Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Factors Showing That Young Japanese Are More Positive about the Use of Nuclear Power Generation than Older Japanese
Atsuko KITADA
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2024 Volume 23 Issue 1 Pages 33-49

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Abstract

In this paper, the existing public opinion polls conducted by, for example, news organizations and INSS (Institute of Nuclear Safety System, Inc.) were analyzed and found to indicate that young Japanese were more positive about using nuclear power generation (NPG) than older Japanese after the Fukushima Daiichi accident. This trend was attributed to the change in attitude after the accident, depending on the age group. Two web surveys targeting people in their 20s and 60s revealed the following factors for young people: (1) Young people were less aware of the risks of NPG and knew fewer negative facts about NPG. (2) Young people tended to be indifferent to NPG and viewed it as an acceptable status quo. Factors (1) and (2) were related to young people's low exposure to news and low interest in information on political, economic, and social issues. (3) Young people tended to emphasize the economical and stable supply of electricity rather than risks. (4) The two groups differed in their acceptance of the replacement of old nuclear power plants. Among older people, opinions were strongly related to the direct evaluation of NPG, especially risk awareness, while among young people, opinions about economic emphasis and anxiety about the future, which are not directly related to NPG, were weakly and broadly related.

I. はじめに

原子力発電の利用について男性は女性より肯定的だという男女差の存在は古くから知られている。例えば,柴田・友清1は,1979~1996年の調査データを示し,男女差が極めて大きいことが原子力を巡る世論調査の際立った特徴であると説明している。男女差の背景については,北田2は,1993年・1998年・2002年の継続調査データを用いて,男性のほうがマスメディアの情報への接触が多いこと,原子力発電に関する知識や関心が高いこと,経済・産業活動に適応的な考え方をしていること,一方,女性のほうが事故リスクを避けることを重視する傾向があることを示している。田中3は,遺伝子組換え食品の受容に関して,女性より男性が,また若い世代のほうが肯定的であること,男女差の要因として,受容態度を決めるうえで男性は女性よりベネフィット認知を重視する傾向があることを見い出している。

年齢による差異の傾向については,福島第一原子力発電所事故(以下「福島原発事故」と略す)以降の世論調査において,若年層aは他の年齢層より原子力発電の利用に肯定的であるとの結果が複数報告されている。高橋・政木4は,2011年11月のNHK世論調査で,20代以下は「すべて廃止」や「減らす」が少なく「現状を維持すべき」が特に多いと報告している。岩井・宍戸5は,JGSS(Japanese General Social Survey) 2012年調査で「原発を廃止すべき」が20代・30代で少ないと報告している。松本6も,2021年2月の毎日新聞と社会調査研究センターの共同世論調査で,「原発をゼロにすべき」は「若低-老高」型の構図であると報告している。

a)  統計では「若年層」は「15~24歳」または「15~34歳」程度とされることが多く,医療制度では65歳以上を「高齢者」としているが,統一された年齢区分の定義ではない。本論文では,世論調査の対象が有権者であること,世論調査の年齢層別集計結果は一般的に10歳刻みの年代で公表される場合が多いことを踏まえて,若年層として20代以下の有権者,高年層として60代以上の有権者を指すこととする。

原子力安全システム研究所(INSS)による継続世論調査においても,北田7は,回答者を出生年の10年刻みで分類して利用態度との関係を分析した結果,福島原発事故以降の調査において,1970年代後半以降に出生した世代は,それより前に出生した上の世代より利用に肯定的であると報告している。そして,この世代は「経済より環境優先」の意識が相対的に弱いとの結果を踏まえて,就職氷河期など世代が置かれた経済状況の影響の可能性を指摘している(Ref. 7の265–268ページ)。

若年層が肯定的な要因に関して,阪口8は,若年層ほど政治的無力感が高く,政治的無力感が高いほど原子力発電支持になりやすいことを共分散構造分析で示す一方,この要因だけでは若年層がなぜ肯定的なのかは説明できないとしている。

原子力発電に焦点を当てていない総合的テーマの世論調査・意識調査では利用態度の要因となるような質問項目が十分含まれていない。また,1,000サンプル規模の調査では,若年層サンプルが少なく要因分析に十分でないなどの限界があり,若年層が肯定的な要因はあまり分析されていない。それ以前に,若年層が原子力発電に関わるどのような意識の側面で異なっているかという実態も明らかではない。

若年層に関する先行研究として,新聞通信調査会の調査9において,若年層はニュースへの接触頻度や接触時間が少ないことが報告されている。保高10は,若年層は「自分が関心のある情報だけで十分」と考える傾向が強く,個人的趣味に関する情報への関心は高い一方,政治・経済・社会の動きを伝える情報への関心が低く,スマートフォンやSNSの登場により,以前にも増して「知りたいことだけ」知ることが物理的に可能になったと分析している。また,松本11は,報道機関の世論調査の定番である内閣支持の質問で,安倍内閣への支持が若年層で高い要因として,若年層は「支持しない」とは答えない傾向があり,積極的な支持というよりも「現状を受動的に許容していることの投影」であるとの見方を示している。これらの情報接触や関心,現状許容傾向は,若年層が原子力発電の利用に肯定的な要因と重なる可能性がある。

結果の一部先取りになるが,原子力発電の利用に最も否定的なのは高年層である。高年層と比較することによって,若年層の特徴が際立つと考えられる。本論文では,第一に,原子力発電やエネルギー関連の認識,情報接触,社会問題への関心,現状許容傾向やものの考え方などにおける若年層と高年層の違いを把握し,それらの要因のうち,若年層が原子力発電の利用に肯定的なことを説明できるのはどれかを明らかにする。第二に,特定された要因に,若年層のニュース接触や社会の情報への関心の低さが関係しているのかを検討する。第三に,原子力発電の中長期的な利用についての態度としてリプレースの賛否に着目し,若年層と高年層で判断の視点がどのように異なるかを明らかにする。

II. 既存の世論調査でみる若年層の原子力発電利用態度

1. 報道機関等の世論調査における年代差の実態

報道機関の世論調査は単純集計結果のみ報告されるのが一般的であり,年代差の傾向について断片的に言及されることはあっても,年代別クロス集計結果まで公表されているものは極めて少ない。公表されている結果をいくつかグラフにして示すb

b)  本論文では,グラフの数値ラベルは少数第一位を四捨五入して表示している。四捨五入の関係で,合計が100%にならないことがある。また,「18歳19歳からなる10代」のようにサンプル数が少ない年齢層は原則表示していない。

