日本原子力学会和文論文誌
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論文
鉄筋コンクリートにおける鉄筋のガンマ線遮蔽効果(点線源)
小迫 和明能任 琢真竹下 隼人
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2025 年 24 巻 1 号 p. 26-37

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Abstract

Reinforced concrete is generally used as a shielding wall for radiation facilities where gamma rays and X-rays are generated. The shielding effect should be varied by adjusting the diameter and pitch (spacing) of the reinforcing bars (rebars) in the reinforced concrete as well as the radiation energy. We simulated the leakage radiation dose from concrete with and without rebars. The radiation was confined to be gamma rays and X-rays emitted from a point source. The shielding effect was evaluated by the ratio (the decrease ratio) of the leakage radiation dose of reinforced concrete to the dose of concrete without rebars. The decrease ratio decreased linearly as the diameter of the rebars increased. The decrease ratio increased exponentially as the gamma-ray energies and the distance between the point source and the concrete increased.

I. はじめに

放射性同位元素等の規制に関する法律(RI規制法)の対象となる放射線施設は,使用施設,詰替施設,貯蔵施設,廃棄施設などがある。原子炉規制法の対象となる施設は,原子力発電所,核燃料製造・再処理施設などがある。これらのほとんどの放射線施設で遮蔽対象となる放射線は,中性子,ガンマ線とX線である。中性子が主体の原子炉や核融合炉,陽子などの荷電粒子が主体の加速器施設を除けば,これらの放射線施設の多くは,ガンマ線とX線を主な遮蔽対象とする施設である。ガンマ線とX線は,放射性同位元素(Radioactive Isotope; RI)の壊変,電子線加速器による核反応と制動放射,熱電子が電場で加速され陽極の原子核のクーロン力による軌道変化で放出される制動放射,電子光子相互作用,中性子の核反応による二次ガンマ線などにより生成される。多くの放射線施設は,放射線源の周囲を厚いコンクリート壁で取り囲むことで透過する放射線の遮蔽を行い,遮蔽壁から漏えいする放射線の実効線量を法令による規制値以下にしている。

遮蔽壁の機能をもつ厚いコンクリート壁は,放射線源の濃度または強度と運用条件により必要な厚さが数十から数百cmの範囲で変化するが,通常は構造的な強度が必要とされるため鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete; RC)で施工される。鉄筋コンクリートは,圧縮には強いが引張りには弱いコンクリートの特性を補強するために鉄筋(reinforcing bar; rebar)を内部に配したものである。厚い遮蔽壁は鉄筋コンクリートであるため内部に鉄筋を含むが,遮蔽壁からの漏えい線量の計算においては鉄筋を含めずに,コンクリートの密度だけかまたは密度と元素組成を用いて遮蔽計算が実施されている。鉄筋を含めない理由や遮蔽計算の状況は,面線源における鉄筋のガンマ線遮蔽効果1を参照されたい。

3次元モンテカルロ輸送計算は,鉄筋を実規模で精密にモデル化した複雑形状を取り扱えるため,鉄筋の遮蔽効果を精緻に評価することが可能である。しかし,遮蔽壁の全長に応じて数百本から数千本の鉄筋の幾何形状を個別に定義する必要があることから,計算コストの大幅な増加となるため評価は行われていない。これらの状況を踏まえて,今回は点線源において,鉄筋による漏えい線量の減少が見込めるガンマ線とX線に対する遮蔽効果を評価した。点線源は,鉄筋が遮蔽壁全体からみれば局所的な配置となるため,鉄筋と点線源の位置関係を考慮する必要があるので面線源とは区別した。

II. 鉄筋

鉄筋は,鋼を圧延して表面に節(リブ)と呼ばれる凹凸の突起を付けた棒状の鋼材(棒鋼)である異形鉄筋(異形棒鋼)が建設工事用途では大部分を占めるためこれを対象とする。鉄筋はJIS G 3112「鉄筋コンクリート用棒鋼」として規定されている。異形鉄筋の呼び名(D19~D51)と公称直径などをTable 1に示し,形状の模式図をFig. 1に示す(図中の青色と青灰色は異形鉄筋を構成する同一の物質)。鉄筋に関する説明と計算モデル化の詳細については,面線源に関する参考文献1を参照されたい。面線源における鉄筋の計算モデルと同様に,炭素鋼である鉄筋の組成は鉄100 wt%とし密度は7.8 g/cm3で取り扱い,異形鉄筋は公称直径をそのまま直径とする円柱形状でモデル化する。鉄筋の計算モデルでは,縦筋と横筋の段差構造によるモデル形状の複雑さを回避するため,段差なしの同一平面上に鉄筋が直交する正方格子で配置されているものとして取り扱う。鉄筋ピッチ(pitchまたはspacing)は,施工のし易さから100,150,200,250,300 mmのような切りのよい数字が実用上設定されるが,壁やスラブでは200 mmが標準的な鉄筋ピッチであるためこれを使用する。コンクリート表面から鉄筋の表面までの距離である被り厚さは,5 cmに固定するが,この影響の有無を確認するため鉄筋径D29に対してのみ4と8 cmも実施し比較する。

