Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
Online ISSN : 2186-2931
Print ISSN : 1347-2879
ISSN-L : 1347-2879
Article
Survey of Air Dose Rate Distribution Inside and Outside of Wooden Houses in Fukushima Prefecture: Actual Condition of Dose Reduction Factor
Minsik KIMAlex MALINSMasahiko MACHIDAKazuya YOSHIMURAKimiaki SAITOHiroko YOSHIDA-OHUCHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 22 Issue 4 Pages 156-169

Details
Abstract

Dose reduction factors of Japanese houses are important for estimating the levels of external exposure of returning residents. In 2019, a total of 19 wooden houses were surveyed in Iitate Village and Namie Town using a gamma plotter that can continuously measure the air dose rate, with six houses selected for analysis. The characteristics of the dose reduction factor were investigated from the measured air dose rates in and around each house. In the vicinity of a house, uncontaminated land exists beneath the structure, and paved surfaces such as asphalt roads occupy a high fraction of the land around the structure. In pavements, the radiation source tends to be washed away rapidly. Therefore, the air dose rate near each house was relatively low. Within a radius of 50 m from the center of a house, air dose rates above unpaved surfaces were higher and had larger variations than those above paved surfaces. The dose reduction factor was widely distributed even for one house when the ratio of the air dose rates observed inside and outside the building was considered. It is thus suggested that a representative reduction factor may not be obtained if it is based on a small number of measurements that do not capture the full variation of the radiation field around a house.

I. はじめに

東京電力福島第一原子力発電所事故(以降,原発事故)から約12年が経過し,福島県の浪江町・双葉町・大熊町等の帰還困難区域を除いたほとんどの地域で避難指示が解除されている1。平成26年9月に国道6号線が再開通したのを始め2,平成27年3月には常磐自動車道が全線開通し3,令和2年3月には,常磐線が全線再開通した4。現在も多数のインフラの復旧・整備が行われており,今後さらに帰還あるいは新たに居住する住民等が増加することが予想される。これに当たり,実際の生活上での被ばく線量は帰還あるいは居住する住民にとって必要な情報であり,特に住民の滞在時間が最も長いのは家屋内であること5から,住家内の空間線量率の評価は重要である。この評価のためには一般的には屋外の空間線量率に対する屋内の空間線量率の比である線量低減係数が用いられることから,線量低減係数の現実的な評価が必要不可欠となる。

これまで線量低減係数に関する研究は実測およびシミュレーションに基づき多数行われてきた6。実測調査に関してはチェルノブイル事故後79また福島事故後1014に多数の家屋を対象とした研究が行われてきた。しかし,ほとんどの研究は家屋のサンプル数を増やして線量低減係数を統計的に解析したものであり,家屋内外の詳細な空間線量率の分布に基づき個々の家屋の線量低減係数の特徴について調べた研究は数少ない。一方,シミュレーションを用いた研究1522では,精密な家屋モデルを用いて家屋内の線量低減係数の分布や特徴について詳細な解析が行われているが,屋外の汚染分布については典型的な状況を想定しているため,屋内外の空間線量率の関係に関する現実的な議論が十分にできていない。

原発事故があった当時には,沈着した人工線源に対する日本木造家屋の線量低減係数データはほとんど存在していなかったため,IAEA-TEDOC-225「核施設の放射線事故へのオフサイト対応プランニング」23およびIAEA-TEDOC-1162「放射線緊急事態の評価および対応のための一般的手順」24で示された木造家屋における遮蔽係数「0.4」を用いて屋内の空間線量率が推定された。原発事故後,吉田ら等を始め,実測により木造家屋に対する線量低減係数が評価され1014,土壌に沈着した放射性セシウム線源に対する木造家屋の線量低減係数値は代表値として「0.4」が妥当であると確認された。さらに,自然放射線に対する線量低減係数が放射性セシウムと異なることの影響や除染による屋外の空間線量率分布の変化の影響で,屋外の空間線量率が低くなるに従って線量低減係数は0.4から徐々に大きくなる傾向が吉田らにより定量的に明らかにされ,屋外空間線量率依存の線量低減係数が提案されてきた25

