Tenri Medical Bulletin
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ISSN-L : 1344-1817
Clinical features and treatment of gastric MALT lymphoma
Hitoshi Ohno Masaya Ohana
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2021 Volume 24 Issue 1 Pages 49-62

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Abstract

胃MALTリンパ腫は,胃に発症する悪性リンパ腫の40%を占め,低悪性度B細胞リンパ腫に分類される.心窩部症状,嘔気などの非特異的な消化器症状を訴えることが多いが,検診で受けた上部消化管検査で異常を指摘されることもある.多発びらん・潰瘍,敷石状粘膜,早期胃癌IIc様陥凹,隆起性病変などの多彩な内視鏡所見を呈する.腫瘍細胞は小型ないし中型の胚中心細胞様の形態を示し,粘膜固有層で浸潤・増殖する.CD20,CD79a,BCL2陽性,CD5,CD10,CD23,BCL6,cyclin D1陰性である.6–26%の症例にt(11;18)(q21;q21)/API2-MALT1転座が認められる.転座は生検材料のFISH検査で検出する.約8割の症例はLugano分類のⅠ期またはII1期の限局期である.我が国では,胃MALTリンパ腫患者のHelicobacter pylori陽性率は90%である.H. pylori感染の診断法は,上部消化管内視鏡検査下に実施される検査法と,内視鏡検査を必要としない検査法がある.H. pylori陽性限局期胃MALTリンパ腫では,除菌治療が第一選択である.一次除菌の成功割合は67.5–92.6%,二次除菌の成功割合は83.9–98.0%で,除菌治療による胃MALTリンパ腫の奏効割合は50–80%である.治療効果判定には,Wotherspoon分類またはGELA分類が用いられる.t(11;18)/API2-MALT1は多くの研究で除菌治療抵抗性のバイオマーカーであることが明らかになっている.除菌治療抵抗例やH. pylori陰性胃MALTリンパ腫では低~中線量の放射線治療を実施する.Lugano分類II2期以上,Ann Arbor分類III期以上の進行期の症例では,リツキシマブ単剤投与や化学療法との併用治療を実施するが,症状がない場合や,低腫瘍量である場合はwatchful waiting policy(慎重な経過観察)を適用してもよい.

Translated Abstract

Gastric mucosa-associated lymphoid tissue (MALT) lymphoma, which is included in the low-grade B-cell lymphoma category, comprises 40% of lymphomas that develop in the stomach. Patients may present with non-specific gastrointestinal symptoms, such as epigastric discomfort or nausea, or the disease may be incidentally detected by an upper gastrointestinal series performed as a part of a preventative medical examination. Under endoscopy, the appearance of gastric MALT lymphoma varies, including multiple erosions or ulcers, cobblestone-like mucosa, IIc-type early gastric cancer, or protruding tumor. Lymphoma cells are small to medium in size with centrocyte-like morphology, and infiltrate into and proliferate in the lamina propria of gastric mucosa. The cells are positive for CD20, CD79a, and BCL2, and negative for CD5, CD10, CD23, BCL6, and cyclin D1. Six to 26% of patients have t(11;18)(q21;q21)/API2-MALT1 translocation, which is detected by fluorescence in situ hybridization using biopsy specimens. Around 80% of patients have early-stage disease categorized as stage I or II1 by the Lugano staging scheme. The prevalence of Helicobacter pylori infection in Japanese patients is 90%. The infection is detected either by endoscopy-based or non-invasive tests. H. pylori eradication therapy is the treatment of choice for patients with H. pylori-positive early-stage disease. H. pylori infection is eliminated at a rate between 67.5 and 92.6% by first-line eradication therapy, and between 83.9 and 98.0% by second-line therapy. The overall response rate of gastric MALT lymphoma ranges between 50 and 80% based on Wotherspoon or GELA histopathological criteria. Many clinical studies revealed t(11;18)/API2-MALT1 to be a biomarker predicting treatment resistance. For eradication treatment-refractory and H. pylori-negative patients, low- to medium-dose radiotherapy is performed. Patients with advance-stage disease, i.e., Lugano stage II2 or higher or Ann Arbor stage III or higher, receive single-agent rituximab or rituximab plus cytotoxic drugs. However, the watchful waiting policy may be feasible for patients with asymptomatic disease or those with a low tumor burden.

