2021 Volume 24 Issue 1 Pages 15-26
急性期医療の現場で働く看護師は,認知症や高齢患者の治療やケア,終末期医療の課題など様々な倫理問題に直面し,苦悩している.A病院では,これらの倫理問題に対応するため,約5年前より倫理に関する学習会を実施してきた.過去の学習会後のアンケート調査結果から,看護管理者は,倫理カンファレンスにより倫理問題に取り組みたいが,現場での開催には自信が持てないと感じていることが明らかになった.このため,看護師が直面している倫理問題に対応するため臨床現場で倫理カンファレンスを行っていくには,カンファレンスや事例検討の方法について研修するなど,さらなる取り組みが必要であると考えた.
看護倫理の学習には,事例に基づいた学習が効果的であると言われている 1 .倫理的課題を含む事例の検討では,個別の事例について,自身の看護を振り返ることになり,倫理カンファレンス導入に向けた学習効果が得られる 2 .同時に,個別の倫理問題をチームの問題として取り組むことができるという効果もある.さらに,倫理カンファレンスを臨床現場で開催するためには,話し合う環境を整える看護師長の存在が重要であると言われている 2 .中堅看護師を対象にした倫理カンファレンスリフレクション研修では,倫理カンファレンス運営への自己のかかわり方を見出していたとの結果 3 から,倫理カンファレンスをファシリテートする看護管理者の振り返りをサポートすることが,倫理カンファレンスの継続的な開催に繋がると考えた.
多職種倫理カンファレンスを導入している施設では,多面的な検討・情報共有ができ,自己成長に繋がるとの評価を報告している 4 .この報告では,倫理カンファレンスを根づかせるポイントとして,職責者が中心になり倫理問題への動機づけを行うことや,現場スタッフの意見を吸い上げる姿勢を挙げている 4 .看護管理者を中心とした倫理カンファレンス開催の取り組みにより,スタッフナースの自己成長を促す多職種倫理カンファレンスへ発展させることが望ましいと考えた.
変革が求められるフィールドにおいて,研究者が必要なアクションをフィールドの人々とともに起こす研究法として,アクションリサーチがある.Lewin(心理学者)が提唱するアクションリサーチは,研究者が現場に入り,現場の当事者と一緒に研究プロセスを歩み,実践的な知識を生み出し,現場の変化をもたらすことを目的としている.研究者と当事者が,解決すべき問題を明確にし,実践に向けて研究を計画,実践してデータを収集・分析し,リフレクションして計画を修正し,次の実践を試みるプロセスを繰り返すものである 5 .
アクションリサーチを用いた先行研究では,当事者が達成感や自信を抱くことやエンパワーメントに繋がったとの報告 6 ,参加者が相互に刺激し合いモチベーションを高めていたとの報告 7 がある.看護倫理分野におけるアクションリサーチとして,3次救急の看護師を対象にしたもの 8 や,クリティカル領域や臓器移植看護における研究成果 9 , 10 が報告されているが,看護管理者を対象(参加者)としたものや,倫理カンファレンス開催への取り組みに関した研究は見当たらない.
そこで本研究では,臨床現場の看護師が直面する倫理問題に対応するために,看護管理者が倫理カンファレンスに取り組むアクションリサーチを実施した.看護師の倫理的看護実践の向上を目指した倫理カンファレンスの開催により,看護管理者に達成感や自信が得られるようにアクションリサーチを計画した.
本研究では,アクションリサーチの研究手法にもとづいてA病院の看護管理者が自部署で倫理カンファレンスを開催し,その結果,スタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践を向上させ,倫理カンファレンスの継続的な開催に繋げることを目的とした.
アクションリサーチ
2. 用語の定義本研究では,各部署に所属する役職者である看護師長と副看護師長を看護管理者とした.また,倫理カンファレンスとは,個別の患者ケアに関する倫理ジレンマついて,患者にとっての最善の医療やケアの方向性を臨床倫理の視点で話し合うカンファレンスと定義した.
3. 参加者①~③の適格基準を満たしたA病院の看護管理者である.