これらの線量低減係数は与えられた屋外空間線量率においての平均値としては有効であるが,実際に観測された個々の低減係数は,0.2から1.3までの範囲12,25に渡っており変動が非常に大きいことが示唆されている。しかし,その変動がどのような原因によるものか明確なデータに基づいた議論は行われていない。すなわち,家屋の線量低減係数は,屋外における空間線量率に対して,屋内における空間線量率の比と定義されており,家屋内外の空間線量率の分布に強く依存することになるため,家屋内外の様々な状況によって変動することになる。その変動の考えられる要因としては,線量低減係数の分母となる屋外の空間線量率の場合,屋外環境における放射性セシウムの沈着状況(環境動態や除染等の考慮も含む。),構造物や樹木の存在,地形,地面被覆状態等の様々な周り環境状況の影響が考えられる。また,分子となる屋内の場合については,家屋形状や間取り,建材,壁の厚さ等の影響に加え,屋根,外壁や屋内に残存する放射性セシウムがある場合にはこの影響も考えられる。

そのため,本報では上記の様々な線量低減係数の変動要因の中で,特に屋外における空間線量率の分布と家屋周りの環境面状況(舗装面と非舗装面の割合)に着目し(Fig. 1),家屋内外の空間線量率の分布の特徴(場所による分布,頻度分布)ならびに線量低減係数の分布の変動の特徴を明らかにすることを目的とし,家屋内外の詳細な空間線量率分布を取得し解析を加えたのでその結果について報告する。

Fig. 1

Image of environmental conditions around houses and distribution of air dose rates

II. 実測概要

1. 測定方法

家屋内外の空間線量率の実測調査を2019年,飯舘村や浪江町等の木造家屋計19軒を対象に実施した。その内,除染が実施された家屋は17軒で,未実施の家屋は2軒であった。

この論文において空間線量率は周辺線量当量率のことを意味することとする。

空間線量率の測定には,TCS-172BサーベイメータおよびガンマプロッターH型26およびF型を用いた(Fig. 2)。測定位置の測定については,ガンマプロッターに搭載されたGPSより,空間線量率と同時に測定が行われた。なお,ガンマプロッターは衛星よりGPS情報を取得するため,天空への開口部が確保可能な比較的に開けた場所のみと測定が限定される。一方で,ガンマプロッターFはジャイロセンサーも有するため,森林のように樹木等が密集し天空への開口部のなくGPSの電波が届き難い場所での測定も可能である。

Fig. 2

Air dose rate measurement equipment (Gamma plotter)

この機能を活用し,家屋の北面に山林が位置していることがしばしばみられた飯舘村に存在する家屋では山林内も含めて広く家屋周囲の空間線量率の連続測定が行われた。これらの情報は,家屋内外の空間線量率分布の詳細を知るための貴重な測定結果と位置付けられる。以下,各々の測定機器と測定の様子をFig. 2に示し,各手段と測定方法の概要をTable 1に記す(ガンマプロッターについてはHタイプのみ記載,自己位置同定機能以外はHタイプとFタイプで大きな違いはない)。

Table 1 Summary of measurements performed

Measuring
instruments
Gamma plotter H TCS-172B
Detector type 20 φ × 40 mm,
Plastic scintillation detector
25.4 φ × 25.4 mm,
NaI(Tl) scintillation detector
Measurement
item
Air dose rate (µSv/h) Air dose rate (µSv/h)
Measurement
Method
(Measurement
interval)
3 seconds 4 directions,
10 seconds each
Measuring
height
5 cm above the surface,
100 cm above the surface
10 cm above the surface,
100 cm above the surface

ガンマプロッターHはプラスチックシンチレーション検出器が搭載されており,TCS-172BはNaI(Tl)シンチレーション検出器を利用したサーベイメータで,両者は異なる検出器が搭載されている(Table 1)。ガンマプロッターHの測定精度についてはガイドライン法により確認されており,ガンマプロッターHの測定値をNaIシンチレーションサーベイメータによる測定値と比較した結果,平均値で±20%以内で一致しており,NaIシンチレーションサーベイメータと同等の応答性をもつことが確認されている26

