2021 Volume 24 Issue 2 Pages 91-99
嚥下障害患者が液体を摂取する際には, 誤嚥の危険性を少なくするためにとろみ調整食品を使用することが多く行われている.2013年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会より「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」という指針1(以下, 学会分類2013)が発表され(表1),その中で水分のとろみについては「薄いとろみ」, 「中間のとろみ」, 「濃いとろみ」の3段階の分類が示された.分類の判断基準として, ①飲んだ時や見たときの印象から評価する性状の観察所見(主観的評価)と,②粘度計で測定した粘度やラインスプレッドテスト(Line Spread Test:LST)の値などの物性測定値(客観的評価)が示されている.そしてこの指針に準じて水のとろみ付けについてはとろみ調整食品販売メーカーより基準分量が示されている.しかしながら経腸栄養剤などについては基準がなく, 病院で使用している経腸栄養剤やとろみ調整食品の種類は様々であることもありその使用量は統一されていないのが現状である.様々な報告はあるがその組み合わせは限られており2–3,実際に当院で使用している経腸栄養剤ととろみ調整食品の組み合わせに合致するものはなかった.経腸栄養剤やとろみ調整食品の種類によってとろみの付き方が異なるため4,実際に使用している経腸栄養剤に応じて院内で統一した調剤方法や分量を検討することが必要である.しかし, とろみ粘度の客観的評価に有用な粘度計は高価な為,一般の病院で導入することは困難である.一方,LSTは比較的安価なものの,評価できるものは水などの水分のみであり,経腸栄養剤の評価には適していない.そのため,一般の病院などでは性状の観察所見に基づいて主観的に判断していることが多く,簡便に使用できる客観的評価方法は確立していない.
本研究では, 経腸栄養剤のとろみ粘度測定を専門の機器を用いず,一般の病院でも実施可能な客観的評価方法で検討を行った.実施手順として, まず水のとろみ粘度を主観的評価方法で評価し, 安価で汎用性のある客観的評価方法とされているFlow test 5の有用性を水のとろみ粘度測定において確認した.次に当院で採用している経腸栄養剤のとろみ粘度について主観的評価方法にて評価し, その結果をFlow testで検証した.さらに, 検証した経腸栄養剤に対するとろみ調整食品の適正使用量と調剤法について一覧表とマニュアルを作成し, 病棟に配布後アンケートを実施することでその実行性と問題点について検討を行った(表1).
| 段階1 薄いとろみ | 段階2 中間のとろみ | 段階3 濃いとろみ | |
|---|---|---|---|
|
性状の説明 (飲んだとき) |
「drink」するという表現が適切なとろみの程度 口に入れると口腔内に広がる液体の種類・味や温度によっては, とろみが付いていることがあまり気にならない場合もある 飲み込む際に大きな力を要しない ストローで容易に吸うことができる |
明らかにとろみがあることを感じ, かつ「drink」するという表現が適切なとろみの程度 口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらない 舌の上でまとめやすい ストローで吸うのは抵抗がある |
明らかにとろみが付いていて, まとまりがない 送り込むのに力が必要 スプーンで「eat」するという表現が適切なとろみの程度 ストローで吸うことは困難 |
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性状の説明 (見たとき) |
スプーンで傾けるとすっと流れ落ちる フォークの歯の間から素早く流れ落ちる カップを傾け, 流れ出た後には, うっすらと跡が残る程度の付着 |
スプーンを傾けるととろとろと流れる フォークの歯の間からゆっくりと流れ落ちる カップを傾け流れ出た後には, 全体にコーティングしたように付着 |
スプーンを傾けても, 形状がある程度保たれ, 流れにくいフォークの歯の間から流れ出ない カップを傾けても流れ出ない(ゆっくりと塊となって落ちる) |
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粘度 (mPa・s) |
50–150 | 150–300 | 300–500 |
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LST値 (mm) |
36–43 | 32–36 | 30–32 |
とろみ調整食品メーカーから,学会分類2013の基準に合ったとろみ調整食品の添加量の目安が出されており,ソフティア®S(ニュートリー株式会社)でも3段階の基準が出されている(表2).水のとろみについて学会分類2013で示されている性状の説明に適合しているとろみを主観的に検証したものをソフティア®Sの基準と比較した.次にFlow testが先行研究と相違ないか検証を行い, さらにLST値との比較を行った.
| 薄いとろみ | 中間のとろみ | 濃いとろみ | |
|---|---|---|---|
| 添加量(濃度)の目安 | 1.5 g(1%) | 3.0 g(2%) | 4.5 g(3%) |
1.使用するとろみ調整食品
とろみ調整食品はソフティア®Sを用いた.