A病院の看護部長の了解を得た上で,看護管理者が出席する会議の場で,研究者が文書を用いて研究の概要を説明した.研究参加の希望は,研究者に直接連絡してもらうようにした.研究参加の希望があった看護管理者に対し,再度,研究の内容を説明し,同意書へのサインをもって同意とした.
5. 研究者の立場と役割研究者は,A病院に所属する者とそれ以外の施設に所属する者で構成された.研究者は,臨床現場での倫理カンファレンスの計画と,開催の評価を本研究の参加者である看護管理者と共に行なった.また,看護管理者対象の「倫理カンファレンス運営研修」と,看護管理者とスタッフナースを対象にした「倫理事例検討会」の研修企画・実施により,倫理カンファレンスの開催をサポートし,アクションリサーチのプロセス全体を管理する役割を担った.
6. アクションリサーチのプロセス本研究におけるアクションリサーチは,臨床現場における倫理カンファレンスの開催によって,スタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践の向上が認められること,看護管理者が倫理カンファレンス開催への自信を得ることを目標として,以下のプロセスで研究をすすめた.
2018年5月~2019年2月
8. データ収集方法倫理カンファレンスの振り返りとして行ったフォーカスグループインタビューは,研究に参加した看護管理者に対し,プライバシーに配慮した場所で約60分間の予定で実施し,A病院所属ではない研究者がファシリテートを担当した.フォーカスグループインタビューの内容は,本研究に参加した看護管理者の同意を得て録音し,個人が直ちに同定できないよう逐語録を作成した.
7. データ分析方法フォーカスグループインタビュー内容の逐語録から,“看護管理者の倫理カンファレンスへの取り組み”“所属部署のスタッフナースの考えや行動の変化”に関する内容をコードとして抽出し,質的内容分析を行い,カテゴリー・サブカテゴリーを生成した.
天理よろづ相談所病院倫理委員会の承認(通知番号925号2018年5月1日)を得た研究計画書を元に実施した.研究の主旨,自由意思にもとづく参加の依頼,途中中断が可能であること,個人情報・プライバシーは保護されること,学会等における結果の公表について,参加者に文書と口頭で説明した.研究参加に同意した看護管理者に同意書への署名を得た.
本研究の適格基準を満たしたA病院4部署の看護管理者9名が参加した.看護師長が3名,副看護師長が6名で,年齢は,30歳代と50歳代が各1名,40歳代7名であった.研究者と本研究に参加した看護管理者は,部署ごとに,課題抽出・進め方について共有した.
B部署の看護管理者は,治療選択に関するジレンマを抱えており,実践が個々にまかされる風土があることに課題を感じていた.また,スタッフナースの勤務形態が様々であるため,時間確保やカンファレンス参加者の選定に苦慮していた.
C部署の看護管理者は,経験のあるスタッフナースの発言力により倫理問題の抽出に至らないことを課題としていた.そのため,若いスタッフナースが平等に発言できる倫理カンファレンスを目指していた.
D部署では,すでに倫理カンファレンスが導入されていた.看護管理者は,経験年数の長いスタッフナースで構成される病棟の特徴により,個人の価値観,主張が強く,合意形成に困難を感じていた.
E部署の看護管理者は,スタッフナースが看護実践に自信をもてないことを課題としていた.そこで,振り返り事例を用いた倫理カンファレンスを考えていた.しかし,スタッフナースの倫理観向上に繋がるファシリテートができるのか不安を持っていた.
2. 研修内容と参加状況倫理カンファレンス運営研修は,A病院の看護管理者全員を対象に企画・実施した.各自持ち寄った事例をもとに,5名ずつグループになり,ファシリテーター役を決めて模擬倫理カンファレンスを行い,模擬倫理カンファレンスのフィードバックをもとに,臨床現場で倫理カンファレンスを開催する時の工夫を話し合った.
倫理事例検討会は,A病院の看護管理者とスタッフナース全員を対象にした自由参加の研修であった.研修では,模擬事例を提示し,5~6名の小グループに分かれてJonsenらの4分割表のツール 11 を用いて分析し,グループ内で出た結論を全体で共有した.計2回行い,本研究に参加した看護管理者の所属する4部署のスタッフナースの参加は,80名中26名(32%)であった.