測定方法はガンマプロッターの場合,測定間隔を3秒としあらかじめ決めた測定点においては立ち止まって測定を行っているが,基本的には本体をもち歩きながら,連続的に空間線量率の測定を行った。TCS-172Bの場合,測定の時定数を30秒に設定し30秒を待ってから東西南北の4方向に対して各10秒の測定を3回ずつ行った。測定高さはガンマプロッターの場合,5 cmと100 cmの高さに検出器が搭載されているため本体を垂直にもって測定することでそれぞれの高さの空間線量率が測定される。TCS-172Bの場合は,床・地上10 cmおよび床・地上100 cmの高さで測定を行った。また,屋内の測定では基本的に壁からの距離が100 cmから150 cm程度の範囲で,各部屋内の中心点にて測定することを心掛けたが,部屋によっては家具や生活用品等が置かれており,中心点での測定が不可能な場合もあった。そのような場合,可能な限り部屋の中心点に近い位置にて測定を行った。また,部屋内にて特徴的な地点(例:線量率が部屋内にて高い値を示す地点(ガラス窓の付近等))での測定もあわせて行った。一部の家屋においては,2階の天井に向けて床上200 cmの高さ等の測定も行った。

一方,被ばく線量評価に用いる線量低減係数の実態を把握することが目的であるため,本研究では主にガンマプロッターによる屋外の地上100 cmの測定データおよび,TCS-172Bによる屋内の床上100 cmの測定データを使用している。

2. 対象地点の選定

調査を実施した19地点の内,解析対象に選定した6地点をTable 2にまとめ,選定地点の除染状況,環境面・地形の特徴を記載した。Fig. 3には,選択した6地点の空間線量率の空間分布を示す。選定地点の家屋は,すべて2階建ての木造住宅である。解析対象の選定基準としては,家屋周りが複数の環境面を有する(例,田んぼと森林等),家屋中心から半径50 mの範囲内(Fig. 3の緑色の円)の全方位で測定が可能であり,10 m × 10 m測定メッシュの数が50個を超える場所を,十分な情報があると判断し解析対象地点に選定した。家屋中心から半径50 mの範囲を選定基準にする理由としては,Alexら27の測定視野のデータをもとに,平坦地では50 m半径内の線源からやってくるガンマ線が空間線量率の80%以上を占めることを考慮し決めた。なお,地点ID-I-25の場合は,上記の選定基準を満たしていないが,環境面の特徴として市街地である測定地点が他にないため,解析対象地点に加えた。

Table 2 Decontamination status and environmental characteristics at each site

Site Decontamination
Status
Environmental characteristics Unpaved
surface (%)
Paved
surface (%)
ID-I-11 Rice paddies and forests, mostly flat terrain 77 23
ID-I-12 Forests, rice fields, and mountainous terrain 85 15
ID-I-25 Urban area, flat terrain 14 86
ID-I-26 Forest, mountainous terrain 77 23
ID-I-27 Rice paddies, mostly flat terrain 82 18
ID-N-6 × Rice paddies and forests, mostly flat terrain 83 17
Fig. 3

Circumstances around each surveyed houses and distribution of measured air dose rates

(Average of 10 m × 10 m mesh of air dose rates at 100 cm above the ground: average of gamma plotter measurements), [Imagery ©2022 Google. Map data].

この論文において舗装面とはアスファルト,コンクリート,砂利等により人工的に土地が被覆されているものを定義し,非舗装面とは土壌や草,リター等により土地が被覆されているものを定義する。

地点ID-N-6を除けば,すべての家屋周りにおいて表土をはぎ取る除染作業が実施されている。環境面の特徴については,地点ID-I-25のみが市街地にあり,家屋中心から半径50 m範囲内での舗装面の割合は86%で非舗装面より多い。その他の地点については,田んぼや森林が周囲に位置しており,非舗装面の割合は77~85%で舗装面より多い。後者の住宅環境は,福島県の郊外型としては標準的であり,農業に従事しつつ生計を立てる住民の生活状況を反映している。

なお,本研究では個人の住家内の測定を行うため,その結果には個人情報が含まれる。調査内容と方法については,東北大学大学院薬学研究科内に設けられた「ヒトを対象とする研究に関する倫理審査委員会」にて承認を受けており,調査は承認を受けた手順によって実施された。

III. 屋外の空間線量率分布の特徴

1. 屋外空間線量率の空間分布

Figure 3に示した家屋周囲の空間線量率分布をみると,空間線量率は地点ごとの沈着量や除染状況等の影響を受け,互いに異なる複雑な分布を示している。しかし,どの地点においても共通して家屋近辺が相対的に低い線量率を示しているのがみて取れる。家屋の真下に線源が存在しない影響で家屋近辺の空間線量率は周囲に比べて低くなることが松田ら14により報告されている。さらに後で述べるように,家屋中心から半径約20 m前後を始め,家屋周囲は道路等の舗装面の割合が相対的に多く,舗装面は非舗装面とは異なり放射線源が迅速に除去される傾向を有する2831ため空間線量率も低くなると考えられる。また,家屋周囲は特に十分に除染が行われたことも低い空間線量率に影響すると考えられる(Table 2参照)。