2.攪拌方法と静置時間
とろみ調整食品を添加しスプーンで1分間攪拌後, 5分静置したものを評価した.
3.とろみ調整食品の添加分量
水150 mlに対して1.0 g,1.5 g,2.0 g,2.5 g,3.0 g,3.5 g,4.0 g,4.5 gの各分量添加したものを評価した.
4.評価方法
各分量で作成したとろみ水を,学会分類2013で示されている性状の説明に合うとろみ粘度から鑑みて言語聴覚士4名で主観的に評価した.評価は「薄いとろみ」,「中間のとろみ」,「濃いとろみ」の各分類に対して多数決を採った.主観的評価で検証したソフティア®Sの分量をソフティア®Sの添加量の目安と比較した.
<Flow test>客観的評価方法としてInternational Dysphagia Diet Standardisation Initiative(以下, IDDSI)Frameworkで提案されているシリンジを用いた簡易評価方法であるFlow Test 5を使用した.図1の手順で10 ml容量のシリンジから液体を10秒間滴下し, シリンジ内の液体残量によりとろみの粘性を5段階で評価した(表3).シリンジはテルモ製シリンジ(SS-10SZP, 51.5 mm, ルアースリップ)を使用した. Flow testの有用性を検証するために,ソフティア®Sの添加量の目安で付けたとろみを, Flow testとLST値で比較した(図1)(表3).

| レベル0(液体) | 試料すべてがシリンジから流れ落ちる. |
|---|---|
| レベル1(極薄いとろみ) | シリンジに試料が1–4 ml残る. |
| レベル2(薄いとろみ) | シリンジに試料が4–8 ml残る. |
| レベル3(中間のとろみ) | シリンジに試料が8 ml以上残るが, 少しは流れ落ちる. |
| レベル4(濃いとろみ) | 何も流れ落ちない場合, 分類としてはレベル4かそれ以上となる. |
| 1. 水やお茶へのとろみの段階表があることを知っていますか?(はい・いいえ) |
| 2. 経腸栄養剤へのとろみの段階表があることを知っていますか?(はい・いいえ) |
| 3. とろみの段階表は病棟のどちらに掲示されていますか?(場所を記載) |
| 4. 水やお茶へとろみ調整食品を入れて飲んでいる患者は何人いますか?(人数記載) |
| 5. 経腸栄養剤を経口摂取されている患者はいますか?(はい・いいえ) |
| 6. 経腸栄養剤へとろみ調整食品を入れて飲んでいる患者は何人いますか?(人数記載) |
| 7. 撹拌方法や保存時間などの注意点は守られていますか?また,守られていない理由はありますか?(守られている・比較的守られている・あまり守られていない・守られていない) |
| 8. とろみ調整食品について不安に思う内容を記載してください. (自由記載) |
1.使用する経腸栄養剤ととろみ調整食品
当院で採用されている経腸栄養剤のうち5種類で検討を行った.分量はすべて200 mlで行った. MEIN®(明治株式会社),インスロー®(明治株式会社),テルミール®2.0α(テルモ株式会社),ペプチーノ®(テルモ株式会社),ラコール®NF配合経腸用液(イーエヌ大塚製薬株式会社)を用いた. とろみ調整食品はソフティア®Sを用いた.
2.攪拌方法と静置時間
経腸栄養剤は攪拌によって粘性が増加する傾向にある3とされているため,本研究では攪拌回数と静置時間を一定に設定した.攪拌方法は, 水ではスプーンを使用していたが, 経腸栄養剤ではダマになり上手く溶解されないことが分かり,ダマにならないようにフォークを使用することとした.1分間の攪拌の後10秒間の静置時間を置き, その後30秒間の再攪拌を実施し, 合計2回の攪拌を行った.なお, 1回の攪拌に行う攪拌回数については任意の回数を実施することとした.評価は再攪拌直後と30分間静置したものを対象とし,経過時間の影響を検討した.
3.とろみ調整食品の分量
当院ではソフティア®Sのスティック(内容量:3.0 g)を使用する場合が多く,病棟での使い易さを重視し,1/2本(1.5 g),1本(3.0 g),1.5本(4.5 g)で検証を行った.
4.評価方法
学会分類2013で示されている性状の説明に合ったとろみを,「薄いとろみ」,「中間のとろみ」で評価した.「濃いとろみ」については, 経腸栄養剤は粘度が上昇した際の窒息などのリスクを考慮し今回の調査では行わなかった.評価者は, 言語聴覚士4名, 看護師1名,薬剤師2名,管理栄養士2名,臨床検査技師1名の多職種10名で評価.判定は最も人数が多かった分量を採択した.
