天理医学紀要
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2024年度学術講演会
呼吸器疾患の理解に役立つ基礎知識
平井 豊博
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2025 年 28 巻 1 号 p. 1-11

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はじめに

呼吸器内科は対象疾患が多岐にわたるだけでなく,複数の呼吸器疾患が合併したり,他臓器疾患と関連したりする多彩で複雑な分野である.本講演では,呼吸器診療科以外の医師や医師以外の医療従事者にも興味を持ってもらえるように,呼吸器疾患の理解に役立つ基礎知識と呼吸器疾患診療の将来展望を述べたい.

呼吸器系の構造と機能

呼吸器(肺)の役割は,空気中の酸素を体内に取り込み,二酸化炭素を体外へ排出することであり,常に無意識のうちに行われている.医学的には,細胞でのガス交換を内呼吸と呼び,肺で行われる外気とのガス交換を外呼吸と呼ぶ.肺の構造は,上・中・下の3葉からなる右肺と,上・下の2葉からなる左肺とで構成されている.空気の通り道である気管・気管支は,2分岐ごとの分岐を約23回繰り返して肺胞に至る.ガス交換は,毛細血管と接する肺胞で行われ,気管・気管支はガス交換に寄与しない.このような肺の構造は非常に複雑であるため,一つの気道と一つの肺胞,毛細血管から成るモデルを用いてガス交換を考えると理解しやすくなる(図1).

図1. 呼吸器(肺)のモデル

さて,血液は酸素をどのような方法で運搬しているのであろうか.気体は液体にある程度溶解することができるが,その量は,液体に接している気体の圧力(分圧)に比例する(ヘンリーの法則).酸素分圧(PO2)が100 mmHgであるとき,血液100 mL中に溶解する酸素はわずか0.3 mLであるので,1分間に運搬できる酸素量は約90 mLに過ぎない.一方,生体は1分間に約3,000 mLの酸素を必要とするので,これでは充分な酸素を運搬することはできない.いうまでもなく,充分量の酸素の運搬を担っているのは赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)である.Hb は1分子に対して酸素4分子まで結合できる.1個の赤血球には2~3億のHb分子が含まれるので,大量の酸素を運ぶことができるのである.

横軸に血液中の酸素分圧(PaO2),縦軸にHbの酸素飽和度(SaO2)をとると,S字状のカーブを描く(図2).PaO2 60 mmHgとき,およそSaO2 90%となることが要点である.これは,呼吸不全の定義がPaO2 60 mmHg以下であるが,SaO2はパルスオキシメータで経皮的(percutaneous)に測定することができる(経皮的動脈血酸素飽和度;SpO2)のでSpO2 90%が呼吸不全の目安となるからである.但し,パルスオキシメータには注意点がいくつかある.SpO2の精度は,SpO2 70–100%においておよそ誤差±2%とされる.2%とは標準偏差(1SD:約68%)ということであり,32%の確率で誤差が2%を超えることを意味している.特にSpO2 90%前後は図2のとおり急速に変化するところであり,注意が必要である.また,機種によって異なるが,通常,4–16心拍あるいは2–16秒の平均値が表示されるため,装着して20–30秒経過し,数値が安定した後に読み取る必要がある.その他にも,図3に示す要因によって測定誤差を生じうる.さらに,パルスオキシメータはCO2を評価できないことに留意する必要がある. 高炭酸ガス血症をきたしているⅡ型呼吸不全で酸素投与によりSpO2の値がむしろ良好な数値を示してしまうため,CO2ナルコーシスに注意が必要となる.

図2. Hbの酸素飽和度と血液中の酸素分圧

図3. パルスオキシメータの注意点

COHb:カルボキシヘモグロビン

肺には酸素を取り込むための特別な受容体があるわけではなく,約0.3 µmの薄い膜(肺胞壁)によって血液と空気が隔てられているのみであり,酸素は濃度勾配にしたがって,濃い方から薄い方に,肺胞壁を物理的に通過する.空気の組成のうち,約21%が酸素であるが,肺内では水蒸気が存在する点に留意する.すなわち,気温37℃で湿度100%の場合,飽和水蒸気圧は47 mmHgであるので,PO2は約150 mmHgとなる(図4).これは地上の1気圧(760 mmHg)の場合であり,気圧が低くなるとPO2も下がり,取り込める酸素の量も少なくなる.例えば,富士山頂は0.6気圧でPO2は約90 mmHgであるので,PaO2も90 mmHgを超えることはできない.エベレストは大気圧が0.3気圧(253 mmHg)でPO2は45 mmHgに低下するので,無酸素登頂時の登山家のPaO2は20–30 mmHgであったとの報告がある1

図4. 室内ガスの組成

O2,酸素;N2,窒素

大気圧の変化は登山だけに限らない.飛行機の高度はロングフライトでは約10,000 m,大気圧は0.26気圧(199 mmHg)である.機内の気圧は地上より低く約0.8気圧(608 mmHg),PO2は約118 mmHgで標高2,000–2,500 mに相当する2.健常者でも地上よりPaO2は低くなるので,呼吸器疾患の患者ではなおさら注意が必要である.

