Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Mineral Components of Waste Materials Containing High Concentrations of Sulfate
Daisuke MINATOMichihiko HIRONAGA
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2025 Volume 24 Issue 2 Pages 44-51

Details
Abstract

Some low-level radioactive wastes categorized as shallow underground pit disposal may contain high concentrations of sulfate. There is concern that sulfate may interact with cementitious materials and affect the physical properties of the waste. We examined the interaction of sulfate-containing cementitious materials by using drums of the same size as actual waste bodies. Two specimens with different sulfate concentrations were prepared and their chemical and physical properties were analyzed. Results showed that different sulfate concentrations affected the temperature history and phase composition within the waste, and the sulfate concentration also changed the composition of the products. It was observed that sulfate accelerated the rate of the hydration reaction of the cement paste, which may have resulted in a greater temperature increase. It was also shown that sulfate affects the amount of calcium silicate hydrate (C-S-H) produced. In specimens with high sulfate concentrations, the amount of C-S-H formed decreased, as did the reaction rate of the slag. This could be a result of sulfate interfering with the hydration reaction of the slag.

I. 緒言

低レベル放射性廃棄物のうち浅地中ピット処分に該当する廃棄体には,多量の硫酸塩を含有するものがある可能性がある1。これらの廃棄体は発生元の原子力発電所において,セメント系材料によって固形化処理されるが,硫酸塩がセメント系材料と相互作用を生じ,廃棄体の諸物性に影響を及ぼす可能性が懸念される。硫酸塩がセメント系材料に対する影響に関しては,硫酸塩土壌による建物基礎コンクリートの劣化問題を中心として研究例が数多く存在する24。これらの研究は基本的にセメント系材料の硬化後に外部から硫酸塩が作用する環境を対象とし,その濃度も高くて5%程度である。一方で,廃棄体において硫酸塩はセメント系材料の水和反応以前より存在し,かつ,その濃度も練り混ぜ水に対し30%を超えるものが存在する可能性がある。このような状況では,廃棄体において硫酸塩とセメント系材料がどのように作用しているか不明な点が多い。MotaらはNa2SO4をセメント系材料に初期より加えて水和させた場合には,練り混ぜ直後より高温の反応が生じることを報告している5。庭瀬らは練り混ぜ水にNa2SO4を25%加え作製した試験体を封緘養生の後に蒸留水に浸漬したところ,試験体が膨張破壊したことを報告している6。大脇らは練り混ぜ水にNa2SO4を25%加え作製した試験体を高温養生し,一般的なセメント系材料にはみられないU-Phase(4CaO·0.9Al2O3·1.1SO3·0.5Na2O·16H2O)が生成することを示している7。U-Phaseは結晶構造や熱力学的性質に不明な点が多く,最近でも多くの研究が行われている811。以上に示した硫酸塩を含有する廃棄体に関する研究は基本的に小規模な試験体を用いたものであるため1214,ドラム缶を用いて作製される実廃棄体内部ではどのような現象が生じているか明らかではない点が多い。

本研究ではドラム缶を用いて実規模の模擬廃棄体を作製し,模擬廃棄体内でのセメント系材料と硫酸塩の相互作用を検証し,模擬廃棄体内部におけるセメント系材料の水和挙動とその結果としての相組成を確認した。

II. 実験概要

1. 試験体作製

(1) 配合

Table 1に使用したセメントおよびスラグの元素組成を,Table 2に使用したセメントの鉱物組成を,Table 3に配合を示す。配合は放射性廃棄体の固型化材に準拠し,セメントに対しスラグを70%置換する配合を用いた6。セメントは太平洋セメント社製の普通ポルトランドセメント,スラグはデイ・シイ社製の高炉スラグ微粉末4000(商品名セラメント,石膏の添加のないもの)を用いた。また,練り混ぜ水は水道水を,Na2SO4として和光純薬社製の特級試薬を用いた。模擬廃棄体容器としてJISZ1601に準拠したステンレス製ドラム缶(容量200 L,直径568 mm,高さ850 mm)を用い,練り上げ量は200 Lとした。

