2024 Volume 23 Issue 1 Pages 18-32
The Nuclear Regulation Authority, Japan, established the regulatory requirements for the intermediate-depth disposal of intermediate-level radioactive waste in October 2021. Regarding the inadvertent human intrusion to the intermediate-depth disposal facility, some measures are required in the requirements and will be taken in the design of the facility or in the site selection process. The international standards provided by the IAEA and ICRP have stipulated the needs for measures against human intrusion and the evaluation of human intrusion scenarios as part of safety case. In this paper, we attempt to classify these measures against inadvertent human intrusion and clarify their objectives and functions from the viewpoint of the defence-in-depth approach that has been widely applied in the safety strategy of nuclear installations for preventing accidents and mitigating their consequences. Additionally, effectiveness evaluations of such measures are discussed taking into account some examples of scenarios that have been proposed thus far.
国際原子力機関(以下「IAEA」という。)の個別安全要件「放射性廃棄物の処分」1) (以下「SSR-5」という。)では,放射性廃棄物の処分の目的の1つは,偶発的な廃棄物への人間侵入の可能性を実質的に減らすことであるとしている(SSR-5 paragraph 1.10)。原子力規制委員会が平成28年8月に決定した「炉内等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について」2) (以下「規制の考え方」という。)では,中深度処分について,人間侵入の発生防止および影響低減のために必要な立地および設計に関わる基本的な要求事項を示した。人間侵入の発生防止としては,深度を確保することおよび有用な天然資源が存在する地点を避けることを要求し,人間侵入の影響低減としては,公衆への影響が低減されるような設計として,廃棄物埋設地a)の内部を人工バリアb)で区画することを要求している。
また,人間侵入の発生の可能性をより低くするため,廃棄物埋設地を含む一定の区域に対する掘削や地下利用等の特定の行為を国が制度的に制限することおよび廃棄物埋設地に関する記録を永久に保存することが,平成29年4月に改正された核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)において規定された3)。
これらを踏まえ,原子力規制委員会は,第二種廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則第30号。以下「許可基準規則」という。)等を令和3年10月に改正し,中深度処分における人間侵入に対する種々の対策を規定した。
このように,放射性廃棄物の埋設事業,特に中深度処分について,人間侵入に対して様々な発生防止策および影響低減策が講じられているが,これまで,これら対策を体系的に整理したものはない。本報では,原子力発電所における事故の発生防止および影響緩和に関わる代表的な考え方である深層防護(Defence in Depth)の考え方に基づき,中深度処分における人間侵入に対する対策等についてその目的や果たすべき機能などを明確にすることを試みた。また,人間侵入に対して講じられる対策の有効性評価についても考察した。
IAEA Safety Glossary4)では,人間侵入(human intrusion)は,処分施設に直接的な擾乱を与え,放射線学的影響を与える可能性のある人間の活動に対して用いられる用語として定義しており,その例として建設作業(construction works),採掘(mining)または掘削(drilling)を挙げている。つまり,人間侵入とは,ヒトが処分施設に立ち入るという直接的な意味だけではなく,ボーリング掘削等によって処分施設に影響を与える人間の活動も含む意味として定義されている。
SSR-5では,放射性廃棄物の処分の目的の1つは,偶発的な廃棄物への人間侵入の可能性を実質的に減らすことであるとしていることは先に述べた。ここで偶発的(inadvertent)という用語が用いられている理由は,相対する用語として意図的な人間侵入,例えば,なんらかの必要性が発生し計画的に行われる処分施設への侵入や公衆の被ばくなどを目的とした悪意のある侵入が考えられる。これら意図的な侵入に対しては,深度の確保のような設計上の対策だけではなく,掘削等の特定行為を制限する制度的な管理が効果をもたらす2)。人間侵入の対象については次項にて詳述する。
SSR-5では,偶発的な人間侵入の影響に関して,次の基準を示している(SSR-5 paragraph 2.15)。
このように,放射性廃棄物の処分の目的の1つは,廃棄物への人間侵入の防止およびその結果起こり得る影響の低減であり,IAEAの安全基準は,仮に発生した場合を想定し,その影響について評価すること,さらに,その結果によって,さらなる対策を検討することを求めている。
(2) 対象とする人間侵入の範囲SSR-5では,処分施設またはその廃棄物を計画的に(deliberately)擾乱する活動に参加する権限のあるいかなる個人に関わる線量およびリスクも,そのような活動は,計画被ばく状況を構成するものであるので,考慮する必要はないとしている(SSR-5 Appendix paragraph A.8)。
SSR-5と同様に,国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)は,人間侵入について,意図的な侵入と不注意による侵入を区別することが必要であるとしている5)。また,不注意による人間侵入の可能性を低減する機能を,廃棄物埋設の施設の設計と立地に含めるべきであることを示している。
このような国際的な考え方を踏まえ,本報では意図的な人間侵入は対象としない。
(3) 対象とする人間侵入の形態我が国で想定される代表的な地下利用として,次の例が挙げられる2)。
大深度を利用する事業では,一般的にトンネル建設工事が必要であり,その調査のためボーリング調査が実施される。また,鉱山の開発でも同様にボーリング調査が実施される。廃棄物埋設地が設置された場所を意図せず不注意に掘削してしまうことを想定すると,トンネル工事のような大規模な掘削より以前に,ボーリングによる小規模な掘削が行われることが考えられる。このため,人間侵入として考慮すべき最初の掘削の形態としては,ボーリングによる掘削が想定され,その発生頻度は,トンネル掘削のような大規模な掘削に比べ高いものと考えられる。
2. 深層防護とはIAEA基本安全原則7)(以下「SF-1」という。)では,深層防護について次のように定義している(SF-1 paragraph 3.31)。
深層防護は,それらが機能し損なったときにはじめて,人あるいは環境に対する有害な影響が引き起こされ得るような,多数の連続しかつ独立した防護レベルの組み合わせによって主に実現される。1つの防護のレベルあるいは障壁が万一機能しなくても,次のレベルあるいは障壁が機能する。適切に機能する場合,深層防護は,単一の技術的故障,人為的あるいは組織上の機能不全だけでは有害な影響につながる可能性がないこと,また,重大な有害影響を引き起こすような,機能不全が組み合わせで発生する確率が非常に低いことを確実にする。異なる防護レベルの独立した有効性が,深層防護の不可欠な要素である。
このSF-1で示された「異なる防護レベルの独立した有効性」という深層防護の考え方は,IAEA個別安全要件「原子力発電所の安全:設計」8) (以下「SSR-2/1」という。)において,原子力発電所における5つの異なる防護レベルとして構築され具体化されている。
第III章で深層防護と原子力事故との関係を明確にし,その結果をもとに,第IV章で人間侵入の対策を深層防護の考え方に基づき分類する。
IAEAは,プラント状態をFig. 1に示すように定義している4,8)。また,SSR-2/1において,深層防護の各防護レベルの目的は次のように定義されている。
Definition of plant states considered in design
Referred to IAEA8), translated by authors.