Figure 1はNHKの2020年調査12である。利用否定(すべて廃止すべき・減らすべき)は,男性でも女性でも年代があがるほど多い。同調査では再稼動への反対も同じ傾向であった。

Fig. 1

原子力発電を今後どうすべきか(NHK世論調査2020年11月~12月 郵送法)

注:Ref. 12)の集計結果から筆者作成

Figure 2は毎日新聞の2021年調査6である。「原発をゼロにすべき」は年代が上がるほど増加傾向であり,特に60代以降に多い。

Fig. 2

日本の原発政策について(毎日新聞・社会調査研究センター世論調査2021年2月 電話法)

注:Ref. 6)の掲載グラフを転載

Figure 3は毎日新聞の2022年5月の調査13で,ウクライナ侵攻後に実施されたものである。再稼動への反対は年代が上がるほど多い。侵攻直後の3月にはNHK,朝日新聞,日経新聞も再稼動について質問しているが,いずれの調査でも時系列でみると反対がやや減少していた。朝日新聞では,2013年以降初めて賛否2択において反対が半数を割り込み,特に50代と60代の減少が大きいと報道されている14。そして,Fig. 4は,ウクライナ侵攻や世界的なエネルギー価格の高騰が続く2022年12月のNHK調査15である。運転期間の延長や次世代型原子力発電所の開発・建設を進める行動指針への反対は,年代が上がるほど多い。つまり,国内の電力ひっ迫やウクライナ侵攻を契機とする世界的なエネルギー危機により,原子力発電の利用態度は肯定方向に動き,その変化が高年層で大きかったとしても,依然として明瞭な年代差が存在することを示している。

Fig. 3

原発再稼動への賛否(毎日新聞・社会調査研究センター世論調査2022年5月 電話法)

注:Ref. 13)の集計表から筆者作成

Fig. 4

原子力政策転換の行動指針の賛否(NHK世論調査2022年12月 電話法)

注:Ref. 15)のグラフから筆者作成

2. 利用態度の年代差はいつからの傾向か

Figure 5は,INSS継続調査における原子力発電の利用否定(利用すべきでない・他の発電に頼る)の推移である。福島原発事故以降,20代以下では60代や70代より10~20ポイント少ない。同事故より前にそのような明瞭な年代差はみられず,むしろ1990年代は高年層のほうが利用否定の少ない年もある。この調査でも2022年(10月)は60代・70代で大きく減少し,年代差は縮小しているが依然として存在する。なお,調査年による変動幅が大きいのは,この継続調査は各年1,000人(一部は500人)規模であり,年代別にするとサンプル数が少なく,誤差が大きくなるためだと思われる。

Fig. 5

原子力発電利用否定層の比率の推移(INSS継続調査 訪問留め置き法)

注:年代別の分析サンプル数を確保するために,同時期に同一の調査票で実施した調査であるが,調査地域やサンプリング方法が異なるデータも含めて集計した。

Figure 6は,日本原子力文化財団の継続調査1620における推移である。福島原発事故前後を比較できる利用態度の質問がなかったので,原子力発電の必要性を否定する比率の推移を示している。福島原発事故の前に明瞭な年代差はないが,同事故による変化が60代・70代で大きく,20代以下で小さい。その結果,20代は高年層より肯定的になっている。年代差は2013年に拡大している。

Fig. 6

原子力発電の必要性否定層の比率の推移(日本原子力文化財団の継続調査 訪問留め置き法)

注:Ref. 1620)の集計表から筆者作成

注:2012年調査は年代別クロス集計結果が掲載されていなかった。2014年以降は原子力発電の必要性について時系列比較が可能な質問はなかった。

福島原発事故前の時点に原子力発電の推進についての意見に年代差がなかったことは,Fig. 7の2009年の内閣府の世論調査21でも確認できる。

Fig. 7

原子力発電の推進に関する姿勢(福島原発事故前)(内閣府「原子力に関する特別世論調査」2009年 個別面接聴取法)

注:Ref. 21)の集計表から筆者作成

3. 諸外国における原子力発電利用態度の年代差

Table 1は,諸外国の世論調査における男女別と年齢層別の原子力発電の利用肯定比率である2231。各調査の年齢区分は同じではないが,表では若年層から高年層に年齢順に並ぶように記載している。いずれも年齢層別集計が公表されていた世論調査結果の一例であり,国によって質問文と選択肢が異なるため,利用肯定比率の国際比較はできない。

Table 1 諸外国の世論調査における性別・年齢層別の原子力発電利用肯定の比率

国名 調査年 データの出所 男→女 年齢区分 若年→ → →高年 男女差 年代差
米国 1999年 22 74→50 a 57→56→73 24 −16
2002年 23 71→59 b 61→66→67 12 −6
2003年 24 68→60 b 58→70→66 8 −8
2008年 25 79→70 b 73→71→78 9 −5
2017年 26 74→55 b 64→64→65 19 −1
2022年 27 82→72 c 79→79→74→76 10 3
2023年 28 86→68 d 73→78→77→74→84 18 1
EU 2006年 29 54→43 e 48→47→48→50 11 −2
フィンランド 2014年 30 77→41 f 44→54→56→61→61→69 36 −25
フランス 2022年 31 不明 g 64→72→71→76→84 不明 −20

・データの出所欄は,Ref.における文献番号を示している。

・「男女差」の欄は「男性の肯定比率-女性の肯定比率」。

・「年代差」の欄は「最若年層の肯定比率-60代を含む高年層の肯定比率」。

・a~fの年齢区分は以下のとおり。いずれもそれぞれの調査報告における表記に従っている。

 a:Gen X(21–35歳)→ Boomers(36–55歳)→ Silent/GI(56歳以上)。

 b:18–34歳 → 35–49歳 → 50歳以上。

 c:Gen Z(18–27歳)→ Millennial(28–42歳)→ Gen X(43–58歳)→ Boomers(59–76歳)。

 d:Gen Z → Millennial → Gen X → Boomers → Silent(silentは調査時点で70代後半以上)。

 e:15–24歳 → 24–39歳 → 40–54歳 → 55歳以上。

 f:18–25歳 → 26–35歳 → 36–45歳 → 46–55歳 → 56–65歳 → 66歳以上。

 g:18–24歳 → 25–34歳 → 35–49歳 → 50–64歳 → 65歳以上。

男女差(男性の肯定比率-女性の肯定比率)は,どの調査でも正の値であり,男性のほうが肯定的である。一方,年代差(最若年層の肯定比率-60代を含む高年層の肯定比率)は国によって異なっている。

