2024 Volume 23 Issue 4 Pages 118-129
Reinforced concrete is generally used as a shielding wall for radiation facilities where γ- and X-rays are generated. The shielding effect should be varied by changing the diameter and pitch (spacing) of the reinforcing bars (rebars) in the reinforced concrete, as well as the radiation energy. We simulated the leakage radiation dose from the concrete with and without rebars. The radiation was consisted of γ- and X-rays emitted from a plane source. The shielding effect was evaluated by the ratio (decrease ratio) of the leakage radiation dose of the reinforced concrete to the dose of the concrete without rebars. The decrease ratio decreased linearly as the diameter of the rebars increased and increased exponentially as the γ-ray energy increased.
RI規制法の対象となる放射線施設は,使用施設,詰替施設,貯蔵施設,廃棄施設などがある。原子炉規制法の対象となる施設は,原子力発電所,核燃料製造・再処理施設などがある。これらのほとんどの放射線施設で遮蔽対象となる放射線は,中性子,ガンマ線とX線である。中性子が主体の原子炉や核融合炉,陽子などの荷電粒子が主体の加速器施設を除けば,これらの放射線施設の多くは,ガンマ線とX線を主な遮蔽対象とする施設である。ガンマ線とX線は,放射性同位元素(Radioactive Isotope; RI)の壊変,電子線加速器による核反応と制動放射,熱電子による制動放射,電子光子相互作用,中性子の核反応による二次ガンマ線などにより生成される。多くの放射線施設は,放射線源の周囲を厚いコンクリート壁で取り囲むことで透過する放射線の遮蔽を行い,遮蔽壁から漏えいする放射線の実効線量を法令による規制値以下にしている。
遮蔽壁の機能をもつ厚いコンクリート壁は,放射線源の濃度または強度と運用条件により必要な厚さが数十から数百cmの範囲で変化するが,通常は構造的な強度が必要とされるため鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete; RC)で施工される。鉄筋コンクリートは,圧縮には強いが引張りには弱いコンクリートの特性を補強するために鉄筋(reinforcing bar; rebar)を内部に配したものであり,引張りにより鉄筋がコンクリートから容易に引き抜けないように鉄筋は加工されている(Fig. 1参照)。鉄筋コンクリート中に鉄筋を配置することを配筋といい,建物の構造設計計算により鉄筋の直径と配筋ピッチ(間隔;pitchまたはspacing)などが決められる。
Picture for the reinforcing bars and reinforced concrete
厚い遮蔽壁は鉄筋コンクリートであるため内部に鉄筋を含むが,遮蔽壁からの漏えい線量の計算においては鉄筋を含めずに,コンクリートの密度だけかまたは密度と元素組成を用いて遮蔽計算が実施されている。鉄筋を含めない理由としては,鉄筋を含まない方が漏えい線量を安全側に評価できる,配筋を正確に計算モデルに組み込むことができない,鉄筋の位置と存在量は局所的であり全体からみれば影響度は限定される,遮蔽設計段階では配筋の詳細が決まっていないため不確定な要素を排除してコンクリートの壁厚のみを評価する,設計変更や配筋は施工上の取り合いによりmm単位の正確な位置が施工後でなければ確定しないこと,などが挙げられる。また,遮蔽計算で鉄筋とコンクリートを均質化した領域と物質を設定することは,実際の鉄筋が局所的に配置されるために適切な均質条件が存在しないので困難である。鉄筋コンクリートの漏えい線量に対する鉄筋の影響は,中性子入射の離散座標(Sn)法の輸送計算による鉄筋近傍の局所的または鉄筋成分をコンクリートで均質化した研究に留まっており1),定量的に評価した研究がこれまでなかった。
3次元モンテカルロ輸送計算は,鉄筋を実規模で精密にモデル化した複雑形状を取り扱えるため,鉄筋の遮蔽効果を精緻に評価することが可能である。しかし,遮蔽壁の全長に応じて数百本から数千本の鉄筋の幾何形状を個別に定義する必要があることから,計算コストの大幅な増加となるため評価は行われていない。これらの状況を踏まえて,鉄筋による漏えい線量の減少が見込めるガンマ線とX線に対する遮蔽効果を評価対象とし,鉄筋はコンクリート全体からみれば局所的な配置であるため,鉄筋と線源の位置関係が影響しない面線源に限定して評価を行った。
鉄筋は,鋼を圧延して表面に節(リブ)と呼ばれる凹凸の突起を付けた棒状の鋼材(棒鋼)である異形棒鋼(異形鉄筋;Fig. 1参照)と表面が滑らかな棒状の丸鋼の2種類がある。現在の建設工事用途の鉄筋コンクリートで使用する鉄筋は,引抜き抵抗力が強く加工が簡易な異形鉄筋が大部分を占めるため,異形鉄筋のみを対象とする。鉄筋はJIS G 3112「鉄筋コンクリート用棒鋼」として規定されている。異形鉄筋の呼び名と公称直径などをTable 1に示し,形状の模式図をFig. 2に示す(図中の青色と青灰色は異形鉄筋を構成する同一の物質)。このJIS規格の中で5種類の異形棒鋼の化学成分も規定されているが,基本的に炭素鋼である。異形棒鋼は,鉄以外の含有元素(C,Si,Mn,P,S)を合計した含有量の最大値が2.42~2.75 wt%であるため,鉄は最小値でも97.25~97.58 wt%となるので遮蔽材料としては純度が高い鉄とみなすことができる。さらに鉄以外の含有元素の6割以上を占めるMnの最大値は1.5~1.8 wt%であるため,ガンマ線とX線の相互作用の観点からは鉄に隣接する原子番号をもつMnを鉄相当とみなせるので,鉄が99 wt%以上に相当すると考えられるため,鉄筋は鉄100 wt%として取り扱う。
