Transactions of the Atomic Energy Society of Japan
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Article
Importance of Maintenance Management in Decommissioning Phase
Masao UESAKAKenta MURAKAMI
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2025 Volume 24 Issue 3 Pages 73-81

Details
Abstract

A nuclear power plant consists of tens of thousands of equipment and facilities. To maintain and manage these equipment and facilities, it is necessary to classify their importance and conduct appropriate maintenance and resource allocation for each facility. In the case of operating plants, this concept has been developed on the basis of the existing importance classification. On the other hand, decommissioning plants have importance levels different from those of operating plants because the requirements for safety functions change from the operation phase and there is no requirement to install criticality management facilities, but the concept has not been developed yet. In this study, on the basis of the data obtained from plant operation and maintenance records, we examined one path to determining the importance level of decommissioning plants, focusing on the relationship risk assessment and maintenance of facilities.

I. 緒言

原子力発電プラントは数万点の機器,設備により構成されており,これらの設備を一律に維持管理することは難しい。機能や重要度に基づいて設備ごとに適正な点検などのリソースを配分することが,合理的に原子力安全を達成するために必要である。

国際原子力機関(IAEA)は安全指針SSG-301で重要度の分類と安全性の関係を示し,標準的な分類のプロセスと考え方を指針として定めることで,各国に安全重要度の分類を推奨している。我が国では,旧原子力安全委員会の定めた発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針(以下,指針)2に基本的な分類方法が示されている。Table 1に重要度分類に関する国内外の技術図書を示す。実用炉プラントの設計や保全では,国の指針に定められた基本的な分類方法を設備ごとの機能重要度へ展開して,系統設備や個別機器の重要度を決めている。

Table 1 Regulations and guidelines for importance classification

規定 概要 備考
IAEA Safety Standards
(SSG-30)
原子炉事故の防止,公衆被ばくの抑制を目的に重要度を分類するプロセスと考え方を提示。 安全機能の重要度分類
発電用軽水型原子炉施設の重要度分類に関する審査指針(原子力安全委員会) 日本国内の原子力発電所についてSSG-30の考え方に基づき設計段階での設備の安全機能の重要度分類の方法を定める。 安全機能の重要度分類
計測制御・機械設備・電気設備の重要度分類指針(JEAG4611,4612)(日本電気協会) 国の重要度分類指針に基づき原子炉施設の各設備の設計段階での分類方法を示し,この方法により設備ごとの安全機能の重要度を具体的に例示。 安全機能の重要度分類
原子力発電所の保守管理規定/指針
(JEAC4209,JEAG4210)(日本電気協会)
効果的な保守管理実施のため構築物・系統・機器ごとの保全重要度の策定を規定。-安全機能の重要度,重大事故クラス,PRA,運転経験などを総合的に考慮する。 保全重要度分類
耐震設計審査指針(原子力安全委員会) 原子力発電所の耐震設計の基本的なプロセスを地盤から機器設計まで総合的に定めたもので,耐震重要度分類も含まれる。 耐震重要度分類
耐震設計技術規程/指針(JEAC4601,JEAG4201)(日本電気協会) 国の耐震設計審査指針に基づき耐震設計に必要なプロセスを具体的に定めたもの。 耐震重要度分類

国内の原子力発電設備は,設計段階においてほぼ一律に国の指針に示される分類例に倣った重要度分類がなされて建設されている。一方で,国の指針には「個々に対する具体的要件は,本指針の基本的目標に照して十分適切と考えられる方法を選択」と記載されている。これを踏まえると,個別のプラントごとの設備設計を勘案し,運転開始以降の当該プラントや先行プラントの運転経験や確率論的安全評価(以下,PRA)に代表されるリスク情報も活用して,運用上の重要度を再構築すべきものと考えられるが現状の課題点として建設時の基本的な分類を継続している。先行研究でも,PRAなどを活用した重要度の設定方法として,運転モードや停止期間ごとにプラントの状況を分類し,それに応じたRisk Achievement Worth(RAW)やFussell Vesely(FV)の値を用いて機器・設備の重要度を分類する方法が提案されている3

