2024 Volume 27 Issue 2 Pages 118-124
難聴は極めて頻度の高い感覚器障害であり,認知症の悪化のリスク因子である.難聴が認知症の原因となっているのか,循環不全などの交絡因子があるのかは不明であるが,近年になって聴覚補償が認知症を予防する可能性が報告されている.これらのことから,難聴は認知症の一因となっている可能性が高く,その機序として,難聴による認知負荷の増大,求心路障害による脳皮質の変性,社会活動からの除外による活動の低下などが想定されている.難聴は認知症以外にも,うつ,平衡障害,寿命の短縮などにも影響する.しかしながら,難聴を放置することのリスクは広く認知されているとはいいがたい.伝音難聴に対しては手術加療による聴力の改善が期待できる.手術で改善しない伝音難聴や中等度以上の陳旧性感音難聴では補聴器が適応となるが,補聴器を使いこなすには現実的な目標設定と時間をかけた調整,および十分なリハビリが必要である.この点をあらかじめ患者に理解してもらうことが重要であり,適切に使用すれば非常に高い効果を得ることができる.補聴器を使っても診察室のような静寂環境で会話が困難な高度から重度感音難聴では,人工内耳手術を検討する.人工内耳手術では側頭部の皮下に本体を植込み,乳突削開,後鼓室開放を行って蝸牛の正円窓を露出させ,そこから蝸牛に電極を挿入する.マイクや電池は体外装置に組み込まれており,体内装置は電池交換も不要で,故障などがなければ生涯使用できる.人工内耳を用いると平均的には対面での会話は可能となる.人工内耳は保険医療の適応であり,重度心身障害者医療費助成制度や医療扶助による医療券も利用できる.
Hearing loss is a common sensory disorder and an important risk factor for dementia; however, whether hearing loss causes dementia or shares a common causative factor with it, such as vascular insufficiency, remains unclear. Recent studies have reported that hearing compensation may prevent the progression of dementia, suggesting that hearing loss is a causative factor. The hypothesized mechanism is: increased cognitive load, cortical modulation following deafferentation, and isolation from social activity. Hearing loss is also related to depression, disequilibrium, and shortened life expectancy, in addition to dementia; however, these risks are poorly recognized. Conductive hearing loss can be cured with surgery. Treatment-resistant conductive hearing loss and moderate sensorineural hearing loss can be compensated with hearing aids. To maximize the effect of hearing aids, practical goal setting, careful fitting, and adequate rehabilitation are mandatory. It is important that patients understand these processes, as it is necessary to use hearing aids appropriately to maximize their benefits. Profound hearing loss patients who get insufficient benefit from hearing aids are candidates for cochlear implantation. In cochlear implantation surgery, the internal device is inserted under the periosteum of the temporal area. The electrode is inserted into the cochlea via the facial recess after mastoidectomy. The battery and the microphone are included in the external device, meaning that the internal device does not require battery replacement and can be used for the patient's lifetime. Cochlear implant users can usually understand face-to-face conversation without visual cues. Cochlear implants are covered by public insurance in Japan. Medical subsidy systems for those with severe mental and physical disabilities and medical aid for livelihood protection are also available.
