Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Effective Dose Evaluation Method for Seismic Isolation Layer of 6 and 10 MeV Linac Facilities
Takuma NOTOKazuaki KOSAKO
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2023 Volume 22 Issue 4 Pages 112-118

Details
Abstract

The widespread use of medical linacs for cancer treatment and seismic isolation structures in Japan led to the construction of an increasing number of buildings in which medical linac rooms are located directly above the seismic isolation layer. Extending the control area in the seismic isolation layer is advantageous for reducing the cost of floor shielding. However, establishing a simple calculation method is necessary to evaluate the effective dose in the seismic isolation layer for shielding design. We proposed and verified a simple calculation method that can be applied to evaluate the effective dose in the seismic isolation layer of 10 MeV linac facilities. The parameters of the method were investigated when applied to 6 and 10 MeV linacs and extensively validated by comparing the results with the Monte Carlo calculation. For the seismic isolation layer in which the height of the space is ≤2 m, the results of the method and the Monte Carlo calculation agree within 28% and 21% at points of half-height and ≥3 m horizontally from the linac source, respectively. Furthermore, the measured doses were compared with the proposed method values in the seismic isolation layer of a 10 MeV linac facility.

I. 緒言

放射線療法は,がん(悪性新生物)治療において手術と化学療法とならぶ3大がん治療法の1つとして適用されている。それを実施する国内各地の拠点病院には,高度な放射線療法の提供や地域の医療機関との連携が求められている。放射線治療装置としては,定位放射線治療や強度変調放射線治療などにより高精度な治療の提供が可能で比較的導入しやすい医療用リニアック装置(linac)が特に普及している。医療用リニアック装置では,6~25 MeVに加速した電子を照射ヘッド(Irradiation head)内の金属ターゲットに照射し発生する制動放射線(X線)をコリメーターで成形した利用線錐が大多数の治療で使用される。リニアック装置は,患者を全周360度の任意な方向から照射できるように照射ヘッドを回転させて利用線錐の方向を変えることが可能である。照射ヘッドからは遮蔽上無視できない量のX線の漏えい線や光核反応で発生した中性子が放出されるため,リニアック室外への放射線の漏えいを十分に抑制する必要がある。そのため,部屋の全方位を厚い遮蔽壁で覆い,出入口を迷路構造にした上でリニアック装置が設置されるリニアック室は管理区域として区画される。RI規制法と医療法の定めにより,管理区域境界は実効線量が1.3 mSv/3月以下,人が常時立ち入る場所では1 mSv/週以下となるように遮蔽設計する必要がある。遮蔽壁に必要な厚さは,放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル1(以下,「遮蔽マニュアル」という),IAEA Safety Report Series No. 472(以下,「Rep. 47」という),NCRP Report3等に記載の簡易計算式により計算することが可能である。例えば,国内で最も普及しているX線最大エネルギーが10 MeVのリニアック装置の場合,利用線錐方向では鉄板とコンクリートを使用して1.5 m程度の壁厚が必要である。また,遮蔽壁は病院のなかでも特に重量物であるため,リニアック室は建物の最下階に設置されることが多い。

日本は世界的にみても地震が多いため,近年では大規模な震災時の病院機能の維持や,中小規模な地震における安全性を高める必要性から免震構造の採用が増加している。免震構造では建物本体と基礎構造物の間に,建物を支えながら地震の揺れを逃がすアイソレータや,揺れを吸収するダンパーといった免震装置を設置する免震層(Seismic isolation layer)が設けられる。通常,免震装置の他には施設の設備配管等が設置されるが,免震層の高さは一般的な階高より低く,人が常時立ち入ることはない。このため,大石らはリニアック室の直下に免震層が設けられる施設において,床方向の管理区域境界を免震層内に拡張し,床の遮蔽に掛かるコストを削減する手法を提案し,遮蔽設計においては免震層内の散乱線が重要であることを示した4。この中では,免震層内の散乱を計算できる有効な簡易計算式が存在しなかったため,モンテカルロ計算が用いられた。モンテカルロ計算は複雑な形状における線量計算を精緻に行うことが可能であるが,簡易計算式に比べ,長い計算時間や評価者の習熟が必要といった課題がある。そこで,これまでに筆者らは国内で最も普及している10 MeVリニアックを対象に,リニアック室の階下にある免震層内の線量評価が可能な,2つの散乱面に挟まれた空間の多重散乱を考慮した実効線量評価簡易計算式を提案し,モンテカルロ計算との比較検証を行った5

