2025 Volume 24 Issue 2 Pages 38-43
Apparent permeation rates of tritium through borosilicate glasses were estimated from the volume of residual gases in ampules kept at room temperature for over 20 and 40 years. The permeation rates were 1.5 × 10−17 mol/m s Pa for 20-year-old borosilicate ampules and 7.0 × 10−18 mol/m s Pa for 40-year-old Pyrex glass ampules. These values are 1,500 times larger than the extrapolated value of H2 permeation through fused silica. The typical decrease rate for a 30 cc ampule was 7 × 10−9 s−1, which was 4 times higher than the decay rate of tritium (1.787 × 10−9 s−1). The apparent permeation in this report includes permeation through the ample wall and the formation of OT in the ample wall.
トリチウムガスの保管や運搬にはガラスアンプルを用いることが多い。最近長期間保管されていたトリチウム入りアンプルを開封し,取り出したガス量からトリチウムのみかけのガラスアンプル壁透過率を求めたので,その結果についてまとめた。22年間保管していたホウケイ酸ガラスを通しての室温でのみかけのトリチウムの透過率は1.5 × 10−17 mol/m s Paであった。この値は既知の石英ガラス中の軽水素の透過率を室温まで外挿した値の1,500倍大の大きさである。例えば内容積30 cc,壁厚1.5 mmのアンプルを例に計算すると,みかけ透過による減少率は7 × 10−9 s−1で,トリチウムの崩壊による減少の4倍の速さで減少していたことがわかった。アンプル中のトリチウムは3年程度で半減していることになる。現時点では十分なデータが得られていないため,トリチウムがガラス壁内部に留まっているのか,透過して環境まで出ているのか,またその化学形態は明らかではない。透過したとしてもその量は環境に影響を及ぼすような値ではないが,放射線障害防止法に基づく放射線管理上無視できない量なので,技術資料として報告する。
ガラス構成成分と化学反応しないヘリウム,ネオン,窒素などの気体のガラス透過率はほぼ分子の直径とガラスネットワーク中の「隙間」の大きさで議論をすることができるとされている。しかし,ガラス構成成分と化学反応する水素の透過現象は大変複雑で透過を大きくする。水素がガラス内に入るとOH基を作り,固定される。このOH基は溶融石英ガラスでも200 ppm程度存在し,光透過率に影響することが知られている。OH基は固定されているが脱水縮合反応でH2Oを形成し,H2Oはガラス内を移動する。主な反応は
\begin{equation} \text{Si-O-Si} + \text{H}_{2} \leftrightarrow \text{Si-OH} + \text{Si-H} \end{equation} | (1) |
\begin{equation} \text{Si-OH} + \text{HO-Si} \leftrightarrow \text{Si-O}{\cdots}\text{O-Si} + \text{H}_{2} \end{equation} | (2) |
\begin{equation} \text{Si-OH} + \text{HO-Si} \leftrightarrow \text{Si-O-Si} + \text{H$_{2}$O} \end{equation} | (3) |
などがあると考えられる1)。これらの反応速度はトリチウムのβ線で刺激され,早くなり,水素濃度が下がり,新たな水素の侵入を許す。結果として透過量が大きくなる可能性がある。反応式で両方向に矢印を付けたのはβ線の刺激の効果を反応速度も含めて検討が必要であることを意味する。OHの形成については添加されているイオンの影響もある。例えばガラスを着色するのに使われるEu2O3であるが,H2によりイオンの価数がEu3+からEu2+に変わるだけで透過率が変わるという報告もあるので2),成分の異なるガラスの水素透過率は最終的には実験で確かめることが望ましい。