3. 倫理カンファレンス開催・評価,グループインタビューの結果(1回目)グループインタビューの逐語録から“看護管理者の倫理カンファレンスへの取り組み”“所属部署のスタッフナースの考えや行動の変化”に関する質的内容分析を行い,「倫理カンファレンス開催の工夫」「倫理カンファレンスの評価」のカテゴリー,サブカテゴリ―が生成された.以下,カテゴリーを【 】で,サブカテゴリ―を< >で表示する.
1) 倫理カンファレンスの工夫(表1)本研究に参加した看護管理者は,<承諾を得やすいメンバーを選出><あえて少人数で開催を計画>といった【参加者・人数を選択した計画】をし,<開催時間はスタッフナースの意向を配慮>するなど【開催時間を考慮した計画】,【他職種へ参加依頼】を行っていた.また,<事前に目的を説明><検討すべき倫理事例を吟味し決定><事例の情報整理を事前に準備><カンファレンス開催の風土作り>など【事前準備の実施】をしていた.
そして,【意思決定に関する事例】【医師との協働に関する事例】【抑制に関する事例】【スタッフナースからの提示事例】について【Jonsenらの4分割表ツールを使用しない方法】や【小グループで検討し共有する方法】で倫理カンファレンスを開催していた.
カテゴリー |
サブカテゴリ― |
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参加者・人数を選択した計画 |
承諾を得やすいメンバーを選出 勤務者を含めた参加者を選定 あえて少人数で開催を計画 勤務外メンバーを選定 |
開催時間を考慮した計画 |
勤務時間内に開催した 勤務時間外に開催を計画 開催時間はスタッフナースの意向を配慮 |
他職種へ参加依頼 |
参加者は医師と看護師 臨床工学技士に参加依頼 |
事前準備の実施 |
事前に目的を説明 検討すべき倫理事例を吟味し決定 事例の情報整理を事前に準備 事前勉強会を実施 Jonsenらの4分割表のツール使用方法を説明 カンファレンス開催の風土作り |
意思決定に関する事例 |
意識障害患者の意思決定 意思決定に関する事例 |
医師との協働に関する事例 |
医師との協働に関する事例 症状コントロールに関する事例 医師との協働に関するジレンマ |
抑制に関する事例 |
抑制に関する事例 |
スタッフナースからの提示事例 |
スタッフナースから事例提示があった |
Jonsenらの4分割表ツールを使用しない方法 |
方法はJonsenらの4分割表ツールを使用しない |
小グループで検討し共有する方法 |
5名程度のグループ編成 グループ討議と内容の全体共有 |
本研究に参加した看護管理者は,倫理カンファレンスの開催により,【Jonsenらの4分割表ツール使用方法を知る】こと,<参加者各々の考えを共有していた><病状以外の視点を含め事例分析した><倫理ジレンマの軽減・解消>など【考えの共有により視野が拡大】したことを通し,スタッフナースに<倫理問題に気付いた><倫理問題への対応を考えていた>【倫理問題への気づき】がおこり,<患者の言葉を大事にすることに気づいた> <家族に目を向けられるようになった>【患者・家族の見方が変化】や<医師とのカンファレンスが増えた><スタッフナースがカンファレンスの調整をする>【ケアカンファレンスの増加】,<倫理カンファレンスの継続開催を意思表示><継続した倫理カンファレンスの必要性を述べる>【倫理カンファレンス継続のスタッフナースの意識変化】が生じたと評価していた.それには【倫理感受性を刺激する看護管理者の態度】として<倫理問題に気付けるよう仕掛ける><看護職の意見を他職種に述べる><倫理課題を意識するチームの雰囲気作り>が必要だったとしていた.