はじめに

節外性マージナルゾーンリンパ腫粘膜関連リンパ組織型(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue;MALTリンパ腫)はB細胞リンパ腫全体の7–8%を占める1.眼付属器,皮膚,肺,唾液腺,乳腺,甲状腺などの多彩な節外臓器に発症するが,胃が最も高頻度であるので1,2,gastricとnon-gastricに分類することもある.胃MALTリンパ腫は,胃に発症する悪性リンパ腫の40%を占め,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma; DLBCL)とならんで頻度が高いが3,DLBCLとは異なり,低悪性度B細胞リンパ腫に分類される.胃MALTリンパ腫は,大半の症例が限局期であること,発症にHelicobacter pylori (H. pylori)感染が重要な役割を果たしていること,H. pylori除菌治療が奏効すること,特異的な染色体異常を認めることなどの特徴があり,悪性リンパ腫の多様な病型のなかでも極めてユニークである.本稿では,著者らの経験症例を提示しながら,胃MALTリンパ腫の診断と治療を概説する.

胃MALTリンパ腫の診断

症状,臨床検査値

発症年齢中央値は53–61歳,明らかな性差はない.心窩部症状,嘔気などの非特異的な消化器症状を訴えることが多いが3,検診で受けた上部消化管検査で異常を指摘され紹介受診することもある.B症状はまれである.まれに出血や穿孔をきたすことがある(図14.限局期の症例では臨床検査値の異常を認めることは少ない.進行期ではM蛋白血症を認めることがあり,骨髄浸潤と関連するとの報告もある5

図1. 胃穿孔をきたした胃MALTリンパ腫(症例1)

50代男性.5年前に胃MALTリンパ腫の診断でH. pylori除菌治療を受けたが,治療後の検査は受けていない.今回は上腹部痛のため受診,血圧低下と腹腔内のfree airを認め緊急入院した.(A)開腹したところ胃体部前壁に穿孔が認められ,大網充填術を実施した.(B)術後の上部消化管内視鏡検査では胃底部から前底部にかけてびらんがまだら状にひろがり,穿孔部周囲は粗大な敷石状の外観を呈していた.右下はインジゴカルミン散布後.穿孔部に挿入した大網組織を矢印で示す.(C)PETでは,肥厚した胃壁のほか,縦隔や肺門部にも異常集積を認め,Lugano病期分類Ⅳ期に該当した(表1).化学療法によって胃穿孔が再燃する可能性があったため胃切除術を実施した.(D)切除胃では粘膜面(a,H&E染色,対物レンズ×10),筋層(b,×10)を経て漿膜下(c,×10)までCD20陽性(d,×10)の小型~中型の腫瘍細胞が浸潤していた.DLBCLへの形質転換は認めなかった.胃切除術後,リツキシマブとサイクロフォスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロンを併用した化学療法(R-CVP療法)を6サイクル実施した.本症例は図4Aに示すようにt(11;18)/API2-MALT1転座陽性であったので,除菌治療抵抗性で,限局期から進行期に進展したと考えられる.

胃MALTリンパ腫の上部消化管内視鏡所見

胃悪性リンパ腫は,表層型,潰瘍型,隆起型,決潰型,巨大皺襞型(佐野分類)や,表層拡大型,巨大皺襞型,腫瘤形成型(八尾分類)などと分類されてきたが,胃MALTリンパ腫は粘膜から粘膜下層に限局することが多く,H. pylori感染胃炎の像も相まって多彩な内視鏡像を呈する6.とくに,佐野・八尾分類の表層型に相当する多発びらん・潰瘍,敷石状粘膜,早期胃癌IIc様陥凹などの頻度が高い.ときに隆起性病変をきたすこともある.また,H. pylori陰性例では褪色域や敷石状粘膜の像が特徴的である.これらの病変は多発したり,複数の内視鏡所見を認めたりすることがある 6 図1B図2).

