大気汚染学会誌
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レセプターモデルの現状
溝畑 朗
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1991 年 26 巻 2 号 p. 59-71

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抄録

レセプターモデルで代表的なCMB (Chemical mass balance), 因子分析, 多重線形回帰を概説するとともに, これらによる研究に焦点をあて現状の紹介と若干の将来展望を試みた。
CMBでは, 発生源プロファィルの適, 不適が結果の良否を支配する。 微小粒子中の希土類元素が石油精製施設や, おそらくガソリン車の指標として利用できることが明らかにされたが, 微量元素組成の発生源解明はまだ十分でない。
米国東部の広域硫酸塩粒子には, 指標となる微量元素 (Se, As, Sb, Vなど) が伴われ, 遠く1000km以上も離れた汚染源地域からの寄与同定に利用できる。 QTBA (Quantitative transport bias analysis) は, 広域を対象とする最も有望なハィブリッドモデルで, レセプターでの濃度測定データと風の流跡線解析から, 輸送されてくる地域の濃度分布を推定できる。
有機化合物も発生源同定に利用され, 大気中では粒子にしか存在しない有機成分グループや, 逆に揮発性有機成分を指標として, ガソリン車, ディーゼル, 木材燃焼煙起源の粒子状物質の寄与同定ができる。
多数の変異原性有機物の同定や分析を避けて, 自動車排気と木材燃焼煙の変異原性が, 多重線形回帰を応用して巧みに同定された。
走差型電子顕微鏡エネルギー分散X線分析計で観測された粒子毎の豊富な情報を活用して, より信頼性の高い発生源同定の可能性が示された。
加速器を利用する質量分析法よって, 数10μ9の試料炭素から炭素14の分析が可能となり, 有機物グループ, 特定有機物あるいは炭素性粒子の発生源同定にも応用される。
因子分析モデルは, 発生源に関してのスクリーニング, プロファイル導出あるいは同定に利用され, 有用な結果が多く得られている。 しかし, 必ずしも常に合理的な結果が導かれるとは限らない。 結果はデータセット選定の適, 不適および物理的に意味のある座標軸への変換によるところが大である。 コンピュータ利用の普及によって, 解の物理的制約を組み入れた演算方法など, 複雑な演算を含む新しいモデルや解析方法の開発も盛んである。

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