次に,地点ごとの違いに着目すると,家屋の北西に少し傾斜のあるID-I-11は,北西の空間線量率が相対的に高い。家屋周りの多くが傾斜を有する山林に囲まれたID-I-12の場合も,家屋の北西が相対的に高い線量率を示す。一方,周囲の環境が市街地のID-I-25の場合は,測定データは限定されているものの,環境面の被覆状況はほとんど舗装面であり,線量率は低く空間的な変動も少ない。ID-I-12と同じく,家屋周りが森林であるID-I-26も,山林に入り込むほど,相対的に空間線量率が高まることがわかる。環境面が田んぼであるID-I-27とID-N-6は,両者とも多様な分布を示すようにみえるが,除染が実施されたID-I-27の方が家屋近辺と家屋周りの差が相対的に小さいことがわかる。

2. 家屋中心からの距離変化に伴う空間線量率の変化

Figure 4に,家屋中心から2 mごとに分け,その中の測定データの平均を算出し,距離変化に伴う空間線量率の変化を示した。佐藤らは32,屋外で測定された空間線量率と屋内で測定された空間線量率との相関を調べ,家屋中心から離れていくほど空間線量率は増加する傾向があると報告した。同様に,本研究での選定地点においても家屋中心からの距離変化に伴う空間線量率の変化の特徴について調べた。まず,除染が実施されていない地域(N-6)をみると,除染が実施された地域に比べて家屋近辺から距離変化に伴い,空間線量率の増加が顕著にみられた。詳細には,家屋中心から15 m範囲内で空間線量率は急激に増加し,60 m範囲まで増加し続けた。これは,家屋周りの土地被覆状況にも関係があり,家屋の近い周りには相対的にセシウムの残存量が少ない舗装面が多く存在するが,家屋中心から離れていくほど,セシウムの残存量の多い庭や森林等の非舗装面の割合が増加するためである。一方で,60~70 mを超えると空間線量率の変動が少なくなる傾向がみられた。

Fig. 4

Variation of air dose rate with distance from house center

除染地域では,家屋周りの生活圏20 m範囲を除染している33こともあり,大体の地点で,空間線量率は家屋中心から20 m範囲内で小さく,20 mを超えれば少し増加する傾向がみられた。家屋中心から50 m範囲内で支配的に存在する土地被覆状況別からみると,山地形で森林が多いI-12およびI-25では,20 mから30 m間に斜面が存在して,空間線量率の増加が顕著であった。一方で,畑等が多く存在するI-11およびI-27では,森林地域のように顕著な増加はみられないが,やや上昇する傾向があった。最後に,測定範囲が限定されて他地点に比べ測定数が少ないが,舗装面の割合が多い市街地に存在するI-25では,場所によるピークは出現するものの,家屋中心から距離変化に伴う空間線量率の変化は極めて少なかった。

さらに,家屋周りの環境面状況(舗装面と非舗装面割合)に着目し,家屋中心からの距離変化に伴う土地被覆状況と空間線量率の変化について考察した。

まず,家屋中心からの距離増加に伴う土地被覆状況を把握するため,家屋中心から半径50 mの範囲を半径方向に10 mごとの範囲に分け,範囲ごとの総面積とその面積内に存在する家屋敷地(対象家屋および周辺に存在する家屋等も含む),舗装面,非舗装面に分けてFig. 5に示した。全体的にみると,市街地に位置するID-I-25を除けば,非舗装面が80%前後で舗装面は11~20%前後となる。半径10 m以内は舗装面の割合が高いが半径10 mを越すと段々非舗装面の割合が多くなり,半径40~50 mの範囲では非舗装面の割合が90%前後となる。一方,ID-I-25の場合は,距離変化に伴う土地被覆状況は大きく変わらない。