難聴は極めて頻度の高い感覚器障害であり,WHOの2021年World report on hearingによると世界中で何らかの程度の難聴を有しているものは15億人以上で,60歳以上では25%が医学的介入を要する中等度以上の難聴を有している1.難聴は外耳・中耳に異常のある伝音難聴と,内耳から中枢に異常のある感音難聴に分かれる.両者が併存する場合を混合性難聴と呼ぶ.中耳炎に代表される伝音難聴は鼓室形成術に代表される手術で改善することも多い.その一方で,感音難聴は急激に発症する急性感音難聴を除くと大部分は治療に反応しない.高齢者の難聴の大部分は加齢による感音難聴(加齢性難聴)であり,根本的に治癒せしめることはできない.しかしながら,難聴を放置することは認知症に対するリスク因子であることが報告されている.2017年のLancetでは,認知症の35%は予防可能であるが,その予防可能な認知症に対しては難聴が最大のリスク因子であると報告された2.55歳以上の難聴がなくなれば,認知症は9%減少すると推定されているが,これは肥満,高血圧,糖尿病,引きこもり,運動不足を合わせた影響と同程度であり,喫煙やうつの影響よりも大きい.このことからも認知症と難聴が深い関係を持つかがわかる.難聴が認知症のリスク因子となっている機序についてはいくつかの可能性がある.一つは難聴によって言葉の聞き取りに要する認知負荷が過度となり神経活動を消費してしまうというもの,もう一つは難聴によって脳に入力される信号が減少することで大脳皮質の構造に変化が生じるというもの,最後の一つは難聴によって社会活動への参加が減少し,認知能を刺激する行動が減少してしまうことが認知症につながるというものである.これらの仮説は排他的ではなく,それぞれが同時に生じると想定されている.さらには,難聴をきたす人は脳血流不全などが基礎にある可能性があり,その血流不全などの背景因子が認知症の原因となる可能性も示唆されている(交絡因子の存在)3.前三者の仮説では難聴を補償することが認知症の予防につながるが,最後の血流不全などの背景因子が難聴と認知症の共通の原因となっている場合は聴覚補償を行っても認知症が予防できないこととなる.Lancetの報告以降,補聴器装用が認知症を予防するかどうかについて多くの調査が行われてきた.補聴器自体が高額であること,長期の経過観察が必要であることなどから後向き研究が大部分であったが,近年になって比較的大規模の前向き研究が報告されている.Linらは70–84歳の難聴者977名を対象として補聴器装用が認知能に及ぼす影響を見るランダム化試験を行った3.対象者には心血管系リスクのある既存コホートと新規コホートを用いたが両コホートでは背景因子が異なっており,特に既存コホートでは年齢,教育レベル,年収,糖尿病や高血圧の既往,独居か否かなどが有意に不良であった.研究開始後3年の時点で心血管系リスクのある既存コホートに限って解析すると補聴器装用によって認知能の低下が48%減少していた.新規コホートを合わせた解析では差は認めなかったが,新規コホートにおいては認知能が低下した例がほとんど見られなかったことが影響している可能性があり,さらに長期の追跡調査が現在進行中である.現在中国でも軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)患者に対して補聴器装用が認知症への進展を予防するかどうかについても前向き研究が進行中である4.
認知症以外の様々な健康状態にも難聴が影響することが報告されてきている.聴覚は内耳から聴神経,脳幹,視床を経て大脳の聴覚野に連絡するが,この経路はclassical pathwayと呼ばれる.これ以外にnon-classical pathwayと呼ばれる経路があり,この経路では視床背内側核から大脳辺縁系に連絡する5.そのため聴覚路の障害は大脳辺縁系に影響し,うつ傾向をきたす可能性がある.近年のシステマティックレビューでも,その影響は大きくはないものの,一貫して難聴者は高齢者におけるうつと有意に関連していることが明らかになっている6.内耳障害では難聴のみならず平衡覚障害もきたす.アメリカにおける全国調査でもすべての年齢層で難聴は運動障害と有意に相関しており,特に若年者では怪我を伴うような転倒をきたす率が高いと報告されている7.また,これらの認知症,うつ,転倒傾向はいずれも生命予後に影響する.大規模なコホート研究でも難聴は総死亡率,心血管障害による死亡率,外傷による死亡率とも相関を示すことが報告されている8.
これらの健康障害に対する聴覚補償の効果も徐々に明らかになってきている.Yeらは,45歳以上で中等度以上の難聴者385名に対して補聴器装用がうつ症状に及ぼす影響を見るランダム化試験を行った.研究期間にCOVID-19流行が重なったため,全体としてうつ症状が増加傾向となったが,20か月後の時点で補聴器装用はうつ症状の増加を有意に緩和したとしている9.転倒傾向に関しても補聴器や人工内耳は一定の条件では平衡覚を改善することが明らかとなりつつある.補聴器は聴空間認識を補うことで,特に足元が不安定なところや視覚情報が利用できないところでは体平衡を改善させる10.人工内耳は空間分解能の点から聴空間認識は不十分であるが,前庭が電気刺激されることで前庭脊髄路が賦活されて体平衡が改善する11.余命に関しても,アメリカの9,885名を対象としたコホート研究で補聴器を常時装用している群は非装用群より有意に死亡率が低いことが報告されている12.