さらに廃止措置プラントでは,設備の機能要求が運転プラントから変わり,休止・除却機器などが段階ごとに増えていくことから,機器・設備の重要度は運転プラントとは大きく異なることは明白である。先行研究では廃止措置プラントにおける設備の劣化管理方法が提案4されており,廃止措置プラントで重要と位置付けられる設備が特定され,機器・設備の重要度を運転プラントとは大きく異なるものとすべきであることが提案されている。これらの状況から,重要度分類の考え方や機器等の重要度の変更プロセスを整備することにより,廃止措置をより安全かつ合理的に進めることができると考えられる。

本研究では,廃止措置を安全かつ合理的に進めるために,確率論や先行研究を踏まえた重要度に関する分析によって廃止措置プラントにおける安全重要度や耐震重要度を適正に策定し直すプロセスを構築し,これに基づいて標準的な保全重要度のモデルを示すことを目的とする。

II. 論文のスコープと分析方法

本論文では,廃止措置移行後の初期段階(以下,廃止措置段階)における原子力安全に着目した設備の安全重要度,保全重要度および耐震重要度の分類の考え方について論じる。廃止措置段階では,使用済み燃料が公衆被ばくに与える最大リスクであるため,プラント内に使用済み燃料が残存する廃止措置の初期段階を検討の対象期間とする。この検討の過程で必要となる運転プラントにおける重要度についても廃止措置プラントの重要度検討や確率論評価の過程では必要な情報となるため部分的に論じる。なお,「原子力安全のためのマネジメントシステム」(電気協会 技術指針JEAC4111)では「保安活動の重要度」が規定されているが,これは上記の重要度を総括した管理活動(ソフト面)の重要度であり設備の安全に着目したものではないため,本検討の対象外とする。

重要度検討プロセスは既存の指針,ガイドなどに基づき定められた運転プラントの安全重要度を基本として定められているが,現状の設定方法に課題があることを確認した。この課題点への対応と廃止措置段階の重要度を策定するため,先行研究における安全対策と重要度の関連と,実用炉の廃止措置段階の許認可解析を関連付けて廃止措置段階で重要となる公衆被ばくを基準とした分析・検討を実施した。

廃止措置段階で設備管理の対象とすべき設備抽出方法には事故時の影響などの観点から監視すべき範囲を定める考え方として原子力規制検査(ROP)の監視領域を用いる。さらに重要度やプラント運営の判断として一般に用いられている確率論的リスク評価(PRA)の情報を用い,設備ごとの故障要因や故障確率をインプットとして故障の場合の安全への影響を定量的に評価した研究を本研究の設備重要度の検証における参考とした。

III. 廃止措置段階における原子力発電所の重要度分類の検討

1. 既存の重要度分類検討プロセスの策定

重要度分類において国内ではベースとしている考え方は国の指針に定められている。さらにその具体的な分類方法として電気協会の技術指針JEAG46125が民間規格として定められている。さらに阿部6は,この分類方法を具体的な設計・運転段階での分類プロセスとしてあるべき状態と実際のプラントでの分類方法のギャップについて文献6に記している。Fig. 1にて文献6に記される分類プロセスに加えて本研究にて対象とする廃止措置段階を追加した重要度分類策定のフローを示す。Fig. 1では3~4段目に示す運転段階の重要度分類が国の指針やJEAG4611,46125で定義される安全重要度とJEAC4209に定義される保全重要度に該当するものであり,いずれもこれらの規定に示される考え方に基づき設備設計やリスク情報などFig. 1に示す情報を総合的に勘案して定められるべきものである。

Fig. 1

Safety importance classification process6)

ただし,Fig. 1は本来的にあるべきプロセスを示したものであり,実際の国内の原子力プラントでは図中2段目の詳細設計段階の分類までに留まった状態で運用している。IAEAや国の指針の記載内容を踏まえると3段目に示す運転段階の安全重要度分類をプラントごとに行い,これをさらに4段目の保全重要度へと展開することが本来の重要度分類としてあるべき姿であり,これが運転段階のプラントにおける重要度分類の課題であることが文献6に示されている。

本研究ではこの課題を踏まえ,廃止措置段階では運転段階のプラントからの移行後に多くの設備で運用・管理状況が変わること,さらに図中5段目に示す廃止措置のプラント状態,リスクへの対応の必要度合い(グレーデッドアプローチ)などを考慮し設備ごとの重要度分類の再設定を行うプロセスを定める。