Table 1 Chemical composition of materials

Samples Chemical composition (mass%) Density
(g/cm3)
Fineness
(cm2/g)
SiO2 AL2O3 Fe2O3 CaO MgO SO3 Na2O K2O TiO2 P2O5 MnO Cl
OPC 21.3 5.1 3.2 65.4 1.0 2.0 0.3 0.4 0.2 0.1 0.1 0.006 3.16 3,430
BFS 34.3 14.4 0.3 42.8 5.9 0.2 0.3 3.04 4,390

Table 2 Mineral composition of ordinary portland cement

C3S C2S C4AF C3A CaCO3 Gypsum Amorphouse
54.1 17.8 9.8 7.6 4.3 3.6 2.9

※C = CaO S = SiO2 A = Al2O3 F = Fe2O3 (mass%).

Table 3 Mix proportions of concrete simulated waste

Na2SO4
Concentration (%)
BFS/OPC (%) Water/Powder (%) Total Volume (L) Powder (kg) Water (kg)
OPC BFS Tap water Na2SO4
20.00 70.00 68.91 200.00 65.11 151.92 119.66 29.92
30.00 70.00 76.06 200.00 65.11 151.92 115.57 49.53

(2) 打設

打設は発電所内におけるアウトドラム方式1に準拠し,Fig. 1に示すように模擬廃棄体容器よりも高位置でNa2SO4を含有したセメントペーストを混練し,容器上部から流し込むこととした。Na2SO4の水に対する溶解度は温度依存性をもち,39 °Cにて最も高い溶解度を示す一方で20 °Cでは100 gの水に対する溶解度が20 gをわずかに下回る15。模擬廃棄体の打設において,39 °CのNa2SO4溶解水を使用すると,練り混ぜ容器への投入や粉体との接触により水温が低下し,Na2SO4の析出が懸念される。そのため,本研究では,セメントペースト打設時にNa2SO4が完全に溶解している状態を確保するため,以下の手順で模擬廃棄体を作製した。まず,練り混ぜ用の水を恒温槽で60 °Cに加温し,Na2SO4を完全に溶解させた。この後はNa2SO4溶解水を恒温槽から取り出し,実験室温(20 °C)によって溶液温度が低下するに任せた。次に,ポリエチレン製の400 L円筒型容器にNa2SO4溶解水を注水し,温度が50 °Cに低下した時点でセメント→スラグの順番に粉体を投入した。Na2SO4溶解水と粉体をハンドミキサーで10分間練り混ぜた後,容器下部に据え付けたコックより30 L/minの速度で模擬廃棄体容器に打設を行った。打設時のセメントペースト温度は45.6 °Cであった。打設量は200 Lとし,打ち上げ高さは底面より790 mmとした。発電所における廃棄体作製環境を鑑み,打設時に振動や突き棒などによるペースト内部の空気の追い出しは行わなかった。打設後蓋を既定のトルクで密閉し20 °C恒温環境にて182日間養生した。

Fig. 1

Outline of cement paste placement into simulated waste container

2. 温度履歴

打設直後からの模擬廃棄体内部の温度履歴をFig. 2に示す11点で測定した。高温対応の熱電対(TM10完全防水型熱電対 TM-T-10-0.32-5m-Y4 ㈱計温社,日本)を用い,データロガーに接続して182 日間測定を継続した。熱電対は塩化ビニルの円筒内部に固定し,ドラム缶内部に固定した。また,比熱を可能な限り一致させるために塩化ビニル円筒内部にあらかじめセメントペーストを打設した。

Fig. 2

Thermocouples installation position (A) and installation status (B)

(x,y) indicates the location of the thermocouples when the lower left edge of the drum is (0,0).