図2. 胃MALTリンパ腫の内視鏡写真

(A)症例2.70代女性.胃体中部小弯に0-IIc様の褪色調陥凹性病変,胃角部前壁にまだらな褪色調陥凹性病変を認める.背景に萎縮性胃炎(C-3)を認める.右はインジゴカルミン散布後.

(B)症例3.70代男性.胃角部大弯,体下部小弯後壁,体中部大弯に白色調ないし褪色調の境界不鮮明な浅い陥凹性病変を認める.背景粘膜はRAC陽性で委縮を認めない.

(C)症例4.80代男性.穹窿部に潰瘍性病変を2か所認める.周囲の介在粘膜は浮腫状に隆起しているが,粘膜下腫瘍の形態とは異なる.穹窿部~体部に発赤が多発し,萎縮性胃炎(O-3)を認める.迅速ウレアーゼテスト陽性であった.

(D) 症例5.40代女性.体下部大弯後壁に40 mm大の隆起性病変(表面には凹凸がみられるが,粘膜下腫瘍様の形態,びらん・小潰瘍を伴う),体中部前壁大弯よりに30 mm弱の隆起性病変(丈は低いが粘膜下腫瘍の形態,びらんを伴う),穹窿部大弯に15 mm大の隆起性病変(びらん・潰瘍なし)を認める.胃粘膜の萎縮性変化は認めない.

胃MALTリンパ腫の病理形態

いうまでもなく,胃MALTリンパ腫の診断は上部消化管内視鏡下鉗子生検によって得られた病変組織の病理診断による(図3A, B).病変組織では,小型ないし中型の胚中心細胞(centrocyte)に類似する腫瘍細胞が胃粘膜固有層の反応性リンパ濾胞の周辺で増殖する.増殖巣が融合し,反応性リンパ濾胞が不明瞭になることもある.胚中心細胞様細胞に加えて,淡明な細胞質に富む単球様B細胞,細胞質に乏しい小型リンパ球,大型の胚中心芽球(centroblast)・免疫芽球に類似した細胞が混在する1,2.3分の1の症例では形質細胞への分化が認められる1.リンパ上皮病変(lymphoepithelial lesion; LEL)は,3個以上の腫瘍細胞の集簇が腺管上皮組織に浸潤する病変を指す.LELの上皮細胞はしばしば好酸性変性を伴う.反応性胚中心に腫瘍細胞が侵入する(follicular colonization)と,濾胞性リンパ腫の病理形態と類似することがある.免疫染色では,CD20,CD79a,BCL2陽性,CD5,CD10,CD23,BCL6,cyclin D1陰性である1,2.IRTA1 (immunoglobulin superfamily receptor translocation-associated 1)がMALTリンパ腫の特異的マーカーであることが明らかになっているが7,抗体はまだ普及していない.Ki-67標識率は低値を示す.免疫グロブリン重鎖はIgMを発現することが多いが,IgGやIgAを発現することもある.IgDは陰性である2.κ鎖またはλ鎖の軽鎖制限が認められる.所属リンパ節では,腫瘍細胞がマージナルゾーンに浸潤し濾胞間が拡大する.上述の多彩な細胞形態も認められる.明瞭な単球様B細胞の集簇が認められることもある(図3C1

図3. 胃MALTリンパ腫の病理組織像

(A)症例3の胃粘膜生検.

a) H&E染色 (対物レンズ×20),(b) AE1/AE免疫染色 (×20),(c) CD79a免疫染色 (×20),(d) CD3免疫染色(×20),(e) BCL2免疫染色(×20),(f)Ki-67免疫染色(×20).粘膜間質に中型の腫瘍細胞が増殖・浸潤している.AE1/AE免疫染色で腫瘍細胞の浸潤を受けた上皮組織が明らかになる.腫瘍細胞はCD79a陽性,CD3陰性,BCL2陽性,Ki-67標識率は5%以下である.