Fig. 5

Land cover within a 50 m radius of the house center

次に,家屋中心からの距離変化に伴う舗装面と非舗装面別の空間線量率の変化をみるため,各地点においてガンマプロッターより測定した家屋中心から半径50 m以内の空間線量率の全測定データを,舗装面上での測定されたものと非舗装面で測定されたものに分けFig. 6に示し,それらの特徴について考察した。ID-I-25地点では非舗装面での測定データがないため,舗装面と非舗装面の空間線量率の比較ができないが,それ以外の地点をみると,全体的に舗装面に比べて非舗装面の方が空間線量率の絶対値および変動ともに大きい傾向がみられた。また,舗装面上の空間線量率は,30~40 m以遠で多少の増加傾向がみられる地点もあったが,全体的に距離による顕著な変化はみられなかった。非舗装面では,10~20 mまたは,20~30 m範囲でピークが出現するケースが複数存在した。結果として,今回対象とした地点では30~40 m範囲あるいは40~50 mになると,舗装面と非舗装面との差が小さくなる特徴があった。

Fig. 6

Change in air dose rate with distance from house center

さらに,地点ごとの特徴について詳細にみると,ID-I-27では,家屋近くにホットスポットが存在し家屋近辺でバラツキが大きく,未除染地域のID-N-6では舗装面でもバラツキが大きく,家屋近辺に存在する森林等の影響を受けていた。ID-N-6の非舗装面では,家屋近辺の10 m範囲内で空間線量率のバラツキが小さく距離とともに段々大きくなり,家屋から南西方向に位置する森林の影響を受けて20~30 m半径で空間線量率のピークが出現し(測定最大値も同範囲で出現),30~40 mで少々下がり,40~50 mで再び大きくなる。一方,周囲のほとんどが舗装面で覆われているID-I-25は距離変化に伴う空間線量率の増加はあまりみられない。また,家屋裏側に斜面を有するID-I-12および26では斜面が存在する20~30 m範囲で測定データのバラツキが多くなる特徴があった。

3. 屋外の空間線量率の頻度分布

各地点においてガンマプロッターより測定した家屋中心から半径50 m以内の空間線量率の全測定データを用いて屋外における空間線量率の頻度分布を表わすヒストグラムをFig. 7に示す。また,測定データの数を始め,平均値・中央値等の基本統計量をTable 3に示す。チェルノブイル事故やフォールアウトにより汚染された場所での沈着量の分布は統計的にみると,しばしば対数正規分布34を示すことが知られているが,今回の実測調査においてもFig. 7に示したように,ID-N-6を除けばおおよそ対数正規分布の形を示していることがわかる。事故初期の分布(沈着時の分布)も興味ある対象だが,その後,風雨等による自然現象由来の放射性物質の移行だけでなく,除染等による人間活動による放射性物質の移行の効果も重畳し,この分布の生成に寄与していると考えられる。

Fig. 7

Histogram of outdoor air dose rate

(Measured by gamma plotter measurements).

Table 3 Results of air dose rates measured by gamma plotter at 100 cm above the ground

Item ID-I-11 ID-I-12 ID-I-25 ID-I-26 ID-I-27 ID-N-6
Number of measured data 758 2012 970 1106 764 1471
Minimum value (µSv/h) 0.12 0.14 0.08 0.22 0.15 0.37
Maximum value (µSv/h) 0.94 1.15 0.57 1.08 1.41 3.90
Mean value (µSv/h) 0.37 0.46 0.26 0.51 0.38 1.93
Median value (µSv/h) 0.32 0.40 0.22 0.46 0.35 2.04
Mode (µSv/h) 0.2–0.3 0.3–0.4 0.1–0.2 0.3–0.4 0.3–0.4 2.3–2.4
Standard deviation (µSv/h) 0.18 0.21 0.12 0.20 0.18 0.71
Coefficient of variation 0.48 0.46 0.45 0.39 0.47 0.37

ID-N-6における空間線量率の平均値・中央値・最頻値区間は2 µSv/hの当たりに,それ以外の地点においてはいずれも0.2~0.4 µSv/hの間に存在する(Table 3)。標準偏差値をみると,未除染のID-N-6地点が,0.71で選定地点の中でも一番大きい数字を示しているが,変動係数で考えた場合は必ずしも大きい訳ではない(Table 3)。また,ID-N-6のヒストグラムからわかるように,空間線量率頻度分布のピークが複数存在し,Fig. 3からも,空間線量率が場所により様々に変化することから,ID-N-6の汚染分布は,他の地点に比べて複雑である。ID-N-6は,空間線量率が他の地点と比べて高く,除染を含む人間活動が他地点と比べて大きく限定されていることもあり,このように多峰性を示すような複雑な分布となっている可能性も考えられる。以上,上記分布形状に対する考察は今後の興味ある課題である。

