Tenri Medical Bulletin
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Original Article
Cross-sectional study on the characteristics of examinees eligible for specific health guidance
Hitoshi Obayashi Kazukiyo OidaAkinobu OkadaMitsue OkadaMitsuko Matsumura
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2023 Volume 26 Issue 2 Pages 89-98

Details
Abstract

  1. 2008年4月より高齢者医療確保法において,特定健診・特定保健指導の実施が保険者に義務づけられ,天理よろづ相談所健康保険組合においても,特定健診・特定保健指導を行っている.既存の特定健診の研究において指導対象者の特徴を記した研究は数多くあるが,非対象者との比較を行っている研究は少ない.今回の研究では,特定保健指導対象者(保健指導対象者)に加え,特定保健指導非対象者(保健指導非対象者)の背景因子・血液検査データを収集し,実際のデータから両者を比較するとともに保健指導対象者の特徴を明らかにすることを目的とする.さらに,保健指導対象者群における各判断基準に該当する項目の組み合わせパターン,特定健診平均受検率,特定保健指導実施率等の検討を行い,保健指導対象者の特徴と現状について調査・考察した.背景因子・血液検査データの比較では,男女ともに特定保健指導判断項目のほとんどが有意差を認めた.特定保健指導判断項目以外において,両群間に有意差を認めなかった項目は,年齢・身長・総タンパク・ヘモグロビン濃度・eGFRであった.有意差を認めた項目は,体重・ChE・AST・ALT・γ-GTP・尿酸値で,保健指導対象者群が高値を呈していた.これらの項目はメタボリックシンドロームと関連しており,注視する必要がある.保健指導対象者群における各判断基準に該当する項目の組み合わせパターンについては,大きな特徴は見られず,項目の組み合わせは分散していた.当組合の特定健診の平均受検率は92.0%と高かったが,特定保健指導実施率の平均は6.3%と低かった.今後,保健指導実施率を改善する必要がある.2022年度よりe-ラーニングを利用した保健指導を実施開始しており,推移を見守りたい.予防医療の観点からも,今後,特定健診受検者に対し,特定健診およびメタボリックシンドロームに対する理解を深めてもらえるよう,さらなる啓蒙活動が必要と考えた.

Translated Abstract

  1. Since April 2008, the Act on Securing Medical Care for the Elderly requires insurers to provide specific health checkups and health guidance. The Tenri Yorozu Health Insurance Association also provides specific health checkups and guidance. The characteristics of persons eligible for guidance have been described in previous studies of the specified health checkups; however, there have been few studies comparing them to persons who are ineligible for guidance. In this study, we collected and compared background factors and blood test data to clarify characteristics of patients subject to health guidance (those subject to health guidance) and patients not subject to specific health guidance (those not subject to health guidance). We analyzed the combination pattern of factors associated with each criterion associated with health guidance eligibility, the average rate of specified health checkups, and the implementation rate of specified health guidance. Furthermore, we investigated the characteristics and current status of subjects eligible for health guidance. Comparison of background factors and blood test data showed significant differences in most of the items for judgment of specific health guidance for both men and women. The items other than those for which specific health guidance was given were age, height, total protein, hemoglobin concentration, and eGFR. In the group of subjects receiving health guidance, body weight, ChE, AST, ALT, γ-GTP, and uric acid levels were significantly higher. As these items are associated with metabolic syndrome, they should be closely monitored. The combination pattern of items corresponding to each criterion in the subjects eligible for health guidance showed no major characteristics, and the combination of items was dispersed. Although the average rate of specified health checkups in our association was high (92.0%), the average rate of implementation of specified health guidance was low (6.3%). Thus, the implementation rate of health guidance needs to be improved in the future, and we will monitor its progress as we begin implementing health guidance using e-learning from FY2022. From the viewpoint of preventive medicine, further educational activities are necessary to deepen the understanding of specific health checkups and metabolic syndrome among those who receive specific health checkups.

