Tenri Medical Bulletin
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Case Reports
Squamous lung carcinoma associated with thin-wall cavitary lesions that presented with recurrent pneumothorax
Kazuki MatsumuraTakashi InaoAtsushi TakedaMaruguchi NaotoRyo YamamotoSatoshi NakamuraMasakuni UeyamaSatoru TeradaYusuke KajiTakehiro YasudaSeishu HashimotoEisaku TanakaYoshio TaguchiTakashi Hajiro Shinji SumiyoshiGen HonjoYoichiro Kobashi
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2022 Volume 25 Issue 1 Pages 22-28

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Abstract

症例は70歳男性.20XX年3月中旬,他疾患経過観察中の胸部X線写真で左気胸を指摘され当科に紹介された.胸部CTで左気胸と左S3に薄壁空洞を認めた.持続胸腔ドレナージで改善せず,胸腔鏡下左肺部分切除術を行ったところ,薄壁空洞病変より扁平上皮肺癌を認めた.同年7月末に左気胸が再発し,胸部CTで左S8に薄壁空洞を認めた.持続胸腔ドレナージでは改善せず,再度胸腔鏡下左肺部分切除術を行った.病理学的に検討したところ,扁平上皮肺癌を認め,1回目と酷似した病理所見を呈しており肺転移と診断した.同年10月中旬に左気胸が再発し,胸部CTで左上葉に嚢胞性病変が出現した.持続胸腔ドレナージで改善せず,3度目の胸腔鏡下左肺部分切除術を行い,同病変を切除したところ,再び扁平上皮肺癌を認めた.この時点で多発肺内転移,肝転移も認め,PD-L1の発現は強陽性であったため,ペムブロリズマブを開始した.治療により病変を制御でき,気胸も再発なく経過している.

Translated Abstract

A 70-year-old man was referred to our department due to left pneumothorax associated with a thin-wall cavitary lesion in the S3 segment of the left lung. Surgical resection of the cavitary lesion was performed, which incidentally detected the development of squamous cell carcinoma around the cavity. Four and 7 months after the surgery, computed tomography (CT) of the chest revealed the development of thin-wall cavitary lung lesions associated with recurrent pneumothorax and the surgical specimens were also found to be composed of squamous carcinoma tissues around the cavities. CT before the third surgery revealed multiple intrapulmonary and hepatic metastatic tumors. As the tumors strongly expressed PD-1, the patient was treated with pembrolizumab, leading to a favorable response. Lung cancer may cause the formation of thin-wall cavities by the check valve mechanism and/or ischemic necrosis. On the other hand, pneumothorax may develop from the check valve mechanism and/or infiltration of carcinoma cells into the pleura. This report suggests that, when an elderly patient with smoking history presents with pneumothorax, the possibility that lung cancer underlies the condition should be considered.

緒言

原発性肺癌は薄壁空洞を形成することは比較的稀とされている.また,気胸を合併することも稀とされており,その頻度は文献的に1%以下とされている.今回画像上で薄壁空洞を呈し,繰り返し気胸を合併した扁平上皮肺癌の症例を経験したので,文献的考察を踏まえながら報告する.

症例

患者:70歳男性

主訴:咳嗽,左背部痛

既往歴:膀胱癌術後,胃十二指腸潰瘍,頚椎椎間板ヘルニア

家族歴:特記事項なし

生活歴:15本/日× 50年(20–70歳)

現病歴:20XX年2月末頃より咳嗽と咳嗽時の左背部痛を自覚した.症状が改善しない為,同年3月中旬,膀胱癌術後で通院していた泌尿器科を受診し,胸部単純X線検査で左気胸を指摘され,当科に紹介受診となり精査加療目的に入院した.

入院時現症:身長168.7 cm,体重66.8 kg,体温36.2℃,血圧135/93 mmHg,脈拍94回/分・整,SpO₂ 94%(室内気),呼吸音は左肺が減弱

血液検査:白血球数7,170/μL,CRP 0.41 mg/dLと軽度の炎症反応の上昇を認める.CEA,CYFRA,ProGRPはいずれも正常値であった.

胸部単純X線写真:左肺の軽度の虚脱と左下肺野に空洞を伴う小結節影を認める(Figure 1).

Figure 1. Chest X-ray showing left pneumothorax and a cavitary lesion in the lung parenchyma

胸部CT:左肺は虚脱し,左S3に1 cm強の空洞を伴う境界明瞭な結節影を認める(Figure 2a).

Figure 2.