本論文では,リニアック施設免震層の実効線量評価簡易計算式が,10 MeVリニアック以外の施設や,一般的な免震層の階高より広い空間でも使用できる一般性を示すとともに,遮蔽設計に利用する方法を示す。対象施設として10 MeVリニアックに加え,光中性子の影響を受けない6 MeVリニアックについて本手法を検証した。本手法に適した遮蔽体の透過率計算に必要な1/10価層を設定し,免震層とさらに広い空間での適用性の検証をモンテカルロ計算との比較により行った。検証結果をもとに計算値が過小評価とならない安全率を定めた。これにより遮蔽設計時の評価結果が安全側の評価になることを示すため,実際の10 MeVリニアック施設における大石らの免震層内の実測値と本手法による計算値の比較を行った。

II. 免震層の実効線量評価簡易計算式

1. 実効線量評価簡易計算式

本論文で検証を行う免震層の実効線量評価簡易計算式5について簡単に説明する。照射ヘッドから床方向に照射されたX線は,Fig. 1に示すように主にコンクリートでできた厚いリニアック室床(Linac room floor)を透過した後,免震層内で3つの主要経路(点線,短破線,長破線)に別れて評価点に到達すると仮定した。Fig. 2は,簡易計算に必要な経路別の散乱角や経路長等を示す。

Fig. 1

Paths of X-rays reaching the evaluation point in the seismic isolation layer

Fig. 2

Geometric arrangement of parameters for the calculation method

線源からアイソセンター(IsoCenter; IC)までの距離が1.0 mであるとき,1つ目の経路であるリニアック室床の下面で散乱角度90°以下(反射角度90°以上)の側方散乱により評価点に到達するX線の実効線量DS(Sv/週またはSv/3月)は,次式により計算できる。

  
\begin{equation} D_{S} = \frac{\textit{WBFUA}_{\textit{IC}}\alpha_{S}}{d_{C}{}^{2}} \end{equation} (1)

ここで,W(Gy/週またはGy/3月)はリニアックの最大使用線量,Bは遮蔽体(リニアック室床)の透過率,F(Sv/Gy)は吸収線量を実効線量に変換する係数であり1.0を使用,Uはリニアック利用線錐の床方向照射の利用率,AIC(m2)はICにおける照射野,αSは反射角θS(>90°)に対する微分線量アルベド,dC(m)はリニアック室床の下面における散乱の中心点から評価点までの直線距離である。任意の角度に対する微分線量アルベドの計算は次節で説明する。透過率Bは,遮蔽マニュアルやRep. 47から補正係数F0(Rep. 47ではF0 = 1),遮蔽体の厚さt(cm)と1/10価層T1/10(cm)を用いて,次式で計算できる。

  
\begin{equation} B = F_{\textit{0}} \times 10^{-t/T_{1/10}} \end{equation} (2)

残りの2経路は,免震層内で多重散乱した後に,最終的に免震層の床(Seismic isolation layer floor)で散乱して評価点に到達するX線の実効線量DF(Sv/週またはSv/3月)の経路と,同様に最終的に免震層の天井(リニアック室床の下面)で散乱して評価点に到達するX線の実効線量DC(Sv/週またはSv/3月)の経路であり,それぞれ次式と次々式により計算できる。

  
\begin{equation} D_{F} = \frac{\textit{WBFUA}_{\textit{IC}}\alpha_{F}}{(1 - r^{2})d_{F}{}^{2}} \end{equation} (3)
  
\begin{equation} D_{C} = \frac{\textit{WBFUA}_{\textit{IC}}r\alpha_{C}}{(1 - r^{2})d_{C}{}^{2}} \end{equation} (4)