カテゴリー |
サブカテゴリ― |
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Jonsenらの4分割表ツールの使用方法を知る |
Jonsenらの4分割表ツールの使用方法を知った Jonsenらの4分割表ツールの使用により系統立てて考えられた |
考えの共有により視野が拡大 |
参加者各々の考えを共有していた 病状以外の視点を含め事例分析した 倫理ジレンマの軽減・解消 参加した他職種への学習効果 |
倫理問題への気づき |
倫理問題に気付いた 倫理問題への対応を考えていた |
患者・家族の見方が変化 |
家族に目を向けられるようになった 患者の言葉を大事にすることに気づいた |
ケアカンファレンスの増加 |
医師とのカンファレンスが増えた スタッフナースがカンファレンスの調整をする カンファレンスが開催しやすくなった |
倫理カンファレンス継続のスタッフナースの意識変化 |
倫理カンファレンスの継続開催を意思表示 継続した倫理カンファレンスの必要性を述べる 他職種との倫理カンファレンス開催継続への意見 |
倫理的感受性を刺激する看護管理者の態度 |
倫理問題に気付けるよう仕掛ける 倫理課題を意識する管理者の態度 看護職の意見を他職種に述べる 倫理課題を意識するチームの雰囲気作り 患者背景や思いを知る機会を作る |
研究者と看護管理者は,部署ごとに2回目の倫理カンファレンス開催に向けた計画を共有した.
B部署の看護管理者は,倫理問題の発生時にタイムリーな多職種倫理カンファレンスの開催を計画した.C部署の看護管理者は,スタッフナースの中のリーダーナースが主導して,過去に経験した事例を記述し,その事例を用いた検討を計画していた.D部署の看護管理者は,日々の患者カンファレンスにおいて,倫理的視点を含めた医師–看護師間の合意形成を目指すカンファレンスを計画していた.E部署の看護管理者は,前回使えなかったJonsenらの4分割表ツールを使用するために,事前に情報整理をして準備をしていた.
5. 倫理カンファレンス開催・評価,グループインタビュー(2回目)の結果2回目のグループインタビューの逐語録から質的内容分析を行ない,「倫理カンファレンス開催の工夫」「倫理カンファレンスの評価」「看護管理者自身の変化」に関するカテゴリー,サブカテゴリ―が生成された.
1) 倫理カンファレンスの工夫(表3)2回目の倫理カンファレンス開催の評価として,本研究に参加した看護管理者は,<倫理的課題に気づくスタッフナースの増加><倫理ジレンマを表現する>【倫理的感受性の向上】や<倫理カンファレンスへの抵抗感が減少><次回実施への意欲が聞かれた><看護管理者不在でもカンファレンスが開催された>など【倫理カンファレンス定着化に向けた変化】といったスタッフナースの変化を感じていた.
また,<多職種で話し合う姿勢がもてた><自身の意見を発信できる><他者の意見を取り入れた効果的な意見交換><話し合いによる新たな気づきがあった>の【効果的な多職種倫理カンファレンス】や【Jonsenらの4分割表ツール使用の定着化】によって,<ジレンマの検討が自己成長につながる><発言の場がモチベーションを高める>【仕事に対する気持ちの変化】につながったと評価していた.
カテゴリー |
サブカテゴリ― |
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スタッフナースの意向によるタイムリーな開催 |
倫理問題発生時のタイムリーな開催 スタッフナースの意向による倫理カンファレンス計画 |
多職種倫理カンファレンスの計画 |
医師カンファレンスへの参加 多職種が参加できる工夫 偏りのない参加メンバーの調整 少人数グループの作成 カンファレンス開催による課題抽出 |
倫理カンファレンスの事前準備 |
Jonsenらの4分割表ツールの勉強会を計画 倫理に関連した勉強会の実施 情報整理の事前準備 話し合いの焦点を決める 倫理カンファレンス開催の風土作り |
Jonsenらの4分割表ツールの使用 |
Jonsenらの4分割表を使用 |
倫理問題を捉える助言 |
倫理問題を捉える看護管理者の助言 |
2回目の倫理カンファレンス開催の評価として,本研究に参加した看護管理者は,<倫理的課題に気づくスタッフナースの増加><倫理ジレンマを表現する>【倫理的感受性の向上】や<倫理カンファレンスへの抵抗感が減少><次回実施への意欲が聞かれた><看護管理者不在でもカンファレンスが開催された>など【倫理カンファレンス定着化に向けた変化】といったスタッフナースの変化を感じていた.