人の1日の酸素消費量は約500–700 Lとされている.肺胞の表面積を広くすることによって,このような大量の酸素を取り込むことを可能にしている.肺胞の表面積は,体重1 kgあたり約1 m2で,バレーボールコートの約半分の広さ(70–80 m2)に相当する.肺疾患によってこの表面積が狭くなれば,酸素を取り込む能力は低下することになる.肺は空気と血液が接触する場であり,空気の入れ替え(換気)と血液の入れ替え(血流)は他の臓器が担っている.脳(呼吸中枢)・神経系が指令を出し,横隔膜等の呼吸筋を収縮させ,胸郭を動かすことによって肺が膨らんだりしぼんだりして空気が入れ替わる.いうまでもなく,血液は心臓血管系によって入れ替えられる.

構造・機能異常と呼吸器疾患

呼吸器系の構造や機能が障害されると呼吸器疾患となる.呼吸器疾患の病態生理の基本は,1)換気(空気の入れ替え)の障害,2)血流(血液の入れ替え)の障害,3)換気・血流比の不均等分布,4)拡散の障害,の4項目である.呼吸器系の異常がある場合,この4項目のいずれかまたは複数に問題があると考えられる.

呼吸困難は呼吸器診療の中で高頻度に認められる症状の一つである.呼吸困難をきたす代表的な呼吸器疾患として,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease ; COPD),間質性肺疾患(特発性肺線維症)の3つの疾患を4つの病態生理に基づいて説明しよう.

気管支喘息

咳嗽は頻度の高い呼吸器症状であり,様々な診療現場でしばしば遭遇する症状の一つである.横軸に咳嗽の持続期間をとり,縦軸に感染症が原因である割合をとると図5のようになると考えられる3.咳が続いている期間が短ければ,感染症(主にウイルス性の上気道炎や気管支炎が多い)が原因であろう.しかし,持続期間が3週間を超えると,感染症が原因である割合は低下する.咳嗽が長期間持続する代表的な疾患が咳喘息/喘息である. 気管支喘息では,発作が起こると,平滑筋の攣縮,粘膜の肥厚,粘液栓により気管支内腔が狭窄し,空気が流れにくく(気道抵抗が大きく)なる.気道抵抗は管の長さに比例し,半径の4乗に反比例する(気道抵抗 ∝ 長さ/[半径]4)ので,痰が少しでも溜まっていると,その場所の半径が小さくなり気道抵抗は大きくなるため,呼吸困難が生じる.

図5. 咳嗽の持続期間と主な原因

COPD

COPDは長年にわたる喫煙によって慢性気管支炎と肺気腫(肺の破壊)を生じ,息切れをきたす疾患である.頻度は非常に高く,40歳以上の有病率は約10%,喫煙率を反映して男性に多い.COPDは2022年の男性死因の第11位,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における重症化と死亡に関連する因子でもある.日本におけるCOPDの死亡者数も増加しており4,国が掲げる「健康日本21」においても「生活習慣病(非感染性疾患noncommunicable diseases; NCDs)の発症予防・重症化予防」にCOPDが取り上げられている5.健康日本21(第二次,2013年度から10年間)ではCOPDの認知度の向上が目標であったが,新たにスタートした第三次(2024年度から)では,COPDによる死亡率の減少を目標としている.これを受けて,日本呼吸器学会もプロジェクトを立ち上げ,「COPD死亡率の減少」の目標を達成するため,「早期受診の促進」と「診断率向上と治療介入」を自治体や関係企業などを含めた多職種連携で取り組み,情報を発信している6.2021年の都道府県別COPD死亡率は,人口10万に対し全国平均が13.3であるが,多くの道府県がそれを上回っている7.目標値は2032年度に10.0であるから,特に力を入れて取り組まねばならない.

