2024 年 23 巻 3 号 p. 74-80
Partitioning and transmutation techniques for minor actinides have been developed to reduce the radiotoxicity and volume in high-level radioactive wastes. Minor actinide nitride fuel has been chosen as a candidate for the transmutation of long-lived nuclides using an accelerator-driven system. Understanding the irradiation behavior of nitride fuel is important for its design and development; however, experimental data on irradiation tests of actinide nitrides and their solid solutions are scarce. Recently, in JAEA, a nitride fuel performance analysis module based on the light water reactor fuel performance code FEMAXI-7 has been developed to simulate the irradiation behavior of the nitride fuel. In this study, performance analysis was carried out focusing on the pellet-cladding mechanical interaction (PCMI), which was pointed out as the most effective factor in fuel safety during irradiation. Simulation results show that PCMI does not cause the creep rupture of the cladding.
使用済核燃料の再処理で発生する高レベル放射性廃棄物の地層処分における処分場面積の低減や潜在的放射性毒性の軽減のために,高レベル放射性廃棄物中に含まれるネプツニウム(Np),アメリシウム(Am),キュリウム(Cm)といったマイナーアクチノイド(MA)などの長寿命放射性核種を分離し,原子炉や加速器駆動未臨界システム(ADS)などを用いて短寿命放射性核種または安定核種に変換する分離変換技術1,2)を取り込んだ核燃料サイクルが検討されている。日本原子力研究開発機構(原子力機構)では,商用発電サイクルに加速器駆動未臨界システムによるMAなどの長寿命放射性核種の核変換専用サイクルを付加した階層型サイクルの研究開発を進めており,その核変換用燃料の第一候補材として窒化物が挙げられている。窒化物は,熱伝導度と融点が高いといった優れた熱特性のため燃料の安全裕度が大きい,アクチノイド窒化物が相互に固溶するため燃料組成の自由度が大きい,酸化物燃料に比べ重金属密度が高いといった特長がある一方,酸素や水分に活性であるため取り扱いは不活性ガス雰囲気のグローブボックスやセルで行う必要がある。また,照射中の(n, p)反応による窒素-14からの炭素-14の生成を避けるため,濃縮した窒素-15を利用する必要がある。さらに,ADSによる核変換用窒化物燃料という観点では,核反応によるUからのMAの発生を抑制するためUフリーであること,燃料中の核分裂性核種の濃度が高いため窒化ジルコニウム(ZrN)不活性母材で希釈すること,といった特徴がある。
窒化物燃料の照射試験は酸化物燃料や金属燃料に比べて実績が少ないが,高速炉用(U,Pu)N混合窒化物燃料の照射試験がアメリカ3)や欧州4~6),ロシア7~9),日本10~12)で実施されてきた。一方,UフリーでPuやMA,Zr窒化物を含有する核変換用窒化物燃料については,以下に示す照射試験が報告されている。
フランスの高速炉Phénixでは,オーステナイト鋼被覆管(AIM1)にPu0.21Am0.21Zr0.58N窒化物燃料ペレットを装填しNaボンドを充填させた短尺ピンの照射試験(FUTURIX-FTA)13,14)が実施されている。燃料の燃焼度は4.3%FIMA (10.2%FIHMA)であり,放出されたFPガス(Xe, Kr)の放出率は2.5%,Heガスの放出率は6.6%だった。オランダのペッテンの高中性子束炉(HFR)では,オーステナイト鋼被覆管(15-15Ti)にPu0.2Zr0.8NとPu0.3Zr0.7Nの組成の窒化物燃料ペレットを装填しHeガスを充填させた燃料ピンの照射試験15)が実施されている。燃料の平均線出力は441–443 W/cm,Pu0.3Zr0.7N窒化物燃料の燃焼度は2.9%FIMA (88 GWd/tHM)であった。