徴はIN4とIN3の同時発生を考慮していることにある。しかし,今回想定した施設では,IN4またはIN3が単独で発生した場合とIN4とIN3が同時発生した場合で有効な緩和系が同じであるため,ケース3_1のリスクは,2_1のリスクと同じであり,ケース3_2のリスクは,2_2リスクと同じ結果となる。これについては,起因事象マトリックス法における縮約と関連して,IV-6節で議論する。

5. 6つの事例評価ケースの比較

IV-2節からIV-4節に示した全評価ケースの結果をTable 9に示す。

Table 9 Comparing results among evaluation cases

Case ID SA frequency (1/year) SA scenario and its ratio Ratio of single IE or multiple IEs to total
Case 1_1 1.5 × 10−4 LOI 100% Single IE 100%
SB 0% Multiple IEs 0%
Case 2_1 1.5 × 10−4 LOI 98% Single IE 0%
SB 2% Multiple IEs 100%
Case 3_1 1.5 × 10−4 LOI 98% Single IE 0%
SB 2% Multiple IEs 100%
Case 1_2 1.5 × 10−4 LOI 95% Single IE 100%
SB 5% Multiple IEs 0%
Case 2_2 1.8 × 10−4 LOI 77% Single IE 7%
SB 23% Multiple IEs 93%
Case 3_2 1.8 × 10−4 LOI 77% Single IE 4%
SB 23% Multiple IEs 96%

地震応答の相関を考慮しない場合,最小規模の階層ツリー,中規模の階層ツリーおよび起因事象マトリックス法(最大規模の階層ツリー)によるSA発生頻度はすべて1.5 × 10−4/年となった。地震応答の相関を考慮した場合,中規模の階層ツリーおよび起因事象マトリックス法によるSA発生頻度はいずれも1.8 × 10−4/年と2割程度大きくなった。

以下,特徴的な事項を示す。

 • ケース1_1および1_2(最小規模の階層ツリー)では,上位の起因事象と下位の起因事象の同時発生は上位の起因事象で代表させるため,複数の起因事象が発生していることを確認できない。具体的には,IN3およびIN4でLOSPを考慮しないためEDG損傷によるSBのリスクを無視している。このため,その他のケースと比較して過小評価となる。すなわち,ケース2_1および3_1のSBは2%に対しケース1_1は0%,また,ケース2_2および3_2のSBは23%に対しケース1_2は5%となる。

 • 事例では,地震応答の相関を考慮する場合としない場合でSBの寄与割合が異なっている。SBは2台のEDGの同時損傷が蒸発乾固事象の発生条件である。2台のEDGは同じ建屋の同種の設備と仮定しており,地震応答の相関の影響を強く受ける。相関を考慮する場合,本評価手法ではEDG2台の同時損傷確率は1台の損傷確率と同じになる。一方,相関を考慮しない場合は,EDG2台は独立と仮定するため,その同時損傷確率は単独損傷確率の2乗となる。このため,相関を考慮しないケース1_1,2_1および3_1は過小評価の影響が小さくなり,SA発生頻度はほぼ同じ値となる。相関を考慮した場合は,EDG2台の同時損傷確率が比較的大きいためケース1_2は,2_2および3_2より2割程度過小評価となる。

6. 起因事象マトリックス法における縮約に関する考察

起因事象マトリックス法は想定するすべての起因事象の組み合わせを網羅的に評価する手法である。そのため,Fig. 1に示すとおり,起因事象や起因事象の同時発生の組み合わせが多い場合,解析能力の観点からスクリーニングなどにより簡略化を行う必要がある。