Table 1 List of the rebars used in Japan

Metric bar size Nominal diameter, d (mm) Nominal
area, S
(cm2)
Maximum height of
knot, h
(mm)
Pitch of
knot, p
(mm)
D16 15.9 1.99 1.4 11.1
D19 19.1 2.87 2.0 13.4
D22 22.2 3.87 2.2 15.5
D25 25.4 5.07 2.6 17.8
D29 28.6 6.42 2.8 20.0
D32 31.8 7.94 3.2 22.3
D35 34.9 9.57 3.4 24.4
D38 38.1 11.4 3.8 26.7
D41 41.3 13.4 4.2 28.9
D51 50.8 20.27 5.0 35.6
Fig. 1

Schematic view of the reinforcing bar

放射線施設の遮蔽壁は,数十から数百cmの厚さの鉄筋コンクリートである2,3。例えば医療用リニアック室であれば,照射室壁で100~300 cmの厚さ,迷路壁で50~150 cmの厚さで一般に施工されている(この遮蔽壁の厚さはリニアックのX線照射エネルギー,最大使用線量や利用線錐方向などで決まる)。通常,これらの厚い遮蔽壁に使用される鉄筋はD19以上の直径をもつものとなる。使用される代表的な鉄筋径は,リニアック室がD22,ガンマ線滅菌施設がD29,原子炉の生体遮蔽壁がD35とD38などである。鉄筋の使用状況を踏まえて遮蔽壁の鉄筋径はD19~D41を評価対象とし,その中から点線源で詳細な評価を行う鉄筋径としてD22,D29,D35とD41の4種類を選定した。

III. 計算方法

鉄筋コンクリートにおいて,鉄筋によるガンマ線とX線に対する遮蔽効果を評価するために,3次元モンテカルロ輸送計算を実施して鉄筋コンクリートの内部を透過するガンマ線エネルギースペクトルの空間分布を求めた。3次元モンテカルロ計算コードはMCNP5を使用し4,光子相互作用断面積ライブラリはMCPLIB84を使用し5,空間分布を評価するためにメッシュタリーを使用した(1メッシュの直方体サイズはD19の鉄筋径を考慮して2 × 2.5 × 2 cm3とし,コンクリートの厚さ方向を2.5 cm間隔とした。メッシュタリーの正方形の平面範囲は180 × 180 cm2であり,平面のメッシュ数は90 × 90個である)。タリーする光子エネルギー群構造は,VITAMIN-Jの42群構造6をベースとしているが,8~10 MeVの1群を0.5 MeV間隔の4群に変更したものを使用した。

点線源における鉄筋による遮蔽効果を評価するために使用した計算モデルをFig. 2に示す。遮蔽壁で最も多用されている鉄筋コンクリートの表側(front side)と裏側(back side)に1段ずつ鉄筋が配置されるダブル構造とする。上述したように鉄筋の被り厚さは5 cmであり,鉄筋は円柱の縦筋と横筋が直交した200 mmピッチの格子形状で基準体系をモデル化した。鉄筋コンクリートの正方形の平面(X-Z方向)サイズは,メッシュタリーよりも大きい200 × 200 cm2とした。鉄筋コンクリートの厚さは,面線源の結果に基づいて100 cmを基準とし,厚さ方向をY軸とした。コンクリートの密度は,面線源の結果に基づいて国内の遮蔽設計の推奨値である2.1 g/cm3とした。コンクリートの元素組成は,アメリカ国立標準局の普通コンクリートNBS 04を使用した7。この組成は気乾状態の水分量を含みSi系骨材を主体としている。鉄筋コンクリートから外側に漏えいするガンマ線は,裏側表面の空気層(2.5 cm厚)のメッシュタリーで評価した。漏えいするガンマ線の線量は,メッシュタリーの計算値をもとにFig. 3に示した4種類の正方形サイズの平面タリーにより評価した。2種類の平面タリーは,鉄筋コンクリートの計算モデルの中心軸を中心点(X = 0 cmとZ = 0 cm)とし,サイズは40 × 40(Fig. 3で黄緑色(a))と20 × 20 cm2(黄色(b))である(この中心点は縦筋と横筋の交差位置でもある)。平面タリーサイズ10 × 10 cm2(赤色(c))は,中心軸からXとZ方向ともに5 cmずれた位置を中心とする(20 × 20 cm2平面タリーの1/4象限に相当)。最後の平面タリーは,中心軸からXとZ方向ともに2 cmずれた位置を中心とする4 × 4 cm2(青色(d))のサイズである(縦筋と横筋の交差位置から外れた位置であり,“4 × 4 off”と表記する)。20 × 20 cm2平面タリーによる実効線量の統計精度が1%以下となるように,MCNP5計算のガンマ線の線源粒子数は調整した。

Fig. 2

Geometry for calculation of the shielding effect of point source by rebars in the reinforced concrete

Fig. 3

Configuration of the plane tally sizes for calculation of the shielding effect of point source by rebars in the reinforced concrete

ガンマ線が発生する点線源は,鉄筋コンクリートの表側表面からL[cm]離れた空気中に設置した(Fig. 2参照)。点線源と鉄筋コンクリートの距離Lは,1~200 cmの範囲で検討した。これは,Fig. 4に示したように距離Lにより点線源が見込む表側鉄筋の立体角が変化するため,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果に影響すると考えられるためである。点線源から鉄筋コンクリートに下した垂線上に鉄筋が存在するかどうかも影響する可能性がある。そのためFig. 5に示したように,点線源から鉄筋コンクリートへの垂線上に縦筋と横筋の交差位置(交点)がある場合(Fig. 5の左側の赤丸(1)と(3)),縦筋または横筋のどちらかの位置にある場合(Fig. 5の左側の赤丸(2)),鉄筋上にない場合(Fig. 5の右側の赤丸で鉄筋からの距離が1~15 cm)における比較計算を実施した。交点の赤丸(1)がFig. 3の平面タリーの中心点であるため,点線源からの垂線が赤丸(1)上にない場合には平面タリーの中心から外れていることになる。点線源から発生するガンマ線の放出角度はRIの壊変を想定して等方とした。点線源からの垂線上に鉄筋の交点がある場合に,点線源から交点の単一方向にペンシルビームが入射するケースも計算し等方分布との比較を実施した。点線源のガンマ線エネルギーは,面線源と同様に単色のエネルギーとして以下の5種類を使用した:① 300 keV,② 661.7 keV(Cs-137),③ 1.1732 & 1.3325 MeV(Co-60),④ 2.5 MeV,⑤ 10 MeV(医療用リニアック)。