ここで,αFαCはそれぞれ免震層床面または免震層天井面における散乱の中心点から評価点までの反射角θFまたはθCに対する微分線量アルベド,rは2つの散乱面における多重散乱の散乱比として,片方の散乱面に入射したX線がもう一方の散乱面に到達する割合,dF(m)とdC(m)はそれぞれ免震層床面または免震層天井面における散乱の中心点から評価点までの直線距離である。(3)(4)式は,2つの散乱面(床面と天井面)における多重散乱を,エネルギーの減衰による散乱比の変化を無視したr2の無限等比級数として表している。10 MeVリニアックにおいては,モンテカルロ計算で得られた結果に基づきr = 0.4とした5

上記の3経路のDSDCDFの和が免震層内の評価点における実効線量Dである。ただし,モンテカルロ計算のような詳細計算に比べると,簡易計算式で求めた結果は,その計算精度以内でモンテカルロ計算よりも過小評価することがある。そのため,遮蔽設計に用いる場合は計算結果が安全側になることを担保するために安全率FSFを掛け,Dを次式のように導出する。

  
\begin{equation} D = \textit{WBFUA}_{\textit{IC}}F_{\textit{SF}}\left(\frac{\alpha_{S} + 0.5\alpha_{C}}{d_{C}{}^{2}} + \frac{1.2\alpha_{F}}{d_{F}{}^{2}}\right) \end{equation} (5)

先の検証5では透過率の計算にRep. 47にまとめられた1/10価層を用いた10 MeVリニアックにおいて,高さ1.5 m以下の免震層の線源の垂線からの水平距離が3 m以上離れた評価点で,モンテカルロ計算と比較して25%以内で一致することを示した。

なお,X線のエネルギーが約7 MeVを超えると照射ヘッドを構成する鉛やタングステンにより光中性子が発生するが,10 MeVを超えなければ鉄の光中性子反応のしきいエネルギーに達しないため,リニアック室床に鉄板を挿入した場合でも床で中性子が発生することはない。遮蔽体がコンクリートだけ,もしくは鉄板の厚さが40 cm以下で,外側コンクリートの厚さが75 cm以上ある場合は,遮蔽体外側での中性子の影響は無視できることがわかっている1

2. 微分線量アルベド

任意の角度に対する微分線量アルベドは,McGinley6が示したようにX線最大エネルギーの1/2を入射エネルギーとすることで,Chilton-Huddlestonの半経験式1,5,7により求めることが可能である。コンクリート面における散乱の計算に必要な定数CおよびC′をTable 1に示す。反射角が90°以上の側方散乱ではChilton-Huddlestonの半経験式は負の値になるため,絶対値を微分線量アルベドとして簡易計算式では使用する5。ただし,単純に絶対値をとった場合,θSが150°付近でアルベドが1を超えてしまうため,90°以上の比較的小さい反射角でのみ成り立つと考えられる。コンクリート面への垂直入射に対する反射角度60度から90度と,反射角度90度から120度の側方散乱の微分線量アルベドをFig. 3に示す。評価点が免震層の中間高さにある場合(θF = θC = 180 − θS),常にαSαCαFより大きい値を取ることからも,簡易計算式においてDSの寄与が無視できないことがわかる。

Table 1 Parameters of Chilton-Huddleston semi-empirical equation for 6 MeV and 10 MeV linacsa)

Acceleration energy
(MeV)
X-ray energy
(MeV)
C C
6 3 0.1054 0.0077
10 5 0.1364 0.0076

a)C and C′ in table are interpolated values from Ref. 7).

Fig. 3

Differential dose albedo for normal incident on ordinary concrete

(a) The angle of reflection from 60° to 90°, (b) The angle of reflection from 90° to 120°.