<Flow test>主観的評価方法の結果でわかったソフティア®Sの分量で経腸栄養剤にとろみを付けたものをFlow testで検証した.攪拌時間や静置時間は上記に既述の方法で実施した.
〇アンケート水やお茶へのとろみ付け一覧表を2016年6月に配布しているが,経腸栄養剤のとろみ付けに関するソフティア®S基準分量と調剤法のシートを作成し,2019年4月に当院の全19病棟に配布した.配布した資料には注意点として,撹拌時にフォークを使用するなど攪拌の方法,攪拌や静置時間により粘度が上昇すること,食品衛生上1時間以内に摂取することなどの内容を記載した.経腸栄養剤とろみ付け一覧表を配布して10か月後にアンケートを配布し,栄養サポートチームの各病棟リンクナースから回答を得た(表4).
結果 〇水のとろみ <主観的評価方法>主観的評価の結果は「薄いとろみ」と評価したものはソフティア®Sの濃度が0.6%,「中間のとろみ」と評価したものは1.0%,「濃いとろみ」と評価したものは3.0%であり,本来薄いとろみである1.0%を中間のとろみと評価しており,薄いとろみについてもさらに薄い濃度で評価していた(表5).
| 薄いとろみ | 中間のとろみ | 濃いとろみ | |
|---|---|---|---|
| 添加量の目安(%) | 1.0 | 2.0 | 3.0 |
| 主観的評価(%) | 0.6 | 1.0 | 3.0 |
LST値とFlow testは,ソフティア®Sの基準分量を正確に評価していた(表6).
| 薄いとろみ | 中間のとろみ | 濃いとろみ | |
|---|---|---|---|
| ソフティア®S濃度(%) | 1.0 | 2.0 | 3.0 |
| LST値(mm) | 40.3 | 35.5 | 31.1 |
| Flow test(ml) | 4.2 | 9.0 | 流れ落ちない |
インスロー®,テルミール®2.0α,ペプチーノ®ではソフティア®Sの添加量が3.0 gで薄いとろみと評価していたが,MEIN®では1.5 gで薄いとろみと判断しており少量で十分にとろみがついていた.ラコール®では4.5 g入れても薄いとろみとしか評価されず, 多量のとろみ調整食品が必要であり,今回試みた添加量では薄いとろみ以上のとろみは得られなかった.中間のとろみは, 薄いとろみと同様の傾向でありMEIN®では少量でとろみ付加されていた.濃いとろみは窒息などのリスクを考え評価を行わなかった(表7).時間経過による変化では,MEIN®で3.0 gのとろみを付けたものが, 30分後には濃いとろみの評価となっており,その他では評価が変わるものはなかった(表8).
| 薄いとろみ | 中間のとろみ | |
|---|---|---|
| MEIN® (g) | 1.5 | 3.0 |
| インスロー® (g) | 3.0 | 4.5 |
| テルミール®2.0α (g) | 3.0 | 4.5 |
| ペプチーノ® (g) | 3.0 | 4.5 |
| ラコール® (g) | 4.5 | 未評価 |
| 再攪拌直後 | 再攪拌30分後 | |
|---|---|---|
| MEIN® | 中間のとろみ | 濃いとろみ |
| インスロー® | 中間のとろみ | 中間のとろみ |
| テルミール®2.0α | 中間のとろみ | 中間のとろみ |
| ペプチーノ® | 中間のとろみ | 中間のとろみ |
| ラコール® | 中間のとろみ | 中間のとろみ |
とろみ粘度の主観的評価を,Flow testで検証した結果を表9に示す.
全体的に主観的に薄いとろみと評価したものがFlow testではレベル1(ごく薄いとろみ), 中間のとろみと評価したものがFlow testでレベル2(薄いとろみ)と判定されるものが多かった.主観的評価とFlow testの評価が同様であったのはMEIN®とラコール®であった(表9).