Figure 1で示したプラント状態と深層防護の各防護レベルの目的とは密接に関連している(Table 1)。すなわち,通常運転(Normal operation)では,第1の防護レベルである通常運転からの逸脱を防止すること,予測される運転時の事象(Anticipated operational occurrences)が生じた状況では,第2の防護レベルである事故状態への拡大を防止すること,設計基準事故(Design basis accidents)が生じた状況では,第3の防護レベルである炉心の損傷を防止し放射性物質の放出を防止すること,ならびに発電所を安全な状態に戻すこと,設計拡張状態(Design extension conditions)では,第4の防護レベルである事故進展を防止し,所外の汚染を防止する対策およびシビアアクシデントの影響を緩和する対策をそれぞれ講じることになる。また,第5の防護レベルでは,放射性物質の放出により所外の汚染が生じるような場合にも,それによる放射線の影響を緩和する措置を講じることになる。
プラント状態 | 運転状態 | 事故状態 | |||
---|---|---|---|---|---|
通常運転 | 予測される運転上の事象 | 設計基準事故 | 設計拡張状態 | ||
深層防護 | 第1の防護レベル | 第2の防護レベル | 第3の防護レベル | 第4の防護レベル | 第5の防護レベル |
緩和策 | — | 起因事象による影響を最小化 (緩和) |
発電所を安全な状態に戻す (事故進展の緩和) |
重大事故の影響を緩和 所外汚染の最小化(緩和) |
放射線の影響を緩和 |
防止策 | 事故の防止 | 事故状態に拡大するのを防止 | 炉心損傷の防止 放射能放出の防止 |
事故進展の防止 所外汚染の防止 |
— |
放射性廃棄物埋設,特に,一定以上の深さの地中に埋設する中深度処分において設計基準事故(以下「事故」という。)とは何を指すのかを明確にしておく必要がある。
中深度処分の廃棄物埋設施設で取り扱われる廃棄体は固体状であり,原子力発電所のような核反応の制御や高温・高圧の液体・気体の制御を行う必要はない。そのため「動的」な安全機器が限られており,「静的」な安全対策が求められるのが一般的である。
操業期間中は,放射性物質の飛散や漏えいを伴う事故・事象は様々想定され,それらを未然に防ぐための措置がとられ,仮に放射性物質の飛散や漏えいが生じた場合には,適切な措置を講じてその拡大を防止し,人と環境を守る必要がある。これは,他の原子力施設と同様の考え方であり,取り扱う廃棄体の放射能やリスクに応じてグレーデッドアップローチを考慮した上で必要な措置がとられる。
一方,原子力規制委員会が事業者に対して規制を行う期間(以下「規制期間」という。)の終了後は,一定以上の深さの安定な地中に設置された中深度処分の廃棄物埋設地では,地表に比べて外的な擾乱を受ける可能性が低い。このような廃棄物埋設地における事故としては,可能性の低い外的な要因によって,埋設された放射性廃棄物に含まれる放射性物質が放出され,それによって人が著しい被ばくをする,または生活環境が汚染される可能性のある事象であって,設計で想定すべき事象,すなわち,設計(位置,構造および設備)で対策を検討すべき事象を指すものと考えることができる。そのような外的な事象としては,次の2つの事象が考えられる。
前者の自然事象については,仮にその影響を受けた場合を考えると,放出される放射性物質の量が甚大となる恐れがあるため,施設の位置,すなわち廃棄物埋設地を設置する場所の選定で,将来に渡ってその影響を受ける範囲を可能な限り回避すべきである。
後者の人間侵入については,それを回避するための対策として様々な手段が考えられるが,将来の人間の活動自体を予測することは極めて困難であるという課題がある。そのため,考え得る様々な対策を多段的に講じる必要がある。ここに深層防護について検討する動機が存在する。米国NRCの規制ガイド1.174には,「深層防護は,機器や人間の振る舞いにおける不確実さを考慮するための有効な手段であったし,今後もそうあり続けるであろう。」と記載されている9)。ここで「人間の振る舞い」とは,原子力施設に従事する者による活動を指すと考えられるが,深層防護が不確実さを考慮するための手段という点では,将来の人間による活動への対策である人間侵入対策においても有効であると考える。
杤山は,放射性廃棄物処分の「事故の防止と緊急時の準備と対応」として,人間侵入について,将来そこに放射性廃棄物があるという情報が途絶え,人が偶発的に処分施設を破壊して,その結果,生活環境が汚染し人が被ばくするという人間侵入の可能性を合理的に否定することはできないとしており,廃棄物をできる限り減容(濃縮)して,隔離して閉じ込めておくという戦略を採用した結果の避けられない可能性であるとしている10)。杤山は,人間侵入の頻度を減らす対策として,能動的な制度的管理,物理的バリアシステムおよび廃棄物の分割化を,線量の低減対策として,廃棄物をより深く定置することおよび鉱物資源の存在するサイトの回避をそれぞれ挙げている10)。
Tolan11)は,人間侵入に対する深層防護戦略を,DOEが設置したHuman Interference Task Force(HITF)の技術レポート12)を引用する形で明確にしている。そこでは,能動的管理,公衆への周知,マーカーの設置といった制度的な対策に加えて,工学バリアと天然バリアの存在が人間侵入に対する深層防護としての戦略であることが述べられている。ここで,HITFは,埋設施設への意図的ではない人間侵入の頻度を下げる3つのメカニズムとして,(1)人間侵入の外的誘因(incentive)を減らすこと,(2)侵入の困難さを増すような施設設計とすることおよび(3)将来世代に対して埋設施設の存在を周知することであるとし,これらが人間侵入を防止する深層防護戦略であるとしている。
このように,人間侵入への対策とその考え方は国内外において共通したものとなっているが,これまで深層防護の防護レベルに当てはめて整理された例は見当たらない。本報では,IAEAが提唱する原子力発電プラントの設計に関する深層防護の考え方に基づき,中深度処分に対する規制要求として設けられた種々の対策を例に,人間侵入の対策について分類することを試みる。分類に当たっては,法的措置による制度的な対策の側面と,立地選定による対策および設計による工学的な対策の側面という2つの側面に分けて整理する。
第III章第1節で示したように,原子力発電所における深層防護は,プラント状態(plant states)と密接に関連して整理されている。廃棄物埋設における人間侵入への対策の整理に当たっては,廃棄物埋設施設の状態に基づいた整理を行うことが必要である。また,各防護レベルにおける対策は,以下に示すように,防止策(prevention)および緩和策(mitigation)の両対策によって構成されることに留意する必要がある。
1. 第1の防護レベルSSR-2/1では,第1の防護レベルについて以下のように示されている8)。
第1の防護レベルの目的は,通常運転からの逸脱と安全上重要な機器等の故障を防止することである。この目的は,品質管理および適切で実証された工学的手法に従って,発電所が健全でかつ保守的に立地,設計,建設,保守および運転されるという要件を導き出す。これらの目標を満たすため,適切な設計規格と材料の選定,機器の製造と発電所の建設における品質管理,さらにその試運転に十分な注意が払われる。内的危険要因の可能性を低減する設計上の選択は,この防護レベルでの事故の防止に寄与する。