3. 固相分析

模擬廃棄体の結晶相・非晶質相・スラグの反応率解析を粉末X線回折測定,リートベルト解析およびスラグ焼成法16を併用して実施した。測定試料はFig. 2におけるMLLおよびMRRを除く9箇所から採取した。試料の採取に当たっては乾式のカッターを用い,流水などで固型化材が溶出しないように留意した。採取した試料は5 mm以下に粉砕後アセトンで24時間浸漬して水和停止した後,48時間D-Dry乾燥した。その後遊星ボールミルにて100 µm以下に全量粉砕し,粉体試料に内部標準物質としてα-Al2O3を粉体質量の10%加え,遊星ボールミルを用いて均一に混和した。粉末試料は測定までN2ガス(純度:99.9995 vol.%)で充塡したパージ式グローブボックスで保管した。粉末X線回折測定はRigaku社製全自動多機能X線回折装置SmartLabを用いて,ターゲットCuKα,管電圧45 kV,管電流40 mA,走査範囲5~70 deg.2θ,計測時間2 s,ステップ幅0.02°,発散スリット0.5°,散乱スリット0.5°,受光スリット0.3 mm,モノクロメーターを使用し,グローブボックスから取り出し後速やかに測定に供した。リートベルト解析は,X線分析統合ソフトウェアSmartLab Studio II(リガク製)を用いた。未水和セメントの解析対象とした鉱物はC3S(mono,tri),C2S(α,β),C3A(cubic,ortho),C4AFのセメント鉱物と,石膏(gypsum,bassanite,anhydrate),periclaceとした。また,水和生成物としてNa2SO4,portlandite,katoite,calcite,hydrotalciteとし,これに内部標準物質としてα-Al2O3を加えた。U-Phaseはリートベルトに供するに適したPDFファイルが入手できなかったため,リートベルト解析によって定量評価ができなかった。本研究では,U-Phaseの粉末回折データベース(Reference code: 00-044-0272)に記載されているRIR値にて,u相の定量値推定を行った。また,固型化材は非晶質である高炉スラグを含むため,リートベルト解析では非晶質であるCalcium Silicate Hydrate(C-S-H)と高炉スラグを区別することができない。このため,本研究では佐川らが提案する手法16に従い,試料を加熱処理しスラグを結晶化しリートベルト解析によって未反応スラグ量とC-S-H生成量を定量した。

III. 結果

1. 温度履歴

Figure 3に硫酸塩濃度20%模擬廃棄体(以下20%試料)の,Fig. 4に硫酸塩濃度30%模擬廃棄体(以下30%試料)の打設直後より計測したドラム缶内部の温度履歴を測定部位ごとに示す。打設後3時間程度からどの部位も急激に温度上昇し,20%試料では最も温度上昇が高かった部位としてMMにおいて9時間50分後に最高温度117.2 °Cに,最も温度上昇が低かった部位としてHMにおいて5時間10分後に最高温度98.8 °Cに到達した。また,30%試料では最も温度上昇が高かった部位としてMMにおいて10時間に最高温度115.8 °Cに,最も温度上昇が低かった部位としてHMにおいて5時間40分後に最高温度96.5 °Cに到達した。このように,20%試料および30%試料ともに最高到達温度が部位によって20 °C程度の差が生じた。また,双方の試験体に共通しておよそ7日で室温程度に温度低下した。

Fig. 3

Temperature history inside a drum with 20% sulfate concentration

Fig. 4

Temperature history inside a drum with 30% sulfate concentration

2. 固相分析

Figure 5に20%試料の,Fig. 6に30%試料のXRDプロファイルを示す。20%試料および30%試料のすべての箇所に共通して,U-Phase,calcite,Na2SO4,portlandite,hydrotalciteおよび未水和のセメント鉱物であるC3S,C2Sが検出された。これに加えて20%試料の中央部,MMからはkatoiteが検出された。Table 4に20%試料および30%試料の相組成(未反応セメント・スラグ量,生成物量)を示す。20%試料において,ドラム缶中の相組成には場所によって高さ方向のみならず,水平方向でもばらつきがみられた。未反応スラグは最大44.0%-最小38.7%が残存する一方で,U-Phaseは最大30.6%-最小11.0%,calciteは最大6.0%-最小3.5%,Na2SO4は最大2.7%-最小1.4%,portlanditeは最大0.6%-最小0.1%,hydrotalciteは最大4.4%-最小1.6%生成した。また,MMではkatoiteが10.3%生成した。C-S-H生成量は最大34.4%-最小14.8%であった。

Fig. 5

XRD profile of a 20% sulfate concentration sample

(U: U-phase C: corundum as inner standard K: katoite).

Fig. 6

XRD profile of a 30% sulfate concentration sample

(U: U-phase C: Corundum as inner standard).