Metric bar size | Nominal diameter, d (mm) |
Nominal area, S (cm2) |
Maximum height of knot, h (mm) |
Pitch of knot, p (mm) |
---|---|---|---|---|
D16 | 15.9 | 1.99 | 1.4 | 11.1 |
D19 | 19.1 | 2.87 | 2.0 | 13.4 |
D22 | 22.2 | 3.87 | 2.2 | 15.5 |
D25 | 25.4 | 5.07 | 2.6 | 17.8 |
D29 | 28.6 | 6.42 | 2.8 | 20.0 |
D32 | 31.8 | 7.94 | 3.2 | 22.3 |
D35 | 34.9 | 9.57 | 3.4 | 24.4 |
D38 | 38.1 | 11.4 | 3.8 | 26.7 |
D41 | 41.3 | 13.4 | 4.2 | 28.9 |
D51 | 50.8 | 20.27 | 5.0 | 35.6 |
Schematic view of the reinforcing bar
異形鉄筋の節(knot)とリブ(rib)の高さは,Table 1に示したように公称直径の約10%である。節とリブの詳細形状は,異形鉄筋のメーカーごとに異なっており細部に違いがある。節とリブの形状を計算モデルに取り入れるには,1本の鉄筋の長さ1 m辺り約30~100個の節を取り付ける必要があるため,鉄筋の本数とあわせると膨大な数になるので現実には実施できない。また,節とリブの鉄筋の体積中に占める割合は,10%以下であり大きくない。これらを考慮して遮蔽計算で漏えい線量を過小評価しないようにするため,節とリブを計算モデルには含めない。したがって,異形鉄筋は公称直径をそのまま直径とする円柱形状でモデル化する(丸鋼と同じ形状になる)。
放射線施設の遮蔽壁は,数十から数百cmの厚さの鉄筋コンクリートである。例えば医療用リニアック室であれば,照射室壁で100~300 cmの厚さ,迷路壁で50~150 cmの厚さで一般に施工されている(この遮蔽壁の厚さはリニアックのX線照射エネルギー,最大使用線量や利用線錐方向などで決まる)。通常,これらの遮蔽壁に使用される鉄筋はTable 1に示したD19以上の直径をもつものとなる。使用される代表的な鉄筋径は,リニアック室がD22,ガンマ線滅菌施設がD29,原子炉の生体遮蔽壁がD35とD38などである。鉄筋の使用状況を踏まえて遮蔽壁の鉄筋径はD19~D41を評価対象とし,その中から詳細な評価を行う鉄筋径としてD22,D29とD41の3種類を選定した。
遮蔽壁の鉄筋コンクリート中の鉄筋は,垂直方向の縦筋と水平方向の横筋が格子状に組み上げられ,交差する位置で結束線(針金)により両方を襷掛けに縛って固定されている。構造設計で指定されなければ縦筋と横筋が交差する内外関係はどちらでもよいが,地下外壁などではFig. 1のように縦筋が外側(表面側)に配置されて横筋が内側(壁の中心側)に取り付けられるため,鉄筋径分の段差が存在する。鉄筋の計算モデルでは,段差構造によるモデル形状の複雑さを回避するため,段差なしの同一平面上に鉄筋が直交する正方格子で配置されているものとして取り扱う。したがって,縦筋と横筋は直交した公称直径の円柱形状でモデル化する。鉄筋を格子状に配筋する場合には均等間隔で鉄筋を割り付けることになり,この均等な間隔をピッチ(pitchまたはspacing)と呼ぶ。ピッチは鉄筋の芯々間の距離である。鉄筋のピッチの最小値は,日本建築学会の鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説第6版2)において以下の3つの条件により規定されている:呼び径の1.5倍+最外径,粗骨材最大寸法の1.25倍+最外径,25 mm+最外径。土木学会のコンクリート標準示方書(設計編)3)では,ピッチは300 mm以下と規定されている。したがって,鉄筋のピッチは最小値から300 mmの範囲内となり(最小値はD22で59 mm,D29で76 mm,D41で108 mm),構造計算により決定される。実際には施工上の問題によりピッチは100,150,200,250,300 mmのように大きめの切りのよい数字が設定され,壁やスラブでは200 mmが標準的なピッチであるため200 mmでモデル化する。ピッチが小さくなれば鉄筋の総量が増加するため漏えい線量も小さくなると考えられる。
鉄筋コンクリートにおいて,コンクリート表面から鉄筋の表面までの距離が「被り厚さ」である。被り厚さは,鉄筋の腐食による強度低下などを防ぐためのものであり,建築基準法では20 mm以上,日本建築学会の鉄筋コンクリート工事標準仕様書4)では30 mm以上と規定され,適用部位により被り厚さの最小値が異なる。主筋にD29以上を使用する場合には,付着割裂破壊防護のために主筋の被り厚さを径の1.5倍以上確保する規定となっている(D29の場合,2.86 × 1.5 = 4.29 cm)。ガンマ線の遮蔽効果の評価では鉄筋コンクリートの被り厚さが異なることによる影響を避けるために,被り厚さは50 mmに固定した計算モデルとする。ただし,被り厚さによる影響の有無を確認するためD29に対してのみ40と80 mmも実施し比較する。
鉄筋コンクリートにおいて,鉄筋によるガンマ線とX線に対する遮蔽効果を評価するために,3次元モンテカルロ輸送計算を実施して鉄筋コンクリートの内部を透過するガンマ線エネルギースペクトルの空間分布を求めた。3次元モンテカルロ計算コードはMCNP5を使用し5),光子相互作用断面積ライブラリはMCPLIB84を使用し6),空間分布を評価するためにメッシュタリーを使用した(1メッシュの直方体サイズはD19の鉄筋径を考慮して2 × 2.5 × 2 cm3とし,コンクリートの厚さ方向を2.5 cm間隔とした。メッシュタリーの正方形の平面範囲は180 × 180 cm2であり,平面のメッシュ数は90 × 90個である)。タリーする光子エネルギー群構造は,VITAMIN-Jの42群構造7)をベースとしているが,8~10 MeVの1群を0.5 MeV間隔の4群に変更したものを使用した。