また,<多職種で話し合う姿勢がもてた><自身の意見を発信できる><他者の意見を取り入れた効果的な意見交換><話し合いによる新たな気づきがあった>の【効果的な多職種倫理カンファレンス】や【Jonsenらの4分割表ツール使用の定着化】によって,<ジレンマの検討が自己成長につながる><発言の場がモチベーションを高める>【仕事に対する気持ちの変化】につながったと評価していた.
カテゴリー |
サブカテゴリ― |
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倫理的感受性の向上 |
倫理的課題に気づくスタッフナースの増加 倫理ジレンマを表現する |
倫理カンファレンス定着化に向けた変化 |
倫理カンファレンスへの抵抗感が減少 次回開催への意欲が聞かれた 看護管理者不在でもカンファレンスが開催された 倫理カンファレンスの必要性を述べた |
効果的な多職種倫理カンファレンス |
多職種で話し合う姿勢がもてた 自身の意見を発信できる 他者の意見を取り入れた効果的な意見交換 話し合いによる新たな気づきがあった |
Jonsenらの4分割表ツール使用の定着化 |
Jonsenらの4分割表ツール使用の効果を実感 Jonsenらの4分割表ツールを使用した検討の定着化 |
仕事に対する気持ちの変化 |
ジレンマの検討が自己成長につながる 発言の場がモチベーションを高める |
本アクションリサーチへの参加により看護管理者自身の変化として,次のような事柄が述べられた.
本研究に参加した看護管理者には,<Jonsenらの4分割表ツールを使用した倫理カンファレンスの効果を知る><ストレス,モチベーションの変化を実感>の【倫理カンファレンスの効果を実感】し,【自身の価値信念への気づき】によって,<看護の方向性を作る立役者><倫理カンファレンス継続の環境作り>の【倫理カンファレンスに関する看護管理者役割の認識】が生じていた.
さらに,アクションリサーチのプロセスを通じて,<倫理問題に立ち向かう勇気と態度>の【倫理課題に立ち向かう看護管理者の態度】を得て,<倫理カンファレンス開催のポイントを習得><倫理カンファレンス開催への自信>の【倫理カンファレンス開催への自信】に繋がっていた.
以上の結果から,本アクションリサーチの目標である看護師が活動する臨床現場において,倫理カンファレンスの開催によりスタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践に変化が生じ,アクションリサーチ実施のきっかけとなった看護管理者の倫理カンファレンス取り組みへの自信に期待した変化も生じたと判断し,アクションリサーチのプロセスを終了した.
カテゴリー |
サブカテゴリ― |
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倫理カンファレンスの効果を実感 |
Jonsenらの4分割表ツールを使用した倫理カンファレンスの効果を知る ストレス、モチベーションの変化を実感 |
自身の価値信念への気づき |
自分の価値や信念に気づいた |
倫理カンファレンスに関する管理者役割の認識 |
看護の方向性を作る立役者 倫理カンファレンス継続の環境作り |
倫理カンファレンス開催への自信 |
倫理カンファレンス開催のポイントを習得 倫理カンファレンス開催への自信 |
倫理課題に立ち向かう看護管理者の態度 |
倫理問題に立ち向かう勇気と態度 |
まず,本アクションリサーチによるスタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践への影響を,フォーカスグループインタビューの結果から考察する.次に,本アクションリサーチ全過程を通じて,研究参加者である看護管理者に生じた影響を考察し,倫理カンファレンスの継続的開催を検討する.
1. スタッフナースの倫理的感受性と倫理的看護実践への影響本研究に参加した看護管理者は,スタッフナースの【患者・家族の見方が変化】したと感じ,<家族に目を向けられるようになった><患者の言葉を大事にすることに気づいた>と評価していた.また,1回目の倫理カンファレンス開催後は,【倫理問題への気づき】であったスタッフナースの変化が,2回目の倫理カンファレンス開催後には,<倫理ジレンマを表現する>【倫理的感受性の向上】に変化したと評価していた.スタッフナースは,倫理カンファレンスで,患者にとってより善いことは何かを考え,話し合う機会を得たことにより,倫理的感受性が向上し,日頃の看護実践において,患者・家族の希望や尊厳に関する倫理的看護実践に変化が生じたと考える.