Fig. 4

Relationship between a point source and the reinforced concrete to examine the shielding effect by reinforcing bar

Fig. 5

Relationship between point source positions and the rebar

MCNP5計算のタリーで得られたガンマ線エネルギースペクトルは,線量換算係数8を掛けて実効線量として評価した。鉄筋コンクリート中の鉄筋によるガンマ線の遮蔽効果は,鉄筋の入っていないコンクリートのみのケースの実効線量を基準とし,鉄筋入りコンクリートのケースとの比を取ることで評価を行った。この相対比は,同一の線源条件であれば鉄筋コンクリート中の鉄筋による影響のみに限定されるため,鉄筋の遮蔽効果として実用的な値となる。

IV. 計算結果

1. 鉄筋コンクリート内部の線量分布

Figure 2の計算モデルで1 GBqのCo-60ガンマ線源(点線源と鉄筋コンクリート表面の距離L = 100 cm)のMCNP5計算により得られた100 cm厚の鉄筋なしのコンクリート(No rebar)と鉄筋径D29(Rebar D29)の鉄筋コンクリート(コンクリート密度2.1 g/cm3)内におけるガンマ線の実効線量率分布のコンター図をFig. 6に示す。図の上段の横軸は100 cm離れた点線源からの距離(Y方向)であり,100 cm厚のコンクリートはY = 100~200 cmの範囲となっており,その前後は空気である。その縦軸は垂直方向(Z方向)の距離である。点線源は,その垂線上に縦筋と横筋の交点(Fig. 5の左側の赤丸(1))がある位置とする。上段図中の白線と紫線の等高線は線量率の桁区切り(白線は10 µSv/h以上,紫線は0.1 µSv/h以下),赤線は1 µSv/hを表し,コンターの配色範囲は10−7~102 µSv/hとなっており,黒色の縦実線はY方向のコンクリート表面位置と鉄筋が存在する範囲の目安となるコンクリート表面から内側10 cmの位置を示している。上段図は100 cm厚の鉄筋なしのコンクリートと鉄筋コンクリート内の厚さ方向における実効線量率のコンター図である。上段左図では滑らかな等高線となっているが,上段右図では表側のY = 105~108 cmにあるD29の鉄筋によって100 µSv/hの等高線が少し波打ちながら位置が表側(図の左側)に寄っていることがわかる(波打ちの位置は20 cm間隔であり,横配筋のピッチに対応している)。Fig. 6の下段は裏側の鉄筋(Y = 192~195 cm)の背後位置におけるX-Z平面の実効線量率のコンター図であり,横軸は水平方向(X方向)の距離,縦軸は垂直方向(Z方向)の距離,コンターの配色範囲は鉄筋による影響を強調するために10−3~10−1 µSv/hとなっている。下段左図の鉄筋なしでは中心から外側に向かって減少しながら拡がってゆくなだらかな分布であるが,右図はD29鉄筋位置の線量率が少し低くなり格子状配置が明確にわかる分布となっているため,局所的にも鉄筋によるガンマ線遮蔽効果があることがわかる。鉄筋コンクリートX-Z平面の上下左右の端部は,点線源からの距離が遠くコンクリート中の透過距離が長くなる影響でガンマ線束が少なくなるため,線量率が中心付近よりも小さくなる。

Fig. 6

Contour map of gamma-ray effective dose rates by no rebar and D29 in the reinforced concrete (100 cm-t) and at the behind of outer rebar for Co-60 gamma-ray point source with 100 cm distance from the surface of reinforced concrete

点線源とコンクリート表面の距離Lにより厚さ100 cmの鉄筋なしのコンクリート内におけるガンマ線の実効線量率分布のコンター図が変化する様子をFig. 7に示す(1 GBqで等方なCo-60ガンマ線源)。図の横軸はY = 100 cmのコンクリート表面からの距離(Y方向;コンクリートはY = 100~200 cmの範囲)であり,縦軸は垂直方向(Z方向)の距離である。点線源は,その垂線上に縦筋と横筋の交点がある位置(Z = 0 cm)とする。コンター図の配色と等高線はFig. 6と同じである(L = 100 cmはFig. 6の上段左図と同一)。点線源とコンクリート表面の距離が短いL = 10 cmは,同心円に近い半円の線量分布の減衰であるのに対して,距離が遠いL = 200 cmは面線源と同様のコンクリート表面に平行で平坦な線量分布の減衰になっていることがわかる。

Fig. 7

Contour map of gamma-ray effective dose rates by no rebar in the concrete (100 cm-t) for distances (L) from Co-60 gamma-ray point source to the surface of concrete