米国では1999年は−16ポイントで若年層のほうが否定的だが,その後年代差は数ポイントに縮小し,2017年,2022年,2023年は−1~+3ポイントで年代差はほとんどない。EUは加盟25ヵ国の約25,000人の調査で,2006年の世論調査では年代差はないc。フィンランドの2014年世論調査とフランスの2022年世論調査では,年代差は−25ポイントと−20ポイントと大きく,若年層のほうが否定的である。

c)  加盟各国の有効サンプル数は500~1,500人程度。調査時点で25ヵ国中15ヵ国が原子力発電保有国。ただし,利用肯定比率(“increased” or “maintained”)に年代差はないが,55歳以上では“reduce”がやや少なく“don’t know”がやや多い。

このほか,英国の2023年の世論調査32では,新規原子力発電の建設への純支持率(賛成の%から反対の%を差し引いた値)は,男性の43%に対し女性は7%に留まること,また,18~24歳の純支持率が5%であるのに対し,65歳以上は50%で,年齢が上がるほど肯定的という強い線形関係があるとの報告例がある。若年層のほうが否定的である点は前述のフィンランドやフランスと似ており,日本とは逆の傾向である。

また,スウェーデンの2022年3月の世論調査33では,原子力発電の利用について,以前と同様に男性は女性より肯定的であること,年代差については,以前は18~29歳は上の年齢層よりはるかに否定的な傾向があったが,ここ数年で状況が変わり,現在では各年齢層間に大きな差はなくなっているとの報告例がある。

以上は諸外国の世論調査結果の一部の例に過ぎないものの,利用態度の男女差(男性のほうが肯定的)が一貫してみられるのに対し,年齢層による傾向は国によって異なり,同じ国でも調査時期によって変化することを示している。年代差の有無や傾向には,国によって異なる電力供給や原子力発電利用の実態や歴史的経緯,社会や経済の状況,できごとなどが影響していると考えられる。

以上の結果から,若年層が利用に肯定的な傾向は,男女差のように普遍的な特徴ではなく,福島原発事故以降の日本における特徴だといえる。

III. 調査1と調査2の方法

1. 目的と実施概要

日本では高年層が原子力発電の利用に最も否定的な傾向があり(第2章1節),高年層と比較することによって若年層の特徴が際立つと考えられる。Web調査での実施を考慮し,高年層としては,高年層のなかではパソコンやスマホの利用が相対的に多い60代を,若年層としての20代と比較することとした。調査会社の登録モニターの20代と60代を対象にWeb調査を2回実施した。調査1は,年代差のある認識を把握し,どの認識の年代差が利用態度の年代差をもたらしているかを明らかにすることを目的として,2021年12月10日に実施した。調査2は,利用態度と様々な認識との関連性(相関係数)が若年層と高年層でどのように異なるかを明らかにすることを目的として,2022年9月6日~7日に実施した。有効サンプル数をTable 2に示す。また,回答者の年齢分布は電子付録のFig. S1に示す。男女いずれも,20代は20代後半の回答者が多く,60代は60代前半の回答者が多かった。

Table 2 性年代別の有効サンプル数

  20代男性 20代女性 60代男性 60代女性
調査1 250 250 250 250 1,000
調査2 292 272 344 349 1,257

2. 質問項目

原子力発電の中長期的な利用についての態度(利用態度)として,今後原発を増やすかゼロにするか(以下「今後の利用」)とリプレース賛否を質問した。

利用態度の要因項目として,調査1では,原子力発電の知識・関心,原子力発電のリスクに関わる認識や事実認識,電力供給・経済・温暖化の認識,情報への接触・関心,現状許容傾向や政治意識などを質問した。調査2では,調査1の一部の質問を残し,電力不足に関わる認識,経済重視や先行きへの不安感を捉える質問を加えた。

回答選択肢は主として「そう思う~そう思わない」「あてはまる~あてはまらない」などの4択,一部項目は中間的選択肢を設けて「賛成~反対」「事実だ~事実でない」の5択とした。具体的な質問文と選択肢は電子付録のTable S1Table S2に示している。

3. 分析方法

(1) 評定平均値による比較

20代と60代の回答の差は「そう思う,あてはまる,賛成,事実だ」などの肯定や同意を意味する側の選択肢の値が大きくなるように点数を与えて評定値とし,平均値の差の検定(t検定)を行う。

差の大きさはCohenのd(効果量)で評価する。Cohenのdは2群間の平均の差がどれだけあるか標準偏差をもとに表したもので,絶対値が大きいほど2群の差が大きいことを意味する。本論文では,水本・竹内34のd = 0.20(小),0.50(中),0.80(大)の目安を参考に,dの絶対値が0.1~0.3を差小,0.4~0.6を差中,0.7以上を差大と分類する。

(2) 全サンプルでの相関と年代別の相関

要因項目と利用態度の間の「当該要因(認識)が強いほど利用に肯定的,あるいは否定的」というような単調の関連性をスピアマンの相関係数で分析する。

相関係数には,20代と60代を合わせた全サンプルでの相関係数と,年代別の相関係数がある。20代サンプルだけで算出した相関係数では「20代の肯定的な人」と「20代の否定的な人」を分ける要因であるかどうかは検討できる。しかし,20代における相関係数と60代における相関係数の大小比較だけでは,個々の要因項目が20代と60代の利用態度の差を説明できる要因かどうかは単純にいえない。本論文では,分析に応じ,全サンプルでの相関係数と年代別相関係数を使い分ける。具体的には調査1では全サンプルでの相関係数を用いる。その考え方については第IV章2節(1)項で説明する。

4. 利用態度の年代差

調査1と調査2のいずれも比率の差の検定で,20代は,「原発をゼロにすべき」が60代より15~16ポイント有意に少なく(Fig. 8),また,「どちらかといえば」を含めてリプレースへの反対も60代より16ポイント有意に少なかった(Fig. 9)。つまり,20代は60代より利用に否定的な意見が少なく肯定的だという傾向は,ウクライナ侵攻前の2021年も侵攻後の2022年も一貫して認められる。Web調査においても利用態度の年代差が確認できた。