鉄筋による遮蔽効果を評価するために使用した計算モデルをFig. 3に示す。遮蔽壁で最も多用されている鉄筋コンクリートの表側(front side)と裏側(back side)に1段ずつ鉄筋が配置されるダブル構造とする。上述したように鉄筋の被り厚さは5 cmであり,鉄筋は円柱の縦筋と横筋が直交した20 cmピッチの格子形状で基準体系をモデル化した。鉄筋コンクリートの正方形の平面(X-Z方向)サイズは,メッシュタリーよりも大きい200 × 200 cm2とした。鉄筋コンクリートの厚さは,ガンマ線に対する遮蔽壁としての使用状況を踏まえた80,100,150,200 cmの4種類とし,厚さ方向をY軸とした。コンクリートの密度は,国内の遮蔽設計の推奨値である2.1 g/cm3としたが,密度による影響を確認するために2.2と2.3 g/cm3の比較計算も実施した。Table 2に示したコンクリートの元素組成は,アメリカ国立標準局の普通コンクリートNBS 04を使用した8)。この組成は気乾状態の水分量を含みSi系骨材を主体としている。鉄筋コンクリートから外側に漏えいするガンマ線は,裏側表面の空気層(2.5 cm厚)のメッシュタリーで評価した。漏えいするガンマ線の線量は,メッシュタリーの計算値を元にFig. 4に示した4種類の正方形サイズの平面タリーとして評価した。3種類の平面タリーは,鉄筋コンクリートの計算モデルの中心軸を中心点とし,サイズは100 × 100,20 × 20,4 × 4 cm2である(この中心点は縦筋と横筋の交差位置でもある)。もう1つの平面タリーは,中心軸からX-Z方向ともに4 cmずれた位置を中心とする4 × 4 cm2のサイズである(縦筋と横筋の交差位置から外れた位置であり,“4 × 4 off”と表記する)。20 × 20 cm2平面タリーによる実効線量の統計精度が1%以下となるように,MCNP5計算のガンマ線線源粒子数は調整した。
Geometry for calculation of the shielding effect by rebars in the reinforced concrete
Elemental | Atomic number | Weight fraction |
---|---|---|
H | 1 | 0.005558 |
O | 8 | 0.498076 |
Na | 11 | 0.017101 |
Mg | 12 | 0.002565 |
Al | 13 | 0.045746 |
Si | 14 | 0.315092 |
S | 16 | 0.001283 |
K | 19 | 0.019239 |
Ca | 20 | 0.082941 |
Fe | 26 | 0.012398 |
Configuration of the plane source and tally sizes for calculation of the shielding effect by rebars in the reinforced concrete
ガンマ線が発生する面線源は,鉄筋コンクリートの表側表面から100 cm離れた空気中に設置した(Fig. 3参照)。正方形の面線源のサイズは,鉄筋コンクリートの平面サイズよりも少し小さい190 × 190 cm2を標準とした(Fig. 4参照)。面線源サイズによる影響を確認するために10個の異なるサイズでの比較計算も実施した。線源位置は正方形の面上で一様にサンプリングされ,発生するガンマ線の放出角度はRIの壊変を想定して等方とした。この等方性による影響も評価するため,鉄筋コンクリートの表側表面に垂直入射する平行ビームの場合との比較計算も実施した。面線源のガンマ線エネルギーは,基本的に単色のエネルギーとして以下の5種類を使用した:① 300 keV,② 661.7 keV(Cs-137),③ 1.1732 & 1.3325 MeV(Co-60),④ 2.5 MeV,⑤ 10 MeV。①の300 keVは,これより低いエネルギーでは光電効果により厚い遮蔽壁を透過できる割合が大きく減るため,X線エネルギーの代表値と考えた。②の661.7 keVは,Cs-137のベータ壊変のガンマ線エネルギーであり,500~1,000 keVの範囲における壊変によるガンマ線の代表値と考えた。③の1.1732 & 1.3325 MeVは,Co-60のベータ壊変のガンマ線エネルギー(平均エネルギー1.25 MeV)であり,1 MeVを超える壊変によるガンマ線の代表値と考えた。④の2.5 MeVは,放射性核種の壊変によるガンマ線エネルギーの高エネルギー値を代表すると考えた。⑤の10 MeVは,国内の医療用リニアック装置の大部分を占める10 MeVの電子線エネルギーにおける制動放射線エネルギーの最大値と考えた。
MCNP5計算のタリーで得られたガンマ線エネルギースペクトルは,線量換算係数9)を掛けて実効線量として評価した。鉄筋コンクリート中の鉄筋によるガンマ線の遮蔽効果は,鉄筋の入っていないコンクリートのみのケースの実効線量を基準とし,鉄筋入りコンクリートのケースとの比を取ることで評価を行った。この相対比は,鉄筋コンクリート中の鉄筋による影響のみに限定されるため,鉄筋の遮蔽効果として実用的な値となる。
Figure 3の計算モデルで1 GBqのCo-60ガンマ線源のMCNP5計算により得られた鉄筋なし(No rebar)と鉄筋径D29(Rebar D29)による厚さ100 cmの鉄筋コンクリート内におけるガンマ線の実効線量率分布のコンター図をFig. 5に示す。図の上段の横軸は面線源からの距離(Y方向)であり,100 cm厚のコンクリートはY = 100~200 cmの範囲となっており,その前後は空気である。その縦軸は垂直方向(Z方向)の距離である。上段図中の白線の等高線は線量率の桁区切り,赤線は1 µSv/hを表し,コンターの配色範囲は10−7~102 µSv/hとなっており,黒色の垂線はY方向のコンクリート表面位置と鉄筋が存在する範囲の目安となるコンクリート表面から内側10 cmの位置を示している。上段図は100 cm厚の鉄筋コンクリート内の厚さ方向における線量率のコンター図である。