本報では,事例評価により最小規模の起因事象階層ツリー,中間規模の起因事象階層ツリーおよび起因事象マトリックス法に相当する最大規模の起因事象階層ツリーの比較を行った。その結果,地震応答の相関を考慮しない場合は,3手法ともリスクの観点では同じ結果となった。相関を考慮する場合は,中間規模と最大規模の起因事象階層ツリーは同じ結果となったが,最小規模の起因事象階層ツリーでは他の手法より2割ほど過小評価となった。これは,最小規模の起因階層ツリーがIN4やIN3とIN2の同時発生時のSBシナリオを無視することによる。一方,中間規模の起因事象階層ツリーは,相関を考慮する場合もしない場合も,最大規模の起因事象階層ツリーと同一となった。これは,IV-3節に記載したとおり,IN4またはIN3が単独で発生した場合とIN4とIN3が同時発生した場合で有効な緩和系(対策)が同じであるためである。すなわち,このような場合には,最大規模の起因事象階層ツリーは中間規模の起因事象階層ツリーに縮約できることを意味する。これらの事例を踏まえて,起因事象と起因事象の組み合わせに対し,SAシナリオとシナリオ内の対策の観点から評価対象とする起因事象のイベントツリーを縮約する手順を提案する。

  • ①    マトリックス法のすべての起因事象と起因事象の組み合わせに対し,同じイベントツリーとなる起因事象をグループ化する。(IV章に示す事例評価ではFig. 7に示すとおり4グループに分類できる。)
  • ②    ①で同じグループに分類した起因事象の組み合わせを新規の起因事象とし,その発生頻度を算定する。
  • ③    ①および②で求めた起因事象および起因事象の組み合わせに対しSA発生頻度を評価する。Fig. 12にIV章の事例評価で縮約前後のイベントツリーおよび定量評価結果の比較を示す。縮約前後のSA発生頻度は同じになることを示している。

Fig. 12

Comparison between IEHETs and their risk assessment results before contraction and those after contraction

上記①から③のシナリオの観点による縮約だけでは評価が困難な場合は,別途スクリーニングなどを検討する必要がある。

V. 結論

筆者らは,前報4にて,地震PRAにおいて想定するすべての起因事象と起因事象の組み合わせを網羅的に評価する起因事象マトリックス法を提案するとともに,広く用いられている起因事象階層化手法5,6との相違を明確にした。本報では,起因事象マトリックス法の有効性を確認することを目的として,同手法および起因事象階層化手法を地震損傷の相関を考慮する事例の評価に適用し,評価結果を比較検討した。相関を考慮する場合には,しない場合と比較して,複数起因事象の同時発生頻度が増加することが想定されるため,こうした事例は起因事象マトリックス法の有効性の評価に適している。

事例評価では,仮想的な簡略化した高レベル廃液貯蔵施設を対象とし,重大事故として廃液貯槽内での蒸発乾固事象を想定した。相関を考慮する手法については,以下に示す簡略なものを採用した。

  • •    地震損傷の相関のうち対象設備の設置場所や種類に関わる地震応答の影響のみを考慮する。
  • •    設備のフラジリティの評価では,応答係数法を用い,モンテカルロサンプリングにより応答係数F3およびF4をサンプリングする手法を採用する。

事例評価の結果,以下を確認し,起因事象マトリックス法の有効性を確認した。

  • •    起因事象階層化手法では,複数起因事象の同時発生の影響を無視するため,起因事象マトリックス法と比較して重大事故の発生頻度を過小評価した。
  • •    地震損傷の相関を考慮する場合は,しない場合と比べて,上記過小評価がより顕著になった。

さらに,起因事象マトリックス法については,起因事象発生後の有効な影響緩和系が同じ,すなわち起因事象発生後のイベントツリーが同じ場合,そうした起因事象または起因事象の組み合わせをグループ化し,1つの起因事象にまとめることにより,起因事象のイベントツリーを簡略化できることを評価の過程で示した。これは,事故シナリオの観点から起因事象のイベントツリーを縮約できる場合があることを意味する。これにより,地震PRAの効率化ができ,計算負荷の緩和に貢献できる。一方,階層化手法では,一般に,起因事象を階層化する段階で下位の起因事象を無視するため,起因事象の縮約はできないと考える。

なお,このような縮約だけでは評価が困難な場合は,スクリーニングなどにより評価の効率化を別途検討する必要がある。

References
 
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