Tenri Medical Bulletin
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2021 Symposium of the Tenri Institute of Medical Research
Comparison of RT-LAMP and real-time RT-PCR in SARS-CoV-2 diagnostic testing
Kotone Nakanishi Noriyuki AbeGaku MatsumotoNobuyoshi NoguchiSaori FukudaMasashi ShimadaMikio Kamioka
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2022 Volume 25 Issue 2 Pages 121-125

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Abstract

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)が2019年末に初めて確認され,世界的な感染拡大(パンデミック)を引き起こすなかで,本症を正確かつ迅速に診断する検査法が開発されてきた.Reverse transcriptase loop-mediated isothermal amplification(RT-LAMP)法は,cDNAを鋳型とし,鎖置換ポリメラーゼ反応を利用して一定温度で標的遺伝子を増幅する遺伝子検査法で,1時間以内にSARS-CoV-2ウイルスを検出することが可能である.本研究では,SARS-CoV-2 遺伝子検査において,RT-LAMP と従来のリアルタイム RT-PCR を比較した.まず,SARS-CoV-2 N遺伝子合成RNAの10倍希釈系列を作製しRT-LAMPとリアルタイムRT-PCRの測定感度を比較したところ,前者は102倍希釈,後者は103倍希釈まで検出可能であった.次に,RT-LAMP陽性であった鼻咽頭ぬぐい液検体から12検体を無作為に抽出した.これらの検体の精製核酸から10倍希釈系列を作製し,RT-LAMPとリルタイムRT-PCRで測定したところ,両者の陽性一致率は97%であった。リアルタイムRT-PCRのcycle threshold(Ct)値と,RT-LAMPのthreshold time(Tt)値を比較すると,両者は正の相関を示し(r = 0.89, P < 0.001),Ct値が37サイクル以下の検体では,RT-LAMPで検出可能であった.Ct値29–40サイクル,Tt値11–20分の間では,Ct値 = 1.1 × Tt値 + 17の近似式を適用することができた.一方,Ct値40サイクルに対応するTt値は20分55秒と算出されるので,RT-LAMPでTt値がこれを超えた場合は,陽性の判定には注意を要すると考えられた.

Translated Abstract

Since the novel coronavirus disease (COVID-19) emerged in late 2019 and subsequently evolved into the pandemic, accurate and rapid diagnostic tests of the disease have been developed. Reverse-transcriptase loop-mediated isothermal amplification (RT-LAMP) amplifies target sequences within cDNA using a strand-displacement-type DNA polymerase under a constant reaction temperature and can detect SARS-CoV-2 within 1 hour. In this study, we compared RT-LAMP and the conventional real-time reverse transcription polymerase chain reaction (RT-PCR) in SARS-CoV-2 diagnostic testing. We prepared a 10-fold dilution series of SARS-CoV-2 N-gene synthetic RNA and found that RT-LAMP and real-time RT-PCR detected the gene in up to 102- and 103-fold diluted materials, respectively. Next, we randomly selected 12 RT-LAMP-positive nasopharyngeal swabs and prepared a 10-fold dilution series from purified nucleic acids of these specimens. The concordance rate of RT-LAMP and real-time RT-PCR for positive results was 97%. Comparing the threshold time (Tt) value of RT-LAMP and the cycle threshold (Ct) value of real-time RT-PCR, both values showed a positive correlation (correlation coefficient, 0.89, P < 0.001) and samples with a Ct value of 37 cycles or less were detectable with RT-LAMP. Between Ct values of 29-40 cycles and Tt values of 11-20 minutes, the approximation of Ct value = 1.1 × Tt value + 17 could be applied. On the other hand, as the Tt value corresponding to the Ct value of 40 cycles was calculated as 20 minutes and 55 seconds, when the Tt value in RT-LAMP exceeds 20 minutes, we should be cautious of assessing the material as positive.