臨床ガイドラインの導入により看護職の倫理的感受性を高め倫理的な行動を促すという友竹らの研究 12 や,組織的な看護倫理への取り組みが倫理的感受性に影響を及ぼしたと報告した吉川らの研究 13 ,倫理カンファレンスによりスタッフナースの倫理的行動変容“患者の気持ちや状況の理解に努める”“患者への倫理的ケアの検討”などをもたらしたとの室伏らの報告 14 と同様に,本研究においても,「患者の言葉を大事にする」「家族に目を向ける」など倫理的看護実践に変化が見られた.これらは,本研究に参加した看護管理者が【倫理問題を捉える助言】を意図して行うなど,倫理問題の気づきを促したことが,スタッフナースの倫理的感受性を刺激し,実践の変化に影響したと考える.
さらに,本研究に参加した看護管理者の評価では,【倫理カンファレンス定着化に向けた変化】の<倫理カンファレンスへの抵抗感が減少>,【効果的な多職種倫理カンファレンス】の<多職種で話し合う姿勢がもてた><自身の意見を発信できる><他者の意見を取り入れた効果的な意見交換><話し合いによる新たな気づきがあった>といった倫理カンファレンスへの態度の変化が述べられている.友竹らは,臨床倫理ガイドライン導入によりスタッフナースが相談事を自発的に述べる,チーム全体で倫理について話し合うようになったとの変化を報告しており 12 ,吉川らは,倫理的感受性の向上の影響要因に,事例分析の経験があると述べている 13 .臨床現場において倫理カンファレンスを開催したことは,スタッフナースが捉える医療チームの話し合いの風土に変化をもたらしたと考える.
また,これらは【参加者・人数を選択した計画】【開催時間を考慮した計画】という部署の状況に合う倫理カンファレンスの計画,倫理カンファレンスでの【考えの共有により視野が拡大】の機会が関与したと思われる.こういった看護管理者の臨床での倫理カンファレンス開催の工夫や,自部署の状況に合った倫理カンファレンスの計画が,有効な多職種倫理カンファレンスの開催につながり,スタッフナースの変化に影響したと考える.
1. 看護管理者への影響本研究に参加した看護管理者は,倫理カンファレンスの工夫として,【倫理カンファレンスの事前準備】の<情報整理の事前準備><話し合いの焦点を決める><倫理カンファレンス開催の風土作り>と【倫理問題を捉える助言】を挙げている.これは,脇丸らの倫理カンファレンスのマネジメントスキルに関する研究 15 において,事前準備として説明された十分な情報収集,話し合う焦点の明確化,雰囲気作りと事例の中の倫理問題に気づくことに該当する.本研究に参加した看護管理者は,倫理カンファレンス運営研修や倫理事例検討の研修参加後に倫理カンファレンスを開催したことにより,これらのスキルを体得していったと考える.
また,これらの倫理カンファレンスを開催する際の工夫は,2回目の倫理カンファレンス開催後に語られていた.倫理カンファレンスのファシリテーターは,カンファレンスの開催を何度も繰り返すうちに,徐々にスキルを身に付けると言われるように 15 ,本研究に参加した看護管理者も倫理カンファレンスの開催を重ねたことでスキルを体得したと考えられる.
