2022 Volume 25 Issue 2 Pages 90-97
【目的】新型コロナウイルスワクチンの副反応の種類や重症度と,抗spike蛋白抗体(S抗体)価との関連を明らかにする.
【方法】モデルナ社製ワクチン接種を受けた大学のスポーツクラブ部員287人(男性244人,女性43人;年齢中央値20歳)を対象とし,第1回,第2回接種後に発生した発熱,だるさ,頭痛,寒気・ふるえ,筋肉痛,関節痛,接種部位の痛み,接種部位の腫れ,皮疹・かゆみ,のどの痛みの10項目の副反応をアンケート調査した.重症度は、発熱は4段階,発熱以外の副反応は5段階スコアで評価した.第2回接種後に採取した血清を用いて抗nucleocapsid 蛋白抗体(N抗体)とS抗体を測定した.
【結果】第1回接種では,だるさ,筋肉痛,接種部の痛みが40%以上に認められた.第2回接種では,発熱,だるさ,頭痛,寒気・ふるえ,関節痛,接種部位の痛み,接種部の腫れが第1回接種と比較して有意に高頻度であった.副反応をN抗体陰性者(207人[72.1%])と陽性者(80人[27.9%])で比較すると,第1回接種で,発熱,だるさ,寒気・ふるえの頻度がN抗体陽性群で有意に高値を示した.N抗体陰性群のS抗体価の中央値(25%–75%)は3,970 U/mL (2,815–5,283 U/mL) であった.各副反応の重症度とS抗体価,発熱を除いた副反応スコアとS抗体価の間には明らかな関係は認めなかった.
【結論】副反応は,第2回接種でより高頻度に認められた.N抗体陽性者では,第1回接種後の副反応が高頻度であった.ワクチン接種後に獲得したS抗体価と,副反応の種類や重症度の間には関係を認めなかった.
Purpose: To determine whether the post-vaccination symptoms and symptom severities of the SARS-CoV-2 vaccine are associated with the anti-spike protein antibody (S antibody) titer.
Methods: Study participants were 287 university sports club members (244 males, 43 females; median age 20 years) who had received Moderna's vaccine. We identified, through participant-completed questionnaires, the presence or absence of vaccine-associated symptoms, including headache, chills/shivering, muscle pain, joint pain, injection-site pain, injection-site swelling, rash or itching, and sore throat. Severity was evaluated using a 4-grade score for fever and a 5-grade score for other side effects. Anti-nucleocapsid protein antibody (N antibody) and S antibody were measured using serum collected after the second vaccination.
Results: More than 40% of patients experienced malaise, muscle pain, and pain at the injection site after the first injection. Fever, malaise, headache, chills/shivering, arthralgia, and injection-site pain and swelling were significantly frequent in the second injection compared with the first. Comparing post-vaccination symptoms between N antibody-negative (207 [72.1%]) and -positive participants (80 [27.9%]), the frequency of fever, malaise, chills, and tremors was higher in the N antibody-positive group after the first dose. The S antibody titer in the N antibody-negative participants ranged between 2,815 and 5,283 U/mL (median, 3,970 U/mL). No clear association was observed between symptom severity and S antibody titer, nor between symptom scores other than fever and the S antibody titer.
Conclusion: Post-vaccination symptoms were more frequently observed after the second injection. Post-vaccination symptoms after the first injection were frequent among N antibody-positive participants. There was no relationship between the severity of vaccine-associated symptoms and the vaccine-induced S antibody titers.
2019年末に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は,2020年に入り瞬く間に世界中に拡がりパンデミックを引き起こした.我が国でも2020年1月に初の感染者が確認され,2022年2月現在で累計感染者数が400万人をこえている 1 .SARS-CoV-2に対する抗体は,感染既往を反映する抗nucleocapsid 蛋白抗体(以下N抗体)と,ワクチン接種によって獲得する抗spike蛋白抗体(以下S抗体)がある.これらの抗体の測定試薬は体外診断薬品としての承認は得ていないが,研究用試薬として市販されており,N抗体は厚労省疫学調査 2 などに使用されている.一方,S抗体はスパイク蛋白受容体結合ドメインに対する抗体であり,ウイルスの中和活性に関連することが報告されている 3 .