Fig. 8

「今後の利用」(増やすかゼロにするか)

Fig. 9

リプレース賛否

評定値による比較でも,20代と60代に有意差があり,「今後の利用」は1.9と1.6,Cohenのdは0.4で年代差は中,「リプレース」は3.2と2.9,Cohenのdは0.3で年代差は小であった。

IV. 調査1の結果

1. 調査1の要因項目の年代差

(1) ニュース接触度

Figure 10は,新聞,テレビのニュース,インターネットのニュースの日常的接触頻度と時間である。音楽・芸能などの情報も「ニュース」として意識されるなど,ニュースとされる情報の範囲は広く,年齢層や性別で違いがあると報告されている(Ref. 10の27–28ページ)。インターネットのニュースは,新聞やテレビニュースとは異なり,個人が関心のあるジャンルのニュースのみを選択して接触できることから,インターネットのニュースについては質問文で「スポーツ・芸能娯楽関係のニュースを除く」とした。

Fig. 10

3媒体のニュースをみる頻度と時間

60代は3媒体いずれも「ほぼ毎日みる」が多く,1日当たりみる時間も30分以上と相対的に長い。一方,20代は,新聞のみならずテレビのニュースやインターネットのニュースをみる頻度や時間も顕著に少ない。

「ほぼ毎日みる」以外では,「数分」か「10分くらい」という回答が多いことを踏まえ,頻度と時間を総合して,「ほぼ毎日& 30分くらい以上」か,「週3~5日&1時間位以上」をA(ヘビー接触),「ほぼみない」をC,これら以外をB(ライト接触)に再カテゴリー化した。回答者ごとに3媒体についてのABCの個数をカウントし,Table 3の基準により4段階の合成変数を作成し,ニュース接触度とした。

Table 3 ニュース接触度

カテゴリー 分類基準 20代における比率 60代における比率
2~3媒体でヘビー接触(4点) Aが2個か3個 9% 47%
1媒体でヘビー接触(3点) Aが1個 18% 33%
ライト接触のみ(2点) Bが1つ以上 かつ Aがない 49% 18%
接触なし(1点) 3媒体すべてC 24% 3%

ニュース接触度で「接触なし」または「ライト接触のみ」は,60代の21%に対し,20代は73%を占めた。評定平均値による比較では,20代は2.1,60代は3.2,Cohenのdは−1.1で,年代差は大であった。

(2) 社会情報への関心

関心のある情報分野を複数選択する質問において,趣味やエンタメ,グルメ・旅行など娯楽系の情報を除き,政治,経済,社会問題,国際問題,気候変動,科学・テクノロジーを選択した個数を回答者ごとにカウントし,社会情報への関心の合成変数とした。平均値は,20代は1.0個,60代は3.0個,Cohenのdは−1.1であり,20代は社会情報への関心が顕著に低く,年代差は大であった。

社会情報への関心とニュース接触度の相関係数は,20代では0.43,60代では0.28で,20代のほうが強い相関があった。20代は,ニュースに接する頻度・時間という習慣的行動が社会情報への関心に強く影響していることが示唆される。

(3) 原子力発電に関わるネガティブな事実認識

20代は,原子力発電の短所(リスク・問題点)と長所(ベネフィット・有用性)について「知っている」(よく知っている,ある程度知っている)が,それぞれ60代より19ポイントと14ポイント少なかった。評定平均値による比較では,Cohenのdは−0.5~−0.4で,中程度の年代差が認められた。したがって,20代が利用に肯定的なのは,原子力発電の長所やベネフィットをよく知っているからではないといえる。

原子力発電に関わるネガティブな事実認識では(Fig. 11),「福島第一原発では,汚染水の発生が続いているのは事実だ」「いくつかの裁判では,原子力発電所の運転を差し止める判決となっているのは事実だ」などは,20代は60代より20~40ポイント少なかった。

Fig. 11

原子力発電に関するネガティブな事実認識

ここで着目されるのは,「欧米の先進国は原子力発電を廃止する方針であるのは事実だ」という明らかな誤解も60代のほうが25ポイント多い点である。60代は常に正確な知識が多いというのではなく,誤解も含めてネガティブな事実認識が多いといえる。回答者ごとに,正誤に関わりなく原子力発電にとってネガティブ方向の回答を選択している項目数をカウントし,ネガティブな事実認識の指標とした。20代は平均1.6個,60代は3.2個,Cohenのdは−0.8で,年代差は大であった。

2. 利用態度の年代差を説明できる要因

(1) 要因を特定する方法

前述の合成変数を含めて,36の要因項目のうち34項目に年代差があり,差大が8項目,差中が13項目,差小が13項目であった(Table 4)。

Table 4 調査1の要因項目の年代差

  質問
項目数
20代と60代の認識の差
なし
a 情報への接触・関心 4 3 1 0 0
b 原子力発電に関する知識・関心 4 1 3 0 0
c 原子力発電のリスクに関わる
認識
8 2 4 2 0
d 原子力発電に関わるネガティブ
な事実認識
8 2 3 2 1
e 電力供給・経済・温暖化の認識 4 0 0 3 1
f 現状許容傾向や政治意識など 8 0 2 6 0
36 8 13 13 2

注)合成変数を含む。

Figure 12は,全サンプルにおける相関係数と年代差の関係のイメージ図である。実際には,順序尺度の質問間の相関係数なのでクロス表にしかならず,このような散布図にはならないが,わかりやすさのために説明に用いる。年代差のあった要因項目が,20代が60代より利用に肯定的な要因であるならば,20代と60代を合わせた全サンプルにおいて,要因項目と利用態度の間に整合する方向の関連性がみられると考えられる。具体的にはFig. 12に示すように,①20代に弱い(少ない)認識で,その認識が強いほど利用に否定的な関係がある(利用態度と負の相関がある),または,②20代に強い(多い)認識で,その認識が強いほど利用に肯定的な関係がある(利用態度と正の相関がある)という2パターンが考えられる。

Fig. 12

全サンプルにおける相関係数と年代差の関係のイメージ

本論文では,20代と60代の間に年代差のあった項目のなかで,この2パターンに該当するものを,利用態度の年代差を説明できる要因とみなすこととする。

(2) 20代に少ない認識で,利用に否定的になる要因

20代で有意に少なく,利用態度と有意な負の相関があった項目をTable 5に示す。原子力発電のリスクに関わる認識とネガティブな事実認識の10項目は「リプレース」より「今後の利用」との相関のほうが強い。