III. モンテカルロ計算体系

リニアック室の床下に免震層がある場合に,X線の利用線錐を床向きに照射したときの免震層内の実効線量率を3次元モンテカルロ計算により精密に求めた。使用した3次元モンテカルロ計算コードはMCNP58である。ICは床から129.5 cmの高さとし,線源はさらに100 cm上方にあり,そこからX線最大エネルギーが6 MeVまたは10 MeVの円錐形ビームがICに向けて照射される。このとき,ICにおける水の吸収線量率は6 Gy/minに規格化し,ICにおける照射野は0.16 m2で固定した。また,照射ヘッドからの漏えい線は利用線錐の1/1,000以下であるため計算対象から除外した。リニアック室床は密度2.1 g/cm3の普通コンクリートとし,検証内容に応じて,密度7.8 g/cm3の鉄板を含めた。リニアック室床の厚さTと免震層の高さHFig. 2参照)は検証内容によって変化させた。免震層の床はリニアック室の床と同じコンクリートとした。MCNP5計算は,線源直下の垂線からの水平距離xが3 mから9 mまでの1 mごとに,免震層の中間高さと,天井または床から5 cmの高さに設置したポイントタリーで光子フラックスを求めた。タリーのエネルギー群構造はVITAMIN-B69の光子42群をベースに8 MeV以上も0.5 MeV刻みで設定し,実効線量換算係数10を用いて実効線量率を求めた。なお3 m未満の水平距離は,利用線錐の影響により簡易計算式で得られる実効線量がモンテカルロ計算に比べて明確に過小評価する5ことから,本論文では評価対象から省いた。

IV. 簡易計算式の検証と考察

1. 6 MeVリニアックにおける多重散乱比の評価

6 MeVリニアックにおいても免震層内のX線の経路は10 MeVリニアックと変わらないと考えられるため,(1)(3)(4)式により実効線量を計算することが可能である。このとき,6 MeVリニアックの微分線量アルベドは10 MeVリニアックと同様にX線最大エネルギーの1/2を入射エネルギーとして計算が可能である。Chilton-Huddrestonの半経験式で用いられる定数CおよびC′をTable 1に示す。入射エネルギーが3 MeV(加速エネルギーが6 MeV)における値は文献7)の2,4 MeVの値から内挿して求めた。垂直入射に対する微分線量アルベドをFig. 3に示す。6 MeVリニアックを対象にした簡易計算に必要な,免震層の2つの散乱面における多重散乱比をモンテカルロ計算により求めた。床の厚さは1.0,1.2,1.4,1.6,1.8,2.0[m]の6種類,免震層の高さは0.50,1.0,1.5[m]の3種類で,文献5)の手法により,各ポイントタリーにおいて免震層天井からの散乱のみを評価した実効線量と免震層床からの散乱のみを評価した実効線量の比を散乱比とした。得られた散乱比は,最小値が0.16,最大値が0.37,平均値が0.26であった。簡易計算式による遮蔽設計では,散乱比が大きいほど過大かつ安全側の評価となるため,少数第2位を切り上げて0.4を採用した。これは10 MeVリニアックと同じ値である。本手法では多重散乱によるエネルギーの減衰および散乱比の変化を無視しているため,同様の結果になったものと考えられる。したがって,免震層内散乱の3経路を合計した実効線量の計算式は6 MeVでも(5)式が使用できる。

2. モンテカルロ計算実効線量との比較

(1) 単純な免震層体系における検証

一般的な免震層として空間の高さ2 m以下を想定し,リニアック室の床厚Tを1.0,1.2,1.4,1.6,1.8,2.0[m],空間の高さHを0.50,1.0,1.5,2.0[m]に変化させたモンテカルロ計算により6 MeVと10 MeVリニアックのX線が床方向に照射されたときの免震層の中間高さにおける実効線量を求めた。

これらの条件に対する簡易計算と,簡易計算中の遮蔽体の透過率の計算に(5)式と(2)式を用いた。透過率の計算では,F0FSFを1に固定した上で,モンテカルロ計算結果との対数残差平方和が最小になる最適化された(optimized)1/10価層を算出し使用した。比較のためにRep. 47と遮蔽マニュアル(manual)の値を使った透過率も検証に用いた。Rep. 47の1/10価層はモンテカルロ計算体系に合わせて密度比例換算をしている。検証に用いたF0T1/10Table 2に示す。

Table 2 Parameters for calculating transmittance of iron (7.8 g/cm3) and concrete (2.1 g/cm3)

  Material Parameter 6 MeV 10 MeV
Optimizeda) Iron T1/10 9.56 10.4
Concrete T1/10 36.2 43.8
Rep. 47a) Concrete T1/10 38.4 43.6
Manual Concrete T1/10 35.2 42.1
F0 1.27 1.18

a)F0 is constant of 1.