緒言

2008年4月より高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)において,健康保険の保険者は40–74 歳の被保険者に特定健診・特定保健指導を実施することが義務づけられ 1 ,天理よろづ相談所健康保険組合においても,特定健診を行っている.

特定健診受検者を,腹囲・BMI・血糖値・脂質・血圧・喫煙・年齢の判断基準 2 により,特定保健指導対象者(保健指導対象者:動機付け支援・積極的支援)と特定保健指導非対象者(保健指導非対象者)に分け,メタボリックシンドローム防止の目的から,保健指導対象者へ案内を行い,希望者に保健指導を実施している(図1).

図1. 特定保健指導の対象者(階層化)

既存の特定健診の研究において指導対象者の特徴を記した研究は数多くある 3-8 が,非対象者との比較を行っている研究は少ない.今回の研究では,特定保健指導対象者(保健指導対象者)に加え,特定保健指導非対象者(保健指導非対象者)の背景因子・血液検査データを収集し,実際のデータから両者を比較するとともに保健指導対象者の特徴を明らかにすることを目的とする.さらに,特定保健指導判断項目の組み合わせパターン,特定保健指導の状況等について,横断的研究を行い,保健指導対象者の特徴と現状について調査・考察する.

対象

天理よろづ相談所健康保険組合組合員のうち,2018年度から2022年度までの特定健診受検者1,022名(男性333名,女性689名).

複数回の特定健診受検者の場合,保健指導対象になった場合は判定を受けた年度のデータを対象,保健指導非対象の場合は,2018年度から2022年度までの特定健診受検中の初回データを対象とし,同一被験者は重複しないようにした.

本研究は天理よろづ相談所倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1377).

方法

1)保健指導対象者群と保健指導非対象者群の比較

対象を保健指導対象者群と保健指導非対象者群に分け性別に集計した.

さらに,背景(腹囲・体重・BMI・身長・年齢・性別・喫煙等)および血液検査データ(空腹時血糖・HbA1c・中性脂肪・HDL・LDL・収縮期血圧等)を調査し,各群において各項目の平均(標準偏差)を求めるとともに,保健指導対象者(積極的支援と動機付け支援を合わせて保健指導対象者とする)と保健指導非対象者の比較を行った.

また,腹囲・BMI・血糖値・脂質・血圧・喫煙・年齢等の保健指導判断基準において,判断基準該当者の人数と割合を求め,比較した.

2)保健指導対象者群における組み合わせパターンの特徴

保健指導対象者群において,判断基準該当項目の組み合わせパターン上位15組および男女別に判断基準該当項目の組み合わせパターン上位8組を抽出し,特徴を考察した.

3)特定健診受検率および特定保健指導実施率

組合員のうち特定健診の受検率および保健指導対象者の特定保健指導実施率を調査した.

統計学的方法

基本統計量について,連続変数は平均と標準偏差,名義変数は例数とパーセンテージにて記載した.保健指導対象者群と保健指導非対象者群の比較の検定について,連続変数は対応のない2群の平均値の比較(t検定),名義変数はカイ2乗検定を行い,有意水準は0.05とした.統計ソフトウェアはIBM SPSS Statistics Ver. 22.0を用いた.

結果および考察

1)保健指導対象者群と保健指導非対象者群の比較

1-1)特定健診受検項目における性別間の特徴

性別の比較では,男性のほうが有意に保健指導対象者が多かった(表1).既存研究でもメタボリックシンドロームは男性に多い 9-11

表1. 保健指導対象者群と保健指導非対象者群の内訳

さらに,対象を保健指導対象者と保健指導非対象者に分け,背景および血液検査データを比較した(表2). 特定健診受検判断項目はほとんどの項目が有意差を認めた.男性において空腹時血糖・HbA1cは有意差を認めず,両者ともその平均値は保健指導判定基準該当値付近であった.