SARS-CoV-2ワクチンは従来の不活化ワクチンや生ワクチンと異なり,世界で初めて実用化されたmRNAワクチンであるので,副反応や副作用には未知の事象が多い.SARS-CoV-2ワクチンはファイザー社製とモデルナ社製が広く用いられているが,抗体価や副反応に関する研究の大半はファイザー社製ワクチンを用いたものであり 4-7 ,モデルナ社製ワクチンを用いた報告は少ない.今回我々は,副反応の発生頻度が高いとされている若年者に着目し,大学のスポーツクラブ部員を対象としてモデルナ社製ワクチン接種後の副反応と抗体価の間に関係がないか調べた.一方,SARS-CoV-2既感染者では,発熱や接種部位の痛みなどの副反応の発生頻度が高くなるとの報告がある 4 .今回対象としたスポーツクラブ部員は,ワクチン接種前にCOVID-19のクラスターを経験していたので,N抗体の有無と副反応の関係についても解析した.
COVID-19ワクチンモデルナ筋注(以下,モデルナ社製ワクチン)を接種した天理大学のスポーツクラブの部員287人(男性244人,女性43人;年齢18–23歳,年齢中央値20歳)を対象とした.第1回接種と第2回接種にあたって,対象者に副反応調査票を配布し,ワクチン接種1週間以内に発生した副反応を記載するように依頼した.副反応は,「発熱」,「だるさ」,「頭痛」,「寒気・ふるえ」,「筋肉痛」,「関節痛」,「接種部位の痛み」,「接種部位の腫れ」,「皮疹・かゆみ」,「のどの痛み」の10項目である.「発熱」の重症度は,接種後1週間以内の最高体温によって「無」,「37.5℃未満」,「37.5–38.9℃」,「39.0℃以上」の4段階とし,検温しなかった場合は「不明」とした.「発熱」以外の副反応の重症度は,「無症状」,「軽症」,「中等症」,「重症」,「最重症」の5段階とした.「発熱」を除く9項目の重症度をそれぞれ0–4点とし,合計点数を副反応スコアとした.
2.SARS-CoV-2抗体価の測定第2回ワクチン接種後10–44日目に採血し血清を分離した.抗体測定装置は免疫自動分析装置Cobas 8000 analyzer series e602(Roche社製),N抗体測定試薬はElecsys Anti-SARS-CoV-2 RUO(カットオフ値 <1.0 COI),S抗体測定試薬はElecsys Anti-SARS-CoV-2 S RUO(カットオフ値 <0.80 U/mL)(いずれもRoche社製)を用いた.
3.検討内容1)新型コロナウイルスワクチン接種に伴う副反応
第1回と第2回接種した学生287人を対象に第1回と第2回接種後の副反応の頻度と重症度について比較した.
2)N抗体の有無と副反応の関係
第1回と第2回接種した学生287人のうち,N抗体の有無により軽症以上の副反応の発生件数と頻度について比較した.
3)N抗体陰性者の副反応の重症度とS抗体価の関係
N抗体陰性者207人を対象に第2回接種後の副反応の重症度および副反応スコアとS抗体価について比較した.
4.統計解析連続変数について,2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定,多群間の比較にはKruskal-Wallis検定を用いた.多群間の比較で有意差を認めた場合の多重比較はBonferroni法を用いて補正した.名義変数の分割表分析はFisherの直接確率検定を使用した.統計解析ソフトウェアはStatFlex V6.0を使用し,P < 0.05を統計学的有意水準とした.
5.倫理的配慮本研究は,天理よろづ相談所病院倫理委員会(No. 1227)および天理大学(H30-016,H30-17)の承認を受け実施した.
対象者287人全員からからアンケート調査票を回収した.その集計をFigure 1に示す.「皮疹・かゆみ」と「のどの痛み」を除いた8項目で対象者の10%以上に副反応が認められた.第1回接種では,「だるさ」「筋肉痛」「接種部の痛み」が40%以上に認められ,第2回接種では,「発熱」「だるさ」「頭痛」「接種部の痛み」が60%以上に認められた.重症度は,多くは軽症または中等症であったが,第2回接種後の「だるさ」は29.7%が重症または最重症であった.第1回接種と第2回接種を比較すると,第2回接種では「発熱」「だるさ」「頭痛」「寒気・ふるえ」「関節痛」「接種部位の痛み」「接種部の腫れ」が第1回接種と比較して有意に高頻度であった.
第2回接種後の抗体検査の結果,207人(72.1%)がN抗体陰性,80人(27.9%)がN抗体陽性であった.N抗体陰性群と陽性群の男女比,年齢,第2回接種後から抗体検査までの日数をTable 1に示す.Table 2とTable 3は,N抗体陰性群と陽性群の第1回,第2回接種後の軽症以上の副反応の発生件数と頻度を比較したものである.第1回接種後では,「発熱」,「だるさ」,「寒気・ふるえ」の発生頻度がN抗体陽性群で有意に高値を示した.第1回接種後に最も高頻度であった副反応は,N抗体陰性群では「接種部位の痛み」,陽性群では「だるさ」と「接種部位の痛み」であった.第2回接種後では,N抗体陰性群で「接種部位の腫れ」が陽性群と比較して有意に高頻度であったが,他の副反応の発生頻度は両群の間で差を認めなかった.「だるさ」が両群を通じて最も頻度の高い副反応であった.
