Tenri Medical Bulletin
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Special Article
Skin wound healing and regenerative medicine for skin repair
Naoki Morimoto
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2024 Volume 27 Issue 1 Pages 1-10

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はじめに

京都大学形成外科(京都大学大学院医学研究科 形成外科学講座)は,京都大学医学部附属病院皮膚科と耳鼻咽喉科で形成外科診療を行っていた医師が集まり,1977年4月に形成外科として独立したのが始まりである.その後1980年に一色信彦先生が初代教授となり,1987年に形成外科学講座として独立した.1993年に西村善彦教授(二代目),2003年に鈴木茂彦教授(三代目)が着任され,私が四代目である.日本の国立大学では2番目に古いが,他の診療科とくらべると歴史は長くない.講座設立の経緯から,口唇口蓋裂,小耳症などの顎顔面領域の先天異常の治療と,熱傷,瘢痕拘縮,ケロイド,皮膚腫瘍(良性,悪性),母斑(あざ)などの皮膚再建治療が診療の中心となってきた.その後,マイクロサージャリー技術の急速な発展と共に,手の外科や,乳癌や頭頸部癌などの再建組織移植手術も増加している.また,先代の鈴木先生が再生医療を始められたので,その流れを汲んで皮膚再生分野の再生医療・細胞治療も実施している.

教授1名,准教授1名,講師1名,助教2名と,特定病院助教,診療助教などを含めて診療担当医は18名,うち9名が形成外科専門医である.手術件数は2022年で1,767件あり,うちレーザー治療が662件と最も多い.この理由は,京都府外でレーザー治療実施施設が近隣にない地域からの患者や,日帰り治療を行っているために小児の治療が多いことが考えられる.外来では,熱傷・難治性潰瘍専門外来,神経線維腫症専門外来,顔面先天異常外来などの10以上の領域に分かれている.外来ごとに担当医がおり,高い専門性を持って治療に当たっている.

創傷治癒:傷を綺麗に治す

形成外科の基本は傷を綺麗に治すことであるが,きれいな傷跡(瘢痕)にするための条件として,1)きれいな切開(鋭的,皮膚の皺に平行に),2)きれいな縫合(減張縫合,止血,異物除去),3)早期の抜糸,4)術後管理がある.皮膚には皺の方向(relaxed skin tension line; RSTL1)があり,基本的に皺の方向に切開し縫合すると傷が目立たない.切開は少し斜めにㇵの字に切り,余分な組織(脂肪)があれば除去する(図1).縫合は,術直後平坦な創縁の場合は術後傷が引っ張られ,陥凹したり幅の広い瘢痕になったりするため,創縁を適度に盛り上げることで幅の狭い平坦な瘢痕となる(図2A).この盛り上げのためにㇵの字に切開する.縫合する部位,皮膚の緊張度合い,患者の年齢,性別などを勘案し盛り上げる程度を調節するが,数値化することができないため,「適度に」が難しい.

図1. 形成外科の基本的手技:切開

図2. 形成外科の基本的手技:縫合法

(A)①創縁を適度に盛り上げておくと,術後半年から1年で幅の狭い平坦な瘢痕となる.②術直後平坦な創縁の場合,術後陥凹したり幅の広い瘢痕となりやすい.(B)①Anchoring suture:縫合部の緊張をとるため主に皮下組織にかける(polydioxanone(PDS),バイクリルなどの合成吸収糸).②Buried suture:真皮縫合,埋没縫合.少し盛り上げるようにかける(PDSを用いることが多い).③Adaptation suture:表皮を合わせる,極力細い糸で,緊張なくかける(ナイロン糸,もしくは接着剤,テープ固定など).

皮下組織は皮下組織で縫合(anchoring suture),真皮は真皮で縫合(buried suture)し,表皮は合成吸収糸で縫合,もしくは接着剤・テープ固定などを行う(adaptation suture)(図2B).縫合後は,感染予防,創部安静,緊張の緩和などを管理し,抜糸は早期(4–7日)に行う.抜糸後はテーピング固定,肥厚性瘢痕の予防にスポンジやシリコンシートなどで圧迫,必要に応じて運動制限を行い,それでもケロイドになる場合は放射線照射を行う(図3).