β線の影響をみるための比較はホウケイ酸ガラス中の軽水素の透過率の値を用いるべきであるが,筆者の調べる限り報告を見い出すことができなかったので溶融石英ガラス中の値を比較の対象とした。
上に述べたように水素のガラス透過過程は大変複雑であるが,ここではその物理,化学現象を解明するのではなく,放射線管理の参考にするため,保管期間中の水素の透過率は一定であり,3Heは既報告値3)を室温まで外挿した1.05 × 10−18 mol/m s Paの透過率で漏えいするという簡単なモデルでみかけのトリチウムの透過率を求めた。「みかけ」の表現を用いるのは実際に透過したガスを観測したのではなく,別目的の実験でアンプルから取り出されたガスの種類と量を初期のアンプル内のガス量(公称値)と比較して計算で透過率の形で評価したためである。ガラス中に固定されたものも透過とみなされていることに留意していただきたい。本報告では便宜上透過の表現を用いる。
アンプルのガラス壁中に拡散による透過ロスがある場合のアンプル中に残っているガス量を以下の計算で求めた。
アンプルの体積をV,表面積をSa,厚さをLとし,アンプルの中のトリチウムのモル数をMolTとするとその時間変化は
\begin{equation} \frac{\textit{dMol}_{T}}{dt} = - K_{T} \cdot P \cdot \frac{\textit{Sa}}{L} \end{equation} | (4) |
となる。
一方PV = nRTから圧力を消去すると
\begin{equation} \frac{\textit{dMol}_{T}}{dt} = - \frac{R \cdot T \cdot K_{T} \cdot \textit{Sa}}{V \cdot L}\textit{Mol}_{T} \end{equation} | (5) |
となり,この微分方程式の解は
\begin{equation} \textit{Mol}_{T}(t) = \textit{Mol}_{T}(0) \cdot e^{ - \lambda_{L}t} \end{equation} | (6) |
である。λLは漏えいによる時定数で
\begin{equation} \lambda_{L} = - \frac{R \cdot T \cdot K_{T} \cdot \textit{Sa}}{V \cdot L} \end{equation} | (7) |
で与えられる。
トリチウムの崩壊を考慮するとλβ(= ln 2/T1/2 = 1.787 × 10−9 s−1)を用いてアンプル中のトリチウムのモル数は
\begin{equation} \textit{Mol}_{T}(t) = \textit{Mol}_{T}(0) \cdot e^{ - (\lambda_{L} + \lambda_{\beta })t} \end{equation} | (8) |
の形で減少する。
アンプルの中の3Heの時刻tにおけるモル数をMolHe(t)とすると
\begin{equation} \frac{\textit{dMol}_{\textit{He}}(t)}{dt} = - 2\lambda_{\beta } \cdot \textit{Mol}_{T}(t) \end{equation} | (9) |
となる。定数2はT2 → 23Heに由来する。保管が終了する時間がtEだとすると保管終了時にはこの量は3Heのリークにより
\begin{equation} \frac{\textit{dMol}_{\textit{He}}(t)}{dt} = - 2\lambda_{\beta } \cdot \textit{Mol}_{T}(t) \cdot e^{ - \lambda_{\textit{He}}(t_{E} - t)} \end{equation} | (10) |
となっている。ここでλHeはHeの漏えいによる時定数で,(7)式の透過率をKHeに置き換えたものである。保管終了時のHeの量はこれを保管期間内で積分した値で得られ,
\begin{equation} \textit{Mol}_{\textit{He}} = 2\lambda_{\beta } \cdot \int_{0}^{T_{E}}\textit{Mol}_{T}(t) \cdot e^{ - \lambda_{\textit{He}}(t_{E} - t)}dt \end{equation} | (11) |
となる。アンプルの中のガス量はMolT + MolHeで求めることができる。