(B)症例5の胃粘膜生検.

g)H&E染色(×20),(h)CAM 5.2免疫染色(×20),(i)CD20免疫染色(×20),(j)BCL6免疫染色(×20),(k)κ鎖免疫染色(×20),(l)λ鎖免疫染色(×20).粘膜間質に中型の腫瘍細胞が密に増殖・浸潤している.CAM 5.2免疫染色でlymphoepithelial lesionが明らかになる.腫瘍細胞はCD20陽性,BCL6陰性で,λ鎖の軽鎖制限を認める.

(C)症例1の胃所属リンパ節生検.

m)H&E染色(×10),濾胞周囲のマージナルゾーンが拡大している.(n)H&E染色(×40),小型~中型の腫瘍細胞に大型の胚中心芽球様細胞が混在している.(o)H&E染色(×40),濾胞間に認められた単球様B細胞の集簇を示す.

胃MALTリンパ腫に認められる染色体異常,遺伝子変異

MALTリンパ腫では,t(11;18)(q21;q21),t(14;18)(q32;q21),t(1;14)(p22;q32),t(3;14)(p14;q32),t(X;14)(p11;q32)の5つの染色体転座と,+3,+18などの数的異常が報告されているが,これらの染色体異常の頻度はMALTリンパ腫の発生臓器によって異なる1,2,8.胃MALTリンパ腫では,t(11;18)が6–26%,t(14;18)が1–5%,+3が11%,+18が6%の頻度で認められる(図4A1

図4. 胃MALTリンパ腫の染色体・FISH検査

(A)症例1の胃所属リンパ節から得られたGバンディング核型 (左)とAPI2-MALT1 dual fusion (DF) probeを用いた分裂核FISH (右).左では,t(11;18)(q21;q21)転座のder(11)染色体とder(18)染色体を矢印で示す.付加的染色体異常は認められない.右では,正常の11番染色体がAPI2の緑シグナルで,正常の18番染色体がMALT1の赤シグナルでラベルされ,der(11)染色体はAPI2-MALT1 fusionを示す黄シグナルでラベルされている.der(18)染色体には,転座したAPI2に相当する緑シグナルしか認められないので,MALT1に相当する領域が欠失していると考えられる.

(B)症例2の胃生検パラフィン標本から作製した組織切片にMALT1 break-apart (BA) probe (左)とAPI2-MALT1 DF probe(右)をハイブリダイズした休止核FISH.DAPIとtriple band pass filterの写真を並べてある.Aでは,赤でラベルした5′ MALT1と,緑でラベルした3′ MALT1シグナルがスプリットしている.Bでは,赤でラベルしたMALT1と,緑でラベルしたAPI2 が融合した黄シグナルが2個認められる.組織切片であるため,一つの核にすべてのシグナルが認められるわけではない.

(C)症例5の胃生検パラフィン標本から作製した組織切片にMALT1 BA probe(左)とAPI2-MALT1 DF probe(右)をハイブリダイズした間期核FISH.DAPIとtriple band pass filterの写真を並べてある.左ではMALT1の黄シグナルが3個,右でもMALT1の赤シグナルが3個認められるので,MALT1が位置する18番染色体のトリソミー(+18)が示唆される.

t(11;18)では,11q21上のAPI2 (BIRC3)遺伝子と18q21上のMALT1遺伝子がin-frameに結合しAPI2-MALT1キメラ蛋白をコードする.API2-MALT1キメラ蛋白はMALT1のcaspase-likeドメインのオリゴマー形成をもたらし,IκB kinaseを経てNF-κB活性化に至る2,8.t(11;18)/API2-MALT1は,胃粘膜生検材料から染色体核型を得ることは困難であるので,reverse transcriptase-PCRまたはFISHで検出する9.後者では2種類のプローブが市販されている(図4B,C).