伝音難聴の大部分は手術加療によって聴力が改善する.伝音難聴をきたす代表的な疾患としては,滲出性中耳炎,慢性穿孔性中耳炎,真珠腫性中耳炎,耳硬化症がある.滲出性中耳炎は耳管機能障害によって中耳腔に液体が貯留する状態であり,軽度の感染が原因となる.小児と高齢者に多く,小児ではガイドラインに従って治療する.滲出性中耳炎は急性中耳炎とは異なり耳痛や発熱などの急性炎症症状を呈さず,難聴・耳閉感のみを症状とする.そのため,特に施設に入居している高齢者では滲出性中耳炎による難聴が認知症の悪化と判断され,滲出性中耳炎自体は看過されることもある.滲出性中耳炎の治療は鼓膜換気チューブ挿入術で,鼓膜にシリコン製のチューブを挿入する.安静が保てる患者であれば外来診察室で可能な小手術であり,認知症と思われていた患者の応答が劇的に改善することも稀ではない.
慢性穿孔性中耳炎は鼓膜に穿孔をきたした状態が遷延するものであり,手術的に鼓膜穿孔の閉鎖を行う.近年は内視鏡手術の発展で耳内からの手術が主流となっている(図1).術前に鼓膜穿孔を綿花等で一時的に閉鎖し,聴力が改善することを確認して手術を行う(パッチテスト).これで聴力が改善しない場合は耳小骨に異常が生じている可能性があり,真珠腫性中耳炎と同様に鼓室形成術を行う.
内視鏡で鼓膜穿孔を新鮮創化し,皮下結合組織(*)を鼓膜の内側から移植したところ.矢頭はツチ骨の外側突起.
真珠腫性中耳炎は角化重層扁平上皮が中耳腔に進展して骨を破壊するものであり,病変の完全摘出が必要となる.耳小骨が破壊されていたり,病変除去のために一旦摘出を要することが多く,耳小骨の再建を要する.耳小骨の再建には自家耳小骨,皮質骨,軟骨,人工耳小骨などを用いる.当院では自家耳小骨かセラミック製の人工耳小骨を用いることが多いが(図2),今後より軽く,より伝音効率の良いチタン製人工耳小骨が本邦でも認可される予定であり,成績の向上が期待される.
欠損したキヌタ骨の代わりにセラミック製の人工耳小骨(矢印)を用いて伝音再建を行った.
耳硬化症は女性に多く,アブミ骨が卵円窓との間で固着して伝音難聴をきたす疾患である.卵円窓に小開窓して人工ピストンの一端を内耳に挿入し,他端をキヌタ骨に締結する(アブミ骨手術).奇形などでキヌタ骨が利用できない場合は,ツチ骨柄に締結する(図3).アブミ骨手術では90%程度の患者で聴力改善が期待できる.
アブミ骨が固着,キヌタ骨長脚先端が欠損していた症例.卵円窓に小開窓して内耳にピストン(矢印)の一端を挿入,反対側のワイヤー部分をツチ骨柄に締結して軟骨(矢頭)で被覆した.