Table 5 20代で少なく(20代<60代),利用態度と負の相関があった項目


特に「安全性について国や電力会社は本当のことを公表していない」「放射性廃棄物処理・処分の不安」「原子力施設事故の不安」は,中以上の年代差があり,「今後の利用」と−0.3~−0.4の相対的に強い相関がある。「福島第一原発では汚染水の発生が続いている」「トラブルや管理の不備がしばしば起きている」など,原子力発電に関するネガティブな事実認識も,中以上の年代差があり,「今後の利用」と−0.2の相関がある。

また,「経済的に豊かな社会よりも原子力発電の事故のリスクがない社会を将来に引き継ぐべき」「危険性や有害性を考えると原子力発電も原爆も同じ」は,年代差は小だが,「今後の利用」と−0.4の相対的に強い相関がある。

20代でこれらの認識が少ないことが利用態度の年代差の要因といえる。

ニュース接触度や社会情報への関心は,「今後の利用」とのみ負の相関があり,「リプレース」とは有意な相関がない。福島原発事故後の一時期ニュースの主要な話題であった「原発ゼロ」とは異なり,リプレースに関しては少なくとも調査時期(2021年12月)までニュースで取り上げられることもなかったためではないかと推察される。

(3) 20代に多い認識で,利用に肯定的になる要因

20代で有意に多く,利用態度と有意な正の相関があったのはTable 6の6項目で,前項とは異なり,「今後の利用」だけでなく「リプレース」でも同程度の相関がある。

Table 6 20代で多く(20代>60代),利用態度と正の相関があった項目

  評定値 全サンプルにおける
相関係数
20代平均 60代平均 Cohenのd 年代差 今後の利用 リプレース
b 知識・関心 知りたいのは(廃棄物や安全性の問題より)経済性や必要性のほう 2.4 2.1 0.5 差中 0.34 0.24
原子力発電を今後どうするかは,自分には関係がない 2.3 1.8 0.7 差大 0.10 0.11
e 電力供給など 環境より経済・生活優先で電力供給を増やす 2.5 2.4 0.2 差小 0.20 0.22
f 現状許容傾向など 自分がよく知らない,あるいは関心のない問題は,現状のままでよい 2.3 2.0 0.3 差小 0.13 0.09
自分のようなふつうの市民には,政府のすることに対して,それを左右する力はない 2.6 2.5 0.2 差小 0.07 0.13
今の日本の政治のあり方に満足 2.6 2.3 0.3 差小 0.22 0.21

「知りたいのは(廃棄物や安全性の問題より)経済性や必要性のほう」「環境より経済・生活優先で電力供給を増やす」には小か中の年代差があり,利用態度と0.2~0.3の相関がある。

「原子力発電を今後どうするかは自分には関係がない」の年代差は大であり,「今の日本の政治のあり方に満足」「自分がよく知らない・関心のない問題は現状のままでよい」「自分のようなふつうの市民には政府のすることを左右する力はない」の年代差は小であり,いずれも利用態度と0.1のごく弱い相関がある。

以上により,20代で経済や電力供給を相対的に重視し,無関心や現状許容傾向がやや多いことが利用態度の年代差の要因といえる。ただし,前項のリスクに関わる認識と比べると,認識自体の年代差も利用態度との相関係数も小さいことから,リスクに関わる認識のほうが年代差の強い要因だといえる。

3. 20代におけるニュース接触度の影響

前節の第(2)項・第(3)項で利用態度の年代差の要因と特定した20代の認識傾向に,20代のニュース接触度の低さが影響しているのだろうか。Table 7は20代サンプルにおける要因項目とニュース接触度・社会情報への関心との相関係数である。

Table 7 20代が肯定的な要因項目とニュース接触・社会情報への関心との相関係数


20代で少ない認識についてみると,ネガティブな事実認識の個数はニュース接触度とも社会情報への関心とも0.33の相対的に高い相関がある。事実認識の有無にはニュースの影響が強いといえる。リスクに関わる認識の項目も0.1~0.2の正の相関がある。20代でリスクに関わる認識が少ないことも,弱いながらもニュース接触度の低さが影響していることが示唆される。

20代で多い認識のうち,「原子力発電を今後どうするかは自分には関係がない」と「自分がよく知らない・関心のない問題は現状のままでよい」の2項目は,社会情報への関心と−0.1~−0.2の負の相関がある。20代において無関心や現状許容傾向が多いのは,弱いながらも社会情報への関心の低さが関係していることが示唆される。第1節(2)項で示したように,20代は社会情報への関心とニュース接触度に0.43の高い相関があったことを踏まえると,ニュース接触度の間接的な影響という見方もできる。

一方,Table 7のグレーの網掛けの4項目は,ニュース接触度とも社会情報への関心とも有意な相関がないか,相関係数の正負が逆で整合しない方向の相関である。したがって,これらの項目が意味する経済重視や政治満足(政治不満の低さ),政治的無力感が20代で多いことについては,20代のニュース接触や社会情報への関心の低さからは直接説明できず,他の要因に起因すると考えられる。

V. 調査2の結果

1. 調査2の要因項目の年代差

調査2の要因項目の分類と年代差の有無をTable 8に示す(ア~ヘの項目の具体的内容はFig. 14を参照)。

Table 8 調査2の要因項目の年代差

要因項目の分類 項目数 20代と60代の認識の差
20代で少ない 20代で多い 有意差なし
原子力発電の直接評価 リスク面 6 ア・イ・ウ・エ・オ・カ
リスク以外の面 4 キ・ク・ケ
電力需給等に関わる認識 電力確保 3
電力不足 3 ソ・タ
環境 2 チ・ツ
経済重視・先行き不安 国や社会 5 テ・ナ・ニ・ヌ
世界の中の日本 3 ネ・ハ
自分世代や自分 3 ヒ・へ