免疫グロブリン重鎖遺伝子V領域にはsomatic hypermutationが認められる1MYD88 遺伝子L265P変異はワルデンシュトレームマクログロブリン血症に特異性が高いが,胃MALTリンパ腫でも認められることがある10

胃MALTリンパ腫の臨床病期

胃MALTリンパ腫の診断が確定したら臨床病期診断を行う.超音波内視鏡(EUS)は病変の壁深達度や所属リンパ腫浸潤を明らかにする11,12.全身のリンパ節・臓器浸潤は,コンピュータ断層撮影(CT)や18F-FDGポジトロンエミッション断層撮影(PET)とCTを組み合わせたPET/CTで診断する.両者は胃病変の評価にも用いられることがある(図1C図5).ただし,胃MALTリンパ腫の18F-FDG集積は高くないので,PET/CTの診断精度には議論がある13.限局期の胃MALTリンパ腫の骨髄浸潤はまれであるが14,MALTリンパ腫全体では3分の1の症例で骨髄浸潤が認められる15

図5. 胃MALTリンパ腫の画像検査(症例4)

(A)18F-FDG PET/CT.左はmaximum intensity projection (MIP)画像,右はPET/CTの横断面と冠状面画像.穹窿部に有意なFDG集積を認める.SUVmaxは5.1であった.

(B)(A)のPET/CT画像に相当する造影CT画像.胃穹窿部後壁に不整な隆起を認める.粘膜の壁構造は保たれているようにみえる.

本症例はLugano分類I期に該当する.

悪性リンパ腫の病期分類はAnn Arbor分類が広く用いられているが,消化管リンパ腫ではLugano分類を用いることが多い(表19,16.Lugano分類を胃MALTリンパ腫にあてはめると,胃に限局した孤発病変または非連続性多発病変をI期,胃所属リンパ節に浸潤を認めるものをII1期,大動脈周囲,下大静脈周囲,骨盤腔内,または鼠径部リンパ節に浸潤を認めるものをII2期,漿膜を越え隣接臓器・組織に浸潤しているものをIIE期,リンパ節外の播種性浸潤,または横隔膜より頭側のリンパ節浸潤を認めるものをIV期とする.III期は設定されていない.

表1. 消化管悪性リンパ腫のLugano病期分類

病期

病変の説明

病期I

腫瘍が消化管に限局

孤発病変または非連続性多発病変

病期II

腫瘍が原発巣から腹腔内に進展

II1:限局性のリンパ節浸潤(胃原発は胃所属リンパ節,腸原発は腸所属リンパ節)

II2:遠隔性のリンパ節浸潤(腸原発は腸間膜リンパ節,それ以外は大動脈周囲,下大静脈周囲,骨盤腔内,鼠径部リンパ節)

病期IIE

腫瘍が漿膜を越え,隣接臓器・組織に浸潤

浸潤臓器を,IIE[膵臓],IIE[大腸],IIE[後腹膜]などと記載する

リンパ節浸潤(1または2)と周辺臓器への浸潤が併存する場合は,II1E[膵臓]などと記載する

病期IV

リンパ節外の播種性浸潤,または横隔膜を越えるリンパ節浸潤を伴う消化管病変

文献16をもとに作成

H. pylori感染の検査方法

胃MALTリンパ腫の治療方針を決定する上で,H. pylori感染の有無の確認は極めて重要である17.我が国では,胃MALTリンパ腫患者のH. pylori陽性率は90%であるが17,18,欧米では陽性率が低下し,H. pylori胃炎に対する除菌治療が普及したために胃MALTリンパ腫の罹患率が低下したとの報告もある19