表2. 保健指導対象者群と保健指導非対象者群の背景および血液検査データの比較

1-2)特定健診受検判断項目以外の検査値について(表2

特定健診受検判断項目以外で男女ともに有意差を認めなかった項目は,年齢・身長・総タンパク・ヘモグロビン濃度・eGFRであった.男女ともに有意差を認めた項目は,体重・ChE・AST・ALT・γ-GTP・尿酸で,いずれも保健指導対象群が高値を示した.アルブミンは女性において有意差を認めたが,平均値は指導対象群4.25 g/dL,指導非対象群4.32 g/dLと大きな差は認めなかった.

メタボリックシンドロームと非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) はお互いに関連していると言われており1215,肝機能検査データの変化には留意する必要がある.今回の調査では保健指導対象群(男性)の平均ALT値は33.4 U/Lであり,2023年6月開催の日本肝臓学会総会で提唱された「奈良宣言2023」に該当する.なお,「奈良宣言2023」とは,「健康診断等でALT > 30であった場合,まずかかりつけ医等を受診し,かかりつけ医によって,その原因が検索され,必要があれば,消化器内科等の専門診療科で精密検査を受け,かかりつけ医と専門医の診療連携による肝疾患の早期発見・早期治療に繋げることを目的とする」というものである 16

尿酸値については,メタボリックシンドロームには無症候性高尿酸血症が高頻度に随伴すると言われており17,18,注意が必要である.

1-3)特定健診受検判断基準に即した比較(表3
表3. 保健指導対象者群と保健指導非対象者群の特定保健指導判断基準該当者の人数と割合の比較

多くの項目で有意差を認めた.男性においてHbA1cに有意差を認めず,前述のごとくHbA1c値は保健指導対象境界付近に位置していると考えられた.

女性において有意差を認めなかった項目は,HDL-Cおよび喫煙歴であった.HDL-Cは女性ホルモン(エストロゲン)が脂質代謝に影響し,HDL-C を上昇させることから 19, 20 ,特定健診受検判断基準値より高値を示すことが多いためと考えられた.女性のHDL-C判断基準該当者は保健指導対象者2.5%・保健指導非対象者0.7%と非常に低い比率であった.また,女性の喫煙歴も同2.5%・4.9%と,全国平均7.7%(厚生労働省:2022年)に対して低く,有意差を認めなかった.理由は明らかではないが,天理よろづ相談所病院は「がん診療連携拠点病院」に指定されており敷地内禁煙となっていることが寄与している可能性もある.

2)保健指導対象者群における組み合わせパターンの特徴(表46

全体においては,特定保健指導対象者のべ245名中,上位4位までの組み合わせがいずれも20人台で,特徴的な組み合わせは見られず,組み合わせパターンは分散していた(表4).

表4. 特定保健指導判断基準該当項目の組み合わせ上位15組

男女別に組み合わせを見ると,男性は上位8組中7組が血圧判定基準該当者であった(表5, 6).収縮期血圧の平均でも,全男性128.0 (15.7) mmHg,全女性118.4 (15.6) mmHgと性別による差がみられた.血圧には女性ホルモン(エストロゲン)が影響していると言われており,閉経前女性の血圧は男性の血圧に対し低い傾向にあるが 21, 22 ,血圧判定基準に男女の区別はないため男性に判定基準該当者が多くみられたと考えられる.また,男性のみ,喫煙歴ありに該当する組み合わせを2組認めた.喫煙は様々な疾患の危険因子であるが,脂質代謝においては,総コレステロール,LDL-C,中性脂肪が増加し,HDL-Cが減少すると言われている.喫煙による脂質代謝異常の機序は十分には明らかではないが,喫煙者に多く認められるインスリン抵抗性の存在,カテコールアミンの分泌促進,コレステロールエステル転送蛋白(CETP)の活性の亢進,肝TG リパーゼ活性の亢進,レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性の低下等が考えられている 23-25 .インスリン抵抗性は糖代謝や高血圧へも影響している 25-28