透過率の計算に用いた手法ごとに,簡易計算で得られた免震層内の実効線量Dとモンテカルロ計算で得られた実効線量DMCの比(D/DMC)の最小値,最大値,平均値,標準偏差をTable 3に示す。6 MeVリニアックでは,D/DMCは平均して2%以内で一致し,個々の評価点は28%以内で一致した。Fig. 4は最もよく一致したT = 160 cmとH = 150 cmにおける実効線量率であり,すべての水平距離において6%以内で一致した。一方,Rep. 47の透過率を使用した場合は過大評価になる傾向があった。遮蔽マニュアルの透過率を使用した場合と比べると,本研究の1/10価層を用いた方が標準偏差は7割以下になっており,精度よく評価できている。

Table 3 Minimum (min), maximum (max), mean (mean), and standard deviation (sd) of D/DMC in simplified seismic isolation layer

  Transmittance
parameter
D/DMC
Min Max Mean SD
6 MeV Linac Optimized 0.72 1.25 1.02 0.099
Rep. 47 1.29 2.16 1.76 0.171
Manual 0.64 1.33 0.99 0.142
10 MeV Linac Optimized 0.79 1.16 1.002 0.073
Rep. 47 0.75 1.12 0.97 0.070
Manual 0.61 1.07 0.86 0.085
Fig. 4

Effective dose rate in seismic isolation layer when T = 1.6 m and H = 1.5 m

10 MeVリニアックで最適化した透過率を用いた場合,D/DMCは平均して0.2%以内で一致した。個々の評価点は21%以内で一致しているため,Rep. 47の透過率を用いた場合よりも精度がよいことがわかる。Fig. 4の条件ではすべての水平距離において7%以内で一致し,最もよい条件ではT = 120 cmとH = 150 cmの場合に全領域に渡って4%以内で一致した。

(2) 簡易計算式の適用範囲の検証

本手法の適用範囲の検証として,床厚を1.0,1.2,1.4,1.6,1.8,2.0[m]に,リニアック室階下の空間の高さを0.5,1.0,1.5,2.0,3.0,4.0,5.0[m]に変化させたモデルで,免震層の中間高さと,免震層天井面または床面から5 cmの高さにおける評価点での実効線量の比較を行った。簡易計算の透過率の計算にはTable 2に示す本手法に最適化したT1/10を使用し,FSF = 1とした。

Figure 5D/DMCと反射角θSの関係を示す。点は1°ごとのD/DMCの平均値,誤差棒は最大値と最小値の範囲を表している。6 MeVリニアックと10 MeVリニアックのいずれの場合でも,θSが大きくなり散乱の前方性が強くなるにつれ,過大評価が増えている。これは主にθSが大きい場合の微分線量アルベドαSが過大評価になっているためと考えられる。モンテカルロ計算と比較し,θS < 120°であれば6 MeVリニアックと10 MeVリニアックでそれぞれ67%以内と45%以内,θS < 110°であればそれぞれ46%以内と34%以内で実効線量の評価が可能であることがわかった。(1)項で検証した一般的な免震層の中間高さであれば,θS < 108°(H = 2 m,x = 3 m)となるため,より精度の高い評価になっている。一方,免震層の天井付近に当たるθS < 91°の評価点では,6 MeVリニアックと10 MeVリニアックで最小のD/DMCがそれぞれ0.63と0.70であり,(1)項で求めた精度より過小評価する場合があることがわかった。