H. pylori感染の診断法は,上部消化管内視鏡検査下に実施される迅速ウレアーゼ試験,検鏡法,培養法と,内視鏡検査を必要としない尿素呼気試験,抗H. pylori抗体測定法,便中H. pylori抗原測定法がある20.迅速ウレアーゼ試験は,H. pyloriのウレアーゼによって産生されるアンモニアによるpHの変化をpH指示薬によって検出する方法である.感度は91.0–98.5%,特異度は90.9–100%である.検鏡法は,生検病理標本を顕微鏡下に観察しH. pyloriを直接確認する方法である.H&E染色に加えてギムザ染色やH. pyloriに対する抗体を用いた免疫染色が有用である.培養法はH. pyloriを直接的に証明する方法であるので特異性に優れ,菌株の保存も可能である.尿素呼気試験は13Cで標識した尿素を内服し,呼気中の二酸化炭素に含まれる13Cの増加率を測定する方法である.本法は簡便で,感度(97.7–100%),特異度(97.9–100%)とも優れている.抗体測定法は胃内の菌体密度が低下している状態や,他の検査法で擬陽性であった場合に有用である.便中抗原測定法は消化管を経由して便中に排泄されるH. pylori抗原を直接的に検出する方法である.感度は96–100%,特異度は97–100%である.

限局期胃MALTリンパ腫の治療

Lugano分類のI期とII1期を限局期とする.胃MALTリンパ腫の約8割をしめる.H. pylori陽性限局期胃MALTリンパ腫では,除菌治療が第一選択である.日本血液学会の造血器腫瘍診療ガイドラインの限局期胃MALTリンパ腫に対する治療アルゴリズムを図6に示す17

図6. 限局期胃MALTリンパ腫の治療アルゴリズム

*症状がない場合.**1回の照射野のなかにリンパ腫病変が含まれるかどうかなどの放射線治療上の適応をさす.

H. pylori除菌治療

一次除菌は,プロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(ボノプラザン),アモキシシリン,クラリスロマイシンの3剤を7日間内服する(表220.一次除菌の成功割合は67.5–92.6%である.一次除菌が不成功の場合は,クラリスロマイシン耐性菌の可能性が高いので,クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えた二次除菌を実施する(表220.二次除菌の成功割合は83.9–98.0%である.除菌成功または不成功の判定には,尿素呼気試験またはモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定を除菌治療終了4週後以降に実施する20

表2. H. pylori除菌治療

薬剤名

投与方法

一次除菌

ランソプラゾール

30 mg, BID

または,オメプラゾール

20 mg, BID

または,ラベプラゾール

10 mg, BID

または、エソメプラゾール

20 mg, BID

または,ボノプラザン

20 mg, BID

アモキシシリン

750 mg, BID

クラリスロマイシン

200 mg or 400 mg BID

二次除菌

ランソプラゾール

30 mg, BID

または,オメプラゾール

20 mg, BID

または,ラベプラゾール

10 mg, BID

または、エソメプラゾール

20 mg, BID

または,ボノプラザン

20 mg, BID

アモキシシリン

750 mg, BID

メトロニダゾール

250 mg, BID

上記の3剤を朝・夕食後に7日間経口投与する.

文献20をもとに作成

除菌治療後3–6 か月ごとに上部消化管内視鏡下に病変を観察し,生検材料を採取する(図7A).治療効果判定には,Wotherspoon分類またはGELA分類が用いられる21,22 .前者は,粘膜固有層のリンパ球浸潤とLEL の有無を組み合わせてgrade 0からgrade 5 までの6 段階に分類する.本分類は元来MALTリンパ腫の診断に提唱されたものであるが,治療効果の判定に用いる場合は,grade 0–2を完全奏効,grade 3を部分奏効と判定する.後者は,リンパ球浸潤とLEL に加えて間質反応の3 つの要素を評価し,complete histological response (ChR),probable minimal residual disease (pMRD),responding residual disease (rRD),no change (NC)の4 段階に分類する.ChRとpMRDを奏効と判定する.