実際の計算はMathcadを用いて行い,予想透過率を入力し,MolT + MolHeを室温のガス量に換算した値が実際に取り出したガス量に有効数字2桁で一致するまでイタレーションを繰り返してみかけの透過率を決定した。
参考までにFig. 1にT-11の計算例を示す。ほかのアンプルでも同様である。横軸はみかけの透過率,縦軸は開封時にアンプルから出てくるガス量を300 K,1気圧のもとでの体積で示した。アンプルの諸元はTable 1に示された値を用いた。このアンプルはホウケイ酸ガラスであるが,パイレクスガラス中のHeの報告値3)を室温まで外挿した1.05 × 10−18 mol/m s Paで代用した。この値が半減,あるいは倍増した場合のラインも細線で示した。取り出されたガス量が6.4 ccであるのでみかけの透過率は1.5 × 10−17 mol/m s Paであることがわかる。
Dependence of residual gas volume in T-11 on apparent permeability of tritium and He after 22-year storage
試料番号 | 容積 (cc) |
表面積 (cm2) |
壁厚 (mm) |
ガラスの種類 | 保管開始時T2量 (GBq) |
保管期間 (y) |
計算上の生成3He (cc) |
実際に取り出したガス (cc) |
取り出したガス量から計算したみかけのT2透過率 (mol/m s Pa) |
みかけT2透過率/石英中のH2透過率 | リークによる減少率λL(s−1) | λL/λβ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C1-19 | 30 | 77 | 2.0 | パイレクスガラス | 2,220 | 38 | 45.46 | 20 | 4.0E-18 | 400 | 1.28E-09 | 0.7 |
C-22 | 3,700 | 38 | 69.54 | 18 | 1.2E-17 | 1,240 | 3.97E-09 | 2.2 | ||||
C-23 | 15 | 50 | 1.8 | パイレクスガラス | 37 | 39 | 0.7 | 0.16 | 6.8E-18 | 680 | 3.14E-09 | 1.8 |
C1-34 | 74 | 41 | 1.41 | 0.17 | 1.6E-17 | 1,580 | 7.30E-09 | 4.1 | ||||
C1-35 | 74 | 41 | 1.41 | 0.22 | 1.2E-17 | 1,160 | 5.36E-09 | 3.0 | ||||
C1-1 | 5 | 22 | 1.3 | パイレクスガラス | 37 | 38 | 0.72 | 0.19 | 1.9E-18 | 190 | 1.60E-09 | 0.9 |
C1-2 | 37 | 38 | 0.72 | 0.15 | 2.9E-18 | 290 | 2.45E-09 | 1.4 | ||||
C1-3 | 37 | 38 | 0.72 | 0.17 | 2.3E-18 | 225 | 1.90E-09 | 1.1 | ||||
C1-4 | 37 | 38 | 0.72 | 0.17 | 2.3E-18 | 225 | 1.90E-09 | 1.1 | ||||
C1-8 | 37 | 44 | 0.74 | 0.12 | 3.7E-18 | 370 | 3.12E-09 | 1.8 | ||||
C1-9 | 37 | 44 | 0.74 | 0.04 | 1.3E-17 | 1,300 | 1.10E-08 | 6.2 | ||||
T-11 | 30 | 78 | 1.5 | ホウケイ酸ガラス | 1,850 | 22 | 27.3 | 6.4 | 1.5E-17 | 1,500 | 6.49E-09 | 3.6 |
T-12 | 1,850 | 22 | 27.3 | 6.2 | 1.6E-17 | 1,560 | 6.74E-09 | 3.8 |
表中4.0E-18は4.0 × 10−18を意味する。ガス量は室温(300 K)大気圧の体積で示した。