これは,運転段階に比較し廃止措置を適切に進める上で重要度分類の観点からの特徴的なものであると以下の事項から考えられる。廃止措置段階では公衆や作業従事者の安全確保上の主要な機能として被ばく管理・放出管理が主な管理事項として求められ,このための長期使用設備の維持管理を適切に実施することが必要となる。これを達成するため運転段階の設備の要求機能(止める,冷やす,閉じ込める)からの変化を考慮した安全重要度およびこれに合致した保全重要度を策定し,さらに重要度に応じた設備管理を行うことが重要となるためである。この廃止措置段階で必要な機能として残るものは燃料貯蔵施設の臨界防止機能,放射性物質(使用済み燃料含む)閉じ込め機能,使用済み燃料冷却機能のみとなり,これらの重要度に応じた設備管理の必要性については先行研究4にて論じられている。

耐震重要度については,国の指針「耐震設計審査指針」7および日本電気協会の技術指針「原子力発電所耐震設計技術指針」(JEAG4601)8にて重要度分類の方法が記載されているが,設計段階に用いるものであり指針には設備ごとに重要度が指定された記載となっているため,安全重要度に比較すると運転段階以降においても設備ごとに指針と一致する確定的な重要度分類となりプラントごとの再設定の余地は大きくない。しかし,高温ガス炉などの研究炉では耐震重要度ごとの機能の考え方から耐震重要度を変更している事例もあり9,この事例と同様に設備ごとの機能的な面から廃止措置プラントでも耐震重要度を変更することは可能と考えられる。耐震重要度は運転開始以降では通常の施設管理への関連は小さいが,耐震重要度を変更した場合,高経年化技術評価方法やその後の長期施設管理計画などへの影響があるため,廃止措置段階でも適切な重要度へ見直すことは必要と考えられる。

2. 廃止措置プラントにおける安全重要度の評価

ここまでは主に現行の安全重要度,耐震重要度に関するプロセスと廃止措置炉の実運用のあるべき姿のギャップを抽出し,このギャップへ対応する新しいプロセスについて論じてきた。ここでは廃止措置プラントの重要度について国の指針などの趣旨を踏まえ公衆被ばくを基準として評価する重要度分類プロセスについて検討を行う。

廃止措置では反応度抑制などの機能が不要となり,主に公衆の被ばく防止・放出管理が要求機能として掲げられる。この観点から廃止措置に関する先行研究10では,廃止措置プラントに関わる安全性評価手法を現行の被ばく防止にかかる規制に合わせて1事象当たりの公衆被ばく量で重要度を分類し,重要度に応じて安全対策の要求レベルを決める提案がなされている。この提案内容をTable 2に示す。

Table 2 Classification of severity for the public exposure8)

重要度 基準
(1事象当たり被ばく)
安全対策
A > 5 mSv 要求
B 事象ごと ≦ 5 mSvかつ
長期被ばく > 300 µSv/y
自主的安全対策
C 事象ごと ≦ 5 mSvかつ
300 µSv/y ≧ 長期被ばく > 10 µSv/y
D 長期被ばく ≦ 10 µSv/y 不要

本研究における廃止措置段階の設備の重要度の判定として,設備の機能喪失が事故の起因となりその事故による公衆被ばくを基準として判断するという観点から,この先行研究と同様の判定基準を活用可能と考える。この考えに則り,廃止措置プラントでの設備破損を想定した場合に公衆へ与える影響について,廃止措置計画認可申請(許認可)における安全解析で想定される事象と,この安全解析の前提条件を超える事象に分けて以下のように考える。ただし,先行研究10では解体廃棄物の公衆に対する影響も考慮しているため重要度を判断する設備自体が有する放射線強度が直接的に公衆に与える影響を考慮してその構造物の重要度を分類しているが,本研究では当該設備が運用中に機能喪失した場合に,プラントに内包する放射性物質が公衆に及ぼす影響による分類を行っており,この差異から想定事故後の公衆被ばく計算モデルが一部異なるものとなることは注記しておく。先行研究と本研究ではこのようにモデルは異なるものの重要度の判断基準として用いる公衆被ばく線量区分の考え方は共通と考える。

(1) 形状維持により使用済燃料を保護する構造物:機能喪失により安全解析の想定を超える構造物

使用済み燃料を内包する廃止措置初期段階のプラントでは建屋内の使用済燃料プールに燃料が保管されていること,使用済燃料プールは原子炉建屋により支えられていることを考慮すると,この2つの構造物は燃料を環境に直接露出させないこと,また燃料の配置により臨界防止を維持するために形状維持が必要となる。この形状の破損により使用済燃料が環境に露出または臨界に至る事象は安全解析での想定事象を超える事象でありTable 2の公衆被ばくで最重要Aの基準被ばく量を超えることとなる。よってこの2つの構造物は安全解析の条件を満足させるため設計時の重要度から変更はなく安全重要度1と位置付けて維持管理することが必要である。