COPDでは慢性気管支炎により気道が狭窄し,肺気腫により肺が伸びきった風船のようになるので,患者は息を勢いよくたくさん吐くことができない.呼気時間が延長し,それと同時に肺は過膨張を起こす.肺胞が破壊されているのでガス交換が障害され,低酸素血症にもなり労作時呼吸困難をきたす.横軸に時間をとり,縦軸に肺気量をとると,健常成人と比べ,COPD患者では呼気時間が長く,機能的残気量(functional residual capacity; FRC)が増加している(図6).健常者では,労作時に呼吸回数を増やすことは容易であるが, COPD患者の場合は呼吸回数を増やそうとしても呼気に時間がかかるため,吐き切れずに次の吸気が始まる.そうすると肺の過膨張(動的肺過膨張)が起こり,呼気終末肺気量(end-expiratory lung volume; EELV)が増加,最大吸気量が減少して息が十分吸えなくなり,呼吸困難が増強して労作を続けられなくなる(図7).労作時に呼吸困難が生じることで活動量が減り,食欲が落ち,栄養障害で体重が減少し,筋萎縮・廃用で身体機能が低下する.さらに労作時の呼吸が困難になり,悪循環に陥る.

図6. COPD患者の換気

COPD, chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患);FRC, functional residual capacity(機能的残気量)

図7. COPD患者の換気(労作時)

EELV, end-expiratory lung volume(呼気終末肺気量)

換気・血流比の不均等分布

ここまで一つの気道と一つの肺胞,一つの血管のモデルで肺の構造・機能を説明してきたが,実際にはたくさんのユニットから成っている.肺の高さは約30 cmあるため,立位や座位では重力の影響で肺底(下)は肺尖(上)に比べて血流が多くなる.換気量も肺底の方が多いが,血流ほどの差はない(図8).肺底では血流が多いが換気量は相対的に少なく,肺尖では血流は少ないが換気量は比較的多い.このため肺胞腔内のPO2は肺尖のほうが高く,肺尖では132 mmHg,肺底では89 mmHgである.このように健常者であっても換気・血流比は均一ではなく,病的肺の場合は尚更である.換気の異常(シャント)や血流の異常(死腔換気)がそれぞれのユニットで起こり,全体を総括した結果によってPaO2が決まることになる(図9).

図8. 重力効果と換気・血流の不均等分布(健常者)

PO2,肺胞内酸素分圧

図9. 換気・血流の不均等

換気と血流の不均等が増えると,ガス交換の効率がさらに低下する.具体的な症例として,重症肺炎による呼吸不全の入院患者で,体位を仰臥位から腹臥位にしたところ,酸素化が改善した例を考えてみよう.仰臥位では,座位・立位に比べて腹圧がかかるため,横隔膜の位置が上がり,肺の容量が小さくなる.肺気量分画では仰臥位のFRCが最も低くなる(図108.さらに胸腔内の心臓により圧迫され,肺は拡張しにくい.また解剖学的に肺は正面より背面に大きいため,換気・血流比が悪い面積が大きくなる.一方,腹臥位にすると,心臓が下になり,肺の広い面積に対して重力の影響が比較的小さくなるため9, 10,ガス交換が良好になる.すべての患者に対して腹臥位にすることが適切とは言えないが,呼吸器疾患に限らず重症患者が仰臥位のままでいるのは,肺が拡張しない方向に働きやすくなるため,好ましくない.

図10. 体位による肺気量分画の変化

TLC, total lung capacity(全肺気量); FRC, functional residual capacity(機能的残気量); RV, residual volume(残気量)

拡散障害

拡散障害の典型的な疾患は肺線維症である.肺線維症は,肺胞が線維化によって分厚く固くなることで,充分に膨らむことが出来ない.分厚くなった肺胞壁を酸素が通過するのには時間を要する.通常,肺胞内で空気と血液が接触する時間は約0.75秒,肺胞壁に異常がなければ約0.3秒で酸素は血液に溶解するが,線維化した肺では酸素が血中に溶解する時間が延長する(拡散障害).仮に0.75秒で拡散すると仮定すると,安静時は問題ないが,労作時にはたくさんの酸素を体内へ送り込む必要があるため心拍数が速くなり,血流速度が速くなる.その結果,血液と空気が接触する時間が短くなり,酸素が十分に溶解しないまま血液が流れてしまうので,PaO2が低下することになる(図11).これが,肺線維症において,安静時はSpO2を正常値に維持できても,労作時では一気に下がり呼吸困難をきたす理由の一つとなる.