緒言

2019年末に発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は急速な蔓延により世界的なパンデミックを引き起こした 1, 2 .2022年の現在もなお感染状況は収束しておらず,COVID-19の正確かつ迅速な診断は,疾病管理に必要不可欠である.現在実臨床で実施されているSARS-CoV-2遺伝子検査(抗原定性,抗原定量,polymerase chain reaction [PCR]など)の中ではPCRが最も鋭敏である.PCRは,抽出したRNAサンプルを逆転写酵素(reverse transcriptase; RT)でcDNAにした後,一定サイクルのPCR増幅を行うことで,定量的な評価が可能なリアルタイムRT-PCR法が広く用いられている.

一方,当院では約1時間でSARS-CoV-2の検出が可能なRT-loop-mediated isothermal amplification(RT-LAMP)法を採用している.RT-LAMP法は,RT-PCRと同様にcDNAを鋳型として標的遺伝子を増幅する方法であるが,DNAポリメラーゼ活性と鎖置換活性を有する鎖置換型DNAポリメラーゼを用いるので,一定温度で増幅反応が進行する.本法の検出限界は酵素とマスターミックスの種類によって幅があるが,0.4–500 viral copies/10 μLと報告されている 3-6 .また,RT-LAMP法はリアルタイムRT-PCR法で36サイクル未満のサンプルと同等の検出性能を示したとの報告もある 7 .このような背景から,リアルタイムRT-PCRのcycle threshold(Ct)値とRT-LAMP法のthreshold time(Tt)値の相関を明らかにすることは,RT-LAMP法のパフォーマンスを評価するうえで極めて重要である.

今回,SARS-CoV-2遺伝子検査において,RT-LAMP法と従来のリアルタイムRT-PCR法の検出感度と相関性について検討した.

対象および方法

天理よろづ相談所病院で2020年–2021年にRT-LAMP法にてSARS-CoV-2遺伝子の増幅を認めた症例の中から無作為に抽出した12例を対象とした.RNAは綿棒にて採取された鼻咽頭ぬぐい液からLoopampウイルスRNA抽出試薬(栄研化学)にて抽出した.これら12検体の抽出液400 μLをそれぞれMagNA Pure Compact Nucleic Acid Isolation Kit (Roche)にて核酸精製し,得られた抽出液を精製水で10倍,102倍,103倍希釈し測定検体とした.

RT-LAMP法

測定検体とLoopamp新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2)検出試薬キット(栄研化学)を混合し,リアルタイム濁度測定装置 LoopampEXIA(栄研化学)にて62.5℃,35分間反応を行い,増幅曲線がカットオフ値0.1のときのTt値を記録した.

リアルタイムRT-PCR法

標的遺伝子領域はSARS-CoV-2 N geneとし,機器はLightCycler® 96 (Roche)を用いた.反応条件は逆転写反応55℃ 5分,熱変性 95℃ 1分の後,核酸増幅95℃ 5秒・60℃ 15秒・72℃ 15秒を45サイクル,冷却40℃ 30秒のプロトコールに従い行った.機器に表示されるCt値を記録した.

検出感度

LightMix® Kit SARS-CoV N-gene RNA Positive Control (Roche)(以下,陽性コントロール)を精製水にて10倍,102倍,103倍,104倍に希釈したものを増幅対象とし,RT-LAMP法とリアルタイムRT-PCR法の検出感度を評価した.

相関性

SARS-CoV-2陽性臨床検体から抽出・精製した核酸抽出液12検体を精製水にて原倍,10倍希釈,102倍希釈したものを増幅対象とし,RT-LAMP法のTt値とリアルタイムRT-PCR法のCt値の相関性を検討した.RT-LAMP法は3重測定,リアルタイムRT-PCR法は5重測定を行い,それぞれの中央値を測定値とした.

結果

検出感度

RT-LAMP法では,陽性コントロールの原液は13分18秒,10倍希釈液は15分42秒,102倍希釈液は19分24秒で増幅を検出し,103倍および104倍希釈液では3重測定の全てで検出されなかった(図1).10倍希釈毎にTt値は平均3分6秒延長した.一方,リアルタイムRT-PCR法では,陽性コントロールの原液は29.86サイクル,10倍希釈液は33.29サイクル,102倍希釈液は36.74サイクル,103倍希釈液は40.05サイクルで増幅を検出し,104倍希釈液は5重測定の全てで検出されなかった(図2).また,原倍,10倍希釈液,102倍希釈液は5重測定で全て検出したが,103倍希釈液は5重測定のうち2回は検出されなかった.10倍希釈毎にCt値は平均3.4サイクル増加した.