みかけの透過率評価に用いたデータは2つの独立した実験のデータを利用している。初めはアイソトープ協会から1996年に購入したアンプル(50 Ci, carrier free, American Radiolabeled Chemical Inc.)を2018年に固体DTの屈折率を求める実験で開封したときのデータで,試料番号T-11,12でしめす。アンプルの中身は不純物なしのT2ガスで内圧は計算上0.5気圧になる。試料番号がCで始まる試料は1980年前後に協会から購入したトリチウムガスをユーザーの手によって小分けしたものの,実際には実験には用いられずにそのまま40年間保管されていたものである。小分けした時期はまちまちで,トリチウム量はアンプル表面に記載されていた保管開始時の数値を採用した。トリチウム量はT2とし,当該部分の体積と圧力から計算したものである(インタビュー結果)。そのアンプルを水素分子状トリチウムを回収する目的に開発した装置(Fig. 2)で2020年前後に開封したデータを利用してみかけの透過率をもとめた。時期や装置は異なるが,取り出されたガスの量を既知の体積の配管内に放出したときの領域の圧力変化を測定し,室温大気圧に換算する手法は同じである。ここでは数の多い後者を中心に説明する。
Experimental equipment to analyze residual gas in a glass ample
透過率評価に用いた実験装置をFig. 2に示した。これは水素分子状トリチウムの回収用に開発されたものであるが,関係する部分のみを抜粋して描いている。系はグローブボックス内に収納され,ラインは1/4と1/8インチのステンレスパイプで構成され,バルブはスエジロック社のメタルベローバルブSS-4H中心に構成されている。サンプルポート付近のPV1が取り出されたガスの圧力を測定する素子で,大気圧以上にも対応できるULVAC社のキャパシタンスマノメーターCCMT-1000Dを用いた。極低温トラップは取り出されたガスを吸着するもので,クライオポンプ(CRYO-U4H, ULVAC)のヘッドに固定され25 Kに冷却された活性炭セルである。四重極質量分析計にはULVACのQulee HGMを用いた。排気系は50 L/sのターボポンプ(UTM-50, ULVAC)と300 L/minの補助スクロールポンプ(ISP50C, NAEST IEATA Co.)により構成されていて,排気は再びグローブボックス(内容積1.8 m3)内に戻される。グローブボックスにはトリチウム濃度計が装着されていて,換気速度と濃度変化で排気されたトリチウムの量を知ることができる。
ガラスアンプルの中のガス量を知るためには系の各バルブで仕切られたブロックの体積を事前に知っておく必要がある。サージタンク(50 cc)に大気圧の空気を入れ,真空排気されたブロック内に開放し,そのときの圧力変化をVG1で計測することにより開放部分+サージタンクの体積を決定した。これにより真空計内の体積,バルブ内の体積も評価できる。Fig. 2に示された16 ccにアンプル自体の体積と接続ジョイントの体積の合計が測定の対象となる。
実際の操作はガラスアンプルを真空ホースでサンプルポートに接続し,真空排気後2分間バルブTA1を閉じ,リーク量を測定する。再排気後再びTA1を閉じ,パイプ内にあらかじめ入れておいた鉄片を外部よりネオジウム磁石で引き上げ,ガラスアンプルのブレイカブルシールを破壊し,内部のガスを取り出す。圧力を測定し,四重極質量分析計で質量スペクトルを取る。測定後すべての取り出されたガスを極低温トラプに吸着させる。複数のアンプルを処理する場合,上記操作を繰り返す。
取り出されたガスからの水素分子状トリチウムの回収はガスを取り出した翌日に行われる。
冷却用のコンプレッサーを停止すると,チャコールセルの温度は平均0.5 K/minの速度で上昇する。チャコールセルの温度が25~60 Kの間に放出されたガスは3He中心でトリチウムを含まないのでそのまま排気される。60~123 Kの間は水素ガス類(軽水素,重水素,トリチウム)の放出が中心になるので,この間に出てきたガスは液体窒素冷却モレキュラーシーブに吸着させる。123 K以上は窒素,酸素が主な放出ガスになるので,そのまま排気される4)。モレキュラーシーブに吸着された水素類は室温に戻し,放出させ,該当配管体積 × VG4の圧力で量を特定後,必要な場合ZrNiベッドに吸着させ,水素分子状のトリチウムの回収作業は終了する。
Figure 3にC-22から取り出されたガスの質量スペクトルを示す。m/z = 2はH2で,アンプル内面に吸着されていた水分や,有機物,およびもともとガラス中にあるOH基から脱離したものと思われる。m/z = 3は3Heとプロトン化水素(四重極質量分析器のイオン化室でフィラメントに接触した水素分子が分解し,ほかの水素分子に付着したもの)である。m/z = 4はHT,m/z = 5はHTがプロトン化したものとみている。m/z = 6がT2と思われる。プロトン化T2もあっても不思議ではないが,どの試料からも有意なピークとしては検出できなかった。
Mass spectrum of residual gas stored in a pyrex glass ample for 22 years
The original gas was carrier free T2.