中深度処分では,廃棄物埋設地周辺を掘削する行為が生じない「通常の状態」を想定する。このとき,通常の状態からの逸脱を防止,すなわち廃棄物埋設地周辺が掘削される「異常な状態」への移行を防止する対策を講じる必要がある。具体的には,中深度処分の人間侵入に対する第1の防護レベルとして,廃棄物埋設地およびその周辺を掘削させないことである。
(1) 制度的な対策廃棄物埋設地周辺を掘削する行為が生じない「通常の状態」を維持するため,原子炉等規制法では,規制期間c)中においては,埋設事業者が廃棄物埋設施設の保全のため(原子炉等規制法第51条の16),管理区域,周辺監視区域および保全区域を定め,人の立入制限や人の居住制限等の措置が講じられる(核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則(以下「事業規則」という。)第14条)。
さらに,規制期間終了後に渡って埋設事業者以外の者が廃棄物埋設地周辺を含む区域を自由に掘削する行為が法的に禁じられており,その区域に関する記録は永久に保存されることになっている。具体的には,原子力規制委員会が,中深度処分および地層処分の埋設事業の開始前に,廃棄物埋設施設およびその周辺の区域ならびにこれらの地下について一定の範囲を定めた立体的な区域(以下「指定廃棄物埋設区域」という。)を指定し(原子炉等規制法第51条の27),指定廃棄物埋設区域の土地は掘削が禁止されている(原子炉等規制法第51条の29)。埋設事業者は,指定廃棄物埋設区域に関する記録を保存しなくてはならず,その記録を原子力規制委員会に提出する。原子力規制委員会は,その記録を公示し,永久に保存する(原子炉等規制法第51条の28)。この指定廃棄物埋設区域の指定や土地の掘削の禁止については,埋設事業者が存在しない規制期間終了後においても継続されるものである。なお,指定廃棄物埋設区域においては,廃棄物埋設事業者以外の者による掘削は原則として禁止されており原子力規制委員会の許可を受けなければならない(原子炉等規制法第51条の27)。
また,埋設事業者は,その事業を廃止しようとするとき,廃棄物埋設地の所在等を示す措置(標識,マーカーの設置)を講じることが求められている(事業規則第22条の12)。
以上に示したように,人間侵入を防止するため,掘削を禁止する等の制度的な対策(法的措置)が複数設けられている。監視やモニタリングおよび必要に応じた修復措置を伴う管理を能動的な制度的管理(active institutional control)と呼ぶのに対し,上述の対策は,受動的な制度的管理(passive institutional control)と呼ばれる。埋設施設の安全は,この制度的管理のみに依存してはならないことが国際的な考え方である1)。これは制度的管理があることを理由に,立地選定による対策や工学的な対策が軽減されるものではないことを示しているものと考えられる。また,深層防護の考え方に立ち返れば,第1の防護レベルにおける制度的な対策が機能することを理由に,第2の防護レベル以降の対策が不要とする考え方は採らないことと同様であるとも捉えることができる。
(2) 立地選定による対策および工学的な対策中深度処分における人間侵入の発生を防止するため,立地選定による対策(立地要件)の1つとして,許可基準規則において,資源利用のための掘削が行われる可能性がある鉱物資源や地熱資源が有意に存在しない区域に設置するよう要求している。ただし,鉱物資源等が存在しない場所を選定することのみで人間侵入を避けられる訳ではない。この要件によって,鉱物資源等が有意に存在しないとあらかじめ認知されている場所に対する鉱物資源等の掘採を目的としたボーリング調査を行う頻度を下げることはでき,HITF12)が示した「人間侵入の外的誘因を減らすこと」はできるであろう。しかし,例えば,第II章第1節(3)項で示した道路や鉄道の設置を目的としたボーリング調査の可能性を下げることはできない。
鉱物資源等が有意に存在しない場所を選定することは,人間侵入を誘発する頻度を下げる有効な対策の1つであることに変わりはない。(1)に示した制度的な対策によって人間侵入の発生を防止することはできないが,1つの防護レベルの中でも複数の対策を講じ,人間侵入の頻度を下げる努力をすることが重要である。
2. 第2の防護レベルSSR-2/1では,第2の防護レベルについて以下のように示されている8)。
第2の防護レベルの目的は,発電所で運転時に予期される事象が事故状態に拡大するのを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知し制御することである。これは,想定起因事象が,それらの発生を防止するために十分な注意を払ったとしても,原子力発電所の運転寿命中に発生する可能性があるという認識に基づくものである。この第2の防護レベルでは,設計で特定の系統と仕組みを備えること,それらの有効性を安全解析により確認すること,さらにそのような起因事象の発生を防止するか,それができなければその影響を最小に留め,発電所を安全な状態に戻すための運転手順の確立を必要とする。
中深度処分では,指定廃棄物埋設区域であることが認知される・されないに関わらず,廃棄物埋設地周辺を掘削する行為が生じた「異常な状態」が想定される。そこでは,廃棄物埋設地周辺が掘削されるが廃棄物に擾乱は及ぶことはなく,放射性廃棄物処分の安全システム(放射性廃棄物を埋設する際の人工バリアの安全機能や天然バリアの固有の安全性を組み合わせた安全確保のためのシステム。以下「処分システム」という。)が損なわれない状態を想定する。このとき,中深度処分の人間侵入に対する第2の防護レベルとして,廃棄物埋設地周辺を掘削する行為があったとしても,廃棄物に擾乱が及ばないための影響の緩和策と,次項に示す廃棄物埋設地が掘削され廃棄物に到達した「事故の状態」へ移行させないための拡大の防止策を講じる必要がある。
(1) 制度的な対策原子炉等規制法では,指定廃棄物埋設区域における土地の掘削は,原子力規制委員会が定める基準に適合しないものは掘削ができないことが定められている(原子炉等規制法第51条の29第2項)。原子力規制委員会が定める基準は,指定廃棄物埋設区域における土地の掘削の方法および規模が,核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物による災害の防止上支障がないものであることとされている(指定廃棄物埋設区域における土地の掘削の許可等に関する規則(平成30年原子力規制委員会規則第十号)第3条)。この基準によって,廃棄物に災害の防止上支障があるような擾乱を及ぼす掘削が行われることがないよう,制度的な対策が講じられている。
(2) 立地選定による対策および工学的な対策中深度処分の立地選定による対策として,許可基準規則において,将来に渡って一定以上の深度が確保される位置(最も高度の低い地点から廃棄物埋設地の頂部までの距離が70 m以上)に廃棄物埋設施設を設置することが要求されている。この深度は,我が国の山地を除く地域におけるシールド工法によるトンネルの深度(Fig. 2)を参考として設定されており2),この深度より深ければ,上記トンネルだけでなく建物の地下階部分を始めとして一般的と考えられる地下利用の深度が到達する蓋然性は極めて低いと考えられる。なお,第3の防護レベル以降では,ボーリングが廃棄物埋設地を直撃することを敢えて想定する。
Depths of tunnels constructed with shield tunneling method in Japan
Referred to Nuclear Regulation Authority2), modified by authors.