N抗体陰性者 n = 207 |
N抗体陽性者 n = 80 |
|
---|---|---|
性別 男性/女性 |
176/31 |
68/12 |
年齢(IQR) |
20(19–21) |
21(20–21) |
ワクチン種別 |
モデルナ |
モデルナ |
ワクチン接種後採血中央値(IQR) |
31(30–31) |
31(31–32) |
IQR,四分位範囲
副反応 |
N抗体陰性者(n = 207) n (%) |
N抗体陽性者(n = 80) n (%) |
P値 |
||
---|---|---|---|---|---|
発熱 |
29 |
(14.0) |
38 |
(47.5) |
0.002 |
だるさ |
79 |
(38.2) |
48 |
(60.0) |
0.001 |
頭痛 |
52 |
(25.1) |
28 |
(35.0) |
0.107 |
寒気・ふるえ |
20 |
(9.7) |
19 |
(23.8) |
0.003 |
筋肉痛 |
91 |
(44.0) |
37 |
(46.8) |
0.691 |
関節痛 |
31 |
(15.0) |
13 |
(16.3) |
0.855 |
接種部位の痛み* |
120 |
(58.3) |
48 |
(60.0) |
0.894 |
接種部位の腫れ* |
82 |
(39.6) |
25 |
(31.3) |
0.221 |
皮疹・かゆみ |
13 |
(6.3) |
4 |
(5.0) |
0.787 |
のどの痛み |
2 |
(1.0) |
1 |
(1.3) |
1.000 |
*局所所見
副反応 |
N抗体陰性者(n = 207) n (%) |
N抗体陽性者(n = 80) n (%) |
P値 |
||
---|---|---|---|---|---|
発熱 |
138 |
(67.0) |
62 |
(77.5) |
0.237 |
だるさ |
167 |
(81.1) |
63 |
(78.8) |
0.740 |
頭痛 |
135 |
(65.2) |
45 |
(56.3) |
0.175 |
寒気・ふるえ |
94 |
(45.6) |
27 |
(33.8) |
0.083 |
筋肉痛 |
105 |
(50.7) |
42 |
(52.5) |
0.794 |
関節痛 |
79 |
(38.2) |
21 |
(26.3) |
0.072 |
接種部位の痛み* |
152 |
(73.8) |
50 |
(62.5) |
0.060 |
接種部位の腫れ* |
101 |
(49.0) |
28 |
(35.0) |
0.035 |
皮疹・かゆみ |
18 |
(8.7) |
3 |
(3.8) |
0.207 |
のどの痛み |
3 |
(1.4) |
2 |
(2.5) |
0.621 |
*局所所見
N抗体陰性者における第2回接種後の副反応の重症度とS抗体価の関係を検討した(Figure 2).その結果,「筋肉痛」と「接種部の腫れ」でKruskal-Wallis検定による統計学的な有意差が認められたが,副反応の重症度とS抗体価の高低との関係は認められなかった.最後に,発熱以外の副反応を合計した副反応スコアとS抗体価の関係を検討したが,統計学的な有意差を認めなかった(Figure 3).
今回我々は,SARS-CoV-2ワクチンの副反応と,N抗体・S抗体の関連を調べたが,本研究は,大学のスポーツクラブ部員を対象としたため,対象者が若年のアスリートに限定されたこと,ワクチン接種前に当該スポーツクラブでCOVID-19の集団発生をきたしたことから,対象者にSARS-CoV-2既感染者が相当数含まれていたこと,対象者全員にモデルナ社製ワクチンを投与したことに特徴がある.
厚生労働省から,モデルナ社製ワクチンの初回接種後の健康状況調査結果が報告されている 8 .本調査では,モデルナ社製ワクチンを受けた約13,000人の自衛隊職員を対象としているので,年齢構成は20–29歳が19.8%,30–39歳が30.6%,男女比は男性95.5%,女性4.5%である.COVID-19の既往歴の割合は0.4%であった.副反応は,37.5℃以上の発熱は第1回接種後が7.0%,第2回接種後が76.8%,倦怠感は第1回接種後が25.1%,第2回接種後が80.0%で,他の副反応についても第2回接種後の頻度が高いものが多い.年齢別にみると20代で第1回接種後の発熱や全身倦怠感の頻度が高い.我々の結果では,第1回接種後の発熱(19.0%)とだるさ(44.3%)が厚生労働省の結果よりも高頻度であった.この理由は,我々の対象者の年齢構成が19–21歳であったことと,N抗体陽性者,すなわちSARS-CoV-2既感染者の頻度が高かったことにあると考えられる.
