抄録
都市汚染大気から採取される粒子状物質ないしタールにはがん原性が見出されており, 大気汚染の原因となる石炭, ガソリン, 航空機燃料などの化石性燃料生成物にもがん原性が見出されている。本論述は重油燃焼生成物を用いた長期吸入実験の際採取された煤の催腫瘍性を新生仔マウス法で検討した結果である。
生後24時間以間以内の雌雄ICR/JCLマウス新生仔皮下に, 1ジエラチンに懸濁した煤, 体重1gあたり2mgを注射した後, 引続き同量を1週後計2回 (第1群), 1週おき3回計4回 (第2群), 陽性対照としてベンツピレン体重1gあたり26.7μg1回 (第3群),陰性対照として1%ジエラチン (第4群) をそれぞれ注射し30か月にわたって腫瘍発生を観察した。
煤およびベンツピレン投与群雄の全腫瘍発生数はゲラチン対照群に対して有意に高かった。けれどもこの差異は雌では明確には現われなかった。主な腫瘍発生部位は, 雌雄ともに肺, 淋巴組織, 肝, などであった。煤投与群では淋巴腫の発生率が雌雄共に投与量に依存し, 雄では対照群との間に有意差がみられた。ベンツピレン群では肺および肝腫瘍発生率が対照群と有意差を示したが, 淋巴腫では有意差がなかった。担腫瘍動物の生存日数は, 雄では各群とも対照群に比べて短縮を示したが, この差異は雌では再び明らかでない。雌雄差を生じた原因は不明である.