2. 鉄筋コンクリートから漏えいした線量

Figure 2の計算モデルで1 GBqのCo-60ガンマ線点線源のMCNP5計算により得られた80,100,150と200 cm厚の鉄筋コンクリート(密度2.1 g/cm3)における鉄筋なしに対する鉄筋径D22による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー(b))の比(減少比と以下で呼ぶ)をFig. 8に示す。図の横軸は点線源と鉄筋コンクリート(遮蔽壁)表面の距離L[cm]であり,縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー(b))の減少比である。点線源は,その垂線上に縦筋と横筋の交点がある位置とする。図中の青線と赤線の鉄筋コンクリート厚T = 80 cmと100 cm,黒線と緑線のT = 150 cmとT = 200 cmがそれぞれ近い分布傾向を示しているが,全体的には類似の分布傾向であり,距離L = 200 cmであれば厚さの影響は数%以内と小さくなっている。点線源と鉄筋コンクリート表面の距離Lが数十cm以下の減少比は,距離Lによる変化量が大きいが,50 cm以上であればほぼ一定に近い減少比となり,100 cm以上であれば一定値に収束する傾向が明確となっている。したがって,距離Lが100 cm以上で遮蔽壁の厚さとしてT = 100 cmの減少比を使用すれば,遮蔽壁の厚さによらず鉄筋によるガンマ線漏えい線量の減少を適切に評価できる。

Fig. 8

Ratio of gamma-ray effective dose rates by 4 kinds of reinforced concrete (wall) thickness and distances between point source and surface of reinforced concretes to no rebar at outside of the reinforced concretes for rebar D22 and Co-60 gamma-ray point source

Co-60ガンマ線点線源の鉄筋コンクリート厚さ100 cmで鉄筋径D22に対するコンクリート密度2.1と2.2 g/cm3による漏えい線量率の減少比をFig. 3の4種類の平面タリーで比較した。点線源と遮蔽壁表面の距離によらず1%以内の精度で4種類の平面タリーによる減少比は面線源と同様に一致している。

Co-60ガンマ線点線源のMCNP5計算により得られた鉄筋コンクリート厚さ100 cmにおける鉄筋なしに対する4種類の鉄筋径D22,D29,D35とD41による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)の減少比をFig. 9に示す。図の横軸は点線源と遮蔽壁表面の距離L[cm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比である。点線源は,その垂線上に縦筋と横筋の交点がある位置とする。4種類の鉄筋径による減少比は,点線源と遮蔽壁表面の距離に対して絶対値は異なるが同様の分布傾向を示し,距離が近ければ変化量の大きな曲線を描くが,遠くなればほぼ平坦となり一定値に収束する。L = 100 cm以上の減少比の絶対値は鉄筋径にほぼ比例し,4種類の鉄筋径間では約0.08の減少比幅となっている。鉄筋径ごとの公称直径の増分が3.2 mmに固定されているため,減少比の変動幅もそれに比例している。距離が短い場合は,鉄筋径の大きい方が減少比はより小さい値となる。

Fig. 9

Ratio of gamma-ray effective dose rates by 4 kinds of rebars and distances between point source and surface of reinforced concrete (wall) to no rebar at outside of the reinforced concretes for Co-60 gamma-ray point source

点線源からの垂線が鉄筋上の任意の位置にある場合にどのような影響を受けるかを調べるために,Fig. 5の左側に示した鉄筋上の3点の位置((1)~(3))上に点線源があるケースで比較計算を実施した。点線源距離Lは10,50,100 cmである。Co-60ガンマ線点線源のMCNP5計算により得られた鉄筋コンクリート厚さ100 cmにおける鉄筋なしに対する鉄筋径D22による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)の減少比をFig. 10に示す。点線源の位置は,その垂線上に縦筋と横筋の交点が平面タリーの中心にある位置(1)(赤線),横筋上の中間位置(2)(青線),交点が平面タリーの中心から鉄筋1本分隣り(20 cm外れた場所)にある交点位置(3)(黒線)の3点である。点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cmであれば,鉄筋上にある点線源の位置による減少比への影響はほとんどないため,距離Lが100 cm以上では点線源の鉄筋上の位置依存性は考えなくてよい。距離Lが50 cm以下では,点線源が交点上にある場合に比べて減少比の値が大きくは下がらず,距離Lが小さい程点線源の鉄筋上の位置依存性がみられる。点線源からの垂線が鉄筋上の任意の位置にある場合には,距離LによらずL = 100 cmの減少比を使用すれば漏えい線量を過小評価することはないといえる。

Fig. 10

Ratio of gamma-ray effective dose rates by distances between point source and surface of reinforced concrete (wall) to no rebar at outside of the reinforced concretes for rebar D22 and three positions of Co-60 gamma-ray point sources perpendicular to rebar