図11. 酸素分圧と毛細血管での通過時間

その他の知っておきたい基礎知識

高齢者と呼吸器

高齢化に伴って高齢者を診療する機会が多くなっている.高齢者では,若年者と比較して肺活量(vital capacity; VC)が小さく,1秒量(forced expiratory volume in one second; FEV1)も小さい.肺全体の容量(全肺気量)は変化しないが,残気量(residual volume; RV)が増えているので8,ちょっとしたことで肺の拡張が悪くなりやすい.また,誤嚥や誤嚥性肺炎のリスクが高い.要因は様々あり(図1211,高齢者であれば,多少の差はあれども,リスクが潜んでいると考えて診療にあたる必要がある.高齢者に共通した課題と対策として,「合併症のケア・治療」,「感染予防」,「誤嚥予防」が挙げられる.多くの合併症を同時に治療する必要があったり,免疫力が落ちているのでワクチン接種や幼児との接触に注意する必要があったりする.オーラルケア,食後の座位保持,嚥下リハ等の誤嚥予防も重要である.

図12. 誤嚥・誤嚥性肺炎のリスク

外科手術と呼吸器

外科手術の中で,呼吸機能の面からみて最も厳しいものは,肺の切除術であるので,その他の手術でも目安として参考にすることができる.二つの症例を説明しよう(図13).症例Aは,肺機能は悪いが切除する部位は小さい.症例Bは,肺機能は良いが片肺全葉切除が必要である.肺切除後の呼吸器合併症(無気肺,肺炎,低酸素血症等)のリスク評価として重要なことは,術後に勢いよく痰(空気)を出せるかであり,その指標となる肺機能検査はFEV1である.FEV1は胸いっぱいに吸い込んだ息を勢いよく吐き出した最初の1秒間に吐き出せる空気量を指す(図1412.術前のFEV1が,肺葉切除の場合は1.5 L以上,片肺全切除の場合は2.0 L以上あれば術後合併症の発生や術後死亡リスクが少ないと考えられている.FEV1は性別,年齢,体格に依存するので,その予測値に対する割合(対標準1秒量;%FEV1)を指標とし,80%以上あれば手術可能と判断される.症例Bの場合,%FEV1 95%なので手術が可能と判断できる(図13).術後のFEV1の目安は,800–1,000 mL以上あればリスクが少ないとされるが,同様に性別,年齢,体格に依存するので,術後予測%FEV1が60%以上であればリスクが少ないとされている.肺切除後の肺機能を予測する方法は大きく3つあり(図15),1の「区域気管支数・亜区域気管支数を用いる方法」がよく用いられる.この方法は,術前の値に,残る区域数の割合をかけるもので,計算式:術後予測FEV1=術前のFEV1×(19−[切除される区域気管支数])/19(19は全肺の区域気管支数)で求めるものである.

図13. 肺切除術予定の症例

VC, vital capacity(肺活量); FEV1, forced expiratory volume in one second(1秒量)

図14. FVC手技(FVC maneuver)と測定指標

FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in one second

図15. 肺切除術後の肺機能を予測する方法

CT, computed tomography; SPECT, single-photon emission computed tomography; MRI, magnetic resonance imaging

呼吸器疾患診療の将来展望

デジタル変革(DX)と人工知能(AI)技術の応用

京都大学大学院呼吸器内科の取り組みの1つとして,DXとAI技術の応用がある.医療分野においてもDXは盛んに議論されており,特にAI技術の応用が進められてきている.AI技術の利点として,膨大な情報の分類や解析処理,複雑な形態の認識や弁別,短時間で大量に処理が行えることがあり,医療分野では,重回帰分析-予後予測・発症予測,分類・クラスタリング-疾患分類・患者層別化,画像認識・画像解析,言語処理-文献検索などに応用できると考えられる.現在,AI技術が最も利用されている分野は「画像認識・画像解析」である.呼吸器内科では胸部の画像診断は非常に重要であり,COVID-19流行の影響もあって,AI技術を用いた胸部画像解析ソフトが矢継ぎ早に認可された.

一方,このようなソフトの臨床への応用として,診断支援,医療の均てん化,エラーの回避,医療従事者の負担軽減(読影時間の短縮,読影のダブルチェックの代替[読影医+AIソフト])等があげられる.例えば,呼吸器科医にとって最も困難な疾患の1つである間質性肺炎への応用があげられる.本症は非常に多様な分類があり,診断も複雑で困難であるために13,画像診断と病理診断との間で不一致が起こり得る.そこに呼吸器科医が加わり,三者が合議して診断することになる(図16).この問題を解決するため,画像診断にAI技術を用いることが試みられている.特発性間質性肺炎の画像は多彩な陰影を示す.この陰影のパターンをAIに学習させ,分類・定量化させるソフトを産学共同で開発した(図1714.今後もAIの利点を生かした技術が医療分野においても展開されると思われる.一方で,現在のAI技術では教師データに依存するため,量的・質的にしっかり教育しないと誤った解答を出す可能性がある.また,ブラックボックス問題があり,答えを導き出した理由がわからない.このような欠点の解決が今後のAI技術の課題である.