上段左図の鉄筋なしのコンクリート線量透過率が表側表面から50 cm深さで1.456[µSv/h]/218[µSv/h] = 0.00668,50 cmから100 cm深さで0.0428/1.456 = 0.00294であるのに対して,Co-60ガンマ線の普通コンクリートの実効線量透過率の文献値10)は0.0243と1.52 × 10−4/0.0243 = 0.00626であり,計算値が等方線源でかつ文献値が安全側の値であることを考慮すると計算値は妥当な減衰傾向を示しているといえる。上段右図から表側のY = 105 cm付近にあるD29の鉄筋によって100 µSv/hの等高線が少し波打ちながら位置が表側(図の左側)に寄っていることがわかる(波打ち位置は20 cm間隔であり,横配筋のピッチに対応している)。Fig. 5の下段は裏側の鉄筋(Y = 195 cm付近)の背後位置におけるX-Z平面の線量率のコンター図であり,横軸は水平方向(X方向)の距離,縦軸は垂直方向(Z方向)の距離,コンターの配色範囲は10−3~10−1 µSv/hとなっている。下段左図の鉄筋なしでは中心から一様に拡がった分布であるが,右図はD29鉄筋位置の線量率が少し低くなって,格子状配置が明確にわかる分布となっているため局所的にも鉄筋によるガンマ線遮蔽効果があることがわかる。鉄筋コンクリートX-Z平面の上下左右の端部は,面線源のサイズの影響でガンマ線束が少ないため,線量率が中心付近よりも小さくなる。
Contour map of gamma-ray effective dose rates by no rebar and D29 in the reinforced concrete (100 cm-t) and at the behind of outer rebar for Co-60 gamma-ray plane source
Figure 3の計算モデルで1 GBqのCo-60ガンマ線源のMCNP5計算により得られた80,100,150と200 cm厚の鉄筋コンクリート(密度2.1 g/cm3)からの鉄筋なしと8種類の鉄筋径による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)をFig. 6に示す。図の横軸はコンクリートの透過厚さ[cm]であり,縦軸は漏えい線量率[µSv/h]である。赤線の鉄筋なしの線量率が最も高く,紫色の最も太い鉄筋径のD41が最も低い。漏えい線量率は,鉄筋コンクリート厚さが大きくなると右下がりになる指数関数であり,すべての鉄筋径でほぼ同じ傾きで減少することがわかる。
Gamma-ray effective dose rates by various rebars at outside of the reinforced concretes for Co-60 gamma-ray plane source
2.5 MeVガンマ線源のMCNP5計算により得られた4種類の鉄筋コンクリート厚さ80,100,150と200 cmにおける鉄筋なしに対する3種類の鉄筋径D22,D29とD41による漏えい線量(20 × 20 cm2平面タリー)の比をFig. 7に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比である。3種類の鉄筋径による4種類の鉄筋コンクリート厚における漏えい線量の鉄筋なしに対する比(減少比と以下で呼ぶ)は,線型でほぼ重なっており,コンクリート厚さによらず鉄筋径が大きくなると右下がりに減少するため,傾きが負の線型関数である。減少比が鉄筋径に比例して減少する線型性は,5種類のガンマ線エネルギーで共通している。ただし,減少比の絶対値と減少の傾きは,ガンマ線のエネルギーごとに違いがある。同一のガンマ線エネルギーであれば鉄筋コンクリートから漏えいする線量がコンクリート厚さに依存しない理由は,鉄筋の有無に関わらずコンクリートを透過したガンマ線の漏えい線量の減衰率がFig. 6のようにほぼ同じ傾きをもつためである。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes with 4 kinds of thicknesses for 2.5 MeV gamma-ray plane source
Co-60ガンマ線源を用いてコンクリート密度による影響を評価した。4種類の鉄筋コンクリート厚さ80,100,150と200 cmにおける鉄筋なしに対する3種類の鉄筋径D22,D29とD41による漏えい線量の比をコンクリート密度2.2と2.3 g/cm3で計算した。コンクリート密度2.3 g/cm3における鉄筋なしに対する比をFig. 8に示す。鉄筋によるガンマ線の漏えい線量は,密度と鉄筋コンクリート厚さを変えても鉄筋径が大きくなると比が右下がりに減少する傾きが負の線型関数であり,コンクリート密度2.1~2.3 g/cm3の範囲でその値と傾きは3%以内で一致している。したがって,鉄筋コンクリート厚さと密度は,鉄筋によるガンマ線の漏えい線量評価を減少比で行う場合には,その影響を無視できる。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes (2.3 g/cm3) with 4 kinds of thicknesses for Co-60 gamma-ray plane source
鉄筋コンクリートにおける鉄筋によるガンマ線の漏えい線量は,減少比で行う場合にはガンマ線エネルギーと鉄筋径を考慮すればよいことが上記の結果からわかる。5種類のガンマ線エネルギー(0.3,0.663,1.25,2.5,10 MeV)と3種類の鉄筋径によるガンマ線の漏えい線量の計算結果から,減少比は小数点以下3桁目を切り上げてTable 3のように評価した。評価した鉄筋径による減少比の分布図をFig. 9に示す。すべてのガンマ線エネルギーの減少比は,鉄筋径が大きくなると比が右下がりに減少するという傾きが負の線型関数であるが,エネルギーごとに絶対値と傾きが異なることがわかる。この減少比の評価値をもとに鉄筋径に対する線型関数フィット(y = M0 + M1*x,xは鉄筋の直径(mm単位),yは減少比)を行った。その係数MをTable 4に示す。5種類のガンマ線エネルギーで評価値と線型関数はよく一致しているため,D19~D41の鉄筋径における減少比を線型関数から求めることができる。