Table 1に取り出されたガスの体積とそれより計算されるみかけの透過率等を示した。
第2コラムは公称の体積,第3コラムの表面積は円筒近似したときの計算値であり,角の丸い部分は無視している。壁厚は割って測定した平均値,第5コラムのガラスの種類は関係者のインタビューにより得られた情報で,個々の試料を分析した結果ではない。参考までにホウケイ酸ガラス(Borosilicate glass)は,80%シリカ,13%酸化ホウ素,4%酸化ナトリウム,2~3%酸化アルミニウムで構成されている5)。パイレクスガラスもほぼこれと同じでこれに酸化カリウム0.4%が加わる。第6コラムのトリチウム量は,C試料T試料ともアンプル表目に記載されていた保管開始時の数値である。第8コラムは室温大気圧における3Heの量を表示したもので,トリチウムおよび両者の透過現象は計算に含まれていない。出てくるべきガス量の参考のために表示した。第9コラムが実際にアンプルから取り出されたガスの測定値である。質量スペクトルからわかるように3He, T2の他にH2も含まれているが,本来トリチウムが追い出したものと考えられるので区別せずに計算に含めている。
この表の初期トリチウム量,保管期間,容器の寸法などをもとに,透過率を仮定し,3HeとT2の体積の和が2桁の精度で実験値に合うようにイタレーションを繰り返して得たみかけの透過率が第10コラムに記載されている。第11コラムは野上氏等が測定した石英中のH2の透過率6)を室温まで外挿した値で割ったものである。ばらつきの少ない30 ccクラスのアンプルでは1,500倍ぐらい大きい値を示している。一番右のコラムは漏えいによる減衰率とβ崩壊による減衰率を比較したもので,平均でβ崩壊の4倍ぐらいの速さで減少している。すなわち3年で半減していることになる。今回得られたトリチウムの透過率を過去に報告された石英ガラス中の水素透過率上にプロットしたものをFig. 4に示した。Lee等の報告では300~1,000 °Cの温度領域において
\begin{align} \text{P}_{\text{H}_{2}} &= 4.52\text{E}13\exp(- 8.88(\text{kcal}/\text{mole})/\text{RT)}\ \\&\qquad\text{molecules}\,\text{cm}^{ - 1}\,\text{sec}^{ - 1} \end{align} | (12) |
\begin{align} \text{P}_{\text{D}_{2}} &= 3.89\text{E}13\exp ( - 9.05(\text{kcal}/\text{mole})/\text{RT})\ \\&\qquad\text{molecules}\,\text{cm}^{ - 1}\,\text{sec}^{ - 1} \end{align} | (13) |
の表現が用いられている7)。また,本文に透過実験の1次側の水素の圧力が70 cmHgであると記載されているので,単位変換を行い,
\begin{equation} \text{P}_{\text{H}_{2}} = 8.05\text{E-}14\exp ( - 37100(\text{J}/\text{mol})/\text{RT})\ \text{mol}\,\text{Pa}^{ - 1}\,\text{m}^{ - 1}\,\text{sec}^{ - 1} \end{equation} | (14) |
\begin{equation} \text{P}_{\text{D}_{2}} = 6.92\text{E-}14\exp ( - 37800(\text{J}/\text{mol})/\text{RT})\ \text{mol}\,\text{Pa}^{ - 1}\,\text{m}^{ - 1}\,\text{sec}^{ - 1} \end{equation} | (15) |
と変換して記載している。
Permeability of H2 and He in glasses
NAS-glass and BS glass mean 25%Na2O-25%Al2O3-50%SiO2 and borosilicate glass, respectively.