表5. 男性における特定保健指導判断基準該当項目の組み合わせ上位8組
表6. 女性における特定保健指導判断基準該当項目の組み合わせ上位8組

男性は全順位で腹囲判定基準該当者であったが,女性は腹囲が判定基準に該当せず,BMIのみが該当する組み合わせを上位2組に認めた(表6).表3を見ると女性の保健指導対象群においてBMIが25以上であった人数の割合が95.0%,腹囲が90 cm以上であった人数の割合が49.6%であることから,BMI 25以上でも腹囲90 cm以上ではない保健指導対象者が多いと言えた.腹囲判定基準は内臓脂肪量評価の標準である臍レベル腹部CT 断面像での内臓脂肪面積100 cm2に対応する値である 29 .女性は,女性ホルモン(エストロゲン)の影響により,内蔵脂肪に比べ皮下脂肪が蓄積しやすいと言われているため 30, 31 腹囲の基準が5 cm大きくなっているが,女性の腹囲判定基準を再検討するべきとの報告もある 32, 33

3)特定健診受検率および特定保健指導実施率

2018年から2022年の組合員数平均921.0人に対して,特定健診の受検者数の平均は847.6人で,受検率は92.0%であった.保健指導対象者数の平均は117.4名,保健指導実施者の平均は7.4人で特定保健指導実施率は6.3%であった.2021年度の全国における健保組合 (単一)における特定健診の受検率は82.5%,特定保健指導実施率は39.7%であり 34 ,比較すると当組合では健診の受検率は高かったが,特定保健指導実施率は大幅に低かった.当組合では,35才以上の職員を対象に,健康診断事業(血液検査や検尿・胸部X線検査・心電図等)を行っており,その受検率が高いため,そのデータを準用する特定健診の受検者率も高くなったと思われる.

当組合における保健指導実施率が低い原因として,勤務時間が不規則であることや,健診データの自己判定による辞退,保健指導内容をよく知らずに辞退している等が予想された.特定保健指導に対する理解改善へさらなる働きかけが必要と考える.なお,保健指導への場所的・人的障害のハードルを下げるために,2022年度より天理よろづ相談所病院e-ラーニングシステムを利用した保健指導を開始した.今後,保健指導実施率の推移を注視したい.

研究の限界

本研究の限界として,一つの健康保険組合内のデータであること,積極的支援と動機付け支援を合わせて保健指導対象者群としたため積極的支援と動機付け支援の比較を行っていないこと,組合員構成者に医療従事者が多いことなどが考えられる.今後,これらの限界に対処するために,自治体健診や企業健診等の健診データを収集し,さまざまな環境条件下におけるデータを検討していく必要があると考える.

まとめ

特定健診における特定保健指導の対象となる受検者の特徴に関する横断的研究を行った.

特定健診および特定保健指導に関して,臨床的に意味のある体重減少やメタボリックシンドローム関連の疾患の減少との関連について有効であったという報告がある 4-7 一方,関連がみられなかったという報告もある 3, 8 .また,健診の検査項目選定および判定基準,医療費適正化に関しても議論がある 3, 35-38 .今回の研究では,保健指導対象者は保健指導非対象者との比較において,指導判断項目に加え,指導判断項目以外においても肝機能検査データや尿酸値等が高値を示していた.特定健診を受検し,自身の血圧や血液検査データを定期的に測定することにより,健康に対する意識の高まりや医療機関への受診につながることも期待され,予防医学の観点からも特定健診および特定保健指導は有用と思われる.

しかし,今回,当組合の特定保健指導実施率は低かった.今後,特定健診受検者に対し,特定健診およびメタボリックシンドロームに対する理解を深めてもらえるよう,さらなる啓蒙活動への取組みが必要と考えた.

COI

当研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.

参考文献
 
© 2023, Tenri Foundation, Tenri Institute of Medical Research
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