Table 4 Mineral composition, slag residue, and C-S-H formation

  L.O.I
(%)
Unreacted (%) Hydration products (%)
BFS Cement Calcite Na2SO4 Katoite CH HT U-phase C-S-H
Na2SO4
20%
HL 27.33 39.2 5.5 3.3 1.5 0.3 4.6 30.6 22.3
HM 25.85 38.7 5.7 1.9 1.6 0.2 3.8 24.2 29.8
HR 26.12 39.1 6.7 3.2 1.7 0.3 3.5 36.2 16.2
ML 27.32 44.0 6.0 2.0 2.1 0.3 3.5 23.1 25.6
MM 25.16 43.0 3.1 1.6 2.9 10.2 1.8 11.0 35.0
MR 26.89 41.0 5.0 1.7 1.8 0.2 3.5 19.3 33.2
LL 26.90 39.1 6.7 2.3 1.5 0.6 3.0 28.5 24.8
LM 25.74 42.7 8.3 2.0 3.3 3.3 28.1 19.9
LR 26.73 40.7 6.0 2.0 1.9 0.5 2.9 29.8 22.3
Na2SO4
30%
HL 25.25 57.7 7.4 1.2 4.4 0.2 1.9 14.9 19.1
HM 25.56 54.5 6.2 1.2 4.3 0.1 2.0 16.4 21.4
HR 26.82 50.9 5.9 1.3 3.4 0.1 2.9 25.1 16.7
ML 26.21 55.1 7.6 1.0 5.7 0.2 1.9 15.5 20.5
MM 27.16 55.6 6.0 0.6 4.5 0.1 2.8 10.5 26.4
MR 26.03 51.7 6.8 0.9 3.5 0.1 2.0 20.8 20.2
LL 26.80 52.6 5.8 1.3 3.8 0.1 1.8 18.5 22.1
LM 26.47 54.8 6.3 0.8 4.1 0.2 2.0 14.4 23.6
LR 26.46 57.2 8.7 0.8 4.8 0.2 2.7 19.6 14.0

※CH = Portlandite HT = Hydrotalcite.

30%試料においても,ドラム缶中の相組成には場所によって高さ方向と水平方向にばらつきがみられた。未反応スラグは最大57.7%-最小50.9%試料内に存在した。U-Phaseは最大20.8%-最小10.5%,calciteは最大1.3%-最小0.6%,Na2SO4は最大5.7%-最小3.4%,portlanditeは最大0.2%-最小0.1%,hydrotalciteは最大2.9%-最小1.8%生成した。また,20%試料でみられたkatoiteの生成はなかった。C-S-H生成量は最大26.4%-最小14.0%であった。30%試料は20%試料と比較して,スラグの水和が進んでおらず水和生成物量が全体的に低い傾向にあった。本研究では,30%試料および20%試料の固相分析においてettringiteおよびmonosulfateが検出されなかった。しかし,これはXRDによる結晶質相の検出に限定された結果であり,これらが非晶質として存在する可能性を否定することはできない。本研究では非晶質相をC-S-Hおよび未反応スラグのみと仮定している。このため,非晶質のettringiteやmonosulfateが存在する場合,XRD測定ではこれらがC-S-Hや未反応スラグとして加算されることになり,C-S-Hおよび未反応スラグ量が過剰評価される可能性がある。非晶質のettringiteおよびmonosulfateは核磁気共鳴法などの分析手法により検出可能であるため,今後の検討課題としたい。