さらに,掘削が仮に起こったとしても掘削に抵抗する特性・物性により,廃棄物に到達することを防止する対策を工学的に講じることが可能である。このような掘削に抵抗する特性・物性について,原子力安全委員会は,物理的抵抗性という言葉を用いて説明しており,廃棄物埋設地の岩盤と著しく異なる特性,例えば岩盤よりも強度的に勝る人工バリアの構成部位によって担保されるものとした13)。また,IAEAは,使用済線源を埋設するボアホール型処分施設の一般的な設計として,埋設域の上部に金属の侵入防止壁(anti-intrusion barrier)を設け,ボーリングによる人間侵入を防止する措置を講じることを示している14)。
このような物理的特性を有する人工構築物によって廃棄物へ到達することが技術的に困難となり,またなんらの異常も認知することなく掘削が行われ続ける可能性も低くなることで,人間侵入を物理的に防護し,第2の防護レベルの工学的対策(防止策)として機能することが期待できる。なお,原子力安全委員会は,この物理的抵抗性が人工バリアの構成部位の劣化に依存することを示しており,その機能を維持することができる期間は,廃棄物埋設地の深度にも依存するとしていた13)。すなわち,第2の防護レベルとして機能する期間は深度に依存することから,廃棄物埋設の安全を確保すべき期間すべてに渡って機能するものではなく,埋設する放射性物質の減衰との関係を考慮して,物理的特性が機能する期間または深度を定める必要があるといえる。
3. 第3の防護レベルSSR-2/1では,第3の防護レベルについて以下のように示されている8)。
第3の防護レベルでは,非常に可能性が低いことではあるが,ある予期される運転時の事象または想定起因事象が拡大して前段のレベルで制御できず,また,事故に進展し得るかもしれないと仮定する。発電所の設計では,そうした事故が生じるものと想定する。その結果,固有のあるいは工学的な安全の仕組み,安全系および手順により原子炉の炉心の損傷を防止できることまたは所外の防護措置を必要とする放射性物質の放出を防止できること,さらに発電所を安全な状態に戻すことができることという要件に至る。
すでに2節で述べたとおり,中深度処分における事故,すなわち設計基準事故として,ボーリング掘削により廃棄物埋設地が掘削される場合を想定し,それが廃棄物に達した状態を「事故状態」として想定する。具体的には,廃棄物埋設地が掘削されることにより処分システムの一部が破壊されている状態を想定する。一部とした理由は,一般的なボーリング孔の径(数cm)に対して,廃棄物埋設地を構成する複数の「埋設坑道」と呼ばれるトンネルの径(十数m)と長さ(数百m)が大きく,またそれぞれの埋設坑道内は人工バリアによって区画されることも想定されるため,ボーリングによる掘削により処分システム全体が破壊されることを想定する必要はないためである。このとき,中深度処分の人間侵入に対する第3の防護レベルとして,廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じ,生活環境との間に短絡経路が形成されたとしても,処分システムにより放射性物質の流出を抑制する緩和策と,次項に示す廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じたとしても,公衆の著しい被ばくや生活環境の汚染の拡大といった「過酷な事故状態」へ移行させない防止策が講じられる必要がある。なお,後述する第4の防護レベルでは,自己修復性等が機能する状態を超えるほどに処分システムの大部分が破壊され,放射性廃棄物が地表に晒される事象についても想定する。
(1) 制度的な対策原子炉等規制法では,原子力規制委員会が掘削をした者に対して,掘削の中止命令および原状回復またはそれに代わるべき必要な措置を命ずることができる(第51条の30)。これにより,埋設事業者の存在が期待できない規制期間終了後も含め,仮に廃棄物埋設地が掘削されたとしても,安全な状態に戻すことができるよう法的な措置が講じられている。
(2) 立地選定による対策および工学的な対策人間侵入が仮に起きたとしても,地下に施設される廃棄物埋設施設では,天然バリアの固有の安全性および人工バリアの工学的な安全の仕組みによって,人間侵入により引き起こされる汚染の拡大を防止することができる。
このうち,設計による工学的な対策として,人間侵入によって影響を受ける廃棄体の数を限定すること,すなわち,人間侵入による公衆の被ばくに寄与する放射性物質の量を制限することで公衆の被ばくを緩和し最小化することが考えられる。これは,Fig. 3に示すように,人工バリアによって物理的に区分することを指す15)。第二種廃棄物埋設施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈(平成25年11月27日 原管廃発第1311277号 原子力規制委員会決定。以下「許可基準規則解釈」という。)では,物理的に区分された領域(区画)に含まれる放射性物質の量の妥当性を確認するための評価が要求されている。この評価の位置付けや方法等については次章で述べる。
Illustration of damaged compartment(s) through which a borehole penetrated
Referred to Nuclear Regulation Authority15).
人間侵入に対する影響低減が期待される人工バリアの工学的な安全の仕組みとしては,廃棄物埋設地の一部が損傷した場合に生活圏へ漏出する可能性のある放射性物質量を限定するため,廃棄物埋設地内の空隙水中に含まれる放射性物質をできる限り少なくする設計とすることが挙げられる。さらに,粘土系材料(ベントナイト)を用いることにより,ボーリング掘削によって亀裂や欠損が生じたとしても,亀裂や欠損部分に水が浸透し,粘土系材料の重量に対する空隙水重量が増加することで生じる「膨潤」によって亀裂や欠損に対する自己修復性に期待できるようにすることが挙げられる。粘土系材料の膨潤特性やそれに伴う自己修復性は,材料組成や施工方法によって異なる。例えば,Na型ベントナイトを用いる場合とCa型ベントナイトを用いる場合とでは膨潤特性に差異があり16),自己修復性にも差異が生じる。そのため,廃棄物埋設施設の設計において選定する材料やその量,厚さなどを,想定する人間侵入(ボーリング掘削)に対する自己修復性を考慮した設計とすることも第3の防護レベルで考慮することができる。
ただし,一般的と考えられる径を超えるボーリング掘削や孔に内枠(ケーシング)をつけて行われるボーリング掘削に対しては,粘土系材料による自己修復性の効果は期待できない。そのため,人工バリアだけではなく天然バリアの固有の安全性との組み合わせにより,第3の防護レベルとしての対策を講じることになると考える。ここでいう天然バリアの固有の安全性とは,ボーリング掘削された廃棄物埋設地から放出される放射性物質が天然バリアを通じて生活圏に到達するまでに空間的および時間的に希釈されることであり,この希釈の効果により人および環境への影響が緩和される。
4. 第4の防護レベルSSR-2/1では,第4の防護レベルについて以下のように示されている8)。
第4の防護レベルの目的は,深層防護の第3の防護レベルの失敗に起因する事故の影響を緩和することにある。これは,事故の進展を防止し,シビアアクシデントの影響を緩和することで達成される。シビアアクシデントの場合の安全目的は,適用する時間と地域が限定的な防護措置のみが必要とされること,および,所外の汚染が避けられるかまたは最小化できることである。早期の放射性物質の放出または大量の放射性物質の放出に至る事象シーケンスは「実質的に排除」されることが要求される。
中深度処分における人間侵入に対する第4の防護レベルにおいて想定する状態としては,設計基準事故として想定したボーリング掘削に対して放射性物質の流出を抑制する緩和策が機能しない状態のほか,設計基準事故を超える事故として,廃棄物埋設地が掘削されることにより,廃棄物そのものが地表に晒される状態が挙げられる。本報ではこのうち,公衆の被ばくや生活環境の汚染の観点から,より「過酷な事故状態」と考えられる後者を想定することとする。この状態は,処分システムが機能しない状態である。このとき,中深度処分の人間侵入に対する第4の防護レベルとして,廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じ,廃棄物(放射性物質)が地表に晒されたとしても,公衆の被ばくを可能な限り低く抑えるための緩和策と,公衆の避難が必要な状態に至らないための防止策を講じることが合理的であり,公衆の避難が必要な状況に至らないことの確認のための有効性評価を行う必要がある。なお,想定する具体的なシナリオについては,V章の有効性評価で議論する。
(1) 制度的な対策規制期間中において,埋設事業者は保安のために必要な措置を講じなければならず,(原子炉等規制法第51条の16第2項),特に,廃棄物埋設地の外への放射性物質の漏えいを監視し,漏えいがあった場合には廃棄物埋設地の設備の修復等,放射性物質の漏えいの防止または低減のための必要な措置が講じられる(事業規則第17条)。