ただし,福島第一原子力発電所の事故炉である1~4号機については先行研究11により,原子炉建屋,格納容器の損傷度合いの正確な把握および補修が困難であることから,原子炉建屋の形状維持に閉じ込め機能を要求せず,冷却による現状の燃料形状維持による安定性の確保で閉じ込めを行うことが記載されている。さらに1,2,3号機のデブリ取り出し時には建屋や格納容器の加工が必要となることなどを踏まえて閉じ込めのための原子炉建屋の形状維持を含めて耐震性の確保や対応策が今後の課題とされている。このためこれら事故炉の廃止措置における建屋などの形状維持は別途の研究に委ねることとし,本研究の対象外とする。

(2) 放出の障壁や冷却などの機能自体で安全確保する構造物:機能喪失の場合でも安全解析の想定を超えない構造物

(1)項以外の構造物については,機能喪失した場合でも直接的に燃料の外部への露出や臨界に至ることはなく,この設備の機能喪失により発生する事象ごとに重要度判断基準とした公衆被ばくを確認することで定量的に重要度の判定ができる。

発生する想定事象については,廃止措置プラントの廃止措置計画書に記載された最大の被ばくを与える事象として国内の廃止措置プラントの安全解析では共通的に「燃料落下事故」が記載され,いずれのプラントでも解析結果から公衆被ばくは1 µSv以下と評価されている。これはTable 2に示す最も低い重要度Dに該当する。

このことから(1)に示す構造物以外に運転段階では高グレードと位置付けられた非常用冷却系や中央制御室空調系は,廃止措置段階では使用済み燃料冷却系のバックアップや中央制御室の制御設備の温度上昇による故障防止のための設備であるため安全重要度3へ変更することができると考える。

また,これら以外の系統で廃止措置プラントにて機能が要求される設備は運転プラントで当初から安全重要度3に該当した設備(燃料プール冷却系,廃棄物処理系,空調系など)であり,これらについては廃止措置移行後も安全重要度3と判断できる。

この結果を踏まえてFig. 1で考案した5段目に該当する重要度分類プロセスとしてFig. 2のフローを考案した。これは廃止措置で必要となる機能を廃止措置計画書に定義される設備およびROPの監視領域の観点から選定し,これらを国の指針に基づく運転段階の重要度分類を経て廃止措置段階の重要度分類へ至る本研究で提案するプロセスである。

Fig. 2

Importance of safety and maintenance screening flow in decommissioning

Figure 2に示す本研究でのフローでは運転段階では重要度1または2の設備は安全への影響が大きいが,廃止措置段階では前項に記載のように多くの機能が不要となり,ここで公衆被ばくへの影響の大きさを基準としてスクリーニングを行うことで廃止措置段階の機能に応じた必要な設備を抽出する。この結果として,許認可に示される安全解析の結果を引用し,安全解析では想定されない事象で公衆被ばくが許認可の記載を超過する可能性のある事象を発生する構造物は影響の大きい設備として,安全重要度1または2に位置付けることが必要となる。これら以外の設備は運転プラントで要求された機能が外れ,この重要度1,2以外のスクリーニングプロセスをたどり実質的に重要度3設備以下に定義付けることができる。このスクリーニング後に高重要度1,2設備として残る設備は少数でありFig. 2に例示される原子炉建屋と使用済燃料プールが挙げられる。

3. 廃止措置プラントにおける保全重要度分類と設備管理のモデル

設備を除去する廃止措置段階においては,重要度分類の活用方法としては設備設計への必要度は小さく,むしろ運用継続設備における維持管理,施設管理方法の策定への活用が主目的となる。この観点から安全重要度分類に加えて保全重要度の分類適正化についても廃止措置を合理的に安全性確保しつつ進めるためには重要と考えられる。

保全重要度は電気協会指針JEAG421012にて「安全機能,リスク情報,供給信頼性,運転経験等を勘案して保全プログラムを実行する際における構築物,系統および機器の重要さ度合い」と定義され安全重要度に加えてリスク情報を活用して設定することとされている。ここで廃止措置プラントでは,これまでに検討したように原子炉建屋および使用済み燃料プール以外の設備はすべて安全重要度3以下の設備と再整理できる。