点線源からの垂線が鉄筋上の位置にない場合にどのような影響を受けるかを調べるために,Fig. 5の右側に示した8点の点線源位置で比較計算を実施した。鉄筋交点位置(1)を除く7点(offset位置)は,鉄筋ピッチ20 cmの鉄筋格子の対角線上に位置しており,10 cmの位置は対角線の交点になる。点線源距離Lは10,20,50,100,200 cmである。Co-60ガンマ線点線源のMCNP5計算により得られた鉄筋コンクリート厚さ100 cmにおける鉄筋なしに対する鉄筋径D22による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)の減少比をFig. 11に示す。点線源距離Lが100 cm以上であれば,減少比の値はほぼ収束しているため点線源と鉄筋の位置関係によらず減少比への影響は考えなくてよい。距離Lが100 cmよりも短い場合は,鉄筋の交点からどれだけ離れているかにより減少比は変化するが,offset 4 cm以内であれば鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を減少比の収束値とすることで安全側の評価ができる。この交点から外れた長さであるoffset 4 cmは,鉄筋径D22の公称直径の約2倍であり,Fig. 9の結果から減少比の収束値が安全側となるoffset長さは鉄筋径に比例すると考えられる。しかし,offset 5 cm以上の減少比は,距離Lが短ければ減少比の収束値よりも大きくなるため,この場合の収束値の使用は漏えい線量を過小評価することになる。したがって,点線源からの垂線と鉄筋の位置関係が不明確な場合には,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を取り入れるために点線源と遮蔽壁表面の距離Lを100 cm以上とする必要がある。

Fig. 11

Ratio of gamma-ray effective dose rates by distances between point source and surface of reinforced concrete (wall) to no rebar at outside of the reinforced concretes for rebar D22 and seven positions of Co-60 gamma-ray point sources on diagonal line of rebar lattice

点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあって点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cmの場合に,5種類のガンマ線点線源のMCNP5計算により得られた鉄筋コンクリート厚さ100 cmにおける鉄筋なしに対する4種類の鉄筋径による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)の減少比をFig. 12に示す。5種類のガンマ線エネルギーは第III章で述べた0.3,0.662,1.25,2.5,10 MeVであり,4種類の鉄筋径はD22,D29,D35,D41である。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比である。実線で示したすべてのガンマ線エネルギーの減少比は,鉄筋径が大きくなると比が右下がりに減少するという傾きが負の線型関数であり,エネルギーごとに絶対値と傾きが異なることがわかる。この減少比をもとに鉄筋径に対して破線で示した線型関数フィット(y = M0 + M1*x;xは鉄筋の直径(mm単位),yは減少比,係数MはTable 2に示す)を行った。Figure 12に示した5種類のガンマ線エネルギーにおける減少比と線型関数はよく一致しているため,D19~D41の鉄筋径における減少比は,線型関数から求めることができる。

Fig. 12

Ratios (solid lines) and the linear function fitting (broken lines) of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes for point source with 5 kinds of gamma-ray energies

Table 2 Coefficients of linear function fitting to the ratios of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes by gamma-ray energies of point source

Coefficients Gamma-ray energy [MeV]
0.300 0.6617 1.25 2.50 10.0
M0 1.0577 1.0967 1.1146 1.1165 1.1160
M1 −0.015219 −0.013862 −0.012633 −0.01121 −0.010588

5種類以外のガンマ線エネルギーの減少比は,Fig. 13に実線で示した4種類の鉄筋径D22,D29,D35,D41をもととする破線の指数関数フィット(y = m1 + m2*(1 − exp(−m3*x));xはガンマ線エネルギー(MeV単位),yは減少比,係数mはTable 3に示す)により求めることができる。図の横軸はガンマ線エネルギー(MeV),縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比であり,Fig. 12と同じ計算条件である。ガンマ線エネルギーが4 MeV以上であれば鉄筋径ごとの減少比はほぼ一定値に収束しており,2 MeV以下では減少比がエネルギーにほぼ比例することがわかる。

Fig. 13

Ratios (broken line) and the fitted exponential rise function (solid line) of gamma-ray effective dose rates by 4 kinds of rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes for various gamma-ray energies of point source

Table 3 Coefficients of exponential rise function fitting to the ratios of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes for various gamma-ray energies of point source

Coefficients Rebar
D22 D29 D35 D41
m1 0.63681 0.54241 0.42584 0.3325
m2 0.23918 0.26948 0.31809 0.34162
m3 1.4617 1.2598 1.241 1.1877

ガンマ線点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cm以上の場合に,鉄筋コンクリートで使用されている鉄筋径がわかれば,この減少比を鉄筋なしの計算結果に適用することにより,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を取り入れることが可能となる。100 cmより短い場合は,点線源の垂線と鉄筋交点位置の関係性による影響を受けることを考慮しなければならない。

3. 平面タリーサイズと線源角度分布の影響

点線源における鉄筋コンクリートからの漏えい線量は,20 × 20 cm2の平面タリーサイズで評価し,鉄筋なしに対する比(減少比)を求めたが,この平面タリーのサイズが変化したときの減少比に与える影響度を確認した。ガンマ線エネルギーによってFig. 12のように減少比の絶対値は異なるが,一定の負の傾きで減少する傾向は同じであるため,平面タリーサイズの影響の評価は,点線源からの垂線が鉄筋交点にあるCo-60線源(1.25 MeV)で代表する。Table 4にCo-60線源での鉄筋径によるFig. 3に示した4種類の平面タリーサイズ(40 × 40 cm2,20 × 20 cm2,10 × 10 cm2,4 × 4 cm2 off)の減少比を示す。40 × 40 cm2の平面タリーは,20 × 20 cm2と比べて点線源と遮蔽壁表面の距離Lが短い(10と50 cm)場合には10%程度減少比の値が大きくなるが,距離が長い(100と200 cm)場合には2~5%減少比の値が大きいだけでありほぼ一致している。点線源と遮蔽壁表面の距離が長い方が,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果が面線源と同様に均質化されるため,減少比の差が小さくなる。40 × 40 cm2以外の3種類の平面タリーサイズは,鉄筋交点上の中心軸付近に位置しており,減少比の差が最大でも0.01よりも小さく2%以内でよく一致している。したがって,鉄筋によるガンマ線遮蔽効果を評価するために使用した平面タリーサイズの20 × 20 cm2は適切といえる。