| 主観的評価で薄いとろみ | 主観的評価で中間のとろみ | |
|---|---|---|
| MEIN® | 4.9(レベル2) | 8.1(レベル3) |
| インスロー® | 1.9(レベル1) | 4.8(レベル2) |
| テルミール®2.0α | 3.0(レベル1) | 5.1(レベル2) |
| ペプチーノ® | 2.1(レベル1) | 5.8(レベル2) |
| ラコール® | 4.5(レベル2) | 未評価 |
レベル1: ごく薄いとろみ, レベル2: 薄いとろみ, レベル3: 中間のとろみ
アンケートの結果(図2)から,配布した一覧表はほぼすべての病棟で認知されていた(Q1, Q2). しかしながら一覧表の掲示場所については,流し台や冷蔵庫など目に付きやすい場所に掲示されている病棟がある一方で,ファイルに綴じられ掲示されていない病棟もあった(Q3).とろみ調整食品の使用については, 1名以上使用している病棟が79%であり10名以上いる病棟は脳外科,脳神経内科など嚥下障害患者の多い病棟であった.小児科, 産婦人科では使用していなかった(Q4).半数以上の病棟で経腸栄養剤を経口摂取しており(Q5), 経腸栄養剤にとろみ調整食品を入れている病棟は32%であった(Q6).注意点については, 63%の病棟で守られていたが, 守られていない理由としては,「再撹拌することが困難」,「1時間以上置いておけないなど徹底できていない」,「看護師は認識しているが, 介護職スタッフは認識していない」などの回答があった(Q7).とろみ調整食品について不安に思う内容としては, 「当院で採用されているとろみ調整食品以外のものでは同様に使用できるのか」などの回答があった(Q8).

本研究では,経腸栄養剤にとろみ調整食品を付加した際の粘度についての主観的および客観的評価を行った.主観的評価は検者間の差があるため,簡便な客観的評価方法であるFlow testが有用であった.続いて, 経腸栄養剤のとろみづけ基準マニュアルを作成し院内各病棟に配布後アンケート調査を行った.その結果, 攪拌回数や静置時間の影響で粘度が上昇するため,実際の使用に際しては院内スタッフ間での十分な情報共有が必要であることが浮き彫りとなった.さらに業務や運用上の問題点として,看護師と介護職間の認識の違いや,業務が多忙な為経腸栄養剤のとろみづけに対して時間を割くことができないなどの問題点がみられていた.
米国ではNational Dysphagia Diet(2002)6のように嚥下障害の重症度に合わせた嚥下調整食の段階や水分のとろみ粘度などの統一基準があり,本邦でも日本摂食嚥下リハビリテーション学会より学会分類20131が公表され全国の病院・介護施設などで用いられている.しかしながら, 学会分類2013は水やお茶などの測定を想定したものであるため,経腸栄養剤などの液剤のとろみには対応しておらず, 様々な報告はあるが特定の組み合わせ以外で適切な量は不明である.先行研究2でも言われているように, 今回の結果でも経腸栄養剤では種類によってとろみ調整食品を同じ割合で入れてもとろみの付き方は異なった.つまり各施設で使われている経腸栄養剤と,とろみ調整食品の割合を検討することは非常に重要である.
今回我々は,実際に当院で使用している経腸栄養剤ととろみ調整食品の組み合わせについて,学会分類2013で示されている性状の説明に合わせた主観的評価の結果を, 簡易な客観的評価方法と言われているFlow testを用いて再評価し,適切な割合を検討した.Flow testは, LST値以外の客観的評価方法としてIDDSIから推奨されている簡易評価方法であり,病院などで一般的に用いられているシリンジを使用する点で非常に汎用性のある評価方法である.LST値やFlow testで経腸栄養剤のとろみを検討した報告では,LST値が経腸栄養剤の測定においては不向き3であるとされている一方,Flow testは粘度の増加に依存してシリンジ内残量が増える傾向にあるとされており,経腸栄養剤のとろみ測定に対しても有効であるとされている.ただ, Flow testを実施する上で, 薄いとろみでは異なる種類のとろみ調整食品を用いた場合でも測定可能とされているが,中間および濃いとろみの評価を適切に行うことができなかったとする報告7もあり,Flow testにおいても使用の際に留意が必要と思われる.今回の調査では,経腸栄養剤の濃いとろみは粘度が上昇した際の窒息のリスクを考慮して評価対象から除いたが,中間以下のとろみについては一定の評価ができたと思われる.