注:ア~ヘの内容はFig. 14を参照。

調査1と共通の経済に関わる項目である「キ.知りたいのは(廃棄物や安全性の問題より)経済性や必要性のほう」「サ.環境より経済・生活優先で電力供給を増やす」は20代で多く,調査1と同様の経済重視の傾向が確認できる。Fig. 13は,調査2で加えた経済面からの原子力発電の評価「コ.日本経済にとって原子力発電はプラスに働くかマイナスに働くか」の回答分布である。「マイナス」は2割未満で「プラス」が5割を占める。有意な年代差はなく,原子力発電は経済にプラスだという評価が20代で特に高い訳ではない。つまり,「リスクと経済」「環境と経済」を対比させた場合に,20代のほうが経済を重視する人が多いということである。

Fig. 13

日本経済にとって原子力発電はプラスに働くか,マイナスに働くか

このほか20代で有意に多いのは,「経済重視・先行き不安」のなかでも「自分世代や自分」の視点である「ヒ.日本の国力が低下しているため,自分たちの世代が損をしている」「ヘ.将来に不安があるので,収入を増やし貯蓄したい」である。自らの先々に関わる漠然とした経済的な不安は20代のほうが多いといえる。

電力不足を楽観する認識「ソ.最近の電力不足は一時的なもので,そのうちに解消する」「タ.電力不足の注意報がたまに出ても社会全体で節電すればそれほど問題ない」に年代差はない。

2. 20代における要因と60代における要因の違い

利用態度としては,原子力発電の中長期的な利用に直結し,漠然とした方向性ではなく具体的課題であるリプレースについての賛否を用いる。Fig. 14は20代と60代それぞれにおける要因項目とリプレース賛否の相関係数を比較したもので,年代による傾向の違いが明瞭にみて取れる。

Fig. 14

リプレース賛否と要因の相関係数 20代と60代の比較

60代は,「原子力発電の直接評価」と「電力確保」の項目群で,絶対値0.4~0.6の相関があり,ほとんどの項目で20代より相関が高い。特に,リスク面の評価であるア~カは,20代と60代の相関係数の差が大きい。前節のTable 8で示したように,これらの項目は20代で少ない認識,すなわち60代で多い認識であることを踏まえると,60代のリプレース賛否は,原子力発電についての直接評価,なかでもリスク面の評価に規定される傾向があるといえる。

一方,20代は,相関係数の絶対値が0.4を超えるのは「コ.日本経済にとって原子力発電はプラスに働く」のみで,目立って高い項目はなく,「リスク」の項目群も−0.2前後に留まる。そして,60代との違いは,「経済重視や先行き不安」の項目群でも0.1~0.2の正の相関があることで,経済重視や先行きへの不安をもつほうがリプレースに肯定的な傾向がある。

20代で多い認識には★印をつけている。「コ.日本経済にとって原子力発電はプラスに働く」や,「経済重視・先行き不安」の項目群のなかでも「国や社会」の視点,「世界の中の日本」の視点の認識は,20代に多いのではない(Table 8)。つまり,60代も20代と同じかそれ以上に経済の重要性を認識し,日本の状況に焦りのような不安を感じている。しかし,60代ではそのような意識がリプレース賛否に結びついていない。これに対し20代は,賛否の判断において,リスク面の評価が特に重みをもつのではなく,原子力発電や電力供給とは直接関係のない,経済重視や先行きへの不安感も幅広く薄く賛否に関係している。

このほか60代の特徴として,環境に関連する3項目「チ.高くついても環境によいサステナブルな電気が欲しい」「ツ.気候変動による災害や被害を食い止めるには発電分野のCO2削減が最優先だ」「テ.地球環境によいものだけがこれからの経済成長につながる」は,60代でのみ有意な負の相関がある。60代は,持続可能性や地球環境を重視するほうがリプレースに否定的な傾向であり,CO2排出が少ないという原子力発電の長所からロジカルに導かれる方向とは逆である。

これに関連するものとして,温暖化対策としての原子力発電の受容性についての先行研究がある。深江35は,2005年の調査で原子力発電が発電時に温室効果ガスを排出しないと思う人は3割に留まるが,共分散構造分析の結果から,温暖化対策としての原子力発電の有用性評価には,知識不足よりも大事故や放射性廃棄物という原子力発電の負のイメージの影響が支配的だと報告している。2019年の北田36の調査でも,原子力発電はCO2排出が少ないという認知は依然として低く,CO2削減方法として原子力発電を思い浮かべる人は極めて少ないこと,「環境問題としてはCO2より放射性廃棄物が増えるほうが深刻」だと思う人が6割で,そう思わない人の2割を上回ると報告されている。この調査でもCO2削減に積極的なほうが原子力発電の利用に否定的という弱い負の相関があり,環境優先意識に媒介された疑似相関として説明が試みられている。これらの先行研究は,環境における原子力発電の評価は,温暖化対策としての効用より放射性物質による環境負荷から判断されやすいことを示唆している。これらの先行研究はいずれも人口の年齢構成に沿う回答者全体での結果であるが,本論文の調査では,60代でのみ同様の傾向がみられたといえる。

VI. 内閣府世論調査における若年層の経済重視

調査1,調査2の対象は20代と60代のみであった。経済重視の傾向の違いはこの2つの年代層に特有なのかを,全年代を対象とした既存の世論調査で確認する。

日経新聞の2021年10月の電話世論調査では,「国全体の経済力を高める成長戦略」と「格差是正につながる分配政策」のどちらを優先すべきかに対し,18~39歳は「成長」が59%「分配」が31%で,年齢が上がるほど「分配」の支持が増え,60歳以上で逆転すると報告されている37

Figure 15は内閣府の2014年の調査38である。「成長・発展を追求する,緩やかに成長・発展を持続する社会を目指す」は,20代は66%と最も多く,年齢が上がるほど少ない。Fig. 16の内閣府の2021年の調査でも39,「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」は,20代は58%で最も多く,年齢が上がるほど少なくなり,「物質的にある程度豊かになったので,これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」が多くなる。髙年層は,物質的豊かさがある程度満たされたとして心の豊かさを重視しているが,若いほど,物質的な豊かさはまだ十分でないと思っている。若年層は,60代のみならず40代や50代と比較しても,経済成長や物質的な豊かさを望む傾向があることが確認できる。

Fig. 15

目指すべき社会像(内閣府「人口,経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」2014年 個別面接聴取法)

注:Ref. 25)の集計表から筆者作成

Fig. 16

今後は心の豊かさか,物の豊かさか(内閣府「国民生活に関する世論調査」2021年 郵送法)