照射後の燃料ピンは両方とも健全であること,ギャップは閉塞していたがペレットにはほとんどクラックが入っていなかったことが確認された。ペレットの全スエリング量は0.92 ± 0.12%/%FIMA,FPガス(Xe, Kr)の放出率は5~6%,Heガスの放出率は50%以上だった。ロシアのナトリウム冷却高速炉BOR-60では,オーステナイト鋼被覆管(ChS-68)にPu0.2Zr0.8N窒化物燃料ペレットを装填しHeガスを充填させた燃料ピンの照射試験16,17)が実施されている。照射試験は2ステージに分けて行われ,燃料の最大線出力は207 W/cm,最大燃焼度はそれぞれ2.3%FIMA (11.3 at.%),3.9%FIMA (19.4 at.%)であった。照射後の燃料ピンには変形や損傷はみられず健全であることが確認された。窒化物ペレットの最大中心温度は約1,273 K,ペレットの平均スエリング率は0.1%/1 at.%未満,また,FPガス(Xe, Kr)の放出率は1%だった。日本の材料試験炉(JMTR)での照射試験18)ではオーステナイト鋼被覆管(SUS316L)にHeガスとPu0.1Zr0.9N窒化物燃料ペレットを充填させた燃料ピンの照射試験が2000年代に実施されている。窒化物燃料ペレットには,ポアフォーマーを添加し高密度マトリクスに大きな気孔を導入した。燃料の平均線出力は408 W/cm,燃焼度は最大1.5%FIMA (132 GWd/t-Pu)であった。照射後の燃料ピンは有害な変形等はみられず健全であることが確認された。窒化物ペレットの最大中心温度は約1,273 K,ペレットのスエリング量は3.6%,直径ギャップは0.16~0.17 mmとしたがギャップの閉塞は観察されなかった。また,FPガス(Xe, Kr)の放出率は1.6%と評価された。
一方,原子力機構では,ADS用窒化物燃料の設計や照射中の燃料ふるまい理解のために,メーカーのハウスコードに対する参照コードとして使用実績のある軽水炉燃料ふるまい解析コードFEMAXI-719~21)をもとに,窒化物燃料物性データベース22)にまとめられている窒化物ペレットの基礎特性データや燃料被覆管候補材の改良9Cr-1Moフェライト鋼(T91鋼)23~25),冷却材の液体Pi-Bi26)の物性式やモデル式を組み込んだ窒化物燃料ふるまい解析モジュール27)を開発した。窒化物燃料物性データベースは,原子力機構で取得したPuやMA,Zr窒化物やその固溶体の物性データや,UNや(U, Pu)Nなどの既報の基礎特性データをまとめ,温度や元素組成への依存性を可能な限り定式化したデータ群である。
本研究では,開発した窒化物燃料ふるまい解析モジュールの整備の一環として,感度解析を目的とした試計算27)で課題として挙げられた燃料ペレット―被覆管間機械的相互作用(PCMI)などの熱機械特性を評価することを目的に,ふるまい解析を実施した。
窒化物燃料の解析体系は,ペレット径方向は等体積36リング要素分割,被覆管径方向は等体積8リング要素分割,軸方向は10セグメントに等分割とした。燃料および冷却材の基本仕様は,参考文献28,29)をもとに設定した(Table 1)。また,初期の窒化物燃料ペレット中のPuとMAの同位体モル分率をTable 2に示す。
Item | Unit | |
---|---|---|
1. Fuel pellet | ||
Pellet composition | (Zr0.6Np0.14Pu0.11Am0.13Cm0.02)15N | |
Height | mm | 10 |
Diameter | mm | 6.45 |
Density | %TD | 85 |
Diameter gap width | mm | 0.200 |
2. Fuel rod | ||
Fuel effective length | mm | 1000 |
Upper plenum volume | cm3 | 34.71 |
Lower plenum volume | cm3 | 6.94 |
Initial inner pressure | MPa | 0.1 |
Gas composition | % | 100.0 (He) |
3. Cladding | ||
Material | — | T91 |
Outer diameter | mm | 7.65 |
Inner diameter | mm | 6.65 |
4. Coolant | ||
Material | — | Pb-Bi |
Coolant pressure | MPa | 1.0 |
Coolant inlet temperature | K | 573 |
Coolant velocity | m/s | 2.0 |
Nuclide | Molar ratio |
---|---|
Np-237 | 3.57E-01 |
Pu-238 | 3.34E-03 |
Pu-239 | 1.57E-01 |
Pu-240 | 9.18E-02 |
Pu-241 | 1.22E-02 |
Pu-242 | 1.10E-02 |