Table 4 Ratios of gamma-ray effective dose rates by various rebars and plane tally sizes to no rebar at outside of the reinforced concretes for Co-60 gamma-ray point source

Distance to a point source [cm] Plane tally size [cm2] D22 D29 D35 D41
10 40 × 40 0.764 0.662 0.563 0.468
20 × 20 0.721 0.611 0.510 0.420
10 × 10 0.722 0.611 0.510 0.419
4 × 4 off 0.719 0.608 0.508 0.413
50 40 × 40 0.845 0.769 0.690 0.610
20 × 20 0.817 0.732 0.646 0.561
10 × 10 0.815 0.732 0.644 0.561
4 × 4 off 0.823 0.728 0.632 0.544
100 40 × 40 0.852 0.779 0.704 0.628
20 × 20 0.834 0.755 0.674 0.593
10 × 10 0.834 0.756 0.675 0.594
4 × 4 off 0.843 0.761 0.672 0.583
200 40 × 40 0.852 0.780 0.706 0.630
20 × 20 0.840 0.764 0.686 0.608
10 × 10 0.837 0.762 0.684 0.606
4 × 4 off 0.845 0.770 0.693 0.605

Table 4から10 × 10 cm2と4 × 4 cm2 offの減少比はよく一致しているため,鉄筋交点の中心軸から数cm程度外れた位置で漏えい線量を測定しても問題ないといえる。点線源と遮蔽壁表面の距離が100 cm以上であれば,中心軸から10 cm程度外れた位置であっても5%以内の変動幅で測定することが可能である。

RI放射線源を想定して等方な角度分布をもつ点線源としているが,点線源からの垂線上の鉄筋交点に垂直入射するビーム(perpendicular beam)との比較を実施した。これは放出角度を最も絞ったものである。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cmの場合に,2種類(等方と垂直入射)の角度分布のMCNP5計算により得られた鉄筋コンクリート厚さ100 cmにおける鉄筋なしに対する鉄筋径による漏えい線量率(20 × 20 cm2平面タリー)の減少比をFig. 14に示す。図の横軸が鉄筋径[mm],縦軸が鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比である。鉄筋交点に垂直入射するビームは,表側鉄筋と確実に相互作用するために,鉄筋のガンマ線遮蔽効果を最大限受けることになるので,等方線源よりも減少比の値が約0.4小さくなる。しかし,点線源から放出された垂直入射ビームが正確に鉄筋交点と重なっている必要があるが,放出角度が絞られたビームと鉄筋径のサイズを考えるとこのように配置することは容易ではない。したがって,一般的な適用においては,等方な点線源による減少比を使用した方が確実に安全側の評価となるので,面線源における角度分布による減少比への影響がないことを踏まえると等方な点線源による減少比が最も適切である。

Fig. 14

Ratio of gamma-ray effective dose rates by isotropic angular distribution and perpendicular beam to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with rebars for Co-60 gamma-ray point source

4. 鉄筋ピッチの影響

鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第II章で述べたように通常は100,150,200,250,300 mmのピッチ(pitchまたはspacing)で配筋されている。鉄筋ピッチが大きくなれば,単位面積当たりの鉄筋の存在量が減るため鉄筋によるガンマ線遮蔽効果は小さくなり,鉄筋コンクリートからの漏えい線量に対する減少比の値は大きくなると考えられる。そのため,鉄筋コンクリート中の鉄筋ピッチと鉄筋径が減少比に与える影響を調べた。計算は,点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあるCo-60線源で鉄筋なしと8種類の鉄筋径を用いて5種類の鉄筋ピッチ100,150,200,250,300 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lは100 cmである。鉄筋径D41は,最小配筋ピッチが100 mmを超えるため100 mmピッチは計算対象外とした。平面タリーサイズ20 × 20 cm2による鉄筋ピッチを変化させた場合の減少比をFig. 15に示す。図の横軸は鉄筋ピッチ[cm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比である。鉄筋径が太くなると減少比の値が小さくなる関係が明確に現れており,鉄筋ピッチが大きくなると減少比の値が大きくなる関係もわかる。D19~D41の鉄筋径の公称直径の増分は一定値(約3.2 mm)であり,対応する鉄筋径ごとの減少比の変化もFig. 15に示されたように平行関係であるため,隣接する鉄筋径間の変化量も一定と考えられる。隣接する鉄筋径間とは,例えばD22であればD19とD25が該当し,その変化量はD22の減少比に対するD19とD25の減少比の差分である。鉄筋ピッチが100 mmにおける減少比の鉄筋径による変化量は0.054~0.062,150 mmでは0.041~0.047,200 mmでは0.037~0.041,250 mmでは0.034~0.040,300 mmでは0.033~0.038の範囲にあるため一定の変化量といえる。

Fig. 15

Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebar pitches to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with 8 kinds of rebars for Co-60 gamma-ray point source

点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあるCo-60線源における鉄筋ピッチを標準とした200 mmに対する鉄筋径と鉄筋ピッチごとの減少比の差分をTable 5に示す。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lは100 cmである。実際に鉄筋コンクリートで使用される鉄筋ピッチと鉄筋径の減少比は,200 mmピッチにおける減少比にTable 5の減少比の差分を加算することによりに得られる。例えば,鉄筋径D29と150 mmピッチにおける減少比は,200 mmピッチの減少比はTable 4から0.755であり,150 mmピッチでの減少比の差分がTable 5から−0.036であるため0.755 − 0.036 = 0.719となる。