IV. 考察

1. 試験体作製時の温度上昇および生成物のばらつきについて

セメント系材料は練り混ぜ-硬化時に水和反応にともなう発熱を示し,例えば水/セメント比50%のセメントペーストは40 °C程度の断熱温度上昇量を示す17。環境温度が20 °Cであった場合には,セメントペーストの温度は最高でおよそ60 °Cに達することとなる。本研究において,20%試料でMMの最高到達温度は117 °Cに達しており,練り混ぜ時の水温45 °Cを考慮すると72 °C程度温度が上昇したことになる。このため,擬模廃棄体内部では通常のセメント系材料とは異なる反応が生じたことが推測される。一方で,模擬廃棄体の周辺部では最高到達温度が96.5 °Cという部位もあり,この温度の差が生成物の差になっている可能性がある。MotaらはセメントペーストにNa2SO4を混和した試験体の発熱挙動を測定し,通常のセメントペーストの発熱ピークが打設後およそ14時間であったのに対し,Na2SO4を含む試験体の発熱ピークは打設後8時間と,水和反応の速度が速まったことを示している5。また,NetoらはSO42−の添加によってC3Sの発熱量が増加することを示している18。QuennozとScrivenerは系に多量の硫酸イオンが存在するとettringiteが生成し,C3Sの反応を遅延させる効果をもつAlが消費されるため,結果として水和が促進するとしている19。Bergoldらは,アルミニウムを添加したC3Sの水和がこのように促進されるのは,ettringiteの核生成によるもので,C-S-Hの不均一核生成に適した表面を生成し,C3Sの溶解を促進するためとしている。本研究においても同様の要因によって,Na2SO4未添加の系よりも水和反応速度が加速され,それに伴う温度上昇も大きくなったと考えられる20Fig. 7に20%試料の,Fig. 8に30%試料の1分間当たりの温度上昇量を示す。温度上昇量が最も高くなる時間に注目すると部位によって大まかに3つのグループに分類することができる。30%試料に着目すると,模擬廃棄体の中央に位置している(MM,MRR,MLL)が最も早く,打設後およそ180分で温度上昇量の極大値を示し,その絶対値も大きかった。次にこれらに接する部位(HM,LM)が240分で極大値を示し,ほぼ同様の経過時間にて模擬廃棄体下部の両端(LR,LL)が極大値を示したが,その絶対値はHMおよびLMよりも低かった。最後に模擬廃棄体の上端(HR,HL)が270分で温度上昇量の極大値を示した。このように,模擬廃棄体中心部が最も早い時間で温度上昇の極大値を示し,その熱量が周辺に伝搬していくことが判る。この傾向は20%試料でも同様であった。一方で,30%試料においてはLMの発熱は模擬廃棄体中央の挙動に近く,MRは中央部に接する部位の挙動に近かった。LMとRMはMMを挟んで左右対称な部位であり,断熱環境は同様と考えられるが,発熱挙動は上昇量の絶対値および極大値を示す時間ともに異なった。Table 4では20%試料および30%試料に共通し,最も温度上昇が高かったMMにおいてスラグとセメントの反応率が高く,U-phaseの生成量が少ない傾向が示されている。その一方でそれ以外の部位では温度上昇と生成物に相関はなく,ドラム缶における左右上下問わずスラグとセメントの反応率やU-phaseの生成量にばらつきがみられた。これはNa2SO4によって水和反応が加速された結果,接水直後に局所的にセメントの水和反応が急激に進展し,局地的な水和反応の差が生じた結果,ドラム缶内部の不均質性につながったと考えられる。本研究で観察された発熱挙動,スラグおよびセメントの反応率,生成物の不均質性は,ドラム缶を用いた実規模の模擬廃棄体作製に起因するものと考えられる。そのため,小型試験体を用いる場合には,発熱挙動などのドラム缶内の部位による物性差を整理し,それらを再現する必要があると推測される。また,C-S-Hの物性にもばらつきが生じることが予想されるため,核磁気共鳴やFT-IRなどをもちいて評価することが望まれる。この点については,今後の検討課題としたい。