Am-241 | 2.15E-01 |
Am-243 | 1.04E-01 |
Cm-242 | 0.00E+00 |
Cm-244 | 4.82E-02 |
Total | 1.00E+00 |
燃料ペレットと被覆管の間に設定する初期のスミア密度は,照射に伴う燃料スエリングの体積膨張を吸収するため重要なパラメータの1つである。本解析では,燃料の仕様として燃料ペレット密度85%TD,スミア密度80%とした。照射中の線出力の軸方向出力分布はFig. 1に示すように,参考文献30)の定常状態における線出力の軸方向の分布を参考にしてコサインカーブをもとに燃料中間部を最大線出力500 W/cm,燃料棒平均線出力が389 W/cmとなるようにした。また,照射中の線出力の軸方向出力分布は時間によらず一定とした。
Axial linear heat rate distribution in nitride fuel
また,窒化物燃料ペレットの熱伝導率は,以前の計算27)と同様に照射に伴って減少するモデルを適用しており,熱伝導率の最大低下割合を0.5とした。
一方,径方向出力分布に関してはADS炉が高速中性子下環境のため一定であると仮定した。そして,ギャップコンダクタンスモデルはMatzkeモデル31)を採用した。Matzkeモデルは,(U, Pu)C炭化物燃料のキャプセル照射試験から照射初期のギャップコンダクタンスをギャップ幅と線出力の関数で評価したものに燃焼度依存性を与えたモデルとなっている。また,燃料の照射シナリオとして,まずは燃料製造後1年間保管し,その後炉心に装填し2年間照射,最後に295.15 Kまで冷却するといった1サイクルの履歴を採用した。
2. 被覆管クリープ破断モデルクリープ寿命分数和は被覆管のクリープによる損傷を評価する上で非常に重要な指標の1つであり,被覆管のクリープ寿命分数和(CLF)は,破断時間tR(hr)により以下の式で表される。
\begin{equation} \text{CLF} = \sum_{i = 1}^{n}\frac{\Delta t_{\text{i}}}{t_{R,i}} \end{equation} | (1) |
このとき,CLF < 1の間は被覆管が健全であると判断することができる。T91鋼被覆管の破断時間tRは温度,応力によるLarson-Millerパラメータ法の2次回帰式により下式で表される24)。
\begin{align} &T_{K}\left\{ \log_{10}(\alpha_{R} \cdot t_{R}) + 3.31803 \times 10 \right\}\\ &\quad = 2.67947 \times 10^{4} + 1.40580 \times 10^{4}\log_{10}\sigma \\&\qquad- 5.46172 \times 10^{3}(\log_{10}\sigma)^{2} \end{align} | (2) |
ここで,Tkは温度(K),σは応力(Pa)で,αRは安全裕度を設定するパラメータで1の時測定データの平均値となり,本解析では,αR = 1とした。ただし,(2)式の適用範囲は,応力σが19.36 MPa以上である。
(2)式を変形すると以下のとおりとなる。
\begin{align} &t_{R} = \exp \bigg(\frac{2.67947 \times 10^{4} \cdot \ln 10}{T_{k}} + \frac{1.40580 \times 10^{4}}{T_{k}}\ln (\sigma) \\&\qquad- \frac{5.46172 \times 10^{3}}{T_{k} \cdot \ln 10}(\ln (\sigma))^{2} - 33.1803 \cdot \ln 10\bigg) \end{align} | (3) |
ふるまい解析では応力19.36 MPa未満での被覆管の破断時間も計算する必要があるが,(3)式によると応力が19.36 MPaのときに破断時間は最大値を示す,すなわち,応力が19.36 MPaよりも大きくなる条件でも小さくなる条件でも破断時間は短くなる。しかし,被覆管のクリープ破断は応力が大きくなるにつれて早く進む,すなわち応力が小さくなると破断に至る時間は長くなることから,σ < 19.36 MPaのときは破断時間を過小評価してしまっていることになる。そのため,σ < 19.36 MPaの範囲では破断時間はσ = 19.36 MPaのときの値で一定値とした。本解析で適用した被覆管のクリープ破断時間tRを応力σに対しプロットした図をFig. 2に示す。
Modified creep rupture time of T91 cladding at 573, 673, 773, and 873 K as a function of stress
Figures 3,4に照射中における窒化物燃料の中心温度の軸方向分布と径方向分布の解析結果を示す。
Axial pellet center temperature distribution at irradiation time, 0, 1, and 2 year