Table 5 Differences from rebar pitch 200 mm between ratios of gamma-ray effective dose rates by various rebars and pitches to no rebar at outside of the reinforced concretes for Co-60 gamma-ray point source

Rebar pitch [mm] D19 D22 D25 D29 D32 D35 D38 D41
100 −0.088 −0.111 −0.130 −0.152 −0.171 −0.188 −0.201  
150 −0.020 −0.025 −0.031 −0.036 −0.043 −0.048 −0.054 −0.058
250 0.008 0.011 0.014 0.018 0.018 0.021 0.022 0.023
300 0.012 0.015 0.021 0.024 0.026 0.031 0.032 0.035

5. 鉄筋交差状態と鉄筋の被り厚さの影響

鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第II章で述べたように縦筋と横筋が格子状に組み上げられ,地下外壁では縦筋が外側で横筋が内側に取り付けられるように,交差位置で鉄筋径分の段差が存在する。上述の鉄筋の計算モデルでは,交差位置で段差がない同一平面上に鉄筋が直交し正方格子で配置されているとしたが,実際に施工されている交差位置で段差がある分離交差が鉄筋コンクリートからの漏えい線量に対する減少比に与える影響を調べた。計算は,最もその影響が大きいと考えられる点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあるCo-60線源で鉄筋なしと分離交差(縦筋が外側で横筋が内側)した4種類の鉄筋径D22,D29,D35とD41を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lは100 cmである。平面タリーサイズ20 × 20 cm2による縦筋と横筋の交差状態(直交と分離交差)での減少比をFig. 16に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比,赤色の実線は直交した場合,青色の四角形は分離交差の場合である。鉄筋径による直交と分離交差の減少比に差はなく,両者は一致している。そのため,鉄筋の交差状態として直交モデルにより求めた減少比を使用することは適切である。

Fig. 16

Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) with the orthogonally crossing model and the separated intersection model of vertical and horizontal rebars for Co-60 gamma-ray point source

鉄筋コンクリート中の鉄筋は,第II章で述べたように保護材としてコンクリートによる被り厚さが設けられている。上述の鉄筋の計算モデルでは被り厚さを5 cmに固定したが,被り厚さによる影響の有無を確認するため鉄筋径D29に対してのみ被り厚さ4と8 cmも計算し比較した。計算は,最もその影響が大きいと考えられる点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあるCo-60線源で鉄筋径D29を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lは100 cmである。平面タリーサイズ20 × 20 cm2により被り厚さ(covering depth; cd)の減少比を求めた。被り厚さ4,5,8 cmにおける減少比はそれぞれ0.752,0.754,0.760で一致しており,点線源においても被り厚さは減少比に影響しない。

6. 鉄筋コンクリートの均質化モデルの影響

鉄筋コンクリート中の鉄筋は,3次元モンテカルロ計算によりダブル配筋の格子形状を忠実にモデル化したが,Sn輸送計算などで使用される可能性があるコンクリートと鉄筋を均質化した鉄筋コンクリート組成モデルについてもその影響を評価した。鉄筋コンクリート中のコンクリートと鉄筋の体積比率に基づいて均質化した組成を2種類作成した。2種類の組成は,Fig. 2に示した鉄筋コンクリート全体で均質化した組成とダブル配筋の存在する内側と外側の表層10 cm厚だけを均質化した組成であり,密度は鉄筋の体積分に応じて増加する。鉄筋の交差状態は,直交交差部分の鉄筋体積を減らした均質化組成に限定した。計算は,点線源からの垂線が鉄筋交点上の位置にあるCo-60線源で4種類の鉄筋径D22,D29,D35とD41を用いて鉄筋ピッチ200 mmについて100 cm厚の鉄筋コンクリート体系で実施した。Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cmにおける平面タリーサイズ20 × 20 cm2の鉄筋コンクリート組成均質化による減少比をFig. 17に示す。図の横軸は鉄筋径[mm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比,赤色の実線は均質化していない鉄筋格子形状モデル,青色の丸記号と破線は鉄筋コンクリート全体で均質化した組成,緑色の三角形と長破線は表層10 cmだけ均質化した組成の場合である。赤色の均質化していないモデルの鉄筋径に対する減少比と2種類の均質化組成による減少比を比較すると,面線源1と同様に絶対値と傾きが異なっていることがわかる。この原因は,体積割合としては鉄筋よりも大きいコンクリートのみの領域を透過するガンマ線が,均質化により常に鉄筋の影響を受け続けることにあると考えられる。これは,鉄筋径が大きくなると均質化組成の減少比の値が小さくなるように傾いていること,全体での均質化と表層10 cmの均質化による減少比の傾きが同じことからわかる。全体での均質化と表層10 cmの均質化による減少比間の差は0.02と大きくはないが,均質化における鉄筋の割合の高い方が鉄筋の影響を過大に評価するといえる。

Fig. 17

Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) homogenized with orthogonally crossing rebars for Co-60 gamma-ray point source