規制期間終了後においては,第3の防護レベルと同様に,原子炉等規制法第51条の29に違反し,掘削が禁止された指定廃棄物埋設区域の掘削が行われることによって生じた汚染について,違反した者に対し,原子力規制委員会がその行為の中止を命じ,または相当の期間を定めて,原状回復を命じ,もしくは原状回復が著しく困難である場合に,これに代わるべき必要な措置をとることを命じることとなる(原子炉等規制法第51条の30)。
(2) 立地選定による対策および工学的な対策処分システムが機能しない状態を想定するとき,立地選定による対策には期待できない。このような想定において可能な工学的な対策としては,埋設施設全体に含まれる放射能濃度を制限することである。これには,サイトを複数に分割することや,1つのサイトにおいて複数の廃棄物埋設地に分割する等の抜本的な対策が必要となる。
このように,第4の防護レベルで想定すべき状態としては,処分システムが機能しない状態,すなわち一定の深度に埋設した廃棄物が地表に晒される状態が,最も「過酷な事故状態」であると考えられる。しかし,廃棄物と公衆を隔てるために一定の深度に埋設しているにも関わらず,廃棄物が地表に晒される状態が起こる頻度は,極めて低いものと考えられる。また,廃棄体を貫通したボーリングのコア採取のようにごく一部の廃棄物が地表に晒されることを想定した場合の頻度と,廃棄物の大部分が地表に晒されることを想定した場合の頻度は異なり,地表に晒された廃棄物の量によって公衆の被ばくの程度は大きく異なることが考えられる。これらの頻度や廃棄物の量を定量的に推測するということは,意図しない人間侵入に関わるリスクを評価することに他ならない。しかし,こうした評価は困難であることから,本報では,V章でこれまで我が国で考えられてきたシナリオを例に挙げ,第4の防護レベルの対策の有効性評価に関して,想定についての基本的な考え方や評価の基準などについて議論する。
5. 第5の防護レベルSSR-2/1では,第5の防護レベルについて以下のように示されている8)。
第5の防護レベルの目的は,事故に起因して発生し得る放射性物質の放出による放射線の影響を緩和することである。これには,装備を適切に備えた緊急時対応施設の整備と,所内と所外の緊急事態の対応に対する緊急時計画と緊急時手順の整備が必要である。
中深度処分では,廃棄物埋設地が掘削されることにより,地表に晒された廃棄物による放射線の影響が懸念される「緊急事態」を想定する。中深度処分の人間侵入に対する第5の防護レベルとして,このような場合に公衆の被ばくを低く抑えるための緩和策を講じる必要が生じる。
中深度処分のように地下深く埋設する方法は,深度の確保による廃棄物と公衆との離隔により人間侵入の発生可能性を低減することが根幹的な対策であり2),地下水等を介した放射性物質の漏えい時に原子力施設と住民との間の物理的な距離を遠ざける対応(住民の避難)は,中深度処分等の場合には通常の状態ですでに達成されているものと理解するという考え方ができる。他方,廃棄物(放射性物質)の大部分が地表に晒された場合には,深度の確保による物理的な距離を遠ざける対応を含む処分システムが機能していないことを意味するため,公衆が被ばくすることが考えられ,被ばくを低く抑えるために避難等の緊急時対策が必要なことも想定できる。
このように,第5の防護レベルにおける対策は,第4の防護レベルにおいてどの程度「過酷な事故状態」を想定するかに依るところが大きい。
なお,原子力災害特別措置法では,原子力災害が発生し,人の生命または身体を災害から保護するため,市町村等の指示による住民の避難が規定されている(原子力災害特別措置法第27条の2)。しかし,原子力災害特別措置法に基づき,原子力災害対策を円滑に実施するために策定された原子力災害対策指針17)では,廃棄物埋設施設に対して原子力災害対策重点区域の設定と避難計画の策定は必要とされていない(原子力災害対策指針 第2(3)②(v))。また,日本原子力学会は,原子力発電所では深層防護の第5層として住民避難対策が求められるのに対し,廃棄物埋設の場合,それは不要であるとしている18)こともこのような相対的なリスクの差異によるものと考えられる。
いずれにしても第5の防護レベルの対策は人的な介入措置を要するものであるため,過酷な事故状態またはその徴候が認知されることが措置の発動の前提となる。したがって,特に規制期間終了後においては,原子炉等規制法第51条の28に基づき原子力規制委員会が永久に保存することとされている指定廃棄物埋設区域に関する記録の存在を,できる限り広く周知し続ける活動が重要と考える。
V章の有効性評価において示す廃棄物埋設地をトンネルのような大規模な掘削が行われることを想定したシナリオでは,相当量の廃棄物が地表に晒されるものと考えられる。このような極めて「過酷な事故状態」を想定するのであれば,住民の避難対策が必要となることも考えられる。
筆者らは,第4の防護レベルでどの程度の「過酷な事故状態」を想定するかによって,第5の防護レベルにおいて想定すべき人と環境への影響の程度が変わること,それに対する具体的な緊急時への準備および対応策も変わり得ることを強調する。
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は,人間侵入の評価は,処分システムの頑健性(robustness)の説明,代替サイトや潜在的に人間活動に影響する処分コンセプトの比較,処分システムの最適化(optimization),および処分システムの許認可といった複数の利用方法があるとしている19)。この考え方は,ICRP Publication 122においても同様に示されており,人間侵入シナリオを評価することにより,人間侵入後に人工バリアおよび天然バリアに残存する閉じ込め機能を確認することが可能であり,人間侵入について偶発的侵入に対する潜在的な廃棄物埋設システムの耐久力(resilience)を評価すべきとしている20)。また,先に述べたように,SSR-5では,人間侵入がサイトの周辺住民に20 mSvを上回る可能性のある年線量を導くと予想される場合には,代替となる処分のオプションが考慮されるべきであるとしている1)。
これらから共通していえることは,人間侵入の評価の目的は,上記のような工学的な対策や天然バリアによる対策が講じられており,公衆に対する被ばく線量が規制期間終了後における人間侵入の評価の基準に適合していることを示すことによって,それらの対策の効果を確認することである。
高レベル放射性廃棄物・使用済燃料および中レベル放射性廃棄物・低レベル放射性廃棄物を対象とした諸外国における廃棄物埋設における人間侵入の評価シナリオおよび線量基準について,Table 2およびTable 3にそれぞれ示す。特に,米国では,1990年代初期に環境保護庁(Environment Protection Agency: EPA)がYucca Mountain(商業用使用済燃料埋設施設:現在は計画中止)のための規制を作成する際,米国議会が米国科学アカデミー(U.S. National Academy of Science: NAS)に対し,同基準のための技術基盤をEPAへ助言するよう指示している21,22)。NASの管理下にある米国研究評議会(U.S. National Research Council)が,この米国議会の指示に基づいたレポート21)を発行している。以下,日本における例とあわせて米国NASの考え方を参照しつつ,有効性評価の具体例とその様式化,評価の基準などについて述べる。
フィンランド [1] | フランス[2] | スウェーデン[3,4] | 英国 [5] | 米国 [6] | |
---|---|---|---|---|---|
廃棄物 | SF | HLW, ILW(長半減期) | SF | HLW, ILW(長半減期) | HLW, SF |
線量基準 | 線量に事象の発生確率を乗じた期待値について0.1 mSv/y | 確定的影響が現れる線量よりも相当低い | 影響に関する例証とする実効可能な最善の方法(BAT)の適用根拠 | 規定なし | 0.15 mSv/y(~1万年) 1 mSv/y(1万年以後) |
評価シナリオ | ボーリング,井戸掘削 | ボーリング 放置されたボーリング孔,深い帯水層のボーリング |
ボーリング | 井戸の掘削,探査ボーリング,考古学調査 | 地下水探査のためのボーリング |
代表的個人 (被ばく経路) |
作業者,地質学者(ボーリングコアからの外部被ばく) | 作業者(コア検査に伴う外部被ばく) | 作業者(掘削水およびコアからの外部被ばく,粉じん吸入による内部被ばく) 周辺公衆(汚染地からの被ばく,ボーリング孔の井戸利用による被ばく) |
作業者(天然資源のための調査ボーリングでの地質工学作業による外部被ばく) | 周辺公衆(帯水層からのボーリング井戸水飲用による内部被ばく) |
a) SF: spent fuel 使用済燃料.
b) HLW: high-level waste 高レベル放射性廃棄物.
c) ILW: intermediate-level waste 中レベル放射性廃棄物.