図7. 胃MALTリンパ腫の治療経過

(A)症例4.本症例はH. pylori陽性であったので除菌治療を実施した.除菌治療前には,胃穹窿部に周囲の隆起を伴う潰瘍性病変が2か所認められた(a,図2C左と同一).一次除菌は不成功で,腫瘍には変化を認めなかったが(b),二次除菌に成功し,リンパ腫病変は瘢痕化した(c).下に胃粘膜生検病理組織像を示す.除菌治療前は粘膜固有層に顕著なリンパ球浸潤を認め(d,H&E染色,対物レンズ×10),免疫染色ではCD20陽性である(e,×10).除菌成功後は粘膜固有層のリンパ球浸潤が解消し,組織学的完全奏効の判定であった(f,H&E染色,×10).

(B)症例5.本症例はH. pylori陰性であったので放射線治療を実施した.総線量30グレイを15分割照射したところ,体下部大弯後壁に認められた隆起性病変(a,図2D中央と同一)は瘢痕化した(bc,矢印).残りの2つの病変も同様の治療効果を示した.生検でも腫瘍の残存は認めなかった.

H. pylori除菌治療による胃MALTリンパ腫の奏効割合は50–80%である17.病理組織学的に寛解に至っても単クローン性のB細胞が残存するとの報告がある23.我が国で実施されたJapan GAST Study Group (JGSG)による多施設共同研究では,420例中ChRが 284例(68%),pMRD が39例(9%),全奏効は323例(77%),奏効に至るまでの期間中央値は4か月(範囲は1–94か月)であった18.一方,観察期間中央値6.04年の長期観察では,奏効例323 例中10 例(3.1%)が再発し,非奏効例97 例中27 例(28%)にリンパ腫の進行を認め,8例(8%)がDLBCLに形質転換した.これらの治療失敗例を合わせても,除菌治療10 年後の治療失敗回避割合,全生存割合,無イベント生存割合はそれぞれ90%,95%,86%であった18 .なお,胃MALTリンパ腫の長期観察者に胃癌が発症することがある24

H. pylori陰性胃MALTリンパ腫の治療

胃MALTリンパ腫の5–10%はH. pylori陰性である.JGSG研究では420例中44例(10%)がH. pylori陰性であった18H. pylori陰性例ではt(11;18)/API2-MALT1転座の頻度が高い25H. pylori陰性例の一部は除菌治療が奏効する(JGSG研究では奏効割合14%)18,26.除菌治療は有害事象が軽微で胃MALTリンパ腫の進行も緩徐であることから,陰性例であっても除菌療法を試みてもよいとの意見もあるが26,症状がある場合は速やかに次項の放射線治療を試みるべきであろう(図7B).

除菌治療抵抗例に対する二次治療

除菌治療後12–18か月経過しても奏効に至らない場合は除菌治療抵抗例と判断し,二次治療を計画する.上述のとおり奏効に至るまでに長期間を要する症例もあることに留意する.JGSG研究で明らかになった除菌治療抵抗因子は,男性,H. pylori 陰性,胃近位側または多発性病変,非表層型,Lugano 分類II1 期以上,EUSで壁深達度が粘膜下層以深,t(11;18)/API2-MALT1転座である18.t(11;18)/API2-MALT1は多くの研究で除菌治療抵抗性のバイオマーカーであることが明らかになっているが,t(11;18)/API2-MALT1陽性例はDLBCLに形質転換しないと考えられるので,ただちに二次治療の適応になるわけではない.JGSG研究では,非奏効97例のうち82例に二次治療が実施された18

除菌治療抵抗例には放射線治療が有効である.除菌治療後の胃MALTリンパ腫53例の後方視研究では,52例(98%)が完全奏効し,観察期間中央値4.9年で再発を認めなかった27.除菌治療抵抗性またはH. pylori陰性症例を対象とした前方視研究では,評価可能であった22例が完全奏効した28.我が国の研究でも,除菌治療抵抗性の胃MALTリンパ腫34例中33例(97%)が完全奏効に至り,5年無再発生存割合は97%であった.ただし3例が胃または多臓器に再発した29.多くの試験における総照射線量は25–40グレイ(中央値30グレイ)の低~中線量である27,28.放射線治療中の穿孔や出血はまれである.さらに,近年は三次元放射線治療・強度変調放射線治療が普及し,周辺臓器の毒性の軽減が図られている30