図3. 抜糸後:形成外科的後療法

ケロイドとは,特に傷跡が残りやすい体質の場合で,通常の治療では特に治りにくく,再発する.特徴として,もとの傷の範囲を越えて広がっていく点が挙げられ,切除して縫合するとそこから再発し,もとの傷跡よりも大きくなってしまうので,ケロイド切除手術と放射線療法を併用する.また,ステロイド治療(貼り薬・軟膏・局所注射)などの手術以外の治療も行う.

傷が出来ると必ず拘縮する.適切な処置がなされないと,傷跡が引きつれた状態(瘢痕拘縮)になることがある.重度の場合は手術が必要である.瘢痕拘縮形成術の基本にZ形成術がある.傷をZ型に切り,作成されたひだを入れ替えることで延長効果,立体効果が得られる.また,皺に直交した傷は目立ちやすいが,Z形成術やW形成術(瘢痕を周囲の皮膚とともにジグザグに切り取り縫合する)を行うと視覚的に目立たなくなる効果がある.

皮膚の再生医療

皮膚は外胚葉由来の表皮と中胚葉由来の真皮から成り立っている(図4).表皮は,表皮細胞やメラノサイトなど,ほぼ細胞のみで構築されている.一方,真皮は,コラーゲンやグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan; GAG)などの細胞外マトリックス(extracellular matrix; ECM)を主体とし,線維芽細胞などの細胞は少なく,皮膚付属器,血管,神経などが侵入する複雑な構造をとっている.皮下組織は中胚葉由来で,脂肪細胞が主体である.

図4. 皮膚の構造

再生医療とは,生体組織・臓器を再生させる医療技術・治療法である.私が大学を卒業した1990年代に,背中に人の耳を移植された「バカンティマウス」が話題となり2,再生医療・皮膚再生を志すきっかけとなった.再生医療の3要素として,「細胞」「足場」「細胞成長因子」がある(図5).「細胞」は2007年に自家培養表皮(ジェイス:J-TEC社3)が細胞使用医療機器として日本で初めて承認され,培養技術の発達により,ぼぼすべての細胞(ES細胞,iPS細胞,体性幹細胞)の培養が可能となっている.「足場」は組織再生の鋳型であり,コラーゲンとシリコーンの二層構造をもつ二層性人工真皮(ペルナック:グンゼメディカル(株)4)が1993年に承認,1996年に発売された.「細胞成長因子」はごく小量で細胞の増殖や分化を促進する蛋白質で,塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF)製剤(フィブラストスプレー:科研製薬5)が2001年に世界で初めて承認された.

図5. 再生医療の3要素

培養皮膚の歴史は古く,1975年にRheinwald, Greenらが表皮細胞の生体外培養に成功し6,1980年にはYannas, Burkeにより二層性人工真皮の原型が作製された7.1990年代には培養表皮・二層性人工真皮は製品化され,2000年頃から臨床に応用されるようになった(図6).現在日本で使用できる二層性人工真皮は図7のとおりで4, 8, 9,前述のペルナックは京都大学再生医科学研究所と京都大学形成外科によって開発され,グンゼメディカル(株)から医療材料として発売されている(図8).シリコンシートとコラーゲンスポンジ(平均ポアサイズ90 μm)の二層構造を持ち,皮膚再生の足場として働く.皮膚全層欠損部や軟部組織欠損部に貼付すると,創面からコラーゲンスポンジの空隙内へ毛細血管や線維芽細胞などが侵入し,真皮様組織が再生,コラーゲンスポンジは吸収される.ただし,真皮様組織の再生に2–3週間必要になるため,治癒機転が低下した糖尿病性潰瘍などの難治性皮膚潰瘍には使用することが困難である.このため,傷を治す効果を高めるなんらかの方法を二層性人工真皮に付加する必要が生じる.そこで,前述の世界初の皮膚潰瘍治療薬であるbFGF製剤フィブラストスプレーを二層性人工真皮に吸着させる技術を開発した10.アルカリ処理ゼラチン(等電点5,負電荷)はbFGF(等電点9.6,陽電荷)と静電的に結合する.そこでコラーゲン100%であるペルナックのスポンジ部分をコラーゲン90%・アルカリ処理ゼラチン10%の混合スポンジに変更した.この人工真皮にフィブラストスプレーを通常投与量の1–2週間分を含ませると,効果がおよそ10日間程度持続し,従来の人工皮膚と比較して2分の1から3分の1の期間で真皮様組織が形成されることを非臨床試験で確認した.次いで,京都大学医学部附属病院で医師主導治験を行い,実際の臨床でも機能性人工真皮が有効であることを証明した.この機能性人工真皮はペルナックGプラス(グンゼメディカル(株))として2018年に医療機器として承認された(図911