Radial fuel temperature distribution at axial position 550 mm at irradiation time, 0, 1, and 2 year
照射2年間における燃料ペレットの中心温度は,冷却材入口に一番近い燃料最下部の位置(燃料ペレット部分軸方向位置50 mm)で最小932 K,燃料中央部分(燃料ペレット部分軸方向位置550 mm)最大1,393 Kであった。また,燃料の最上部と最下部で線出力は同じであるが冷却材が下部から上部方向に流れているため,最下部に比べ最上部の方が温度は高くなる傾向がみられた。さらに,燃料ペレットの径方向の温度分布では,最大温度となる燃料ペレット軸方向位置550 mmでのペレット中心温度とペレット表面温度の温度差は最大513 Kであった。Fig. 4より照射1年後(平均燃焼度84 GWd/t-TRU),2年後(平均燃焼度168 GWd/t-TRU)の燃料ペレット中心と表面の温度差が未照射(照射0年,平均燃焼度0 GWd/t-TRU)の温度差に比べて拡大している。これは,照射に伴うギャップの狭窄,閉塞によってペレットの外周付近の温度は低下するが,照射に伴ってペレットの熱伝導率は低下するため,ペレット中心付近での温度低下は抑制されることによるものであると推定される。
Figure 5に燃料ペレット-被覆管間のギャップ幅(= 直径ギャップ/2)の燃料ペレット軸方向分布を,Fig. 6に燃料ペレット軸方向位置550 mmでの燃料ペレット-被覆管間のギャップ幅を,Fig. 7に燃料ペレット-被覆管接触応力と被覆管外面周方向応力の経時変化の解析結果を示す。
Radial distribution of Gap width between nitride fuel pellet and T91 cladding
Gap width between nitride fuel pellet and T91 cladding at axial position 550 mm as a function of irradiation time
Contact pressure between nitride fuel pellet and T91 cladding and cladding outer hoop stress at axial position 550 mm as a function of irradiation time
照射後1.2~1.4年においてギャップの閉塞に伴いPCMIが始まっている。ギャップの閉塞は照射に伴う燃料スエリングによるものであるが,被覆管スエリングが潜伏期間を終えて発生すると被覆管スエリングによって接触圧力の増加が抑制されて5 MPa程度で一定になっている。これに対して,被覆管外面周方向応力は接触圧力が一定になっても被覆管の内外面の温度差によって被覆管内面のスエリングひずみ増加率が被覆管外面のスエリングひずみ増加率を上回っているため,被覆管外面の周方向応力増加が継続している。
冷却後の燃料棒軸方向の周方向平均塑性ひずみの解析結果をFig. 8に示す。本解析では被覆管の周方向平均塑性ひずみは,平均周方向クリープひずみと平均塑性ひずみと平均スエリングひずみの和で表す。また,軽水炉燃料では周方向平均塑性ひずみの評価は燃料取り出し時,すなわち照射後冷却した状態で評価するため,解析ステップに冷却ステップを追加している。
Axial distribution of averaged Hoop plastic strain of T91 cladding after cooling
周方向平均塑性ひずみは,燃料ペレット軸方向位置550 mmで最大0.38%であった。T91鋼のように応力-ひずみ曲線で明確に降伏点が観察できない材料では,0.2%オフセット耐力をその材料の降伏点とみなすことが多い。未照射の被覆管材T91鋼の0.2%オフセット耐力σy(MPa)は温度T(°C)を用いて以下の式で表される24)。
\begin{align} \sigma_{y} &= - 3.08878 \times 10^{ - 6}T^{3} + 2.25543 \times 10^{ - 3}T^{2}\\ &\quad - 6.28569 \times 10^{ - 1}T + 5.04801 \times 10^{2} \end{align} | (4) |
また,本解析では被覆管応力は周方向応力とする。照射期間2年における被覆管応力の解析結果をFig. 9に示す。
Axial distribution of hoop stress at outer surface of T91 cladding at irradiation time, 2 year, together with its 0.2% offset yield strength