Gamma-ray energy (MeV) | D22 | D29 | D41 |
---|---|---|---|
0.300 | 0.73 | 0.63 | 0.45 |
0.6617 | 0.80 | 0.71 | 0.53 |
1.25 | 0.84 | 0.77 | 0.61 |
2.50 | 0.88 | 0.82 | 0.68 |
10.00 | 0.91 | 0.85 | 0.72 |
Evaluated ratios of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes for plane source with 5 kinds of gamma-ray energy
Coefficients | Gamma-ray energy [MeV] | ||||
---|---|---|---|---|---|
0.300 | 0.6617 | 1.25 | 2.50 | 10.0 | |
M0 | 1.0513 | 1.1141 | 1.1121 | 1.1172 | 1.1333 |
M1 | −0.014591 | −0.014141 | −0.012120 | −0.010549 | −0.0099884 |
5種類以外のガンマ線エネルギーの減少比は,3種類の鉄筋径D22,D29とD41に対してFig. 10に示すように指数関数フィット(y = m1 + m2*(1 − exp(−m3*x)),xはガンマ線エネルギー(MeV単位),yは減少比,係数mはTable 5に示す)により求めることができる。図の横軸はガンマ線エネルギー(MeV),縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比であり,評価値は破線,指数関数は実線である。ガンマ線エネルギーが4 MeV以上であれば減少比はほぼ一定値に収束しており,2 MeV以下では減少比がエネルギーにほぼ比例することがわかる。
Evaluated ratios (broken line) and the fitted exponential rise function (solid line) of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes for various gamma-ray energies
Coefficients | Rebar | ||
---|---|---|---|
D22 | D29 | D41 | |
m1 | 0.67244 | 0.55067 | 0.36522 |
m2 | 0.23205 | 0.2948 | 0.35282 |
m3 | 1.0582 | 1.1011 | 0.93531 |
ガンマ線面線源の場合に鉄筋コンクリートで使用されている鉄筋径がわかれば,この減少比を鉄筋なしの計算結果に適用することにより,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を取り入れることが可能となる。
3. 平面タリーと面線源のサイズの影響鉄筋コンクリートからの漏えい線量は,20 × 20 cm2の平面タリーサイズで評価し,鉄筋なしに対する比(減少比)を求めたが,この平面タリーのサイズが変化したときの減少比に与える影響度を確認した。ガンマ線エネルギーによってFig. 9のように減少比の絶対値は異なるが,負の傾きで減少する傾向は同じであるため,平面タリーサイズの影響の評価はCo-60線源(1.25 MeV)で代表する。Table 6にCo-60線源での鉄筋コンクリート厚さと鉄筋径による4種類の平面タリーサイズ(100 × 100 cm2,20 × 20 cm2,4 × 4 cm2,4 × 4 cm2 off)の減少比を示す。4 × 4 cm2の平面タリーは,裏側の縦筋と横筋の交差位置のすぐ背後となるため鉄筋によるガンマ線の遮蔽効果を強く受けて,減少比が20 × 20 cm2と比べて0.06~0.13程度小さくなる。4 × 4 cm2以外の3種類の平面タリーサイズは,減少比の差が最大でも0.03よりも小さくほぼ一致している。平面タリーの面積が大きい方が減少比の値も大きいため,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を小さく評価することになり安全側の評価となる。したがって,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を評価する上で,平面タリーのサイズとして20 × 20 cm2の使用は適切といえる。
Concrete thickness [cm] |
Plane tally size [cm2] |
D19 | D22 | D25 | D29 | D32 | D35 | D38 | D41 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
80 | 100 × 100 | 0.876 | 0.840 | 0.802 | 0.762 | 0.721 | 0.682 | 0.641 | 0.600 |
20 × 20 | 0.877 | 0.840 | 0.805 | 0.766 | 0.724 | 0.683 | 0.643 | 0.602 | |
4 × 4 | 0.816 | 0.768 | 0.718 | 0.672 | 0.622 | 0.572 | 0.524 | 0.483 | |
4 × 4 off | 0.861 | 0.832 | 0.791 | 0.751 | 0.704 | 0.662 | 0.619 | 0.577 | |
100 | 100 × 100 | 0.876 | 0.839 | 0.802 | 0.761 | 0.720 | 0.680 | 0.639 | 0.599 |
20 × 20 | 0.873 | 0.838 | 0.799 | 0.759 | 0.719 | 0.679 | 0.639 | 0.598 | |
4 × 4 | 0.797 | 0.755 | 0.710 | 0.660 | 0.611 | 0.559 | 0.518 | 0.471 | |
4 × 4 off | 0.867 | 0.839 | 0.803 | 0.752 | 0.710 | 0.670 | 0.627 | 0.581 | |