細.医学的には難聴とは正常に比べて聴覚系に障害が生じている状態すべてを意味しており,一般的に純音聴力検査で評価される.純音聴力検査によって軽度から重度に分類され,500–2,000 Hzの平均聴力レベルが25–39 dBHLを軽度難聴,40–69 dBHLを中等度難聴,70–89 dBHLを高度難聴,90 dBHL以上を重度難聴とすることが多い.中等度以上の感音難聴では補聴器を装用する.患者に補聴器を勧めた場合,「音がやかましいだけで言葉は聞き取れないと聞いた」と反応されることが比較的多い.この症状には補充現象と呼ばれる現象,語音弁別能の問題,脳の可塑性の問題が関与している.これは感音難聴では完全には避けられないものではあるが,適切な補聴器調整と聴覚リハビリテーションである程度克服可能なものである.感音難聴では外有毛細胞が障害されており,小さな音は聴取できない.その一方で,内有毛細胞は比較的保たれており,大きな音に対しては正常者と同様かそれ以上に反応する.そのため,感音難聴者では音の変化に過敏となる(補充現象).また,中枢においても感音難聴があると大きな音への反応が過敏となることも報告されている.このように感音難聴では音の大きさに関して快適に聞き取れる範囲(ダイナミックレンジ)が狭くなっている.補聴器ではこの狭くなったダイナミックレンジに必要な音を圧縮して入れるために歪みが生じる.この歪みによって,言葉の聞き取りに限界が生じる.
実際に補聴器の装用を開始する際には,語音聴力検査を行う.語音聴力検査では日本語単音節を提示して正確に聞き取れる割合を算出するものである.徐々に音圧を上げていき,どの程度聞き取りが改善するかを調べる.どれだけ音を大きくしても50%に到達しない場合は補聴器の限界と考える.音を大きくした場合に聞き取りが改善することがわかっても,補聴器装用開始時にいきなり必要な音圧を入れると非常に音を大きく感じて苦痛となってしまう.どの程度の音圧を許容できるかについては,周波数ごとに快適レベル(most comfortable level; MCL),不快レベル(uncomfortable loudness level; UCL)の測定を行う.MCLは被検者が最も聞きやすいと感じる音の大きさで,UCLは大きすぎて長くは聞くことができない音の大きさである.補聴器の調整には音圧がなるべくMCLになり,最大でもUCLを超えない様にすると装用しやすい.その一方で,苦痛が全く無い程度に音を小さくしてしまうと,言葉の聞き取りに必要な音が入らず効果が不十分となってしまう.そのため,装用開始時には音の増幅量(利得)を目標の70%程度にし,毎日常時装用することでこれらの症状に順応させながら徐々に利得を増やしていく13.いいかえると,補聴器を十分に使いこなすには数か月程度のリハビリテーションが必要であり,患者本人が前向きに取り組む必要がある.そのため,補聴器装用を開始するに先立ってこの点をしっかり説明しておく必要がある.当院の補聴器外来では初診時にこれらの検査と説明を行い,補聴器を貸与して調整を行っている.貸与した補聴器は自宅で常時装用して効果を実感してもらう.2週間ごとに再診して利得を徐々に上げていき,2か月で目標とする利得となるようにしている.この時点で補聴器の効果を実感し,希望した場合は購入してもらっている.
感音難聴が高度から重度になると音を大きくしても言葉の聞き取りが不十分となってしまう.また,会話理解に必要なダイナミックレンジも得られなくなり,補聴器での聞き取りにも限界が生じる.補聴器でも日常会話が困難になった場合は人工内耳手術の適応となる.人工内耳は蝸牛内に植え込んだ電極を用いてらせん神経節細胞を直接刺激して音感を得るものである.体内装置と体外装置で構成されており,体内装置は手術で側頭部の骨膜下から中耳を経て内耳に植え込む.体外装置から電磁誘導で電力が補給されるため内部に電池はなく,したがってペースメーカーのような電池交換も不要である.一度植え込むと,故障がなければ一生使用可能である.体外装置には耳掛け型とコイル一体型があり,充電式電池の採用やスマートフォンとの連携なども可能である.人工内耳によってどの程度聞き取れるようになるかには個人差があるが,平均的には語音聴力検査で50%以上となる.具体的には,診察室のような静寂な環境であれば,マスクをした状態,横を向いた状態でも会話が可能となる.逆に補聴器を使ってもこれらができない場合は,人工内耳によって聞き取りの能力が向上する可能性がある.2024年4月の時点で本邦における成人人工内耳の適応基準は両側の純音聴力閾値が90 dBHL以上の重度難聴,または70 dBHL以上の高度難聴で補聴器装用下での最高語音明瞭度が50%以下のものとなっている14.