注:Ref. 26)の集計表から筆者作成

Figure 17は内閣府の世論調査で長期継続されている1問40である。「貯蓄や投資など将来に備える」は,60代は20%に満たないが,20代は50%台で推移している。この顕著な年代差は,定年退職などにより収入減少期にある髙年層にとって「将来に備える」という表現がそぐわず,20代と60代のライフステージの違いから差があって当然といえる。しかし,それこそがそれぞれの世代が置かれた状況の本質的な違いを表している。20代の長期推移をみると,2000年代前半は30%台だが,2007年以降は50%台に増えている。2008年にはリーマンショックがあった。若年層がかつてより経済重視になっているのは,経済の悪化や日本の経済力の低下が影響していると考えられる。

Fig. 17

将来に備えるか,毎日の生活を充実させて楽しむか(内閣府「国民生活に関する世論調査」1999年~2019年 個別面接聴取法)

注:Ref. 27)の集計表から筆者作成

注:2020年はコロナ禍で調査が実施されず,2021年以降は訪問面接法から郵送法に変わり,選択肢が変更されている。

VII. まとめと考察

本論文では,報道機関や内閣府などが実施した既存の世論調査データと,若年層として20代,高年層として60代を対象に新たに実施した2つのWeb調査のデータを分析し,若年層が高年層より原子力発電の利用に肯定的な要因となる認識傾向や利用についての判断の視点の違いを明らかにした。

(1) 若年層と高年層の利用態度の差の実態

世論調査の結果は,一般的に単純集計のみが報道され,年齢層による差異については断片的な言及に留まるために,年代と態度の関係の実態がわかりにくい。本論文では,若年層が高年層より原子力発電の利用に肯定的であることを,報道機関の世論調査やINSS継続調査などの既存の世論調査データで確認した。これらの調査は,調査主体や質問文(原子力発電の利用の内容の具体性や時間軸など)が異なり,調査方法も電話d・訪問面接・訪問留め置き・郵送・Webと多様である。本研究で実施した調査はWebだが,Web調査は登録モニターを対象とし,謝礼(少額のポイント)目的の登録者が一定数いること,性年代などの割り当て人数に達すると早い者勝ちで回答が締め切られるために,登録モニターの中でも活発な層が含まれやすいといった問題が指摘されている41。調査方法によっては若年層の回答が得にくいという問題や,調査方法間で回答者層が異なるという指摘もあるe。今回,調査方法が異なる様々な調査において利用態度の年代差がみられたことは,年代差が各調査方法に特有の回答傾向や回答者層のずれによって生じたのではないことを示している。

d)  報道機関各社の電話世論調査は,かつて固定電話でのみ実施されており,携帯電話の急速な普及にともない回答者の年齢の偏りが大きいことが問題となっていた。しかし2016年・2017年頃から固定と携帯を併用する方法に変更され改善されている。

e)  岸川ら42は,性別・年齢・居住地域を制御して訪問面接調査とWeb調査で,原子力発電を含む環境問題やリスクに関する考え方や意見を調査した。学歴・小さな子の有無と子の年齢・喫煙の有無などの属性要因を調整して比較しても,なお調査方法の違いによって差が認められたことから,基本属性が同じであっても,Web調査のモニターに登録する者であるという特性,あるいは訪問調査に対応する者であるという特性が回答結果に反映されている可能性を指摘している。

継続調査のデータから,若年層が原子力発電の利用に肯定的な傾向は,福島原発事故以降のもので,年齢が上がるほど同事故の影響が大きく,時間経過による戻りも小さかったことで生じていたことがわかった。諸外国の世論調査データでは,日本と同様の男女差(男性のほうが利用に肯定的)がみられたが,若年層が利用に肯定的な傾向はなかった。若年層が肯定的な傾向は,男女差のように他国でもみられる古くから知られた普遍的な特徴ではないといえる。

(2) 利用態度の年代差を生む若年層と高年層の認識の差

利用態度の年代差の要因の候補となる認識の年代差を把握し,そのなかで利用態度の年代差と整合する関連性のあるもの――具体的には,①若年層に少ない認識で,若年層と高年層を合わせたサンプルでみたときに,その認識が少ないほど利用に肯定的,または,②若年層に多い認識で,若年層と高年層を合わせたサンプルでみたときに,その認識が多いほど利用に肯定的という条件を満たすもの――を要因とみなすこととした。

これにより,①若年層は,原子力発電に関する不安感や不信感を始めとする原子力発電のリスクに関わる認識や,原子力発電に関するネガティブな事実認識が高年層より少ないこと,②若年層は,原子力発電に対する無関心や現状許容傾向,政治への満足(不満がない),リスクより経済や電力供給を重視する傾向が髙年層より多いことが,年代差の要因として特定された。

若年層の特徴として関心が低いことや現状許容傾向があることは先行研究で報告されているが,それらが若年層の利用態度が肯定的な一因であることがデータで示されたといえる。ただし,無関心や現状許容傾向よりも①のリスクに関わる認識のほうが,認識の年代差が大きく,かつ利用態度との相関も強いことから,利用態度の年代差のより強い要因といえる。

(3) 若年層と高年層のリプレース賛否の判断の視点の違い

若年層と高年層それぞれにおける,リプレース賛否と様々な認識の関連性の強さ(相関係数)を比較した。高年層は,原子力発電についての直接評価の認識との相関が高かった。直接評価の中でも特にリスク面の否定的認識が高年層で多かったことを加味すると,高年層では,原子力発電の直接評価,特にリスク面の評価がリプレースの賛否を規定しているといえる。一方,若年層は,直接評価の認識との相関が高年層より低く,原子力発電や電力供給に直接関係しない経済重視や先行きへの不安,なかでも世界の中の日本の視点や,自分や自分世代の視点からの不安感もリプレース賛否とごく弱い相関があった。若年層では,原子力発電のリスクに特に重みが置かれることなく,幅広い認識が薄くリプレースの賛否を規定しているといえる。若年層と高年層のリプレースについての判断の視点の違いが明らかになった。

(4) ニュース接触度の影響

若年層は,新聞やテレビのみならずインターネットでもニュース(娯楽関係を除く)への接触が高年層より少なかった。ただし,インターネットでも60代のほうが多いという結果はWeb調査だったことが影響している可能性もある。インターネットの膨大な情報空間でなにに接するかは個人の選択が大きい。少なくとも,若年層はインターネットを多用していても,そこでニュースをみているのではなかった。若年層と高年層は,単にニュースを入手するツールが異なるのではなく,ニュース情報量に大きな差があるといえる。