Fig. 5

Relationship between θS and D/DMC

したがって,リニアック室直下の2つの散乱面に囲まれた空間では,θSが91°以上120°以下では,6 MeVリニアックと10 MeVリニアックでそれぞれ−28%~67%と−21%~45%以内で評価が可能である。また,θSが大きくなるにつれ実効線量を過大評価する傾向があるものの,遮蔽設計上安全側の評価が可能である。これらにより,一般的な免震層よりも空間の高さが高い場合や,評価点が線源から遠い場合であっても実効線量を安全側に評価することが可能である。また,微分線量アルベドの高精度化により,θSが大きい評価点における過大評価は改善できる可能性が高い。

(3) ターンテーブルピットと鉄板を含む体系における検証

現実的なリニアック室の構成では,アイソセンターの直下には治療台のターンテーブルを設置するためのピットや,必要に応じて床コンクリート中に遮蔽用の鉄板が設けられる。6 MeVリニアックと10 MeVリニアック施設免震層の簡易計算に最適な鉄の透過率と精度評価のため,2つの体系で検証を行った:(a)3種類の厚さ(1.0,1.5,2.0[cm])の鉄板と空気層からなる深さ30 cmのピットがリニアック室の床面に設置される,(b)30 cmの空気層のみのピットがリニアック室の床面にあって床中に3種類の厚さ(10,20,30[cm])の鉄板が設置される。Tを1.3,1.4,1.6,1.8,2.0[m]に変化させ,Hを1.0 mに固定したモンテカルロ計算により免震層内の実効線量を求めた。簡易計算式では安全率FSF = 1とし,モンテカルロ計算結果と対数残差平方和が最小になる鉄の1/10価層を求めた(Table 2参照)上で,同様に最適化したコンクリートの1/10価層とともに透過率を計算した。

Table 4D/DMCの最小値,最大値,平均値,標準偏差と水平距離の関係を示す。6 MeVリニアックにおいては,体系(a)と体系(b)でモンテカルロ計算結果とそれぞれ24%以内と17%以内で一致し,最も過小評価した点のD/DMCは0.76であった。10 MeVリニアックにおいては,体系(a)と体系(b)でそれぞれ20%と18%以内で一致し,最も過小評価した点のD/DMCは0.80であった。D/DMCの最小値と最大値は,(1)項で検証したコンクリートのみからなる床の計算精度の範囲内であるため,ピットや鉄板を考慮しても計算精度に影響しないことがわかった。

Table 4 Minimum (min), maximum (max), mean (mean), and standard deviation (sd) of D/DMC in seismic isolation layer with pit and shielding iron

  Model D/DMC
Min Max Mean SD
6 MeV Linac (a) 0.76 1.08 0.92 0.067
(b) 0.88 1.17 1.01 0.066
10 MeV Linac (a) 0.80 1.03 0.89 0.056
(b) 0.87 1.18 0.98 0.069

3. 安全率の検証

これまでの検証結果では,簡易計算式がモンテカルロ計算と比較して過小評価するケースがあった。簡易計算式が過小評価とならないように安全率FSFを設定する。6 MeVリニアックと10 MeVリニアックにおいて,反射角θSが91°以上で,コンクリートのみからなる床の場合,最小のD/DMCはそれぞれ0.72と0.79であり,ピットと鉄板を含む場合のD/DMCはこれらより大きな値であった。したがって,安全率としてそれぞれの最小のD/DMCの逆数を取り,少数第2位で切り上げた1.4と1.3を検証する。

第2節(1)項の簡易計算において上記の安全率を使用した場合のD/DMCのヒストグラムをFig. 6に示す。D/DMCが正規分布に従うと仮定し,6 MeVリニアックの結果を正規分布フィッティングしたときの中央値Mは1.46,標準偏差σは0.141であり,同様に10 MeVリニアックでは,M = 1.34,σ = 0.0912であったため,いずれも中央値から標準偏差の3倍の範囲でD/DMC > 1が成り立つ。一般的な免震層の条件であるTが1 mから2 m,Hが0.5 mから2 mとxが3 m以上では,D/DMCはこれらの正規分布に従うと考えられ,99.7%以上の確率で簡易計算の結果はモンテカルロ計算よりも過大評価になる。したがって,FSF = 1.4と1.3は実効線量を安全に評価することのできる適切な安全率であり,このときのD/DMCの最大値は6 MeVリニアックと10 MeVリニアックにおいてそれぞれ1.75と1.51であった。