重要度1設備として位置付けるものは原子炉建屋および使用済燃料プールであり,これらの保全重要度も最重要として位置付け,保全内容としては従来から形状維持を目的として実施している定期的な外観・目視点検(建築物点検含む)を継続することとなる。

重要度1設備以外で維持管理すべきものは重要度3設備またはノンクラスとして位置付けるため維持管理の面では重要度3設備の設備数が最も多く,この重要度の適切な管理が機能の安全と合理性への影響として大きい。ここで運転プラントの重要度設定方法を参考として非常時・事故時に必要となる機能(a区分)と常用機能(b区分)に分類し重要度3の保全重要度を2段階で設定する。この2区分について具体的な設備の代表として3つの例を以下に示す。

  • ・   非常用ディーゼル発電設備(DG)

    DGはFig. 2のフローにて廃止措置で機能要求がなく保全重要度側のスクリーニングへ移行し非常時にプラント設備の電源となる非常用設備のため,保全重要度3-aとなる。

  • ・   復水補給水系(MUWC)

    MUWCはFig. 2のフローにて廃止措置で機能要求があり運転時の安全重要度3のため保全重要度側のスクリーニングへ移行し非常時に燃料プールへ注水するための非常用設備のため,保全重要度3-aとなる。

  • ・   廃棄物処理系(RW)

    RWはFig. 2のフローにて廃止措置で機能要求があり運転時の重要度3のため保全重要度側のスクリーニングへ移行し通常運用設備のため,保全重要度3-bとなる。

この保全重要度の細分化により設備の機能維持の確実性について非常時などには確実に安全を担保でき,常用系の保全活動は状態監視などによる維持管理を行うことで合理的な整理ができると考える。

これらに安全機能要求の対象外(ノンクラス)設備を加え本研究にて提示する保全重要度分類と保全方針のモデルとしてまとめTable 3に示す。

Table 3 Maintenance importance classification

設備の機能・目的 安全重要度
(廃止措置用)
対象設備の量的割合
保全重要度
保全方針
使用済燃料プールの形状維持
(原子炉建屋,使用済み燃料プール)
重要度1(MS-1,PS-2)
原子炉建屋(MS-1)
使用済燃料プール(PS-2)
設備割合:1%未満a)
保全重要度1
(重要度高)
形状維持の観点での点検,定期的な検査
非常時,事故時の防護,緩和設備
(使用済み燃料プール注水,防火,緊急時対応など)
重要度3-a(MS-3-a)
設備数:約6%a)
保全重要度2
(重要度 中高)
非常時の厳しい環境でも確実に動作できるよう保守する。
常時使用し発電所の維持管理のための設備(燃料プール冷却,廃棄物処理など) 重要度3-b(MS-3-b)
設備数:約65%a)
保全重要度3
(重要度 中低)
常時動作のため状態監視を基本とする
安全機能要求の対象外
(タービン系,主復水器系,発電設備など)
ノンクラス
設備数:約29%a)
保全重要度4
(重要度 低)
保全は事後保全または対象外。
ただし波及影響や水内包設備などの考慮が必要なものは状況に応じて設定。

a): Percentage of facilities in BWR representative plants (in the early stages of decommissioning).

廃止措置プラントでは運転期間を終えたプラントを継続して使用するため,経年的な設備劣化と保全の関係の適切性が運転プラントに比較してより重要となり設備不具合への感度が高くなることは,先行研究13の廃止措置プラントの設備不適合データに表れている。また,これまでに論じたように設備の要求機能の変更や多重設備の運用台数の減少など,運転プラントとは使用状況が異なるものが多い。さらに廃止措置ではグレーデッドアプローチの考え方を適用し管理の重点化と合理化が国際的に推奨されている。これらを考慮すると,運転プラントと同様の保全を継続するのではなく,Table 3に例示する重要度・保全方針モデルのように重要度の再整理から各設備の保全方式を見直し,廃止措置に関わる設備の機能要求や使用状況に適合した保守管理を行うことが必要である。Table 3で例示する設備数では90%以上が保全重要度3以下となり,多くの設備の保全方針について状態監視を基本とした保全方針とすることができるため,上位の重要度の設備へのリソース集中をすることで安全性と合理性を高めることができると考える。