Fig. 7

Heat evolution rate for 20% sulfate concentration samples

Fig. 8

Heat evolution rate for 30% sulfate concentration samples

2. 模擬廃棄体中のスラグの反応に関して

Table 5にIII-2節において示した試料中の未反応スラグ量から計算したスラグの反応率を示す。20%試料における反応率は37.1~44.7%,30%試料では17.6~26.2%であった。スラグをセメントに高い割合で置換した場合にはスラグの水和率は低い割合で置換したときよりも低くなることが知られている。佐川らはスラグを60%以上の割合で置換したセメント系材料を用いて建設した実構造物からコア試料を採取し,スラグの反応率を解析している21。当該構造物は建設後52年経過していたがスラグの反応率は46%程度であった。佐川は他の研究でも70%置換した場合のスラグの反応率は材齢91日で32%であったことを報告している22。伊与田はスラグを置換したセメントを用いて作製したコンクリート中のスラグの反応率をサリチル酸アセトンメタノール法によって計測し,置換率70%では材齢100日においても反応率が40%程度に止まることを示した23。Luanらはスラグの混和によってCa/Siの低いC-S-Hが生成され,低Ca/SiのC-S-Hは高Ca/Siに比べ緻密な構造を取るため,この緻密層によってイオンの移動が阻害され,結果として水和の進行が遅くなると示している24。また,Motaら25はセメント同様にスラグセメントもNa2SO4によって初期の水和が促進されることを示している。加えて,本研究ではドラム缶を用いた模擬廃棄体打設時に発熱が確認されたが,これはスラグセメントの水和反応を促進する要因であると考えられる。このように,本研究ではスラグセメントの反応率に影響を与える複数の要因が存在すると想定される。20%試料のスラグの反応率は既存の文献とおおむね一致しているが,これは20%試料における硫酸塩が材齢182日でのスラグの反応率に影響を与えないことを示すものではなく,上記の阻害要因と促進要因が連成的に作用した結果,既往研究と近似した値が得られたものと考えられる。一方,30%試料のスラグの反応率は既往研究の値よりも低かった。このことから,30%試料では硫酸塩が材齢182日でのスラグ水和率を低下させている可能性がある。硫酸塩が初期のセメントおよびスラグ水和を促進させることはすでに述べたが5,長期的な強度増進にも寄与すると報告されている26,27。MotaらはNaOHやNa2SO4をセメントに加え水和させ,これらの添加によって初期水和が促進される一方でNaOHの添加はアルミネート相の溶解度を増加させ,それによってC2Sなどの珪酸系鉱物の溶解が抑制され長期的な水和反応を阻害するが,Na2SO4ではそのような水和阻害は生じないことを報告している28。これらの研究はNa2SO4濃度数%程度までの範囲での検討であるため,本研究において検討した硫酸塩濃度20~30%において生じる硫酸塩がスラグとの相互作用と環境が大きく異なる。

Table 5 Slag reaction rate in the simulated wastes

Na2SO4 HL HM HR LL LM LR ML MM MR
20% 44.0 44.7 44.1 44.1 39.0 41.8 37.1 38.6 41.4
30% 17.6 22.1 27.2 24.9 21.7 18.2 21.2 20.5 26.2

(mass%).

本研究における配合では,20%試料に比べ30%試料はドラム缶1体当たりおよそ4 kg水分量が少ないが,これがスラグ水和率の差になったかは明らかではない。スラグの反応率が低いことは,生成するC-S-Hの量が少ないことを示し,これが廃棄体の強度や核種収着性に対して不利に作用する可能性がある。一方で,未反応のスラグは水和反応を通じてC-S-Hを生成するポテンシャルを有しているため,放射性廃棄物処分施設に設置された廃棄体を想定した場合,再冠水後に廃棄体性能の維持に寄与する可能性も考えられる。本研究では30%の硫酸塩がスラグの水和率を低下させるメカニズムは本研究では解明できなかった。しかし,得られた廃棄体内部での発熱および生成物に関する知見をもとに,小型試験体を用いて廃棄体内部を再現し,硫酸塩濃度や材齢を詳細にパラメータ化した検証を今後実施する予定である。

V. ま と め

本研究ではドラム缶を用いて硫酸塩の濃度が異なる2つの実規模模擬廃棄体を作製し,模擬廃棄体内でのセメント系材料と硫酸塩の相互作用を検証した。得られた結果は硫酸塩が模擬廃棄体内の温度履歴や相組成に影響を与えることを示しており,硫酸塩濃度によって生成物の構成にも変化がみられた。また,硫酸塩がセメントペーストの水和反応の速度を加速させ,これによりセメント系固型化材の著しい温度上昇が確認された。また,20%試料では,スラグの反応率は既往の研究と同程度であったが,30%試料ではスラグの反応率が低下した。ただし,これは材齢182日という放射性廃棄物処分施設の時間軸におけるごく初期の知見であり,施設の埋め戻し後に地下水が再冠水した際にスラグの反応がどのように変化するかを検証する必要がある。また,再冠水後には廃棄体から硫酸塩が溶出し,人工バリアに作用すると考えられる。今後は本研究で作製した模擬廃棄体を用いて硫酸塩がどのような化学形態で溶出し,人工バリアに作用するか検討を行う予定である。

References
 
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