Tenri Medical Bulletin
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Successful treatment of rhegmatogenous retinal detachment associated with Harada's disease by surgical resection of subretinal fibrous strands
Tatsunori Kiriishi Shinya NakaoMasatoshi OmiShota YasukuraMizoguchi SyusakuHirokazu OhashiHirokazu Nishiwaki
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2021 Volume 24 Issue 1 Pages 44-48

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Abstract

  1. 目的:原田病に裂孔原性網膜剥離を合併し,遷延する炎症のため網膜下増殖が進み,網膜下索のため網膜復位を得られず,網膜下索を抜去することで網膜復位を得た症例を経験したので報告する.
  2. 症例:63才男性が両眼充血を主訴に近医を受診した.右眼優位の両眼硝子体混濁を認め,ぶどう膜炎と診断された.全身の精査を行った結果,最終的に原田病と診断された.右眼トリアムシノロンテノン嚢下注射施行後,眼内透見性が向上し,裂孔原性網膜剥離を認め手術加療を行った.術後7日目に再剥離を認め手術を行うも,網膜皺襞のため復位を得られず当院紹介となった.原因裂孔は閉鎖されていたものの網膜下索を認め,網膜復位を妨げていると考え網膜下索抜去を行ったところ,網膜復位を得た.
  3. 考察:原田病に裂孔原性網膜剥離が合併する例は多くはない.その理由として,炎症が脈絡膜および網膜色素上皮に限局するために硝子体変性が起こり難いことが挙げられる.しかし,原因裂孔が閉鎖されていても網膜下索のため網膜復位が得られない症例では,手術によって網膜下索を除去する必要がある.本症例では,稀ではあるが,原田病による炎症に裂孔原性網膜剥離が加わることによって網膜下索を形成し,網膜復位が妨げられていたと考えられる.
  4. 結論:原田病に伴う裂孔原性網膜剥離において,網膜下索による網膜非復位例では,手術加療による網膜下索抜去にて網膜復位が得られる可能性がある.

Translated Abstract

  1. Purpose: To report the successful treatment of rhegmatogenous retinal detachment associated with Harada's disease by surgical resection of subretinal fibrous strands blocking retinal reattachment.
  2. Case report: A 63-year-old man presented to another hospital with binocular hyperemia. As binocular vitreous bodies, predominantly in the right eye, were opacified, he was diagnosed with uveitis, and systemic medical evaluation revealed that Harada’s disease underlay the ocular condition. After a sub-Tenon injection of triamcinolone to the right eye, intraocular visibility improved and rhegmatogenous retinal detachment was found. Seven days after vitreous surgery, retinal detachment recurred. As additional surgery was unsuccessful due to wrinkles of the retina, the patient was referred to our hospital. On fundoscopic examination, the original retinal tear was found to be closed, suggesting that subretinal strands had formed that inhibited retinal reattachment. We therefore performed another vitreous surgery to resect the subretinal proliferative tissue, resulting in successful retinal reattachment.
  3. Discussion: Association of Harada’s disease with rhegmatogenous retinal detachment has rarely been described. The reason for the rare occurrence of the condition is that as the inflammatory process is limited to the choroid and retinal pigment epithelium in Harada’s disease, vitreous degeneration is unlikely to occur. However, in cases where subretinal strands prevent retinal reattachment despite closure of the original tear, surgical resection of the strands is required. This case represents a rare association of the inflammatory process of Harada’s disease with rhegmatogenous retinal detachment, leading to the formation of subretinal strands that blocked retinal reattachment.
  4. Conclusion: Rhegmatogenous retinal detachment associated with Harada’s disease may cause proliferative vitreoretinopathy with subretinal strands despite closure of the original tears, and resection of the subretinal strands may achieve retinal reattachment.

緒言

長期間に渡り網膜剥離が継続すると,剥離網膜下に網膜下索が生じ網膜復位を妨げることがある.網膜下索を除去することにより網膜復位を得る必要がある.

今回,我々は,原田病に裂孔原性網膜剥離を合併し,網膜下索の為に網膜復位が妨げられていたと思われる症例に対し網膜下索抜去を行い,網膜復位を得た一例を経験したので報告する.

症例

63才男性が数か月続く両眼の充血を主訴に近医眼科を受診し,ベタメタゾン点眼5回/日にて点眼加療を行うも改善を得られず,その後頭痛および全身倦怠感を訴え総合病院の内科を受診した.同院の眼科対診時,右眼矯正視力は0.07と著明に低下しており,眼底透見困難な硝子体混濁を認め,左眼にも軽度の硝子体混濁および視神経乳頭の発赤腫脹を認めた.内科にて髄液検査や遺伝子検査を行い,無菌性髄膜炎およびHLA-DR4陽性を認めたことから,造影検査は行われなかったが,原田病と診断された.

プレドニゾロン60 mg/日の内服加療を開始し,右眼硝子体混濁に対しトリアムシノロンテノン嚢下注射を行ったところ,眼底透見が可能になり,右眼下方の網膜に格子状変性内の萎縮円孔および裂孔原性網膜剥離を認めたため,白内障および硝子体手術を行い,網膜復位を得た.術後7日目に再剥離および眼内レンズ落下を認め,再び硝子体手術を行い,眼内レンズを嚢外固定したが,術後黄斑に網膜皺襞を伴う網膜再剥離へ進展したために,手術加療目的に当院紹介となった.