IV. 屋内の空間線量率分布

家屋の屋内に対し,TCS-172Bを用いて測定された空間線量率の頻度分布のヒストグラムをFig. 8に示す。また,測定データの数を始め平均値・中央値等の基本統計量をTable 4に示す。家屋の屋内については屋外に比べ変動が小さかったため,屋内の分布特徴が顕著な地点を選定し屋内の測定結果と間取りに重ねて表した図の例をFig. 9に示す。家屋内測定結果から,家屋内空間線量率は,ID-N-6を除いて1階の最頻値区間が0.10~0.15 µSv/hまたは0.15~0.25 µSv/hの範囲にあり,平均値および中央値もこの範囲内に存在する。全般に2階における空間線量率は1階と比べて多少高めの値を示すものの,大きな違いはみられなかった。一方,家屋の裏手が山林斜面となるID-I-12においては,山林斜面の影響を受け2階におけるすべての空間線量率データが0.20~0.30 µSv/hに存在し,1階に比べて明らかに高かった。また,屋内における高さ方向の空間線量率の変化を調べると,天井の高さに近くなるとやや空間線量率が上昇する傾向があった。福島県の郊外の住宅において,北面に山林を有する住宅が多い傾向があるが,ID-I-12は,福島県・飯館村の典型的家屋の1つであるとも考えられる。このような場合,山林の放射線場からの影響が顕著に現れる場合がある。

Fig. 8

Histogram of indoor air dose rate

(Measured by TCS-172B).

Table 4 Measurement results of air dose rate at 100 cm above the floor by TCS-172B

Number of stairs Item ID-I-11 ID-I-12 ID-I-25 ID-I-26 ID-I-27 ID-N-6
1st floor Number of measured data 3 16 7 8 8 16
Minimum value (µSv/h) 0.13 0.14 0.09 0.15 0.12 0.60
Maximum value (µSv/h) 0.20 0.23 0.13 0.21 0.17 1.36
Mean value (µSv/h) 0.16 0.17 0.11 0.18 0.14 0.90
Median value (µSv/h) 0.16 0.16 0.12 0.18 0.13 0.89
Mode (µSv/h) 0.15–0.20 0.15–0.20 0.10–0.15 0.15–0.20 0.10–0.15 0.6–0.7
Standard deviation (µSv/h) 0.03 0.03 0.01 0.02 0.02 0.22
Coefficient of variation 0.16 0.15 0.11 0.14 0.12 0.24
2nd floor Number of measured data 1 6 6 7 2 6
Minimum value (µSv/h) 0.18 0.21 0.09 0.18 0.16 0.90
Maximum value (µSv/h) 0.18 0.29 0.12 0.23 0.18 1.51
Mean value (µSv/h) 0.18 0.25 0.10 0.19 0.17 1.08
Median value (µSv/h) 0.18 0.25 0.10 0.19 0.17 0.99
Mode (µSv/h) 0.15–0.20 0.20–0.25
0.25–0.30
0.05–0.10 0.15–0.20 0.15–0.20 0.9–1.0
Standard deviation (µSv/h) 0.02 0.01 0.01 0.01 0.21
Coefficient of variation 0.10 0.09 0.08 0.06 0.19
Fig. 9

Layout of the house and measurement results of air dose rate

[Imagery ©2022 Google. Map data].

次に,ID-N-6に着目すると,まだ周囲の除染が実施されていないことにより,屋外の傾向と同じく屋内も他地点と比べて高い傾向を示した。詳細に屋内分布をみると(Fig. 9),1階の家屋内の中心部の平均値が0.75 µSv/hであるのに対し,家屋の裏手にある4点の平均値が1.08 µSv/hで比較的高い傾向を示した。これは,家屋の裏手に線量の高い地点があったためと考えられる。また,2階においては,木立に面している南西面に位置する部屋の平均値が1.16 µSv/hで比較的高い傾向を示した。この対象家屋もID-I-12と同じく,天井の高さに近くなるとやや空間線量率が上昇する傾向があった。なお,家屋内にて,最も高い数値を示したのは,1階と2階の廊下付近のガラス窓がある場所で(窓から5 cm程離れた位置),各々,1.36 µSv/h,1.51 µSv/hであった。これは,家屋内の空間線量率は一般的に外壁に近いほうが高い値を示す傾向があるのに加え,ガラス窓が他の建材から構成される壁よりも遮蔽が弱いためと考えられる。以上の結果から,部屋近くの屋外の状況,建材の違い,高さ(1階/2階)等により,家屋内の空間線量率が決まり,家屋内でも場所によっては空間線量率の差異がみられた(Fig. 5)。この結果は,家屋内でも放射線量の差異があり,住民の被ばく量を詳細に推定する必要がある場合,留意すべき点と考えられる。