Fig. 6

Histogram of D/DMC with FSF = 1.3 and 1.4 for 6 and 10 MeV linac, respectively

4. 実測値との比較

大石らが測定した10 MeVリニアック施設免震層の実測値3と簡易計算の比較を行った。床コンクリート厚は170 cm,床面にはターンテーブル用ピット(28.5 cmの空気層と1.5 cmの鉄板)があり,さらにターンテーブルピットの下側には厚さ5 cmの鉄板が設置されている(鉄板は下向き照射時の利用線錐の範囲を十分カバーできる大きさ)。測定は,免震層の床上の位置に置いた電離箱サーベイメータを用いて実施された。

簡易計算式は,水平距離xが1 mから5 mの範囲で,(a)遮蔽設計に用いる場合と,(b)実際の測定環境に合わせた計算の2種類について計算を行った。(a)ではコンクリート密度が安全側の設計となるように2.1 g/cm3を使用し,FSFは1.3を使用した。しかし,実際に打設されたコンクリートは2.1 g/cm3より高い密度であった。そのため,(b)では測定したリニアック室の遮蔽コンクリートにおける材齢56日のテストピースの平均密度である2.3 g/cm3を採用し,実際の計算精度を確認するためにFSF = 1とした。また,照射ヘッドからは利用線錐の1/1,000以下の線量のX線が漏えいするように製作されているため,遮蔽マニュアルの照射ヘッドからの漏えい線を遮蔽した評価点の計算式を用いて漏えい線量の成分を加えたが,漏えい線による増加は本手法による寄与に比べて1%以下であった。

実測値と簡易計算式の線量率の比較図をFig. 7に示す。(a)の簡易計算式の結果はこれまでに検証を行ったxが3 m以上の距離では2.4倍以上の過大値であり,十分に安全側の評価ができていることがわかった。(b)の場合は,xが3 m以上の距離では実験値と24%以内で一致している。一方で,利用線錐近傍のxが1 mから3 m未満の距離では50%以内の過小評価である。1 m未満の距離では電離箱による実測値は飽和状態であるため比較対象から除外する必要がある。また,利用線錐の範囲に入るため,簡易計算式には散乱ではなく利用線錐の直接的な影響を反映する必要があるが,免震層の散乱により漏えいする実効線量評価の本質ではなく複雑化するだけなので組み込みは検討しない。

Fig. 7

Measured and calculated dose rate in seismic isolation layer

V. 結論

免震層のように2つの散乱面に囲まれた空間内の実効線量評価簡易計算式について検証を行い,本手法は10 MeVリニアック施設に加えて6 MeVリニアック施設においても同じ計算式で評価が可能であることがわかった。計算精度向上のため適切な1/10価層を設定し,これを使用することで反射角θSが91°以上120°以下では,6 MeVリニアックと10 MeVリニアックでモンテカルロ計算に比べそれぞれ−28%~67%と−21%~45%以内で実効線量の評価が可能であることを示した。特に,一般的な免震層の遮蔽設計において,線源直下の垂線からの水平距離で3 m以上離れた評価点では,反射角が限定されるため計算精度はそれぞれ28%以内と21%以内である。遮蔽設計に使用する場合は,安全率として6 MeVリニアックではFSF = 1.4,10 MeVリニアックではFSF = 1.3にすることで,それぞれ75%以内と51%以内の過大値になる安全側の評価が可能である。この際,床に設けられるピットや鉄板の追加等により透過率が変化する場合でも問題なく評価できる。

10 MeVリニアック施設に関しては,免震層における実測値と簡易計算式の結果がよく一致していることを示した。通常の遮蔽設計に用いられるコンクリート密度2.1 g/cm3と安全率を使用すれば必ず安全側の評価になることから,免震層内の線量評価や遮蔽設計に十分な安全裕度をもって適用可能である。

今後は,光中性子の影響が無視できない高エネルギーリニアック施設の免震層において,本手法の検証と拡張および光中性子の実効線量の計算法についての検討を進める計画である。

References
 
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