図6. 培養皮膚の歴史

図7. 日本で使用できる二層性人工真皮の種類(OASIS®細胞外マトリックスは除く)

図8. コラーゲン使用人工皮膚:二層性人工真皮(ペルナック

図9. 新規人工皮膚:ペルナックGプラス(2018年4月承認)

先天性色素性母斑に対する皮膚再生治療

先天性巨大色素性母斑は産まれた時から存在する大きな色素性母斑で,成人になったときに直径20 cm以上(1歳時点での目安は体幹で6 cm,頭部・顔面では9 cm以上)になる場合に巨大と定義されており,出生2万人に1人程度の発生があるとされている12.巨大色素性母斑の問題点として,整容的な問題点と悪性黒色腫(メラノーマ)の発生がある.メラノーマの発生の頻度として,2000年以前の報告では0–40%であったが,Zaalらによる1966–2002年に発表された35の文献の検討(Kopfの分類)13では平均リスク8.2%,Aradらの報告14では0.7–2.9%であった.皮膚悪性腫瘍ガイドラインにおいては,巨大色素細胞母斑の2.3–7.5%でメラノーマが発生するとある15.また,母斑の大きさ,衛星病変の数,形態学的特徴(色調,表面性状など)で分類し,悪性化する確率を推定する試みも報告されている16, 17

巨大色素性母斑の治療の原則は手術で母斑を完全に切除することである.母斑を完全に切除できれば悪性黒色腫の発生もなくなる.手術は,数回に分けて切除する分割切除術,組織拡張器(tissue expander; TE)を皮下に埋入し,数か月かけて拡張させた皮膚を用いて再建を行う方法,患者の皮膚を採取し移植する植皮手術などがあり,また,二層性人工真皮を皮膚移植に併用することもある.これらの従来の方法では,手術の身体的負担,母斑切除部の長い瘢痕,皮膚を採取した部分に瘢痕が残るなどの問題が生じる.また,体表の数10%以上といった特に大きな母斑の場合は,完全に切除することは困難である.

切除手術以外の治療法としてキュレッテージがある.母斑は表皮部分で発生し,成長と共に徐々に深い層まで移動する性質があるため,生後できるだけ早い時期(1歳頃まで)であれば,鋭匙(キュレット)を用いて母斑の表面を削り取ると母斑細胞を高率に除去することができる.現在は,水圧式ナイフ,デルマトーム,炭酸ガスレーザーなどの剥削機器や,脱毛用レーザー,色素除去用レーザーなども併用している.ただし,キュレッテージは症例毎に削り取れる層が異なり,効果があまりない場合もある.また,キュレッテージを行うと皮膚が部分的にない状態になるため,広範囲では身体への負担が大きく一度には実施できない.