解析による照射末期(2年)で被覆管応力は,燃料ペレット軸方向位置450 mm,被覆管最外部で最大244 MPa (T = 685 K)をとり,(4)式から算出される0.2%オフセット耐力413 MPaより小さいため,照射期間中に被覆管は降伏しないと予測できる。一方,被覆管応力は照射が進むにつれて大きくなっていくが,保守的に考えて被覆管応力の最大値244 MPaが照射期間中かかっていたと仮定すると,2年で被覆管がクリープ破断する温度は(3)式より781 Kと算出される。本計算では,被覆管応力が照射中に最大となる燃料ペレット軸方向位置450 mmでの被覆管最外部の最高温度は690 Kであり,クリープ破断する温度より低い温度で維持されていた,すなわち,本解析で用いた冷却材入口温度および流量の条件は,被覆管温度がクリープ破断する温度を超えないという条件を満たすことが示された。
照射末期(2年)における燃料ペレット軸方向位置550 mmでの寿命分数和の解析結果をFig. 10に示す。
Radial distribution of life fraction for creep rupture of T91 cladding at axial position 550 mm
クリープ寿命分数和は被覆管外周部で最大で1.7 × 10−7であり,これは被覆管温度が低くほとんどクリープしないためクリープ破断時間が長くなっているためであると考えられる。この結果から,照射期間中に被覆管のクリープ破断は起こらないと予測できる。
燃料棒内は,照射が進むにつれて核分裂により生成する核分裂生成(FP)ガスとα壊変により生成するHeガスがペレット外に放出されること,および燃料棒内の温度が上昇することにより内圧が上昇していく。生成したHeガスのペレット外への放出率を100%とした本解析における照射末期(2年)での燃料棒内圧は4.9 MPaであった。HFRの照射試験15)では,燃料中心最高温度が1,600 KでHe放出率が50%以上と見積もられており,今回の解析における燃料中央部分の最高温度1,393 Kより高いことから,ADS用窒化物燃料がMAを含有していることを鑑みても実際のHeガスの放出率は今回の設定値(100%)より低い,すなわち燃料棒内圧は今回の解析結果より低くなる可能性が示唆される。
一方,照射下において,熱クリープが発生しないような応力下でも,照射によって誘起される照射誘起クリープによりクリープ変形が促進されひずみが増大する可能性もある。さらに,被覆管材料のT91鋼は,照射により延性脆性遷移温度(DBTT)が上昇することが知られており32),照射中に被覆管の材料特性が延性から脆性に変化してしまうと被覆管破損が起こる可能性が出てくる。よって,上記のような照射下での燃料材料の物性を把握することが,今後特に重要である。また,Pb-Bi冷却材中の酸素濃度上昇による被覆管表面の酸化,およびその後の酸素濃度低下による被覆管表面酸化膜の冷却材中への溶解による被覆管の減肉現象が知られている31)。被覆管の減肉,すなわち被覆管厚さの減少は被覆管の材料強度の減少につながるため,冷却材中の酸素濃度による被覆管の腐食現象はADS用窒化物燃料のふるまい解析をする上で重要な要因の1つである。本解析モジュールでは,T91鋼被覆管のPb-Bi冷却材による腐食のみを考慮し酸化膜消失後の被覆管の減肉現象は考慮していないため,被覆管の減肉モデルを構築し窒化物燃料ふるまい解析モジュールに導入する必要がある。
ADS用窒化物燃料の設計や照射中の燃料ふるまいの理解のために開発した窒化物燃料ふるまい解析モジュールを用いて,窒化物燃料のPCMIに関係する熱機械特性のうち被覆管応力による被覆管の周方向平均塑性ひずみ,被覆管応力,被覆管クリープ寿命分数和,燃料棒内圧に着目してふるまい解析を実施した。
PCMIは照射後1.2~1.4年においてギャップの閉塞に伴い始まっており,その後被覆管外面の周方向応力増加は継続していた。その被覆管応力による被覆管の周方向平均塑性ひずみは最大で0.38%であった。また,被覆管応力は最大244 MPaでありT91鋼の0.2%オフセット耐力より小さかったことから照射期間中にT91鋼は降伏しない,被覆管クリープ寿命分数和は最大で1.7 × 10−7で1未満であったことから照射期間中にT91鋼はクリープ破断しない,と推定される。一方,He放出率を100%と仮定した本解析では燃料棒の内圧は4.9 MPaと算出されたが,燃料中心温度が高いHFRの照射試験15)においてもHe放出率は低い値(50%以上)が報告されていることから,燃料棒内圧は本解析結果より低くなると考えられる。
さらに精密な解析を行うためには,窒化物燃料ペレットやT91鋼被覆管のクリープやスエリングなどの機械特性データや,窒化物燃料の照射挙動データの拡充,Pb-Bi冷却材中の酸素濃度低下による被覆管の減肉モデルの構築が必要である。現在,JAEAでは窒化物燃料の照射挙動データ取得の一環として,高速実験炉「常陽」によるUフリーの窒化物燃料の照射試験を計画中であり,その照射用燃料ピンの設計に開発を進めている窒化物燃料ふるまい解析モジュールを活用することが期待されている。そのため,既報の常陽での(U,Pu)N窒化物燃料の照射試験データ33~36)を活用しV&Vを行っていく予定である。