V. 屋外の連続データにより評価した線量低減係数の特徴

屋内外の空間線量率測定データに基づき評価した線量低減係数の頻度分布のヒストグラムをFig. 10に示す。ここで,家屋の線量低減係数は屋外の空間線量率に対して屋内の空間線量率の比より求める。Fig. 10では,家屋中心から50 mの半円内にて測定された屋外の空間線量率と,屋内の各地点における空間線量率を組み合わせて導出可能なすべての線量低減係数を算出し,頻度分布の形で表した。また,測定データの数を始め平均値・中央値等の基本統計量をTable 5に示す。

Fig. 10

Histogram of reduction factors

Table 5 Derivation result of reduction factors

Number of stairs Item ID-I-11 ID-I-12 ID-I-25 ID-I-26 ID-I-27 ID-N-6
1st floor Number of reduction factors 2,274 32,192 6,790 8,848 5,960 23,536
Minimum value 0.14 0.12 0.16 0.14 0.08 0.15
Maximum value 1.61 1.60 1.54 0.97 1.12 3.65
Mean value 0.54 0.46 0.53 0.40 0.41 0.58
Median value 0.50 0.42 0.50 0.38 0.39 0.45
Mode 0.4–0.5 0.2–0.3 0.2–0.3 0.2–0.3 0.3–0.4 0.3–0.4
2nd floor Number of reduction factors 758 12,072 5,820 7,742 1,490 8,826
Minimum value 0.19 0.18 0.16 0.17 0.11 0.23
Maximum value 1.47 2.01 1.39 1.04 1.15 4.05
Mean value 0.59 0.67 0.46 0.44 0.50 0.69
Median value 0.56 0.62 0.44 0.42 0.47 0.54
Mode 0.5–0.6 0.3–0.4 0.2–0.3 0.2–0.3 0.4–0.5 0.4–0.5

ID-N-6を除いて,線量低減係数の平均値と中央値は近い値を示すが,平均値の方が中央値よりもわずかに大きい。この事実は,頻度分布が高い値の方向に広い裾を引く対数正規分布に近い形状を示すことから理解できる。ID-N-6の場合,屋外の空間線量率の分布が広い範囲に分布し,これに伴い屋内の空間線量率も有意に変化した。また,これが原因で線量低減係数の値も広い範囲に渡っており,1を大きく超える線量低減係数も数は少ないが観察された。線量低減係数の平均値は1階では0.4から0.6の間に収まっており,文献値12,25と同等な値が得られた。その一方,線量低減係数の値は1つの家屋についても広く分布しており,測定する放射線場の代表的でない少数地点での測定値をもとに線量低減係数を求めた場合には,代表的な線量低減係数が得られない可能性が示唆された。具体的には屋内外のそれぞれの空間線量率の測定結果からもわかるように,屋外の方が屋内に比べて測定値のバラツキが大きい。空間線量率の標準偏差を平均値で除した変動係数をみると,どのサイトにおいても屋外の変動係数の方が屋内に比べて明らかに大きい値を示している。したがって,屋外の空間線量率の変動の方が強く線量低減係数に影響を与えるため,より細かに測定すべきであることが示唆された。その他,代表性のある線量低減係数を得るための地面の被覆状況,沈着分布等を考慮した測定数,測定位置の選定については今後の課題として取り上げる。

階数による違いをみると,線量低減係数は1階より2階の方がほとんどのケースで少し高い数値を示した。一方で,市街地に位置するID-I-25の場合1階の線量低減係数の方が2階より上回る結果が得られており,他の地点とは相反する傾向がみられた。市街地においては他の家屋が隣接しており,隣接家屋自体も遮蔽物として屋内へのγ線の侵入を妨げているためと考えられる。これらの結果は,シミュレーション等により明確に理解できる可能性があり,今後の課題である。