本研究では,N抗体陰性群とN抗体陽性群の第1回接種後の副反応発生件数を比較したところ,「発熱」,「だるさ」,「寒気・ふるえ」がN抗体陽性群で有意に多く,他の副反応も,「接種部位の腫れ」,「皮疹・かゆみ」を除くとN抗体陽性群で多い傾向を示した.一方,第2回接種後の副反応はN抗体陰性群とN抗体陽性群に明らかな差を認めなかった.SARS-CoV-2感染歴とファイザー社製ワクチンによる副反応を検討した飛田らの報告では,第1回接種後の副反応は,発熱,頭痛,疲労・倦怠感,接種部位の痛みが既感染者に多く,第2回接種後は,発熱,頭痛,接種部位の痛みや腫れが既感染者に多かった 4 .従って,既感染者では,未感染者と比較して,ワクチンの種別にかかわらず,第1回接種後の発熱とだるさ・倦怠感の頻度が高いことが示唆された.
ワクチン接種によって獲得したS抗体の抗体価が副反応の重症度と関連するかどうか検討した結果,各副反応の重症度とS抗体価には関連を認めなかった.次いで,発熱以外の副反応の合計を副反応スコアとし,S抗体価との関連を検討したが,これも関連を認めなかった.Coggins SAらも,スコア化した各副反応の重症度とS抗体価は関連しなかったと報告している 7 .一方,Yamamotoら 9 や倉島ら 10 は,発熱,倦怠感および筋肉痛などの副反応を示した被験者のS抗体価が高値を示したことを報告している.S抗体の抗体価は,年齢,性別,ワクチン種別,飲酒歴,喫煙歴,基礎疾患,COVID-19患者との接触や暴露など,関連する因子が多数指摘されている 11-13 .本研究では,男女が獲得したS抗体価(中央値[25%–75%]:男性3,912 U/mL [2,750–5,487 U/mL],女性4,272 U/mL [3,123–4,977 U/mL]; P = 0.949)に差を認めなかったが,学生アスリートが対象であったため,年齢,飲酒,喫煙などの因子の検討は適当でないであろう.しかしながら,血液採取時は第5波のピーク時でもあり,ワクチン接種までにCOVID-19感染者と接触する機会や暴露があった可能性は否定できない.加えて,既報ではファイザー社製ワクチンを用いた研究が多いものの,厚生労働省コロナワクチン研究事務局の報告では,モデルナ社製ワクチンの副反応の頻度が高く,約20%に発熱および倦怠感を認めたとされている 8 .従って,本研究では,対象者にモデルナ社製ワクチンを接種したことが結果に影響を与えた可能性がある.
新型コロナウイルスワクチンは世界で初めて実用化されたmRNAワクチンであり,副反応や得られるS抗体価は未知であった.従来の不活化ワクチンであるB型肝炎ウイルスワクチンのビームゲンの副反応発生割合が10.8%であることと比較すると 14 ,mRNAワクチンでは副反応の頻度が高いといわざるを得ない.本研究で,副反応の重症度とS抗体の抗体価には関連がないことが明らかになったことから,今後の感染状況においては追加接種も必要になることも踏まえ,より副反応の少ないワクチンの開発や治療薬開発が望まれる.
本研究では,対象者が20代のスポーツ学生を対象としたものであり,ワクチン接種者全体を示した結果(副反応および抗体価)ではないため,対象により結果が異なる可能性がある.また,S抗体価はN抗体の影響を受けるが,N抗体陰性者の中に既感染者のN抗体陰転例やN抗体非産生例が存在する可能性は完全に否定できないことに留意する必要がある.
新型コロナウイルスワクチン接種後に獲得するS抗体の抗体価と,ワクチンの副反応の種類・重症度に関連は認められなかった.副反応は,第1回接種後はN抗体陽性者の方がN抗体陰性者より高頻度であったが,第2回接種後の頻度は同程度であった.
本研究の一部は,令和3(2021)年度天理大学学術・研究・教育活動助成「コロナ禍における大学生アンケート体調管理と怪我予防」の助成を受けました.
本研究に関連して開示すべきC.O.I.はありません.