2018 年 21 巻 2 号 p. 81-89
MYD88 とCD79B はNF-κB シグナル伝達経路関連因子をコードする遺伝子で,その遺伝子変異によってNF-κB経路が恒常的に活性化されリンパ腫発症に至ると考えられている.今回我々は,B 細胞リンパ腫の各カテゴリーにおけるMYD88L265P とCD79BY196 変異を解析し,両遺伝子変異と発生臓器,表面免疫グロブリン重鎖のクラス,BCL2/BCL6/MYC 遺伝子の再構成との関連について検討した.MYD88L265P 変異はびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL) の81 例中18 例(22%),リンパ形質細胞リンパ腫(LPL) の2 例中2 例(100%) に,CD79BY196 変異はDLBCL の14 例(17%) に認め, 9 例のDLBCL では両変異が認められた.濾胞性リンパ腫,MALT リンパ腫,マントル細胞リンパ腫は変異陰性であった.MYD88L265P/CD79BY196 変異はB 細胞リンパ腫のなかで,LPL を除くと,DLBCL のnon-germinal center B-cell-like (non-GCB) サブタイプに特異性が高く,脳,精巣,鼻腔・副鼻腔などの特定の節外臓器に発症した症例に高率に認められた.一方,MYD88L265P/CD79BY196 変異陽性例はμ 鎖の発現頻度が高く,γ 鎖とα 鎖の発現は変異陰性やGCB サブタイプと関連した.MYD88L265P/CD79BY196 変異陽性であった23 例中7 例でBCL2, BCL6, MYC のいずれかの遺伝子再構成を認め,1 例でBCL2 とBCL6 の遺伝子再構成を認めた.MYD88/CD79B 遺伝子変異はブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤の有効性と関連するとの報告もあるので,両遺伝子変異の検索は,DLBCL に対する治療選択においても重要である.