水のとろみにおいてソフティア®Sの適切な添加量はとろみの3段階全てで目安量が定められているが,当院で使われている10mlのシリンジを使用したFlow testで3段階のすべてのとろみを正確に評価できていることをまず確認した.その上で主観的評価法の結果と比較してみると, 濃いとろみと評価したものはソフティア®Sの基準濃度と同じであったが,薄いとろみ・中間のとろみと多くの検者が評価したものはソフティア®Sの基準濃度に比しとろみ調整食品の割合が少なかった.主観的に粘度を過剰に評価したと思われる.経腸栄養剤においても主観的に薄いと評価したものがFlow testでは極薄いと評価され,主観的に中間と評価したものはFlow testで薄いと評価された.これは水のとろみ付けと同様の結果であり,主観的評価ではとろみを過剰に評価する傾向にあった.主観的評価方法とFlow testの結果は水でも経腸栄養剤でも一定の傾向を示した.主観的評価方法と客観的評価方法との差について, 主観的評価方法の検者はすべて日頃から嚥下に携わる人間でありながら客観的評価方法に比べほとんどのケースで一律にとろみを過剰評価してしまったのは,濃いとろみを飲ませることが怖いという心理が働いたのかもしれない.また経腸栄養剤は粘度が強くなると食味があまり良くないなどの心理的要因も影響していた可能性がある.粘度の濃い液体を普段あまり飲む事がないこともあり,検者間で共通の基準となるものを決めることが難しいというのも主観的評価の問題であるといえる.窒息などのリスクを考慮すると薄いとろみで設定しておいた方が良いと思われるが,一方誤嚥のリスクは高くなる恐れがある.主観的評価方法は粘度を過剰に評価する結果が得られたことから,Flow testのような客観的評価に基づいたデータを病棟スタッフと共有することが大切であると思われた.
流動食専用のとろみ調整食品について,上羽らの研究4では流動食専用のとろみ調整食品は流動食に対しては十分な粘度が得られたが,蒸留水へは溶解しにくく攪拌を繰り返すがダマが残りやすく十分な粘性が付かなかったとされている.当院で使用しているソフティア®Sは, 今回の実験では水と経腸栄養剤にとろみ付加が可能であり,攪拌の方法や攪拌回数, 静置時間を統一することでとろみを一定の粘度で作成することが可能であった. 流動食専用のとろみ調整食品を採用すれば流動食に対する適切なとろみ調整食品の使用量を検討する必要はなくなるが,2種類のとろみ調整食品を使い分けることとなり,病棟において負担が増す可能性はある.
とろみ調整食品の適切な使用法を検討することはもちろん必要であるが,一方で実際に使用することの多い看護師などの病棟スタッフが適切に実行できていることが大切である.アンケートの結果から,我々の病院ではとろみ調整食品はほとんどの病棟で使用されおり, 経腸栄養剤を経口摂取している病棟が半数以上, さらに経腸栄養剤にとろみ調整食品を使用している病棟が3割程度あった. 診療科によって嚥下障害患者のいる割合や栄養障害の課題が異なっているにも関わらず多くの病棟でとろみ調整食品は使用されており,共通の基準を共有することが必要であることを再認識した.
我々が今回行ったフォークを用いる攪拌方法は,静置時間をおいてから再撹拌することで均一にとろみ調整食品を混ぜることができ,実際に時間経過によってとろみ度の変化のあった経腸栄養剤は1種類のみであった.ただし、とろみ調整食品の攪拌回数,静置時間によって粘度は上昇するため,使用方法は遵守する必要がある.もともと我々はとろみ調整食品の使用方法について啓蒙をすすめるために, すべての病棟にとろみ調整食品の適切な分量や使用方法についての注意点を記載した一覧表を配っており,多くの病棟で一覧表がわかりやすい箇所に掲示されていた.しかし残念ながら今回用いた撹拌方法はとろみづけにかかる時間を多く要してしまう為, 実施することを困難に感じている病棟があり,また使用期限を設けていたが衛生上の管理を十分には守れていない病棟もあった.病棟における適切な運用において,看護業務量が多くとろみづけにかけられる時間を割くことが困難であることや, とろみ使用に慣れていない病棟があることなどの課題が挙げられた.とろみ調整食品の分量はもちろん大切であるが,それだけでなくどのように使用するべきであるのかということも含め, さらなる啓蒙が必要である. ラコール®のように,とろみ調整食品が多量に必要なものもあり,使用する経腸栄養剤の特性をよく理解して使用すべきであり,今後はとろみ調整食品の必要性やとろみ付けの方法などを説明する機会を設け,認識が高まる活動を行っていきたい.
経腸栄養剤のとろみ付けに関する院内基準法の作成に際し,より簡便な客観的評価法であるFlow testは利用することで主観的評価の曖昧さを見直すことができた.また,経腸栄養剤はとろみ付加の際に撹拌回数や静置時間の影響で粘度が上昇する特徴があるため,実際の使用法に関して病棟スタッフへの十分な情報提供と啓蒙が必要であると思われる.
すべての筆者につき本論文に関し申告すべき利益相反なし.