[1] STUK: Guide YVL D.5 Disposal of Nuclear Waste: Guide YVL D.5 / 13.02.2018 (2018).
[2] ASN: Guide de sûreté relative au stockage définitif des déchets radioactifs en formation géologique profonde. 12 février 2008 (2008).
[3] Sweden Radiation Safety Authority: The Swedish Radiation Safety Authority’s regulations concerning safety in connection with the disposal of nuclear material and nuclear waste. SSMFS 2008:21, issued on 19 Dec. 2008 (2008).
[4] Sweden Radiation Safety Authority: The Swedish Radiation Authority’s Regulations and General Advice Concerning the Protection of Human Health and the Environment in Connection with the Final Management of Spent Nuclear Fuel and Nuclear Waste. SSMFS 2008:37, issued on 19 Dec. 2008 (2008).
[5] Environment Agency, Northern Ireland Environment Agency: Geological Disposal Facilities on Land for Solid Radioactive Wastes: Guidance on Requirements for Authorisation. Feb. 2009 (2009).
[6] United States Nuclear Regulatory Commission: NRC Regulations Title10, Code of Federal Regulations Part 60 – Disposal of high-level radioactive wastes in geological repositories. Revised as of Jan. 1, 2020 (2020).
フランス [7,8] | スウェーデン [3,4] | 英国 [9] | 米国 [10] | |
---|---|---|---|---|
廃棄物 | ILW(短半減期), LLW | ILW, LLW | ILW(短半減期), LLW, VLLW | LLW (Class A, B, C) |
線量基準 | 0.25 mSv/y(基準に明記されていないが適用されている) | リスク総和対象シナリオ(メインシナリオ含む)全体で10−6/年の死亡確率 | 3~20 mSv/y ・範囲の上限は短時間に受ける被ばくに対して適用 ・範囲の下限は長期間継続して受ける被ばくに対して適用 |
0.25 mSv/y(100年後) |
評価シナリオ | 道路工事,住宅の建設および 居住 |
井戸ボーリング | 処分施設への直接侵入,バリア損傷あるいはバリアの機能を低下させるその他の人間活動 | ボーリング |
代表的個人 (被ばく経路) |
作業者(粉じんの吸入に伴う内部被ばく) 周辺公衆(粉じんの吸入に伴う内部被ばく) |
周辺公衆(井戸水飲用による内部被ばく) | 跡地居住人間侵入の当事者,サイト占有者,廃棄物と接触する個人 |
a) LLW: low-level waste 低レベル放射性廃棄物.
[7] ASN: Objectifs de sûreté et bases de conception pour les centres de surface destinés au stockage a long terme de déchets radioactifs solides de période courte ou moyenne et de faible ou moyenne activite massique. Règle No. I.2 (revision 1) 19 juin 1984 (1984).
[8] Commissariat a L’Energie Atomique, Institut de protection et de Sûreté Nucleaire: Etude des consequences radiologiques pouvant résulter d’un stockage en surface. Juin 1983 (1983).
[9] Environment Agency, Northern Ireland Environment Agency, Scottish Environment Protection Agency: Near-Surface Disposal Facilities on Land for Solid Radioactive Wastes: Guidance on Requirements for Authorisation. Feb. 2009 (2009).
[10] United States Nuclear Regulatory Commission: NRC Regulations Title10, Code of Federal Regulations Part 61 – Licensing requirements for land disposal of radioactive waste. Revised as of Jan. 1, 2020 (2020).
IAEA個別安全ガイドSSG-23(以下「SSG-23」という。)では,人間侵入について,侵入の性質と侵入者の行為を様式化して示したもの(stylized representation)に基づいてシナリオを策定すべきであり,また,人間侵入に伴う不確実性があることを認識すべきとしている23)。また,人間侵入シナリオは,当該サイトや社会活動の将来について確たる説明を行うものではなく,人間侵入による潜在的な影響を示すことを目的とすることを示している。
このような人間侵入の評価を行う際には,将来の人間の行動が問題となる。しかし,将来の人間の行動を確からしく予測することは困難であり,これまで将来の人間の行動の扱いについて様々な議論がなされてきている(例えば,DOE12))。このような人間の活動について,ICRP Publication 81では,一般的な習慣と条件に基づいた様式化されたアプローチを用いることおよび人間侵入に対しては1つ以上の典型的な最もらしい様式化された侵入シナリオ用いることを示している24)。これは,将来の人間の活動を予測することは困難であることに加え,将来の公衆に対しては,少なくとも現在の公衆に対して十分な安全が確保されると考えられるレベルと同程度の対策を提供するという考え方に基づき,人間侵入の影響を評価する目的(潜在的な侵入に対する埋設施設の頑健性を評価すること等)に照らして,このようなアプローチを取ることが国際的にコンセンサスを得られているものと解せる。
本報においては,第1の防護レベルおよび第2の防護レベルでは処分システムが健全な状態を維持し,人間侵入による処分システムの破壊が生じていない状態を想定している。これらの状態において,人間侵入を起因とした人の被ばくが生じることは想定していない。そのため,これらの2つの防護レベルでは,公衆の被ばく線量の評価ではなく,制度的な対策,立地選定による対策および工学的な対策の「効果」を評価することが考えられる。しかし,制度的な対策を設けたことにより,人間侵入の頻度(確率)をどの程度下げることができるのかといった定量的な評価は困難である。また,第2の防護レベルの工学的な対策として「物理的抵抗性を有する材料を用いること」を示したが,物理的抵抗性によって廃棄物への到達頻度(確率)がどの程度下げることができるかを定量的に評価することもまた困難である。
よって,本報においては,処分システムの頑健性を確認するための有効性評価として,処分システムの一部または全部が機能しない状態を想定した第3の防護レベルと第4の防護レベルにおける評価について,原子力規制委員会が示した人間侵入の有効性評価のシナリオ15)等を例に,考察する。
(1) 第3の防護レベルにおける有効性評価 (a) 掘削の形態有効性評価の目的に照らした際,掘削の規模に対し過度な保守性を求めることは適切ではなく,廃棄物埋設地が設置された深度に通常達すると考えられる掘削の形態のうち最も一般的に実施されているものを想定することが適切である。ボーリング掘削については,一般的に中深度処分の廃棄物埋設地に到達し得る深度で行われる可能性は否定できない。既述したように,指定廃棄物埋設区域の掘削は法的に禁止されており(第1の防護レベル),基本的にボーリング掘削もその例外ではなく,また,仮に廃棄物埋設地に対してボーリングによる掘削が行われたとしても,掘削は相応の専門的知識をもった技術者によって行われることから,鉄筋コンクリートや金属製の廃棄物容器,金属廃棄物等の人工構造物が存在する廃棄物埋設地の掘削に至っても廃棄物埋設地の認知には至らずに掘削が続行されることは考え難い2)(第2の防護レベル)。しかし,有効性評価のためボーリング掘削を想定することは第3の防護レベルとして前段および後段の防護レベルを否定して考慮すべきであり,Table 2およびTable 3に示すように,諸外国においてもボーリング掘削を評価している例がある。
(b) 有効性評価におけるシナリオ原子力規制委員会の審査ガイド15)(以下「ガイド」という。)では,Fig. 4に示したようにボーリング掘削による廃棄物埋設地から生活圏への短絡経路の形成を想定している。具体的には,偶発的に1本のボーリング孔が掘削され廃棄物埋設地を貫通した後,そのボーリング孔の埋め戻しが不十分な場合や一部放置された状況を想定する。この際,ボーリング孔を通じて人工バリア内の放射性物質が地下水を媒介として生活圏に到達するシナリオ(以下「ボーリングシナリオ」という。)を想定し,公衆の被ばくを評価する。また,ボーリングシナリオで用いるボーリングの径等は,現在の技術において一般的な形状を想定することを基本とし,事業許可申請前にサイトの地質調査においてボーリング調査を行っている場合には,その調査で用いたボーリングの形状を用いて評価を行ってもよいとされている15)。このボーリングシナリオにおいて評価される公衆の被ばく線量は20 mSv/年を超えないこととすることが,許可基準規則解釈において定められている。
Illustration of borehole scenario (human intrusion scenario)
Referred to Nuclear Regulation Authority15).