図16. IPF診断のフローチャート

IPF, idiopathic pulmonary fibrosis(特発性肺線維症);HRCT, high resolution computed tomography(高分解能コンピュータ断層撮影);UIP, usual interstitial pneumonia(通常型間質性肺炎);NSIP, nonspecific interstitial pneumonia(非特異性間質性肺炎);COP, cryptogenic organizing pneumonia(特発性器質化肺炎);AIP, acute interstitial pneumonia(急性間質性肺炎);DIP, desquamative interstitial pneumonia(剥離性間質性肺炎);RB-ILD, respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease(呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患);IPPFE, idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis(特発性上葉優位型肺線維症);LIP, lymphocytic interstitial pneumonia(リンパ球性間質性肺炎)

図17. 間質性肺炎症例におけるAIを用いた自動解析例

左:原画像,右:陰影のパターン別に色分けした解析画像

人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究

京都大学大学院呼吸器内科の取り組みとして,もう一つ,iPS細胞研究を挙げる.現在,iPS細胞は血液があれば樹立可能である.iPS細胞から肺上皮前駆細胞へ15,そこから肺胞オルガノイド,気道オルガノイドへ分化誘導させることも可能である16, 17.患者の血液が得られれば,その患者の疾患モデルが作成できるので,新薬の開発やバイオマーカーの探索等に役立つ(図18).

図18. iPS細胞を用いた研究

iPS細胞,induced pluripotent stem cell(人工多能性幹細胞)

肺再生への応用も期待されるが,残念ながら,現時点では,破壊された肺胞を元に戻すことはできない.肺は複雑な構造と機能を持つため,試験管の中で作成することは難しい.動物モデルでは,ヒトiPS細胞由来の肺原芽細胞が生着し,肺胞上皮細胞に分化したが18,生着率はまだ低く,実用化には課題が多い.将来研究が進めば,破壊された肺が,細胞移植治療で機能を復帰させることも可能になるであろう.すべての機能が戻らないとしても,在宅酸素療法が不要になる程度にまで戻せることができれば臨床に大きく貢献できるという思いで,研究に取り組んでいる.

おわりに

呼吸器疾患の理解に役立つ基礎知識と呼吸器疾患治療の将来展望を述べた.本講演によって,多彩で複雑な呼吸器疾患に少しでも興味を持っていただければ幸いである.

付記

これは,令和6年(2024年)11月29日天理よろづ相談所学術講演会(座長:天理よろづ相談所病院呼吸器内科 羽白 高 部長)で,主として非専門家を対象に行われた平井教授の講演を当研究所で編集したものである.

参考文献
平井 豊博 教授 (Toyohiro Hirai, MD, PhD) 略歴

プロフィール

1988年 3月 京都大学医学部医学科 卒業

6月 京都大学胸部疾患研究所附属病院(研修医)勤務

1989年 4月 大阪赤十字病院勤務

1991年 4月 京都大学医学部医学研究科大学院入学

1995年 3月 同上 単位修得修了

4月 京都大学胸部疾患研究所附属病院(医員)勤務

10月 滋賀県立成人病センター(副医長)勤務

1997年 4月 カナダ国 McGill 大学 Meakins-Christie Laboratories 研究員

1999年 4月 滋賀県立成人病センター(医長)勤務

2000年 4月 順天堂大学医学部呼吸器内科学講座 講師(非常勤)兼任

2002年 4月 京都大学医学部 呼吸器内科 助教

2008年 4月 同 講師

2012年 4月 同 准教授

2016年 4月~ 京都大学医学部附属病院 呼吸器内科長

2017年 1月~ 京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学 教授

2018年 4月~ 京都大学医学部附属病院 副病院長(医療安全・広報担当)

現在に至る

Award

2005年 11月 第42回ベルツ賞(共同著者)

2023年 11月 第60回ベルツ賞

所属学会

日本内科学会(評議員)

日本呼吸器学会(監事・前理事長)

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(常務理事・近畿支部長)

日本結核・非結核性抗酸菌症学会(理事・近畿支部長)

日本呼吸療法医学会(理事)

日本肺癌学会(評議員)

日本感染症学会

日本アレルギー学会

日本呼吸器内視鏡学会

日本睡眠学会

老化促進モデルマウス(SAM)学会(評議員)

American Thoracic Society, Asian Pacific Society of Respirology

 
© 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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