Co-60点線源と遮蔽壁表面の距離Lが1,10,50,100,200 cmにおける平面タリーサイズ20 × 20 cm2の鉄筋コンクリート組成均質化による減少比をFig. 18に示す。図の横軸は点線源と遮蔽壁表面の距離[cm],縦軸は鉄筋なしに対する漏えい線量率の減少比,4色の実線は4種類の鉄筋径による均質化していない鉄筋格子形状モデル,四角形と破線は鉄筋コンクリート全体で均質化した組成,菱形と長破線は表層10 cmだけ均質化した組成の場合である。この図から明らかなように,均質化した組成は点線源と遮蔽壁表面の距離によらず減少比が一定値であり,均質化していない鉄筋格子形状モデルの指数関数分布とは異なる。そのため,均質化していない鉄筋格子形状モデルと比べると点線源と遮蔽壁表面の距離Lが30~50 cm以下の場合には減少比の値が大きくなり,30~50 cmを超える場合には減少比の値が小さくなる。特に,均質化における鉄筋の割合が高くなる太い鉄筋径では,点線源と遮蔽壁表面の距離による影響を強く受けることに注意が必要である。したがって,鉄筋コンクリートにおいて鉄筋とコンクリートを均質化した組成とすることは,点線源と遮蔽壁表面の距離によってガンマ線の漏えい線量を過大評価または過小評価する可能性があるため推奨されない。

Fig. 18

Ratio of gamma-ray effective dose rates by various rebars and distances between point source and wall to no rebar at outside of the reinforced concretes (100 cm-t) homogenized with orthogonally crossing rebars for Co-60 gamma-ray point source

V. 結論

ガンマ線とX線を主な遮蔽対象とする放射線施設の遮蔽壁として鉄筋コンクリートが一般に使用されているため,鉄筋コンクリート中の鉄筋による点線源のガンマ線とX線の漏えい線量に対する遮蔽効果を評価した。遮蔽効果は,鉄筋の存在する鉄筋コンクリートにおけるガンマ線の漏えい線量率を鉄筋なしの漏えい線量率で割った比(減少比)により評価した。点線源,鉄筋とコンクリートなどによる計算条件が減少比に与える影響や特性も以下のように個別に評価した:(1)点線源と鉄筋の位置関係は漏えい線量に影響を与えるが,点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cm以上であれば減少比が一定値に収束するため位置関係を考慮しなくてもよい,(2)点線源と遮蔽壁表面の距離Lに関する減少比は,点線源の垂線上に鉄筋交点がある場合には指数分布の累積分布関数(f(x) = 1 − emx)の形となるため,距離Lが100 cmより短い場合には減少比の変化量が大きい,(3)点線源の垂線上に鉄筋がなく鉄筋交点から鉄筋径の2倍以上離れた位置に点線源がある場合には,点線源と遮蔽壁表面の距離Lに関する減少比は指数関数的減衰に従うため,距離Lが50~100 cmよりも短い場合には減少比の値が収束値よりも大きくなる可能性がある,(4)5種類のガンマ線エネルギーに対する減少比は鉄筋径に関して負の傾きの線型関数でフィットでき,エネルギーが低い方が減少比の値が小さくなる,(5)5種類のガンマ線エネルギーに対する減少比はエネルギーに関して指数関数フィットできる,(6)点線源の垂線上に鉄筋交点がある場合には,点線源で発生するガンマ線の角度分布が等方分布から垂直入射に近付くにしたがって鉄筋の影響が大きくなるため減少比の値は小さくなる,(7)鉄筋ピッチによる減少比は,鉄筋径に関して負の傾きの線型関数,鉄筋ピッチに関して累積分布関数であり,鉄筋ピッチが大きい方が鉄筋の影響が小さくなるため減少比の値が大きくなる,(a)鉄筋コンクリート厚さと密度は減少比に大きな影響を与えない,(b)鉄筋の交差状態(直交と分離交差)による減少比への影響は無視できる,(c)鉄筋コンクリートの被り厚さは減少比に影響しない,(d)鉄筋とコンクリートを均質化した組成は,常に鉄筋による影響を与えることになり,点線源と遮蔽壁表面の距離による影響を反映できないため,漏えい線量を過小評価または過大評価する。点線源におけるこれらの鉄筋による遮蔽効果は,減少比を使用することにより鉄筋に直接関係しない要素による影響を排除できている。鉄筋によるガンマ線の減少比を取り入れるためには(1)~(7)を考慮する必要があるが,(a)~(d)は無視または対象外とすることができる。

点線源に対して(1)~(7)を考慮した上で適切に評価した減少比を使用すれば,ガンマ線またはX線の点線源をもつ放射線施設において,鉄筋コンクリートの鉄筋なしの遮蔽計算で漏えい線量を求めることにより,鉄筋コンクリートの鉄筋情報(鉄筋径と鉄筋ピッチ)に基づく減少比をその漏えい線量に掛けることで,鉄筋による遮蔽効果を取り入れた実効線量の評価が可能となった。点線源と遮蔽壁表面の距離Lが100 cm以上であれば,点線源と鉄筋の位置関係を考慮しなくてもよいが,100 cmより短い場合は鉄筋交点との位置関係を考慮する必要があることがわかった。距離が短い施設の場合には,遮蔽壁の室内表面に鉄筋位置を表示することにより,点線源の垂線上に鉄筋交点があるように配置することも遮蔽上有用である。点線源を特定の鉄筋交点の垂線上に置くことが確定できる場合,その鉄筋径のみを太くすることも遮蔽上有用である。また,鉄筋コンクリート中の鉄筋による漏えい線量は,点線源のガンマ線とX線に対して10%以上減少するため遮蔽効果があることが明確になった。鉄筋による遮蔽効果については,中性子線源についても検討する予定である。

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