National Research Councilは,シナリオの例として,ボーリング1本が廃棄体1体に到達し,評価に適切な情報を与える条件として,現在のボーリング技術を前提としつつ,不適切な埋戻しをされて放棄されたボーリング孔が徐々に劣化した状態を想定するとしている。さらに,時期としてはいくつかの廃棄体がその機能を減じた以降で,地下水移行によって汚染物が地表に至らないまでの期間としている21)。これに対しSwiftは,人間侵入のシナリオの評価は,ボーリング作業中の廃棄物そのものの地表への放出による影響よりも,長期間に渡る地下水経路を通じた浸出による影響に着目すべきであるとしている22)。これは,ボーリング作業者のリスクおよび地表に運ばれた物質からの影響については,サイト条件および施設設計に有用な情報を与えないので,申請された埋設施設の耐久力(resilience)を判断する根拠を与えないためである21)。
このように,有効性評価のためのシナリオの構築に当たっては,第3の防護レベルにおける有効性評価の目的である「対策により,掘削の影響が及ぶ放射性廃棄物に含まれる放射性核種の量が限定され生活圏への移行量が抑えられることの確認」であることに鑑みて,評価の対象や設計へのフィードバックの有効性等に留意してシナリオを構築することが肝要である。
(2) 第4の防護レベルにおける有効性評価 (a) 掘削の形態既述したとおり,ガイドでは,規制期間終了以降において,1本のボーリング掘削による廃棄物埋設地から生活圏への短絡経路の形成を想定している。一方,インフラ開発(石油・ガス備蓄基地)のような極めて事例が少ないものや資源開発,学術調査のための開発のような特殊で高度な技術を要するものは「一般的に実施されているもの」ではないが,このようなボーリング掘削においては,ボーリングコアを回収し,観察や分析が行われる。このような行為は,廃棄物を地表に晒し,公衆の被ばくを引き起こすことが想定される。一方,すでに述べたとおり,原子力発電所における第4の防護レベルは,事故の進展を防止し,シビアアクシデントの影響を緩和することを目的にしている。上記のような公衆の被ばくを引き起こす状態は,事故を超える状態と考えれば,第4の防護レベルにおける有効性評価の掘削形態として想定できるであろう。
また,トンネル施工による廃棄物埋設地への掘削行為を回避するために,廃棄物埋設地を70メートル以深に設置することとされている(第2の防護レベル)。他方,このトンネル施工による掘削行為によっても廃棄物を地表に晒し,公衆の被ばくを引き起こすことは,ボーリングコアによって廃棄物が地表に晒される行為同様に,廃棄物を地表に晒す行為として想定できる。
また,超長期の廃棄物埋設地の状態を想定したとき,廃棄物埋設地が侵食作用を受けた地表に接近することも想定される。このような状況を確からしく予測することは困難であるが,中深度処分のような地下に設置された廃棄物埋設地が地表に接近することにより,浅地中処分のように地表付近に設置された廃棄物埋設地に類似した状態になる。このような状態において,廃棄物埋設地の直上に人が住むことや土地の掘削等を行うことは,一種の人間侵入とみなすこともできる。ただし,このような状態になるためには海水準変動に伴う侵食の影響をうける恐れがある場所に廃棄物埋設地を設置し,数万年以上時間が経過する必要がある。このような状態が生じる時期やその状況を確からしく予測することは困難である。そのため,ガイドでは,10万年後に廃棄物埋設地が地表に接近した状況を様式化し,評価を求めている。詳細は後述する。
(b) 有効性評価におけるシナリオ a) コア観察シナリオTable 2に示した諸外国におけるボーリングシナリオによる被ばく評価を行っており,フランス,スウェーデン,フィンランドおよび英国ではボーリングコアを線源とした外部被ばくを評価している。これに加え,スウェーデンでは,ボーリングコアから生じる粉塵による内部被ばくを評価している。
原子力安全委員会は,余裕深度処分(当時の呼称。中深度処分と同意)に対し,廃棄体単位の放射能濃度の妥当性を確認するためのシナリオとしてボーリングのコア観察シナリオの評価を求めている13)。このシナリオの評価には任意性があり,その設定値いかんで評価結果に大きく影響することを示しており,評価方法および評価パラメータ(観察するコアの長さ・コアの直径,観察時間等)を様式化する必要があるとしている25)。このシナリオの評価の結果は,周辺住民への影響について,できるだけ確からしい想定に基づく評価については1 mSv/年を超えないことを,不確かさを考慮した保守的な想定に基づく評価については10 mSv/年を超えないことをそれぞれ基準としている13)。
このコア観察シナリオは,既述したとおり,処分システムが全く機能しないことを想定しており,その評価結果(被ばく線量)を下げるためには,廃棄物自体に含まれる放射能濃度を下げる他ない。原子力安全委員会25)が示すように,任意性のある評価パラメータ(コアの長さ等)を小さくすることによって評価の結果(被ばく線量)を下げることは,廃棄物埋設の安全を確認する上でなんの効果ももたない。処分システムが全く機能しないことを想定し,廃棄物自体に含まれる放射能濃度を下げるということは,放射能を濃縮し地下深く埋設するという処分戦略からみると矛盾を含んでおり10),このようなシナリオを評価することは,サイトの選定や施設の設計に有用な情報を与えないという考え方9)もある。
b) トンネル掘削シナリオ原子力安全委員会は,人工バリアの物理的抵抗性とその機能を有する期間の妥当性を確認するため,トンネル掘削シナリオの評価を求めている13)。これは,埋設施設を貫通するトンネルが掘削され,そのトンネル掘削の作業に伴うトンネル掘削作業者および周辺住民の被ばくを評価するシナリオであるとしている25)。このシナリオの評価の結果は,a)コア観察シナリオと同様に,周辺住民への影響について,できるだけ確からしい想定に基づく評価については1 mSv/年を超えないことを,不確かさを考慮した保守的な想定に基づく評価については10 mSv/年を超えないことをそれぞれ基準としている13)。
また,このようなシナリオを評価するに当たっても,一定の様式化が必要としており,原子力安全委員会25)による様式化の概要は次のとおりである。
原子力規制委員会は,許可基準規則解釈において,としている。
このシナリオの評価方法としては,主に,次のように様式化している。
以上に示した3つのシナリオで共通することは,様式化したシナリオによって評価を行うことである。様式化する理由の1つは,既述したとおり,将来の人間の行動を確からしく予測することは困難であるためである。また,人間侵入に関わる評価パラメータには,人間の行動に関わるものが含まれており,一般的に,任意性が生じる。そのため,様式化によって共通的な理解が得られる評価手法およびパラメータを取り入れ,それに基づき,評価結果と線量基準との比較を行い,対策の妥当性を判断する必要がある。