当院初診時視力は,右0.01(矯正不能),左0.05 (0.8 × S −7.50D),眼圧は,右5 mmHg,左13 mmHgであった.両眼とも角膜は清澄で中間透光体に混濁はなく,眼内レンズ挿入眼であった.右眼には黄斑部に網膜皺襞を伴う網膜剥離を認めたが,原因裂孔は閉鎖されていた(図1).右眼は散瞳不良のため,光干渉断層計(optical coherence tomography; OCT)では撮像不能であった.プレドニゾロンの内服は前医で12.5 mgまで漸減されていたが,当院転院後は,同量での維持投与を行い,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩液点眼4回/日を行った.

図1. 初診時の後極部眼底写真

矢頭は網膜下索.

再度硝子体手術を行い,網膜表面上には増殖組織を認めなかったため,網膜下増殖を疑い,網膜切開を作成し,網膜下索を抜去した.網膜下索の外見は,色素を含む茶褐色索状であった(図2).硝子体腔はタンポナーデのためシリコンオイルにて置換し手術を終了した.

図2. 摘出された網膜下索

矢頭は網膜下索,矢印は網膜下索の色素を含んだ部位.

術翌日から網膜は復位し,術後7日目のOCT検査では脈絡膜の肥厚および皺壁を残すものの(図3),経過良好のため術後10日目に退院となった.術後3か月目にシリコンオイル抜去を行ったが,術中に下方網膜に新規裂孔および網膜剥離を認めたため,裂孔を閉鎖し,部分バックリンク手術を行った. その後は再剥離を認めず, 初回手術後6か月目の再診時にも網膜復位を保っており,右眼最終視力は0.04 (0.06 × S +2.50D = C −2.25D Ax155°)であった.

図3. 術後の右眼OCT画像

原田病による脈絡膜の肥厚,皺壁を認めるが網膜は復位している.

考察

裂孔原性網膜剥離が無治療のまま長期に続いた場合などでは,硝子体腔および網膜下に散布された網膜色素上皮細胞が,眼内に増殖性変化を惹起することがある.散布された網膜色素上皮細胞が筋線維芽細胞に形質転換をきたし,サイトカインの分泌やグリア細胞の遊走を引き起こすことで線維増殖性変化が生じ,増殖膜を形成するようになる.この増殖膜が網膜を牽引することにより網膜復位が妨げられ,難治性の増殖硝子体網膜症となると,手術加療による増殖膜の除去を要する.

増殖性変化は網膜上にも網膜下にも生じる.増殖組織を構成する細胞に大きな違いはないが,網膜上であれば面状に,網膜下であれば索状となることが多いことが報告されている 1 .眼内から摘出された増殖組織を顕微鏡的に分析した結果,網膜上に形成される増殖組織は無構造で透明な薄膜となるが,網膜下では色素を含んだ索状組織になることが多いことが報告されている 2-4

網膜上では,内境界膜が増殖の足場となりグリア細胞が主体となっている一方,網膜下では足場となる構造がないために,フィブリンを足場として網膜色素上皮細胞が増殖する.網膜色素上皮細胞は,遊離したあとも上皮性細胞としての特徴を保持しているために,細胞の基底部同士が向き合うような配列となるために索状の構造をとると推測されている 5 .本症例でも,抜去した網膜下索は色素を含む索状の増殖組織であり,既報を裏付けていると思われる.

原田病に網膜裂孔や裂孔原性網膜剥離を合併する症例は,報告はあるが 5-12 ,頻繁に認めるものではない.原田病は,ぶどう膜炎のなかでも炎症が脈絡膜周辺に限局するので,炎症性の硝子体変化や網膜の変化を生じることが少なく, 後部硝子体剥離も起こり難いことから, 裂孔原性網膜剥離の頻度は高くないと考えられている 13

また,原田病では,網膜色素上皮の長期に渡る機能低下が電気生理学的検査にて確かめられているが 14 ,通常の裂孔原性網膜剥離と比較して網膜復位率が低いという報告はない.ただし原田病の急性期では,強い炎症に伴い,網膜下液中にフィブリンによるとされる隔壁を形成することが知られている 15 .本症例では,裂孔原性網膜剥離の原因裂孔が手術加療により閉鎖していたものの,原田病を合併したことで網膜下にフィブリンや炎症性物質が産生され,増殖性組織を形成するための環境が整っていたために網膜下索が形成され,網膜復位が妨げられていた可能性がある.

原田病と網膜下索を形成する増殖硝子体網膜症を合併した報告は既報を渉猟する限りは見当たらず,稀なケースであると考えられるが,手術加療により網膜下索を抜去することにより網膜復位が得られたのではないかと考えられる.

結論

原田病を伴う裂孔原性網膜剥離では,原因裂孔が閉鎖されていても遷延する炎症により網膜下増殖が進行し,網膜下索が形成され復位を妨げることがある.網膜下索を除去することにより網膜復位を得られる可能性がある.

C.O.I.

該当なし

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