また,Heに関するRogersの論文では透過率はcm2/sの単位で示されているが,論文のAppendixの説明に従い,1 cm2/s = 4.45 × 10−8 mol/m s Paの変換を行っている。
Figure 4に示すように本実験の値は石英中の水素の透過率を室温まで外挿した値の1,000倍以上大きい。一般にそれ自体でガラス的特性を示すB2O3が石英中に入ると透過率は増大し,逆にNa2Oなどイオンとして入る成分は透過率を下げるといわれている。正確にはホウケイ酸ガラス中の水素の透過率で議論しなければならないが成分に差による透過率の変化は多くて2桁程度なので,3桁の差はβ線の刺激による化学反応の活性化が効いているのではないかと考えている。
試料番号Cで代表するパイレクスガラスアンプルの値は最大と最小で約7倍の差があり,かなりばらつきが大きい。ブレイカブルシールの不良も考えられる。各アンプルは技術者による手作りなのでブレイカブルシールの形状,壁の厚さなどはまちまちである。ブレイカブルシールはガラス管内を大気圧もしくはそれ以下に保ちながらバーナーの炎の中で引きながら切断して作られる。そのため,先端が極端に細く,壁厚が薄くなっている部分はなく,筆者が顕微鏡でみる限り,20~100 µmの厚さが確保されている。ブレイカブルシール部分の表面積はアンプル胴体の部分の表面積に比べて小さいため,透過現象がおなじ拡散の法則にしたがう限り,胴体部分の数値で評価した透過率に与える影響は計算上数%以下であった。ただし,目視では確認できないピンホールの存在を否定することはできないが,そのようなアンプルでは内部は大気圧になっていると考えられるが,筆者が開封したチャコール入りも含めた100本近いアンプルでも,内部が大気圧になっていたものはなかった。
ガラスはβ線やガンマ線などの放射線を受けるとSi-O結合が切断され,茶褐色に変色することが知られている。ホウケイ酸ガラスアンプルでは一様に褐色に変色していたが,パイレクスガラスのアンプルにはFig. 5にみられるように,かなりの色むらがあり,内表面になんらかの汚染があることを暗示している。いずれも実験には用いられなかったアンプルなので,汚染はアンプル製作時の問題ではないかと考えている。表面汚染はトリチウムの吸着を招き,固体内に侵入するのを手助けしている可能性がある。内面の汚染も約7倍というデータのばらつきに影響している可能性がある。
Radiation damage on a pyrex glass ample
キャリアフリーのトリチウムを長期間保管していたガラスアンプルを開封し,取り出されたガス量からみかけのトリチウム透過率を推定した。その結果20年間未使用のホウケイ酸ガラス中のトリチウムの室温におけるみかけの透過率は2 × 10−17 mol/m s Paと石英ガラスの値(既知値の室温への外挿)に比べて約1,500倍大きかった。また,40年間未使用のパイレクスガラス中の透過率は7 × 10−18 mol/m s Paであった。
これらの値で計算したガラスアンプル中のトリチウムの減少率はβ崩壊による減弱率よりも高く,購入してから半年も経過すれば取り出したトリチウム量に対して補正をしなければ10%以上の行方不明のトリチウムが発生することになる。
ここに示したみかけの透過率はガラス中に固定されているものも含む。今後の課題として,減少したトリチウムがガラスアンプル壁の内部に固定されているとすると,ガラスアンプル1本当たりGBqのオーダーのトリチウムが含まれていることになり,保管廃棄が必須となる。周りのトリチウム分圧が低く,水がある場合,置換して出てくる可能性があり,空のアンプルの廃棄に配慮が必要である。
透過して出てきた場合,トリチウムの化学的形態とその量が重要な課題になる。放射線障害防止法では水素分子状のトリチウムと化学形態不明のトリチウムでは排気の限度値に4桁の差があり,慎重に対応する必要がある。