さらに,浦出らは,臨床での倫理カンファレンス普及策として,カンファレンスを短時間で効果的に進めることが,臨床での普及に必須であるとし,数回に分けて焦点化し議論することや,参加者を厳選することなどの方略が必要と述べている 16 .これらは,本研究に参加した看護管理者が2回目の倫理カンファレンス開催に用いていた<偏りのない参加メンバーの調整.><情報整理の事前準備><話し合いの焦点を決める>等の工夫と重なり,それらの対策は,臨床現場での開催により編み出していったと思われる.このことは,倫理カンファレンス開催前に行った課題抽出と2回目の倫理カンファレンス前に行った計画の内容を見ることでも分かる.B部署は倫理カンファレンス開催前に,開催時間や参加者の選定に苦慮していたが,2回目の倫理カンファレンスでは,タイムリーな開催を計画するよう発展させていた.C部署は,経験のあるスタッフナースの発言力の強さを課題とし,2回目の倫理カンファレンスではリーダーナースである経験のあるスタッフナースに主導権を与えることで,チーム全体から発言を得るよう計画していた.このような看護管理者が行った倫理カンファレンスの方略は,倫理カンファレンスを繰り返して計画し開催したことによるものであると考える.
本研究に参加した看護管理者は,倫理カンファレンス開催ごとに,フォーカスグループインタビューにより自部署で開催した倫理カンファレンスを評価し,課題を共有した.この共有により,<倫理問題に立ち向かう勇気と態度>の【倫理課題に立ち向かう看護管理者の態度】や<看護の方向性を作る立役者><倫理カンファレンス継続の環境作り>の【倫理カンファレンスに関する管理者役割の認識】といった自らの変化を認識し,<倫理カンファレンス開催のポイントを習得>など【倫理カンファレンス開催への自信】に繋がったと思われる.これは,自身の体験をもとに研究者とともに検討・評価していくアクションリサーチの方法が,達成感,自信を抱き,自らの能力に気付く機会となった先行研究 6 と同様であった.
同時に,本研究に参加した看護管理者によるフォーカスグループインタビューにおけるディスカッションを通して,経験を想起し,吟味することで,状況に対する見方の広がりを可能にし,実践のレパートリーを増やす,リフレクションの効果があったと思われる 17 .リフレクションは,看護管理者にとっても自身の実践における知識を表現し,明らかにする意義がある 18 と言われるように,本研究に参加した看護管理者は,2回の話し合いを通して,「現場での倫理カンファレンス開催」の経験を想起し,吟味することで,状況に対する見方の広がりを「実感」し,「気づき」「認識」し,「倫理カンファレンスのファシリテーター役割」のレパートリーを増やしていった.そして,本研究に参加した看護管理者のファシリテーター能力の向上や倫理カンファレンス開催への自信に繋がったと考える.倫理カンファレンスを継続的に開催するには,話し合う環境を整える看護師長の存在が重要となる 2 .本アクションにより看護管理者が議論の方法を学び,安全な話し合いの場を調整した上で,倫理カンファレンスを開催できるという自信を得たことで,アクション終了後も倫理カンファレンスを継続的に開催することが期待できるであろう.
今回,部署内の看護管理者全員が参加に同意することを要件の一つとし,研究参加を募った.本研究に参加した看護管理者が倫理カンファレンス開催に自信を得たことで,その部署では,倫理カンファレンスが継続されることが期待できる.また,研究に参加した看護管理者の異動に伴い,倫理カンファレンスを開始する部署が増えることが予測される.一方で,部署内の看護管理者全員の参加同意が得られなかったなど,研究参加が叶わなかった看護管理者の部署は,倫理問題への取り組みが遅れる可能性がある.そのため,今後はより多くの看護管理者が参加できる方法を考案し,より多くの部署で倫理カンファレンスが開催できるよう取り組んでいきたい.
本アクションリサーチにより,自部署の状況に合わせた倫理カンファレンスの計画と,倫理的課題について多職種が考えを共有できる機会が,看護師の倫理的感受性の向上に繋がる可能性が示唆された.また,看護管理者がスタッフナースの倫理的感受性の向上を促す自身の役割を認識し,介入に伴う看護師の変化を評価することで,倫理カンファレンス開催への自信が高まり,倫理カンファレンスの継続的開催に繋がることが期待される.看護師の倫理的看護実践を目指す変革には,看護管理者による取り組みが重要である.
本アクションリサーチに参加してくださったA病院看護管理者の皆様,ご協力くださったスタッフナースの皆様にお礼申し上げます.
なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.
本論文は,第50回日本看護学会―看護管理での発表に加筆・修正したものである.