150 | 100 × 100 | 0.873 | 0.836 | 0.800 | 0.758 | 0.718 | 0.678 | 0.636 | 0.596 |
20 × 20 | 0.869 | 0.833 | 0.791 | 0.751 | 0.712 | 0.673 | 0.630 | 0.590 | |
4 × 4 | 0.803 | 0.747 | 0.692 | 0.641 | 0.586 | 0.549 | 0.504 | 0.459 | |
4 × 4 off | 0.855 | 0.830 | 0.777 | 0.728 | 0.696 | 0.655 | 0.610 | 0.568 | |
200 | 100 × 100 | 0.872 | 0.837 | 0.798 | 0.757 | 0.716 | 0.676 | 0.634 | 0.595 |
20 × 20 | 0.862 | 0.823 | 0.786 | 0.748 | 0.709 | 0.670 | 0.629 | 0.588 | |
4 × 4 | 0.804 | 0.734 | 0.695 | 0.648 | 0.594 | 0.544 | 0.494 | 0.461 | |
4 × 4 off | 0.868 | 0.807 | 0.781 | 0.751 | 0.699 | 0.670 | 0.620 | 0.574 |
Table 6から4 × 4 cm2と4 × 4 cm2 offの減少比には明確な差があり,鉄筋径が太くなるとその差が大きくなることがわかる。鉄筋コンクリートの外側で検出器によりガンマ線源からの漏えい線量を測定する場合に,検出器の有効面積が鉄筋径に近ければ,鉄筋位置による影響を受ける可能性があることを示している。そのような影響が想定される場合には,5 cm程度測定位置を変えて比較することで影響度を評価できる。
正方形の面線源のサイズが減少比に与える影響度を調べるために,標準とした190 × 190 cm2よりも小さいサイズにおける減少比を求めた。計算した面線源のサイズは,160 × 160,120 × 120,80 × 80,40 × 40,30 × 30,20 × 20,10 × 10,6 × 6,4 × 4,2 × 2 cm2の10種類であり,Co-60線源で鉄筋なしと鉄筋径D22の100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。D22の公称直径が2.22 cmであるため,2 × 2 cm2より小さい面線源は点線源と同等であると考えてて対象外とした。平面タリーサイズ20 × 20 cm2と4 × 4 cm2 offによる面線源サイズを変化させた場合の減少比をFig. 11に示す(赤色が20 × 20 cm2,青色が4 × 4 cm2 off)。図の横軸は正方形の面線源の1辺の長さ[cm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比である。2種類の平面タリーサイズの減少比は,Table 6と同様にほぼ一致しており,面線源サイズによらずほぼ一定値であることがわかる。40 × 40 cm2以上の面線源サイズの減少比は約0.84,30 × 30 cm2以下の減少比は約0.83であり,平面タリーサイズ20 × 20 cm2の減少比は0.83~0.84の範囲に収まっている。したがって,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果である減少比は,鉄筋径よりも大きければ面線源のサイズに依存しない。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various plane source sizes to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with D22 rebar for Co-60 gamma-ray source
面線源が正方形ではなく円形や四角形などである場合でも,鉄筋径の交差部よりも大きな線源面積であれば,正方形の条件で求めた鉄筋によるガンマ線遮蔽効果である減少比は鉄筋なしの計算結果に適用できる。
等方な角度分布をもつ面線源と鉄筋コンクリートの間の距離は100 cmに固定しているが,この距離が変化した場合に減少比に影響があるかを調べた。面線源のサイズ190 × 190 cm2とCo-60線源で,鉄筋なしと鉄筋径D22の100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。面線源と鉄筋コンクリートが近距離にある条件として,距離が10と50 cmの2ケースを実施した。遠距離では鉄筋コンクリートに到達するガンマ線は,垂直入射に近い角度分布が主体となるため,距離は100 cmから変えずに面線源で発生するガンマ線の角度分布が等方ではなく鉄筋コンクリート表面に垂直入射する平行ビーム(parallel beam)の1ケースを実施した。距離が10,50,100 cmと平行ビームにおける減少比の計算結果をFig. 12に示す。等方面線源で距離が100 cmよりも短くても減少比は変わらず,平行ビームでも等方と同等な減少比である。したがって,面線源までの距離とガンマ線放出の角度分布は減少比に影響しない。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by distances between plane source and concrete and parallel beam source to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with D22 rebar for Co-60 gamma-ray source
鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第2章で述べたように通常は100,150,200,250,300 mmのピッチ(pitchまたはspacing)で配筋されている。鉄筋ピッチが大きくなれば,単位面積当たりの鉄筋の存在量が減るため鉄筋によるガンマ線遮蔽効果は小さくなり,鉄筋コンクリートからの漏えい線量に対する減少比の数値は大きくなると考えられる。そのため,鉄筋コンクリート中の鉄筋ピッチと鉄筋径が減少比に与える影響を調べた。計算は,Co-60線源で鉄筋なしと8種類の鉄筋径を用いて5種類の鉄筋ピッチ100,150,200,250,300 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。鉄筋径D41は,最小配筋ピッチが100 mmを超えるため100 mmピッチは計算対象外とした。平面タリーサイズ20 × 20 cm2による鉄筋ピッチを変化させた場合の減少比をFigs. 13と14に示す。Fig. 13の横軸は鉄筋ピッチ[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比である。Fig. 14の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比である。これらの図には鉄筋径が太くなると減少比の値が小さくなる関係が明確に現れており,鉄筋ピッチが大きくなると減少比の値が大きくなる関係もわかる。D19~D41の鉄筋径の公称直径の増分は一定値(約3.2 mm)であり,対応する鉄筋径毎の減少比の変化も平行関係でありその変化量も一定と考えられる。鉄筋ピッチが100 mmにおける減少比の鉄筋径による変化量は0.056~0.063,150 mmでは0.043~0.049,200 mmでは0.035~0.040,250 mmでは0.031~0.037,300 mmでは0.030~0.036の範囲にあり,Fig. 14で鉄筋径に関して線型性があるようにみえるため一定の変化量といえる。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebar pitches to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with 8 kinds of rebars for Co-60 gamma-ray source
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebar diameters to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with 5 kinds of rebar pitches for Co-60 gamma-ray source
鉄筋ピッチを標準とした200 mmに対する鉄筋径と鉄筋ピッチごとの減少比の差分をTable 7に示す。実際に鉄筋コンクリートで使用される鉄筋ピッチと鉄筋径の減少比は,200 mmピッチにおける減少比にTable 7の減少比の差分を加算することによりに得られる。例えば,鉄筋径D29と150 mmピッチにおける減少比は,200 mmピッチではTable 3から0.77であり,150 mmピッチでの減少比の差分が−0.048であるため0.77 − 0.048 = 0.722となる。
Rebar pitch [mm] |
D19 | D22 | D25 | D29 | D32 | D35 | D38 | D41 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
100 | −0.104 | −0.128 | −0.154 | −0.176 | −0.197 | −0.213 | −0.230 | −0.597 |
150 | −0.025 | −0.033 | −0.041 | −0.048 | −0.057 | −0.063 | −0.070 | −0.076 |
250 | 0.017 | 0.021 | 0.025 | 0.029 | 0.034 | 0.036 | 0.039 | 0.042 |
300 | 0.024 | 0.029 | 0.036 | 0.043 | 0.049 | 0.054 | 0.060 | 0.064 |
鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第2章で述べたように縦筋と横筋が格子状に組み上げられ,地下外壁では縦筋が外側で横筋が内側に取り付けられるように,交差位置で鉄筋径分の段差が存在する。上述の鉄筋の計算モデルでは,交差位置で段差がない同一平面上に鉄筋が直交し正方格子で配置されているとしたが,実際に施工されている交差位置で段差がある分離交差が鉄筋コンクリートからの漏えい線量に対する減少比に与える影響を調べた。計算は,Co-60線源で鉄筋なしと分離交差(縦筋が外側で横筋が内側)した3種類の鉄筋径D22,D29とD41を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。平面タリーサイズ20 × 20 cm2による縦筋と横筋の交差状態(直交と分離交差)での減少比をFig. 15に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比,赤色の実線は直交した場合,青色の四角形は分離交差の場合である。D41の分離交差の減少比は直交よりも0.01程度小さい値となるので,太い鉄筋径のため鉄筋の段差による影響が少しみられるが,他の鉄筋径での直交と分離交差の差異は大きくない。そのため減少比の値が大きく安全側の評価となる直交モデルによる減少比を使用することは適切である。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with the orthogonally crossing model and the separated intersection model of vertical and horizontal rebars for Co-60 gamma-ray source
鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第2章で述べたように保護材としてコンクリートによる被り厚さが設けられている。上述の鉄筋の計算モデルでは被り厚さを50 mmに固定したが,被り厚さによる影響の有無を確認するため鉄筋径D29に対してのみ40と80 mmも計算し比較した。計算は,Co-60線源で鉄筋径D29を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。平面タリーサイズ20 × 20 cm2による被り厚さ(covering depth; cd)による減少比をFig. 16に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比,赤色の実線は被り厚さ50 mm,青色の四角形は40 mm,黄色の菱形は80 mmの場合である。D29の減少比は,計算した3種類の被り厚さで一致しており,被り厚さは減少比に影響しない。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by D29 rebar to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with covering depths for Co-60 gamma-ray source
鉄筋コンクリート中の鉄筋は,3次元モンテカルロ計算でダブル配筋の格子形状を忠実にモデル化したが,Sn輸送計算などで使用されるコンクリートと鉄筋を均質化した鉄筋コンクリート組成モデルによる影響を評価した。鉄筋コンクリート中のコンクリートと鉄筋の体積比率に基づいて均質化した組成を2種類作成した。2種類の組成は,Fig. 3に示した鉄筋コンクリート全体で均質化した組成とダブル配筋の存在する内側と外側の表層10 cm厚だけを均質化した組成であり,密度は鉄筋の体積分に応じて増加する。鉄筋の交差状態を考慮して,直交交差部分の鉄筋体積を減らした均質化組成も加えた合計4種類の均質化組成を作成した。計算は,Co-60線源で4種類の鉄筋径D22,D29,D35とD41を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。平面タリーサイズ20 × 20 cm2における鉄筋コンクリート組成均質化による減少比をFig. 17に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量の比,赤色の実線は均質化していない鉄筋格子形状モデル,青色の四角形と破線は縦筋と横筋を分離して鉄筋コンクリート全体で均質化した組成,緑色の菱形と長破線は縦筋と横筋を分離して表層10 cmで均質化した組成,紫色の丸形と破線は直交交差分を減らして鉄筋コンクリート全体で均質化した組成,橙色の三角形と長破線は直交交差分を減らして表層10 cmで均質化した組成の場合である。赤色の均質化していないモデルの鉄筋径に対する減少比と4種類の均質化組成による減少比を比較すると,絶対値と傾きが異なっていることがわかる。この原因は,体積割合としては多いコンクリートのみの領域を透過するガンマ線が,均質化により常に鉄筋の影響を受け続けることにあると考えられる。これは,鉄筋径が大きくなると均質化組成の減少比の値が小さくなるように傾くこと,均質化組成の鉄筋による密度が大きいと減少比の絶対値が小さくなることからわかる。鉄筋コンクリート全体で均質化するよりも表層10 cmで均質化した方が減少比の値は小さくなることは,鉄筋による均質化への寄与度が大きい程,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を過大評価することになるため注意が必要である。したがって,鉄筋コンクリートにおいて鉄筋とコンクリートを均質化した組成とすることは,ガンマ線の漏えい線量を過小評価する可能性があるため推奨されない。
Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) homogenized with orthogonal and separated crossing rebars for Co-60 gamma-ray source
ガンマ線とX線を主な遮蔽対象とする放射線施設の遮蔽壁として鉄筋コンクリートが一般に使用されているため,鉄筋コンクリート中の鉄筋による面線源のガンマ線とX線の漏えい線量に対する遮蔽効果を評価した。遮蔽効果は,鉄筋の存在する鉄筋コンクリートにおけるガンマ線の漏えい線量を鉄筋なしの漏えい線量で割った比(減少比)により評価した。面線源,鉄筋とコンクリートによる計算条件が減少比に与える影響や特性も以下のように個別に評価した:(1)8種類の鉄筋径(D19~D41)に対する減少比は負の傾きの線型関数となる,(2)5種類のガンマ線エネルギーに対する減少比は鉄筋径に関して負の傾きの線型関数でフィットでき,エネルギーが低い方が減少比の値が小さくなる,(3)5種類のガンマ線エネルギーに対する減少比はエネルギーに関して指数関数フィットできる,(4)鉄筋ピッチによる減少比は鉄筋径に関して負の傾きの線型関数であり,鉄筋ピッチが大きい方が減少比の値が大きくなる,(a)鉄筋コンクリート厚さとコンクリート密度は減少比に影響しない,(b)鉄筋径よりも大きい面線源のサイズによる減少比への影響は無視できる,(c)面線源と鉄筋コンクリート間の距離は減少比に影響しない,(d)面線源で発生するガンマ線の角度分布は減少比に影響しない,(e)鉄筋の交差状態(直交と分離交差)による減少比への影響は無視できる,(f)鉄筋コンクリートの被り厚さは減少比に影響しない,(g)鉄筋とコンクリートを均質化した組成は均質化しないものより減少比の値が小さくなり漏えい線量を過小評価する。これらの鉄筋による遮蔽効果は,減少比を使用することにより鉄筋に直接関係しない要素による影響を排除できている。鉄筋によるガンマ線の減少比を取り入れるためには(1)~(4)を考慮する必要があるが,(a)~(g)は無視または対象外とすることができる。面線源に関するこれらの特性は,体積線源の内部でガンマ線の顕著なエネルギー変化が起きない媒質(真空や空気など)の場合には,(c)と(d)から体積線源でも成り立つ。
(1)~(4)を考慮した上で適切に評価した減少比を使用すれば,ガンマ線またはX線の面線源をもつ放射線施設において,鉄筋コンクリートの鉄筋なしの遮蔽計算で漏えい線量を求めることにより,鉄筋コンクリートの鉄筋情報(鉄筋径と鉄筋ピッチ)に基づく減少比をその漏えい線量に掛けることで,鉄筋による遮蔽効果を取り入れた実効線量の評価が可能となった。また,鉄筋コンクリート中の鉄筋による漏えい線量は,面線源のガンマ線とX線に対して10%以上減少するため遮蔽効果があることが明確になった。鉄筋による遮蔽効果については,点線源や中性子線源についても検討する予定である。