(a) CT of the chest showing left pneumothorax and a cavitary lesion in the periphery of the S3 segment of the left lung. (b) Higher-magnification image of the carcinoma tissue showing the non-keratinizing squamous cell carcinoma morphology (HE, 200×)

入院後経過:入院時に左自然気胸と診断し,左胸腔ドレーンを挿入し持続胸腔ドレナージを開始したが,エアリークは持続したため,第10病日に左気胸に対して胸腔鏡下左肺部分切除術を施行した.術中所見では,左上葉S3に約1 cm強に渡り胸膜欠損と周囲にフィブリン塊が付着した部分を認めた.リークテストを行い,同病変からエアリークを認めた為に部分切除した.切除検体を病理学的に検討したところ,部分切除した病変はCTで指摘しえた左S3の空洞性結節と考えられ,中~大型の多角形細胞のシート状・胞巣状の増殖病変を認めた.免疫染色では,p40陽性,TTF-1陰性であり,非角化型扁平上皮肺癌と診断した(Figure 2b).術後に施行したFDG-PETや頭部MRIでは明らかな転移所見は認めず,この時点では,扁平上皮肺癌(pT1bN0M0, StageⅠA2)と診断し経過観察とした.20XX年7月末に左気胸が再発し,胸部CTでは左S8に2か月前に認めていた嚢胞性病変に壁肥厚が加わり,2 cm強の空洞性結節を呈していた(Figure 3a, b).再度持続胸腔ドレナージを開始したがエアリークは遷延したため,原因と考えられた空洞性結節に対し,同年8月中旬に胸腔鏡下左下葉部分切除術を施行した(Figure 3c).切除検体を病理学的に検討したところ,中~大型の多角形細胞がシート状・胞巣状の集塊を形成し増生しており,非角化型扁平上皮肺癌と診断した.腫瘍は空洞を形成し,中枢側には腫瘍の浸潤による気道の狭窄像が認められた(Figure 4a).一部で癌細胞の胸膜の浸潤を認め(Figure 4b),脈管浸潤は明らかではなかったが,広範囲の腫瘍細胞の壊死を認めた(Figure 4c).切除断端からステイプラー切離面までは2 mm離れていた.初回に摘出した検体の病理像と酷似しており,肺内転移と診断した.その後,標的病変を認めなかった為,無治療経過観察していたところ,20XX年10月中旬に左気胸を再発した.胸部CTでは,左気胸の他に,左S1+2の葉間胸膜沿いに1 cm弱の嚢胞性病変を新たに認めた(Figure 5a, b).また,左S8に15 mm大の新規結節影,右S4に嚢胞性病変,肝臓の内側区域に新たな腫瘤性病変が出現した(Figure 6).持続胸腔ドレナージを開始するも改善しなかった為,10月末に胸腔鏡下左上葉部分切除を施行した.術中所見では,左上葉S1+2の嚢胞性病変よりエアリークを認め,同病変の外科的切除を行った.病理学的に検討したところ,中~大型の多角形細胞がシート状・胞巣状の集塊を形成して増生し,胸膜に癌の浸潤・増殖を認める非角化型扁平上皮肺癌と診断した(Figure 5c).これまでの画像検査と病理結果から,扁平上皮肺癌(Stage ⅣB)と診断した.初回の切除検体ではPD-L1発現が強陽性(TPS = 100%)であったため,11月中旬よりペムブロリズマブによる薬物治療を開始した.20XX + 1年1月末のCT画像では,左S8の小結節影と肝臓の内側区域に認めた腫瘤影は縮小し,右S4の嚢胞壁肥厚は改善を認め,嚢胞のみが残存し,PRと判断した.現在も薬物治療を継続しており,治療開始以降気胸の再燃はなく経過している.

Figure 3.

(a and b) CT of the chest showing wall-thickening of a thin-wall cavitary lesion associated with recurrent pneumothorax after 2 months. (c) Loupe image of the surgical specimen showing the infiltration of carcinoma tissue around the cavity

Figure 4.

Microscopic examination of the specimen obtained from the second surgery. (a) Stenosis of the bronchus resulting from infiltration of carcinoma cells (HE, 100×). (b) Pleural infiltration of carcinoma cells beyond the external elastic plate (closed arrow) (EVG staining, 200×). (c) Extensive necrosis of the carcinoma tissue (HE, 20×)

Figure 5.

(a and b) CT of the chest showing the 2-month course of the development of mild pneumothorax associated with a new cystic lesion (open arrow) in the S1+2 segment of the left lung along the interlobar pleura. (c) Histopathology of the specimen from the third surgery showing the infiltration of carcinoma cells into the pleura

Figure 6.

CT images showing (a) a new nodular lesion in the S8 segment of the left lung, (b) a cavitary lesion in the S4 segment of the right lung, and (c) a tumor in the medial area of the liver

考察

本症例は,繰り返す気胸を契機に発見され,薄壁空洞を呈した扁平上皮肺癌の1例である.肺内転移,肝転移をきたしペムブロリズマブによる加療が奏功し,腫瘍の制御に伴い気胸の再発は認めていない.3回にわたる切除検体の病理所見はいずれも癌細胞の分化度が類似しており,肺内転移の可能性が高いと判断した.異時性多発の可能性も否定はできないが,初回の手術時の病理検体でPD-L1が強陽性であった為に選択したペムブロリズマブが,その後,肺内転移病変を含めて著効している事を考慮すると,2回目,3回目の手術時の薄壁空洞病変は原発巣からの肺内転移の可能性が高いと考える.本症例では,2回目の手術後,肺内転移を来した扁平上皮肺癌として薬物療法も考慮したが,明らかな標的病変はないために経過観察をする方針とした.