VI. 結論

本論文では,家屋内外の空間線量率分布の特徴を明らかにするとともに,木造家屋の線量低減係数の実態を明らかにすることを目的として,2019年に飯舘村や浪江町等を対象に計19戸の家屋と家屋周りで実測調査を行った。屋外の空間線量率を連続測定が可能なガンマプロッターを用いて,屋内の空間線量率はNaI(Tl)サーベイメータを用いてそれぞれ測定した結果に基づく解析を実施した。

調査家屋の19戸の内,家屋中心から半径50 mの範囲内の全方位で測定が可能で,10 m × 10 m測定メッシュの数が50個を超える場所を解析対象地点として選定した。さらに,上記の選定基準は満たしていないが,環境面の特徴の観点から市街地である地点も解析対象に加えて,計6戸の家屋を解析対象地点として選定した。これらの選定地点を地形および環境面ごとの特徴をみると,ほぼ平坦地形で田んぼ・森林を有する地点が3点,山地形で森林等を有する地点が2点,平坦地形で市街地が1点あった。また,除染実施の有無で分けると,除染が実施された地点は5地点,除染が実施されていない地点は1地点あった。

家屋内外の空間線量率分布の特徴と線量低減係数について調べた結果,次のようなことがわかった。家屋の近辺は,建屋の下に放射性セシウムが存在しないことの影響により,空間線量率が周囲に比べて低いことがすでに指摘されていた。本研究では,家屋の近辺においては道路等の舗装面の割合が相対的に多いことを定量的に明らかにした。舗装面は非舗装面に比べ,相対的に放射線源が迅速に減衰する傾向2629をもつため,これらの相乗効果によりどの地点においても共通して家屋近辺が相対的に低い線量率を示していることを確認した。次に,より広い範囲で家屋周りの環境面状況(舗装面と非舗装面割合)に着目し,家屋中心からの距離変化に伴う土地被覆状況と空間線量率の変化についてみた。その結果,市街地に位置する地点以外では,家屋中心からの半径が大きくなりにつれ,距離に伴い非舗装面の割合が舗装面をはるかに上回ることになった。これにより,その地域の放射線場を決める大半のγ線は非舗装面から起因していると考えられる。また,舗装面に比べて非舗装面の方が全体に空間線量率が高く,またその変動も大きいことがわかった。非舗装面の中でも森林が存在する部分では特に空間線量率が高い傾向がみられた。

屋外空間線量率の頻度分布をみると除染が実施された地域においては,おおよそ対数正規分布の形を示していることがわかった。一方,未除染地域では多峰性を示すような複雑な分布が観察されたが,未除染の他地域においてもそのような傾向がみられるかは,さらに検討が必要である。

屋内空間線量率の頻度分布をみると1階より2階の方が全般的に高い空間線量率を示した。また,除染地域の家屋内の空間線量率は,ほぼ安定して家屋内の測定位置による変化は大きくなかった。一方で未除染地域にある家屋内空間線量率は,家屋周囲の放射線場の変化の影響を受けて,家屋内でも広い分布が存在していた。

線量低減係数を屋内外で測定されたすべての空間線量率の組み合わせで評価した結果をみると,線量低減係数は1つの家屋についても広く分布し,測定する放射線場の代表性をもたない少数地点での測定値をもとに線量低減係数を求めた場合には,代表的な線量低減係数が得られない可能性が示唆された。以上のことから,家屋周囲のどの地点に着目するかによって,線量低減係数が有意に変化することがわかった。線量低減係数の平均値は1ケースを除いて0.4から0.6の間に収まっており,これまでの知見と矛盾しない値が得られた。

今後は,これらの実測調査データを用いて,個別の木造家屋において代表性をもつ線量低減係数を求めるための測定方法(測定場所の選定や測定数等)について解析を行う予定である。

 

福島での環境調査の際,住民および自治体関係者に多大なご協力を頂きました。ここに,深く感謝の意を表します。また,現場測定の際には,(国研)日本原子力研究開発機構・廃炉環境国際共同研究センターの眞田幸尚グループリーダーを始めとし,阿部智久主査,石田睦司氏,中曽根孝政氏に測定機器の使用方法等多くのご教示を頂きました。ここに感謝致します。なお,この研究の一部は環境省委託事業「放射線健康管理・健康不安対策事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業)」(主任研究者:吉田浩子)において実施したものを含みます。

References
 
© 2023 Atomic Energy Society of Japan
feedback
Top