人工内耳手術は確立された手技であり,たとえば先天性難聴では1歳前後で両側に手術を行うことが一般的となっている.全身麻酔が許容できる体力があれば高齢者に対しても安全に手術することができる.高齢者に対して何歳まで人工内耳手術を行うかに関しては様々なポイントがあるが,一つは人工内耳の成績である.人工内耳の成績には失聴期間が影響し,高齢者はどうしても失聴期間が長くなってしまうため,若干成績が低下する.海外では,65歳以上の高齢者では慣れるまでに時間がかかるものの,術後1年での語音検査については36–49歳,50–64歳の群と有意な差はなかった15などと報告されている.筆者の人工内耳植込み術自験例159耳のうち,手術時年齢が65–75歳の前期高齢者では音節の理解は若干劣るものの,文法や文脈を利用できる文章では若年者と遜色ない結果であった.もう一つのポイントに費用対効果分析がある.費用対効果分析は1年あたりのQOLの改善度に医療効果が持続する年数を掛けたQALYという指数を利用する.医療に要する費用をQALYで割った額が5,000,000円以下であれば費用対効果が高いと判断する.本来は医療行為が公的保険の適応として適切かどうかを判断するものであるが,医療行為の有用性を調べる場合にももちいられる.スイスの報告では,女性で91歳,男性で89歳までは人工内耳の方が補聴器に比べて費用対効果に優れるとされている16.本邦では適切なものは無いが,海外では人工内耳によるQOLの向上は報告されている.生死にかかわる部分を除くと海外と本邦のQOLに差はないとされており,海外のQOLに本邦の医療費データを組み合わせて概算すると8年以上の余命があれば費用対効果は良好という結果であった.厚生労働省の第23回生命表(完全生命表)によると,女性では86歳,男性では82歳で平均余命が8年を超えている.費用対効果のみで手術適応が決まるわけではないが,個々の患者の生物学的年齢を推定したうえで,この年齢は一つの目安となる.当院でも2024年6月から人工内耳手術を開始している.手術は全身麻酔で行っており,耳後部に5 cm程度の切開を加える.乳突削開を行って耳小骨を確認したのちに,顔面神経と鼓索神経の間の骨を削開して中鼓室に到達する(後鼓室開放).正円窓を確認,骨削開を加えて正円窓膜を明視下に置き,電極を挿入する(図4).人工内耳本体は骨膜下に挿入する(骨膜ポケット).手術時間は1時間30分程度である.術後約2週間経過してから体外装置を装着して人工内耳を起動させる(音入れ).その後は外来で機器の調整とリハビリテーションを行っていく.当院で対象となる患者は高齢,長期失聴,放射線治療後,自己免疫疾患など人工内耳の条件としては不利な患者が多いものの,手術を受けた患者は音入れ直後から十分に音を聴取できている.
乳突削開後に後鼓室開放を行い,蝸牛に開窓して人工内耳の電極(矢印)を挿入した.
難聴は第三者からは把握しがたく,また患者自身も難聴であることを隠す傾向にある.そのため難聴による症状が患者の気質や集中力によるものと誤認されやすい.また,難聴であることが認識された場合でも,単に耳元から大声で話すという誤った対応をとられることも多い.これらの事情から,難聴者側はさらに自らが難聴であることを隠し,会話することを避けてコミュニティーから離れてしまいやすい.難聴は放置すると認知能の低下,うつ,平衡障害,寿命の短縮などにつながる.補聴器は医療機関で適切にカウンセリングを行い,さらに時間をかけて調整すれば一般に思われている以上の効果を発揮する.補聴器の装用でも十分改善しなかった難聴であっても現在は人工内耳で補償することが可能となっている.人工内耳は保険医療の適応であり,重度心身障害者医療費助成制度や医療扶助も受けることができる.補聴器や人工内耳による聴覚補償は費用対効果の面でも社会全体にとって有益であり,積極的に推奨すべき医療と考える.