本報では,人間侵入に関して,中深度処分に対して現在までに議論されてきた制度的な対策,立地選定による対策および設計による工学的な対策について,その目的や果たすべき機能などを明確にすることを試み,深層防護の考え方に基づき分類した。Table 4に,IV章で示した深層防護の考え方に基づく人間侵入への対策とV章で示した対策の有効性評価をまとめて示す。このように,人間侵入への対策を深層防護の防護レベルに応じて分類・分析することで,現行の中深度処分の人間侵入に対する対策が多段的に講じられていることが理解でき,各防護レベルにおける対策の必要性,実効性について検討する一助となると考える。また,各防護レベルに位置付けた有効性評価は,対策の効果を定量的に評価するための一手段であり,定量的評価から得られる種々の知見を,それぞれの防護レベルだけではなく他の防護レベルの対策へフィードバックするような検討も不可欠である。
第1の防護レベル | 第2の防護レベル | 第3の防護レベル | 第4の防護レベル | 第5の防護レベル | |
---|---|---|---|---|---|
状態 | 廃棄物埋設地周辺を掘削する行為が生じない「通常の状態」 | 廃棄物埋設地周辺を掘削する行為が生じた「異常な状態」 →廃棄物に擾乱は及ばず,処分システムが健全な状態 |
廃棄物埋設地が掘削され,さらに廃棄物に達した「事故状態」 →処分システムが(一部)機能する状態 |
廃棄物埋設地が掘削されることにより,廃棄物が地表に晒される「過酷な事故状態」 →処分システムが機能しない状態 |
廃棄物埋設地が掘削されることにより,地表に晒された廃棄物による放射線の影響が懸念される「緊急事態」 |
対策の考え方 | 廃棄物埋設地周辺が掘削される「異常な状態」への移行の防止策 | 廃棄物埋設地周辺を掘削する行為があったとしても,廃棄物に擾乱が及ばないための緩和策 廃棄物埋設地が掘削され廃棄物に到達した「事故の状態」へ移行させない防止策 |
廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じたとしても,処分システムにより放射性物質の流出を抑制する緩和策 廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じたとしても,廃棄物が地表に晒される「過酷な事故状態」へ移行させない防止策 |
廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じ,廃棄物(放射性物質)が地表に晒されたとしても,公衆の被ばくを可能な限り低く抑えるための緩和策 廃棄物(放射性物質)が地表に晒されたとしても,公衆の避難が必要な状態に至らないための防止策 |
廃棄物埋設地を掘削し廃棄物に擾乱が生じ,廃棄物(放射性物質)が地表に晒された場合に,公衆の被ばくを低く抑えるための緩和策 |
制度的な対策の例 | <規制期間中および規制期間終了後> 掘削の禁止(原子炉等規制法第51条の29第1項) 記録の保存(原子炉等規制法第51条の15) 標識(事業規則第22条の12第4号) |
<規制期間中および規制期間終了後> 掘削の許可基準(原子炉等規制法第51条の29第2項) |
<規制期間中および規制期間終了後> 掘削の中止命令および現状回復またはそれに代わるべき必要な措置(原子炉等規制法第51条の30) |
<規制期間中> 事業者による保安のために必要な措置(原子炉等規制法第51条の16第 2項) <規制期間終了後> 放射性物質の漏えいが発生した場合においては,国が責任をもってその対処に当たる(原子炉等規制法改正の附帯決議) |
「原災法の避難の対象外」であるため,同左 |
立地選定による対策の例 (立地要件) |
天然資源が有意に存在しない区域に設置すること | 人の利用に供しない深度が確保されていること | 天然バリアの固有の安全性 | ||
工学的な対策の例 (設計要求) |
物理的抵抗性を有する材料を用いること | 人工バリアによる工学的な安全の仕組み 人間侵入によって影響を受ける廃棄体の数を限定し,人間侵入による公衆の被ばくに寄与する放射能インベントリを制限すること。 |
埋設施設全体の濃度制限 | ||
対策の有効性評価における想定シナリオの例(評価上の基準) | ボーリングシナリオ(20 mSv/y) | 10万年まで:コア観察シナリオ,トンネル掘削シナリオ 10万年以降:濃度制限シナリオ(20 mSv/y) |
また,今後の社会状況の変化や掘削技術の進歩に伴い,立地サイト周辺の地下利用の方法や頻度が大きく変化することも考えられる。このような場合には,規制期間中であれば埋設事業者によって,規制期間終了後であれば国によって,必要に応じて合理的に適用可能な措置が講じられることが期待される。
深層防護の考え方に基づく対策は,事象の頻度とその影響に基づいて整理すべきである例えば26)が,制度的な対策の効果,例えば廃棄物埋設地周辺の土地の掘削を制限するという制度的な対策がその頻度をどの程度下げられるかということを定量的に評価することは困難である。そのため,本報では頻度と影響に関する考察を行っていない。このような考察は,人間侵入を含め,放射性廃棄物埋設の安全対策全般について考察する際には有用であり,すでにその考え方の方向性を示したものもある27,28)。
深層防護とは,SF-1に示されているように,安全に対する経営層の強力なコミットメント(strong management commitment)と強固な安全文化を伴う効果的なマネジメントによってもたらされるものである7)。また,INSAG-1029)で示されているように,深層防護の各防護レベルは,物理的なバリアのみによって構成されるものでもない。このような深層防護の思想に立ち返り,放射性廃棄物埋設の安全確保策の1つである人間侵入対策についてさらなる検討を重ねるためのツールとして本報で示した手法を提案するものである。また,SSR-2/1では,深層防護と関連して,安全上重要な機器の設計では,潜在的な共通要因故障の可能性に十分留意することが要求されている。INSAG-10では,評価が困難な事項として,組織因子や安全文化の影響や共通要因故障,あるタイプの人的過誤などを挙げている。例えば,多重防護の劣化を招き得る重要な懸念として,コミッションエラーe)を指摘し,共通要因故障を引き起こす蓋然性が高いため,十分な配慮が必要と述べている。本報で扱った偶発的な人間侵入をコミッションエラーとみれば,本報での分析はINSAG-10の視点と整合すると考えられる。
本報では,人間侵入に着目し深層防護の考え方に基づく分類・分析を行ったが,これは放射性廃棄物処分の安全確保の一部でしかない。今後は,いわゆる自然事象シナリオに対する安全確保策について深層防護の観点から考察する予定である。さらに,本報で示した中深度処分に対する人間侵入の考え方の整理は,将来の地層処分(第一種廃棄物埋設)に対する人間侵入の考え方の整理に当たっての考察を与えるものと考える。