また,重要度分類と関連する設備管理の合理性について,調達段階の観点での考察も加える。ここで検討する安全重要度および保全重要度は,維持管理のための調達段階の重要度により品質面からの安全性確保の考え方にも影響を及ぼすためである。原子力プラントの調達段階での品質確保の考え方は法令・規則などに規定される品質保証プログラムを事業者ごとに定め,これに則って調達管理の品質グレードを決定しており,この品質グレードに応じた調達上の要求事項が定められる。品質グレードは設計段階では安全重要度により決められるため,安全重要度の高い設備は品質グレードが高く位置付けられ,調達における技術審査,監査,解析の検証などに対する要求が課せられる。逆に品質グレードが低く位置付けられる場合には合理的な調達プロセスが可能となる。廃止措置段階の調達管理では既存設備の維持管理や設備除去作業を目的とした調達となるため設計段階とは差別化を図り,保全重要度に応じた品質グレードの設定が妥当となる。ここでTable 3に例示する重要度分類モデルに記載した重要度別の設備の比率では,プラント設備系統数はおおよそ200系統あるうち,7割程度が重要度3設備となり調達段階で品質確保のために実施する技術審査などの要件が重要度に応じた合理的な内容とできる。これにより汎用設備の適用や調達先の選択肢を広げることができるなど廃止措置段階では保全重要度を検討することで調達段階から設備維持にいたる広い範囲の保安活動プロセスの合理化を行うことができる。

4. 耐震重要度分類

(1) 廃止措置における基本的な耐震重要度分類

耐震重要度についての先行研究9では,研究炉の設備ごとの安全重要度分類に関して原子炉圧力容器や制御棒は耐震重要度Sと定義されておりこれらは変更しないこと,冷却系統や格納容器は耐震重要度S設計であったものを耐震重要度Bに変更することの提案がなされている。これは,炉心冷却系機能が地震により機能喪失した場合の燃料と原子炉圧力容器の温度を評価し許容温度を超えないことと公衆被ばくが基準値(5 mSV)を超えないことを解析により確認し重要度の変更を行うものである。

本研究では,先行研究9で評価された研究炉と同様に商用炉の廃止措置プラントについて,前章での安全重要度の検討から,原子炉建屋と使用済み燃料プールが破損した場合は燃料が環境に暴露し公衆被ばく増大を引き起こすため,これらは当初設計通りのSクラス地震に耐える耐震重要度Sを維持することが必要となる。一方で建設段階では耐震重要度Sであったもののうち代表的な設備として非常用冷却系や中央制御室空調系は前章の検討から機能喪失時においても廃止措置段階では直接の被ばく増加には至らず,廃止措置プラントで想定される最大の事象の解析結果における公衆被ばく1 µSv以下でありこれに包含される。さらに使用済燃料の温度は十分に冷却が進んだ使用済み燃料であるためバックアップ冷却系などの起動までに十分に許容温度を下回る状態が確保されている状況を勘案し,耐震重要度Bへと変更することができると考えられる。廃止措置にて運用上の耐震重要度を下げた設備について設備が有する耐震性は改造等をしなければ変更はないため,耐震性の裕度は運用上の耐震性の要求を上回る実力値となり大きくなる。

また,文献4において耐震重要度と安全重要度の整合性が記載されていることを考慮しても上記の耐震重要度分類が安全重要度の考え方と合致し,この分類の適正性が確認される。これらの廃止措置段階における耐震重要度分類の検討結果をTable 4に示す。

Table 4 Seismic importance classification for decommissioning

対象設備 安全重要度
分類
耐震
重要度
安全解析の担保として建屋の形状維持
(原子炉建屋,使用済み燃料プール)
重要度1 S
廃止措置で機能が要求される設備 重要度3 B
上記以外 ノンクラス C

耐震重要度は耐震設計のための分類であり,廃止措置における設備除去の工程において直接的に活用するものではないが,廃止措置への移行に当たり,運転中に実施した高経年化技術評価の長期施設管理計画の遂行計画や廃止措置期間中の保守管理としての支持構造物耐震性確認点検の実施方法検討などの合理化・適正化に活用すべきものとなる。さらに,欧州では廃止措置移行後にも定期安全レビュー(PSR;Periodic Safety Review)による安全性向上が求められる状況で,設備の耐震性の確認が必要となる。PSRでは重要度と耐環境性能を考慮し低重要度の波及影響などの観点も評価対象となる。この観点から廃止措置移行後の耐震重要度分類を変更し,波及影響の再整理の結果はPSRで評価される保安活動や合理的な保守管理活動に反映し安全性向上に活用すべきものと考えられる。