若年層は,政治・経済・社会問題などの社会情報への関心が顕著に少なく,かつ社会情報への関心とニュース接触度の間に0.4の,高年層と比べてかなり強い相関があった。「ニュースをみることで社会情報に関心をもつ」「社会情報に関心があるからニュースをみる」という双方向の因果が考えられるが,相関係数だけではどちらなのかは特定できない。しかし,ニュース情報は社会の出来事や動き,問題の存在を認知する主要経路であり,認知できなければ関心をもちにくいのは確かだろう。若年層の社会情報への関心の低さには,ニュース接触という日常習慣的行動がかなり影響していると考えられる。

利用態度の年代差の要因と特定された認識傾向との関係を分析した結果,若年層においても,原子力発電のリスクに関わる認識やネガティブな事実認識はニュース接触度と正の相関があり,現状許容傾向や原子力発電に対する無関心は社会情報への関心と負の相関があった。その多くはごく弱い相関ではあるが,利用態度の年代差を生じさせている若年層の認識傾向には,若年層のニュース接触の少なさや社会情報への関心の低さが影響していることが示唆される。

原子力発電に関わるネガティブな事実認識については,高年層が若年層より常に正確な認識をもっているというのではなく,「欧米の先進国は原子力発電を廃止する方針」との誤解は高年層に多かった。福島原発事故後の日本では,脱原発に向かう国々の動きにニュースバリューがあり,多くの報道がなされたためだと思われる。若年層が肯定的,裏返せば高年層が否定的な傾向は,福島原発事故以降のもので,諸外国に共通するものではなかった。これを踏まえると,ニュース接触の多い高年層でネガティブな事実認識が多いのは,福島原発事故以降の日本では必然的に,マスメディアの情報空間で原子力発電のリスクや危険性,問題点などの内容が多数であった実態を反映しているとみることもできる。

北田7は,原子力発電の利用についての世論はリスク・効率性・価値観の3要素の力関係で変動するとのモデルで,福島原発事故から数年後(2016年)の世論の状態を説明している。事故で大きく高まったリスクの要素は時間経過によって一定程度低下したが,原子力発電所の長期停止に伴い効率性の要素(3Eの観点での有効性の認識)も低下し,福島原発事故後否定方向に大きく動いた世論はその後変化していないと説明している(Ref. 7の328–333ページ)。もし今後,ニュース等でエネルギーの自給や電力の安定供給,電気料金,CO2削減などの文脈で,原子力発電の価値に多く言及される状況になるならば,新たな方向の情報に接する機会の多い高年層で効率性の要素が強まり,利用態度の変化が生じやすい可能性もある。

(5) 若年層の経済重視の傾向

若年層も高年層も同様に,原子力発電は日本経済にとってプラスに働くと評価する人が多かった。そして若年層では,この評価はリスク面の評価よりもリプレースの賛否との相関が強かった。北田43の2022年のWeb調査でも,若年層も高年層も原子力発電は電気代が安くなる電源と認知していた一方,発電で最も重視する観点として「電気料金の安さ」を選ぶのは,高年層では少ないが若年層では5割と報告されている。これらを総合すると,原子力発電の経済面での効用について,若年層が必ずしも高年層より高く評価しているのでも,その評価が若年層で必ずしも高年層より強くリプレースの肯定に結びついているのでもなく,高年層との違いは,若年層は原子力発電の利用の判断においてリスク面よりも経済面での評価が重みをもつ点にあるといえる。

若年層のほうが原子力発電への関心が低いことを踏まえると,原子力発電の経済性や必要性に高年層より強い関心をもっているのではなく,高年層ほどにはリスク面に焦点を当てていないために,結果的にエネルギー問題の基本的視点である供給や経済面での必要性にもフラットに関心を配分していると考えられる。若年層は経済や将来にプラスになるという大枠での評価から原子力発電を肯定しているといえる。

本論文では,内閣府の世論調査データから,若年層の経済重視は20代と60代の比較でのみ検出できる特徴ではなく,全年齢層で比較しても,年齢層が低いほど経済成長や発展,物の豊かさを望む傾向があることが確認された。さらに,60代とは顕著に異なり,20代は「貯蓄・投資など将来に備える」が「毎日の生活を充実させて楽しむ」を大きく上回り,2000年代前半の水準より増えていることがわかった。この年代差は高年層とのライフステージの違いによる必然的な差であるとともに,世界における日本の経済的優位がもはや確実とはいえない状況や,高齢化や人口減少による衰退など,明るい将来が見通しにくい状況も影響していると思われる。若年層の経済重視は,このような状況でこれからの時代を生きる世代の,現実的で意外に堅実な姿とみることができるかもしれない。

(6) おわりに

本研究から,福島原発事故が原子力発電への態度に強く影響し続ける高年層に対し,「ことさらに原子力発電を知ろうとしないし,ことさらに否定もしない」若年層の姿が浮き彫りになった。そして,その背景には,若年層がリスクに大きく重みづけた判断をしていないことや,経済面を重視する傾向や先行きへの不安など複数の要因が存在することがわかった。2050年のカーボンニュートラルを目指してエネルギー源の大転換が求められるなか,原子力発電をどうするかという問題には,先の時代を担う若年層の視点の理解も必要であり,単に若年層は知識や関心が乏しいという理由だけで軽視することはできない。

2群比較で差異が明確にいえる男女差に比べて,年齢による差異の分析は,年齢をどう区切って比較するかという問題がある。年齢に比例する特徴であれば,若年層とそれ以外の2群比較では差異の程度が薄まる。複数の年代間の比較になると,年齢に比例する要因と比例しない要因が混在し結果が複雑になる。本研究は,原子力発電の利用に肯定的な20代と否定的な60代の2群比較というアプローチを取ったことで,傾向や特徴を捉えることができた。60代は人口のボリュームもあり,意味のある結果と考えるが,若年層の特徴としては,他の年代層との比較なども必要と考えられる。

若年層も原子力発電のリスクにフォーカスして考えたり,原子力発電に関するネガティブな事実を知ったりすれば,高年層のようにリスクを重視して判断し,利用に否定的になるのだろうか。これについては,そうはならないとの結果も得られており,紙幅の関係で別の論文43にまとめている。

References
 
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