原発性肺癌が空洞形成する頻度としては6%程度と報告されている 1 .その中でも薄壁空洞を形成するのは稀とされており,杉本らによると,原発性肺癌1,450例中8例(0.6%)で,組織型は腺癌が5例,扁平上皮癌が2例,腺扁平上皮癌1例であったと報告している 2 .また,Zhangらは,薄壁空洞を来した肺腫瘍65例中,組織型は腺癌が60例,扁平上皮癌が4例,リンパ腫が1例であったと報告しており 3 ,いずれの報告でも腺癌が多数を占めるという結果であった.薄壁空洞の壁の厚さに関してはこれまで明確な定義はなされてはいないものの,渡部らは,空洞壁の厚さが4 mm以上のものをthick-walled type,4 mm以下のものをthin-walled typeと定義し,肺腺癌の場合はthin-walled typeは予後良好因子と報告している 4

肺癌が薄壁空洞を形成する機序として今日までにいくつかの仮説が報告されている.その機序として,①腫瘍組織の関与する気道閉塞によるチェックバルブ機構 5 ,②腫瘍の虚血性壊死 6 ,③既存のブラ周囲に腫瘍が発生する 7 ,などが考えられている.また,組織型別では,扁平上皮肺癌は主に腫瘍の成長に伴う乏血性壊死による空洞形成が推察されている 1 .また,梅木らは,薄壁空洞を呈した扁平上皮癌の胸部X線写真上の特徴として,空洞壁の中枢側,つまり誘導気管支との接合点での空洞壁の肥厚が多くみられることと,空洞形成の成因としてチェックバルブ機構が多く報告されていることを関連付けている 8 .本症例で認めた扁平上皮癌は,画像上では嚢胞性病変を含めて3回に渡り薄壁空洞病変を呈した.空洞の大きさや形が各々異なる為に複合的な要因からくる可能性も考えられる.しかし,③のブラ周囲由来の腫瘍の発生に関しては,胸部CTで空洞内腔に腫瘍組織が突出することが多いと報告されている9.また,田嶋らは,ブラ壁発生と考えられる癌の進展形式は,わずかな壁肥厚を初発とするものや,結節が嚢胞壁内外に突出していくものがあることを報告している 10 .本症例の薄壁空洞病変には嚢胞壁内外へ突出するような結節性病変はなく,薄壁空洞病変の周囲には明らかなブラを認めなかった.早期で発見された為に特徴的な画像を呈していなかった可能性はあるものの,③の機序が関与した可能性は低いと考える.また,画像所見を検討すると,胸部CTでは空洞病変の中枢側の空洞壁が他部位より軽度肥厚しており(Figure 2a, 3b),2回目の手術の切除検体では,空洞病変の中枢側で腫瘍の浸潤による気道の狭窄像を認め(Figure 5a),いずれもチェックバルブ機構を示唆する所見と考える.また腫瘍の広範囲の壊死所見を認め(Figure 4c),②の機序も関わっているものと考えられる.以上より,薄壁空洞病変を呈した機序に関して,1回目は①の機序,2回目に関しては①②の機序が同時に関与した可能性が高いと考える.

自然気胸の治療中に偶発的に原発性肺癌と診断されるのは比較的稀とされており,塚本らは939例中8例(0.85%),平均年齢は66歳であったと報告している 11 .また,Kolbasらは,1,187例中7人(0.6%)で,平均年齢は62.7歳(38–78歳)と報告しており 12 ,いずれも高齢者の初発の気胸に関して注意を喚起している.原発性肺癌により気胸を形成する機序に関しても様々な仮説がなされており,主なものとして,腫瘍による気道狭窄によりair trappingし,肺実質に気腫性病変を生じて破裂するチェックバルブ機構,そして,腫瘍の胸膜・細気管支への浸潤により気道と胸膜腔に交通が生じる気管支胸膜瘻などが考えられている 13 .本症例では,2,3回目の気胸時に切除した病理検体で腫瘍の胸膜への浸潤を認めており(Figure 4b, 5c),気管支胸膜瘻が気胸の原因になったと考える.一方で,1回目の気胸の形成に関しては,薄壁空洞形成の機序と被るが,チェックバルブ機構が関与したと考える.

気胸合併肺癌の予後は,Steinhäuslinらが報告しており,平均生存期間が5.2カ月と非常に不良であったとしている 5 .本症例では,肺内転移や肝転移を認め,Stage IVBの進行肺癌と判断したが,検体のPD-L1 TPSが強陽性であった為にペムブロリズマブを使用し,2年以上生存している.薬物療法の選択肢が増え,また新規の抗癌剤による臨床成績が向上したことで過去の報告よりも予後が期待できると考える.

結語

繰り返す気胸を契機に発見され,薄壁空洞を呈し,ペムブロリズマブが奏功した扁平上皮肺癌の一例を経験した.重喫煙歴のある高齢者で繰り返す難治性気胸がある場合は,悪性腫瘍を念頭に考えなければならないと考える.

付記

本論文の要旨は,第97回日本呼吸器学会近畿地方会(2021年7月10日)において発表した.

参考文献
 
© 2022, Tenri Foundation, Tenri Institute of Medical Research
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