ここで廃止措置段階では特有の耐震設計に対する配慮が必要となる場合があることについて触れておく。設備の解体に伴う当該設備の耐震性に及ぼす影響と解体物の撤去などに必要となる建屋構築物(壁など)を部分的に撤去する際の建屋の耐震性や区画をまたぐ波及効果への影響である。耐震重要度は設計段階で決まり改造等がなければ維持されるが,設備の解体により形状,重量,支持構造に変更が生じ機能維持が必要な段階で耐震性が変更される場合が想定され,解体過程での設備の機能維持が必要な期間は耐震性を確認しながら解体順序を定める必要がある。また,原子炉建屋については大型解体物の搬出などのため壁面や建屋内区画壁の部分的な撤去が想定され,この場合には耐震性の確認に加え,区画壁の撤去による区分分離などが変更される波及効果への影響も確認が必要となる。また,設備自体の耐震性は変更がない場合でも地盤追加調査や新知見が加わることにより基準地震動が変更となる場合は運転プラントと同様に耐震設計の見直しが必要となる場合もあることには注意が必要である。

(2) 廃止措置工程中の設備の状態変化を考慮した耐震重要度

ここで廃止措置段階では特有の耐震設計へ対する配慮が必要となる場合があることについても言及する。設備の解体に伴う当該設備の耐震性に及ぼす影響と解体物の撤去などに必要となる建屋構築物(壁など)を部分的に撤去する際の建屋の耐震性や区画をまたぐ波及効果への影響である。耐震重要度は設計段階で決まり改造等がなければ維持されるが,設備の解体により形状,重量,支持構造に変更が生じ機能維持が必要な段階で耐震性が変更される場合が想定され,解体過程での設備の機能維持が必要な期間は耐震性を確認しながら解体順序を定める必要がある。

また,原子炉建屋については大型解体物の搬出などのため壁面や建屋内区画壁の部分的な撤去が想定され,この場合の耐震性の確認に加え,区画壁の撤去による区分分離などが変更される波及効果への影響も確認が必要となる。また,設備自体の耐震性は変更がない場合でも地盤追加調査や新知見が加わることにより基準地震動が変更となる場合は運転プラントと同様に耐震設計の見直しが必要となる場合もあることには注意が必要である。

このような観点からも,前節に示した保全重要度に応じた点検を継続的に実施していくことが重要と考えられる。この考え方を次項に示す波及影響の考慮とともにTable 5にまとめる。

Table 5 Case study of seismic importance classification in spreading influence

起因事項 事象 検討事項 耐震重要度の検討対象
地震の
波及影響
・地震 ・地盤の相対変異(建物間のずれ含む)
・耐震重要度 異重要度配管など接続部
・低重要度設備破損時の周囲設備の影響
・他設備の駆動源(圧縮空気,電源)
・原子炉の隣接建屋:
原子炉建屋の形状維持機能への影響
・原子炉建屋クレーン,燃料プール周辺設備:
建屋および燃料プールの形状維持機能への影響
地震の
随伴事象
・外部溢水
・内部溢水
・火災
・津波による屋内外設備の溢水
・配管破断によるプラント内溢水
・火災による設備への影響
・重油,軽油,潤滑油などの危険物貯蔵施設:
内包油の火災による建屋形状維持機能への影響
(例:コンクリートの表面温度評価など)
設備解体・搬出
過程の建屋機能
・解体工事 ・解体工事・搬出時における機能喪失 ・原子炉建屋壁,柱:
大型設備の解体/搬出時における耐震壁・柱撤去時に原子炉建屋の耐震性への影響

(3) 上位の重要度の設備への波及影響を考慮した耐震重要度

近年の耐震設計では福島第一事故の進展を踏まえて個々の設備に対する要求事項だけではなく,当該設備が地震により破損した場合に影響を及ぼす可能性のある機器を抽出し,その抽出した範囲の設備には相互に波及影響を考慮して設計することが必要となる。

例えば,耐震重要度B設備がBクラス地震を超える加速度の地震により破損した場合,近傍に耐震重要度S設備が存在する場合には影響を及ぼすことが想定される。このため耐震重要度を波及影響の範囲内の最大の設備に合わせて設定し,想定される最大のSクラス地震発生の場合でもそれらの機能に異常がないことを確認する必要がある。