一方,除菌治療抵抗性またはH. pylori除菌療法の適応にならなかった27例を対象としたリツキシマブ単独治療(375 mg/m2,4回投与)の第2相試験では,評価可能であった26例のうち20例(77%)に奏効が得られた.t(11;18)/API2-MALT1転座はリツキシマブの治療効果には影響を与えない31

進行期胃MALTリンパ腫の治療

Lugano分類II2期以上,Ann Arbor分類III期以上の症例が進行期に該当する.診断時から進行している場合と限局期から進展する場合が考えられるが,いずれも疾患頻度が低いため,大規模な臨床試験の実施が困難である17.現時点では,低悪性度B細胞リンパ腫のなかで疾患頻度の高い濾胞性リンパ腫に準じた治療方針を選択する.低悪性度B細胞リンパ腫は進行が緩徐であるため,進行期であっても,症状がない場合や,低腫瘍量である場合はwatchful waiting policy(慎重な経過観察)を適用する.骨髄浸潤は生存に影響を与えないとの報告もある15.治療開始にあたっては,濾胞性リンパ腫に適用される高腫瘍量基準が参考になると思われるが,胃悪性リンパ腫に特有な消化管出血や穿孔をきたした場合や,病理組織学的にDLBCLへの形質転換が明らかになった場合も治療開始の目安になるであろう.なお,H. pylori陽性であれば,進行期であっても除菌治療を実施する.

ガイドラインでは,リツキシマブ単独または化学療法薬との併用療法が推奨されている(図617.MALT リンパ腫454例を対象としたInternational Extranodal Lymphoma Study Group 19 (IELSG-19)第3相試験では,クロラムブチル単独,リツキシマブ+クロラムブチル,リツキシマブ単独(375 mg/m2,8回投与)の3群にランダマイズして治療成績を比較した32.クロラムブチルはわが国では未承認であるので,リツキシマブ単独群の成績をみると,胃原発61例を含む138例が登録され,完全奏効,部分奏効,全奏効割合はそれぞれ55.8%,22.5%,78.3%,5年無イベント生存,無増悪生存,全生存割合はそれぞれ50%,57%,92%であった32.なお,本試験の結果から,年齢≧70歳,Ann Arbor 病期IIIまたはIV,LDH>正常値上限の3つの予後因子が抽出された(MALT lymphoma International Prognostic Index; MALT-IPI) 33

低悪性度B細胞リンパ腫250例を対象とした,リツキシマブ+サイクロフォスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン(R-CVP)+リツキシマブ維持療法と,リツキシマブ+サイクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン(R-CHOP)+リツキシマブ維持療法の第3相比較試験では,奏功割合と無イベント生存には両群に差は認めなかったが,好中球減少や感染症が後者で有意に高率であった34.病型別では,MALTリンパ腫・マージナルゾーンリンパ腫と濾胞性リンパ腫の無イベント生存は同等であった34

病期III期またはIV期の低悪性度B細胞リンパ腫とマントル細胞リンパ腫を対象として実施されたリツキシマブ+ベンダムスチン(RB)療法のR-CHOP療法に対する非劣性を検討した第3相試験では,67例のマージナルゾーンリンパ腫が登録されており,RB群(37例)とR-CHOP群(30例)の無増悪生存期間中央値はそれぞれ57.2か月と47.2か月であった35.RB療法はR-CHOP療法と比較して血液毒性が軽度で感染症や末梢神経障害の発症頻度が低いとされているが,RB療法には長期にわたる免疫抑制をきたすことに留意が必要である.

おわりに

胃MALTリンパ腫の大半は限局期で,H. pylori陽性例では除菌治療が奏効する.除菌治療抵抗例や進行期の症例には免疫化学療法が実施されることがあるが,基本的には低悪性度B細胞リンパ腫に対する治療方針を適用すればよいであろう.一方,新規薬剤の有効性も次々と報告されているので36,37,今後の臨床研究の成果を注視する必要がある.

References
 
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