炭素
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学位論文紹介
表面被膜存在下における黒鉛電極の反応場に関する研究
稲生 朱音
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2020 年 2020 巻 295 号 p. 196-198

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抄録

リチウムイオン電池(LIB)の負極活物質には黒鉛が広く使用され,黒鉛層間へのリチウムイオンの挿入脱離反応が進行する。黒鉛電極上では初回充電時に電解液が分解されることによりSolid electrolyte interphase (SEI)と呼ばれる表面被膜が形成される。SEIはリチウムイオン伝導性を有する一方で,電子伝導性は持たず,電解液のさらなる分解反応を速度論的に抑制するため,黒鉛上の負極反応には必要不可欠である。しかしながら,SEIはリチウムイオンの挿入反応が進行するエッジサイト上に形成されるため,界面イオン移動の反応サイト数の減少や界面抵抗の増大をもたらすと考えられる。さらに,SEIの性能向上のためにvinylene carbonate (VC)やfluoroethylene carbonate (FEC)に代表されるようなSEI形成剤が電解液に添加され,それにより構成成分や物理的性質も変化するが,これらの性質の違いが界面反応性を大きく左右することが予想される。つまり,形成されるSEIの性質は黒鉛電極表面の反応場に大きな影響を与え,LIBのレート特性やサイクル特性などにも影響があると考えられる。

従来のSEIに関する研究の多くは表面鋭敏な分光法を用いた成分分析や原子間力顕微鏡などを用いた物理的性質の解析が主たるものであり,これらの手法では界面でのリチウムイオン移動の反応性に関しての直接的な情報を得ることは困難であった。そこで本研究では,種々のプローブ分子を用いた電気化学的解析を用いることで,分光法では明らかにすることが困難であったSEI形成下における黒鉛/電解液界面での反応サイト数の評価やSEIの共挿入抑制能の評価を行い,SEIが黒鉛電極の表面反応場に与える影響を詳細に調べることで,良好な黒鉛/電解液界面を構築するために重要なSEIの要素に関して知見を得ることを目的とした。

本論文は,序論および2部の5章から構成される。序論では,SEIのこれまでの研究についてまとめた。第1部(1, 2章)では,SEIとリチウムイオンの電極/電解液界面移動反応速度の関係について考察し,第2部(3∼5章)では,SEIの性質の違いによる溶媒和リチウムイオンの共挿入抑制効果への影響とその発現理由について検討した。

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© 2020 炭素材料学会
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