図1. 陽性コントロールを用いたRT-LAMP法の検出感度
図2. 陽性コントロールを用いたリアルタイムRT-PCR法の検出感度

相関性

SARS-CoV-2陽性患者から得られた核酸抽出液12検体の10倍希釈系列を増幅対象としたRT-LAMP法とリアルタイムRT-PCR法の陽性一致率は97%(36検体中35検体)であった.不一致であった1検体(3%)は,リアルタイムRT-PCR法でCt値が42.82サイクルで,LAMP法では検出できなかった.

RT-LAMP法では,Tt値の最小値は11分00秒,最大値は22分30秒であり,10倍希釈毎にTt値は平均2分30秒延長した.リアルタイムRT-PCR法では,Ct値の最小値は26.93サイクル,最大値は42.82サイクルであり,10倍希釈毎にCt値は平均3.2サイクル増加した.Ct値とTt値の相関をグラフに示した(図3).両者は正の相関関係を示し(r = 0.89, P < 0.001),近似直線の式はCt値 = 1.1 × Tt値 + 17であった.

図3. 臨床検体を用いたRT-LAMP法のTt値とリアルタイムRT-PCR法のCt値の相関

考察

初期のデータでは,RT-LAMP法は感度が低く,RT-PCR法が10倍程度優れているとの報告があった8.今回,陽性コントロールと患者陽性サンプルを10倍ずつ希釈した検体を増幅対象として両法を比較した.

検出感度について,RT-LAMP法にて陽性コントロールを103倍希釈液で検出した場合,Tt値が10倍毎に平均2分30秒延長することから22分30秒付近で増幅が検出されることを予想したが,今回の検討では検出できず,20分以上での検出には再現性がなかった.これより,RT-LAMP法の陽性判定はTt値が20分未満の時と考えられ,それ以上のTt値の場合は再測定にて再現性を確認するか,別個のPCR法などで増幅を確認する必要があることが示唆された.リアルタイムRT-PCR法では,103倍希釈液まで増幅が検出されたが,5重測定で5回中2回は検出されず,40サイクル付近での検出は再現性に乏しいことが示唆された.

陽性コントロールを用いると,希釈サンプルではリアルタイムRT-PCRの検出感度は高かったが,臨床検体を用いた希釈系列ではRT-LAMPとRT-PCRは同等の検出感度を示した.今回測定したRT-LAMP法のTt値の最小値は11分00秒であり,近似式を用いると推定されるCt値は29.1サイクルであった.今回の検体では,リアルタイムRT-PCR法ではCt値の最小値は26.93サイクルであり,近似式を用いると推定されるTt値は9分18秒となる.今回測定した検体でRT-LAMP法のTtが11分よりも早く検出した検体は認めず,近似式の結果と差が認められた.以上より,Ct値29–40サイクル,Tt値11–20分の範囲ではこの近似式が適用できるものと考えられた.また,Ct値40サイクルに対応するTt値は20分55秒と算出され,この時間を超えた陽性の判定は注意を要すると考えられた.

結語

陽性コントロールを用いたRT-LAMP法とリアルタイムRT-PCR法の検出感度は,リアルタイムRT-PCRの方が10倍高かった.SARS-CoV-2陽性検体におけるRT-LAMP法のTt値とリアルタイムRT-PCR法のCt値は正の相関を示し,リアルタイムRT-PCR法でCt値が37サイクル付近までの検体は,RT-LAMP法でも検出が可能であった.Ct値29–40サイクル,Tt値11–20分の範囲では,Ct値 = 1.1 × Tt値 + 17の近似式を用いることができ,Ct値40サイクルに対するTt値20分55秒より,この時間を超える反応の立ち上がりの結果については慎重に判定する必要があると考えられる.

付記

※ 本稿の要旨は,令和3 年度医学研究所学術発表会(2021 年,天理よろづ相談所病院)において発表した.

C.O.I.

本症例に開示すべきC.O.I. はありません.

参考文献
 
© 2022, Tenri Foundation, Tenri Institute of Medical Research
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