具体的に廃止措置段階での耐震重要度を考えると,運転中プラントと同様に耐震重要度Sを維持する必要がある設備は,原子炉建屋と燃料プールの2設備であることをFig. 2にて示した。この2設備は建築物であり鉄筋コンクリート構造であるため,原子炉設備・機器の内包物である水,油,電流などの波及影響を受けることはないが,Table 5に示す波及影響を考慮し耐震重要度B以下と分類した設備について,耐震機能を耐震重要度S相当と向上することや破損時の影響を詳細に評価し影響が耐震重要度S設備に影響のないことの確認などが必要となる。

なお,廃止措置へ移行後の設備の耐震重要度分類について,原子力学会標準「発電用原子炉施設の廃止措置時の耐震安全の考え方:2013」(AESJ-SC-A006:2013)14に基本的考え方が示されている。これによると使用済み燃料冷却に必要な設備は共用中(運転中)と同じ重要度クラスを維持し,それ以外の設備は破損時の被ばく評価によりBクラス(被ばく可能性あり)またはCクラス(被ばくなし)と分類することが記載されている。本研究では,この基準の考え方を適用しつつ,使用済み燃料冷却に必要な設備も被ばくの評価により分類する考え方を提案するものである。

5. PRAによる検証

先行研究3ではPRAを用いた機器の重要度分類方法が提案されている。この提案では重要度の判断基準としてRisk Achievement Worth(RAW)やFussell Vesely(FV)の値を用いた重要度の判断を行うこととされており,RAW = 2,FV = 0.005が重要度の高低を判断する基準として設定されている。廃止措置プラントにおけるRAWは先行研究3に国内代表的なBWRプラントの解析結果が示されており,これによると非常用冷却系はRAW = 1.0であり重要度低と確認される。この解析結果には中央制御室空調系は含まれていないが,この系統は制御室環境を保ち制御機器の温度上昇による故障防止を図る目的であり,燃料冷却系統の安全への寄与度が間接的(つまり,この空調系の故障が即座に燃料冷却系へ影響を与えるものではない)であることを考慮すると直接冷却である非常用冷却系に比較して中央制御室空調系のRAWへの影響は小さいと考えられ同様にRAW = 1.0と判断できる。またFV値はCDF基準値とRAWと関連した値であり廃止措置プラントのCDF基準値は10−17程度4と運転プラントに比較して相当に低くこれら2つの系統のFV値は判定値0.005を十分に下回ることは明らかである。以上の確認によりPRAの観点から非常用冷却系や中央制御室空調系が重要度分類上低に位置付けることが検証される。

IV. 結論

国内の発電用原子炉の廃止措置となるプラント数は2011年の福島第一事故以降に本格的に増加している。一方で,規制や事業者などが定める廃止措置プラントの重要度分類に関する標準(法令,指針)などは存在せず,廃止措置に移行した後に維持管理すべき設備の重要度や保守などの検討が数少ないながら先行研究で言及されている程度の状況である。

このような状況を踏まえ本研究では,以下の事項について原子力分野における国内外の基準や先行研究を踏まえて安全重要度,耐震重要度,保全重要度に関して標準的な策定プロセスおよびモデルを示すものである。ただし,福島第一原子力発電所の事故炉については前提条件が大きく異なるため本研究では扱っていない。

  1. (1)   現状の安全重要度の分類プロセスの明確化と課題抽出(あるべき姿の提示)
  2. (2)   原子力規制検査の安全に関する監視領域を用いて廃止措置に必要な設備抽出を行い,これらについて重要度分類プロセス構築
  3. (3)   廃止措置段階の安全重要度に即した保全重要度設定および保全方針の策定と活用による合理化モデルの提示
  4. (4)   廃止措置段階の耐震重要度設定および波及影響評価などの考え方とプロセスの提示

また,現在の原子力規制検査や保全方針策定などの場面ではリスク情報を考慮した意思決定や方針策定が進められており,本研究の考え方は運転プラントの重要度分類や保守管理の最適化にも寄与すると考えられる。

 

本論文作成にあたり原子力学会発表やその後の意見交換などで有益な助言・コメントを頂いた電力中央研究所 原子力リスク研究センターの森田様および日本原子力研究開発機構の求様に深く感謝の意を表する。

References
 
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