そこで培養表皮を用いて皮膚再生を行う治療法を活用する.前述の自家培養表皮ジェイスは2009年に重症熱傷に対して保険収載の後,2016年に先天性巨大色素性母斑への保険適用が追加されている.本人の皮膚を1-2 cm2採皮し,表皮細胞を分離・培養しシート化したものである.この表皮細胞シートを母斑切除後の創部に移植し,創を閉鎖することを目的として使用する.ただし,皮膚全層を摘出し真皮がない場合,表皮細胞シートは生着しない18.真皮が残存あるいは再構築されれば80%程は生着する.真皮の再構築方法として同種皮膚移植または二層性人工真皮があるが,どちらで再建しても自家培養表皮はほとんど生着しない(図1019.真皮構築が不十分であり,その方法はいまだ確立されていない.実際には,母斑細胞は真皮深層・皮下にも存在するが色素は比較的浅層に存在するので,キュレッテージで色素部分を除去して真皮を残し(分層切除),培養表皮を生着させる(図11).この場合,母斑細胞が残存するため黒色腫のリスクは残る.母斑の完全切除を目指す場合はTEを用いた再建術・植皮術を行う.

図10. 自家培養表皮ジェイス適用拡大以降の課題(2016年以降)

図11. 自家培養表皮ジェイスを用いた巨大色素性母斑治療の実際

先天性巨大色素性母斑の治療方針として,1歳以下で範囲・部位によって分割切除,TEでは対応不可の場合,早期(生後2か月以降)にキュレッテージを実施し,1回実施範囲の目処を体表面積10%として回数を重ね,8–10か月までに終了させる.小範囲・頭部以外では自家培養表皮を併用する.キュレッテージ実施後の追加治療として,各種レーザーやドライアイスで色調などを改善させる.特に顔面(前額部,瞼,鼻)で行うことが多い.1歳以降は(分割)切除手術を開始し,周辺に健常皮膚がある場合は2歳頃からTEを行うことができる.また植皮術(メッシュ植皮,シート植皮,全層植皮)を行い,巨大母斑とならない大きさになるまで全層切除を行う.メッシュ植皮では採皮した植皮片を網目状に加工することで小さい植皮片を広範囲に植皮できる.シート植皮では,採皮されても治りやすく,髪の毛で傷が隠れて目立ちにくいので,頭部から採皮することが多い.全層植皮では生着させるのは難しいが,生着すれば軟らかく拘縮しにくい良好な結果が得られるため,露出部や関節部で行われる.母斑の状態は患者により様々で,治療法もその結果に特徴がある.患者の要望を聴き,治療の選択肢について説明し,同意を得た上で最善の治療を行う.

再生医療の概念の変遷

これまで述べた再生医療は概ね2010年頃までの概念である.2014年に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全確保法)20」で細胞治療,遺伝子治療が再生医療として定義された.同年改訂の「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)21」では,従来の医薬品あるいは医療機器に分類されてきた細胞使用製品,遺伝子治療製品が再生医療等製品として新たなカテゴリーとして認められた(図12).この結果,組織再生を目的としないものでも再生医療等製品として分類されることになり,再生医療等製品の承認品目(表122では,組織再生を目的とした表皮や角膜,心筋のシートと,疾患治療を目的とした細胞治療,遺伝子治療が承認されている.

図12. 再生医療の概念(2014年以降)

表1. 再生医療等製品の承認品目

現在進行中のプロジェクト

乳癌摘出手術後の乳房再建方法は患者の増加と整容性に対する高い要求から必要性が高まっている.現在行われている方法は複数あるが,それぞれに自家組織の犠牲,悪性化,低い生着率などの課題が存在する(図13).患者組織を採取せず,自然な形態,異物感がなく,悪性化の懸念のない再建方法として,自家脂肪を再生する人工脂肪(図1423の開発を行うためにベンチャー企業を立ち上げ,人工脂肪の実用化を目指している.

図13. 乳癌術後乳房再生治療の現状と課題

図14. 人工脂肪:製品コンセプト

おわりに

形成外科診療,皮膚の再生医療の現状について述べた.再生医療には課題が多く,正常な組織再生には大きな壁がある.形成外科領域では,組織再生に加え,レーザー治療も進歩しており,これらを組み合わせて綺麗な組織再生を目指したいと考えている.

付記

これは,令和5年(2023年)11月10日天理よろづ相談所学術講演会(座長:天理よろづ相談所病院形成外科 野田和男部長)で,主として非専門家を対象に行われた森本教授の講演を当研究所で編集したものである.

参考文献
 
© Tenri Foundation, Tenri Institute of Medical Research
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